DQ11短編集   作:風亜

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 主人公の名前はオリジナル。


グレ主短編詰め合わせ

【平和な世界にてムウレア】

 

 瞑想も兼ねた神の岩の頂上で、背中合わせで寄り添い座り込んでいる二人。

 

グレイグ

「実に、平和だな⋯⋯」

 

ジュイネ

「そうだね⋯⋯邪神を倒した途端、世界中から魔物が消え去ったもんね」

 

グレイグ

「確かに世界にとっては喜ばしい事だが⋯⋯昔から魔物相手に戦いばかりしてきた俺のような者からしたら張り合いが無くなってしまったな⋯⋯」

 

ジュイネ

「勇者の紋章をセニカ様に譲渡したら僕の勇者の力は失われたみたいだから弱くなっちゃって、グレイグの戦いの相手というか修行に付き合えなくなったもんね⋯⋯。瞑想くらいは一緒に出来るけど」

 

グレイグ

「うむ⋯⋯それも仕方ないだろう。お前は勇者としての使命を果たしたのだから、穏やかな普通の村人に戻るのは何ら不思議な事ではないさ」

 

ジュイネ

「紋章が無くなって思ったけど⋯⋯僕自身が勇者だったんじゃなくて、勇者の紋章の力ありきだったんだなって感じるよ」

 

グレイグ

「しかしその力を使いこなせていたのも事実だろう、誇っていいと俺は思うぞ」

 

ジュイネ

「まぁね⋯⋯仲間のみんなに守ってもらってばかりだった時期もあったけど、勇者の力を自在に扱えるようになってみんなを助けて守れるようになった時は素直にうれしかったけど⋯⋯平和な世界には自然と不要になるよね。セニカ様に譲渡して良かったと思うよ」

 

グレイグ

「魔物の居ない平和な世界とはいえ、人間同士のゴタゴタなどは魔物が居る居ないに関わらず起こるものだからな。そういった厄介事からお前を守る盾として在る事が俺のこれからの使命なのだろう」

 

ジュイネ

「うーん⋯⋯グレイグをこのまま僕の元に縛りつけておくのは良くない気もしてるんだ。やっぱり⋯⋯デルカダール王国に戻って、王様とマルティナ姫を守って行きたいでしょうグレイグは」

 

グレイグ

「その気持ちも確かにあるが⋯⋯今の俺はやはり、世界が平和になろうともお前と共にこれからを歩んでゆきたいのだよ」

 

ジュイネ

「⋯⋯⋯⋯。そんなこと言われたら、何も言えなくなるじゃないか」

 

グレイグ

「復興したイシの村で一緒に暮らそうと言ってくれたのはお前の方からだが、今となっては俺の確かな意思としてお前と共に在りたいと心から思うよ」

 

ジュイネ

「⋯⋯グレイグが居てくれて、本当によかった」

 

グレイグ

「俺も⋯⋯お前が傍に居てくれて本当に良かった」

 

ジュイネ

「ふふ」

 

グレイグ

「フ⋯⋯。魔物が居なくなろうといざという時の為、自主的な剣の修行は続けて行くつもりだが⋯⋯俺もそろそろイシの村人らしく農作業などきちんと覚えねばならんな」

 

ジュイネ

「グレイグは農作業より馬の世話の方が得意だもんね」

 

グレイグ

「うむ⋯⋯愛馬のリタリフォンもこちらに移って来たし、魔物の居ない平原を伸び伸びと走らせてやる事が出来るしな」

 

ジュイネ

「僕の白馬も、リタリフォンと自由に草原を走れていつもうれしそうだよ」

 

グレイグ

「そういえばお前は元々王子な訳だしこれほど白馬の王子という呼び名が合う者は他におらんだろう」

 

ジュイネ

「白馬の王子、かぁ⋯⋯自分ではそうは思ってないけど⋯⋯」

 

グレイグ

「と言いつつ、まんざらでもなさげだな」

 

ジュイネ

「そんなんじゃないってばっ」

 

グレイグ

「とにかく、戦いとは別の事に気を向けていかねばならんな俺は⋯⋯。例えば、お前との触れ合いに磨きを掛ける、などどうだろう」

 

ジュイネ

「僕との触れ合いに磨きをかけるの⋯⋯? 例えば、どんな」

 

グレイグ

「共に暮らし始める前から思ったのだが⋯⋯お前の寝顔が可愛らしいものだから、ついつい長々と見つめてしまう⋯⋯」

 

ジュイネ

「そ、それと触れ合いとどう関係あるの」

 

グレイグ

「俺の腕の中に、ずっと収めておきたいというか⋯⋯同じベッドでな」

 

ジュイネ

「⋯⋯⋯⋯」

 

グレイグ

「す、すまん⋯⋯嫌だったか」

 

ジュイネ

「寄り添って寝るのは今に始まったことじゃないけど⋯⋯大体僕から引っついてるよね。それがグレイグからになるってこと?」

 

グレイグ

「まぁ⋯⋯そんな感じか。今までは遠慮していた面があったからな。そろそろ俺からも⋯⋯積極的にお前に触れていこうかと」

 

ジュイネ

「グレイグってただでさえ力強いからなぁ⋯⋯痛くしないで優しくしてくれるなら、いくらでも触れてきていいよ」

 

グレイグ

「それは無論承知している。だからこそこれまで遠慮していたのだ⋯⋯線が細く儚げなお前をこわしてしまうのではないかと恐れて⋯⋯だが、力の加減というのも自ら触れにゆかねば掴めんからな。なるべく痛む事のないよう優しく触れるつもりだ」

 

ジュイネ

「痛くされても嫌いになったりしないから安心してよ」

 

グレイグ

「そうか⋯⋯? しかしそれだと調子に乗って激しくしてしまうかもしれん⋯⋯余り俺を甘やかさない方がいい(目を据え)」

 

ジュイネ

「わ、分かったよ⋯⋯(さっきちょっと怖かったな)」

 

グレイグ

「⋯⋯家に戻ったら早速触れ合うか」

 

ジュイネ

「そ、それもいいけど⋯⋯海底王国のムウレアに今からルーラで行かない?」

 

グレイグ

「何故だ?」

 

ジュイネ

「何故って⋯⋯女王セレン様がいつでも来てくれていいって言ってたし、最近行けてなかったなぁって思って。世界も平和になったことだし、海底王国でゆっくりするのもいいんじゃないかって」

