DQ11短編集   作:風亜

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眠れぬ夜の誓い

 異変後マルティナと再会後のキャンプ時の、皆寝静まった夜更け───

 

 

「⋯⋯眠れないの? ジュイネ」

 

 

「あ、うん⋯⋯ちょっとね」

 

 

 焚き火を前に一人座っているジュイネの横に座り、彼の顔色を窺うようにしてマルティナは問いかける。

 

「ねぇ⋯⋯もしかして怒ってる?」

 

 

「え、どうして?」

 

 

「だって何だか、私と再会してグロッタを出る前からジュイネにしては少し怖い顔をしているように見えて⋯⋯」

 

 

「そうかな、ごめん。そんなつもり無いんだけど⋯⋯でも、そうだね、ちょっとだけ怒ってはいるかな」

 

 

「理由を、聴かせてもらえるかしら。せっかくジュイネと再会出来たのに、何だか怒らせたままなんて嫌なのよ⋯⋯」

 

 

 悲しげに俯くマルティナに対し、申し訳ない気持ちになったジュイネは正直に話し出す。

 

「紛らわしくてごめん。正確に言うと、マルティナに怒ってるんじゃないんだ。⋯⋯アイツだよ、あのブギーとかいうヤツ」

 

 

「あぁ、あいつね⋯⋯。平気よ、私が直々にギッタギタにトドメを刺してあげたから」

 

 

「うん、それは分かってるけど⋯⋯ほんとは僕がアイツにトドメを刺したかったんだよね」

 

 

「えっ?」

 

 

「だってそうでしょ、マルティナを洗脳してあんな姿にして⋯⋯許せるわけないじゃないか」

 

 

「ジュイネ⋯⋯」

 

 

「いや、もうほんと、思い出すだけでも許せなくて⋯⋯僕が直に滅多刺しにしたかったくらいだよ」

 

 

「(ちょっとだけじゃなくて、かなり怒ってるわね⋯⋯普段穏やかな彼にしては珍しいわ)」

 

 自分の為に本気で怒ってくれているジュイネに愛おしさすら覚えるマルティナ。

 

 

「⋯⋯けど新たな能力にも目覚めたし、あれを使えば普段より強くなれるから今まで以上にジュイネをしっかり護れるわよ?」

 

 

「⋯⋯マルティナ、そういう問題じゃないよ」

 

 

「え⋯⋯」

 

 

「アレはこの先二度と、使わないでほしい。約束してくれなきゃ困る」

 

 

「魔物の姿になるのが⋯⋯嫌なのかしら」

 

 

「それもあるし、何より⋯⋯その力を結果的にもたらしたのはアイツだからこそ、使ってほしくないんだ」

 

 

「⋯⋯分かったわ、ジュイネがそこまで言うなら使わないことにする。そうね⋯⋯考えてみたらあんな欲しくもない能力に目覚めたって嬉しくないものね」

 

 

「うん、そうだよ! だって僕達には色んな連携技があるんだし、あんなヤツに洗脳されて得た魔物の能力なんて⋯⋯全く必要無いよ」

 

 

「ふふ⋯⋯」

 

 

「な、何?」

 

 

「私の為にそんなに真剣になってくれるジュイネが、私にとってすごく嬉しいのよ」

 

 

「そんなの当然だよ。というか⋯⋯せっかく再会出来たのに、気まずい雰囲気にしちゃってごめんね」

 

 

「いいのよ、私のことを想ってくれてのことだもの。⋯⋯ありがとう、ジュイネ。改めて、宜しくお願いするわ」

 

 

「うん、こちらこそよろしくねマルティナ」

 

 

 互いに微笑みを交わして見つめ合った後、少し間を置いてマルティナが話し出す。

 

「そういえば、ロウ様から聴いたのだけど⋯⋯私と再会する前にユグノア城跡の地下通路で、亡きアーウィン様とエレノア様の御霊にお逢いしたそうね」

 

 

「うん⋯⋯。16年前のあの日からずっと、亡くなって尚二人とも苦しんでいたみたいで⋯⋯僕はそれに今まで気づきもしないで生きてきたのかと思うと⋯⋯」

 

 

「無理もないわ⋯⋯。私も出来れば、どんな形でもまたお二人にお逢いしたかった⋯⋯」

 

 

「アーウィン王の、意識の中に入った時⋯⋯直接話せたわけじゃないけど、幼い頃のマルティナも見掛けたよ」

 

 

「え、私⋯⋯? そうね、ユグノア城が魔物達に滅ぼされてしまう直前だったのなら、小さい頃の私が居たのも当然ね。その当時、四大国会議でユグノア城に王族が集っていたんだもの」

