DQ11短編集   作:風亜

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【仲間を探し求めて】の続き。
双賢の姉妹の補足→【守り導く者として】


仲間と共に歩む道

 ⋯⋯黄金化され宝物庫に閉じ込められていた人々の中に、セーニャが居た。セーニャは双子の姉ベロニカの気配を辿り聖地ラムダへ戻ろうとしていたが、黄金の大岩に道が塞がれ、その黄金をどうにか出来ないかと触れたら自らが黄金と化してしまったらしい。

 

クレイモラン王国の黄金病を解決し、神語りの里へ通じるゼーランダ山への道も黄金の大岩が消えて開かれ、ジュイネ達はあと一人の仲間と再会する為聖地ラムダへと急ぐ。

 

───しかし、余りにも無常な現実が待っていた。

 

 

 ベロニカは、散りゆく命の大樹から意識を失ったその場の全員を助ける為に自らのチカラを使い果たし、魔王誕生の際の凄まじい衝撃波を直に受け、身体は一欠片も残さずに消滅し、ベロニカの杖に込められた残留思念が姿をとって聖地ラムダの静寂の森の木の幹に背をもたれ掛け、独り静かに眠るように亡くなっていた。

 

⋯⋯ベロニカの杖に残された記憶が仲間達に伝わり、皆ショックを受ける中セーニャがそっと姉の頬に触れた瞬間、ベロニカの姿は光の粒となって消えてしまう。それにより、本当に姉を失ったのだと悟ったセーニャは気丈にもベロニカの杖を手にすぐ里の人々に姉の死を伝えに向かい、その日の内に葬儀が行われた。

 

亡き人を想い髪を一房切り火にくべて捧げる葬儀に参列し、ロウは髪の代わりに髭を少し、ジュイネは茫然自失のまま自分の髪を多く鷲掴みにし一気に切ろうとした為、仲間達が何とか止めて一房にさせるほどだった。

 

───セーニャは涙ひとつ見せず葬儀を終えたが、その後宿屋近くのテラスでベロニカの杖を一本の木の幹に立て掛け竪琴を悲しげに奏で呟くように歌い、そんな彼女にジュイネは何と声を掛けていいか分からなかったがとにかく謝る事しか出来なかった。勇者なのに魔王を誕生させてしまった挙げ句、ベロニカを死なせてしまった事を。

 

しかしセーニャは、ジュイネに謝ってほしいなど一切思っていなかった。寧ろ自分を責め、静かに降りしきる雨の中二人は暫く咽び泣いた。

 

⋯⋯そしてセーニャは意を決したように短刀を手に長かった髪を短く切り、杖に残されていたベロニカの魔力を受け継ぎセーニャは急に見違えるほどしっかりして見え、雨はいつの間にか止み月明かりが雲間から覗いた。

 

「私はもう大丈夫ですから、ジュイネ様はお休み下さい」と言われたジュイネはひとまずセーニャの元を離れたが、ラムダの里の入り口に俯き佇んでいるカミュが気になり近寄ってみるものの素っ気ない態度をとられる。

 

 

カミュ

「何だよ、ジュイネ⋯⋯オレを慰めに来たつもりか?」

 

ジュイネ

「⋯⋯⋯⋯」

 

カミュ

「────あいつ、ベロニカのやつ⋯⋯、オレに対していっつも憎まれ口叩きやがってよ。いつか、泣かしてやろうかと思ってたのに⋯⋯勝手に、居なくなりやがって」

 

ジュイネ

「(カミュ⋯⋯)」

 

 

 ジュイネから背を向けたカミュは俯いたまま、両の拳を強く握り締め微かに声も身体も震えていた。

 

カミュ

「あいつの態度、オレの妹のマヤに似てて⋯⋯正直あいつとのやり取りが楽しくて、オレもよくからかってやったけどよ⋯⋯⋯。長く黄金化してた上に魔王の眷属にされてた妹を勇者のお前のチカラを借りてようやく助ける事が出来て、ベロニカと再会して妹も元気になったら会わしてやろうと思ってたんだ。二人して絶対気が合うだろうからな」

 

ジュイネ

「そう、だろうね⋯⋯」

 

カミュ

「⋯⋯あいつなら、ベロニカならきっと無事だと思ってた。再会して、オレが一時的に記憶喪失になってたって知ったら、ぜってぇ面白がってからかってくるだろうって⋯⋯」

 

ジュイネ

「心配も、したと思うよ。ベロニカは、口では厳しいこと言ったりするけど⋯⋯よく心配もしてくれるから」

 

カミュ

「分かってるって、それくらい。⋯⋯心配もしてほしかったってのもアレだが───もう逢えないとか、勘弁してくれよ」

 

ジュイネ

「⋯⋯⋯⋯⋯」

 

カミュ

「あの場からオレ達を逃がして、あの場にたった独り残って、オレ達に世界を救う事を託して⋯⋯⋯居なくなっちまった。もうあの憎まれ口聞けないとか、考えらんねぇよ」

 

ジュイネ

「────。ねぇ、カミュ⋯⋯ベロニカは、カミュのこと」

 

カミュ

「言うなよ、やめてくれ⋯⋯。そうだったとしても、今さら───」

 

ジュイネ

「⋯⋯⋯ごめん」

 

カミュ

「わりぃ、今はもう⋯⋯一人にしてくれ。心配すんなよ、変な気は起こさねぇから。あいつに、ベロニカに世界を救う事を託されたんだ。それを全うするまでは⋯⋯どうにかなったりしねぇさ」

 

 

 カミュと話し終えたジュイネの足は自然と、大聖堂へと向いた。⋯⋯そこには、先代勇者の辿った軌跡が描かれた絵画を前に一人佇むグレイグの姿があった。

 

グレイグ

「───⋯⋯ジュイネか」

 

ジュイネ

「グレイグ⋯⋯ここに居たんだね」

 

グレイグ

「あぁ⋯⋯絵画に目を向けていれば、この不甲斐ない気持ちを落ち着かせられるかと思ったが、そうもいかぬものだな」

 

ジュイネ

「⋯⋯⋯⋯」

 

グレイグ

「お前は、大丈夫なのか? ───いや、すまん。大丈夫な筈はないな。一房ではなく衝動的に、髪の毛を全て切ってしまいそうだったからな⋯⋯」

 

ジュイネ

「僕の髪なんて、どうってことないよ。全部、ベロニカに捧げたいくらいだった。みんなが止めるから⋯⋯一房にしておいただけだよ。セーニャなんて、髪をばっさり切ったのに」

 

グレイグ

「そうだったか⋯⋯?」

 

ジュイネ

「葬儀のあとセーニャと話してたんだけど、何かを決意したみたいに長かった髪を短く一気に切ったんだ。どこか吹っ切れたみたいだった」

 

グレイグ

「⋯⋯そうか」

 

