DQ11短編集   作:風亜

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 主人公は男装設定、性別逆転しても大して変わらず。仲間もそれを承知済み。仮面武闘会編をベースに所々手を加えた話。【勇者として立つ宿命】のつづき


仮面武闘会

カミュ

「ここがグロッタか⋯⋯って、何で街の中央の高台にデルカダールの将軍のバカデカいグレイグみてぇな像があるんだよッ?」

 

ジュイネ

「わ、わぁ⋯⋯」

 

シルビア

「う~ん、そうねぇ⋯⋯この街でも何かしらの功績を上げたんじゃないかしら?」

 

セーニャ

「い、今にも襲い掛かって来そうな勢いがありますね⋯⋯」

 

ベロニカ

「ジュイネを執拗に追ってる将軍でしょ? 何にしたって気分のいいもんじゃないわねっ」

 

ジュイネ

「⋯⋯⋯⋯」

 

ベロニカ

「ちょっとあんた、見上げたまま何ぼーっとしてるのよ?」

 

ジュイネ

「えっと、すごいなぁと思って⋯⋯」

 

カミュ

「見とれてたのかよ⋯⋯」

 

バニーガール

「そこのお兄さんお姉さん達! グロッタに来たのは初めて? 今こんなイベントが開催されてるから、是非参加してみてね♪」

 

 ジュイネが受け取ったチラシを覗き込むカミュ。

 

カミュ

「ほーん、仮面武闘会か⋯⋯。優勝者には豪華賞品を贈呈、なぁ。面白そうだが、虹色の枝を探してるオレ達には関係なさそうだな」

 

シルビア

「ちょっと覗いて見るのもいいんじゃな~い? 有益な情報が得られるかもよん」

 

セーニャ

「人だかりが出来ているみたいですね⋯⋯武闘会の受付けでしょうか」

 

ベロニカ

「───あっ、見て! 受付けの右側に飾られてるのって、虹色の枝じゃない!?」

 

ジュイネ

「確かに枝っぽくて、キラキラしてるね⋯⋯」

 

荒くれ男

「あれが今大会の優勝賞品、虹色の枝なんだとよ。結構価値あるそうだぜ? 左側のは準優勝賞品のイエローオーブとかいう宝石らしいな!」

 

ベロニカ

「⋯⋯今の聞いた? ビンゴねっ! こうなったら武闘会に出場して優勝するしかないわ!」

 

カミュ

「おチビちゃんは観戦してろよ、オレが出てやるぜ」

 

ベロニカ

「へぇ? 言うじゃない⋯⋯だったら優勝してもらおうかしらねっ」

 

セーニャ

「わ、私も出場した方がいいのでしょうか⋯⋯?」

 

シルビア

「セーニャちゃん、無理しなくていいのよん。⋯⋯アタシも出場しようかしら、仲間と途中で当たっちゃう可能性もあるけど優勝の確率を上げといた方がいいわよね~」

 

ジュイネ

「だったら僕も出場するよ」

 

カミュ

「いや、お前は目立たねぇ方が⋯⋯」

 

ジュイネ

「仮面付けて闘うなら大丈夫じゃないかな」

 

カミュ

「そんなもんなのか⋯⋯?」

 

ベロニカ

「話聞いてきたけど抽選会でペアを決めるそうよ。誰と当たっても上手く協力して闘いなさいよねっ」

 

カミュ

「(ジュイネと当たれば戦い易いし、守ってやれるんだが⋯⋯)」

 

 受付けを済ませ、グロッタ闘技会場の抽選会に臨む

ジュイネ、カミュ、シルビア。ベロニカとセーニャは観客席で見守る。

 

ジュイネ

「(僕が割り当てられた番号は11⋯⋯。そして仮面武闘会と言うだけあってこの仮面を付けて闘うのか⋯⋯。うーん、似合ってるのかな⋯⋯自分じゃ分からないや。みんな個性的な仮面してるなぁ、被らないように一つ一つ違うみたいだ)」

 

ジュイネ

「(⋯⋯あ、抽選会が始まった。司会の人が箱から番号を取り出して決まった番号同士の人がペアになるのか⋯⋯)」

 

ジュイネ

「(───えっ、いきなり11番の僕が呼ばれた。き、緊張する⋯⋯司会の人の近くに行けばいいのかな。8番の人とペアになるのか⋯⋯一体どんな)」

 

女武闘家

「⋯⋯⋯⋯」

 

ジュイネ

「(わ⋯⋯ど、どうしよう、すごく綺麗な人⋯⋯)」

 

女武闘家

「よろしくね」

 

ジュイネ

「(こ、声も深くて素敵な⋯⋯あ、手を差し出されたから握手しなきゃ)」

 

謎の老人

「───ちょいと待つのじゃ」

 

ジュイネ

「(⋯⋯えっ?)」

 

謎の老人

「どこの馬の骨とも知らん奴に姫を任せられん、この抽選はやり直しじゃ」

 

ジュイネ

「(ぁ⋯⋯握手、出来なかった)」

 

女武闘家

「⋯⋯⋯⋯」

 

ジュイネ

「(あのお爺さんが司会者さんに耳打ちしたら、司会者さんがどこかへ行って戻って来たと思ったら抽選のやり直し⋯⋯そんなの有りなんだ。しかもお爺さん、僕が組むはずだった女性と組んじゃったし)」

 

ジュイネ

「(かなり残念だな⋯⋯あんな綺麗な人と一緒に闘ってみたかった。それにしてもさっきのお爺さん、8番の女性をヒメって呼んだ気がする。どういう関係なんだろう⋯⋯)」

 

ジュイネ

「(今度は7番の人になったみたいだ、これでちゃんと決まってくれるといいけど)」

 

ハンフリー

「⋯⋯7番は俺だな。チャンピオンのハンフリーだ、よろしく頼むよ」

 

ジュイネ

「よ、よろしくお願いします⋯⋯ジュイネ、です。(チャンピオンってことは以前優勝してるんだ。屈強で頼もしそう⋯⋯グレイグ将軍といい勝負かも)」

 

ハンフリー

「抽選会が終わったら、少し話をさせてくれないか。予選は明日からだし折角ペアになったんだ、お互いの事をそれなりに知っておかないとな」

 

ジュイネ

「分かりました。えっと、どこで⋯⋯?」

 

ハンフリー

「これでも俺は孤児院を運営していてな、街の下層の北西に教会があるんだが、そこが孤児院になってるんだ。抽選会後に来てくれると助かる」

 

ジュイネ

「はい、そうします」

 

 

 抽選会終了後、一旦宿屋に集合する一行。

 

カミュ

「ジュイネのペアは前大会優勝者のチャンピオンか⋯⋯さすがついてるよなお前」

 