 

グレイグ

「ふむ⋯⋯まぁ俺もセレン女王とは一度ゆっくり話してみたいと思っていたからな、構わんぞ」

 

ジュイネ

「⋯⋯切り替え早いよね、グレイグはセレン様が好みなんでしょ」

 

グレイグ

「た、たしかに好みではあるが⋯⋯それとこれとは話が別だ。俺にとってはお前が唯一の存在である事に変わりない」

 

ジュイネ

「ふーん⋯⋯とにかくムウレアに行こうか」

 

グレイグ

「う、うむ⋯⋯(信用されてないな)」

 

 

 

 海底王国ムウレア・女王の間。

 

女王セレン

「よく来てくれましたねジュイネ⋯⋯。中々こちらに来てくれないのでわたくしの事など忘れてしまったのじゃないかと心配していましたよ」

 

ジュイネ

「そ、そんなことないです⋯⋯! 女王の愛も大事に持っていますし、忘れるわけはありません」

 

女王セレン

「ふふ⋯⋯わたくしの愛よりも大切にしている存在が居るようですね。羨ましいわグレイグ将軍?」

 

グレイグ

「ファッ、お⋯⋯お会い出来て光栄ですセレン女王」

 

ジュイネ

「⋯⋯セレン様、お願いがあるのですけど」

 

女王セレン

「どんなお願いかしらジュイネ。また可愛らしいお魚になりたいのですか?」

 

ジュイネ

「いえ、僕じゃなくてグレイグ⋯⋯彼を魚にしてみてくれませんか」

 

グレイグ

「お、俺か⋯⋯?!」

 

女王セレン

「ふふ⋯⋯お易い御用ですよ。どんなお魚が良いかしら⋯⋯」

 

ジュイネ

「グレイグは大きいから、やっぱり大きな魚になるのかな⋯⋯サメ? それともクジラ??」

 

グレイグ

「自分よりも大きな魚になるのはどうなのだろうな⋯⋯」

 

女王セレン

「何も本人の体格に合わせる必要はありませんよ。そうですね⋯⋯クマノミなんて如何かしら」

 

グレイグ

「クマノミ⋯⋯」

 

ジュイネ

「いいですね、僕が魚になった時より小さくてかわいいと思います! 早速グレイグをクマノミに」

 

グレイグ

「お待ち下さい、セレン女王⋯⋯その前に、私の願いも一つ宜しいでしょうか」

 

ジュイネ

「⋯⋯⋯?」

 

女王セレン

「良いでしょう⋯⋯わたくしに出来る事ならば、何でも仰って」

 

グレイグ

「ジュイネを⋯⋯その、にッ⋯⋯」

 

女王セレン

「に?」

 

グレイグ

「人魚の姿にして欲しいのです、ジュイネをッ」

 

ジュイネ

「⋯⋯⋯⋯へっ?」

 

女王セレン

「あら⋯⋯そういうご趣味なのねグレイグ将軍。構いませんよ、ジュイネを貴方の望む人魚にしてあげましょう」

 

ジュイネ

「ちょっ、ちょっと待って、どうしてそうなるの⋯⋯?! うわぁっ」

 

 

 セレンの持つ杖の先端がジュイネに向けて強い光を放ち、その目も開けていられない輝きが治まると───ジュイネの姿は、上半身は胸元だけに薄布を纏い、下半身は薄紫の鱗に覆われた尾ヒレの付いた人魚の姿と化していた。

 

ジュイネ

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

 

女王セレン

「うふふ⋯⋯とても素敵な姿ですよジュイネ」

 

グレイグ

「理想的です⋯⋯セレン女王、有り難き幸せッ」

 

ジュイネ

「グレイグは⋯⋯僕のこんな姿を見たかったの⋯⋯?」

 

グレイグ

「あぁ、すまんジュイネ⋯⋯だが想像していたように、美しい姿だ⋯⋯」

 

ジュイネ

「グレイグなんて、もう知らないよ⋯⋯! それじゃあまるで元の僕がダメみたいじゃないかっ」

 

グレイグ

「ち、違う⋯⋯そうじゃない! 元のお前は勿論好ましい事に変わりないのだが、人魚の姿を唐突に見てみたくなっただけであって───」

 

女王セレン

「ふふ⋯⋯」

 

ジュイネ

「近寄らないでってば⋯⋯! わっ」

 

 

 グレイグは手を伸ばし、ジュイネの尾ヒレを掴んで引き寄せ華奢な身体を逞しい両腕の中に収める。

 

女王セレン

「まぁ⋯⋯大胆だこと」

 

グレイグ

「これからは積極的に、俺から触れにゆくと言っただろう⋯⋯」

 

ジュイネ

「ずるいよ、そんなの⋯⋯」

 

グレイグ

「元の脚の曲線も良いが、腰から尾ヒレにわたる曲線も美しいものだ⋯⋯」

 

ジュイネ

「ん⋯⋯っ、下半身が、鱗の付いた魚になっても⋯⋯そんな風になぞるように触れられると、感じちゃうよ⋯⋯」

 

グレイグ

「フフフ⋯⋯ならばもっと感じさせてやろ───」

 

 

 グレイグが人魚のジュイネの下半身を更に弄ろうとしたその瞬間、グレイグの身体が唐突に縮こまってゆき仕舞いには小さなクマノミと化す。

 

女王セレン

「⋯⋯そこまでにしましょうね、グレイグ将軍? 暫くその姿で、海底王国ムウレアを散策するといいですよ」

 

クマノミグレイグ

「⋯⋯⋯⋯、ギョ意」

 

 

 

 

【男装の勇者?】

 

 常闇の魔物撃破後、最後の砦の祝杯にて。

 

 

酔った兵士

「⋯⋯太陽取り戻す前の暗がりだと分かりづらかったっすけど、勇者様って明るい中で見ると随分綺麗なお顔してるっすねぇ~。声も中性的っすし⋯⋯本当は男装の麗人なんじゃないっすか~?」

 

ジュイネ

「えっ? えっと⋯⋯」

 

グレイグ

「おいこら、口を慎め。⋯⋯彼はれっきとしたユグノア王国の王子でもあるのだぞ」

 

