DQ11短編集   作:風亜

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勇者と盾と預言者

 バンデルフォン地方へ船で向かう内海の途中、ジャコラという巨体の海獣に突如襲われ、船体がひっくり返りそうなほどの衝撃を受けた反動によってジュイネは暗黒の海へ投げ出されてしまい、それを目にしたグレイグは真っ先にジュイネの後を追い海へ身を投げるのだった。

 

 

(く、暗黒の海の中ではジュイネの姿を捉えられん⋯⋯! 海へ投げ出される前に盾の俺がジュイネを守れぬとは、なんたる不覚ッ。ここでジュイネを失う訳には───)

 

 

「グレイ、グ⋯⋯」

 

 

(⋯⋯!? 微かにジュイネの声が⋯⋯どこだ、どこにいるッ)

 

 

「グレ、イグ⋯⋯苦しい、よ⋯⋯」

 

 

(待っていろジュイネ、今すぐ助けてやるからな⋯⋯!)

 

 

「苦しいってば⋯⋯、いい加減どいてよ⋯⋯っ」

 

 

(“どいてくれ”とは、どういう⋯⋯??)

 

 

 いつの間にか気を失っていたらしいグレイグが目を覚ますと、ジュイネの上に覆い被さる形で折り重なっていたのに気づく。

 

「んなッ⋯⋯、す、すまんジュイネ。すぐにお前の上から退こう」

 

 

「っはぁ⋯⋯重かった。中々退いてくれないから、窒息するかと思った⋯⋯」

 

 言いながら上半身をゆっくりと起こすジュイネ。

 

 

「海獣の襲撃で船から海に投げ出されたお前をすぐ助けようと、俺も海へ飛び込んだのだが⋯⋯」

 

 

「息苦しくて目が覚めたら、グレイグが僕の上に覆い被さってたから、退いてほしくて何度も呼び掛けてたんだよ⋯⋯」

 

 

「気付くのが遅れてすまんな⋯⋯しかし、お前を見失わずに済んで良かった。⋯⋯とはいえ、ここはどこだ??」

 

 周囲を警戒して見渡すグレイグ。

 

 

「どう見ても、綺麗なお花畑だよね。風も穏やかだし、眩しいくらいの青空だ。世界崩壊とは無縁の場所⋯⋯もしかしなくても、天国かな」

 

 

「ば、馬鹿な⋯⋯ならば俺達は、死んだという事かッ?」

 

 

「え、でもおかしいな⋯⋯僕は魔王を誕生させてしまった出来損ないの勇者だから、地獄の方に落ちるはずだけど」

 

 

「それを言うなら俺とて、長年に渡り魔王となるべく暗躍していた存在を野放しにしていた所か仕えてしまっていたのだから、地獄に落ちようと文句は言えぬのだがな⋯⋯」

 

 

「うーん⋯⋯まぁいっか。せっかく天国に来れたんだし、これからは何も考えずゆっくり過ごせそうだね」

 

 ジュイネは体育座りをして美しい花畑の景色を眺める。

 

 

「そう、だな⋯⋯いや待て、諦めるのは早計だ。ここは本当に天国なのか? ⋯⋯向こうに人が居そうな小屋があるようだし、訪ねてみないか?」

 

 

「もう⋯⋯グレイグは真面目だなぁ。勇者の使命も、盾の役割りも忘れたっていいじゃないか」

 

 膝に顔をうずめ、くぐもった声を出すジュイネをグレイグは複雑な心境で見つめる。

 

 

「ジュイネ⋯⋯」

 

 

「はぁ⋯⋯ごめん。勇者って最後まで諦めちゃいけないんだっけ。───分かったよ、小屋の方に行ってみよう」

 

 顔を上げ、ジュイネは気だるそうに立ち上がった。そして二人は、綺麗な川辺にある小屋を訪ねる。

 

 

「⋯⋯誰も、居ないようだな」

 

 