ジュイネ

「そうかな⋯⋯僕としてはあの女武闘家さんでもよかったんだけど」

 

カミュ

「オレのペアはミスター・ハンとかいう格闘家だが⋯⋯まぁ美人と組みたかったお前の気持ちも分かるぜ」

 

ベロニカ

「二人してなーに言ってるんだが⋯⋯そんな事言ってると痛い目見るわよっ」

 

セーニャ

「シルビア様は、女性から人気の高いマスク・ザ・ハンサム様とペアになられたんですよね!」

 

シルビア

「そうなのよ~、マスクしてないとシャイな子みたいだけど早速親睦を深めに行こうと思ってるのよねぇ~!」

 

カミュ

「お互い準決勝まで行けたら正々堂々勝負しようぜッ」

 

シルビア

「フフン、アタシもサプライズで闘える事を楽しみにしてるわん!」

 

ジュイネ

「うん、勿論だよ。⋯⋯あ、そういえばハンフリーさんと約束があったんだ。ちょっと街の下層の教会まで行ってくるね、そこがハンフリーさんの運営してる孤児院だそうだから」

 

カミュ

「そうか、まぁ孤児院運営してるような人物なら問題ないだろ。けどあんま遅くなるなよ?」

 

ベロニカ

「⋯⋯あんたはジュイネの親か何かなわけっ?」

 

 

 ハンフリーの待つ教会の孤児院へ。

 

ハンフリー

「あぁ、来てくれたかジュイネ」

 

ジュイネ

「(教会の中に、子供達がいっぱい⋯⋯)」

 

子供

「ねーねーハンフリーお兄ちゃん、この人だぁれ?」

 

ハンフリー

「この人はな、今度の武闘会で俺と組む事になったジュイネさんだ」

 

子供

「そうなんだぁ。⋯⋯お兄ちゃんなの? お姉ちゃんなの??」

 

ジュイネ

「(そこ、気になるんだ⋯⋯)」

 

ハンフリー

「ほら、お客さんを困らせちゃいけないぞ。俺はこの人と話があるから、みんなは好きに遊んでろよ」

 

子供達

「はーい!」

 

 教会の地下にある庭に連れられ背もたれの無い連なったベンチに向かい合って座る。

 

ハンフリー

「⋯⋯俺も孤児院で育った恩があるから、賞金稼ぎをして孤児達の世話をしててな」

 

ジュイネ

「そうなんですね⋯⋯」

 

ハンフリー

「だから今大会も、負ける訳にはいかない。そこで聞いておきたい事がある⋯⋯お前は男子か女子、どちらなんだ? 子供達と同じ問いで悪いな」

 

ジュイネ

「⋯⋯⋯。ハンフリーさんからしたら、どっちに見えます?」

 

ハンフリー

「外見上、判別が付きにくいんだが⋯⋯どちらかというと、男装しているように見えなくもないな」

 

ジュイネ

「⋯⋯⋯⋯」

 

ハンフリー

「すまん⋯⋯何か事情があるようだが俺の闘い方も違ってくるんでな、はっきりさせてほしいんだ」

 

ジュイネ

「僕が男か女かで、あなたの闘い方が違うんですか⋯⋯?」

 

ハンフリー

「あぁ、まぁ⋯⋯女子なら体力面の心配もあるし、出来るだけ守ってやるべきだろう?」

 

ジュイネ

「⋯⋯大丈夫です、守ってもらわなくてもちゃんと闘えます。何なら大剣だって扱えるし、呪文もそれなりに使えますから」

 

ハンフリー

「大剣⋯⋯背丈はそれなりにあるみたいだが、その細身でよく扱えるな」

 

ジュイネ

「見てて危なっかしいと仲間にも言われるけど、僕自身扱う分には苦じゃないです(重いのは確かだけど⋯⋯)」

 

ハンフリー

「ほお、人は見掛けによらないもんだ。他に扱える武器は?」

 

ジュイネ

「あとは片手剣と⋯⋯武器じゃないけど盾くらいです」

 

ハンフリー

「つまり剣類に特化してるのか、まだ若いのに凄いな。俺は爪装備くらいだな⋯⋯。呪文をそれなりに使えるなら、回復呪文もか?」

 

ジュイネ

「はい、自分のことは自分で回復出来ます」

 

ハンフリー

「そうか⋯⋯なら余り気遣いは無用だな。俺は呪文は使えないが、回復アイテムくらいは持ってるから問題ないぞ」

 

ジュイネ

「回復アイテム⋯⋯使ってもいいんですね」

 

ハンフリー

「あぁ、呪文は使える者と使えない者に分かれるものだし、仮面武闘会では多少の回復アイテムの使用は認められているんだ」

 

ジュイネ

「なるほど⋯⋯」

 

ハンフリー

「───よし、これで心配事はほぼ無くなった。しっかり闘えるならお前が男だろうが女だろうと関係はない、共に優勝を目指すのみだ。改めてよろしくな、相棒!」

 

ジュイネ

「はい、よろしくお願いしますハンフリーさん」

 

ハンフリー

「うーん、敬語は堅苦しくて相棒らしくないな。タメ口でいいんだぞ、あと呼び捨てにしてくれて構わないからな」

 

ジュイネ

「あ、えっと⋯⋯分かったよハンフリー」

 

ハンフリー

「あぁ。⋯⋯さぁ、もう宿屋に戻って休むといい。明日の試合前に迎えに行くからな」

 

ジュイネ

「うん⋯⋯えっと、その前に」

 

ハンフリー

「ん、何だ相棒?」

 

ジュイネ

「その上腕二頭筋⋯⋯触ってもいい?」

 

ハンフリー

「別に構わないぞ、⋯⋯ほら」

 

 ジュイネに片腕を差し出すハンフリー。

 

ジュイネ

「わぁ⋯⋯すっごくカチカチ。グレイグ将軍もこんな感じなのかな⋯⋯」

 

 惚れ惚れするように両手で触れるジュイネ。

 

ハンフリー

「ジュイネ、お前もしかしてグロッタの彫像のグレイグ将軍に憧れてるのか?」

 

ジュイネ

「うん、あの彫像かっこいいよね。ずっと見てたいくらい」

 

ハンフリー

「あの像はな、16年前この街を襲った魔物の群れを倒してくれたグレイグ将軍への感謝の気持ちの証で作られたんだ。今でも彼は、この町の英雄だな」

 

ジュイネ

「そう、だったんだ⋯⋯(16年前ユグノアが魔物の大軍に襲われた時に溢れた魔物がグロッタにも押し寄せたのかな)」

 