 

 

「エレノア王妃と一緒に、赤ん坊の僕のことをとても可愛がってくれてて、何だか⋯⋯嬉しかった」

 

 その時の事を思い出し、胸の奥がじんわりと温かくなるジュイネ。

 

 

「ふふ、それはそうよ。だって本当に可愛くて仕方なかったもの。⋯⋯あの頃は、私とジュイネはきっと姉と弟のように育って行くんだろうなって、楽しみにしていたわ」

 

 

「(姉と弟、か⋯⋯)」

 

 

「ねぇジュイネ、初めて⋯⋯本当のお母様を目にした時は、どうだった?」

 

 

「とても、綺麗な人だなって⋯⋯率直に、思ったよ」

 

 

「そうね⋯⋯、エレノア様はとてもお美しい方だったわ。ジュイネのその髪質と優しい面差しは、エレノア様譲りだと私は思うの」

 

 

「そう、なのかな」

 

 

「勇敢な所や凛々しい目元は、アーウィン様譲りね」

 

 

「勇敢⋯⋯なのかな、僕は。勇者って言われていても結局僕一人じゃ何も出来ないのに。───多くの人を、死なせてしまったのに」

 

 

 俯くジュイネの心情を察し、マルティナは静かに語りかける。

 

「それでもジュイネは、魔王となったウルノーガを討つ為に再び立ち上がったのでしょう? まだ見つかっていない仲間も、きっと生きてくれている。⋯⋯勇者のジュイネに全て背負わせる気なんて更々無いないわ、仲間のみんなで魔王を討つ責任を果たすの」

 

 

「⋯⋯⋯」

 

 

「だってあの時⋯⋯勇者であるジュイネと剣、命の大樹を護りきれなかった責任は私達にもあるのだもの。だからこそ、自分達で取り返さなければ。─── 一緒に闘いましょう、最後まで」

 

 

「⋯⋯うん。それで、あの⋯⋯ひとつ聞きたいんだけど」

 

 

「何かしら?」

 

 

「マルティナから見て僕って⋯⋯男らしく見えるのかな」

 

 

「⋯⋯え?」

 

 ジュイネからの問いに目を丸くするマルティナ。

 

 

「ほら、僕ってその⋯⋯主に女性からだけど、女の子みたいに見られることが多くて」

 

 

「あぁ⋯⋯。さっきも言ったけれど、ジュイネの髪質と面差しはエレノア様譲りだから、女の子みたいな髪型や顔に見られがちなのかもしれないわね」

 

 

「マルティナから見ても、そうなの⋯⋯?」

 

 

「再会した当初は、そうね⋯⋯少し頼りなげな普通の青年に見えて、エレノア様譲りの端正な顔立ちと髪質からすれば⋯⋯本当は女の子だったと言われても疑わなかったかもしれないわ。声質も、男子にしてはトーンが高いものね。声変わりしきれなかったのかしら⋯⋯魔物に眠らされた時の声なんて、女の子にしか聞こえないし」

 

 

「⋯⋯⋯⋯」

 

 

 気まずくなって顔を逸らしたジュイネに気を遣い、マルティナは少しでも褒めようと努める。

 

「あ、えーっと⋯⋯もちろん男子らしく凛々しい声の時もあるわよ。それにしばらく会わないうちに、ずいぶん頼もしくなったと思うし⋯⋯」

 

 

「つまりマルティナから見ても、当初よりは頼もしくなったとしても僕はまだ男らしくないってことだよね」

 

 

「うーん、確かに可愛らしさは抜けてないというか⋯⋯」

 

 

「マルティナはお姉さん視点で、まだ僕をかわいい弟としか見てくれてないんだね」

 

 

「え⋯⋯それじゃあダメなのかしら」

 

 

「そろそろ、マルティナの前でちゃんと男らしくなりたいっていうか⋯⋯」

 

 

「───ふふ、そうなのね。けど焦らなくてもいいんじゃないかしら。魔王を倒した後にだって遅くはないわよ」

 

 

「それは、そうだけど⋯⋯。やっぱりあれかな、しゃべり方がいけないのかな。一人称も男らしく“おれ”にすれば───」

 

 

「あら、ジュイネの話し方って穏やかで優しげだから私は好きよ。一人称の僕だって、そのままでいいじゃない?」

 

 

「けど、いつまでも子供っぽくないかな」

 

 

「私からすればジュイネから可愛らしさが抜かれると、物足りなくなってしまうわ。男らしくなったらその辺の男性と大して変わりないもの」

 

