地下牢にて。
グレイグ
「(───我が王は、それなりの拷問に処してから牢にぶち込めと命じられたが)」
ジュイネ
「⋯⋯⋯⋯」
グレイグ
「(このようなまだ、青年と呼ぶにはいたいけな少年を拷問に掛けるのは忍びない⋯⋯。本当に災いを呼ぶ悪魔の子、なのだろうか)」
後ろ手に縛られ、両膝をつかされ俯いている青年を哀れみの目で見やる。
デルカダール兵
「将軍、どこからやりましょうか? やはり服は脱がせた方が」
グレイグ
「それはやめてやれ。⋯⋯着たままでもやりようはある」
デルカダール兵
「そうでしょうかね?? と言いますか、こいつは“どっち”なのでしょうか。勇者と名乗る者のイメージは大体男ですが、こいつは男にしては明らかに線が細すぎやしませんか? 髪はサラサラで顔も⋯⋯、どう見ても女子寄りですし」
ジュイネ
「⋯⋯⋯っ」
兵士に顎を掴まれて顔を無理矢理上げられる。
デルカダール兵
「男か女か確かめるにはやはり、脱がせた方が早いのでは⋯⋯」
グレイグ
「やめろと言っている。⋯⋯男か女かはどうでもいい」
デルカダール兵
「そうは言いましても、男か女かでやりようは変わってきますからねぇ」
グレイグ
「どういう事だ?」
デルカダール兵
「それは将軍、攻める箇所も違ってくるでしょう。⋯⋯お言葉ですが将軍であらせられるのに、拷問に関してはそれほど知識はないように見受けますね?」
グレイグ
「それは⋯⋯」
デルカダール兵
「あぁ、拷問に関してはホメロス様の方が専売特許でしたか! しかし今ホメロス様は悪魔の子の育った村を焼き払いに向かってますからねぇ、村人もただでは済みませんね」
ジュイネ
「⋯⋯!? どうして、村を焼き払う必要が⋯⋯村のみんなを、どうするつもりなんだ⋯⋯! ゔっ」
兵士に一度強く身体を蹴られる。
デルカダール兵
「黙れよ小僧、いや小娘か? ともかく悪魔の子の育った村など焼き払って浄化するのが当然だろう! ⋯⋯ホメロス様の手に掛かれば、村人全員も皆殺しだろうなぁ?」
ジュイネ
「やめろ⋯⋯!! それは、やめて⋯⋯下さい、お願いだから⋯⋯っ」
デルカダール兵
「ハッハッ! 悪魔の子にお願いされてもなぁ? そもそも村を探しに向かわれたのがホメロス様で良かったと思え。あの方がお前を拷問するとなったら、それはそれは目も当てられないほど酷い目に遭うだろうよッ!」
二度、三度兵士から蹴りを入れられる。
ジュイネ
「うぅ⋯⋯っ」
グレイグ
「⋯⋯⋯⋯」
デルカダール兵
「大体なぁ、お前が何も知らずにデルカダール城にノコノコやって来て勇者だと名乗り出さえしなければこうはならなかったんだぞ? 呪うなら自分の無能さを呪え!!」
どんどん蹴りの力を強める兵士。
ジュイネ
「僕、は⋯⋯ただ、成人の儀の後に⋯⋯勇者の生まれ変わりなんだって、告げられて⋯⋯デルカダール城に向かうように、言われただけ、なのに⋯⋯」
グレイグ
「(余りにも、不憫な───)」
デルカダール兵
「ふぅ⋯⋯これじゃあ物足りませんねぇ。将軍、許可を下さいよ。やはり脱がせないとどっちか分かりませんしねぇ⋯⋯。男ならこのまま暴行でもいいのでしょうが女ならほら⋯⋯色々楽しめますし。いやでもこのかわいげのある顔なら男でも───」
グレイグ
「⋯⋯ッ!!」
ガッツンと一人のデルカダール兵を兜ごと殴り倒すグレイグ将軍。
デルカダール兵
「い"っだア゙?! 何してくれるんですか将軍!! 殴るんなら悪魔の子にして下さいよッ」
グレイグ
「⋯⋯⋯⋯」
ジュイネ
「そんなに、僕をどうにかしたいなら⋯⋯、僕の育った村に、村の人達に⋯⋯手を出さないで、下さい⋯⋯。悪いのは、全て僕なんだ⋯⋯勇者なんかじゃない、悪魔の子である僕が、悪いんだから⋯⋯」
デルカダール兵
「ほらー、こいつ自身も悪魔の子と認めたわけですし、好きにしてやりましょうよ? まぁ村人の保証はホメロス様の手前出来ませんけどねぇ」
グレイグ
「いや⋯⋯俺が止めてくる」
デルカダール兵
「⋯⋯⋯⋯はぁ?! 何を言ってるんですか、そんな事を我らが王がお許しになるはずがッ」
グレイグ
「村を焼き払うのは⋯⋯致し方ないにしても、村人の命まで奪う必要は無いはずだ。俺は今から愛馬のリタリフォンでホメロスを追う」
ジュイネ
「⋯⋯!」
デルカダール兵
「⋯⋯ならばその間、悪魔の子は我らデルカダール兵の好きにしても良いのですね?」
グレイグ
「いや、それも許さん」
デルカダール兵
「何ですかそれ?!」
グレイグ
「⋯⋯この牢の鍵を寄越せ」
デルカダール兵
「は?」
グレイグ
「鍵を寄越せ、と言っている」
デルカダール兵
「は、はい⋯⋯どうぞ」
グレイグ
「お前達、この牢から今すぐ出ろ」
デルカダール兵
「えぇ⋯⋯? 拷問は寧ろこれからなのにッ?」
グレイグ
「この者にはもう十分だ。⋯⋯精神的にも、肉体的にもな」
後ろ手の手枷を外してくれるグレイグ将軍。
ジュイネ
「⋯⋯⋯⋯」
牢の中に倒れ伏すジュイネだけを残し、グレイグは牢に鍵を掛けその鍵だけ兵士に返さずにおく。
グレイグ
「この鍵は俺が預かる。三日もすれば⋯⋯この者の村の行く末は判るだろうが、飯は忘れず与えてやれ」
ジュイネ
「村の⋯⋯、村のみんなを、どうか⋯⋯お願いします」
ジュイネはグレイグ将軍に懇願するように、牢の鉄格子を握って今にも消え入りそうな震える声を絞り出した。
グレイグ
「完全に保証は出来ないが⋯⋯善処しよう」
デルカダール兵
「───何なんだあの人、意味わからん」
デルカダール兵
「情でも移ったんじゃないか? 将軍は孤児だったらしいからなぁ」
デルカダール兵
「⋯⋯良かったな坊主、グレイグ将軍が相手じゃなきゃ今頃悲鳴上げっぱなしだったぞ?」
ジュイネ
「──────」
デルカダール兵
「何だ、もう意識失って突っ伏してら。貧弱な野郎だなぁ、つまらん」
デルカダール兵
「野郎とは限らないだろう、何でか知らんが男装してるとか」
デルカダール兵
「何にしても気の毒な奴だ、育った村からは成人と同時に勇者と持ち上げられ、デルカダール城に来た途端悪魔の子呼ばわりだからな」
???
「⋯⋯⋯⋯」
───────────
───────
デルカダール兵
「───将軍っていっても間が抜けてるよな、予備の鍵までは気づかなかったのかよ」
一人のデルカダール兵が、あれから時間を置いてジュイネの牢屋の前に立つ。
デルカダール兵
「なーにがもう十分だよ、アンタがよくてもこちとら物足りな過ぎるんだっつーの。もっと楽しませろよ⋯⋯退屈な一兵卒のお仕事なんだからよぉ」
ガチャガチャとジュイネの閉じ込められている牢の鍵を強引に開け放つ。
ジュイネ
「⋯⋯⋯⋯?」
朧気に目を覚まし、うつ伏せから顔を上げるジュイネ。
デルカダール兵
「よう、お目覚めかい坊主? ⋯⋯いや個人的には小娘だといいんだがなぁ」
ジュイネ
「⋯⋯っ!」
一人のデルカダール兵に無理矢理仰向けにさせられ、馬乗りされる。
デルカダール兵
「さぁて⋯⋯邪魔者は誰も居ない。分かるな? 拷問の続きをしようぜ⋯⋯いや、痛い拷問より気持ちいいかもな? 俺なら出来るだけ優しくしてやれるぜ⋯⋯?」
兵士は強制的に上半身を脱がしに掛かり、必死にジュイネは抵抗しようとするも上手く力が入らない。
デルカダール兵
「そう暴れるなって⋯⋯やりにくいだろ? それとも、痛いのがお好みかッ?」
兵士は片手でジュイネの首筋を強く掴んで動きを鈍らせ、もう一方の手ではだけさせた上半身を弄ろうとする。
???
「オイオイ兵士さんよ⋯⋯お楽しみの所悪いが、静かにしちゃくれないかね。耳障りで眠れやしねぇ」
デルカダール兵
「アァん? ⋯⋯何だ、まだ生きてたのか盗賊野郎。静か過ぎるからてっきり死んだかと思ってたぞ」
???
「生憎、死に損ないなもんでね⋯⋯。そんなに新顔と遊びたいのかよ、オレとじゃ不満か?」
デルカダール兵
「野郎には興味ねーんだよ」
???
「ほーん、ソイツも野郎みたいだが?」
デルカダール兵
「分かってねーなぁ、女みたいな野郎は寧ろやり甲斐あるんだよ。⋯⋯それに、ホントに女かもしれないだろ?」
???
「将軍がアンタの所業知ったら、マジで首飛ぶぜ」
デルカダール兵
「そんなちゃちな脅しが効くかよ、黙ってろ」
???
「あの生真面目そうな将軍が罪人のオレの言葉を聞くわけないだろうが⋯⋯ソイツをやれば嫌でも身体に跡が残るし、ソイツの疲弊しきった姿見れば自ずと察するぜ」
デルカダール兵
「⋯⋯さっきからうるせぇ奴だな、やる気失せるだろがッ! あぁそうか、お前を先に殺ればいいだけの話か」
つと馬乗りしたジュイネの身体から立ち上がると兵士は、もう一人閉じ込められている向かい側の罪人の牢の前に立つ。
???
「話が分かるじゃないか。⋯⋯さぁ殺れよ、逃げも隠れも出来ないからな」
デルカダール兵
「フン、潔いこった。そのまま黙って立ってろよ⋯⋯鉄格子の隙間から剣でド突いてやるからな」
⋯⋯しかし、罪人は剣先を軽やかに避ける。
デルカダール兵
「おいテメェ、逃げねーと言ったばかりだろうがッ!」
???
「避けないとは言ってないぜ兵士さんよ」
デルカダール兵
「んなろッ⋯⋯!!」
何度も鉄格子の隙間から剣先で突こうとするが、ことごとく罪人に軽々と避けられる。
???
「⋯⋯どうした? その程度かいデルカダールの兵士ってのは。聞いて呆れるな」
デルカダール兵
「確か、ここの鍵も予備の持ってたな⋯⋯よし、いいだろう。牢屋越しじゃなく直接滅多刺しにしてやる⋯⋯!!」
苛立たしげに鍵を開け、扉を開け放った直後剣を振りかぶる兵士だがそれも素早く罪人に避けられ、足蹴を受け手元から剣を落としそれを奪われるといつの間にか背後に回られ一撃で仕留められる。
デルカダール兵
「ぐ⋯⋯ぁ⋯⋯」
???
「悪いな、テメェみてぇなクソ野郎は生かしといても同じ事を繰り返す⋯⋯ここで、断ち切っとくぜ」
ジュイネ
「⋯⋯⋯⋯」
乱された身なりを整えつつ、目深のフードの男を恐れの混じった眼差しで見つめるジュイネ。
???
「そんなに怖がる事はないぜ、悪魔の子⋯⋯いや、勇者様よ」
ジュイネ
「⋯⋯!」
???
「お前がここに連れて来られた時に全部聞いてたんだ。立てるか? ⋯⋯今すぐこの地下牢から脱出するぜ」
ジュイネ
「どう、やって⋯⋯?」
???
「脱出用の穴、バレないよう地道に掘ってたんだ。そこは城の地下水路に繋がってる。⋯⋯ま、脱出が成功するかは神のみぞ知るってとこか」
ジュイネ
「待って⋯⋯僕は、グレイグ将軍、と約束してるんだ⋯⋯。村のみんなの無事が、分かるまでは───」
???
「そんなん待ってられないだろ、お前が死んだら意味無いんだぜ。実際さっきの兵士にやられ掛けたろ、あぁいう手合いは散々蹂躙した挙句、殺す事に悦びを覚える異常者だ。⋯⋯前に似たような状況をここで見てるから分かるんだよ」
ジュイネ
「⋯⋯けど、僕が逃げたと分かったら、村のみんなは」
???
「四の五の言ってられねぇ、ちょっと待ってろ⋯⋯」
姿が見えなくなったと思えば、遠巻きにガチャリと倒れる音が複数聞こえ、フードの男が戻って来た時にはその手には、ジュイネが城に来るまで装備していた武器や鞄だった。
???
「⋯⋯ほら、これお前の装備品だろ」
ジュイネ
「そう、だけど⋯⋯」
???
「しっかり装備しとけ、これから生き残れるか残れないかの逃走劇が始まるんだからな」
ジュイネ
「でも、村のみんなが」
???
「まだそれを言うかよ。⋯⋯保証されない希望に縋るな。今はここから逃げる事だけ考えろ」
ジュイネ
「⋯⋯⋯っ」
???
「お前が本当に勇者なら⋯⋯育ててくれた村人の為にも生きなきゃならない。そしてオレはそれを手助けする。───そうすれば、贖罪も果たせるかもしれない」
ジュイネ
「贖罪⋯⋯?」
???
「こっちの話だ。⋯⋯さぁ、ここから脱出するぜ。オレから先に地下水路に降りる、大丈夫なようなら手招きで合図するからお前もすぐ降りて来い、いいな」
ジュイネ
「⋯⋯分かった」
二人で城の地下水路に降り立ち、少し進むと追っ手が迫って来る。
デルカダール兵
「見つけたぞ! 脱走した二人だ!!」
???
「ちッ、もう気付かれたか⋯⋯! 走るぞ!」
ジュイネ
「(どうして、こんな⋯⋯)」
???