ハンフリー

「俺の筋肉は、歴戦の英雄には遠く及ばない。何せ俺は──いや、何でもない。上腕二頭筋に触れるのはそれくらいにして、宿屋に戻ったらどうだ?」

 

ジュイネ

「あ、そうだね⋯⋯触らせてくれてありがとう。それじゃ、明日からの試合がんばろうねハンフリー

 

 ジュイネは笑顔でその場を後にする。

 

ハンフリー

「(⋯⋯俺にとって武闘会の相棒は所詮優勝する為の駒でしかない。しかしあいつは⋯⋯不思議と守ってやりたいと思えるような奴だな。男か女は、別として)」

 

 

 

 

 翌日の予選第一試合はハンフリー&ジュイネのチームと、ガレムソン&ベロリンマンのチームの対戦。さほど苦戦せずに勝利し、その後の試合も危なげなく予選突破したハンフリーとジュイネは決勝トーナメント進出。

 

カミュは予選でペアのミスター・ハンと共に謎の女武闘家と謎の老人のペアと対戦したが、女武闘家の華麗な脚技に呆気なく予選敗退。シルビアは自身のペアと共に余裕で予選突破したらしかった。

 

仮面武闘会予選終了後一旦ハンフリーと別れたジュイネ。何やら会場出入り口にてベロニカとカミュが言い争いを始めていた。

 

ベロニカ

「予選落ちって何やってんのよ、あんたあの女武闘家に見とれてたんじゃないのっ?」

 

カミュ

「んな訳あるか、あの女めちゃくちゃ強かったんだよ! じいさんの方は余裕こいて何もして来なかったが⋯⋯女武闘家だけでも規格外の強さだったぜ」

 

ベロニカ

「その上すごーくセクシーだったもんねぇ? 集中力失うのも当然だわっ」

 

カミュ

「だから見とれてた訳じゃねーって───」

 

ジュイネ

「確かにあのマルティナって人強かったよね、決勝トーナメントで当たったらかなり苦戦するかも」

 

カミュ

「そ、そうだぜ、気を付けろよジュイネ。前大会優勝者とペアだからって油断すんなよッ」

 

セーニャ

「ジュイネ様、予選突破おめでとうございます! カミュ様は残念でしたが、シルビア様も予選突破されましたよっ」

 

ジュイネ

「⋯⋯あれ、シルビアの姿が見えないけどどうしたの?」

 

ベロニカ

「なーんかペアの人と更に親睦を深めてくるとか言って町の上層に行っちゃったわよ」

 

謎の老人

「⋯⋯お前さん達、すまんが道を譲ってくれんかの」

 

女武闘家

「⋯⋯⋯⋯」

 

ジュイネ

「(わ⋯⋯、蝶を象った仮面をしてる時も綺麗だったけど、仮面を取ってる素顔はもっと綺麗⋯⋯)」

 

 謎の老人と女武闘家のペアがいつの間にか一行の前に現れていた。

 

ベロニカ

「あ、ごめんなさいねおじいちゃん。通せんぼしてたわ、今道を空けるわね。⋯⋯ほらカミュ、脇に逸れなさいよっ」

 

カミュ

「分かってるっつの⋯⋯」

 

 去り際、女武闘家がジュイネに一瞥を向け一言残してゆく。

 

女武闘家

「───ハンフリーには気を付けなさい」

 

ジュイネ

「え⋯⋯?」

 

ベロニカ

「⋯⋯行っちゃったけど、さっきの言葉ってどういう意味かしら?」

 

セーニャ

「そういえば、武闘大会に参加なさっている闘士の方が次々に行方不明になっているという噂を耳にしましたが⋯⋯」

 

カミュ

「おいおい、それってヤバくないか? ジュイネにはオレ達がついてるからまだいいとして、ジュイネのペアのハンフリーに何かあったら⋯⋯いや待てよ、そのハンフリーに気を付けろって何のこった?」

 

ジュイネ

「⋯⋯何だか気になるから、ハンフリーが住んでる下層の方の孤児院に行って様子を見てくるよ」

 

カミュ

「ならオレも付いてくぜ、今お前一人に行動させるのはよくないだろうからな」

 

ベロニカ

「予選落ちしたカミュにジュイネを任せるのは不安だけど、気を付けて行きなさい。用事が済んだらすぐ宿屋に戻って来るのよっ」

 

セーニャ

「私とお姉様はシルビア様のいる上層に向かって注意を呼びかけておきますわ」

 

 ジュイネとカミュはハンフリーの住んでいる孤児院へ向かった。

 

カミュ

「⋯⋯ベロニカの奴、一言多いんだっつの」

 

ジュイネ

「あのマルティナって人に目を奪われるのも、無理ないと思うよ。僕だってつい見とれちゃうし」

 

カミュ

「あのなぁジュイネ、んな事言ってたら女武闘家と当たった時オレと同じ目に遭うぜッ?」

 

ジュイネ

「はは⋯⋯そうだね、気をつけるよ」

 

カミュ

「ん⋯⋯? あの教会が孤児院か? 手前に突っ立ってるの、ハンフリーみてぇだが何してんだ?」

 

ジュイネ

「ハンフリー、どうし──」

 

ハンフリー

「───!!」

 

 ジュイネがハンフリーの背後に近づき呼び掛けた瞬間、

振り向き様ハンフリーはジュイネに拳を突き付けかける。

 

ジュイネ

「わっ⋯⋯?!」

 

カミュ

「テメェ、どういうつもりだッ!」

 

ハンフリー

「おっと、すまん⋯⋯あんた達だったか。闘士の行方不明が噂になってるもんで、賊かと思って反撃しそうになっちまった」

 

カミュ

「ペアのジュイネの気配を賊と勘違いするのはどうかと思うぜ⋯⋯まぁ、元盗賊のオレが一緒に居たからかもしんねぇが」

 

ジュイネ

「何人かの闘士が行方不明になってるのは僕も聞いたよ。だからハンフリーの様子が気になって⋯⋯」

 

 その時、孤児院の中からガラスの割れるような鈍い音が聞こえてくる。

 

ハンフリー

「!? 俺の部屋の辺りから聞こえたぞ⋯⋯鍵を掛けていたはずだから、孤児院の子供達の悪戯とは考えにくい⋯⋯だとしたらッ」

 

ジュイネ

「あ、ハンフリー⋯⋯!?」

 

カミュ

「何なんだ、いったい」

 

ジュイネ

「悪い人が裏口から押し入ったんなら孤児院の子供達も心配だよ、僕らも行こうカミュ!」

 

カミュ

「んっとに、しょうがねぇなッ」

 

 急いで孤児院の中に入っていくハンフリーの後をジュイネとカミュも追う。

 