ジュイネ

「杖に込められていたベロニカの魔力も受け継いで、とてもしっかりしたセーニャになったよ。僕も⋯⋯見習わなきゃ」

 

グレイグ

「お前も、髪を短くするつもりなのか?」

 

ジュイネ

「同じことをしても、セーニャと同じようになれるわけじゃないよ。ずっと、悲しんじゃいられないことは分かってるから⋯⋯僕も僕なりに、強くなるしかないんだ。ベロニカが僕らに託した想いを、無駄にしないために」

 

グレイグ

「そうだな⋯⋯。俺は世界の異変後にお前達の仲間となったから、ベロニカの事はよく知らないのだが⋯⋯それでもお前達の絆の強さは判るつもりだ。だからこそ⋯⋯あの場で何も出来なかったばかりか、あの少女に命懸けで助けてもらった自分が余りにも不甲斐なくてな」

 

ジュイネ

「何も出来なかったわけじゃないでしょう、僕を守ろうとしてくれたし」

 

グレイグ

「結局は護れなかったのだから、何も出来なかった事に違いはない。⋯⋯俺がベロニカに報えるとしたら、それはやはりお前を⋯⋯お前達を全身全霊を持って護り抜く事だ」

 

ジュイネ

「───だからって、居なくなるようなことは許さないからねグレイグ」

 

グレイグ

「⋯⋯!」

 

ジュイネ

「もうこれ以上誰かを⋯⋯仲間を失うなんて絶対にイヤだ。僕もグレイグを、みんなを全力で守るんだ。ベロニカみたいには、絶対にさせない⋯⋯っ!」

 

 ジュイネは声を震わせ堪えきれず、ぼろぼろと涙を零しそれを目にしたグレイグはジュイネをそっと抱き包む。

 

グレイグ

「約束しよう、ジュイネ⋯⋯俺はお前の傍から居なくなったりはしない。お前は俺にとって、“剣たる主”でもあるのだ。その盾である俺は、お前を決して一人にはさせぬよ」

 

 

 

 

 ⋯⋯翌日、長老ファナードによるとゼーランダ山頂の勇者の峰でベロニカがフルートを吹いている夢を見たらしく、何か意味があるのではと皆で勇者の峰に向かい、セーニャが天空のフルートを吹いてみたが何も起こらず、しかしジュイネが渡されたフルートを手にした瞬間それが眩く光り出し、見る間にフルート自体が伸びていって何故か先端に釣り針が付き、それが勢いよく釣り糸と共に勇者の峰の雲海に垂れ下がった。

 

ジュイネ

「えっ、どうしてフルートが釣り竿みたいに───わわっ?!」

 

 身体ごと持っていかれそうなほどの引きを感じ、踏ん張るジュイネだが一人では到底困難だった。

 

セーニャ

「ジュイネ様、大丈夫ですか⋯⋯!? お手伝い致しますっ」

 

カミュ

「オレも手伝うぜ!」

 

マルティナ

「私もよ!」

 

シルビア

「大物が釣れそうな予感ねん!」

 

グレイグ

「俺も手を貸すぞッ!」

 

ロウ

「わしだって負けてられんぞい!」

 

 仲間達は一丸となって後ろからジュイネにチカラを貸し、そのお陰でジュイネは手応えを感じて思い切り釣り上げたつもりだったが何も掛かっていなかった⋯⋯わけでもなかった。

 

釣り上げた勢いで皆後ろに倒れてしまったが、よく響く鳴き声が聞こえ空を見上げると、神々しいクジラのような大きな生き物が優雅に舞っているのを目にする。

 

長老ファナードによればそれこそ、神の乗り物ケトスと呼ばれる存在だった。天空のフルートを勇者であるジュイネが吹けばケトスに乗れるらしく、長老ファナードはベロニカの無念を晴らしてほしいと述べ、それを受けてジュイネはベロニカを想いながらフルートを吹き、仲間と共にケトスの背中へとワープし目前の魔王が住まう天空魔城に乗り込もうとするも強力なバリアに弾かれてしまい、まずはそのバリアを解く方法を探る為、神の乗り物ケトスに導かれ神の民の里に行き着く。

 

 里、と言っても規模の狭い一つの島が浮いているだけで民も一人しかいなかった。それもそのはずで、魔王の軍勢によってほとんどが滅ぼされた跡だったが、里の中心に祀られている聖なる炎には手を出されなかったらしくその神殿周りは無事だった。

 

太陽の神殿内には三つの苗木もあり、それらからジュイネの左手の甲の紋章を通して先代勇者の軌跡を辿り、勇者の剣は作り出せると知った一行は聖なる種火を受け取った後、まずは天空の古戦場に向かい伝説のオリハルコンを入手し、次に伝説のハンマーを求めてサマディー王国を訪れたがこちらは勇者の星が落下しそうになっている騒ぎでそれどころではなかった。

 

 

ファーリス

「⋯⋯ジュイネさんじゃないか!? 無事だったんだね、心配したよ!!」

 

 率先して勇者の星落下の調査の為バクラバ砂丘に来ていたファーリス王子は、後からやって来た一行にジュイネの姿を見るや否やチカラ強く抱き締める。

 

ジュイネ

「ふぁっ、ファーリスも元気そうでよかったけど⋯⋯苦しいってば」

 

グレイグ

「おいお前⋯⋯ジュイネが苦しがっている、早急に離れろ」

 

 言いながらグレイグがファーリスをジュイネから引き剥がす。

 

ファーリス

「何だよー、感動の再会なんだからいいじゃないか⋯⋯って、貴方はもしやデルカダール王国のグレイグ将軍?!」

 

グレイグ

「そうだが⋯⋯何か問題でもあるのか?」

 

ファーリス

「ボクは貴方に憧れてるんですよー! いずれ貴方の部隊に入って鍛えたいと思ってるんですっ」

 

グレイグ

「そうか⋯⋯随分調子のいい王子に見えるが、俺の部隊に入るからには相当厳しい訓練を受けてもらう事になるぞ」

 

ファーリス

「望むところですよっ。グレイグ将軍のようにムキムキになって、ジュイネさんを振り向かせてみせたいからね!」

 

ジュイネ

「(どうしてそうなるの⋯⋯)」

 

シルビア

「王子ちゃんったら、ちょっと見ない間に頼もしくなったわね~! 落下して来てる勇者の星を調査するっていっても、どうするつもりなのん?」

 

ファーリス

「それがさーシルビアさん、勇者の星に文字みたいなのが浮かび上がってるみたいなんだよ。なるだけ近づいて解読出来ればいいんだけどさー」

 

ロウ

「なぬ、勇者の星に文字じゃと? 解読ならわしに任せてみてくれんか。これまであらゆる書物を読み解いてきたからのう」

 

ファーリス

「じいさんそれ本当かい? なら頼もうかなー!」

 