「おい、チンタラ走るな! ⋯⋯こっちだッ」
片手をグイッと引かれ、何とか追っ手から逃れるも今度は地下水路を巡回する兵士達に足止めを食らう。
ジュイネ
「どう、するの⋯⋯?」
???
「死角を使って見つからないように進めばいいだけだ。迷ってられない、行くぞ」
ジュイネ
「(この人は、一体⋯⋯)───わっ!?」
短い橋の上の水溜まりに足を滑らせ、前のめりに転んでしまうジュイネ。
???
「何やってんだ⋯⋯?!」
デルカダール兵
「居たぞ! もう逃がさん⋯⋯!!」
多くのデルカダール兵に橋の左右の道を遮られる二人。
???
「クソ、逃げ出したばっかで捕まるなんざ冗談じゃね⋯⋯んッ?」
ジュイネ
「(足元の石造りの橋が、崩れ出してる⋯⋯? 橋の上に鎧を着た多くの兵士がにじり寄って来たから⋯⋯!?)」
???
「おいおいマジか⋯⋯のわッ?!」
ジュイネ
「うわあぁっ⋯⋯!?」
兵士達に捕まる直前石造りの橋が大きく崩れ出し、ジュイネと謎の青年、多くの兵士が水路へ直接落下する。
────────
─────
???
「(ハァ、ハァ⋯⋯運良く兵士達の居ない場所に流れ着いたか⋯⋯。外へ通じる洞窟だと、いいんだが)」
ジュイネ
「⋯⋯⋯⋯」
???
「(こいつの襟首を掴んで離さなくて良かったぜ⋯⋯離れ離れになったら元も子もねぇからな。とにかく、起こさねぇと)」
???
「おい⋯⋯おいお前、起きろ⋯⋯!」
意識を失っているジュイネを仰向けにし、頬をペチペチと叩いて起こそうとする謎の青年。
ジュイネ
「ぅ、ん⋯⋯」
???
「(しっかし随分整った顔してるな、女に見えるのも無理ない⋯⋯ってんなこたどうでもいい。襟首掴んだまま顔は上向きにしといたから、水はそんな飲んでないはずだが⋯⋯このまま起きないんじゃ、背負ってくしかねぇか)」
ジュイネ
「うっ、けほ、けほ⋯⋯! ⋯⋯⋯⋯??」
薄らと目を開けるジュイネ。
???
「お、目覚ましてくれたか。⋯⋯動けそうか?」
ジュイネ
「うん、なんとか⋯⋯」
おもむろに身体を動かし立ち上がる。
???
「よし、ならこの先へ進もう。外へ出られるかもしれない」
二人は暗がりで広い洞窟らしき場所を歩き出す。
ジュイネ
「(ここはどの辺りなんだろう、本当に外に出られるのかな⋯⋯)」
???
「そういや、お前の名前まだ聞いてなかったな」
ジュイネ
「え? あぁ⋯⋯そっか。ジュイネ、って言うんだ」
???
「そうか、ジュイネか。オレは───ちょっと待て」
ジュイネ
「え、何⋯⋯?」
???
「シッ、何か居る⋯⋯」
前方からグルルルと不気味な喉を鳴らした黒光りする鱗を持つ巨体のドラゴンが姿を現し、長く鋭い尻尾を地面に叩きつけ洞窟内の岩を数多く落としてくる。
???
「うおッ?! 何だってこんな奴が城の地下に居るんだよ⋯⋯!」
ジュイネ
「(岩は何とか避けられたけど、土煙が酷くてあの人がどこにいるか分からな⋯⋯あっ)」
眼前に突如黒竜の鋭い牙の並んだ大口が現れ、喰われる寸前謎の青年が素早い横飛びでジュイネを身体ごと守り二人は一度倒れ伏すがすぐ起き上がる。
???
「こんな奴を相手にしてたら命が幾つあっても足りゃしねぇ、全力で逃げるぞジュイネ!!」
ジュイネ
「う、うん⋯⋯!」
一度は狭い道に逃げてやり過ごしたつもりが、黒竜の激しい炎を吐く動作に気付いた謎の青年がジュイネにとにかく走るよう促し炎が届く寸前に洞窟から外へ命からがら逃げ延びるものの、そこは断崖絶壁の場所だった。
ジュイネ
「(そんな⋯⋯もう、逃げ場が無い)」
???
「⋯⋯なるほどな、こういう事かよッ」
その内に多くの兵士達がやって来て、断崖絶壁に追い詰められる二人。
???
「いいかジュイネ、ここで捕まったらどの道長くは生きられねぇ。⋯⋯分かるな?」
ジュイネ
「⋯⋯⋯⋯」
緊張の面持ちでジュイネはこくっと頷き、そこで謎の青年は漸く目深のフードを外し顔を露わにする。
カミュ
「オレは信じるぜ、勇者の奇跡ってやつを。⋯⋯名前、カミュって言うんだ。覚えておいてくれよ!」
ジュイネ
「(カミュ⋯⋯不思議な人だ。この人となら、この場を切り抜けられる気がする⋯⋯だから、断崖から飛び降りるのも怖くない⋯⋯!)」
ジュイネとカミュは躊躇なく断崖絶壁から飛び降り、デルカダール兵の追っ手を振り切るのだった。
デルカダール城を辛くも脱出したジュイネとカミュは、導きの教会で暫く休ませてもらった後、一度デルカダール王国の下層でカミュの所用を済ませてからジュイネの故郷イシの村を訪れていた。
カミュ
「───おいジュイネ、ショックなのは分かるが立ち止まってらんねぇぞ。デルカダール兵の奴らがお前を捜して戻って来る可能性もあるからな」
ジュイネ
「⋯⋯⋯え? あ───」
ジュイネ
「さっきまで、村は無事だったはずなのにどうして⋯⋯⋯違う、あれは過去のイシの村で、テオおじいちゃんが生きていた頃の───」
カミュ
「過去⋯⋯? どういう事だ?」
ジュイネ
「村に着いた途端、カミュの姿が見えなくなって⋯⋯村の入り口やあちこちに光の壁みたいなのに遮られてて、村の人とは話せるんだけど、僕が誰だか分からないみたいで⋯⋯小さい時の自分も居たし、生きていた頃のおじいちゃんとも会った⋯⋯」
カミュ
「ただの夢にしては出来すぎだな⋯⋯いや、夢じゃないんだろ。お前が焼き払われた村を前にぼーっと立ってる間、オレの呼び掛けも聞こえてなかったみたいだが、アザだけは微かに光ってたからな」
ジュイネ
「結局⋯⋯僕の生まれ育った村は、焼き払われてしまったんだ⋯⋯。グレイグ、将軍は⋯⋯ホメロスを止められなかったのかな⋯⋯」
カミュ
「あの時の会話、聞いてたんだが⋯⋯グレイグは言ってたろ、完全に保証は出来ないが善処はするって。間に合わなかったのかもしれねぇがな⋯⋯それにしたってとんでもねぇ事しやがるッ」
ジュイネ
「村の、みんなも殺されて⋯⋯?」
カミュ
「いや⋯⋯お前が突っ立ってる間に一通り村を見てみたんだが、血の一滴も見なかったし人っ子一人見当たらなかったな。殺されてはいないのかもしれねぇ、ただ⋯⋯“ここ”では殺されてないだけかもしれないけどよ」
ジュイネ
「城に連れてかれて、処刑⋯⋯?! ───っ」
カミュ
「おい、まさかデルカダール城に戻るつもりじゃねぇだろうな」
片腕をすぐ掴み止めるカミュ。
ジュイネ
「母さんが⋯⋯幼なじみが、村のみんなが殺されるなんて嫌だっ!!」
カミュ
「今戻ったって悪魔の子としてまた捕まって、仕舞いにはお前も処刑されるだろうよ」
ジュイネ
「村のみんなは関係ないって言ってるじゃないか、処刑されるなら僕独りでいいっ!」
カミュ
「はぁ⋯⋯お前、過去の村でじいちゃんに会ったんだろ。何て言われた?」
ジュイネ
「つらい、思いをさせたって⋯⋯。僕をデルカダール城へ向かわせるべきじゃなかったって⋯⋯謝られた。代わりに僕に渡したい物があるから、イシの大滝の三角岩のある場所を掘れって⋯⋯」
カミュ
「じゃあそこへ行くべきだな、デルカダール城に戻って捕まりに行く場合じゃねぇぞ」
ジュイネ
「けど⋯⋯!」
カミュ
「お前が戻ったってみんな処刑されるんなら同じ事だ。⋯⋯悪魔の子とわざわざ汚名を着せた奴らが、お前の言う事を聞いてくれるわけが無い」
ジュイネ
「⋯⋯⋯っ」
カミュ
「腹を括れよ、お前は村の人々の分まで生きなきゃならない。勇者として村を旅立ったんなら尚更だ」
ジュイネ
「急に、勇者の生まれ変わりだなんて言われて⋯⋯おかしいとは思ってたんだ。勇者が育った村ってだけで焼き払われて、村のみんなも───僕は、デルカダール王が言っていたように本当に災いを呼ぶ悪魔の子なんじゃ⋯⋯」
カミュ
「オレはそうは思わない、おかしいのはきっとデルカダール城の奴らだ。勇者に汚名を着せてまで何がしたいのやら⋯⋯とにかくイシの大滝ってとこの三角岩の場所に行ってみようぜ。何か分かるかもしれねぇ」
ジュイネ
「⋯⋯⋯⋯」
カミュ
「つらいのは分からなくもないが、立ち止まってたって死んだじいさんも報われないぞ」
イシの大滝に向かい三角岩の場所を掘り返すと箱が出てきて、その中には実の母からの死の間際の走り書きの手紙と、育てのじいじであるテオからの手紙が添えられてあり、魔法の石と呼ばれる物も納めてあった。
カミュ
「お前⋯⋯滅んだユグノア王国の王子だったんだな。通りで妙に気品のある顔してると思ったが⋯⋯それよりじいさんからの手紙でその魔法の石がこれからの道を示してくれそうだな。早速デルカコスタ地方の東の祠に行ってみようぜ」
ジュイネ
「(誇りあるユグノアの王子で、勇者の紋章を持って生まれた勇者の生まれ変わり⋯⋯本当に、僕なんかが)」
カミュ
「⋯⋯悪い、その前にデルカダール神殿に寄らせてくれ。レッドオーブを奪い返さなきゃならないからな」
デルカダール神殿にてレッドオーブを入手後、デルカコスタ地方東の祠へ向かう途中───
デルカダール兵
「⋯⋯見つけたぞ、悪魔の子だ!!」
カミュ
「なッ、向こうの崖上に多数のデルカダール兵共が!」
グレイグ
「⋯⋯⋯⋯」
ジュイネ
「(グレイグ、将軍もいる⋯⋯!)」
カミュ
「(馬に乗ってやがる⋯⋯まさかあの崖上から降りて来るつもりか? 祠まで走るにしても圧倒的に不利だな⋯⋯何か、何かないのかッ)」
周囲を素早く見渡すカミュ。
ジュイネ
「グレイグ将軍!」
グレイグ
「⋯⋯⋯!」
よく通る声で呼びかけられ、グレイグ将軍は驚きを隠せない。
カミュ
「おい、何呼び掛けてんだ⋯⋯! 逃げるのが先決だろッ」
ジュイネ
「イシの⋯⋯イシの村の人々をどうしたんですか!」
グレイグ
「──────」
デルカダール兵
「将軍、何も言わないのですか? まぁ悪魔の子と口も聞きたくないですよね⋯⋯代わりに私が奴に言ってやりましょうか」
デルカダール兵
「よく聞け、悪魔の子! 村の者達は城の地下に幽閉している! 処刑も時間の問題だ! だが貴様が投降すれば、処刑を免れるやもしれんぞッ?」
ジュイネ
「⋯⋯⋯っ!」
カミュ
「聞く耳を持つなジュイネ、あぁ言ってお前も捕えみんな処刑されちまうのがオチだッ」
ジュイネ
「僕は⋯⋯僕はグレイグ将軍に聴いているんだ。───命までは奪う必要は無いと、あなたは言ってくれたはずだ! 村のみんなにはどうか、これ以上手を出さないでほしい! 僕は、あなたを信じたい!!」
グレイグ
「ッ!」
カミュ
「はぁ、何言ってやがんだこの勇者様は⋯⋯。まぁ投降するって言わなかっただけマシか。───おいジュイネ、あそこに野放しにされてる馬が丁度二匹いる。あの馬を使うぜ、あそこまで走れッ!」
グレイグ
「(ユグノア王家のペンダントを持つ、あの者の高貴な眼差し⋯⋯悪魔の子などと、呼べようか)」
デルカダール兵
「グレイグ将軍、逃げられてしまいます! ご命令を⋯⋯! 我らがデルカダール王をこれ以上裏切る真似をしてもよろしいのですかッ? その行為は将軍だけでなく我々も咎められるのですぞ!」
グレイグ
「くッ⋯⋯。皆の者、この崖を下り悪魔の子を⋯⋯追え!!」
デルカダール兵
「了解です⋯⋯! このまま進めぇー!!」
崖上から馬脚を轟かせ勢いよく降りてくるデルカダール兵達。少し遅れてグレイグ将軍も続く。
カミュ
「よっしゃ、何とか使えそうな馬だな。このまま祠まで突っ走るぜジュイネ!」
ジュイネ
「⋯⋯うん」
デルカダール兵
「チッ、何で都合よく野放しにされてる馬がこの辺にいるんだ? まぁいい、ボウガンで撃ち落としてやる⋯⋯!」
片手で悪魔の子に狙いを定める兵士。
グレイグ
「狙うなら馬を狙え! 本人を直接撃つ必要は───」
ジュイネ
「あっ⋯⋯?!」
デルカダール兵の放ったボウガンの矢じりがジュイネの左二の腕を鋭く掠め、それによって大きく体勢を崩し左側に強い衝撃と共に落馬する。
ジュイネ
「う、く⋯⋯っ」
カミュ
「ジュイネ?!」
グレイグ
「馬鹿者! 直接当てるなと言っただろうッ」
デルカダール兵
「突き立たなかっただけマシだと思って下さいよ、というか叱責される言われはないですからな! 悪魔の子を捕らえるのが我々の役目なのをお忘れなきように!」
グレイグ
「ぬぅ⋯⋯ッ」
カミュ
「───ジュイネ、右手を上げろ!」
ジュイネ
「⋯⋯⋯!」
前方を馬と共に駆けていたカミュが素早くUターンし、