ハンフリー

「──賊はもう逃げたか⋯⋯子供達に危害は及ばなかったようだが、俺の部屋だけ荒らされた。それで済んで良かったと思うべきか」

 

ジュイネ

「(闘士の行方不明と関係あるのかな⋯⋯)」

 

カミュ

「あんたの部屋、やたら小瓶が転がってやがるが⋯⋯」

 

ハンフリー

「触るんじゃない! あ、いや⋯⋯窓ガラスの破片も散らばっているから、迂闊に拾い上げない方がいい。心配を掛けてすまんが大した事じゃないさ、明日からの決勝トーナメントに支障は無い。あんた達はすぐ宿屋に戻って休んでくれ。道中、くれぐれも気を付けてな」

 

 ジュイネとカミュは半ばハンフリーの部屋から追い出される形で孤児院を後にする。

 

カミュ

「雲行きが怪しくなってきたもんだ⋯⋯優勝賞品の虹色の枝の為とはいえ、この武闘会自体無事に終えられるか怪しいもんだぜ。とにかく周囲を警戒しつつ早く宿屋に戻るとしようぜ、なるべくオレから離れるなよジュイネ」

 

ジュイネ

「うん⋯⋯(ハンフリーの部屋に何本もあった小瓶、何なんだろ⋯⋯)」

 

 

 ───翌日からの決勝トーナメント、第1戦はビビアン&サイデリアのお色気チームとハンフリー&ジュイネのチームの対戦。

 

 「ビビアンでーす♡」

 

 「サイデリアでっす」

 

ハンフリー

「二人の色香に惑わされるなよ、ジュイネ。⋯⋯と、その心配は無かったか」

 

ジュイネ

「うん、大丈夫だよ(女武闘家のマルティナさんに比べたら⋯⋯って、比べちゃダメか)」

 

ビビアン

「は~いボクちゃん、こっち見てぇ~⋯⋯うふん♡」

 

 ウィンクを飛ばすビビアンだが、ジュイネはキョトンとしている。

 

ジュイネ

「⋯⋯?」

 

ビビアン

「えっ、やだぁ実はボクちゃんってば“そっち”だったのぉ?」

 

 ジュイネとハンフリーはお色気ペアに惑わされる事なく勝利し準決勝に進出。⋯⋯そして準決勝の試合前、控え室にてハンフリーはあるひとつの小瓶を飲み干していた。予選や決勝トーナメントでは試合前に飲んでいた姿は見なかった為、何を飲んだのかと聞くと「準決勝ともなると相手は相当強いだろうから景気づけのようなもの」と答え、お前もどうだとひとつ勧められたが気が進まなかったジュイネは断っておいた。

 

準決勝の対戦相手は、異色のコンビとされるレディ・マッシブとマスク・ザ・ハンサムだった。

 

レディ・マッシブ

「おほほ! こうして戦えるのを楽しみにしていたわよ、ジュイネちゃん!」

 

ジュイネ

「あ、シルビ⋯⋯」

 

レディ・マッシブ

「のんのん、今のアタシはレディ・マッシブ! 正々堂々、戦いましょっ!」

 

 レディ・マッシブとマスク・ザ・ハンサムは中々トリッキーな攻撃を仕掛けて来るためジュイネとハンフリーは少々苦戦を強いられ、ジュイネに至ってはレディ・マッシブから《ポワゾンベーゼ》なる投げキッスを受け毒状態になってしまう。

 

ジュイネ

「(ゔっ⋯⋯シルビアってばいつの間にこんな技⋯⋯あ、アイテム使って治すべきかな)」

 

ハンフリー

「──ジュイネ、俺が二人を引き付けている間にこれを飲め!」

 

ジュイネ

「え⋯⋯?」

 

 ハンフリーから投げて寄越されたのは、例の小瓶だった。

 

ジュイネ

「(ハンフリーは試合前の控え室で景気づけに飲んでるって言ってたけど、回復アイテムだったのかな⋯⋯? って、考えてる時間ないから飲むしか)」

 

 ハンフリーが対戦相手を引き付けている内にジュイネは急いで小瓶の蓋を開け中身を飲み干す。──そのねっとりとした口当たりと独特の風味に一瞬物凄い吐き気を覚えたが、次の瞬間には毒状態が消え体力も回復し身体が熱くなり気力が湧いてくる。

 

ジュイネ

「(す、すごい⋯⋯何の回復アイテムか分からないけど、今なら負ける気がしない⋯⋯!)」

 

 ジュイネはすぐ様反撃に転じ、お返しとばかりにレディ・マッシブに強烈な一撃を大剣でおみまいし撃破、ハンフリーはマスク・ザ・ハンサムを倒して準決勝を勝ち抜いた。

 

レディ・マッシブ

「や、やるじゃないの⋯⋯流石アタシの見込んだ子ね⋯⋯。さっきの一撃、痺れたわよん⋯⋯! アデューっ!」

 

 レディ・マッシブとマスク・ザ・ハンサムは負けながらも華麗にジャンプして退場した。

 

ハンフリー

「やったな、相棒! 流石に準決勝ともなると苦戦したが、勝てて良かった。ここまで来たら決勝戦、必ず勝って優勝しような!」

 

ジュイネ

「う、うん、もちろん⋯⋯!(あれ、何だろ⋯⋯毒状態とは違う気持ち悪さが───)」

 

 決勝戦を明日に控え試合を終えたジュイネは、気分の悪さを覚えながらハンフリーと別れ、他の仲間の待つ宿屋前に戻った。

 

シルビア

「熱烈な戦いだったわねん⋯⋯! アタシ、今夜は眠れそうにないわっ」

 

ベロニカ

「やったね、ジュイネ! これで明日の決勝戦に勝てば、虹色の枝を手に入れられるわよっ!」

 

ジュイネ

「そう、だね⋯⋯」

 

セーニャ

「あら⋯⋯? どうされましたジュイネ様、顔色が優れないようですが」

 

カミュ

「シルビアのおっさんのポワゾンベーゼがまだ効いてんじゃねーか?」

 

シルビア

「んもう、カミュちゃんったら失礼しちゃ──」

 

 そこで突然、ジュイネは皆の見ている前で口元を抑えたかと思うと堪えきれず、体勢を崩し両膝を付いて床に嘔吐してしまう。

 

セーニャ

「ジュイネ様⋯⋯!?」

 

ベロニカ

「ちょっ、どうしちゃったのよジュイネ⋯⋯?!」

 

カミュ

「⋯⋯冗談のつもりだったのにマジだったのかッ?」

 

シルビア

「ご、ごめんなさいジュイネちゃんっ、そんなにアタシのポワゾンベーゼが効き過ぎちゃったのかしら⋯⋯!?」

 