酔った男貴族

「ほうほう、通りで気品のある整った顔だ⋯⋯。16年前滅んだユグノア王国の王妃は、それはもう見目麗しかったそうだが母君の方に似たのではないかね?」

 

ジュイネ

「さぁ⋯⋯どうなんでしょう⋯⋯」

 

グレイグ

「俺からすればジュイネは無論エレノア王妃の優しく美しい面差しも受け継いでいると思うが、アーウィン王の勇ましさと凛々しさも兼ね備えていると感じるぞ」

 

ジュイネ

「⋯⋯⋯⋯」

 

 グレイグに真っ直ぐ見つめられ恥ずかしくなって俯く。

 

 

酔った兵士

「そんな美しく高貴な方を我々は悪魔の子などと呼び追いかけ回していたなんて⋯⋯罪深いもんっすねぇ」

 

グレイグ

「それは⋯⋯確かに、な。全ては我らが王に取り憑いていたウルノーガなる者のせいなのだ⋯⋯」

 

ジュイネ

「悪魔の子の疑いは晴れたんですから、そのことはもう気にしなくていいですよ」

 

酔った兵士

「くぅ~、何てお優しい勇者様だ⋯⋯! そんな可憐で儚げな勇者様とお近付きになりたい⋯⋯」

 

 急に手を取り握り締められ困惑するジュイネ。

 

ジュイネ

「えっ、あの⋯⋯」

 

グレイグ

「無遠慮に触れるなッ!」

 

 兵士の腕を掴みジュイネから離れさせる。

 

 

酔った兵士

「何すかグレイグ将軍~、妬いてるんすか? 将軍はいいっすよね~これから勇者様と二人きりで旅に出るんすから⋯⋯オレもお供したい! あ、いくら勇者様がかわいいからって手ぇ出しちゃダメっすよ~?」

 

グレイグ

「お前⋯⋯いい加減その軽口を塞いでやろうかッ?」

 

ジュイネ

「や、やめなよグレイグ⋯⋯久しぶりに太陽を拝めて調子よくなるのも無理ないんだし⋯⋯。えっと、僕はちょっと席外しますね」

 

酔った兵士

「え~勇者様、もっとお話しましょうよ~」

 

グレイグ

「ジュイネ、俺はお前の盾となったのだから傍を離れんぞ。酔って調子に乗った輩にこれ以上絡ませる訳にいかんからな」

 

ジュイネ

「うん⋯⋯守ってくれるならそれでいいよ。神の岩と反対方向の、川辺に行こう」

 

グレイグ

「うむ⋯⋯」

 

 

 

ジュイネ

「───⋯⋯ここ、僕の親代わりのおじいちゃんと一緒によく釣りした場所なんだよね」

 

グレイグ

「そうか⋯⋯」

 

ジュイネ

「ねぇ、グレイグ⋯⋯。さっきの兵士さんの言う通り、僕が本当は男装してたらどうする?」

 

グレイグ

「⋯⋯どうかして欲しいのか?」

 

ジュイネ

「⋯⋯⋯⋯」

 

グレイグ

「気を遣う箇所が変わるだろうが、それ以外は特に扱いは変わらんさ。⋯⋯お前に命を預け盾として、守り抜くのみだ」

 

ジュイネ

「⋯⋯そう」

 

グレイグ

「───勇者姫の大冒険、という絵本を知っているか?」

 

ジュイネ

「え、急に何⋯⋯? 知らない絵本だけど、ゆうしゃひめって」

 

グレイグ

「そうか⋯まだ幼いマルティナ姫の為にデルカダール王が取り寄せた絵本でな、著者は不明だが俺も何度か姫に読み聞かせて差し上げた事があるのだ」

 

ジュイネ

「へぇ⋯⋯グレイグが幼い頃のマルティナに読み聞かせ、か⋯⋯」

 

グレイグ

「王国の姫として何不自由なく暮らしていたが、突如王国が魔物の大群に襲われてな⋯⋯ただ一人生き残った姫はある預言者の導きにより勇者の資格ある者と判り、女だと舐められる為男装の勇者として立ち上がる事になったのだ」

 

ジュイネ

「⋯⋯性別は違うけど、まるで僕と似たような状況だね」

 

グレイグ

「そうだな⋯⋯だからこそ今その物語を思い出したのだが、絵本にしては随分重厚な話だった⋯⋯それでもマルティナ姫はよく読みたがっていたな」

 

ジュイネ

「その絵本の話みたいに⋯⋯マルティナが勇者姫だったらよかったのに、なんてね」

 

グレイグ

「まぁ、それはともかく様々な冒険と仲間との出会いと別れの末、元凶が次元の狭間に巣食う時の魔王だという事が判り、あらゆる手段を講じて倒しに向かうのだが⋯⋯全ては王国が滅んで最初に出会った預言者の仕業だったのだ」

 

ジュイネ

「あぁ⋯⋯そういうパターンね。姫は勇者じゃなくて魔王の手駒の預言者に踊らされてたんでしょう」

 

グレイグ

「そうだ。しかし⋯⋯死に別れた仲間に実は本当の勇者が居て、その魂が姫に宿り真の勇者姫として覚醒し、悪の預言者と時の魔王を倒したのだ」

 

ジュイネ

「よくある逆転劇だね」

 

グレイグ

「まぁな。だが勇者姫は時の魔王を倒したと同時に永遠の眠りにつき、今でも時の狭間を漂っているという⋯⋯話はここで終わっている」

 

ジュイネ

「絵本にしては、主人公は救われない話だね⋯⋯。僕も似たような道を辿るのかな」

 

グレイグ

「縁起でもない事を言うな、飽くまで絵本の中の話だぞ」

 

ジュイネ

「そうかな、もしかしたら⋯⋯僕らの知らない時間軸の、本当にあった話が絵本として描かれたのかもしれないよ。著者が不明なのも気になるし」

 

グレイグ

「うむ⋯⋯それは有り得るかもしれんが」

 

ジュイネ

「姫は悔しかったろうね⋯⋯王国が滅ぼされた直後に勇者として持ち上げられ、女じゃ周囲に舐められるからと男装して仲間を得て王国を滅ぼした元凶を倒す為に奔走して⋯⋯死なせてしまった仲間に、本当の勇者が居たなんて」

 

グレイグ

「だがその勇者の魂が姫に宿り、真の勇者姫になれて元凶を倒したのだから本望なのではないか?」

 