グレイグ

「ファーリス王子⋯⋯ロウ様をじいさん呼ばわりは如何なものか。ロウ様はユグノア王家の───」

 

ロウ

「良いのじゃグレイグ。⋯⋯ではもっと近づいて見る為に、勇者の星が落下して来ているバクラバ石群の真下まで行ってみるとしようかの」

 

 

ジュイネ

「(⋯⋯⋯? 僕にしか見えない小さな白いぽよぽよな生き物なら所々で見かけるけど、大きさはほぼ同じで色の違うあの真っ黒い生き物は⋯⋯何だろう。石群の真ん中に居る)」

 

ファーリス

「おー、こうして仰向けに寝っ転がって上を見てみるとすっごい迫力だなー⋯⋯。確かに文字みたいに見えるけど、ボクじゃ何て書いてあるかさっぱりだ⋯⋯。なぁジュイネさん、ボクの隣に来て一緒に見ないかい?」

 

ジュイネ

「ぇ、遠慮しておくよ」

 

ロウ

「さて、単眼望遠鏡でじっくり見てみるかの⋯⋯」

 

グレイグ

「ロウ様、余りじっくり見ている余裕はないのでは⋯⋯。本当に勇者の星が落ちて来ては一溜まりもありませんぞ」

 

 

黒い生き物

『─────』

 

ジュイネ

「(ぁ⋯⋯黒い生き物が、僕の方を向いた⋯⋯?)」

 

黒い生き物

『ワレガ、見エテイルノカ』

 

ジュイネ

「う、うん⋯⋯見えてる、けど(何だろう、不思議な言葉遣いなのに言ってることが何となく分かる)」

 

黒い生き物

『ソウカ⋯⋯ナラバオマエガ』

 

ジュイネ

「⋯⋯⋯⋯?」

 

ファーリス

「ジュイネさーん、どこ見てるんだよー。仰向けに寝ながら一緒に真下から勇者の星を眺めようじゃないかー!」

 

ジュイネ

「いや、だからそれは遠慮しておくって───(! 黒い生き物が長い触手を勇者の星に伸ばして、何か呼び起こそうとしてる⋯⋯?)」

 

セーニャ

「あぁ、見て下さい! 勇者の星が急に速度を上げて落下して来てますわ⋯⋯!?」

 

マルティナ

「まずいわね⋯⋯みんな急いでここから離れましょう!」

 

カミュ

「マジかよ、さっきまで落下はまだゆっくりだったってのに⋯⋯!」

 

シルビア

「これ以上みんなが笑えなくなるなんてアタシいやよ⋯⋯!?」

 

グレイグ

「ロウ様、もう限界です! 勇者の星の文字を調べている場合では───」

 

ロウ

「もう少しじゃ、もう少しだけ待ってくれい! うぬぅ⋯⋯ニ、ズ、ゼ、ル⋯⋯ファ??」

 

ジュイネ

「(あの黒い生き物が、勇者の星を意図的に落下させてる⋯⋯? だとしたら、止めなきゃ)」

 

 剣を引き抜いたジュイネは黒い生き物に不意打ちを食らわせようとする。

 

黒い生き物

『ジャマヲスルナ⋯⋯出来損ナイメガ』

 

ジュイネ

「?! うわぁっ」

 

 黒い生き物の触手に鋭く弾かれるジュイネ。

 

ファーリス

「ジュイネさん、大丈夫か⋯⋯!? 何もない場所に剣を振り翳したりして尻もちまでついて、どうしたっていうんだい?」

 

 仰向けに寝ていたのからすぐ起きてジュイネの元に行き、心配するファーリス。

 

ジュイネ

「だって、“あれ”を止めなきゃ大変なことが起きそうな───」

 

 その時だった、落下する勇者の星へ向け猛スピードで迫る禍々しいオーラを纏った存在が現れたのは。

 

“それ”は、瞬時に勇者の星を真っ二つにし、そこから起きた衝撃波によって真下に居た者達は吹き飛ばされそうになるが何とか堪え、凄まじい砂埃が収まってきた所で目を開け顔を上げると、迫っていた紅い勇者の星は嘘のようにその姿を消し、すっきりとまではいかないにしても空は明るさを取り戻していた。

 

ジュイネ

「な⋯⋯⋯何だったんだろ、今の」

 

ファーリス

「救世主───きっと救世主だよジュイネさん! 勇者の星の落下を、救世主が防いでくれたんだ!!」

 

ジュイネ

「(そうなの、かな⋯⋯。姿はよく分からなかったけど、一瞬見えた禍々しい剣のようなものが⋯⋯魔王の剣にされた勇者の剣だったような───だとしたら、あいつは)」

 

ファーリス

「ジュイネさん⋯⋯震えてるよ? もうここの脅威は去ったんだから大丈夫さっ! 誕生したらしい魔王だって、あの救世主様が何とかしてくれるんじゃないかなぁ!」

 

ジュイネ

「(⋯⋯⋯⋯。それだと勇者の僕は、必要ないよね。あの黒い生き物が言ってた出来損ないって⋯⋯そういうこと、かな)───ねぇファーリス、いつまで僕を抱き込んでるつもりなの? そろそろ離してくれないかな」

 

ファーリス

「え? いやーだってほら、勇者の星が救世主に斬られて爆発した時の衝撃から君を守る事で頭が一杯だったからさ⋯⋯」

 

ジュイネ

「それには感謝してるけど⋯⋯そ、そんなに顔近づける必要ないよね」

 

ファーリス

「そうかい⋯⋯? ボクとしてはもっと君とお近づきに」

 

グレイグ

「そこまでだ、ファーリス王子」

 

 グレイグがまたファーリスをジュイネから引き剥がした。

 

ファーリス

「もー、グレイグ将軍ってば空気読んで下さいよー。⋯⋯まぁとにかく城に戻って勇者の星の落下の脅威は無くなった事を伝えないとね! ジュイネさん達もここまで疲れただろう? 城の中にある沐浴場で汗を流して休んで行くといいよっ。お疲れサマディー!」

 

ジュイネ

「あ、そういえばサマディー王国にあるかもしれない伝説のハンマーについて話を⋯⋯って、ファーリス先に行っちゃった」

 

グレイグ

「改めて、サマディー城で聴いてみるしかあるまい」

 

セーニャ

「勇者様の象徴である星が、あんな形で破壊されてしまうなんて⋯⋯⋯。ジュイネ様、何かお身体に異変はありませんか?」

 

ジュイネ

「特に、何もないかな」

 

マルティナ

「勇者の星と勇者のチカラは、直結している訳ではなさそうね⋯⋯」

 

シルビア

「とはいえ後から影響が出るかもしれないから、気を付けた方がいいかもねぇ⋯⋯」

 

カミュ

「落下して来た勇者の星をぶった斬るたぁ、とんでもねぇ救世主も居たもんだな。⋯⋯ホントに救世主とは限らねぇけどよ」

 

