DQ11短編集   作:風亜

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 グレ主。
主人公の名前はオリジナル。異変後の魔王討伐直後のグレイグ視点。
主人公が胸元に闇の呪いを受けている設定は【闇と太陽と月の影】の話から。


二つの紋章

 我々は死闘の末、魔王ウルノーガを討ち果たした。⋯⋯だがその直後、ジュイネは糸が切れた人形のように倒れ、意識を失ってしまった。無理もない⋯⋯ウルノーガに勇者のチカラを一時的なりと奪われた際、強力な闇の呪いをその身に受けてしまい度々それに苦しめられていた。

 

天空魔城が崩壊する中、俺は他の仲間達を先に行かせ、意識の無いジュイネを横抱きにして必死に走ったが足場が崩れ逃げ場を失った時、神の乗り物ケトスが飛び乗れと言わんばかりに絶妙なタイミングで現れ、皆の窮地を救ってくれた。

 

魔王ウルノーガが倒された事で命の大樹が復活し、再び天空へと舞い上がった。その様子は、とても美しいものであったが⋯⋯俺の腕の中で意識無く眠るジュイネは、大樹の復活を目にする事はなかった。

 

 

 ───何故だ、闇の呪いをもたらしたウルノーガさえ倒せばジュイネが胸元に受けた、どす黒く禍々しい呪いは解けるものだと思っていた。聖地ラムダの宿屋のベッドに寝かせ、上衣をそっと脱がしジュイネの胸元を目にした時⋯⋯俺は目を疑った。

 

消える所かどす黒い禍々しい呪いは胸元にとどまらず広がりを見せ、ジュイネの全身を蝕みつつあった。⋯⋯皆でありとあらゆる手を尽くしたが、闇の呪いの進行を止める事は叶わなかった。ジュイネの意識は無いまま、どす黒く禍々しい呪いは首元まで迫り、端正な顔立ちすら覆い尽くそうとしていた。

 

不思議と左手の甲にある勇者の紋章はまだ闇の呪いに覆われてはいなかったが、右手の方は既に指先までどす黒く染まっていた。紋章だけは闇の呪いに抗っているにせよ、全身に広がったどす黒い呪いの進行までは止められないらしい。⋯⋯勇者の紋章すらも闇の呪いに染まるのは、時間の問題だった。俺は、それを見ているしか出来ない。

 

何故だ、何故───こんな事があっていいはずはない。魔王は倒したのだ、命の大樹は復活したのだ。ジュイネの人生は、寧ろこれからだというのに⋯⋯。神という存在が本当に居るのなら、今すぐ俺の命と引き換えにジュイネを闇の呪いから救って欲しい。俺の命はジュイネに預けたままだ、その命を使ってくれ。俺はジュイネの盾だというのに、このまま何一つ出来ないなど─────

 

 

「グレイ、グ⋯⋯⋯?」

 

 

 愛しい声音が微かに聴こえ、ベッド横の椅子に座り項垂れていた俺は顔を上げた。⋯⋯ベッドに横たわったままのジュイネは、朧気な目を俺に向けている。

 

「ジュイネ⋯⋯! やっと意識を戻してくれたかッ。俺は⋯⋯俺はこのまま、お前が───」

 

 

 思わず涙が溢れ、言葉が続かない俺へジュイネは、微かに笑って見せてくれた。⋯⋯だが、どす黒い闇の呪いは容赦なく端正な顔立ちまで覆い尽くさんと迫っていた。

 

「グレ、イグ⋯⋯おねが、い」

 

「お願い⋯⋯? 何だ、何でも言ってくれジュイネ」

 

 

 動かしづらいであろう左手をジュイネが上げようとした為、俺はその手をそっと両手に包んだ。⋯⋯勇者の紋章はこの時既に、半分ほど闇の呪いに染まっていた。

 

「紋章⋯⋯受け取って、くれない⋯かな」

 

「⋯⋯⋯? 何を、言って」

 

「こんなの、でも⋯⋯僕の、生きた証⋯だから」

 

 

 呟くようにジュイネがそう言うと、手袋をしていない俺の右手の甲が薄らと光った。⋯⋯すると何故だろうか、ジュイネの勇者の紋章だったはずのものが、俺の右手の甲に現れ出ている。

 

「これは、どういう事だ⋯⋯?」

 