ジュイネ

「⋯⋯永遠の眠りについたのは、勇者姫が望んだからじゃないのかな。元の世界に戻って、真の勇者姫と崇められたって苦しいだけだろうから⋯⋯」

 

グレイグ

「⋯⋯⋯⋯」

 

ジュイネ

「僕も実は勇者じゃないのかもね。僕が生まれる前からずっと英雄と呼ばれて来たグレイグが本当の勇者かもよ?」

 

グレイグ

「あり得んよ、16年もの間傍に居た元凶も見抜けぬ俺が勇者の筈はない」

 

ジュイネ

「そんなこと言ったら、ホメロスの尾行に一切気づけなかった僕も勇者なわけないよ。魔王を誕生させ、命の大樹を落下させてしまって多くの人の命を犠牲に───僕が勇者じゃないなら、本当の勇者様は一体どこに居るんだろう。本来なら、邪神復活に備えるはずだったのに。自分は勇者だって、気づいてないのかなやっぱり。⋯⋯僕は影武者みたいな者でしかなくて、男装してて、本当の勇者を犠牲にしないと真の勇者になれない無力な存在でしかないんだよきっと」

 

グレイグ

「⋯⋯しかし俺と共にこの地方の太陽を取り戻したろう?」

 

ジュイネ

「それはグレイグが居てくれたからだよ、僕一人じゃどうにもならなかった」

 

グレイグ

「それにしても⋯⋯男装しているというのは、本当だったのか?」

 

ジュイネ

「さぁ、どうだろうね。───試してみる?」

 

グレイグ

「どういう、意味だ」

 

ジュイネ

「木陰にでも入って、脱がしてみるかってこと。いいよ、別にグレイグになら暴かれても」

 

グレイグ

「⋯⋯お前、慣れない祝杯の酒に酔っているのではないか?」

 

ジュイネ

「舐める程度しか口にしてないはずだけど、まぁ酔ったってことにしとくよ。暴いて来ないなら⋯⋯はだけようか僕自身が」

 

グレイグ

「───やめろ」

 

 胸元の留め具に手を掛けたジュイネの手首を掴み止めさせる。

 

ジュイネ

「⋯⋯意外と臆病だね、グレイグ」

 

グレイグ

「臆病でも何でもいい⋯⋯そういうのは、よせ」

 

ジュイネ

「はぁ⋯⋯やっぱり融通の利かない生真面目バカだ」

 

グレイグ

「何とでも言え」

 

ジュイネ

「⋯⋯さっきの兵士さんや貴族の人に、見せちゃおっかな」

 

グレイグ

「⋯⋯ッ! お前、いい加減に」

 

ジュイネ

「───ごめん、変なこと言って。僕もう休憩用のテントで休むから、グレイグは祝杯の席に戻るといいよ」

 

グレイグ

「俺はお前の元に居る。俺はお前の盾なのだからな」

 

ジュイネ

「そうするといいよ⋯⋯僕は逃げも隠れもしないから」

 

 

 

 

勇者をダメにするシリーズ

 

[二人旅時]

 

ジュイネ

「み、見てよグレイグ、あんな所にはぐれメタルがいるよ⋯⋯! しかも何だか、かなり幅が広くて大きい⋯⋯!」

 

グレイグ

「むッ、確かにはぐれメタルのようではあるが⋯⋯様子が違うな。気を付けろ、ジュイネ」

 

ジュイネ

「近づいても、逃げる気配がない⋯⋯。それにしても大きいね、僕とグレイグが乗ったとしても余裕があるくらいだ」

 

グレイグ

「おい⋯⋯そもそもこいつは、生きているのか? 質感が⋯⋯全くと言っていい程、メタル感が無いのだが」

 

ジュイネ

「⋯⋯あ、端っこにタグが付いてる。えーっと⋯⋯勇者をダメにする、はぐれメタルラグ⋯⋯??」

 

グレイグ

「新手の罠か⋯⋯?! ジュイネ、今すぐはぐれメタルラグから離れるのだッ」

 

ジュイネ

「全然硬くないし⋯⋯肌触りのいい大きなはぐれメタルだ。寝っ転がりたくなってきた⋯⋯」

 

グレイグ

「こ、こらッ、本当に寝っ転がってどうする⋯⋯!? 魔物の罠かもしれんだろッ」

 

ジュイネ

「うーん⋯⋯これ寝心地いいなぁ。グレイグもおいでよ、気持ちいいよ」

 

グレイグ

「お、お前⋯⋯早速ダメな勇者にされているではないか」

 

ジュイネ

「はぐれメタルの突起してる頭の部分、ずいぶんちっちゃく感じるなぁ⋯⋯。枕に出来るかも」

 

 言いながらうつ伏せにはぐれメタルの頭に自分の頭を横にして乗せる。

 

ジュイネ

「ほあぁ⋯⋯、このままほんとに寝ちゃいそう⋯⋯」

 

グレイグ

「勇者をダメにするはぐれメタルラグ、恐るべし⋯⋯一体何者がこんな物を設置したのだ」

 

ジュイネ

「すやぁ⋯⋯」

 

グレイグ

「おいジュイネ、本当に寝るんじゃない⋯⋯!?」

 

 首根っこを掴んではぐれメタルラグから引き剥がそうとするも、グレイグもはぐれメタルラグに乗った瞬間得も言われぬ心地になり、気付いた時にはジュイネに添い寝する形で自身も横たわっていた。

 

グレイグ

「(⋯⋯勇者をダメにする上に、勇者の盾である俺すらもダメにするとは⋯⋯不覚、だ)」

 

ジュイネ

「ふふ⋯⋯グレイグもダメになっちゃったんだねぇ⋯⋯。もうこのまま、お互い勇者の使命とか勇者の盾とかやめちゃおうかぁ⋯⋯。何かもう、どうでもよくなってきちゃった」

 

グレイグ

「そうだな⋯⋯とはいえ、お前───」

 

 グレイグはふと、ジュイネのとある箇所に眠たげな眼を向ける。

 

グレイグ

「尻の割れ目⋯⋯、良い形状をしているな⋯⋯」

 

ジュイネ

「え⋯⋯、何言ってるのさ⋯⋯。グレイグってばエッチだね⋯⋯」

 

グレイグ

「それはお前なのでは⋯⋯。そもそも何だ、そのうつ伏せの寝方⋯⋯襲って下さいと言っているようなものだぞ、尻の割れ目⋯⋯」

 