ロウ

「それにしても勇者の星に浮かび上がっておった文字⋯⋯ニズ、ゼル、ファという言葉が気になるのう」

 

ジュイネ

「(あの黒い生き物、勇者の星が消えた途端すごく絶望してるように見える⋯⋯。理由を聞きたいけど、答えてくれなさそう。放っておいても大丈夫なのかな⋯⋯)」

 

 

 

 ジュイネ達一行はサマディー城に戻り、ファーリスが勇者の星について国王に報告し終わった後に伝説のハンマーについて聴いてみた所、ガイアのハンマーと呼ばれる国宝があるらしく快く譲り渡してくれた。

 

そして一行はファーリス王子の計らいにより、城内の広い沐浴場にて汗を流させてもらう事になった。

 

ファーリス

「ここは混浴になっているからね、気軽に水浴びするといいよ!」

 

セーニャ

「皆さん互いに全てをさらけ出すのですね⋯⋯分かりました」

 

シルビア

「ちょっと待ってセーニャちゃん、アナタがしっかりした子になったのは判るけどそこまで真面目にならなくていいのよ~。⋯⋯薄着のような物はあるわよね、王子ちゃん?」

 

ファーリス

「それはもちろん、薄布くらいは纏えるよ!」

 

ジュイネ

「(薄布って⋯⋯)」

 

グレイグ

「⋯⋯俺はこの場を辞退しよう。汗を流すくらい他の場所でも出来る」

 

ジュイネ

「ま、待ってよグレイグ。⋯⋯あなたの命は僕が預かってるし、あなたは僕の盾でしょう? だったら、出来るだけ傍を離れないでほしいな⋯⋯」

 

グレイグ

「そ、そうだったな。判った、なるだけ離れずにいよう」

 

 

 一行は順番に沐浴用の薄着に着替え、城内の開けた沐浴場で思い思いに水浴びをする。

 

ファーリス

「⋯⋯⋯あのー、グレイグ将軍? どうしてボクの目の前を遮るように立ってるんですかね」

 

グレイグ

「それは無論⋯⋯ファーリス王子の視線からジュイネを遮る為だ」

 

ファーリス

「そんな人を覗き魔みたいに言わないで下さいよー。それにここは混浴ですよっ? 少しくらいジュイネさんの沐浴姿を拝ませてもらっても───」

 

グレイグ

「駄目だ。⋯⋯大体、胸元や腰回りを隠す筈が沐浴用の薄着に透け感があるのが問題だ。これはお前の趣味かッ?」

 

ファーリス

「ヤダなー、そんなわけないじゃないですかー! ボクが物心ついた頃には、沐浴の世話をしてくれる侍女はいつもその姿ですよ? ほら、周囲の侍女を見て下さいよっ」

 

グレイグ

「だとしても、だ。⋯⋯沐浴中のジュイネを凝視させる訳にはいかぬ。ジュイネに命を預けている俺はジュイネの盾なのだからな」

 

ファーリス

「グレイグ将軍は噂通り生真面目だなー。じゃあマルティナさんの方をじっくり⋯⋯」

 

マルティナ

「あら、ファーリス王子⋯⋯私を凝視するのは高くつくわよ?」

 

 不敵な笑みを浮かべつつ、片方の拳をもう一方の片手にバシッと強く叩き込んで見せるマルティナ。

 

ファーリス

「あっははー、チラ見くらいは許して下さいよー! それならセーニャさんは───」

 

セーニャ

「あれから少しは成長したかと思ったけど⋯⋯あんた、やっぱりバカ王子ね」

 

ファーリス

「へ? セーニャさんって、そんな口調だったっけ⋯⋯??」

 

セーニャ

「あ、すみません⋯⋯。私のお姉様だったらきっとこう言うのではないかと思って、つい」

 

ファーリス

「セーニャさんにお姉さんなんていたっけ⋯⋯。妹みたいな小さい子ならいた気がするけど、そういえばその子はどうしたんだい?」

 

セーニャ

「───お姉様と私は、一つになったのです。だから、寂しくはありませんわ」

 

ファーリス

「へぇ⋯⋯よく分からないけどそうなのかー」

 

シルビア

「ファーリスちゃ~ん、アタシの事ならいくらでもじっくり見てくれていいのよ~ん?」

 

ファーリス

「わー、確かにシルビアさんの身体つきは憧れるなー! 何ていうかこう、グレイグ将軍みたいにムキムキ過ぎない感じが⋯⋯! 触っていいですかっ?」

 

シルビア

「ダ~メ、お触りは禁止よん!」

 

カミュ

「はぁ⋯⋯みんなしてバカ王子相手してたらキリがないぜ。ってか爺さん、みんなの注意がファーリスに向いてる隙に周囲の侍女をガン見するのはどうかと思うぜ」

 

ロウ

「な、なんじゃ、こんな機会そうそうないんじゃから良いではないかッ。ふぅ⋯⋯血圧が上がりっぱなしじゃわい」

 

カミュ

「ぶっ倒れたらシャレにならないぜ。⋯⋯孫のジュイネの為に長生きしろよな」

 

ロウ

「言われるまでもないぞい! わしゃまだまだ老いても元気じゃわいッ」

 

 

ジュイネ

「(はぁ⋯⋯こんな透け感のある薄着じゃ水の中から出にくいなぁ。入る時は注目されないようにすぐに水の中に 肩まで浸かったけど⋯⋯ずっと入ってたら寒くなってきちゃった)」

 

グレイグ

「ジュイネ⋯⋯汗は十分流せたか?」

 

ジュイネ

「えっ? あ、うん⋯⋯ごめんねグレイグ、ずっと僕の前を背中を向けて遮ってくれて」

 

グレイグ

「構わんよ。一度はこの場を遠慮しそうになったが、透け感のあるお前を守れて何よりだ」

 

ジュイネ

「う、うん⋯⋯? そろそろ沐浴から出ようかな、なんて」

 

グレイグ

「そうか、ではこのままお前を背に遮って行くとしよう」

 

ジュイネ

「─────」

 

グレイグ

「どうしたジュイネ、立ち上がった気配がしないのだが」

 

ジュイネ

「な、何だか身体が硬直しちゃってうまく動かせなくて」

 

グレイグ

「何だとッ?」

 

 思わず振り向いたグレイグは、背中を向け水の中に肩まで浸かったままでいるジュイネをこちらに向かせて見ると、唇が紫色になっていた。

 

グレイグ

「身体が冷え切ってしまったようだな⋯⋯今すぐ水から上がって身体を温めなければ」

 

 そう言ってグレイグはジュイネを抱き上げ横抱きし、侍女から大きめのタオルをもらいジュイネの身体を覆いつつ沐浴場から出ようとする。

 

ファーリス

「待ってくれ! ジュイネさんを温めるならこのボクの熱い抱擁で───」

 

グレイグ

「却下だ」

 