ジュイネに馬を寄せるようにして少しスピードを落とし駆けたまま上げられた右手を掴んで引き上げ自分の後ろに乗せる。
カミュ
「このまま一気に祠まで駆けるぜ、しっかり掴まってろよ!!」
ジュイネ
「(⋯⋯? 鞄の中が、急に蒼く光出して───)」
カミュ
「どうしたッ? ⋯⋯もしかして、お前の爺さんが遺した魔法の石が反応してるんじゃないか!? ジュイネ、取り出してみろよ!」
ジュイネ
「う、うん⋯⋯! うわ、眩しっ───」
魔法の石から放たれた蒼い光が東の祠に向かい、閉じられていた入り口が開かれる。
カミュ
「なるほどな⋯⋯! あの中に入れば何か起こるはずだ、そうじゃなきゃ困るんだけどな!」
デルカダール兵
「逃がすか⋯⋯!!」
再びデルカダール兵がボウガンを放ち、今度は馬の尻に矢を突き立て痛みに驚いた馬が前脚を上げて大きく仰け反り、その反動でカミュとジュイネは地面に投げ出される。
カミュ
「ぐッ⋯⋯!」
ジュイネ
「い"っ⋯⋯」
グレイグ
「(傷を受けた左側からまた落馬した⋯⋯傷が広がったのでは)」
デルカダール兵
「何を呆けているのですか将軍! 今こそ悪魔の子を捕らえるチャンス───」
カミュ
「この距離ならまだ間に合う⋯⋯! ジュイネ、祠まで走れッ!」
ジュイネ
「⋯⋯⋯っ!」
二人はデルカダール兵達の追撃を振り切り、祠の中に入って扉が勝手に閉ざされる瞬間転移陣のようなものが発動し二人の姿は祠から消え失せる。
デルカダール兵
「クソ、この祠開かないぞ!?」
グレイグ
「あの二人が祠の中に入った途端消えたように見えた⋯⋯恐らく中にはもうおらん」
デルカダール兵
「はぁ⋯⋯よく分かりませんかもう少しだったのに。将軍が悪魔の子を捕らえるのに躊躇なさるからですよ」
グレイグ
「⋯⋯⋯⋯」
デルカダール兵
「まさか本当に悪魔の子に情が移ったんじゃないでしょうね? ⋯⋯とにかくこの失態は我らが王に報告させて頂きますよ」
グレイグ
「勝手にすればいい」
グレイグ
「(悪魔の子⋯⋯あの青年が首元に着けていた黒のフードが落ちている)」
フードをそっと拾い上げるグレイグ将軍。
グレイグ
「(───約束通り、これ以上は村の者には手を出させん。だからどうか、生き延びてくれ⋯⋯ジュイネ)」
────────────
────────
カミュ
「フゥ⋯⋯転移魔法みたいなのが発動したようだが、どこに着いたんだろうな」
ジュイネ
「う⋯⋯っ」
左の二の腕を抑えてくずおれるジュイネ。
カミュ
「お、おい大丈夫かジュイネッ。ボウガンの矢が左腕を掠めた上に、二回とも左側に落馬して傷を広げちまったか⋯⋯?」
ジュイネ
「だ、大丈夫⋯⋯逃げている最中は余裕なかったけど、回復呪文使うから⋯⋯《ホイミ》───あれ」
カミュ
「どうしたんだ?」
ジュイネ
「⋯⋯おかしいな、回復出来ない⋯⋯」
苦痛の表情で左腕の傷を抑える。
カミュ
「そういう時は無理すんなよ、オレは回復呪文使えねぇから薬草を⋯⋯そうだな、オレの腰布使って傷に縛り付けるか。左腕、貸してくれ」
ジュイネ
「う、うん⋯⋯」
カミュ
「うおッ、結構深く抉れちまってるじゃねぇか。出血も多いな⋯⋯すぐ傷口縛らねーと。まずは薬草を数枚宛てて───」
ジュイネ
「んっ、うぅ⋯⋯」
手際よくジュイネの手当てをするカミュ。
カミュ
「薬草だけじゃ足らねぇな⋯⋯とにかくゆっくり休める場所を探さねぇと。祠から出たらデルカダール兵が待ち構えてるなんてのは御免だぜ⋯⋯」
祠の出口らしき箇所に触れると勝手に扉が開くが、その先は見慣れない荒涼とした大地が広がっていた。
カミュ
「お宝求めて結構旅してたつもりだが、オレの知らない場所みたいだな⋯⋯。近くに村でもあればいいんだけどよ」
ジュイネ
「はぁ、はぁ⋯⋯っ」
カミュ
「(まずいな⋯⋯これまでの疲労と浅くない怪我のせいで熱を出してるかもしれねぇ⋯⋯ジュイネの呼吸が浅い)」
手当てされた傷を押さえつつ、座ったまま俯いて苦しげに呼吸をするジュイネ。
カミュ
「⋯⋯ジュイネ、お前はオレが背負ってく。ゆっくり休める場所が見つかるまで辛抱してくれよ」
ジュイネ
「カミュ、だって⋯⋯疲れてるでしょ。僕なら、歩けるから平気───っ」
立ち上がりかけてよろめくのをカミュが抱き留める。
カミュ
「無理すんなって言ってるだろ。お前を背負うくらいどうって事はねぇさ、何ならオレの背中で寝てていいんだぜ」
ジュイネ
「そんな、甘えられない⋯⋯」
カミュ
「⋯⋯全く、世話の焼ける勇者様だぜ」
ジュイネの怪我をしていない方の右手をとって強制的に背負うカミュ。
ジュイネ
「わっ⋯⋯」
カミュ
「お前、オレより少し背が高い割に線が細いから思った通り軽いな。これなら魔物からも走って逃げれるぜ」
ジュイネ
「や、やっぱり悪いよ、降ろしてよ⋯⋯」
カミュ
「フラッフラなお前を連れ歩く方が危ないっつの。⋯⋯大人しく言う事聞いとけって、な?」
その優しい口調に安心感を覚え、眠気がさしてくるジュイネ。
ジュイネ
「うん⋯⋯分かったよ、カミュ。あり、がとう⋯⋯」
カミュ
「(眠ったか⋯⋯。なるべくジュイネの身体に負担にならないように走らねぇとな)」
カミュは眠ったジュイネを背負い、暫く荒涼とした大地を魔物を避けつつ進むと、ホムラの里と呼ばれる場所に行き着く。
カミュ
「(良かったぜ⋯⋯何とか休めそうな場所に着いたな。あとはここまで追っ手がすぐ来ない事を願うだけだな。とにかく宿屋でジュイネを寝かせて、医者を捜さねぇと⋯⋯)」
女の子
「───ちょっと、そこのあんた達」
カミュ
「のあッ⋯⋯何だ、ガキかよ」
女の子
「レディに対して失礼な奴ねっ」
カミュ
「悪いな、ガキに構ってる暇はねぇんだよ。怪我してるこいつをゆっくり休ませて、医者に診せてやらねぇと⋯⋯」
女の子
「その人⋯⋯どうかしたの? ぐったりしちゃってるけど」
カミュ
「あぁ⋯⋯左腕に浅くない傷を負っちまっててな。それに精神的にも色々やられてて⋯⋯って、ガキには関係ない話だぜ」
カミュの話を聞いてか聞かずか、赤帽子の女の子は背負われている少年の左手の甲を一心に見つめている。
女の子
「(このアザ⋯⋯いいえ、この紋章は───)」
カミュ
「おい何見てんだ、見世物じゃねぇんだぜ」
女の子
「⋯⋯あんたの連れ、治してあげましょうか?」
カミュ
「はッ? 何言ってんだ、お前まだ小さいガキのくせに、回復呪文使えるとでも言うつもりかよ」
女の子
「確かに回復呪文はあたしは使えないけど⋯⋯妹は得意なのよ。しかも薬の調合の知識もあるから回復系はお手の物ね」
カミュ
「妹⋯⋯? お前より小さいはずだろ、なのに回復呪文や薬の調合の知識があるって⋯⋯天才児かよ」
女の子
「今は面倒だから説明は省くけど、妹とははぐれちゃってるの」
カミュ
「はぁ⋯⋯?! それなら意味ないだろ、お前の妹捜すよりこの里で医者捜した方が早いぜ」
女の子
「まぁ待ちなさいって。⋯⋯妹があたしの為に回復薬持たせてくれてるのよ、それを使えばあんたの連れの怪我治してあげられると思うわ」
カミュ
「本当かよ⋯⋯? 効果は期待出来るんだろうな」
女の子
「妹は基本ボケっとしてるけど、回復薬の効果は保証してあげるわ。⋯⋯ほら、さっさと宿屋に入ってその人寝かせて、薬を試すわよっ」
カミュ
「(実験体にされるんじゃねぇだろうな⋯⋯)」
カミュはとりあえず幼い少女に言われた通り宿屋に入りベッドにジュイネをそっと寝かせる。
女の子
「傷口に縛ってる布、解いてくれる? 薬は直接傷口につけるからね」
カミュ
「分かったけどよ⋯⋯」
なるべく傷を刺激しないように、宛がっていた布を外す。
女の子
「うわっ、思ったより重傷かも⋯⋯」
カミュ
「おいおい⋯⋯今さら治せないとか言わないでくれよッ?」
女の子
「大丈夫よ、妹が万が一の為にあたしにくれた回復薬なんだから。⋯⋯世界樹の清らかな葉とその雫よ⋯⋯彼の者に癒しの力を───」
魔法瓶に漬けられていた葉を栓ごとゆっくり引き抜き、その清らかな雫をジュイネの左の二の腕の傷口に滴らせる幼い少女。
カミュ
「おぉ⋯⋯すげぇ、傷口がみるみる塞がってくぜ⋯⋯!」
女の子
「それはそうよ、妹が調合した回復薬は評判いいんだからっ」
ジュイネ
「ぅ⋯⋯、ん⋯⋯?」
カミュ
「ジュイネ、意識が戻ったか⋯⋯!? 身体、どうだ?」
ジュイネ
「何とも、ないよ⋯⋯痛みが、引いてる。というか、全然痛くない⋯⋯」
身体を確かめながらゆっくりと起き上がる。
女の子
「良かったわね、あたしの妹⋯⋯もといあたしのお陰よっ」
ジュイネ
「えっ、カミュ⋯⋯この子はどこの子??」
カミュ
「あーっと、そういや名前聞いてなかったな⋯⋯」
女の子
「あのね、レディに名前を聞く時は自分から名乗るのが礼儀ってものよ? っていってもさっきあんたの名前がカミュなのと、連れがジュイネだっていうのは分かっちゃったけどねぇ」
ベロニカ
「⋯⋯まぁいいわ、あたしはベロニカよ」
カミュ
「はぐれた妹を捜してるんだとよ。けどオレの背中でぐったりしてるお前を気に掛けてくれて、よく効く回復薬を使ってくれたんだ」
ジュイネ
「そうだったんだ⋯⋯。ありがとう、ベロニカ」
ベロニカ
「いいのよそれくらい。⋯⋯こんな所であんたに逢えたのは、偶然じゃないだろうからね」
ジュイネ
「⋯⋯⋯?」
ベロニカ
「怪我を回復してあげた代わり⋯⋯と言ったらなんだけど、あたしの妹を捜すのを手伝ってくれないかしら?」
ジュイネ
「もちろんだよ、妹ってことはベロニカより小さいんでしょ? 今頃迷子で泣いてるだろうし⋯⋯」
ベロニカ
「あー⋯⋯、一応双子だからあたしより小さいって事はないわよ?」
カミュ
「それでも小さい子には代わりねぇ、手掛かりを見つけようぜッ」
ベロニカ
「そう、その手掛かりを得る為に酒場に行きたいの! 子供の姿のあたしじゃ入れてくれないから、あんた達と居れば入れるはずよっ」
ジュイネ
「僕は16で成人の儀を終えたばかりだし大人だから、酒場には入れるよね」
ベロニカ
「大人⋯⋯って呼ぶにはひょろ長くてまだ貧弱な少年って感じよね、あんた」
ジュイネ
「うっ⋯⋯」
カミュ
「酒場で情報収集とはマセてんなお前。オレは19だし酒の味も知ってるから問題ないぜ」
ベロニカ
「えっ、あんた19なの? 連れより背が低いから同じ年齢かそれ以下かと思ったわ⋯⋯」
カミュ
「⋯⋯こいつより背が低いっつーのは地味に気にしてるからやめてくれ」
ジュイネ
「はは⋯⋯」
ベロニカ
「妹を見つけたら、あんたに話したい事があるからそのつもりでいて頂戴ね」
ジュイネ
「え? うん⋯⋯分かったよベロニカ(何だか、不思議な子だな⋯⋯)」
ベロニカ
「酒場に行く前に⋯⋯ちょっと言いにくいんだけどあんた達、臭うのよね」
カミュ
「は? オレらが臭うだとッ? クンクン⋯⋯(自分の袖に顔を近づけ)、確かに、臭うな⋯⋯」
ジュイネ
「捕まって逃げてからずっと、身体を洗う余裕なんて無かったからね⋯⋯」
ベロニカ
「印象が悪いとまともに取り合ってくれなそうだし、下手するとあたしとは別の意味で追い出され兼ねないのよね⋯⋯。だからあんた達、一旦この里の北側を階段で上がった先に名物の蒸し風呂があるからそこで汗を流して来るといいわよ」
カミュ
「まぁ確かに、こんなとこまで逃げて来て怪しまれるのもな⋯⋯。んじゃ、さっさと済ませて来ようぜジュイネ」
ジュイネ
「う、うん⋯⋯」
ベロニカ
「あ、一応気を付けなさいね。蒸し風呂だろうと襲われ兼ねないから⋯⋯って、あんた達は男だから平気だとは思うけど」
カミュ
「襲われる⋯⋯? まるで実感込もった言い方だな。何かあったのか?」
ベロニカ
「別にいいのよあたしの事はっ! 早く汗を流して来てちょうだい!」
蒸し風呂屋まで向かうと、初めてのお客様は無料体験という事になっているらしく、タダで入れる運びとなった。
カミュ
「ほーん、運が良かったぜ。路銀はなるべく節約したいしな」
ジュイネ
「⋯⋯⋯⋯」
カミュ
「どうしたジュイネ、さっきから黙りこくってるが⋯⋯もしかしてまだ具合いが悪いのか?」
ジュイネ
「そういうわけじゃ、ないんだけど⋯⋯」
そこへ案内人のふくよかな女性が二人の元に来て男風呂へ誘導してくれるものの、ふと何か気づいた様子でジュイネを女風呂へ促そうとする。
ジュイネ
「えっと、僕は───」
カミュ