 

「それってマルティナは⋯⋯僕にずっと弟枠で居てほしいってこと?」

 

 不満げな顔をマルティナに向けるジュイネ。

 

 

「そういう事でもないけれど⋯⋯そうね、いつまでも子供扱いというか弟扱いは、ジュイネからしたら嫌なのよね」

 

 

「うん、出来ればマルティナに相応しく格好いい男になりたい」

 

 

「⋯⋯私に相応しい男が、格好よくて男らしくあらなければならないなんて誰が決めたの?」

 

 

「えっ?」

 

 

「女の子ぽくったっていいじゃない、それがジュイネでしょ? 私は、ありのままのジュイネが好きよ」

 

 

 諭されるように言われても、ジュイネは納得いかなかった。

 

「そうなの、かな⋯⋯。けど将来的に考えてデルカダール王国の女王になるマルティナの傍に、僕みたいな軟弱な男がいるのはよくないんじゃ」

 

 

「あら、ジュイネったら⋯⋯もう私達の将来の事を考えているの?」

 

 

「あ、ご⋯⋯ごめん、勝手なこと考えて」

 

 

「ジュイネは亡国のユグノアの王子、私はデルカダール王国の王女で次期女王の身。⋯⋯もし、ジュイネがロウ様と共にいずれユグノア王国を再建するつもりなら、一緒にはなれないわね」

 

 ふと憂いを帯びるマルティナ。

 

 

「え、どうして」

 

 

「だってそうでしょう? ジュイネが本来の第一王子としてユグノア国王となったら、他国の国を担う女王とは結ばれようがないもの。⋯⋯私が、女王の立場を退けば話は別だけれど、私はデルカダール王国の第一王女で国王であるお父様の一人娘。魔王を倒したのちデルカダール王国を復興したら、女王として国を担って行かなくてはならない。長年ウルノーガに取り憑かれていたお父様に、これ以上無理はさせられないもの」

 

 

「じゃあ⋯⋯僕がユグノア国王にならなかったら、マルティナと一緒になれるんじゃないの?」

 

 

「───ロウ様は、いずれユグノア王国を再建なさるつもりだわ。ジュイネがロウ様と共に再建するかは別としても。ロウ様はまだまだお元気とはいえ、将来性を考えたらロウ様の実の孫で第一王子であるジュイネがユグノア国王になるべきなんでしょうけど⋯⋯ロウ様はきっと、魔王討伐後はジュイネには何ものにも縛られず自由に生きてほしいと願うでしょうね」

 

 

「自由、に⋯⋯」

 

 ジュイネは“自由”という事がどんな事なのか思い出してみた。16の成人まで過ごしたイシの村での生活は確かに自由ではあったが、村から出るのは16になるまで許されなかった。まして16になった途端、勇者だと告げられ村を出て、デルカダール王国へ向かったはいいがそこでは悪魔の子として扱われ追われる羽目になり───自由とは言い難い日々を過ごしてきたと感じた。それは、これからも変わりはないのだという事も。

 

 

「ジュイネは、どうしたいの? 私と一緒になるかは、別としても」

 

 

「⋯⋯ユグノア王国の再建は、手伝うつもりだよ。だけど僕には国王なんて⋯⋯荷が重すぎるかな。勇者の立場だって、持て余してるのに。マルティナみたいに、一国を担う覚悟なんて持てないと思う」

 

 

「⋯⋯⋯⋯」

 

 

「だけど、だけどもし許されるなら⋯⋯女王になるマルティナを傍で全力で支えたい」

 

 

「⋯⋯⋯!」

 

 

「闇のチカラを払うはずが魔王を誕生させてしまい、多くの人々を死なせてしまった罪深い勇者の僕が、女王になるマルティナの傍に居る資格は無いし⋯⋯魔王を倒した後にこそ壊してしまった世界に対して僕自身の本当の償いが始まると思ってるから、勝手なこと考えちゃダメだね⋯⋯ごめん、今のは忘れて」

 

 

「───忘れないわ」

 

 

「⋯⋯え」

 

 

「私も、あなたに傍に居てほしい。ジュイネが傍に居て支えてくれたら、きっと女王としての責務にも耐えられる。あなたが世界に償い続けるというなら、私もそうする。女王の立場で世界中の人々に助力を惜しまないわ」

 

 

「マルティナ⋯⋯」

 

 

「やってみせましょう、あなたと私にしか出来ない事を。そう遠くない未来の為に⋯⋯ね」

 

 

 

 

end

 

 

 

 

 

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