ジュイネ

「げほっ、げほ⋯⋯ち、違うよ⋯⋯シルビアの、せいじゃない⋯⋯多分、ハンフリーから寄越されたあの薬⋯っ」

 

 ジュイネは再び吐いてしまい、その際に不気味な燐光を放つライトグリーンの液体を吐き出す。

 

カミュ

「なッ、何だこの色⋯⋯? こんなもん口にしたのか?」

 

ジュイネ

「はぁ、はぁ⋯⋯小瓶の色は、青色だったから⋯⋯中身の色までは、分からなかったけど⋯⋯」

 

セーニャ

「ジュイネ様、大丈夫ですか? まだ、気持ち悪いのでしたらこのまま全部吐き出してしまった方がいいかもしれません」

 

 心配そうにジュイネの背中を摩るセーニャ。

 

 

マルティナ

「───どうしたの?」

 

 宿屋前を通りかかった女武闘家のマルティナが異変に気付いて駆け寄って来る。

 

ベロニカ

「あっ、えっと⋯⋯彼、急に嘔吐しちゃって」

 

マルティナ

「準決勝、観ていたわ⋯⋯。ハンフリーから寄越された小瓶を飲んでしまったようね。あの場合は仕方ないのかもしれないけれど⋯⋯」

 

 ジュイネの顔色を心配そうな面持ちで片膝を付き、覗き込むように見る女武闘家。

 

ジュイネ

「ふぅ⋯⋯、吐いてしまったら何だかすごく楽になったような感じがする⋯⋯」

 

マルティナ

「薬を全部吐き出したからかしら⋯⋯。とにかくすぐ横になって休みなさい、明日は決勝戦でしょう。⋯⋯私と、ロウ様と戦う事になるのよ」

 

ジュイネ

「(あ、そういえば僕達より先に決勝が決まってたんだっけ⋯⋯)」

 

マルティナ

「⋯⋯いい? 試合前や試合中にあの小瓶を渡されても、君は絶対にもう飲んじゃダメ。飲んだ振りをして仕舞っておいて、後で必ず捨てなさい」

 

ジュイネ

「わ、分かりました⋯⋯」

 

カミュ

「おいあんた⋯⋯、あの小瓶の中身が何なのか知ってんのか?」

 

マルティナ

「今は、まだ⋯⋯いえ、近い内にあなた達にも判るわ。それまでは、ハンフリーの前では知らない振りをして頂戴。それじゃ⋯⋯お大事にね」

 

 すっくと立ち上がった女武闘家は、その場を優雅に立ち去ってゆく。

 

シルビア

「う~ん、もしかしてその薬⋯⋯強力な増強剤みたいなものなんじゃないかしら。身体への反動も酷そうねぇ」

 

ベロニカ

「それってドーピングじゃないのっ。ハンフリーは試合前にいっつもそれ飲んでたわけっ?」

 

ジュイネ

「うぅん⋯⋯予選の時とか決勝トーナメントの序盤は控え室で飲んでるようには見えなかったけど、準決勝ともなると苦戦しそうだから景気づけにって飲んでるのは見たよ。僕もその時勧められたけど断ったんだ⋯⋯試合中に寄越された時は、飲んじゃったけど」

 

セーニャ

「ハンフリー様の身体も、ある意味心配ですね⋯⋯ジュイネ様が1回だけ飲んだだけでも嘔吐してしまうような薬のようですし」

 

ジュイネ

「ドーピング、だったとすると⋯⋯僕とハンフリーはズルをしたってことだからあの準決勝は無効、だよね」

 

シルビア

「のんのん、ハンフリーちゃんはともかくジュイネちゃんは知らずに飲まされたんだから、準決勝を無かった事にする必要はないわよん。明日の決勝戦、頑張ってねジュイネちゃん♪」

 

ジュイネ

「うん⋯⋯、ありがとう。あ、吐いちゃった宿屋前を綺麗にしないと」

 

カミュ

「それくらいオレとおっさんに任せて、お前は今すぐ宿屋のベッドで休めっての。⋯⋯ベロニカ、セーニャ、ジュイネを頼むぜ」

 

ベロニカ

「オッケーよっ!」

 

セーニャ

「お任せ下さい。さぁ、ジュイネ様⋯⋯私の肩をお貸しますから、宿内のベッドまで参りましょう」

 

ジュイネ

「ごめんね、みんな⋯⋯迷惑かけて」

 

ベロニカ

「これくらいどってことないわよ、あんたもある意味災難だったわけだし⋯⋯とりあえずあんたは明日、ハンフリーの持つ薬を使わず優勝することだけ考えなさいっ。半分正攻法じゃなくても⋯⋯虹色の枝はゲットしなきゃね」

 

 

 

 

 仮面武闘会決勝戦当日。

 

ジュイネ

「───ん⋯⋯」

 

セーニャ

「あ、ジュイネ様、目が覚めましたか? そろそろ起こさなくてはと思っていたのですが⋯⋯」

 

ジュイネ

「あれ、えっと⋯⋯今日って決勝戦だよね。もしかして僕、寝過ごしたっ?」

 

ベロニカ

「大丈夫よ、決勝戦は午後からでしょ? 朝にしては確かに遅い時間ではあるけど、なるべくあんたを休ませておきたかったから早朝には起こさなかったのよ。身体の方はもう平気なの? 気持ち悪さとか残ってない?」

 

ジュイネ

「うん、むしろなんて言うか⋯⋯」

 

 ぐうぅ~⋯⋯っと腹の虫が鳴く。

 

ジュイネ

「あっ⋯⋯ごめん」

 

セーニャ

「ふふふ⋯⋯、お腹の中が空っぽなのも無理はありませんわ」

 

ベロニカ

「あははっ、それだけお腹の虫が元気ならもう大丈夫そうね! カミュとシルビアさんはもう起きてるわよ、あんたは決勝戦前にさっさと食堂でちゃんと食事を摂らないとねっ」

 

 宿屋の階下ではカミュとシルビアが待っていた。

 

シルビア

「おっはよ~んジュイネちゃん! 顔色も良さそうだし、決勝戦も出場出来そうかしらっ」

 

カミュ

「飯、食えそうか? もしまだ調子悪かったら、決勝戦は無理しなくても──」

 

 返事をする代わりに、ぐうぅ~っと再びジュイネの腹の虫が鳴き出す。

 

カミュ

「ははッ、その様子じゃ心配要らなそうだな?」

 

ジュイネ

「うぅ⋯⋯ご飯食べてお腹の虫黙らせて来ます⋯⋯」

 

 

 ジュイネは主食のシチューを頼みつつ、野菜と果物を中心にもくもくと食してお腹を満たしてゆく。

 

