「⋯⋯まさかジュイネをあれだけ執拗に追ってたグレイグ将軍が仲間になるなんて、ねぇ」
「その事に関しては、本当に申し訳ないと思っている⋯⋯」
ジュイネとベロニカに頭を下げるグレイグ。
「謝るのはもういいからさ、これからまた仲良くして行こうよ」
「うむ⋯⋯(ん、また⋯⋯?)」
「ジュイネは許しても、あたしはまだ許すつもりはないわよっ? 聞いた話だと容赦なく牢屋にぶち込んだり、黒馬で追っかけ回してボウガン放ったり、崖に追い詰めたり⋯⋯何度見失っても執念深く追い込んだりしたそうじゃないの」
「返す言葉もない⋯⋯だからこそこれからはジュイネを剣たる主とし、俺はその盾として全身全霊を注ぐ所存だ」
「ほ、ほらベロニカ⋯⋯グレイグもこう言ってるし許してあげても」
「そうねぇ⋯⋯まぁ仲間になれば頼り甲斐のあるタフガイだとは思うけど。それにあたし、大きな生き物が好きなのよね⋯⋯」
意味ありげな上目遣いをグレイグに向けるベロニカ。
「大きな、生き物⋯⋯それは俺に該当するのか?」
「じゃ、じゃあベロニカは、グレイグのこと⋯⋯」
「勘違いしないでよっ、大きな生き物が好きなだけでグレイグ自体がスキって事には該当しないわよ」
「ぬぅ、紛らわしいな⋯⋯」
「ねぇ⋯⋯肩車してくれない?」
「え、僕が?」
「違うわよ、ジュイネとは連携で背中に乗った事はあるけど⋯⋯グレイグに肩車してもらいたいのっ」
「肩車⋯⋯よ、良いのか? ベロニカは、幼女の姿はしていても実際は年頃の娘なのだろう?」
「───あんた今変な事考えたんじゃないでしょうねっ?」
ベロニカは両手を腰に当て、グレイグ睨み上げる。
「ご、誤解だ」
「とにかくほら、屈んでくれない? 背中からよじ登るから」
「⋯⋯了解した」
「───身を屈めても高いわね、あんた」
「手伝おうか? 僕がベロニカを後ろから抱き上げて、グレイグの肩に両足を乗っけられるようにすれば⋯⋯」
「そうね、お願いしようかしら⋯⋯って、どこ触ってんのよっ!」
「こっ、腰の部分を両手で持ち上げただけだってば⋯⋯!」
「⋯⋯グレイグの髪ってば長いから何かモサモサするけど、まぁいいわ。頭にしがみついてるからこのまま立ってちょうだい!」
「グレイグはベロニカの両足を掴んでおいた方がいいよ」
「そうだな⋯⋯(何とも小さい足だ、余り力を入れないようにせねば)」
「───あははっ、やっぱりすっごく高いわねー! ジュイネを軽く見下ろせるくらい高いわ! ケトスが見せてくれる絶景には圧倒的に敵わないけどねっ」
「神の乗り物と比べられても困るのだが⋯⋯しかし、こうしていると懐かしいものだ。幼少期のマルティナ姫に肩車してとせがまれ、そのまま走り回された事があったな⋯⋯」
「へぇ⋯⋯想像すると微笑ましいな。そうしてると何だか、ベロニカのパパみたいだよグレイグ。子煩悩な感じに見えるね」
「パパ⋯⋯?!」
ジュイネの言葉に思わず声が裏返るグレイグ。
「グレイグがあたしのパパ、ねぇ⋯⋯生真面目で融通が利かない性格はともかく、クマみたいなおっきなパパがいるのも悪くないかもね?」
「グレイグって生真面目だけど、ロウじいちゃんみたいにムフフ本の愛読者なんだよね」
「んなッ、何故それを」
「あ、えーと⋯⋯いつだったか数あるムフフ本の中でも最高と名高いらしい『ピチピチ★バニー』にものすごく反応してたから」