 

──────────

 

───────

 

 

セーニャ

「ホムラの里⋯⋯ここに神の民の里にある苗木の記憶にあった、先代勇者様の御一行が勇者の剣を作製した伝説の鍛冶場の手掛かりがあれば良いのですが⋯⋯」

 

カミュ

「それなりに時間は経ってるとはいえ、随分昔の事みたいに懐かしく感じるもんだ。ここで初めて⋯⋯ベロニカの奴に会ったんだっけな」

 

ジュイネ

「⋯⋯そうだね」

 

セーニャ

「私とお姉様がその時はぐれた理由⋯⋯話しそびれていましたが実は、土産物を見ていてもたもたしている私をお姉様が見かねて先に蒸し風呂へ行ってしまい、後で気づいたのですが私は男性側の蒸し風呂へ入ってしまったんです。何故か女将さんも旦那さんもその時の私に気づかなかったらしくて⋯⋯。お姉様はその後姿を消してしまい、必死で気配を探っていたら荒野の地下迷宮に辿り着いたのです」

 

カミュ

「セーニャらしいっちゃセーニャらしいが、そこで何で行き違っちまったんだろうな」

 

セーニャ

「荒野の地下迷宮は床がそこかしこ脆くて、私ったらよく落っこちてしまって⋯⋯そうしているうちに、子供のお姿で地下迷宮を脱出なさったお姉様と行き違ってしまったのかもしれませんわ」

 

カミュ

「なるほどなぁ、オレとベロニカがジュイネとセーニャを助ける為に地下迷宮に入った時、通りで床が崩れてる箇所が多かったわけだ⋯⋯。ベロニカが脱出する時は姿が小さかったから、脆い床も素通り出来たのかもな」

 

シルビア

「そんな事があったのねん⋯⋯。ダーハルーネでベロニカちゃんに、ネコの着ぐるみと被り物を買ってあげたのが懐かしいわ⋯⋯」

 

ロウ

「ベロニカはよくわしの事をおじいちゃんと呼んでくれておったが、まるでもう一人孫が出来た気分じゃったわい⋯⋯」

 

マルティナ

「大きな生き物が好きって、ベロニカが言っていたのよね⋯⋯。神の乗り物ケトスに乗れたら、とても喜んだでしょうに」

 

グレイグ

「⋯⋯ジュイネとカミュがこの地方に辿り着く前に、俺は他の兵と共に馬でお前達二人を追いかけ回した上にジュイネには怪我をさせてしまったな⋯⋯。ベロニカに関しては、ミルレアンの森で氷漬けにされ掛けた所をジュイネと共に助けてもらい、命の大樹の魂のある場所では俺とデルカダール王までも救ってくれた⋯⋯感謝してもしきれない」

 

ジュイネ

「うん⋯⋯」

 

 

里の者

「───か、火竜だ! 人食い火竜が襲って来たぞー!?」

 

ジュイネ

「(えっ、上空からものすごい速さで里の広場に大型の魔物が降り立った⋯⋯。とても殺気立ってる、人食いって呼ばれるくらいだからこのままじゃ里の人達が)」

 

 里長に会う為ジュイネ達はその社に向かおうとしていたが、突如襲って来た鋭い爪と牙と角を持つ凶暴な人食い火竜から里の人々を守る為に武器を手に戦い、激しい猛攻にかなり苦戦するが何とか弱らせ、比較的動けるグレイグが人食い火竜にトドメを刺そうとした時だった。

 

 

「待て、待ってくれ⋯⋯! “その子”を、殺さないでくれ!!」

 

グレイグ

「!?」

 

 怪我をしているらしい片足を引きずりながら、一人の女性がその場にやって来る。

 

ヤヤク

「私はこの里の長ヤヤク⋯⋯。その火竜を殺す事は、私が許さぬ」

 

グレイグ

「だがこの火竜は相当腹を空かせている様子。今脅威を取り除いておかねば───」

 

ヤヤク

「そこを、退いてくれ」

 

グレイグ

「⋯⋯!」

 

 ヤヤクの気迫に気圧されたグレイグは、火竜の前から身を引かざるを得なかった。

 

 

ヤヤク

「お腹が、空いているのね⋯⋯。もう我慢しなくていいのよ、さぁ⋯⋯私を、お食べ」

 

 人食い火竜はその言葉を待ってか待たずか、両の手を広げ迎え入れようとするヤヤクに向かって鋭い牙を剥き出しにし頭から食らった。───かに見えた。

 

ヤヤク

「⋯⋯?! そなたっ」

 

ジュイネ

「ダメだ⋯⋯どうして、あなたがこの火竜に食べられなきゃいけないんですか⋯⋯っ」

 

 咄嗟にジュイネが庇いに出て、片手剣の二刀流で人食い火竜の鋭い牙を押しとどめている。

 

ヤヤク

「⋯⋯⋯。その火竜が元は人だったなら⋯⋯かけがえのない存在だったなら、そなたはどうする」

 

ジュイネ

「ぇ⋯⋯?」

 

 人食い火竜はそこで急に頭を反らせ、大きく息を吸い込んだ。

 

グレイグ

「ジュイネ!!」

 

ジュイネ

「グレイグはヤヤクさんを守って!!」

 

グレイグ

「ッ!」

 

 激しい炎を吐くかと思われた人食い火竜だが、どす黒い瘴気を吐き出してそれを真正面から受けたジュイネは───

 

 

ジュイネ

「(う″っ⋯⋯⋯あ、れ? 誰かが、僕を力強く横の方に押しやってくれた⋯⋯? 仲間の誰が───あっ)」

 

「ぐ、ぁ⋯⋯ッ」

 

 

ジュイネ

「カミュ! 今すぐ、回復をっ」

 

カミュ

「オレの事は、いい⋯⋯それより火竜を」

 

ヤヤク

「───ハリマ!!」

 

ジュイネ

「⋯⋯⋯え?」

 

 凶暴な人食い火竜だったその姿は見る間に変わり、人間の男性の姿となって俯せに倒れ伏しそこにヤヤクが片足の怪我も構わず駆け寄り、里の者達からも驚きの声が上がる。

 

ヤヤク

「良かった⋯⋯我が息子が、漸く元の姿に」

 

ジュイネ

「一体、どうなって⋯⋯」

 

ヤヤク

「我が息子ハリマは、以前人食い火竜との闘いで死の間際にあった火竜から凄まじい瘴気を受け、次第に人食い火竜へと変貌してしまったのだ⋯⋯。私はハリマを死んだものとし隠していたが、他の食べ物ではなくやはり人の肉を欲するようになり⋯⋯此度に至った」

 

ジュイネ

「そんな⋯⋯えっ、待って下さい。凄まじい瘴気を受けたって、まさかさっきカミュが僕を庇って受けたのが」

 

カミュ

「─────」

 