ジュイネ

「上着のお尻の部分が割れてるのは⋯⋯元々の仕様じゃないか⋯⋯。そんなに気になるなら、おそってみれば⋯⋯?」

 

グレイグ

「ほう⋯⋯言ったな。ではその言葉に甘えるとしよう⋯⋯」

 

ジュイネ

「⋯⋯ぇ」

 

 グレイグは一度身体をゆっくりと起こし、ジュイネの尻の割れ目へ向け顔面を押し付ける。

 

ジュイネ

「ひっ⋯⋯ちょっと、大胆だよグレイグ⋯⋯」

 

グレイグ

「ムフー⋯⋯ッ」

 

ジュイネ

「そ、そんな⋯⋯勢いよく吐息を吹き掛けないでってば⋯⋯っ。変な感じ、しちゃうよ⋯⋯」

 

グレイグ

「うーむ⋯⋯これならば、ぱふぱふと似た感触なのでは⋯⋯? やはり良い尻をしている⋯⋯」

 

 ぱふぱふするように尻の割れ目に何度も顔面を上下に振って埋める。

 

ジュイネ

「ふぁっ、そんなのずるいよグレイグ⋯⋯はぅっ」

 

 恥ずかしいのか気持ちいいのか訳分からず、突起したはぐれメタルラグの頭に両手を添え掴んで顔面を突っ伏し、ゾワゾワする感覚に堪え続けた。

 

 

──────────

 

───────

 

[勇者をダメにするシリーズ、ビッグサイズのスライムクッションを同棲を始めてから通販お取り寄せ]

 

ジュイネ

「ねぇ見てよグレイグ、通販で取り寄せた勇者をダメにするっていうキャッチコピーの大きなスライムクッションが届いたよ!」

 

グレイグ

「ほう⋯⋯これは中々大きいものだな。これならば俺のような大柄でも余裕で寄り掛かれそうだ。⋯⋯そういえば俺は幼き頃、スライムの人形を抱いて寝ていた事があったな。懐かしいものだ」

 

ジュイネ

「想像するだけでそんなグレイグがかわいくてしょうがないね⋯⋯。今度スライムの抱き枕も取り寄せてみようか」

 

グレイグ

「それも良いのだが、今の俺にとっての抱き枕はジュイネのようなものだからな」

 

ジュイネ

「ふふ、うれしいこと言ってくれるね。⋯⋯寝ているうちに強く抱き締められすぎて、息が苦しい時もあるけどグレイグにとって唯一無二の抱き枕として、精進するよ」

 

グレイグ

「(寝ている内にも離すまいとつい力が入ってしまうのだろうな⋯⋯気を付けねば)」

 

ジュイネ

「じゃあ早速埋もれて見ようかなぁ⋯⋯ばふっ」

 

 うつ伏せにスライムクッションへダイブ。

 

 

グレイグ

「どうだ、埋もれ心地は?」

 

ジュイネ

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

 

グレイグ

「既にダメにさせられたようだな⋯⋯」

 

ジュイネ

「うーん、何か違う⋯⋯」

 

 顔を上げて不満げ。

 

 

グレイグ

「む⋯⋯? 勇者がダメになっていないという事は、キャッチコピーに意味は無いな」

 

ジュイネ

「ダメにはなりそうなんだけど、何かが足らないんだよね」

 

グレイグ

「何だろうな、その足らないものとは」

 

ジュイネ

「⋯⋯グレイグかな」

 

グレイグ

「俺か⋯⋯??」

 

ジュイネ

「グレイグ、仰向けでスライムクッションに寄り掛かってくれないかな」

 

 自分はクッションから離れつつ言う。

 

 

グレイグ

「うむ⋯⋯そうさせてもらうか」

 

 仰向けにバフッと体重預け。

 

グレイグ

「ふむ⋯⋯寝心地は良いと思うがな。俺は⋯⋯ダメになりそうだ」

 

ジュイネ

「⋯⋯よいしょ」

 

グレイグ

「お、おいどうした⋯⋯? 仰向けの俺の上にうつ伏せに寝そべってくるとは」

 

ジュイネ

「⋯⋯⋯⋯」

 

 大胸筋に顔を埋め。

 

 

グレイグ

「く、クッションの方が断然柔らかいだろうに⋯⋯俺の大胸筋では硬いだろう」

 

ジュイネ

「ううん、やっぱり僕はこの方がいいな⋯⋯」

 

 満足げに抱きつきつつ顔を擦り寄せ。

 

 

グレイグ

「そ、そうか⋯⋯。ジュイネをダメにするのは、俺の大胸筋なのだな⋯⋯」

 

ジュイネ

「くぅ⋯⋯」

 

グレイグ

「(俺の大胸筋に顔を乗せたまま寝てしまったか⋯⋯。俺もスライムクッションに寄り掛かったままジュイネと共に暫く眠るとするかな⋯⋯)」

 

 

───────────

 

────────

 

[邪神討伐後の真に平和になった世界の神の岩の頂上にて]

 

ジュイネ

「やっと勇者の使命から解放されたぁ⋯⋯と、思ったんだけどこれから先も、僕が死んだあとすらも勇者って呼ばれ続けなきゃならないのかなぁ」

 

グレイグ

「先代勇者も未だにそう呼ばれているからな⋯⋯、こればかりは仕方ないだろう」

 

ジュイネ

「勇者の紋章だって、セニカ様に譲り渡して無くなったのになぁ。勇者の剣も、命の大樹に奉納したし⋯⋯正直もう勇者って呼ばれたくないんだけど」

 

グレイグ

「お前は勇者として使命を果たそうとしていた頃から、勇者と呼ばれるのを苦手としていたな」

 

ジュイネ

「勇者の生まれ変わりとか言われた時から違和感あったし、悪魔の子って呼ばれた方が合ってるんじゃないかって世界崩壊後は思ってたくらいだから」

 

グレイグ

「⋯⋯⋯⋯」

 

ジュイネ

「別に僕だけが勇者ってわけじゃなかったしね。それこそ僕の仲間のみんなが勇者だと思うし。勇者の紋章ある無しに関係なく、ね」

 

グレイグ

「ふむ⋯⋯ならば俺も勇者として在れたのだろうか」

 