「もう⋯⋯僕には、必要ないんだ⋯⋯。このまま、闇の呪いと共に完全に消えてしまう前に⋯⋯⋯グレイグに、受け取ってもらったんだよ」

 

 

 闇の呪いと共に⋯⋯完全に消えてしまう、だと───

 

 

「僕は⋯⋯魔王を誕生させてしまった、失敗作の勇者だから⋯⋯神様から、怒りを買ったのかも。沢山の人を⋯⋯仲間の一人も、犠牲にしてしまったし⋯⋯魔王を倒したくらいじゃ、許されなかったんだよ⋯きっと」

 

 

 やめろジュイネ⋯⋯そんな事を言うな。

 

 

「今まで、本当にありがとう⋯⋯グレイグ。他のみんなにも、一杯感謝してるって、伝えて」

 

 

 それは自分で伝えてくれ。俺は、俺は何一つお前に───

 

 

「ごめん、ね⋯⋯⋯さよ、な」

 

 

 ⋯⋯目に涙を浮かべたまま最期の言葉を言い終わらない内にジュイネは、その存在自体が全て黒く染まり、音を立てずに崩れ去り、黒い塵と化して空気中に消えた。───あっという間、だった。

 

俺の右手の甲には、ジュイネが譲り渡してくれた勇者の紋章が微かに光を放っている。⋯⋯彼は言っていた、「こんなものでも、自分の生きた証だから」と。

 

 

『───勇者の紋章を受け継ぎし者よ』

 

 

 茫然自失に陥っている俺の頭の中で突如、声がした。⋯⋯その声の主は、神の乗り物ケトスである事を俺は何故か理解した。

 

 

『取り戻したいものがあるのならば、その機会を与えましょう。忘れられた地にある、とこしえの神殿へ向かうのです。⋯⋯この、“神秘の歯車”を使うと良いでしょう』

 

 

 何処からともなく、“それ”はジュイネが横たわっていたベッドの上に現れた。

 

 

『勇者の紋章を受け継いだ貴方なら、天空のフルートで私を呼ぶ事も可能です。作成した勇者の剣も扱えるでしょう。⋯⋯急がなければ、間に合わなくなります。貴方の望む、取り戻したい“時”へ遡るには⋯⋯』

 

 

 取り戻したい、“時”───そうだ、魔王誕生前に戻るのだ。彼が⋯⋯ジュイネが勇者のチカラを奪われる前にホメロスと、王に取り憑いているウルノーガをどうにか出来れば。

 

 

『心は、決まったようですね』

 

「あぁ⋯⋯ケトスよ、俺を忘れられた地へ導いてくれ」

 

 

───────────

 

────────

 

─────

 

 

「なッ⋯⋯グレイグ?!」

 

 俺はいつの間にか手にしていた魔王の剣で、命の大樹の魂のある場所で勇者一行に不意打ちを食らわそうとしていたホメロスを背後から制した。その際、魔王の剣は粉々に砕けてしまったが。

 

「貴様⋯⋯どういう事だ、その剣⋯⋯あの方に賜った闇のオーラを、いとも容易く破るとは⋯⋯ッ」

 

 ホメロスは頽れたが、俺はそれ以上手を下す気にはなれなかった。今この時、重要なのは───

 

 

「グレイグ、将軍⋯⋯⋯どうして」

 

 

 命の大樹の魂の傍に居る“彼”が、闇の呪いに蝕まれる事無く健全な立ち姿で俺を一心に見つめてくる。そうだ、俺が取り戻したかったのは⋯⋯⋯

 

「───グレイグよ、そなたいつの間にわしから離れたのだ?」

 

 !! デルカダール王が、あとから大樹の魂のある場所へとやって来ていた。いや、違う⋯⋯正確にはデルカダール王に取り憑いている魔道士ウルノーガだ。元の世界では俺はその時、元凶に取り憑かれた王と共にホメロスを追ってここまで来た⋯⋯。あの時はホメロスの真意を暴きたいが為に、勇者一行が不意打ちを食らうのを黙って見ているしか出来なかったが───

 

「お助け、下さい⋯⋯。どうか私めに、今一度チャンスをッ⋯⋯!」

 

「ホメロスよ⋯⋯お前はわしを謀っていたようじゃな。その報いを、今ここで受けてもらおうぞ⋯⋯!」

 

 