「悪いな、こいつは女顔に見えるかもしれないが男だからオレと同じ男風呂でいいんだよ」
カミュは半ば強引にジュイネの片手を引いて男風呂の脱衣場に向かう。
カミュ
「⋯⋯良かったんだろ、これで。それとも、あっちの方が良かったか?」
ジュイネ
「ううん、こっちでいいんだよ⋯⋯(多分)」
カミュ
「蒸し風呂用の着替えがあるんだな⋯⋯。ほれ、お前の」
ジュイネに着替えを投げて寄越し、カミュは何も気にしたふうもなくジュイネの目の前でさっと着替える。
ジュイネ
「(裸で入らなくてもいいんだ⋯⋯よかった)」
カミュ
「オレは先に蒸し風呂に行ってるからな、着替えて来いよ」
ジュイネ
「(気を遣ってくれてるんだろうな⋯⋯とにかく着替えよう)」
カミュ
「⋯⋯ふぅ、中々気持ちのいいもんだな。汗を流せて旅の疲れも癒せるし一石二鳥ってもんだ」
ジュイネ
「うん⋯⋯」
蒸し風呂の席に並んで座る二人。
カミュ
「───お前の本当の母親からの手紙には、お前はユグノアの王子って記されていたようだが⋯⋯違うんだろ、本当は」
ジュイネ
「⋯⋯⋯⋯」
カミュ
「男の振りしてても、どうにもなりきれてないのが分かっちまう。⋯⋯母親の手紙で、お前のじいちゃんはお前を男の子として育てる事にしたんだろうけどよ、もしかして勇者のアザを持って生まれたのが女の子じゃ都合が悪いから、本当の両親もお前を男の子として育てるつもりでいたのかもな」
ジュイネ
「都合が悪いって⋯⋯例えばどんな」
カミュ
「勇者についてそんなに詳しいわけじゃないが、ローシュ伝記の先代勇者は男だろ。この世の中じゃ女だと舐められるから男として育てたかったんじゃねーのかなって。ま、オレの推測でしかねぇが」
ジュイネ
「───⋯⋯」
カミュ
「やっぱ、嫌だったのか? 男の子として育てられて」
ジュイネ
「うぅん、嫌だったわけじゃないんだ。男の子として振る舞う方が僕は好きだったし⋯⋯実際イタズラばかりしてたからね。育てのおじいちゃんからは、遊びながら剣術も教わったし⋯⋯おじいちゃんが亡くなってからは、自己流で剣術を身に付けたんだ。自分の身は自分で守れるようにって⋯⋯言われてたから」
カミュ
「なるほどな⋯⋯16になって旅立つのを見越しての事だったか」
ジュイネ
「先代勇者が男の人だったから⋯⋯その勇者の生まれ変わりも男じゃなきゃいけないなら、僕は別にそれでもいいと思ってる。けど⋯⋯根底にある男女の力の差っていうのには、抗えないなって」
カミュ
「⋯⋯⋯⋯」
ジュイネ
「あの時⋯⋯見てたんなら分かると思うけど、馬乗りされてほとんど抵抗出来なくて、本当の男の人の力の強さに恐怖さえ覚えたんだ」
カミュ
「⋯⋯だろうな」
ジュイネ
「その時、カミュは僕を助けてくれたんだよね。ありがとう⋯⋯お礼を言うのが遅れてごめん」
カミュ
「いいってそれくらい。助けたっていうかな⋯⋯そん時はもうほとんど手を出されちまってたし。⋯⋯悪い、思い出させるような事言っちまったな」
ジュイネ
「うぅん、僕なら大丈夫。王子とか勇者とかまだ実感ないけど、心強い味方が居てくれるなら乗り越えて行けそうな気がするから」
カミュ
「ジュイネ、お前───」
その時、脱衣場とは反対方向の外へ繋がる渡り廊下の扉からヒュンヒュンと妙な音が聞こえてくる。
カミュ
「何だ⋯⋯? 風の音か、他の誰かにしちゃあ妙な気配だぜ」
ジュイネ
「外の方には打たせ湯がありますよって、女将さんは言ってたけど⋯⋯」
カミュ
「そういやベロニカが言ってたな、“蒸し風呂だろうと襲われ兼ねない”とか何とか⋯⋯オレ達は男だから平気だろみたいな事も言ってたが」
ジュイネ
「⋯⋯⋯⋯」
カミュ
「ジュイネ、オレの後ろに回れ。気を付けるに越した事はねぇ」
ジュイネ
「う、うん」
カミュ
「───おい、そこに誰か居るんだろ。コソコソしてないで出て来たらどうだ?」
影の魔物
「ん~? オトコの声だ⋯⋯。こっちオンナ湯じゃなかったっけ??」
カミュ
「は? 何言ってやが⋯⋯うおッ!」
扉をすり抜け、影のような魔物が姿を現す。
ジュイネ
「こ、こんな所にも魔物出るんだ⋯⋯」
カミュ
「呑気な事言ってる場合か、倒すぜッ」
蒸し風呂用の着替えに隠し持っていた短剣を引き抜くカミュ。
影の魔物
「ん~、オマエ魔力低そうだなァ⋯⋯。そっちのオンナっぽい子は魔力ありそうダ⋯⋯。デンダ様もお喜びになるダろうなァ~! 魔力多く持ってたオンナには逃げられちまったから挽回せねバ!」
カミュ
「気を付けろジュイネ、こいつお前を狙って───」
影の魔物
「青髪ヤロージャマだ~、無様に寝とけヨ《ラリホー》!」
カミュ
「んな⋯⋯ッ、くそ、寝みぃ⋯⋯」
ジュイネ
「カミュ⋯⋯!?」
カミュ
「オレに、構わず⋯⋯逃げろ、ジュイネ⋯⋯ッ」
俯せに頽れ深い眠りに落ちるカミュ。
ジュイネ
「嫌だ、カミュを置いて逃げるなんて───」
影の魔物
「そうそう、逃げちゃ困るのサ。連れてくのはキミだけだからキミも眠っちゃいナ!《ラリホー》!!」
ジュイネ
「(うっ、とてつもなく、眠く⋯⋯だめだ、眠るわけには───)」
影の魔物
「寝てくれなきゃ困るんダよなァ~、重ね掛け行っとくカ⋯⋯《ラーリホー》!!」
ジュイネ
「(うぅ⋯⋯目を、開けてられない⋯⋯ごめん、カミュ⋯⋯───)」
影の魔物
「ケケケ、寝た寝た⋯⋯。さ~てデンダ様の元に連れてくかァ、た~っぷり魔力を吸い取ってやらなきゃなァ~!」
────────────
────────
ベロニカ
「あんたねぇ⋯⋯いい加減起きなさいよっ!!」
カミュ
「うっはッ、耳元で大声出すなよ鼓膜破れるだろ!? って⋯⋯、ん? ジュイネはッ?」
ベロニカ
「はぁ⋯⋯まさか男湯狙われるなんて。蒸し風呂行かせるんじゃなかったわね」
カミュ
「おいベロニカ、ジュイネはどこだよッ?」
ベロニカ
「荒野の地下迷宮に攫われたのねぇきっと」
カミュ
「荒野の地下迷宮って⋯⋯何でその事知ってんだッ?」
ベロニカ
「あたしそこから逃げて来たのよ、あんた達と出逢う前にね。旅の疲れを蒸し風呂で癒してたら影の魔物が現れて眠らされて気づいたら⋯⋯ってわけ」
カミュ
「それを先に言っとけよ⋯⋯」
ベロニカ
「だって紋章を持つ勇者がそう簡単に攫われると思わないじゃない? ⋯⋯あっ」
カミュ
「お前⋯⋯ジュイネが勇者だって気付いてたのかよ」
ベロニカ
「まぁ、ねぇ⋯⋯。勇者としてはまだまだ未熟なんでしょ。とにかく、助けに行く前に酒場に寄って妹の情報収集させてちょうだい? その後なら勇者様を助けに行くの手伝ってあげるから」
カミュ
「あー、しょうがねぇなぁ⋯⋯さっさと酒場行くぞッ」
酒場に行く前に迷子の女の子と会い、父親を探しているというので一緒に酒場で情報収集をするが、ベロニカが欲しかった妹の情報はベロニカ自身の逃げた場所への行き違い、迷子の女の子の父親の居場所も荒野の地下迷宮かもしれないと言う事で、カミュとベロニカは迷わず共闘する事に決めてその場へ急ぎ向かう。
「───もしもし? もしもーし、どうか起きて下さいませ⋯⋯!」
ジュイネ
「ん⋯⋯、あれ、君は⋯⋯?」
セーニャ
「あなた様とご一緒に荒野の地下迷宮の牢屋に閉じ込められている、セーニャと申します。⋯⋯あなた様のお名前を伺っても、よろしいでしょうか」
ジュイネ
「僕は、ジュイネって言うんだけど⋯⋯」
セーニャ
「ジュイネ様⋯⋯ですね。承知致しましたわ」
ジュイネ
「別に様付けしなくても」
セーニャ
「これは私の癖のようなものですわ、大体どなたにも様を付けてお呼びしますし⋯⋯お気になさらず」
優しい笑みを見せるセーニャ。
ジュイネ
「そっか⋯⋯。セーニャ、君もやっぱり攫われて」
セーニャ
「いいえ、私ははぐれたお姉様を捜しにここまで来たのですけど、途中眠くなって寝てしまいまして⋯⋯気づいたら捕まっていたのですわ」
ジュイネ
「(不意打ちでラリホーを掛けられたのかな⋯⋯?)」
セーニャ
「ジュイネ様、もしやあなたは───」
影の魔物
「さァ~て⋯⋯そろそろデンダ様もやって来られるコトだし、魔力をた~っぷり搾り取ってやるかァ」
ジュイネ
「影の魔物⋯⋯!」
セーニャ
「⋯⋯魔力を欲しているのなら、どうか私から吸い取って下さいませ」
ジュイネ
「だめだよそんな。⋯⋯僕の方から先に魔力を吸い取ればいい」
影の魔物
「ケケケ! 会ったばかりのクセにナニ庇い合ってんだカ、これだから人間はわからん生き物ダ!」
親分デンダ
「⋯⋯オイ! さっさと強い魔力を集めるぞ、大きな獲物を取り逃した分を補ってあの御方に献上するのだッ!」
ジュイネ
「(こいつが影の魔物達の親分みたいな奴かな)」
影の魔物
「デンダ様、どっちから魔力を搾り取りましょうカ?」
親分デンダ
「ウーンぬ⋯⋯金髪のオンナの方が魔力多そうだが、サラサラヘアーの奴は魔力とは別の力を持ってそうな⋯⋯?」
ジュイネ
「(うっ、大きな顔近づけないでほしいけどここは我慢⋯⋯。セーニャって子を何とか助けないと)」
セーニャ
「⋯⋯⋯⋯」
親分デンダ
「ヨシ! まずはサラサラヘアーの奴から搾り取れるだけ取るぞ、特別な力を持ってたとしたらあの御方もお喜びになるだろうッ!」
影の魔物
「さすがはデンダ様! では早速魔力を奪う壺を───」
セーニャ
「(ジュイネ様⋯⋯!)」
ジュイネ
「(僕なら大丈夫だから、君は隙を見てここから脱出を)」
その時、投擲のブーメランが勢いよく飛んで来て影の魔物が持ってきた怪しげな壺を破壊する。
影の魔物
「ギャッ、なんだ⋯⋯?!」
カミュ
「───悪いな、連れの力を奪われちゃオレも困るんだよ」
戻って来たブーメランを華麗にキャッチする。
ジュイネ
「カミュ⋯⋯!」
ベロニカ
「全く⋯⋯双子なのに行き違うなんて面倒な話ねっ」
セーニャ
「ベロニカお姉様⋯⋯!?」
カミュ
「ほらよジュイネ、お前の武器!」
ジュイネ
「ありがとうカミュ!」
剣を放って寄越されしっかり受け取る。
カミュ
「⋯⋯んでもって、これもしかしてアンタのスティックか?」
セーニャ
「その通りですわ⋯⋯! お手数お掛けしましたっ」
ベロニカ
「さぁて⋯⋯あたしは魔力奪われたままでまだ本領発揮出来ないけど、反撃開始と行きますかっ!」
影の魔物
「ど、どうしますデンダ様⋯⋯!?」
親分デンダ
「慌てるな⋯⋯よく見たら取り逃した獲物が戻って来たみたいじゃないか! まずは痛めに痛め付けて全員魔力をたっぷりと絞り出して、いずれ魔王となられるあの御方に献上してやるッ!!」
デンダとその子分達との戦闘は一筋縄では行かなかったが、セーニャの的確な補助と回復もあってジュイネ達はデンダ達を倒す事に成功する。
ベロニカ
「⋯⋯本来のあたしならこんな奴ら瞬殺なんだけどねっ」
カミュ
「よく言うぜ⋯⋯。つーかジュイネ、すまねぇな。蒸し風呂に居た時守ってやれなくて」
ジュイネ
「仕方ないよ、不意打ちで眠らされたんだもの。それに⋯⋯こうして助けに来てくれたんだし、感謝しかないよ」
セーニャ
「⋯⋯ベロニカお姉様、魔力を奪われて可愛らしい頃にお戻りになられていたのですね」
ベロニカ
「えぇそうよ、心配掛けたわねセーニャ。⋯⋯ていうか、あたしもあんたの事心配したんだけどっ」
セーニャ
「ふふ、申し訳ありませんでしたわ」
ジュイネ
「えっと⋯⋯どういうこと? どう見てもセーニャの方がお姉さんなんだけど⋯⋯」
ベロニカ
「何て言うか、魔力を吸い尽くされないように踏ん張ってたら、身体が縮んじゃったのよね⋯⋯。これでも年頃のお姉さんなんだから、レディの扱いには気を付けなさいよねっ」
カミュ
「そりゃあ分かったが⋯⋯魔力取り戻すにはどうすんだ?」
ベロニカ
「えーっと⋯⋯、あれよ! あの壺にあたしの魔力がたんまり閉じ込められてるはずだわっ」
カミュ
「これか? ⋯⋯大きさはそんなでもないが、結構重いな」
ベロニカ
「ちょっと、勝手に開けたりしないでよ? あたしの魔力なんだから!」
カミュ
「へいへい⋯⋯ほらよ」
ベロニカの前に壺を置く。
セーニャ
「これでお姉様の魔力が戻れば、元のお姿にも戻れるのですね⋯⋯!」
ジュイネ
「(双子だから、今のセーニャと背丈そっくりなんだろうなぁ。性格は違うみたいだけど)」
ベロニカ
「⋯⋯───!」
壺の蓋を徐ろに開け、そこから膨大な魔力が溢れ出しベロニカの身体へと浸透して行く。