ジュイネ

「勇ましい者、という意味ではぴったりじゃないグレイグは」

 

グレイグ

「まぁ⋯⋯気合いや勢いがあっても空回りしてばかりだったりするがな」

 

ジュイネ

「僕はそんなグレイグも愛おしいと想うよ」

 

グレイグ

「そ、そうか⋯⋯」

 

ジュイネ

「⋯⋯⋯⋯」

 

 ふと頂上の崖スレスレに立つ。

 

グレイグ

「お、おいジュイネ⋯⋯危ないぞ」

 

ジュイネ

「ねぇグレイグ⋯⋯試してみない?」

 

グレイグ

「何を、だ⋯⋯?」

 

ジュイネ

「勇者の紋章無しに、ここから落ちてみて⋯⋯僕が無事でいられるかどうか」

 

グレイグ

「そのような事などする必要はないだろう? 崖から離れて俺の元に戻るのだ、ジュイネ」

 

 宥めるように言い聞かせ近寄る。

 

ジュイネ

「──生きてても死んでも勇者という存在が変わらないなら、同じだよ」

 

グレイグ

「!?」

 

 グレイグへ徐ろに振り向き、儚く微笑んだまま身体が崖へ仰向けに傾いてゆき、落下────

 

グレイグ

「馬鹿者ッ、本当に自分から落ちようとなどするな!!」

 

 間一髪駆け付け片手を掴んで落下を防ぐ。

 

ジュイネ

「はは⋯⋯残念、堕ちそびれちゃった」

 

グレイグ

「全く⋯⋯今引き上げるぞ」

 

 もう一方の手を差し出そうとする。

 

ジュイネ

「ねぇ⋯⋯このまま一緒に堕ちてみようよグレイグ」

 

 もう一方の手で引き下ろすように手首掴む。

 

グレイグ

「やめろジュイネ⋯⋯、お前は勇者の使命を果たして燃え尽き症候群のようになっているのだ。ゆっくり休もう⋯⋯これからの事は、焦らず共に考えてゆけばいい」

 

ジュイネ

「これからなんて、目に見えてるよ⋯⋯どこへ行っても勇者ユウシャって呼ばれるんでしょ。もういっそ別の存在か誰も僕を知らない場所へ行きたいよ」

 

グレイグ

「ジュイネ⋯⋯」

 

ジュイネ

「ね、お願い⋯⋯グレイグ」

 

グレイグ

「⋯⋯判った。もし神の岩の頂上から落ちても無事だったら、大人しく俺と一緒に余生を過ごしてもらうからな」

 

ジュイネ

「無事じゃ、なかったら⋯⋯?」

 

グレイグ

「⋯⋯お前と共に、どこまでも堕ちて行こうじゃないか」

 

 不敵な笑みを見せる。

 

ジュイネ

「ふふ⋯⋯僕としては後者がいいな、なんて⋯⋯じゃあ、いこうか」

 

 

──────────

 

───────

 

[魅力的な長髪おじさん]

 

ジュイネ 

「グレイグって⋯⋯服着てない時の髪の感じ⋯⋯いつも以上に魅力的に見えるね」

 

グレイグ

「そんなものか?⋯⋯お前も大概、魅力的が過ぎるぞ」

 

ジュイネ

「艶っぽい⋯⋯色気が増すっていうのかな⋯⋯。グレイグも髪がサラサラで長いからかな」

 

グレイグ

「お前も長めではあるが⋯⋯俺くらいに伸ばしてみるか? そうすれば、艶っぽさや色気も増すのでは。そんなお前も、見てみたいものだな⋯⋯今でも十分魅力的だが」

 

ジュイネ

「そう言うってことは、今の僕じゃまだ子供っぽいってこと⋯⋯?」

 

グレイグ

「愛らしいという意味では、今のままでも十二分なのだがな」

 

ジュイネ

「グレイグに日々、大人の触れ合いしてもらってるから⋯⋯僕もう子供じゃないはずなんだけどな」

 

グレイグ

「子供っぽいお前だろうと、大人っぽいお前だろうと、俺は変わらず愛せるぞ」

 

ジュイネ

「もう⋯⋯グレイグは欲張りだなぁ」

 

 

───────────

 

────────

 

[グレイグの髭は勇者の紋章?]

 

ジュイネ

「グレイグの髭って⋯⋯僕の左手の甲の勇者の紋章に似てない?」

 

グレイグ

「うむ、確かに⋯⋯最近手入れをする際に俺もそう感じていた」

 

ジュイネ

「偶然なのかもしれないけど、運命感じちゃうな⋯⋯」

 

グレイグ

「お前が生まれた時期にはこの髭のスタイルは定着していたからな⋯⋯。周囲に舐められぬよう、髭を生やす事にしたのだが⋯⋯まぁ何と言うか、デルカダール王の真似事でもあったのだがな」

 

ジュイネ

「髪を伸ばしたままにしてるのもそう?」

 

グレイグ

「そうだな、髪に関しては子供の頃からだったぞ。デルカダール王のように威厳があるように、見せる意味合いもあるというかな」

 

ジュイネ

「うん、確かに王様みたいに威厳たっぷりだよ」

 

グレイグ

「フフ、そうか⋯⋯」

 

ジュイネ

「髭かぁ⋯⋯僕もグレイグみたいに生やしたら、女の子に見られたりしなくなるかな」

 

グレイグ

「お前が、髭を⋯⋯うーむ、女子に見られなくなる以前の問題だ。全く似合わないな」

 

ジュイネ

「そこまで、言う⋯⋯?」

 

グレイグ

「仮に生やしたとして、おかしな付け髭にしか見えんだろう。そもそもお前は髭を生やせるのか?」

 

ジュイネ

「う⋯⋯、実は僕髪の毛と眉以外の毛がほとんど無くて⋯⋯髭もまだ生えたことないよ」

 

グレイグ

「お前はもしかしたら母親譲りの、髪の毛や眉以外は薄毛なのではないか? それだと二十歳を超えても髭は生やせぬのではないだろうか」

 

ジュイネ

「じゃあグレイグは、いつから髭生えてたのさ」

 

グレイグ

「俺は元から体毛が濃いせいか、早かったな⋯⋯。十を超えた辺りから目立って来ていたぞ」

 

ジュイネ

「そ、それは早いね⋯⋯」

 