ベロニカ

「あんたにしてはよく食べるわねぇ⋯⋯決勝戦前なんだしちゃんと動ける範囲で留めときなさいよっ?」

 

ジュイネ

「うん、分かって⋯⋯けふ、けふっ」

 

カミュ

「噎せてるじゃねぇか全く⋯⋯世話の掛る奴だぜ」

 

 ジュイネの背中を摩るカミュ。

 

ベロニカ

「そういえばハンフリーって前の大会で優勝してるのよね? まさかと思うけどその時も増強薬を使ったのかしら」

 

シルビア

「そうねぇ⋯⋯孤児院を運営してるんだし、仮面武闘会に優勝して稼がなきゃならないのも判らなくはないけど⋯⋯。そういえば前回大会でも闘士の行方不明が出ていたって話を聞いたわよ?」

 

セーニャ

「気になりますね⋯⋯女武闘家のマルティナ様は、ハンフリーに気を付けなさいと仰っていましたし、闘士の行方不明に関係しているのでしょうか⋯⋯」

 

カミュ

「それもそうとハンフリーとジュイネが優勝したとして、賞品の虹色の枝を入手してもそれをすぐ売り払ってその大金を山分け⋯⋯って話に持ってかれそうだな。こうなりゃ薬の件暴露して、ジュイネだけ虹色の枝を入手出来るようにすりゃ⋯⋯」

 

ベロニカ

「うまいこと言い逃れされそうな気もするわね⋯⋯。それにハンフリーが闘士の行方不明にも関係してるとしたら、優勝後にジュイネに手を出されそうだし虹色の枝を売った大金を一人でせしめそうだわ⋯⋯!」

 

ジュイネ

「みんな、考えすぎるのはよくないよ。マルティナさんが、近い内うちに全て分かるようなことも言ってたし⋯⋯それまでは、ハンフリーに対して知らない振りをして僕は決勝戦をやり過ごすから」

 

カミュ

「⋯⋯まぁとにかく、オレらはお前に危害が及ばねぇようにハンフリーを警戒しとくぜ。色々腑に落ちねぇが、決勝戦頑張ってこいよッ」

 

 

 ──仮面武闘会決勝戦前の控え室にて──

 

ハンフリー

「いよいよ決勝戦だ⋯⋯景気づけに、飲んでおくか」

 

ジュイネ

「⋯⋯⋯⋯」

 

 ハンフリーは隠す気もなくジュイネの前で例の小瓶をひと飲みする。

 

ハンフリー

「⋯⋯お前も、飲んでおくか? 前の試合中に渡して飲んだ時、その効果は実感してるだろう?」

 

ジュイネ

「あ、いや⋯⋯遠慮しておくよ。実は試合後にハンフリーと別れたあと、気持ち悪くなってお腹の中のもの全部吐いちゃったんだ」

 

ハンフリー

「そうだったか⋯⋯まぁ無理強いはしないさ。俺も慣れない内はそんなもんだったが⋯⋯いや、何でもない。そろそろ決勝戦の舞台に立つとしようか」

 

ジュイネ

「うん⋯⋯」

 

 仮面武闘会決勝戦、謎の老人ロウと美しき女武闘家マルティナとの闘いが始まった。

 

足払いや怒涛の蹴り技を繰り出す女武闘家と、攻撃呪文や状態異常、回復といった多彩な呪文を駆使して翻弄してくる謎の老人。それに対しハンフリーとジュイネは臆する事なく善戦してゆくが、ハンフリーは明らかに対戦相手の攻撃を一切ものともせず両手にはめている爪装備で目にも止まらぬ素早い連続攻撃で圧倒しており、ジュイネの出る幕が余りなかった。

 

ジュイネ

「(前の試合の時よりも能力が向上してるような⋯⋯薬の効果を強めたのかな)」

 

マルティナ

「──坊や、油断してると痛い目を見るわよ!」

 

ジュイネ

「え? ──うわっ」

 

 ハンフリーの攻撃を華麗に躱しつつジュイネに攻撃を定めた女武闘家は強力な蹴りを見舞うが、ジュイネは受け身を取ろうと素早く両腕をクロスさせる。

 

マルティナ

「!! そのアザ、やっぱり⋯⋯!?」

 

ジュイネ

「(あれ、攻撃を当てて来ない⋯⋯??)」

 

ロウ

「なんじゃと、だとするとお主は⋯⋯ッ」

 

 女武闘家と謎の老人は一心に、ジュイネが防御体勢をとってクロスさせている両腕の左側の手の甲を驚きの表情で見つめている。

 

ハンフリー

「何処を見てるのか知らんが、油断もいいとこだぜッ!」

 

 隙を見逃さなかったハンフリーはまず謎の老人に不意打ちを掛けて戦闘不能に追いやり、次にすぐ様女武闘家の体勢を崩させる。

 

ハンフリー

「今だジュイネ、最後の一撃をくれてやれッ!」

 

ジュイネ

「(な、何だか複雑な気分だけど⋯⋯やるしかないっ)」

 

 ハンフリーに言われた通りジュイネは、体勢を崩した女武闘家に剣で追い討ちを掛け戦闘不能にさせ、武闘大会は

ハンフリー&ジュイネチームの優勝となった。

 

その後すぐに優勝セレモニーが行われトロフィーを授与されたが、肝心の優勝賞品の虹色の枝を渡される前にハンフリーが胸を押さえ苦しみ出し、倒れてしまったが為に優勝セレモニーはハンフリーの体調を考慮し後日、行われる運びとなった。

 

ジュイネはひとまず宿屋に戻り、仲間達と話し合う事にする。

 

カミュ

「おいおい⋯⋯ハンフリーが飲んでたっていう小瓶の中身、相当ヤバいんじゃねーか⋯⋯?」

 

セーニャ

「ジュイネ様の場合はお腹の中のものを全部吐き出した事ですっきりなさったようですが、ハンフリー様は試合の度に飲み続けていたようですし⋯⋯」

 

シルビア

「常用してたんだとしたら、身体への負担は相当ね⋯⋯。ジュイネちゃん、前の試合後に全部吐き出して正解だったと思うわ。危ないお薬が身体の中に蓄積されるのは絶対に良くないもの⋯⋯」

 

ベロニカ

「自業自得じゃない? 孤児院の為に優勝するにしてもズルしてたんじゃあ、ねぇ⋯⋯。それにしても虹色の枝がお預けになっちゃったけど、後日貰えたとしてハンフリーが都合よく虹色の枝を渡してくれるわけないわよね⋯⋯?」

 

ジュイネ

「ハンフリーが倒れる直前、優勝賞品の虹色の枝を売ってその金を山分けしようって言ってたから⋯⋯渡してくれる気はないと思う」

 