ヤヤク

「私が首に下げている“やたの鏡”⋯⋯真実の姿を映し出すとされるが、いくら磨こうともその鏡は曇ったまま何の効果も発揮しなかった。我が息子の姿が元に戻ったのは、素直に喜べるものではないかもしれぬ⋯⋯。その者の代わりに、元に戻ったとなれば尚の事。ハリマの意識は⋯⋯今は戻らぬようだ」

 

ジュイネ

「カミュ、大丈夫だよね⋯⋯人食い火竜になったり、しないよね」

 

カミュ

「なるかよ、そんなもん。───と言いてぇ所だが、やべぇな⋯⋯今目の前にいるお前に、無性に齧り付きたくてしょうがねぇ。爪も、伸びてきやがった⋯⋯牙もか? オレから今すぐ離れろ、ジュイネ⋯⋯じゃないと何しでかすか分からねぇぞ⋯⋯ッ」

 

 目の色も変わり瞳孔は縦線に、頭を抱えて身悶えるカミュの背中から小さな翼も生え始めている。

 

ジュイネ

「イヤだよ! カミュは人食い火竜になったりしない⋯⋯させないっ」

 

カミュ

「そう、思ってくれるんなら⋯⋯今の内に殺してくれねぇか、ジュイネ」

 

ジュイネ

「何、言ってるの」

 

カミュ

「浴びた瘴気で完全に火竜になっちまう前に、オレを殺せって言ってるんだ⋯⋯。衝動的なチカラを抑えられる内にッ。火竜になっちまったら、死に際に別の人間に瘴気を浴びせて⋯⋯また人食い火竜が生まれちまう。その連鎖を、今ここで絶つんだ。勇者のお前なら⋯⋯やれるだろ」

 

ジュイネ

「出来ない⋯⋯出来ないよ、そんなこと。僕のせいで、また仲間を失うだなんて⋯⋯っ」

 

カミュ

「お前は無理でも、グレイグのおっさん⋯⋯あんたなら、出来るよな」

 

グレイグ

「!」

 

カミュ

「わりぃ、イヤな役やらせちまうが⋯⋯」

 

グレイグ

「───⋯⋯承知した」

 

ジュイネ

「グレイグ⋯⋯?! やめてよそんなっ」

 

 

ヤヤク

「ジュイネとやら、これを!」

 

 ヤヤクがジュイネに投げて寄越したのは、表面が曇ったままの“やたの鏡”だった。

 

ヤヤク

「そなたが先程聞いた勇者ならば⋯⋯扱えるかもしれぬ! “やたの鏡”をその者に向け、掲げてみるのだ!」

 

ジュイネ

「⋯⋯っ!」

 

 ───言われた通りにしてみるものの、“やたの鏡”は一切輝きを放たず、ジュイネは左手の甲の紋章にチカラを込めて“やたの鏡”に翳してみても何も起こらなかった。⋯⋯無力な自分に嫌気が差したジュイネは、“やたの鏡”を地面に叩き落とす。

 

ジュイネ

「何でだよ⋯⋯こんな時に、勇者のチカラを使えないだなんて───目の前で、大切な仲間が苦しんでるのに⋯⋯!!」

 

 頬を伝う涙が“やたの鏡”に落ちるが、鏡の表面は曇ったままだった。

 

カミュ

「ジュイ、ネ⋯⋯ッ」

 

ジュイネ

「肝心な、肝心な時に役立たずのこの、勇者の紋章と僕のせいでベロニカや多くの人々⋯⋯カミュまで失えっていうのかっ!!」

 

 片手剣の切っ先を左手の甲目がけジュイネは鋭く突き刺した。───流れる鮮血は、その下に落ちていた“やたの鏡”に滴り、次の瞬間には目も眩むほどの光が鏡から溢れ出し、ジュイネは自ら刺した左手の甲の痛みなど忘れ無我夢中で“やたの鏡”を拾い上げ、カミュに向けてその神聖な光を浴びせるとカミュは、一度酷く苦しげな声を上げたが“やたの鏡”からの光が収まると変貌しかけていた彼の身体は元に戻り、仰向けに倒れた所にジュイネは駆け寄る。

 

ジュイネ

「カミュ、カミュ⋯⋯! しっかりして」

 

カミュ

「あーぁ、ベロニカの元に行きそびれちまった。⋯⋯なんてな、あいつならきっとオレを追い返すだろうしな⋯⋯」

 

ジュイネ

「あはは、それはそうだよ。うっ、いたた⋯⋯っ」

 

カミュ

「お前、左手の甲⋯⋯刺しちまって、紋章は大丈夫なのか?」

 

ジュイネ

「大丈夫だと思うけど⋯⋯回復してみるね。あ、カミュの方から回復しておかないと⋯⋯《ベホマ》!」

 

カミュ

「全くお前は⋯⋯オレは後回しでいいってのに」

 

ジュイネ

「───うーん、ちょっと傷跡は紋章に残っちゃったかな。けどこれくらい平気だよ。⋯⋯肝心な時に使えないんじゃ勇者の紋章なんてあってもなくても同じだし、本当にただのアザみたいなものだよ」

 

カミュ

「ジュイネ、お前⋯⋯」

 

ジュイネ

「さぁ、ヤヤクさんに伝説の鍛冶場について聞いてみよう。そこで勇者の剣を作製して、天空魔城に張られてるバリアを何とかしなきゃね」

 

 

 ホムラの里長のヤヤクから山門の鍵と禁足地への鍵を受け取ったジュイネ達は、マグマの煮えたぎる開けた場所で行き止まりをくらうが、神の民の里の太陽の神殿で授かった聖なる種火が反応を示しその火を煮えたぎるマグマへとくべると、荘厳な伝説の鍛冶場が姿を現した。

 

そこでジュイネは勇者としてひたすらに伝説のオリハルコンをガイアのハンマーで叩き、そうしている内に不思議と剣の形を成してゆき、ジュイネが疲労した様子を見てとると仲間達が手伝う事を申し出、それぞれの想いを口にしては勇者の剣を鍛え上げていった。

 

そして遂に完成⋯⋯とはまだゆかず、剣の形を成していても黒ずんだままだったがジュイネが剣を手に取り、上空へ掲げると雷(いかずち)が起こってそのチカラが剣に宿り、輝かしいばかりの光を放ち勇者の剣は見事完成した。

 

 

 皆の想いを一つにして完成させた勇者の剣を手に、神の乗り物ケトスに乗り強力なバリアに守られた禍々しい天空魔城を前にジュイネは迷い無く剣を振りかぶって勢いよく振り下ろし、そこから発生した聖なるチカラの衝撃波によってバリアを難なく破壊。

 

天空魔城に降り立ち、表門と思われる場所まで来ると突如グレイグがジュイネへ警告を発し、次の瞬間にはグレイグに身体ごと庇われ二人は地面に倒れ込み、すぐ近くには大きく鋭い双刃の武器が突き刺さっていた。グレイグの助けがなければ、ジュイネは串刺し所では済まなかった。