グレイグ

「だからこそ俺は二十歳前後でこの髭を確立出来たのだ。お前には⋯⋯俺のような髭は無理だろうな」

 

ジュイネ

「僕まだ16だけど⋯⋯髭関係なしに二十歳超えたらさすがに女の子には見られないよね⋯⋯? グレイグには全然及ばないけど背は高めな方だし」

 

グレイグ

「どうだろうな⋯⋯。お前も大分鍛えているはずだが、線の細さはそれほど変わらんからな。体質というものは生まれ持ったものであって、体型は後から付くものだ。お前は昔から野菜や果物ばかり食べているようだから、女子っぽさはこの先も抜けないのではないか?」

 

ジュイネ

「だって⋯⋯体質的に獣系の肉は受けつけないんだもの。魚は多少食べれるんだけど、家畜や獣のお肉を少しでも食べるとお腹壊しちゃうから⋯⋯」

 

グレイグ

「まぁ無理に男らしくなろうとせずとも、お前はそのままで俺はいいと思うぞ」

 

ジュイネ

「そうなのかなぁ⋯⋯それだと周りから舐められっぱなしだと思うんだけど」

 

グレイグ

「そんな事は気にするな、お前の盾である俺が⋯⋯お前を舐めようとする者共を片っ端から薙ぎ払い、護り抜いてみせるぞ」

 

ジュイネ

「心強いなぁ⋯⋯僕に命を預けてくれただけはあるね」

 

グレイグ

「うむ、俺の髭とお前の紋章は既に一心同体のようなものだ。この先もお前が望む限り、俺はお前の盾で在り続けるからな」

 

ジュイネ

「邪神も魔物も居なくなって⋯⋯平和な世界になっても、デルカダール王国へ帰れなくても僕が望む限り、本当に盾で居続けてくれるの?」

 

グレイグ

「騎士に二言は無い」

 

ジュイネ

「騎士として、じゃなくて⋯⋯グレイグ自身としては?」

 

グレイグ

「⋯⋯俺自身も望んでいるのだ、お前の盾で在り続ける事を。それこそ、この先もずっと⋯⋯永遠、と言ってもいい」

 

ジュイネ

「永遠⋯⋯じゃあ僕も永遠にグレイグの命を預かれるんだね。もう⋯⋯返してあげないよ」

 

グレイグ

「それでいい⋯⋯護らせてくれ、お前のその全てを」

 

 

 

 

【同棲とケッコンの違い・グレイグの場合】

 

 邪神討伐後の魔物の居なくなった平和な世界にて、久し振りに二人の顔を見にイシの村を訪れたマルティナの開口一番───

 

マルティナ

「ねぇ、貴方達⋯⋯いつ結婚するのかしら?」

 

ジュイネ

「え、ケッコン?? 同棲ってだけじゃダメなの?」

 

グレイグ

「⋯⋯⋯⋯」

 

マルティナ

「ダメって訳じゃないけれど、世界も平和になってそれなりに経つし⋯⋯もっと仲を深めてもいいんじゃないかしらと思って」

 

ジュイネ

「これ以上仲を深めるって、どんな⋯⋯」

 

グレイグ

「姫様⋯⋯ジュイネは成人を迎えているとはいえまだ十代です。結婚は⋯⋯まだ早いのでは」

 

マルティナ

「もしかしてグレイグ、ジュイネが二十歳になるまで待つつもりなの?」

 

グレイグ

「待つ、と言いますか⋯⋯結婚せずとも同棲のままで十分なのではと」

 

ジュイネ

「⋯⋯⋯⋯」

 

マルティナ

「グレイグ、貴方⋯⋯ジュイネに遠慮してるでしょう、自分が二十も歳上だからって」

 

グレイグ

「確かに⋯⋯それはあります。言ってしまえば私とジュイネは、親子ほど歳が離れていますから」

 

マルティナ

「それって貴方が二十歳前後で結婚して子供が出来ていたらって場合の話じゃないの。なら十代後半のジュイネも同じようなものよ?」

 

グレイグ

「修行に明け暮れていた私には結婚には縁が無かったので⋯⋯将軍となってからは見合いの話なども幾つかありましたが、どうにも生真面目で融通の利かない性格が相手には受け入れられず⋯⋯この歳まで独身なだけですよ」

 

ジュイネ

「そこがむしろグレイグの良い所なのになぁ⋯⋯」

 

グレイグ

「⋯⋯⋯⋯」

 

マルティナ

「ほら、ジュイネは貴方の事ちゃんと判ってくれてるじゃない。これ程縁のある相手は居ないわよ?」

 

グレイグ

「私には⋯⋯勿体な過ぎる相手ですよ。同棲させてもらっているのも、何かの間違いなのではと思う事があって⋯⋯これでも有難いと感じる反面、恐縮しているのです」

 

マルティナ

「⋯⋯つまりそれってジュイネと同棲してるだけでも幸せ過ぎて恐いのに、結婚までするなんて考えられないって事かしら?」

 

ジュイネ

「⋯⋯⋯⋯」

 

グレイグ

「そう⋯⋯なのでしょうね。臆病なのですよ、私は」

 

ジュイネ

「───じゃあ実際ケッコンしてみようよ、グレイグ」

 

グレイグ

「!? ジュイネ⋯⋯お前はまた急に何を」

 

ジュイネ

「ケッコンしたら恐くなくなるというか、臆病じゃなくなるんじゃない?」

 

グレイグ

「いや、あのな⋯⋯“それ”が恐いのだよ。俺としては同棲はまだ制御が利くが、結婚ともなれば⋯⋯タガが外れてしまうという意味が、お前には判るのか?」

 

ジュイネ

「⋯⋯グレイグが今よりずっと気持ちに素直になるってこと?」

 

グレイグ

「ぐ⋯⋯ッ」

 

マルティナ

「(図星が過ぎて言い返せないようね⋯⋯。やっぱりジュイネはグレイグを理解しているわ)」

 

グレイグ

「それこそ、本当の意味で素が出てしまう⋯⋯。そんな俺を見せてしまった時、果たしてお前に⋯⋯見放されないという保証もないからな」

 

ジュイネ

「なるほど、僕に嫌われるんじゃないかって恐れてるんだね」

 

グレイグ

「う、うむ⋯⋯」

 

マルティナ

「グレイグ⋯⋯ジュイネは貴方が思っているよりもう子供じゃないのよ」

 