カミュ
「おいおい⋯⋯姿見えなくなっちまったが大丈夫なのかッ?」
セーニャ
「だ、大丈夫なはずですわ。魔力の霧さえ晴れれば、元のお姿のお姉様が───あぁっ!?」
ベロニカ
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
ジュイネ
「子供の、姿のままみたいだね⋯⋯?」
セーニャ
「そんな、お姉様⋯⋯魔力が上手く戻らなかったのですか⋯⋯」
がっくりと膝を落とすセーニャ。
ベロニカ
「ふふん、そんな訳ないでしょセーニャ。⋯⋯ほらっ!」
得意げに人差し指から勢いよく炎を上げて見せる。
ベロニカ
「頭の先からつま先まで魔力がギンギンにみなぎってるわよっ!」
セーニャ
「まぁ⋯⋯! ですが、姿が元に戻らないのは───」
ベロニカ
「うーん、年齢までは戻らなかったみたいね⋯⋯。まぁ若返ったと思えば儲けものよっ」
セーニャ
「ふふ、そうですわね⋯⋯またこうして可愛らしいお姉様と居られるのも嬉しいですわ」
カミュ
「妹が見つかって、魔力も戻って良かったな。⋯⋯にしてもさっきの魔物、妙な事抜かしてたな。魔王がどうのだとか───」
ジュイネ
「そういえば、デルカダールの王が言ってた⋯⋯魔王と勇者は表裏一体だって」
ベロニカ
「⋯⋯そうそう、妹を見つけたらあんたに話したい事があるって言ったの覚えてる?」
ジュイネ
「え? うん⋯⋯確かそう言ってたね」
ベロニカ
「───私達は、聖地ラムダより遣わされた双賢の姉妹。命の大樹に選ばれし勇者を、守り導く者」
セーニャ
「───私達は、聖地ラムダより遣わされた双賢の姉妹。命の大樹に選ばれし勇者を、守り導く者」
ジュイネ
「⋯⋯⋯!?」
カミュ
「な、何だ二人して急にかしこまって⋯⋯調子狂うな」
ベロニカ
「詳しい事は取り敢えずホムラの里に戻ってから話すわ。⋯⋯迷子の女の子の父親もここに捕まってるはずなのよ、助け出してあげましょ」
四人はホムラの里に戻り、迷子の女の子とその父親を再会させ、一旦一晩休んでから改めて話をする事に。
ベロニカ
「───ジュイネ、あんたが勇者なのは左手の甲のアザ⋯⋯勇者の紋章を目にした時からあたしは確信していたわ」
セーニャ
「その瞳に宿る、暖かな優しい眼差し⋯⋯ジュイネ様は、間違いなく命の大樹に選ばれた勇者様なのですわ」
ジュイネ
「そう、言われても⋯⋯。デルカダールの王様には、魔王と勇者は表裏一体で災いを呼ぶ悪魔の子と言われたし⋯⋯」
ベロニカ
「それは間違いね、勇者が魔王を生むわけないでしょ。その王様は何を勘違いしてるのかしら⋯⋯誰かに吹き込まれたのかしらねっ?」
セーニャ
「私達双賢の姉妹は、勇者様を命の大樹に導く使命があります。ただ⋯⋯、長い年月の中で命の大樹へ向かう術は失われています。それを探し出すのも、私達の使命の一つなのです」
カミュ
「何だって今の時代、勇者が生まれたんだ?(まぁオレにとっちゃ好都合なんだが)」
ベロニカ
「それは⋯⋯やっぱり世界に危機が訪れているからでしょうね。ほら、何十年も前から世界は不穏の一途を辿ってるでしょ? 国の一つや二つ⋯⋯多くの魔物のせいで滅んでいるのよ。先代勇者が倒したはずの邪悪なる神の復活の前触れかもしれないわ」
カミュ
「ジュイネが生まれたユグノア王国もそうだな⋯⋯。確かその前は、バンデルフォン王国ってとこが滅ぼされたらしいが」
ジュイネ
「⋯⋯⋯⋯」
ベロニカ
「まぁとにかく、出だしはどうあれあんたは勇者として旅立ったんでしょ。強大な闇の力を持った邪悪な存在を退けるのが勇者の使命なら、あたし達双賢の姉妹は勇者のあんたを守り導くだけよ」
セーニャ
「お姉様の仰る通りですわ。どうかこれからよろしくお願い致します、ジュイネ様、カミュ様」
ジュイネ
「けど、僕は───」
ベロニカ
「納得行かないでしょうけど⋯⋯それがあんたの運命なのよ。勇者の生まれ変わりとしての、ね」
ジュイネ
「(運命⋯⋯)」
カミュ
「まぁ何にしたって情報が少ねぇな。⋯⋯そういやルコって子の父親のルパスって奴、どっかで聞いた事のある名前だと思ったが割と有名な情報屋のはずだ。ダメ元で大樹関連の話を聞いてみるか? まだ酒場に居るはずだぜ」
情報屋ルパスの話によると、サマディー王国に命の大樹に関連する虹色の枝という代物があるらしく、広大な砂漠が待ち受けるサマディー地方へとジュイネ達は足を踏み入れるのだった。
カミュ
「⋯⋯しっかし暑いな、砂漠だからしゃーないんだろうが⋯⋯」
ジュイネ
「カミュ、大丈夫⋯⋯? もっと水飲む?」
カミュ
「いやいいって、オレばっかり水飲むわけにいかねぇだろ。お前が飲んどけ」
ベロニカ
「あたしとセーニャは前にもここら辺来た事あるけど、虹色の枝の情報までは知らなかったわね⋯⋯。ていうかカミュ、あんた暑いの苦手なんじゃないの?」
カミュ
「寒いのは得意なんだが、こうも暑いとな⋯⋯」
セーニャ
「カミュ様は、寒い地方のご出身なのですか?」
カミュ
「別にオレの事はいいって。⋯⋯それより、サマディー王国が見えてきたんじゃねぇのか」
ジュイネ
「そうだね、もう少しだからがんばろう」
カミュ
「⋯⋯お前よくそんな厚着してて平気な顔してるな。汗かいてるようにも見えねぇぜ」
ジュイネ
「そうかな、これでも一応暑いんだけど⋯⋯カミュほどじゃないのかも」
サマディー王国へやってくると、何やら賑わいをみせていた。
ベロニカ
「⋯⋯どうやら馬レースのファーリス杯が開催されるみたいね」
セーニャ
「ファーリス杯はその名の通り、サマディー王国の王子ファーリス様の名を冠しているそうですわ」
ジュイネ
「馬レースかぁ、観てみたい気もするけど⋯⋯」
カミュ
「まぁそんな呑気な事してられないわな、いつ追っ手がここまで来るかも分からねぇし⋯⋯取り敢えず城に行って虹色の枝について聞いてみるか。何なら盗み出す事も考えねぇとな」
ベロニカ
「さっすが元盗賊、考える事が早いわねぇ」
セーニャ
「出来れば正当に入手したいですが、そうも言ってはいられないかもしれませんものね⋯⋯邪悪なる神の復活の兆しがありその闇を退けるという世界の命運が掛かっていますし。命の大樹の元に向かわなければ、対抗する手段も分かりませんもの」
ジュイネ
「(そんな大袈裟な⋯⋯って言いたい所だけど、ベロニカとセーニャは勇者を守り導く使命を持っていて、僕は闇を退ける勇者⋯⋯ダメだ、全然実感が湧かない⋯⋯。そもそもカミュは、勇者を手助けすることが贖罪に繋がるらしいから付いてきてくれてるだけだし⋯⋯。僕の存在する意味って、勇者の生まれ変わりだからってだけなのかな⋯⋯)」
サマディー城の王へ謁見しに来ると、王はファーリス杯の演説の事で頭が一杯らしく虹色の枝について取り合ってくれず、そこへ威風堂々と現れたのは他でもない、ファーリス杯の主役であるファーリス王子だった。
ファーリス王子
「───騎士たる者、信念を決して曲げず国に忠節を尽くす! 弱きを助け強きをくじく! どんな逆境にあっても正々堂々と立ち向かう!!」
ベロニカ
「何かめんどくさいのが来たわ⋯⋯」
セーニャ
「お、お姉様ったら⋯⋯聞こえてしまいますわ⋯⋯!」
ファーリス王子
「ん⋯⋯? 君達は何を目的に城に来たのかな?」
ジュイネ
「えっと⋯⋯、虹色の枝について、お話をさせて頂きたいのですが⋯⋯」
ファーリス王子
「キミは⋯⋯ふむふむ、体格はボクより細いけど背丈はほぼ同じだな⋯⋯これはいけるかも⋯⋯」
ジュイネ
「(⋯⋯⋯⋯? な、なんだか値踏みされてるみたいな視線を感じる⋯⋯)」
ファーリス王子
「虹色の枝と言えば、サマディー王国の国宝の一つだが⋯⋯、我が父サマディー王は今ファーリス杯で頭が一杯なんだ。代わりに王子である私が話を聞くから、私の部屋へ来てくれるかな?」
カミュ
「(まさか、罠じゃないだろうな⋯⋯)」
ベロニカ
「(他に宛もないし、付いてくしかないでしょ。万が一何かあっても、あたしの魔法で何とかしてあげるわよ)」
サマディー城、ファーリス王子の私室へ。
ファーリス王子
「───なるほど、君達が虹色の枝を必要としている事は分かった。その代わりと言っては何だが⋯⋯ボクのお願いを聞いてくれないかな?」
セーニャ
「ファーリス王子様の、お願い⋯⋯ですか?」
ベロニカ
「(嫌な予感しかしないわ⋯⋯)」
カミュ
「(やっぱ罠だったんじゃねぇのかおい)」
ファーリス王子
「ここじゃやはり話づらいな⋯⋯兵士もすぐ近くに居るし。そうだ、今夜城下町でサーカスが開かれるんだ。そこで落ち合って改めて話し合おうじゃないか! 時にキミ⋯⋯えっと、名前は?」
ジュイネ
「ジュイネ、ですけど⋯⋯」
ファーリス王子
「ジュイネさんだね、ふむふむ⋯⋯いやちょっと待ってくれ、キミは⋯⋯男子だよね??」
ジュイネ
「(疑われてる⋯⋯? どうしよう、正直に話した方がいいのかな⋯⋯?)」
助けを求めるようにカミュの方を見るジュイネだが、カミュが口を開くより先にセーニャが話す。
セーニャ
「何を仰っておられるのです? ジュイネ様は男子に決まっているじゃありませんか。そうですよね、お姉様?」
ベロニカ
「あー、まぁ⋯⋯ねぇ」
カミュ
「(セーニャは本心で言ってるみてぇだな⋯⋯気付いてないのか)」
ファーリス王子
「あっはは、そうだよな! 男子にしては顔立ちが女子のように見えなくもないからつい、ね! とにかく⋯⋯今夜サーカステントの前で待っているから必ず来てくれたまえ。キミ一人で、ね」
ジュイネ
「わ、分かりました⋯⋯(交換条件ってことだよね、何をやらされるんだろう⋯⋯)」
話し終えて一旦城を出、夜まで宿屋で過ごす事に。
カミュ
「オレは反対だ、ジュイネ一人であの王子と二人だけで話すなんざ⋯⋯ぜってぇ何かあるだろ」
セーニャ
「私には特に、悪い方のようには見受けませんが⋯⋯」
ベロニカ
「虹色の枝を交換条件にしてる時点で怪しいじゃないのよ」
ジュイネ
「大丈夫だよ、僕が何とかするから⋯⋯。みんなに助けられてるばかりじゃいけないと思うし」
カミュ
「しょうがねぇな⋯⋯何かあったらすぐ逃げろよ。オレ達はファーリスに気付かれないようにサーカステントの近くに待機してるからな」
夜になり、城下町のサーカステント入口付近へ向かうとそこには黒いフードを被った姿の王子が居た。
ファーリス王子
「───やぁ、待ってたよジュイネさん」
ジュイネ
「は、はい⋯⋯それで、話って」
ファーリス王子
「まぁまぁ、中に入ろうじゃないか。今ちょうど有名な旅芸人の見せ場みたいだからね、盛り上がってる所だしそれを観賞しつつ話そう」
旅芸人
「~~~♪」
ジュイネ
「(すごいナイフ捌き⋯⋯見とれちゃうなぁ)」
ファーリス王子
「⋯⋯そろそろ本題に入ってもいいかな?」
ジュイネ
「あ、はい、どうぞ⋯⋯」
ファーリス王子
「キミ、馬に乗れるかい?」
ジュイネ
「⋯⋯⋯? 乗れます、けど」
ファーリス王子
「もしかして、結構得意だったり⋯⋯?」
ジュイネ
「えぇ、まぁ⋯⋯小さい頃から慣れてます」
ファーリス王子
「それは良かった! これ以上の適任は居ない! ファーリス杯を目前にしてボクはなんて運がいいんだっ!」
ジュイネ
「⋯⋯⋯??」
ファーリス王子
「あぁ、一人で興奮してしまってすまない。⋯⋯実はボク、まともに馬に乗る訓練をしてなくて馬レースに出場するほどの走りなんて出来ないんだっ」
ジュイネ
「えっ?」
ファーリス王子
「だからキミにボクの影武者になってもらって、ファーリス杯に出場してほしいんだよっ」
ジュイネ
「そ、そんな⋯⋯見た目ですぐバレますよね」
ファーリス王子
「そこの所は心配要らないよ、専用の鎧と兜に身を包むからね。ボクとキミの背丈はほぼ一緒だからバレないよっ」
ジュイネ
「王子の影武者、となると⋯⋯やっぱり、優勝しなきゃいけないですよね⋯⋯」
ファーリス王子
「それはまぁ出来れば優勝してもらいたいけど、そこまでは望まないよ。勇敢な走りさえ観客や父上と母上に見せれば、順位は関係ないからねっ」
ジュイネ
「(そんなものなの⋯⋯??)」
ファーリス王子
「どうかな、やってくれるかいジュイネさんっ? ボクのお願いを聞いてくれたら、虹色の枝の件をボクが直に父上に掛け合ってあげるよっ?」
ジュイネ
「(これは⋯⋯断れないやつだ⋯⋯)」