「お、俺はそんな所をお前に見せた覚えは⋯⋯??」
「へーぇ⋯⋯ムフフ本を愛読してるパパなんてあたし要らないわ。そんなの見つけたら炎の呪文で燃やし尽くしてやるわねっ」
「じゅ、ジュイネ⋯⋯お前だってムフフ本の一つや二つ」
「僕そういうの持ってないよ?」
屈託のない笑顔をグレイグに向けるジュイネ。
「(そ、それが本当なら、流石は勇者⋯⋯いや勇者ならば尚更持っておくべき⋯⋯いやいや違うか)」
「ムフフ本のことはともかく⋯⋯僕もグレイグみたいに大きくなってムキムキになれたらなぁ」
「なーに言ってるのよ、あんたはそれくらいで十分よ。それ以上大きくなってムキムキになったあんたなんて想像出来ない⋯⋯というかしたくないわ」
「そうだな⋯⋯顔だけ変わらず身体がムキムキになっても───クッ」
グレイグは吹き出しそうになり、笑いを堪えた。
「グレイグ、今想像して笑ったでしょ。⋯⋯これでも僕だって、旅に出たての頃よりは成長してるし筋肉だってついてるんだからね?」
「そうかしら⋯⋯あたしから見たら出会った頃と大して変わりない気がするけど?」
「僕はその⋯⋯多分着痩せするタイプなんだよ」
「ふーん⋯⋯じゃあ脱いだらすごいとか言いたいわけっ?」
「そ、そうなのかも⋯⋯?」
「なら脱いで見せなさいよ、今ここで」
「え"っ」
「ベロニカ⋯⋯ジュイネを余り困らせるな」
「やーね、冗談よ。⋯⋯目に見えてムキムキになったかどうかはともかく、あんたが成長してるのは分かってるから安心なさい」
「⋯⋯⋯⋯」
「ちょっと、何上着脱ぎ出してるのよっ!」
「だって、脱いで見せろって⋯⋯」
「だから冗談だって言ってるでしょ、真に受けるんじゃないわよ全く⋯⋯!」
「フフ⋯⋯お前達は仲が良いな」
「そりゃあねぇ、それなりに長い付き合いだし」
「俺はお前達と敵対していた時期の方が長いからな⋯⋯ある意味羨ましいものだよ。もっと早く、間違いに気付いていれば或いは───」
「⋯⋯大丈夫、グレイグが覚えていなくても僕達と築いた絆は無くなったりはしないから。それにこれからだって、新しく絆を紡いで行けるよ」
「うむ⋯⋯そう在りたいものだ」
「なーに二人してしんみりしてるのよっ」
ベロニカは肩車されながらグレイグの左側に垂れ下がっている前髪を後ろからぐいっと引っ張る。
「ぬおッ、やめてくれベロニカ⋯⋯抜けてしまうじゃないか」
「これくらい抜けたってどってことないじゃない、禿げるわけじゃあるまいし」
「⋯⋯俺くらいの歳になるとたった数本でも無駄には出来ん」
「髪長めで多そうなのに、ケチくさい男ねぇ。⋯⋯ジュイネみたいに髪サラサラっぽいし、いい勝負じゃないの?」
グレイグの髪を後ろから撫でつけるように触れながら言うベロニカ。
「こ、こそばゆいからやめてくれ。⋯⋯所で、いつまで肩車していれば良いのだ?」
「まさか子供姿のあたしが重いなんて言うんじゃないでしょうねっ?」
「そういう訳ではないのだが⋯⋯こらこら、目元を両手で塞ぐな⋯⋯?!」
「⋯⋯僕が代わってあげようか?」
「え、ジュイネ⋯⋯あんたあたしを肩車したいわけ?」
「ベロニカが、嫌じゃなかったら⋯⋯」
「うーん、そうねぇ⋯⋯じゃあグレイグから乗り移ろうかしら。ジュイネの背中に寄ってくれない?」