「いっそのこと、ここで二人でずっと暮らす?」

 

 

「ふむ、それも悪くはないのかもしれんが⋯⋯む、今音がしたが、上に何者か居るのか?」

 

 

「⋯⋯家の中に梯子も階段も無いみたいだし、二階じゃなくて屋根の上かな」

 

 

「もう一度、外に出てみるか」

 

 

「⋯⋯あ、小屋の出入り口の近くに梯子がある。ここから屋根まで上れそうだよ」

 

 

「待てジュイネ。⋯⋯何があるか判らん、俺から上るとしよう」

 

 

「うん⋯⋯」

 

 グレイグから梯子を使って屋根の上に注意深く上がると、端の方で川辺に向け釣り糸を垂れて座り込んでいる人物が居た。

 

 

「⋯⋯⋯⋯」

 

 

「取り込み中、申し訳ないのだが⋯⋯話を聞かせてもらえないだろうか。この場所に住んでいる者か?」

 

 

「───うふん、久しぶりのお客様かしら?」

 

 

「のあ⋯⋯ッ?!」

 

 呼び掛けに振り向いた人物は妖艶な女性ダンサーだったらしく、ウィンクされたグレイグは思わずドギマギしてしまい、後から屋根に上がって来たジュイネは怪訝そうな顔をする。

 

 

「⋯⋯どうしたの、グレイグ」

 

 

「い、いや⋯⋯ダンサー姿の女性が釣り糸を垂れているのは珍しいというか⋯⋯」

 

 

「え、何言ってるの。目の前にいる釣り人って⋯⋯兵士の格好をしてる男の人だよ?」

 

 

「何だとッ? お、俺には妖艶な女性ダンサーにしか見えんのだが⋯⋯」

 

 

「⋯⋯⋯通りで鼻の下伸ばしてると思った」

 

 

「そんな事は無いぞ⋯⋯!?」

 

 

「ほほほ、面白い者達じゃの。⋯⋯わしは、人によって見え方が違うのじゃ」

 

 

「⋯⋯⋯⋯!?」

 

 

「どういう、事だ⋯⋯? 見る間に姿を変えられるのは、貴様が魔物だからかッ?」

 

 ジュイネを背後に守りつつ、大剣を構えようとするグレイグ。

 

「待って、グレイグ⋯⋯。今グレイグの目には、その人はどう映ってる?」

 

 

「む⋯⋯、魔道士のような風貌の、中年女性だろうか⋯⋯?」

 

 

「うん、僕にも今はそう見える」

 

 

「そうじゃろうな。見え方が違うのは色々と面倒だろうから、統一したのじゃ」

 

 

「あなたは、一体⋯⋯」

 

 

「預言者、とでも名乗っておこうかの」

 

 

「預言者だと⋯⋯? 胡散臭いにも程があるぞッ」

 

 グレイグは警戒を解かず相手を睨み据える。

 

 

「落ち着いてってばグレイグ、その人は多分⋯⋯悪い人じゃないよ」

 

 

「ほほほ、物分かりのいい青年じゃ。⋯⋯ほれ、そこにある釣り竿でお主達も釣り糸を垂らすと良いじゃろう。何か釣れるかもしれんぞ?」

 

 

「そのような呑気な事をしている場合ではないのだ、我々は───!」

 

 

「別にいいじゃない、ここでゆっくり釣りしてみようよ」

 

 ジュイネは近くに置かれていた釣り竿を手に取り、預言者の隣に座って釣り糸を川辺に向けて垂らした。

 

 

「お、お前は警戒心が無さすぎるぞジュイネ⋯⋯!」

 

 

「ガタイのいいお前さんは余裕が無さすぎるのう⋯⋯時にはこの青年のようにゆったり構えるのも大事じゃぞ?」

 

 

「ぬッ⋯⋯いいだろう、ならば俺も釣りをしようじゃないか。これでもソルティコで修行の一環として集中力を高める為に釣りをしていたからな」

 