ファーリス王子
「キミの仲間にこの事を話しても構わないけど⋯⋯それ以外には他言無用だからね。それさえ守ってくれれば問題ないよっ」
ジュイネ
「分かり、ました⋯⋯。ファーリス王子の影武者となって、僕がファーリス杯に出場します」
ファーリス王子
「ありがとう⋯⋯! そう言ってくれると思ったよ⋯⋯!! 父上や母上、民に実力に見合わない期待ばかりされて、正直うんざりなんだ⋯⋯」
旅芸人
「───⋯⋯」
ファーリス王子
「じゃあ明日早目に馬レース会場の待合室に来てくれたまえ、期待しているよっ」
ジュイネ
「はい⋯⋯(何だか複雑な気持ちだな⋯⋯)」
宿屋に戻って仲間に事情を説明するジュイネ。
カミュ
「⋯⋯一国の王子が呆れたもんだな。ジュイネなんて亡国の王子だってのによ」
ベロニカ
「同じ王子でもこれほど出来が違うとはねぇ⋯⋯馬にもまともに乗れない王子とか」
セーニャ
「お、お二人共少し言い過ぎですわ⋯⋯。ファーリス様は、実力に見合わない期待ばかりされていると仰っていたそうじゃありませんか」
カミュ
「だからって同情の余地はねぇだろ。まぁこの際虹色の枝の為だと思えば何とかな⋯⋯」
ベロニカ
「盗んで下手に追われる事になるよりはいいんじゃない? ファーリス王子に思いっ切り恩を売っておきましょうよ。⋯⋯って事でジュイネ、明日のファーリス杯頑張りなさいねっ。あんたなら優勝くらい簡単でしょ」
ジュイネ
「簡単ってことはないと思うけど⋯⋯がんばるよ」
翌日、ファーリス杯の待合室へ。
ファーリス王子
「やぁ、来てくれたねジュイネさん。⋯⋯ここに居る兵士達は事情を知っているから、問題ないよ。さぁ、この鎧と兜に身を包んでくれるかな? 着替えはそこの仕切りでしてくれたまえ」
ジュイネ
「⋯⋯はい(仕切りから覗かれることはないと思うけど⋯⋯なるべく早く着替えよう)」
ファーリス王子
「───おぉ、気品も漂っているし、サマになっているね! これなら誰も影武者だなんて気付かないだろうさっ」
ジュイネ
「⋯⋯⋯⋯」
鎧と兜に身を包み騎乗するジュイネ。
ファーリス王子
「それじゃあ幸運をいのるよ、勇敢な走りを期待してるねっ!」
ジュイネ
「(勇敢な走り、かぁ⋯⋯。さすがに鎧を着て兜を被ってると身体の重みが違うなぁ。いつも軽装で乗ってるから勝手が違う⋯⋯それでも何とかいい走りを見せなきゃ)」
ジュイネ
「(───あ、観客席にカミュとベロニカ、セーニャが居る⋯⋯大きく声には出せないだろうけど、手を振って応援してくれてるんだな。がんばらないと)」
シルビア
「⋯⋯ファーリス王子~、お初にお目にかかりますわ。アタシ、旅芸人のシルビアって言うの」
ジュイネ
「(わっ、⋯⋯え? もしかして昨日サーカスに出てた)」
シルビア
「出場するはずだった人が出られなくなっちゃって、アタシが代わりに出場する事になったの~。⋯⋯正々堂々と闘いましょうね?」
ジュイネ
「⋯⋯⋯⋯」
兜の中、声は出さず頷く。
ジュイネ
「(すごく装飾の派手な馬に乗ってるけど⋯⋯、あの馬見るからに鍛練されてる気がする。これは⋯⋯強敵かも)」
ファーリス杯馬レースは後半、旅芸人シルビアと影武者ジュイネの一騎打ちとなった。後一歩、という所で影武者のジュイネは及ばず二位となる。
ファーリス王子
「すごいじゃないかジュイネさん! 正直馬レースって今までほとんど興味なかったけど、ジュイネさんの勇敢な走りは胸を打ったよ⋯⋯!! これなら父上と母上も民も満足してくれた事だろう、本当に感謝しているよっ!」
ジュイネ
「それは⋯⋯よかったです」
シルビア
「失礼しますわね~! ファーリス王子の勇敢な走りにアタシ感動しちゃって⋯⋯アラっ」
ジュイネ
「(⋯⋯⋯王族の控え室にいきなりあの旅芸人さんが入って来て、僕と王子が今兜以外同じ格好してるのがバレちゃった)」
ファーリス王子
「─────」
呆気にとられた顔の王子。
シルビア
「もしかしてさっきの勇敢な走りは、影武者ちゃんだったのかしら~? 残念だわ~王子ちゃん、正々堂々とファーリス杯に出場しないなんて」
ファーリス王子
「⋯⋯あんたに何が分かるんだ、ボクはこの国の王子として民や父上と母上の大きな期待に応えなきゃならないんだ、どんな手を使っても!」
ジュイネ
「(ファーリス王子に掛かってる重圧は、相当なものなんだな⋯⋯。僕も王子として生きていたら、こんなふうに苦しんだのかな)」
シルビア
「アナタねぇ⋯⋯このままじゃ本当にダメになるわよ?」
ファーリス王子
「うるさい、出て行ってくれ!! か、影武者を使っていた事は、黙っていてほしいが⋯⋯何か、望む物はっ?」
シルビア
「無いわよそんなの。強いて言えば⋯⋯ウフ、今はやめておくわ。影武者ちゃんは見なかった事にしておくわねん、アデュ~♪」
ファーリス王子
「何なんだ、あの人は⋯⋯。と、とにかく今度はボクがみんなの前に馬に乗って出ないと⋯⋯走るわけじゃないから、乗ってるだけで大丈夫だよな⋯⋯? 虹色の枝の件はファーリス杯の閉幕式が終わってからだね、それまでは着替えて外で待っていてくれたまえ。使いの者を寄越して改めて城に招くから。それじゃジュイネさん、お疲れサマディー!」
ジュイネ
「お、おつかれ⋯⋯サマディー⋯⋯??」
ジュイネは私服に着替え直し、王族の控え室から出て仲間と合流する。
セーニャ
「ジュイネ様、お疲れ様でした。優勝は出来ませんでしたが、素晴らしい走りでしたわ⋯⋯!」
ベロニカ
「惜しかったわねぇ、まぁあの旅芸人さん結構手練みたいだったし、負けたのは仕方ないかしら」
カミュ
「ジュイネの良い走りをあのヘタレ王子の手柄にされるのは癪だが、虹色の枝の為だ⋯⋯ファーリス杯閉幕式が終わるまで待ってろって言われたんだろ?」
ジュイネ
「うん、使いの者を寄越して改めて城に招くって」
そして改めて城に招かれ、謁見の間にてファーリス王子がサマディー王と王妃に一通り褒め称えられた後、虹色の枝の件を王子が話し出そうとした矢先、一人の兵士が慌てた様子でデスコピオンが出現したと報告しに来た。
デスコピオンは砂漠の殺し屋と呼ばれており度々サマディーの脅威になっているらしく、北西部に現れたそれがいつ襲って来るかも分からない為早々に手を打たなければならず、サマディー王はファーリス杯で勇敢な走りを見せた息子の王子に何の躊躇もなく期待を込めてその討伐を命じる。
ファーリス王子
「わわ、わっ⋯⋯私が、砂漠の殺し屋を討伐するの、ですか⋯⋯?!(そんな無茶な⋯⋯こ、ここはまたジュイネさんに⋯⋯ジュイネさん達に頼めば、何とかっ)」
ジュイネ
「(ファーリス王子、震えてる⋯⋯。サマディー王には武者震いって言われてるけど、どう見ても怖がってる。それに⋯⋯僕に送ってくる視線が助けを求めてる。これはきっと、代わりの討伐を頼まれるんだろうなぁ⋯⋯)」
ファーリス王子は砂漠の殺し屋討伐を受け、一旦自室に戻る際ジュイネ達を呼び、虹色の枝の件はデスコピオンを倒すまで保留にし土下座をしてまで頼み込んでくる。
ファーリス王子
「キミ達は見た所腕も立つようだし、どうかこの通りだ! ボクの代わりに砂漠の殺し屋を倒して下さい⋯⋯!! 虹色の枝の件はその後必ず掛け合うからっ!」
ベロニカ
「はぁ⋯⋯。ここまで来ると馬鹿を通り越して哀れね。虹色の枝の事が無ければ絶対断ってるわ」
セーニャ
「砂漠の殺し屋、ですか⋯⋯今の私達に倒せる相手だといいのですが」
カミュ
「(こんな事なら在り処を突き止めて盗み出した方が早かったかもな)」
ジュイネ
「(あはは⋯⋯)」
ファーリス王子
「引き受けてくれるんだね⋯⋯?! じゃあボクは一足先に多くの兵を連れて出陣するから、キミ達はその後から助っ人として来てくれっ!」
城門前でファーリス王子のデスコピオン討伐出陣を見届けて城門を出、砂漠の北西部へ向かおうとした時城門の高台からあの旅芸人が声を掛けてきてジュイネ達の目の前に華麗に着地する。
シルビア
「アタシ、馬レースに飛び入り参加した旅芸人のシルビアって言うんだけど⋯⋯アナタ達、あの王子ちゃんに頼まれてサソリちゃんを退治しに行くんでしょ? アタシも連れてってくれないかしら」
カミュ
「旅芸人のおっさんが、何のつもりだよ」
シルビア
「足手まといにはならないわよん、剣の心得もあるから。⋯⋯あの王子ちゃんをこのままにしておくのはよくないと思うのね、アタシなりに何とかしてあげたいのよ」
ベロニカ
「正直目的の物貰ったらあたし達には関係ない話だけど⋯⋯あのヘタレ王子には心を入れ替えてほしいものだわね」
セーニャ
「周りからの期待に応えきれず、本来の実力が出せていないだけみたいですものね⋯⋯」
ジュイネ
「シルビアさん、でしたよね。ファーリス王子の件もそうだけど、一緒に戦ってくれるのは心強いです。よろしくお願いします」
シルビア
「あら~礼儀正しいわねん。けど敬称も敬語もいらないわよん? 気楽にサソリちゃん退治と行きましょ♪」
カミュ
「気楽にって、あのなぁ⋯⋯。まぁ戦力は多い方がいいか。オレはカミュだ」
ベロニカ
「あたしはベロニカ。旅芸人さんのお手並み拝見させて頂くわね」
セーニャ
「私はセーニャと申します、よろしくお願い致しますわシルビア様。───あっ、私は基本どなたに対してもこの口調なので⋯⋯気になさらないで下さいませ」
ジュイネ
「僕はジュイネって言うんだ。ファーリス杯で王子の影武者をしてたのは覚えてると思うけど⋯⋯」
シルビア
「もちろんよ~、気を抜いたら追いつかれちゃうくらい素敵な走りだったわジュイネちゃん! カミュちゃんにベロニカちゃん、セーニャちゃんも宜しくね! それじゃあ、砂漠の殺し屋のサソリちゃん退治に向かうわよ~っ!」
カミュ
「何であんたが仕切るんだよ⋯⋯
てかオレにまでちゃん付け⋯⋯」
砂漠の北西部、中間地点のキャンプにて一休みする一行。
ファーリス王子
「⋯⋯何だ、旅芸人のあんたも付いてきたのか」
シルビア
「おジャマしてますわんファーリス王子~、サソリちゃんを討伐する王子ちゃんの勇姿を見届けたいんですの!」
ファーリス王子
「(こ、この人は⋯⋯ボクがろくに剣の稽古もせずに戦えないのを分かってて───)」
ファーリス王子
「ま、まぁせいぜい足手まといにならないようにな!」
同じキャンプ場所だが距離を置くファーリス。
シルビア
「はいは~い、了解~。⋯⋯と・こ・ろ・で、ジュイネちゃん達に聞いておきたい事があるんだけど~、いいかしら?」
ジュイネ
「どうぞ、何でも聞いて」
カミュ
「おいおいジュイネ⋯⋯何でも聞いてってのは無いだろ」
シルビア
「アナタ達って、何の為に旅をしているの? 男子一人に女子三人って、のっぴきならない事情がありそうなんだけど」
ジュイネ
「(女子、三人⋯⋯)」
セーニャ
「女子三人⋯⋯? 何を仰ってるんですシルビア様? 私達は男子お二人に女子二人なのですけど」
ベロニカ
「(⋯⋯フォローになってるのかしらそれ)」
シルビア
「アラ~ごめんなさい! セーニャちゃんの言う通りね!」
カミュ
「(⋯⋯このおっさん、とっくにジュイネの事気付いてやがるな)」
ジュイネ
「えーっと、僕達が旅をしてる理由は───」
セーニャ
「⋯⋯近々起きるであろう邪悪な神の復活を阻止する為、ですわ」
ベロニカ
「ちょ、ちょっとセーニャ⋯⋯! そう簡単にあたし達の使命をバラすもんじゃないわよっ」
シルビア
「へぇ⋯⋯邪悪な神ちゃん復活を阻止、ねぇ」
カミュ
「雲をつかむような話だからな⋯⋯真に受けないでくれよ」
セーニャ
「勇者の生まれ変わりであるジュイネ様を守り導く⋯⋯それが、私とお姉様、カミュ様の使命なのですわ」
カミュ
「(シレッとオレも入ってるようだが⋯⋯厳密に言うとオレの場合はジュイネの勇者の力を───)」
ジュイネ
「(⋯⋯⋯⋯僕って、流されてるだけなのかな)」
ベロニカ
「だーかーら、何でそう大事な事を簡単に喋っちゃうのよセーニャ⋯⋯!」
セーニャ
「シルビア様は悪い方には見えませんし、差し支えないと思ったからですわ」
シルビア
「アラ、そう言ってもらえると嬉しいわ。勇者のジュイネちゃんに、邪悪な神ちゃん復活阻止⋯⋯それって、邪神ちゃんが復活しちゃうとやっぱり、みんな笑えなくなっちゃうって事よね?」
ベロニカ
「それは⋯⋯そうよ。邪悪なる闇の存在は人間にとって脅威そのものなんだから」