 

不意打ちをしてきたのは邪竜軍王ガリンガと名乗る、魔王が率いる六軍王の一人だった。苦戦を強いられるものの、勇者の剣を完成させた連帯感もあり確実に撃破。

 

⋯⋯その時言い残した邪竜軍王の言葉がジュイネには引っかかっていた。

 

『失われし時は、もう元には戻らぬ』と。

 

そんな事は痛いほど分かっている、何故敢えてそう言われたのかは疑問だった。

 

 

 ───大分天空魔城の奥地まで来た所、元々の視界の悪さが顕著になり忽然と暗闇に閉ざされ、仲間達の姿を見失う。

 

ジュイネ

「みんな、どこにいるの⋯⋯!?」

 

 

「あたしなら⋯⋯ここにいるわ」

 

 聞き覚えのある声に顔を向けると、そこに紫色の淡い明かりが幾つか灯り、とんがり帽子が垂れ下がった小さな背中をこちらに向けている存在が居た。

 

ジュイネ

「君は、まさか」

 

「久しぶりね⋯⋯ジュイネ」

 

 

 振り向いた小さな存在は、ベロニカだった。淡い灯りの中、辛うじて見える表情は酷く、悲しげだった。

 

ベロニカ

「あたしね⋯⋯命の大樹の魂のあった場所で魔王誕生の際に肉体を失ってからずっと、この天空魔城にあたしの魂自体が囚われてるの。だから⋯⋯この姿は実体ではないのよ。生前の姿を映し出しているだけ」

 

ジュイネ

「─────」

 

ベロニカ

「信じられない、って顔してるわね。あたし⋯⋯死んでからもずっと、苦しめられてるのよ。魂だって、痛みを感じるの」

 

ジュイネ

「⋯⋯⋯⋯(アーウィン王や、エレノア王妃もそうだった。ベロニカまで───)」

 

ベロニカ

「勇者を守る使命は、確かに果たせたわ。幼い頃から、そうするように言われてきたから⋯⋯。でもね、ほんとは死にたくなんかなかったの」

 

ジュイネ

「!」

 

ベロニカ

「もっと生きたかったのよ、自由に⋯⋯。勇者を守り導く事だけが使命だなんて、呆気ないじゃない。そのくせ、勇者を生かす為にあたしが死ななきゃならなかったなんて⋯⋯不公平よ」

 

ジュイネ

「お前、は」

 

ベロニカ

「⋯⋯⋯?」

 

ジュイネ

「お前は、偽物だ。ベロニカじゃない⋯⋯」

 

ベロニカ

「それはあんたがそう思いたいだけでしょ? 自分を否定してくる者は偽物、肯定してくれる者は本物ってね。都合のいい勇者様だわ⋯⋯。あたしが偽物だっていうなら、その剣であたしを斬ってみなさいよ」

 

ジュイネ

「────っ」

 

 仲間達と完成させた勇者の剣を手にするジュイネだが、偽物と頭では分かっていてもベロニカの姿を目の前にして身体が動かない。

 

ベロニカ

「⋯⋯そんなものよね。ついでだからあたしのお願い聞いてくれる? ───今すぐ、死んでほしいのよね」

 

 そのベロニカはもう悲しげな表情などしておらず、真顔で首を傾げジュイネに呟くように語りかける。

 

 

「自らの死をもって償いなさいよ⋯⋯あんたのせいで魔王は誕生し、あたしを含め多くの人々が死に⋯⋯世界は壊れちゃったんだからさ?」

 

 

─────────

 

───────

 

セーニャ

「(ここは、どこなのでしょう⋯⋯急に真っ暗になって何も見えない上に、仲間の皆さんともはぐれてしまったようですわ)」

 

 そこへ啜り泣くような声がセーニャの耳に聞こえてくる。

 

セーニャ

「(誰かが、泣いて───あっ)」

 

 不意に暗闇の中で紫色の淡い明かりが灯った先には、地面にへたり込んで泣いている小さく愛おしい姿が目に入った。

 

セーニャ

「お姉、様⋯⋯?!」

 

ベロニカ

「え⋯⋯セーニャ、そこにいるのセーニャ⋯⋯?」

 

セーニャ

「はい、私はここにいます。お姉様⋯⋯!」

 

 ベロニカの姿に駆け寄り、身を低めて心配そうに顔を覗き込むセーニャ。

 

ベロニカ

「あぁ、やっと逢えたわセーニャ。あたし、ずっと寂しかったのよ。あれからずっと⋯⋯魂がこんな所に閉じ込められて」

 

セーニャ

「お姉様⋯⋯」

 

ベロニカ

「ねぇセーニャ⋯⋯勇者を守り導く使命なんて忘れて、あたしの傍にずっといなさい。勇者の傍に居たって、あたしみたいに殺されるだけ⋯⋯何も残らないわ」

 

セーニャ

「ふふ⋯⋯イヤですわお姉様、私とお姉様は常に傍に居るではありませんか」

 

ベロニカ

「⋯⋯⋯?」

 

セーニャ

「私とベロニカお姉様の魂は、既に一つとなっています。ですから⋯⋯今目の前にいる“あなた”は、私のお姉様ではありませんね」

 

ベロニカ

「─────」

 

セーニャ

「でも、ありがとう⋯⋯」

 

ベロニカ

「!?」

 

 セーニャはベロニカの小さい身体を抱きとめる。

 

セーニャ

「嘘でも構わないのです。こうして⋯⋯お姉様のお姿を目にする事が出来て、私は嬉しいですわ」

 

 

─────────

 

───────

 

 

「あらカミュ、久しぶりね」

 

カミュ

「お、お前⋯⋯ベロニカ、なのか?」

 

ベロニカ

「何よ、大人姿じゃあたしか分かりづらいかしら」

 

 カミュは目の前に突然現れた、子供の姿ではない胴と手足の長い大人の姿のベロニカに驚きを隠せない。

 

カミュ

「分かりづらいっつーか、面影はあるけどよ⋯⋯。つかお前、偽物だろ。死んじまったベロニカが、そう簡単に出て来るわけねーしな」

 

ベロニカ

「相変わらず、失礼しちゃうわね。⋯⋯あたしの魂は、この天空魔城に囚われてるの。この城に居る限りは、大人姿になるのも容易だし短い間なら実体化も出来るのよ?」

 

カミュ

「囚われてる割に、随分自由なもんだな」

 

ベロニカ

「難しく考える事ないわ。だから⋯⋯ねぇカミュ、大人姿のあたしと楽しい事しない?」

 

 妖しげな表情で胸元を緩める仕草をする大人姿のベロニカ。

 

カミュ

「⋯⋯興味ねぇな。それより仲間と合流してぇんだが、オレ達を天空魔城の奥地ではぐれさせたのは“お前”かッ?」

 