 グレイグも釣り竿を手に取り、ジュイネの横に座って釣り糸を垂らす。

 

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

 

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

 

 

「───⋯⋯どうじゃ、何か釣れそうか?」

 

 

「いえ、僕は特に何も⋯⋯」

 

 

「俺も同じく⋯⋯」

 

 

「まぁそうじゃろうな⋯⋯まだその時ではないのじゃろうて」

 

 

「預言者とやら⋯⋯そもそもここは一体」

 

 

「さぁて⋯⋯わしは釣りに満足した。小屋の中に戻るとしようかの」

 

 

「お、おい⋯⋯!」

 

 

「行っちゃった⋯⋯何だか不思議な人だね」

 

 

「まさかあの預言者が、俺達を助けてくれたのだろうか⋯⋯しかし一体ここはどこなのだ」

 

 

「深く考えなくていいんじゃないかな⋯⋯僕はここにずっと居てもいいし。天国みたいに綺麗で静かな場所だもの」

 

 微笑したまま釣り糸を垂れ続けるジュイネ。

 

 

「⋯⋯他の仲間が心配ではないのか?」

 

 

「───心配だよ。心配じゃないわけないよ」

 

 

「そうか⋯⋯すまん」

 

 

「謝らないでよ。⋯⋯すぐにでもこの場所から出て、仲間を探して勇者の使命を果たさなきゃならないのは分かってる。けど⋯⋯」

 

 ジュイネは憂いを帯びた表情で俯く。

 

 

「(⋯⋯俺はジュイネに、何をしてやれているというのだろう。勇者の盾になるとは誓ったが、その心までは───)」

 

 

「⋯⋯預言者に、もう一度会いに行こう。ちゃんと、話を聞いておかないと」

 

 

「そうだな⋯⋯」

 

 

 ジュイネとグレイグは、小屋の中に居る預言者に再び話し掛ける事にした。

 

「⋯⋯何か、わしに用か?」

 

 

「あなたが預言者なら⋯⋯僕が何者かも知ってますよね」

 

 

「まぁの。⋯⋯しかし、お主はそう呼ばれる事を苦手としておるようじゃからな」

 

 

「⋯⋯⋯⋯」

 

 

「海獣に襲われ、暗黒の海に落ちた我々を助けた理由は何だ?」

 

 

「助けた、というかな⋯⋯。正確には、助ける手前じゃな。お主らはまだ、溺れかけておるぞ?」

 

 

「そんな、はずは⋯⋯現に俺達の身体は今何とも───」

 

 

「今のお主らは魂の存在のようなものだ。⋯⋯この空間は、そもそもわしが創り出したのじゃからの」

 

 

「おッ、溺れかけているのなら何故俺達の身体の本体ごと助けてくれぬのだ。魂だけここに呼び寄せたと言うのかッ?」

 

 

「この空間は、現実とは掛け離れておっての⋯⋯現実でお主らは溺れかけたままじゃが、こちらに魂が存在する限りはお主らの時はほぼ止まったままじゃ」

 

 

「預言者であるあなたが、僕らをここに呼び寄せた理由は何ですか」

 

 

「───何故だと思う?」

 

 

「質問を質問で返すのは卑怯というもの⋯⋯!」

 

 

「ちょっと黙ってグレイグ」

 

 

「うッ、うむ⋯⋯」

 

 

「やっぱり僕が勇者だから、ですか」

 

 

「今ここでわしがお主に、『世界を救え』と発破をかけたなら⋯⋯言われるまでもないと、お主は思うか?」

 

 

「───⋯⋯いいえ。逆に僕は、言われるがままの勇者で在り続けなければいけないのかと問います」

 

 

「⋯⋯⋯!」

 

 

「ほう⋯⋯?」

 

 グレイグはジュイネのその発言に目を見開き、預言者は次の言葉を待つ。

 

 