 王に取り憑いているウルノーガが、その身に帯びた剣を抜き助けを乞うホメロスにトドメを刺しかけた時、俺は自分の大剣でそれを止めた。普段のデルカダールメイルを装備し、手甲をしている為ウルノーガは俺の右手の甲に勇者の紋章がある事には気付かない。

 

「⋯⋯どういうつもりじゃ、グレイグ。ホメロスの企てを暴いたのはそもそもお前だ、わしはホメロスに長年騙されていたのだ⋯⋯勇者は災いを呼ぶ悪魔の子だと。魔物と繋がっていたホメロスが勇者を亡き者にしようとしていたのだぞ、生かしてはおけぬ」

 

「お待ち下さい、王よ。ホメロスの処遇は⋯⋯私に任せて頂きたい」

 

「ほう⋯⋯“友”としての情けか?」

 

 俺は王に取り憑いているウルノーガを睨み据えたまま、ゆっくりと頷いた。⋯⋯何故だか今この場で、ウルノーガを暴き出し倒そうとするのは賢明ではないと判断したのだ。ホメロスの方は力尽きて意識を失い、王は抜いていた剣を鞘に納めた。

 

「⋯⋯まぁ良い。わしは勇者一行に謝罪しようと思う。大樹の魂が内包しておる“勇者の剣”は───」

 

 そこで王と俺が眩く輝いた大樹の魂に目を向けると、勇者は⋯⋯ジュイネは既に勇者の剣を手にした所だった。何とも神々しい光景だ。これならば⋯⋯ウルノーガはもう容易にジュイネに手を出す事は出来ないだろう。

 

「⋯⋯⋯⋯。勇者一行をデルカダール城に招き、宴を催すとしよう」

 

 どういうつもりかは、察しはつく。“その時”が、ウルノーガとの決着をつける時なのだろう。

 

 

 

 ───デルカダール城のホメロスの部屋に、ホメロスを寝かせた俺は部屋の中に右手の甲の勇者の紋章のチカラで封印を施した。まだ王に取り憑いているウルノーガがホメロスを再び利用しないとも限らないからだ。

 

それにホメロスは、このまま死にはしないにしても長年ウルノーガの闇のチカラに魅入られていた事もあり、暫くは目を覚まさないだろう。後でゆっくり、話せる時がまた来ればいいが。

 

 ⋯⋯それから俺の足は、“彼”の居る貴賓室へと向かっていた。コンコン、と軽くノックをすると、中から短い返事が返ってくる。

 

「どなたですか?」

 

「俺だ。あ、いや⋯⋯グレイグだ。開けてもらえないだろうか」

 

「──────」

 

 警戒、されているのも無理はない。今この時の“彼”は、俺が仲間だった事も、特別な関係であった事すら知らぬのだから。

 

⋯⋯少しして、カチャリとドアが控え目に開いた。

 

「どうぞ、入って下さい⋯⋯グレイグ、将軍」

 

 

 どす黒く、禍々しい闇の呪いに一切染められていない、かつての在りし姿がそこにはあった。凛々しくもあり、可憐で儚げな───

 

部屋には入ったものの、何と切り出して良いか判らない。

 

 

「ぁ、あの⋯⋯どうしてそんなに、見つめてくるんですか」

 

「⋯⋯む、すまん。そんなに見ていたか。深い意味は、ないのだが」

 

 いや、言葉と裏腹に大いにある。しかし、“彼”は戸惑いまともに目を合わせようとしてくれない。無意識に見つめ過ぎて、嫌がられてしまっただろうか。

 

 

「命の、大樹での件は⋯⋯ありがとうございました。あのままだったら、みんな危なかったかもしれない。やっぱり、とても強いんですねグレイグ将軍は」

 

「俺のチカラだけではないし、礼には及ばない。これまでの、非礼を考えれば⋯⋯。もっと早く間違いに気付き、お前達の⋯⋯お前の、味方になっていれば良かったのだがな」

 

「それも、そうだけど⋯⋯イシの村のみんなを、城の地下に匿ってくれていたから、デルカダール城から完全に離れるわけにもいかなかったんでしょう?」

 

「あぁ⋯⋯確かにそれもある。王は村人を生かしておく事を許してはくれたが、俺が勇者の側につけば容赦なく処刑しただろうからな」

 

「解放された村のみんなとこの城で再会して、話を聴きました⋯⋯。グレイグ将軍は、イシの村人全員が皆殺しにされてしまうのを止めてくれたって。城の地下に閉じ込められていた間も、決して悪いようには扱われなかっと聴いています。感謝しても、しきれません⋯⋯本当に、ありがとうございました」