ベロニカ

「知らないわよそんなの。───あたしには興味ないけど、ジュイネには興味あるのよね、あんた」

 

カミュ

「⋯⋯⋯⋯」

 

ベロニカ

「自分が記憶を失ってるのをいい事に、男装してる彼を黄金城で暴いて蹂躙するの、楽しかったでしょ」

 

カミュ

「!? 何で、それを」

 

ベロニカ

「アハハ、何でかしらねぇ、天空魔城からだと色々見えるみたいなのよ」

 

カミュ

「─────。もういい、ベロニカの姿してようがテメェは偽物だ。さっさと倒して、仲間と合流させてもらうぜ」

 

 

─────────

 

───────

 

セーニャ

「⋯⋯⋯はっ、私は」

 

シルビア

「あらセーニャちゃん! 良かったわ、目が覚めたのね」

 

ロウ

「ふむ、これで目が覚めておらんのはジュイネとカミュとグレイグじゃな」

 

マルティナ

「はぁ⋯⋯敵も厄介な幻影を見せてくるものだわね。それだけ余裕がない証拠かしら」

 

カミュ

「う⋯⋯ッ」

 

シルビア

「カミュちゃんも目を覚ましたみたいよん!」

 

カミュ

「んぉ⋯⋯ここはどの辺りだ??」

 

ロウ

「屋内の随分広い通路のようじゃが、わしらが見せられた敵の策略であろう“悪しき幻影”の精神的な場所に比べると周囲は紅い炎が灯っていて明るい方じゃな」

 

カミュ

「悪しき幻影って、アレがか⋯⋯」

 

シルビア

「それぞれ見せられたものは違うみたいだけど⋯⋯アタシの場合はパパだったわね。散々罵倒されちゃったんだけど、本物のパパはアタシをちゃんと認めてくれてるのが判ってたから全然平気だったわ♪」

 

マルティナ

「私は⋯⋯何故か“デビルモードの私”が相手だったわね。醜悪な妖魔軍王を思い出しちゃって、何か余計な事を言われる前に怒涛の勢いで蹴り潰してやったわ」

 

カミュ

「さ、流石だな⋯⋯」

 

ロウ

「わしも割とすぐ目覚める事は出来たが、アレはいかん⋯⋯心臓に悪い。何だったかは聞かんでくれい⋯⋯」

 

カミュ

「(オレも言える内容じゃねぇからな⋯⋯)」

 

セーニャ

「私は、偽物だとすぐに分かるお姉様でしたが⋯⋯感謝しておきましたわ」

 

カミュ

「感謝って⋯⋯まぁそりゃともかく、まだ目覚めてねぇのはジュイネとグレイグのおっさんか。二人して苦悶の表情浮かべてるが⋯⋯オレ達で何とか目覚めさせてやれねぇかな」

 

セーニャ

「⋯⋯私が、竪琴を奏でてみます。その音色が、お二人に届けば良いのですが」

 

 

─────────

 

───────

 

 グレイグは、翼を持った魔物の姿と化しているホメロスと対峙していた。

 

 

『何故だろうなぁグレイグ⋯⋯お前が護れなかったモノ、護りたかったモノはことごとく傷付けられ、破壊され、再起不能となる⋯⋯お前の生まれ故郷も、育った故郷すらそうだ』

 

 

「違う⋯⋯孤児だった俺を拾い育ててくれたデルカダール王国はいずれ必ず復興させてみせる。俺に希望をもたらしてくれる太陽が居る限り⋯⋯」

 

 

『太陽⋯⋯? あの出来損ないの無能な勇者が、か? 魔王様を誕生させてくれた悪魔の子を“希望の太陽”呼ばわりとは⋯⋯お前もとんだ毒気にあてられたものだな』

 

 

「ホメロス、なぁホメロス⋯⋯⋯お前は俺にとって、光だったのだ。その意味が、判るか」

 

 

『オレがお前にとって“光”だと⋯⋯? 太陽とどう違うというのだ、オレと悪魔の子は同等だとでも言うつもりかグレイグ』

 

 

「俺を導いてくれた“輝き”なのは違いない⋯⋯。故郷を失い、孤独だった俺に友として寄り添い光をもたらしてくれたホメロス。⋯⋯第二の故郷すら滅ぼされ魔物の巣窟と化し、自責の念から己を傷付けるようにしか闘えなくなった俺に希望を灯してくれたジュイネの存在───どちらも俺にとって、かけがえのない“輝き”なのだ」

 

 

『⋯⋯⋯下らんな、もう何もかも遅い。何一つ取り返しはつかない。最早オレは闇の存在⋯⋯お前の求める光は、既に消え失せている』

 

 

「俺はな、ホメロス。お前がもたらしてくれる光を目指したからこそ強くなれたのだ。お前が居なければ⋯⋯今の俺は存在しない」

 

 

『ならば今のオレも、お前が居なければ存在しなかったという訳だ。⋯⋯お前が強くなればなるほど、賞賛を浴びれば浴びるほどオレは、お前のように───』

 

 

 そこへ、清らかな竪琴の音色が微かに流れてくる。

 

 

『お喋りはここまでのようだ⋯⋯グレイグ。現実に戻り、そろそろ決着をつけるとしよう』

 

 

「⋯⋯⋯!」

 

 

─────────

 

───────

 

 

「ごめんベロニカ、僕はまだ⋯⋯死ねないんだ」

 

 

「はぁ? 何言ってるのよ」

 

 

「魔王を倒したって、僕の償いは終わらない。むしろそこから、本当の償いが始まると思ってる」

 

 

「⋯⋯⋯⋯」

 

 

「死んでもきっと償いきれない⋯⋯。ならせめて、“本当の死”が訪れるまでは───世界に償い続けるから」

 

 

『⋯⋯償いなど、自己満足に過ぎぬ。もしくは気休めか。そのような事の為に、犠牲になった多くの者達は余りに不憫だな』

 

 

 ベロニカの姿のまま声だけ男性のものに変わり、それと同じくして竪琴の音色が聞こえ始める。

 

 

『さて、この姿も飽いたな⋯⋯。分散していたチカラを集約し、本来のチカラを持ってお前達を葬ろう。魔王ウルノーガ様の元へ向かわせる事なく、な⋯⋯!』

 

 

 悪しき幻影から全員が目覚め、魔の者と化したホメロスも姿を現し、激しい闘いの末ホメロスを討った。

 

最期にグレイグにしか分からない言葉を残し、ホメロスは消滅して後に残ったのはシルバーオーブと、誓いのペンダントだった。

 

そして魔王の元へ向かう直前の場所で何故か倒したはずの六軍王が集結しジュイネ以外の仲間達を拘束。

 

しかし仲間達は強い心を持って拘束を解き、六軍王も今度こそ消滅。

 

残すは、魔王のみだった。

 

 

 

 

 

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