「僕は成人の儀の後に勇者の生まれ変わりなんだと聞かされてからこれまで、言われた通り流されて来たようなものです。その上魔王まで誕生させてしまった⋯⋯僕は、失敗した勇者でありそれこそ悪魔の子だと思っています」

 

 

「⋯⋯⋯⋯」

 

 

「誕生させてしまった魔王を倒すのは失敗した勇者である僕の責任だから、それは果たすつもりです。⋯⋯勇者とは、最後まで諦めない者のことと言われても僕にとっては正直、呪いでしかない」

 

 

「(勇者としての、呪い⋯⋯)」

 

 グレイグは気遣わしげにジュイネを見やる。

 

 

「⋯⋯僕が何故、命の大樹に選ばれたのか知っているんですか?」

 

 

「端的に言えば、お主の生まれたユグノア王国が大樹信仰の強い国だったからじゃろう。時期的にも、お主が相応しかったと言える」

 

 

「だから、命の大樹に愛されていると⋯⋯? 寧ろ僕が生まれて間もなく、その大樹信仰国は滅ぼされてしまったのに、それを予知出来なかったんでしょうか」

 

 

「⋯⋯まぁ、命の大樹も万能ではないのじゃろうて」

 

 

「僕じゃなくても⋯⋯それこそ僕と似た境遇のグレイグを勇者にしても良かったのに」

 

 

「いや⋯⋯俺には務まらんよ。元凶がすぐ側に居た事に16年間も気づかずにいた俺には、な⋯⋯」

 

 

「────。魔王と表裏一体である勇者が魔王を倒せば⋯⋯僕も自ずと、勇者である必要はなくなるはず⋯⋯」

 

 

「───お主の本当の敵は魔王ではないと言ったら、どうする?」

 

 

「なん、だと⋯⋯?!」

 

 

「⋯⋯⋯⋯」

 

 グレイグは真っ先に驚くが、ジュイネの方は寧ろ落ち着いている。

 

 

「魔王の存在は副産物に過ぎず、もっと大きなチカラが働いていたとしたら───あぁ、じゃがアレは預言によればその副産物自体が復活を阻止するんだったか。皮肉なものじゃ」

 

 

「一人で判ったような事を言っていないで、我々にも判るように説明してくれッ」

 

 

「───そうか、あなたは」

 

 無意識に胸元に片手を宛てがうジュイネ。

 

 

「ほほ、聡い子じゃな。やはり半身に胸を貫かれた際の呪いが告げておるのか。だが今はその事に触れんでおくれ、いずれ真実を知る時が───いや、お主が“それ”を望まぬならばアレをわざわざ復活させに戻る必要もないのじゃから」

 

 

「⋯⋯───」

 

 

「ジュイネ⋯⋯奴にやられた胸元が痛むのか?」

 

 

「ん、大丈夫だから気にしないでグレイグ」

 

 

「⋯⋯して、どうする? 勇者の使命など忘れ、ずっとここに居たいのならそれも構わぬが」

 

 

「言いましたよね、失敗した勇者である責任を果たすって。⋯⋯これも結局は流されているに過ぎなくても、多くの命を犠牲にして誕生させてしまった魔王は倒します。世界を救うというより、僕自身の償いなんです」

 

 

「そうか⋯⋯ならばそうするが良い。わしも、永きに渡る罪を贖うとしよう」

 

 

「(預言者の姿が、霞んでゆく⋯⋯この場所も、俺達も)」

 

 

「グレイグよ⋯⋯勇者を、いや⋯⋯ジュイネを頼むぞ。身体だけでなくその心も、護ってやってくれ」

 

 

「⋯⋯それこそ、言われるまでもない」

 

 

(次に目が覚めたら、僕はまた罪深い勇者として立たなきゃならい。その呪いと、向き合わないといけない。───語り継がれる勇者ではなく、みんな僕を忘れてくれればいいのに)

 

 

 

end

 

 

 

 

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