カミュ

「大会運営に事実を話しちまえばいいんじゃねーか? ジュイネは一度飲まされただけだし、あくまでドーピングしてたのはハンフリーだけなんだからよ、ジュイネだけが虹色の枝を貰ったって問題ないと思うぜ」

 

シルビア

「う~ん、そう上手く行くかしらねぇ。大会のやり直しをしようにも闘士が次々に行方不明になってるし、大会自体が中止になったら優勝賞品すら無かった事になりそうよ? それか、来年に持ち越しとかねぇ⋯⋯」

 

ベロニカ

「冗談じゃないわよ、来年まで待ってられないわっ! あたし達双賢の姉妹には、勇者を導く使命があるっていうのに⋯⋯!」

 

セーニャ

「邪神復活に早急に備えなければなりませんものね⋯⋯」

 

 宿内の部屋で話し合っていると、ドアをコンコンとする音が聞こえ呼び出しの声がかかる。

 

 

「⋯⋯わしじゃよ、ジュイネという少年と決勝戦で闘ったロウじゃ。すまんが、開けてくれんかの」

 

ジュイネ

「あ⋯⋯はい、今開けます」

 

ロウ

「ふむ⋯⋯お主の仲間も、揃っておるようじゃの」

 

カミュ

「何だよじいさん、いきなりオレらの居る部屋にやって来て⋯⋯つか、あの女武闘家はどうした?」

 

ロウ

「それがのう⋯⋯いつの間にか行方不明になってしまったんじゃ」

 

ジュイネ

「えっ⋯⋯? それってまさか、例の闘士達の行方不明事件と関係が」

 

ベロニカ

「でも変じゃない? あんなに強い女武闘家さんなんだし、そう簡単に攫われそうにないんだけど」

 

ジュイネ

「ハンフリーが能力を向上させる薬を使ってなかったらあんなに簡単に勝てなかったし寧ろ、負けてたと思う⋯⋯。確かにマルティナさんなら、誰かに襲われたとしてもすぐ返り討ちにしそうだけど」

 

セーニャ

「不意打ちで呪文などで眠らされたりしたら、無抵抗で連れ去られてもおかしくはありませんが⋯⋯」

 

シルビア

「ねぇロウちゃん、マルティナちゃんが行方不明になる前に何処に居たか見当はつくかしらん?」

 

ロウ

「そうじゃのう⋯⋯ハンフリーの動向が気になるからと、一人で孤児院に向かったようなんじゃが」

 

カミュ

「ハンフリーは優勝セレモニーでいきなりぶっ倒れて、今孤児院で安静にして寝てんだろ? 見張る意味あんのか??」

 

ベロニカ

「なーんかきな臭いわねぇ⋯⋯」

 

ジュイネ

「とにかく孤児院に行ってみない? ハンフリーは休んでるだろうから話は聞けそうにないけど、子供達からは話を聞けるだろうし」

 

ロウ

「一緒に姫を探してくれるのなら心強いの、では行くとしようか」

 

ジュイネ

「あの、ロウさん⋯⋯マルティナさんを姫って呼ぶのは、どうして」

 

ロウ

「うむ⋯⋯それはまたの機会に、な」

 

ジュイネ

「(うーん、これじゃあ僕の左手の甲のアザを見て驚いてたのも今は聞けそうにないかな)」

 

 孤児院に向かうと、そこでは何やら子供達や数少ない大人達が慌てた様子だった。

 

ロウ

「一体、どうしたのじゃ?」

 

子供

「ハンフリー兄ちゃんがいつの間にか部屋からいなくなってて⋯⋯みんなで探してるんだけど見つからないんだ! 兄ちゃん、まだ寝てなきゃいけないのにっ」

 

カミュ

「マジか、ハンフリーもとうとう行方不明に⋯⋯」

 

青年

「あんた達、ちょっと相談なんだが⋯⋯。おれも孤児院に恩があって手伝ってる身なんだけどな、この孤児院の下層に⋯⋯普段は中庭のような所で子供達を遊ばせてる場所なんだが、そこで妙な入口を見つけたんだ」

 

ジュイネ

「妙な、入口⋯⋯?」

 

青年

「今まで上手く物で隠されてたみたいなんだが、今になって分かるくらいに隙間が空いてて見つけたんだ。けどそこは大きな蜘蛛の巣が張り巡っておまけに魔物が多く徘徊してるみたいで、一般人のおれには中を調べる勇気が無くてさ⋯⋯」

 

ベロニカ

「ちょっと待って! ねぇ⋯⋯あたし達がここに来る前に、セクシーな女武闘家さんが来てなかった?」

 

青年

「あぁ、来てたよ。ハンフリーさんと話したがってたけどまだ寝てるから無理だって話したら、出直すって⋯⋯。彼女が出て行った直後に扉向こうから大きな物音が聞こえて、外へ出て確認したけど誰も居なかったな⋯⋯」

 

シルビア

「あらま、もしかしてその直後にハンフリーちゃんも居なくなってた事にみんな気付いたんじゃないかしらん?」

 

青年

「その通りだよ⋯⋯。孤児院の下層の方でも妙な物音が聞こえたもんだから恐る恐る見に行ったら、今まで見えなかったはずの洞窟への入口を見つけたのさ。もしかしたら、悪い魔物にハンフリーさんが捕まっちまったんじゃないかって心配でな⋯⋯」

 

ロウ

「なるほどのう⋯⋯調べてみる価値はありそうじゃの」

 

セーニャ

「マルティナ様もその奥に連れ去られた可能性もありますものね⋯⋯」

 

ジュイネ

「じゃあ、孤児院の下層で見つかった洞窟の入口に入ってみよう。蜘蛛の巣も張り巡っていて魔物も徘徊してるみたいだから、気をつけて探索しないと」

 

 

 

 

 孤児院の下層、地下洞窟にて。

 

ベロニカ

「⋯⋯うわっ、ちょっと何なのよこの洞窟、どこもかしこも蜘蛛の巣だらけじゃない! 気持ち悪いったらありゃしないわねっ」

 

セーニャ

「ただの蜘蛛の巣にしては、随分規模が大きいですね⋯⋯。巨大な蜘蛛でも巣食っているのでしょうか?」

 

ジュイネ

「(きょ、巨大な蜘蛛⋯⋯)」

 

シルビア

「いや~ん、先に進もうにも蜘蛛の巣が連なってるから道を開けて行かないと絡まっちゃうわよんっ」

 

ロウ

「さて、どうしたものか⋯⋯」

 

カミュ

「んなもん、ベロニカの炎の呪文で燃やし尽くしちまえばいいんじゃねーか?」

 