シルビア
「それは困っちゃうわね~、みんなが笑えなくなる世界なんてアタシ嫌だもの。⋯⋯とにかく今は、明日のサソリちゃん退治の為に寝ておきましょ。先にお休みなさ~い」
カミュ
「⋯⋯よく分かんねぇおっさんだな」
ジュイネ
「みんなが笑えなくなる世界、か⋯⋯」
ベロニカ
「どうしたのよジュイネ、あたし達も明日に備えて休んどきましょ」
ジュイネ
「うん⋯⋯」
翌日、北西部の砂漠にファーリス王子率いる隊とジュイネ達が辿り着くものの、そこには砂漠の殺し屋と呼ばれるデスコピオンの姿はどこにもなかった。
ファーリス王子
「な、何だ⋯⋯どこにも居ないじゃないか! さてはサマディーの誇り高き騎士であるボクの気配を察して逃げたな⋯⋯? はっはっは、大した事ないじゃないか!!」
カミュ
「はぁ⋯⋯調子いいもんだぜあの王子」
セーニャ
「どこに行ったのでしょうね、ここまでの道中も姿を見掛けませんでしたけど⋯⋯」
ベロニカ
「ちょっと待って、相手はサソリでしょ⋯⋯? だったら砂漠の地中に───」
シルビア
「みんな気を付けて、下から来るわよっ!」
ジュイネ
「(下⋯⋯? あっ、ちょうどファーリス王子の足元⋯⋯!)」
ファーリス王子
「うわわぁっ、何だ急に!? ボクの足元が盛り上がって───」
ジュイネ
「ファーリス王子、危ない!!」
ファーリス王子の足元から砂を巻き上げつつ現れたのは紛れもなく砂漠の殺し屋、デスコピオンだった。凶悪な顔と巨体の黄金色の皮膚は見るからに硬く鋭い鎌を持っていて、突如出現した際にファーリス王子を庇いに出たジュイネがデスコピオンの鋭い鎌に左肩を裂かれてしまい二人は真横に倒れ伏す。
ジュイネ
「ぐっ⋯⋯」
ファーリス王子
「う、あ⋯⋯ジュイネさん、大丈夫か⋯⋯?!」
セーニャ
「ジュイネ様⋯⋯! 今回復呪文を───」
シルビア
「待ってセーニャちゃん、今駆け出したらアナタがデスコピオンの標的になるわ。アタシとカミュちゃんでサソリちゃんを引き付けるから、その隙に回り込んでジュイネちゃんを回復してあげて! ベロニカちゃん、攻撃呪文の援護頼むわよっ!」
ベロニカ
「まっかせなさい!!」
ジュイネ
「(デスコピオンの気が僕とファーリス王子から逸れたみたいだけど⋯⋯参ったな、いきなりダメージを受けるなんて)」
ファーリス王子
「あわわっ、左肩から血が⋯⋯どど、どうしよう⋯⋯!?」
ジュイネ
「ファーリス王子、出来るだけデスコピオンから離れて。ここは僕達で何とかするから」
ファーリス王子
「で、でも⋯⋯」
ジュイネ
「君が剣を手に戦えないなら足手まといなんだよ、下がってて!」
ファーリス王子
「⋯⋯⋯!!」
セーニャ
「ジュイネ様、怪我の具合は⋯⋯!? 今、回復しますね⋯⋯!」
デスコピオンの巨体を回り込んでジュイネの元に回復しに来てくれるセーニャ。
ジュイネ
「あ、ありがとうセーニャ⋯⋯(自分でも回復出来るけど、セーニャの方がやっぱり回復呪文の威力が強いな⋯⋯。よし、痛みも引いたし僕も戦闘に加わらないと)」
背から剣を引き抜き、デスコピオンへと颯爽と向かって行くジュイネの背中をファーリス王子は思わず見とれてしまう。
ファーリス王子
「(なんて、かっこいいんだ⋯⋯騎士じゃ、ないはずなのにジュイネさんは───)」
デスコピオンは強敵だったが、ジュイネ達5人が協力して討伐に成功し、ファーリス王子が倒したという証拠とする為に死骸を鎖に繋ぎ台車に乗せサマディー王国に兵士達が運んで行く事となった。
シルビア
「アナタ⋯⋯本当にこのままでいいのかしら? サソリちゃんに一太刀も浴びせてないのに」
ファーリス王子
「仕方、ないだろ⋯⋯民も父上と母上も、実際見てもいないのにボクがデスコピオンを倒したって事にすればそれだけで喜ぶんだから⋯⋯」
カミュ
「お前それ⋯⋯、人のせいにして努力もせず他人に頼ってるだけじゃねーかよ」
ベロニカ
「やめときなさいって⋯⋯それ以上ほんとの事言うと王子様が可哀想よ」
セーニャ
「ファーリス様⋯⋯この件で余計に過度な期待が高まってしまいます。私達のように協力してくれる旅人がまた現れるとも限りません。どこかで見切りをつけて本当の自分をさらけ出さないと、あなた自身がいつか壊れてしまいますよ」
ファーリス王子
「(本当の、自分⋯⋯そんなの見せたら、民も父と母も失望して───)」
ジュイネ
「ファーリス王子、僕達は虹色の枝の件が済んだらサマディーを離れるから⋯⋯これ以上先延ばしにしないでくれると助かるよ」
ファーリス王子
「わ、分かってるさ⋯⋯キミらをこれ以上引き止めたりしない⋯⋯(出来ればボクのお付としてずっと居てもらいたいくらいだけどな)」
シルビア
「さ~て、アタシはここでお別れにしようかしらね、またいつか会いましょ、ジュイネちゃん達! アデュー♪」
ベロニカ
「え、ちょっと⋯⋯! 急に現れて急に居なくなる人ね、結構頼もしかったのに」
セーニャ
「そうですね⋯⋯シルビア様とは近い内にまたお会い出来そうな気がしますわ」
カミュ
「ま、とにかくオレ達はサマディー王国に戻るとするか」
サマディーの城下町では国民と王と王妃が待ちわびており、ファーリス王子が先に帰還しその後に鎖に繋がれて動かないデスコピオンが台車で運び込まれると大歓声が上がった。王と王妃に労われるファーリス王子だが───その時、
デスコピオンを縛っていたはずの鎖がほどけ倒したはずのデスコピオンが息を吹き返したように暴れ出し、民と王や王妃はファーリスが再び倒してくれると信じて疑わずに期待の目を向け、当のファーリスは腰の剣も抜けずにガクブルと震えており、そうしている内にもデスコピオンはファーリスを標的に定め鋭い鎌を素早く振り下ろす。
ファーリス王子
「ひっ⋯⋯!? ───え?」
ジュイネ
「もう⋯⋯、世話が焼けるなぁ、君は⋯⋯っ」
ファーリス王子
「ジュイネ、さん⋯⋯!?」
デスコピオンの鋭い鎌からジュイネがファーリスを庇い、その背中はざっくりと裂かれていて鮮血が滴り民衆から悲鳴が上がる。
ファーリス王子
「二度も、身を省みずにボクを庇ってくれるなんて⋯⋯どうしてキミは、そこまで───」
シルビア
「騎士たる者!」
ファーリス王子
「⋯⋯⋯!?」
良く通る声が頭上から響き渡り、ファーリスが顔を上げた先には尖塔に立つ旅芸人の威風堂々としたシルビアの姿が。
シルビア
「───騎士たる者!!」
ファーリス王子
「どんな、逆境にあっても⋯⋯正々堂々と、立ち向かう⋯⋯!」
そこで意を決したようにファーリスは剣を引き抜き、おぼつかない足でデスコピオンに立ち向かい剣を振り回すも中々当てられず、攻撃を何とか避けつつ一太刀を浴びせた時には剣が折れ飛んでしまい、咄嗟にファーリスは近くに倒れ込んでいるジュイネをデスコピオンから庇うように覆い被さった。
シルビア
「よくやったわファーリスちゃん、後はアタシに任せなさい! ───せーいっ!!」
尖塔から勢いをつけて飛び降り、旅芸人シルビアはデスコピオンに剣で大きな一撃を浴びせ、今度こそ断末魔を上げて頽れたデスコピオンはその後ぴくりとも動かなくなった。
シルビア
「ほらね、アナタだってやれば出来たでしょ?」
ファーリス王子
「あ、あ⋯⋯ありがとう、シルビアさん⋯⋯!」
シルビア
「お礼はアタシじゃなくて、ジュイネちゃんにする事ね」
セーニャ
「ジュイネ様⋯⋯! いくらファーリス様の為とはいえ、無理をし過ぎですわっ」
回復呪文を背中に掛け続けるセーニャ。
カミュ
「(ジュイネならあれくらい剣で受け止められたはずなのに、わざとデスコピオンの鎌を受ける事にしたのか⋯⋯ファーリス王子を突き動かす為に)」
ベロニカ
「あーもう、双賢の姉妹として勇者を護る使命を持つあたし達の立つ瀬がないじゃないのっ」
ジュイネ
「ごめん、みんな⋯⋯心配かけて。うっ、ごほごほ⋯⋯!」
少量ではあるがジュイネは吐血する。
カミュ
「お、おいセーニャどうなってる? ジュイネに回復呪文効いてねぇのかッ?」
セーニャ
「おかしいですわ⋯⋯中々傷が回復しないのは毒が回ってるせいだと思い解毒呪文も使ったのですが、効果がありません⋯⋯。このままでは危険ですわ、きちんとした解毒薬を調合しないと!」
シルビア
「デスコピオンったら、死んだ振りして反撃の機会を伺ってた上に手負いの魔物の意地かしらね、ジュイネちゃんに鎌を当てた際に強毒を与えたのよ。砂漠の殺し屋と呼ばれるだけあるわね⋯⋯」
ファーリス王子
「そんな! ジュイネさんはボクのせいで死んでしまうのか⋯⋯?!」
ベロニカ
「ちょっと、勝手にジュイネをころさないでよ! セーニャとあたしで強力な解毒薬を作るにしても少し時間が掛かるわ⋯⋯この地方の貴重な素材をすぐありったけ掻き集めてちょうだい!!」
ファーリス王子
「それくらい任せてくれ! 多くの兵士達に任せれば───いや、ボクも自分の足で掻き集めるよ! 待っていてくれ、ジュイネさん⋯⋯!!」
カミュ
「ほーん⋯⋯ジュイネが身体を張っただけはあるな。もしこのままジュイネが死ぬような事になったら絶対許さねぇが」
シルビア
「まぁまぁカミュちゃん、そんな殺気立たないの。アタシ達もジュイネちゃんに出来る事をしましょ」
結局の所、ジュイネは三日三晩苦しむ事にはなったが貴重な素材でセーニャとベロニカが協力して調合した強力な解毒薬によって身体から毒が全て抜け、背中に負った大きな傷も回復呪文で治癒した。
その後のサマディー王と王妃はファーリスに過度な期待という重圧を掛けていた事を反省し、当のファーリスは心を入れ替えて日々鍛練に励む事にし、重症から回復したジュイネとその仲間達を玉座の間に呼び改めて虹色の枝の件をサマディー王に申し入れたものの───
ファーリス王子
「⋯⋯何ですって!? 今年のファーリス杯を開催する為に国宝の虹色の枝をダーハルーネの商人に売ってしまわれたのですか?!」
カミュ
「あーぁ、王子も王子なら国王も国王だぜ⋯⋯」
ジュイネ
「あはは⋯⋯仕方ない、よね⋯⋯」
ベロニカ
「あたし達のこれまでの頑張りは、何だったのかしら」
セーニャ
「ま、まぁ⋯⋯次の目的地はダーハルーネという事で⋯⋯」
ファーリス王子
「本当に、ほんっとうに申し訳ない!! 虹色の枝がいつの間にか売られていたなんて知らなかったんだ⋯⋯なのにこんなにジュイネさん達に迷惑を掛けてしまって⋯⋯!」
ジュイネ
「顔を上げてよ、ファーリス王子。手掛かりが全く無くなったわけじゃないし、色々経験も出来たから良しとするよ」
カミュ
「死にかけたくせによく言うぜ⋯⋯」
ファーリス王子
「あぁジュイネさん⋯⋯キミはどこまで素敵な人なんだ⋯⋯! いつか今度は、ボクがジュイネさんを助けられるようになる為に日々鍛練を怠らずに頑張るよっ!」
ジュイネ
「うん、がんばってねファーリス、離れていても応援してるよ」
ファーリス王子
「ぐはぁっ、呼び捨てにしてくれた上に応援してくれるジュイネさんの笑顔が眩しい⋯⋯っ」
ベロニカ
「やっぱり馬鹿じゃないの、この王子」
カミュ
「(全く、無自覚に相手を魅了してんじゃねーよジュイネ⋯⋯先が思いやられるぜ)」
セーニャ
「⋯⋯シルビア様のお姿が見えませんね、またどこかへ行ってしまわれたのでしょうか」
ベロニカ
「あの人旅芸人だし、その内また会えるんじゃない?」
カミュ
「ただの旅芸人にしちゃ、随分腕が立つようだけどな」
サマディー王国の城門前から旅立とうとした時、城壁の上から声が掛かり目の前にあの旅芸人が降り立つ。
シルビア
「ジュイネちゃん達~!」
カミュ
「何だよおっさん、まさか見送りに来たのか?」
シルビア
「その逆よ、アタシもアナタ達の旅に同行させてほしいの」
ジュイネ
「うん、もちろんだよ。みんなも構わないよね」
ベロニカ
「あんた決断早いわね⋯⋯。シルビアさん、あたし達の旅の目的はセーニャが話しちゃったから知ってるはずよね。勇者を護り、邪悪なる闇を退けるって」
カミュ
「そうだぜ、旅芸人のあんたにとっちゃ遊び半分に見えるかもしれねぇけどな⋯⋯」
シルビア
「遊び半分だなんて思ってないわよ。⋯⋯アタシね、世界中の人達の笑顔を守りたいの。けど邪神ちゃんが復活しちゃったらみんな笑えなくなっちゃうでしょ? だからアタシも勇者ちゃん達の仲間になって邪神ちゃん復活を阻止したいのよん」