「承知した。乗り移る際気を付けるのだぞ」
「よいしょっと⋯⋯。やっぱりグレイグの肩車より低くなるわねぇ、それにジュイネの頭髪グレイグよりサラサラしすぎててしがみつきにくいわっ」
「だ、大丈夫ベロニカ? 落ちないようにしっかり足を持っとくね」
「───あっ、いい事思いついたわ! ジュイネ、あんたを鍛えてあげるわよ」
「え、どういうこと??」
「ムキムキにまでなる必要はないけど、鍛えておいて損はないでしょ、ちょっと待ってなさい⋯⋯」
「! ベロニカ、それは───」
「⋯⋯うわぁ、なっ⋯⋯急に重くなったというか、ベロニカの脚が長く⋯⋯??」
生脚が両脇から伸びてきて驚くジュイネ。
「ふっふーん、一時的に大人に戻れるペンダントの力を借りたのよ! てゆうか、重いって言ったわね?! そう感じるって事は、鍛え方が足りないのよ! 大人姿のあたしを肩車したまま、その辺を走り回りなさいジュイネっ!!」
「お、重いって言ったのは、軽かったのから急に重みを感じたからで」
「言い訳はいいから走るのよ! ほらほら、腿で顔締めるわよっ」
ベロニカにグリグリと攻められるジュイネを見てハッとするグレイグ。
「(な⋯⋯ッ、それはある意味別技のぱふぱ───)」
「わっ、分かったからそんな強く締めつけないでってばぁ⋯⋯!」
大人姿のベロニカを肩車しながら、よろよろと走り出すジュイネをグレイグは見送る。
「(ジュイネよ⋯⋯羨ましいものだな。俺も大人のベロニカを肩車してみたかっ───いやいや、俺は何を考えているのだッ。騎士にあるまじき思考は振り払わねば)」
頭をブンブン振って邪な考えを遠ざけるグレイグ。
「わあぁっ」「きゃーっ!」
「な、何だ⋯⋯ジュイネとベロニカの悲鳴?! 何があッ⋯⋯」
グレイグが駆け付けると、尻もちをついているジュイネと子供姿に戻ったベロニカの前に白黒の大きな熊のような魔物が立ちはだかっていた。
「あらくれパンダだわ! 手懐けられないかしら⋯⋯!」
言いながら興奮した様子で鞭を構えるベロニカ。
「大きな生き物が好きだからと言って魔物を手懐けようとするのはどうなんだ⋯⋯」
呆れつつグレイグは大剣を構える。
「あはっ、見て見て! 玉遊びなんかしちゃってるわ、かーわいー⋯⋯?!」
「ほんとだ⋯⋯何だか見とれちゃうね⋯⋯!?」
「(⋯⋯⋯? ベロニカとジュイネはどうしたのだ、あらくれパンダを一心に見つめ───)」
突如ベロニカとジュイネの二人はグレイグに振り向き、敵意を露わにする。
「あんた何よ⋯⋯あらくれパンダに大剣なんか向けちゃって。こんな可愛いあらくれパンダを倒すつもり!? そんな事させないわっ!!」
「そうだよ⋯⋯動物愛護法に反するよ?!」
「ちょ、ちょっと待て二人共⋯⋯目が据わっているぞ。まさか魅了されているのではあるまいなッ?」
「問答無用っ!───《メガライアー》!!」
「あらくれパンダのみわくのたまあそびを死守⋯⋯!《アルテマソード》!!」
「なッ、何故俺がこんな目にーッ!?」
───その後、他の仲間が駆け付けベロニカとジュイネは正気に戻りあらくれパンダは倒され、グレイグはほんの一時的に棺桶に納まってしまったが仲間のザオリクですぐ蘇り、魅了されていた二人からは謝られ一応事なきを得るのだった。
end