グレイグ

「しかし⋯⋯」

 

ジュイネ

「今更どんなことされてもグレイグを嫌いにならない自信ならあるから、やっぱりケッコンしてみようよ」

 

グレイグ

「な⋯⋯何故そんな自信があるのだ」

 

ジュイネ

「え、だって僕⋯⋯出逢ったばかりのグレイグに地下牢に放り込まれたり、馬に乗って追いかけ回された上にボウガン撃たれたり、崖に追い詰められたりしたんだよ? 崖から落ちても僕のこと諦めずに執拗に追いかけてきて⋯⋯それでも嫌いになったことないのに、どうやったらグレイグを嫌いになれるの?」

 

グレイグ

「⋯⋯はっきり嫌いにはなっていないのかもしれんが、“怖い”とは思った事はあるはずだぞ」

 

ジュイネ

「そうだね⋯⋯でも嫌悪するほどじゃないよ」

 

グレイグ

「今までお前に与えて来た怖さよりも⋯⋯もっと別の意味での嫌悪と恐れを与えてしまうかもしれない。それが、俺は恐いのだよ。今の⋯⋯程良い関係が崩れてしまうのが」

 

ジュイネ

「⋯⋯⋯⋯」

 

マルティナ

「(安易に結婚の話をすべきじゃ無かったかしら⋯⋯グレイグったら、やっぱり生真面目が過ぎるんだから。というか⋯⋯ホメロスの件もあって、臆病になるのも無理はないわね)」

 

ジュイネ

「僕は色んな恐怖を乗り越えてきたつもりだよ、仲間のみんなと一緒に。だから、グレイグともこれからもどんな恐怖も乗り越えて行きたいんだよ」

 

グレイグ

「それが⋯⋯お前の願いなのか。結婚という一つの大きな壁を、俺と共に乗り越える為の」

 

ジュイネ

「うん⋯⋯それじゃあ、ダメかな」

 

グレイグ

「いいや⋯⋯お前がそれを望むなら、俺もそれに応え乗り越えてみたいと思える。俺からも言わせてくれ、結婚して欲しい⋯⋯と」

 

ジュイネ

「うん、もちろん。ケッコンしてみよう、じゃなくて結婚しよう、だね」

 

グレイグ

「うむ⋯⋯そうだな」

 

マルティナ

「───じゃあ挙式は盛大にデルカダール城で行いましょう。あ、でも先にジュイネの育ったイシの村ですべきよね? ウェディングドレスはどうする? それとも二人でタキシードかしら、それも素敵よね」

 

グレイグ

「ひ、姫様の勢いが止まらん⋯⋯?」

 

ジュイネ

「僕達の結婚を一番楽しみにしてるのってマルティナだね⋯⋯」

 

マルティナ

「どうするジュイネ、貴方はウェディングドレス? タキシード?」

 

ジュイネ

「ドレス⋯⋯は、どうなんだろ。グレイグは僕のウェディングドレス姿、見てみたい?」

 

グレイグ

「あぁ⋯⋯その、出来ればな。無理に着なくとも、良いのだぞ。お互いタキシードでも何ら問題ないのだし」

 

ジュイネ

「僕がタキシードでグレイグがウェディングドレス、とかは───」

 

マルティナ

「⋯⋯ぷっ」

 

グレイグ

「姫様⋯⋯今想像して笑いましたね」

 

マルティナ

「あっ、ごめんなさい⋯⋯笑う所じゃないわね」

 

グレイグ

「ジュイネがそう望むなら───いや、すまんッ。例えお前の望みでも俺はウェディングドレスは着れぬ⋯⋯! やはりジュイネに着て欲しい⋯⋯」

 

ジュイネ

「そっかぁ⋯⋯じゃあ僕がウェディングドレスを着るね」

 

マルティナ

「それならデルカダール王国で特注のウェディングドレスを用意するわね、楽しみにしていて頂戴! あ、招待状とかも全部任せてね。貴方達は結婚式まで今まで通り過ごすといいわ! それじゃあねっ」

 

ジュイネ

「⋯⋯よっぽど僕らを結婚させたかったんだね、マルティナ」

 

グレイグ

「うむ⋯⋯まぁ言われなければこうして踏み出せなかった訳だし、感謝せねばならんな」

 

ジュイネ

「そうだね、僕も正直結婚までは考えてなかったもの」

 

グレイグ

「俺は⋯⋯実の所何度か考えてプロポーズもどうしようかと思ったのだが⋯⋯その度に臆病になって切り出せなかったのだよ。後で改めて、俺からプロポーズさせてくれ。さっきのだと言わされた感が強くて納得いかんからな」

 

ジュイネ

「ふふ、そうなんだね⋯⋯何だかグレイグらしいよ。けど同棲と結婚って、具体的にどう違うんだろ⋯⋯?」

 

グレイグ

「やはりそれをよく理解せずに結婚を了承したのか⋯⋯お前らしいといえばそうだが」

 

ジュイネ

「もっと仲良くしていい⋯⋯ってことかな??」

 

グレイグ

「間違い、ではないが⋯⋯」

 

ジュイネ

「⋯⋯同棲始める前から触れ合ってきたつもりだけど、それ以上のことをするってこと?」

 

グレイグ

「⋯⋯まぁ、な。触れ合ってきたといっても添い寝や抱きつく程度だったからな。正直な所、同棲するようになっても俺はお前を傷付けぬよう色々と我慢をしてきたが⋯⋯結婚ともなれば、俺としては我慢をする必要もなくなる」

 

ジュイネ

「⋯⋯⋯⋯」

 

グレイグ

「不安そうだが、やはり⋯⋯怖いか」

 

ジュイネ

「怖くない、って言ったら嘘かもしれないけど⋯⋯だからこそ乗り越えたいかな、グレイグと一緒に。どんなことされてもむしろ、余計好きになっちゃう自信あるし⋯⋯ふふ」

 

グレイグ

「はは、そうか⋯⋯。心配するな、タガが外れるとは言ったが、ジュイネを大切にする気持ちは変わらない。決して⋯⋯お前をこわすような真似はしないさ」

 

ジュイネ

「ふぁっ、耳元で囁かれるとぞくぞくしちゃう⋯⋯。うん、その時が来たら⋯⋯僕を好きにしてね、グレイグ」

 

 

 

end

 

 

 

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