セーニャ
「何て素晴らしいお心掛けでしょうか⋯⋯! 是非とも一緒に来て頂きたいですわっ」
カミュ
「まぁ⋯⋯そこまで言われちゃあな。遊び半分なんて言って悪かったぜ」
ベロニカ
「そうね⋯⋯あたしからもお願いするわシルビアさん。うちの勇者様はぼーっとしてて危なっかしいからねぇ」
ジュイネ
「あはは⋯⋯。これからよろしくね、シルビア」
シルビア
「もちろんよ~♪ 所でこれからどこへ向かうのかしらっ?」
カミュ
「ダーハルーネって町だな、オレ達が必要としてる虹色の枝がそこ出身の商人に売っぱらわれたらしいからよ」
シルビア
「ダーハルーネといえば貿易が盛んだから、もう別の場所に売られちゃってる可能性もあるわね⋯⋯。そういえばそこの船倉にアタシの船があるのよん。これからの事考えると船は必須よね、ダーハルーネに着いたら好きに使ってくれていいわよん!」
ベロニカ
「え、シルビアさん個人で船を持ってるの?! それって相当身分が高いんじゃ」
シルビア
「やだわぁベロニカちゃんったら、アタシなんて大した事ないわよおほほほっ」
セーニャ
「これで目的がはっきりしましたね⋯⋯。ダーハルーネに虹色の枝が既に無くても、情報を集めて船で行方を追う事も出来ますわ!」
ジュイネ
「(船かぁ⋯⋯川で小舟に乗って遊んだことならあるけど、育った村からほとんど出たことないから初めてかも)」
ダーハルーネにて
ダーハルーネでは海の漢コンテストが開かれていて虹色の枝は既にグロッタという町に売り払われているらしく船も出せずに立ち往生していると、ある子供が呪いで声が出せず材料を揃え囀りの蜜をセーニャが調合。
ベロニカ、シルビア、セーニャの三人がその子の元に薬を渡しに向かいジュイネとカミュは海の漢コンテストが終わらない事には船を出せないのでとりあえずコンテストの席を取っておく為に会場へ赴くがそこには───
ホメロス
「こんな所で浅はかなネズミ共を発見するとは⋯⋯わざわざ出向いた甲斐があったという事か」
ジュイネ
「(あの人は⋯⋯そうだ、デルカダール城の王の間にグレイグ将軍と共に居たホメロスっていうもう一人の将軍。だとしたらこの人が、僕の育ったイシの村を焼き払って───)」
カミュ
「マズいぞジュイネ、ここは逃げるしか⋯⋯!」
しかし多くのデルカダール兵達に退路を断たれる。
ホメロス
「逃がさんぞ、悪魔の子とその仲間よ。───容赦はするな、多少痛めつけて構わん、捕らえよ!!」
カミュ
「クソ、囲まれた⋯⋯いつの間にこんなにデルカダール兵がッ」
ジュイネ
「(どうすれば⋯⋯っ)」
シルビア
「ちよーっと待ちなさーいアナタ達! 神聖な海の漢コンテスト会場でのおイタはダメよ!!」
ベロニカ
「⋯⋯ほらほら、そこから退かないと火傷するわよ!!」
大きな火の玉を作り出しそこから弾けた幾つもの勢いのある火の玉がデルカダール兵達を襲う。
ホメロス
「チッ、まだ仲間が居たのか⋯⋯!」
デルカダール兵達とホメロスがベロニカの攻撃呪文に気を取られている隙に、セーニャが声をなるべく出さずにジュイネとカミュに大きく手招きして逃げ道を確保してくれる。
セーニャ
「(さぁ、今のうちにこちらへ⋯⋯!)」
ジュイネ
「(せ、セーニャ、僕の手を引かなくても)」
ホメロス
「⋯⋯⋯!? 逃がすものかッ!」
コンテスト会場から逃げ出すジュイネに気付いたホメロスは、その背中へ向けて闇の呪文を放つ。
カミュ
「───ジュイネ、危ねぇッ!」
ジュイネ
「えっ⋯⋯?」
ジュイネへ放たれた闇の呪文に気付いたカミュは身体を張ってジュイネを守り、闇の呪文の直撃を受けてうつ伏せに倒れ込む。
カミュ
「う、ぐ⋯⋯ッ」
ジュイネ
「カミュ!」
セーニャ
「カミュ様⋯⋯!?」
カミュ
「オレに構うな、そのまま逃げろジュイネ⋯⋯!!」
ジュイネ
「けど⋯⋯!」
セーニャ
「⋯⋯⋯っ!」
ジュイネ
「セーニャ⋯⋯?!」
カミュの意思を尊重したセーニャはジュイネの手を強く引いてその場から逃れ、倒れたままのカミュは多くのデルカダール兵に追いつかれ捕まる。シルビアはカミュを今は助けられないと判断し、ベロニカと共にセーニャとジュイネに続いてその場から逃れ船のドッグ近くの死角に隠れる。
シルビア
「ふぅ、何とかあの場から逃げられたけど⋯⋯」
ジュイネ
「僕を庇って捕まってしまったカミュをすぐに助けないと⋯⋯!」
ベロニカ
「待ちなさいってジュイネ、気持ちは分かるけど町中にデルカダール兵が配置されてるのよ? 無策で突っ込んでもすぐ捕まるのがオチだわ」
セーニャ
「カミュ様、大丈夫でしょうか⋯⋯あの冷たい瞳の将軍に何か酷い事をされてなければいいのですが」
シルビア
「まずはカミュちゃんの状況を把握しないとね、なるべく高い所からコンテスト会場を見てみましょ。その為には兵士達に見つからないように行動しなきゃね」
ジュイネ
「(カミュ⋯⋯)」
ジュイネ達は夜間のダーハルーネを巡回するデルカダール兵達の目を欺きつつ、高い位置にある渡り橋の上に降り立って町の北端のコンテスト会場に目を凝らした。
⋯⋯すると柱に磔にされ項垂れているカミュを見つけ、そのすぐ近くに脅すように佇むホメロス将軍がまるでジュイネ達がすぐ近くに居るのを把握しているかの如く朗々と声を上げる。
ホメロス
「悪魔の子ジュイネよ、仲間をなぶり殺されたくなければさっさと姿を見せるのだな! それとも、こいつはもうお前にとって不要なのかッ?」
ジュイネ
「あいつ⋯⋯!」
シルビア
「ジュイネちゃん、挑発に乗っちゃダメよ。彼の思う壷だから。確か裏手に回れる道があったわね⋯⋯そこから奇襲を掛けましょ」
ベロニカ
「シルビアさん、さすが頭の回転が早いわね⋯⋯」
セーニャ
「ジュイネ様、落ち着いて確実にカミュ様をお助けしましょう」
ジュイネ
「分かってる、⋯⋯行こうみんな」
ホメロス将軍とデルカダール兵に占領されたコンテスト会場の裏手に回り込んだジュイネ達は、背後からホメロスに奇襲を掛ける。
ホメロス
「⋯⋯⋯!? 悪魔の子とそれに付き従うドブネズミらしくコソコソと⋯⋯貴様らなど私一人で十分だ、わざわざ囚われに戻った事を後悔させてやるッ⋯⋯!」
二刀流での剣技とガード率の高さ、闇の呪文や状態異常を駆使するホメロスに手こずるジュイネ達だが、何とかホメロスに膝をつかせその隙に縛られたカミュを救出する。
ジュイネ
「カミュ、大丈夫?」
カミュ
「オレに構うなって言ったのに危険を冒してまで助けに来るとはな⋯⋯」
ジュイネ
「何かを果たすためにカミュにとって勇者の力が必要なんでしょ、だったらこんな所で終わるわけにいかないよね」
カミュ
「へへ、言ってくれるぜ⋯⋯ありがとなジュイネ」
ホメロス
「⋯⋯仲間を助けて余裕振っている場合か、悪魔の子よ?」
数多くのデルカダール兵がジュイネ達5人をじりじりと海沿いに追い込み迫る。
ホメロス
「ククク⋯⋯そのまま海に飛び込んでサメにでも喰われるか、大人しく我々に捕まるか選ぶがいい」
ジュイネ
「⋯⋯ホメロス将軍、あなたにひとつ聴きたいことがある」
ホメロス
「ほう⋯⋯? 悪魔の子などに語る口はないつもりだが良いだろう、特別に聴いてやる」
ジュイネ
「グレイグ将軍は⋯⋯今どうしてる?」
ホメロス
「⋯⋯何故お前がグレイグを気にする必要がある」
表情が一層冷たくなるホメロス。
ジュイネ
「⋯⋯⋯⋯⋯」
ホメロス
「そういえば、アイツもやけに悪魔の子を気にしていたな⋯⋯。勇者を育てた村人を全員皆殺しにしようとしていた所に勝手に現れ、殺す必要は無いと宣ったが⋯⋯フン、今思えば情けを掛けずに皆殺しにすべきだったな。いや⋯⋯今からでも遅くはないか。地下牢に閉じ込めている村人全員を殺すくらいはな⋯⋯?」
ジュイネ
「⋯⋯⋯っ!」
キッとホメロスを睨み据えるジュイネ。
ホメロス
「あぁ⋯⋯そういえばグレイグの事だったか。奴はお前をデルカコスタ地方で捕えられなかったのを咎められ、暫く謹慎処分となったぞ。相変わらず馬鹿な奴だ⋯⋯それでも地下牢に閉じ込めているイシの村の住民の世話を怠らないときたものだ」
ジュイネ
「(⋯⋯⋯! グレイグ、将軍───)」
ホメロス
「成程⋯⋯お前の拷問にあたった兵士達によれば、確かに“そちらの気”があるな」
ジュイネ
「(⋯⋯⋯?)」
シルビア
「!! もう大丈夫よジュイネちゃん達、アタシに任せてっ」
何かに気付き一人海に飛び込むシルビア。
ベロニカ
「えっ、シルビアさん⋯⋯??」
セーニャ
「わ、私達も飛び込んだ方がいいのでしょうか⋯⋯!?」
ホメロス
「ハハハッ、これは愉快なものだな! 早速仲間に裏切られるとは───」
汽笛の音と共に大型船が颯爽と現れ、陸を面してギリギリに通り過ぎようとする。
シルビア
「みんな~、飛び乗るのよ~!!」
カミュ
「あのおっさん、いつの間に船に⋯⋯」
ジュイネ
「とにかく、言われた通り船に飛び乗ろう!」
ジュイネ達は意を決して船に飛び移り、デルカダール兵達は船で逃げられるのを阻止しようと試みるが鎧を着込んでいるせいもあって跳躍力が出ずに海に何人か落ちて行き、大型船は速度を増してダーハルーネから離れる。
ホメロス
「フン、このまま逃げ切れると思うなよ⋯⋯!」
ベロニカ
「⋯⋯ちょ、ちょっと! 前方にでっかいイカが現れたわよ!?」
シルビア
「やだぁ、クラーゴンじゃないのよ! 外海ならともかくこんな内海に現れるなんて聞いてないわっ!?」
セーニャ
「このままではあの大きな触手に船が絡めとられてしまいます⋯⋯!?」
カミュ
「戦う⋯⋯にしたって圧倒的に不利だが、やるしかねぇだろッ」
ジュイネ
「(勇者の力⋯⋯勇者の力ってこんな時にどうやって出せば)」
そこに大砲の音が響いてくるとクラーゴンに次々に直撃して行き、多くの船団が現れジュイネ達の乗る船を援護し、その船団を仕切るのはダーハルーネの町長で喋れなくなった息子を囀りの蜜で回復してくれた礼としてジュイネ達を助けてくれたのだった。
喋れるようになった男の子の話によると、喉に強力な呪いを掛けたのはホメロス将軍らしく、海沿いで魔物と話していたのを見られたのに対する口封じだったらしい。
ダーハルーネの町長は咎められるのを覚悟の上でジュイネ達をその場から逃してくれたのだった。
ホメロス
「(悪魔の子⋯⋯いや、勇者ジュイネよ。いずれその勇者の力、必ずやあの方に献上してみせよう)」
ベロニカ
「ふぅ⋯⋯ダーハルーネの人達とシルビアさんの船のお陰で、何とか逃げきれたわね」
シルビア
「船の舵を握ってくれてるのはアリスちゃんっていうの、よろしくねっ♪」
セーニャ
「それにしても立派な船ですわ⋯⋯シルビア様凄いんですね!」
シルビア
「セーニャちゃんったら照れちゃうじゃな~い、大した事ないわよアタシなんてっ」
カミュ
「さて、ダーハルーネの町長によると虹色の枝の商談はグロッタって町に決まったらしいからまずは内海からバンデルフォン地方に降り立たねぇとな」
ジュイネ
「⋯⋯⋯⋯」
カミュ
「お、おいどうしたジュイネ、何かフラついてんぞ? 船酔いでもしたか?」
ジュイネ
「え? そうなの、かな⋯⋯。何だか、緊迫した状況から解放されたら気が抜けた感じがして⋯⋯」
言いながら気を失いそうにジュイネが倒れ掛かるのをカミュが支える。
セーニャ
「ジュイネ様、カミュ様が捕まった時かなり心配しておられましたから⋯⋯ご自分を責めていらしてましたし」
カミュ
「あれはお前のせいじゃないだろ⋯⋯オレの意思で庇ったんだ、責任感じる必要ねぇよ」
ジュイネ
「だけど⋯⋯」
今にも気を失いそうな朧気な目をする。
カミュ
「あーもう、今は何も考えずにお前はもう寝ろ。⋯⋯おっさん、船室に休めるとこあるんだろ?」
シルビア
「もちろんよ、ちゃんと整ってるから遠慮なく使って頂戴ねっ」
ベロニカ
「じゃあカミュ、ジュイネの事お願いね。⋯⋯言うまでもないと思うけど変な気は起こさない事よ?」
カミュ
「起こさねぇっつのッ」
ジュイネ
「(グレイグ、将軍は⋯⋯イシの村のみんなを、守ってくれてる⋯⋯。早くみんなを、解放してあげられるように⋯⋯強く、ならなきゃ───)」
ジュイネは一時的に深い眠りに落ち、その後は体調も回復して目覚め、一行は船でバンデルフォン地方へ赴きユグノア地方のグロッタの町を目指す。
【仮面武闘会】につづく