 

 

 彼は⋯⋯ジュイネはそこで頭を深々と下げた。───前にも同じように、礼を言われた覚えがある。⋯⋯その彼はもう、存在しないが。いや⋯⋯それでも彼の生きた証ならば、俺が右手の甲に受け継いでいる。

 

「その件に関しても、礼には及ばぬよ。村人達を生かす事は出来ても、村自体は破壊され焼き払われるのを止められなかったのだから」

 

「それでも⋯⋯命さえあれば何度だってやり直せます。時間はかかっても、みんなで村を元通りにしてみせますよ」

 

 

 そう言って顔を上げたジュイネの表情は実に晴れやかだった。───あぁそうだ、俺はこの笑顔を取り戻したかったのだ。俺の命を預けてでも護るべき存在、俺の太陽⋯⋯⋯

 

「えっ、あの、グレイグ⋯将軍⋯⋯? く、苦しいです」

 

 ジュイネの苦げな声に気付いた時、俺はいつの間にか思いきりジュイネを抱き締めていた。

 

「はッ⋯⋯す、すまん急に⋯⋯大丈夫か?」

 

「は、はい⋯⋯」

 

 身体は少し離したが、両の手は肩に置いたままにした。⋯⋯出来る事ならこのまま、手放したくはない。

 

「あれ⋯⋯グレイグ、将軍の右手───」

 

 

 ジュイネは何か気付いた様子で、俺の右手の手甲にか細い両の手を添えた。⋯⋯俺の右手を自分の目の前に持ち、しげしげと見つめている。

 

「どうした、そんなに俺の右手の甲が気になるのか?」

 

「何て、言ったらいいか⋯⋯呼ばれてる、気がして」

 

「────!?」

 

 

 ジュイネがふと俺の右手の手甲に、勇者の紋章のある左手を重ねた。⋯⋯その瞬間、元の世界で過ごしたジュイネとの思い出が溢れ出し、走馬灯のように駆け巡り、共に在れた幸福と喪失感が同時に押し寄せ胸が張り裂けんばかりの苦しみを覚えた。

 

それは目の前に居るジュイネも同じだったらしく、胸元を押さえ立っているのがやっとの様子だ。項垂れて呻き、ぼろぼろと涙を零している。⋯⋯それでも俺の右手の甲は離そうとしない。

 

 

「ジュイ、ネ⋯⋯お前の左手を離せ。もういい⋯⋯もう十分、お前に伝わったはずだ」

 

「いや、だ⋯⋯⋯離せ、ないよこんな───グレイグ」

 

 

 震えながら項垂れていた頭を上げたジュイネは、頬や鼻先を紅潮させ、大粒の涙で頬を濡らし、恥ずかしさと苦しさに同時に責め苛まれているかのような表情をしていた。

 

⋯⋯俺もきっと、ジュイネと同じ顔をしている事だろう。

 

 

「もう、分かってるけど⋯⋯右手の手甲、外して見せて」

 

「あぁ⋯⋯⋯」

 

 俺は言われた通りにした。───ジュイネは左手の甲に、俺は右手の甲に同じ勇者の紋章を宿していた。

 

 

「よかった⋯⋯。一度は闇の呪いで“彼”の存在は消えてしまったけど、この紋章のお陰でまた逢えたね⋯⋯グレイグ」

 

 愛おしげに俺の露わになった右手の甲に再び左手を重ねるジュイネ。

 

「“彼”の記憶は完全に僕に受け継がれ⋯⋯僕と一つになった。グレイグ、もう悲しむ必要はないよ。これからも、ずっと一緒だから───」

 

 

 ⋯⋯⋯その時俺とジュイネの再会を邪魔するかのように、城内全体に一度衝撃が走った。

 

「あぁ、これからもずっと共に居られるように⋯⋯そろそろ元凶を倒さねばならんな」

 

「ウルノーガ、だね。盛大に借りを返してあげなきゃ⋯⋯。今の僕とグレイグなら、何ものにも負ける気がしないもんね」

 

「その通りだとも。俺とお前の二つの紋章をもってすれば⋯⋯魔王ウルノーガ以上の存在が現れようとも、何の問題もありはしない。決着をつける時が来た⋯⋯ゆくぞ、ジュイネ!」

 

「⋯⋯うん!」

 

 

 

end

 

 

 

 

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