ベロニカ

「あら奇遇ね、あたしも同じこと考えてたわっ。じゃ早速───」

 

ロウ

「いや、待つのじゃ魔法使いの少女よ。⋯⋯これ程の規模の蜘蛛の巣を1箇所でも燃やせば延焼を起こし、洞窟内が火の海になってしまうぞい。本当に姫とハンフリーがこの洞窟に連れ去られているのならまずい事になるじゃろう」

 

ベロニカ

「あっ、そっか⋯⋯ならやめておくわね。けどそれじゃどうすればいいのかしら?」

 

ジュイネ

「ぼ⋯⋯僕が先行して蜘蛛の巣を払い除けるから、みんなはその後から付いてきてよ」

 

カミュ

「払い除けるったって⋯⋯どうすんだジュイネ?」

 

ジュイネ

「大剣でこう⋯⋯払い除けて───うわぁ?!」

 

 大剣で斬り払うというより、大剣の先に絡まった範囲の広い蜘蛛の巣が上部から垂れ下がってきてしまい、ジュイネは頭から蜘蛛の巣を被ってしまった。

 

セーニャ

「あぁっ、大丈夫ですかジュイネ様⋯⋯!?」

 

ジュイネ

「うぅ⋯⋯身体に張り付いた蜘蛛の巣がベタベタして取りづらい⋯⋯っ」

 

カミュ

「しょうがねぇ奴だな⋯⋯ほら、取っ払うの手伝ってやっから動くなって」

 

シルビア

「アタシも手伝うわよん。あら~⋯⋯ジュイネちゃんのサラサラヘアーに細かい蜘蛛の巣が付いちゃって全部取るのは難しいわね⋯⋯。この洞窟での探索が終わったら、すぐに湯浴みしないとねん」

 

ロウ

「ふーむ、範囲の広い蜘蛛の巣が道を塞いでいる度にこれでは、奥まで行くのに時間が掛かってしまうのう⋯⋯。ジュイネ、先程お主が蜘蛛の巣を大剣で払おうとした動作じゃが、勢いが足らなかったのではないか?」

 

ジュイネ

「あ、えっと⋯⋯何となく躊躇しちゃって」

 

ベロニカ

「ジュイネ⋯⋯あんたもしかして蜘蛛の巣苦手なんじゃないのっ?」

 

ジュイネ

「えっ⋯⋯でも誰だってこれだけ大きな蜘蛛の巣張ってたら気持ち悪く思わない? 小さな蜘蛛とか巣なら、平気なんだけど⋯⋯」

 

セーニャ

「そうでしょうか⋯⋯私は寧ろキレイに見えますよ。造形美というか⋯⋯蜘蛛の巣って、雨上がりだとキラキラするんですよねっ」

 

ジュイネ

「セーニャって、もしかして虫全般に強いの⋯⋯?」

 

ベロニカ

「あたしはそこそこ苦手だし、確かにこれだけ大きな蜘蛛の巣は気持ち悪いって思うけど⋯⋯セーニャは小さい頃から虫関係は強い方なのよねぇ」

 

ジュイネ

「そ、そうなんだ⋯⋯」

 

セーニャ

「ジュイネ様は蜘蛛の巣が苦手なのですね⋯⋯。それなら私にお任せ下さい、蜘蛛の巣は私が両手で払いながら先行しますから、皆様はその後から付いてきて下さいませっ」

 

 何の躊躇もなく道を塞ぐ連なった蜘蛛の巣に直進して行こうとするセーニャ。

 

ジュイネ

「ま、待ってセーニャ。連なった蜘蛛の巣の先に魔物も居るし、やっぱり僕が先行するよ。今度はちゃんと、勢いよく蜘蛛の巣を払い除けるから⋯⋯!」

 

 ジュイネは連なる蜘蛛の巣へ向けて集中し大剣で渾身斬りを放ち、広範囲の蜘蛛の巣が自分達の方に垂れ下がって来ないようなるべく前方に押しやり道を開く。

 

カミュ

「やれば出来るじゃねぇか、ジュイネ!」

 

ロウ

「ふむ、これならば問題なく進めよう。⋯⋯早く姫とハンフリーを見つけなければな」

 

 ───あちらこちらに張り巡らされた広範囲の蜘蛛の巣を払い除けつつ徘徊する魔物を退治しながら、孤児院の地下洞窟の最奥と思われる場所まで来ると隙間の開いた大きな扉があり、そこを覗き込むとハンフリーの姿が見え誰かを抱えていて、その人物を下ろすと声高に何物かの名を呼ぶ。

 

ハンフリー

「⋯⋯アラクラトロ様! 本日の獲物を捕らえて来ました!」

 

 

「フシュルルルル⋯⋯」

 

ジュイネ

「ひっ、ほんとに巨大な蜘蛛⋯⋯むぐっ」

 

カミュ

「(静かにしろってジュイネ⋯⋯! 見つかっちまうだろッ。隙を見て乗り込むんだよ)」

 

 巨大な蜘蛛が現れたのを見て思わず大きな声を出しかけたジュイネの口元を後ろから両手で塞ぐカミュ。

 

アラクラトロ

「ほう、これは良い女武闘家だな⋯⋯。さぞ濃厚なエキスが搾り取れる事だろう⋯⋯!」

 

ジュイネ

「(マルティナさん⋯⋯!?)」

 

ハンフリー

「もう一人連れて来る予定でしたが⋯⋯その者には仲間が多く付いているので少々無理でした」

 

シルビア

「(あら~、それってやっぱりジュイネちゃんの事よね)」

 

ベロニカ

「(闘士達の行方不明事件⋯⋯ハンフリーが犯人だったわけね。優勝セレモニーで倒れたのは演技だったのかしらっ)」

 

セーニャ

「(扉向こうはかなり広い空間になっているようですが、何でしょう⋯⋯よく見ると天井から幾つも何かがぶら下がっていますね⋯⋯? 不気味な燐光を放った繭ですわ⋯⋯)」

 

ロウ

「(やはり、そうか⋯⋯)」

 

アラクラトロ

「早速、この女武闘家からエキスを───」

 

マルティナ

「──そうは行くものですか!」

 

 倒れていたはずの女武闘家マルティナが瞬時に起き上がると同時にアラクラトロという巨大蜘蛛にひと蹴り浴びせ、すぐにハンフリーからも距離をとる。

 

ハンフリー

「なッ⋯⋯」

 

マルティナ

「悪いわね、元凶を突き止める為にわざと捕まってあげたのよ」

 

ハンフリー

「く⋯⋯、たった一人でアラクラトロ様の巣に来た所であんたに何が───」

 

 そこでジュイネ達が一斉にその場に飛び出す。

 

ジュイネ

「マルティナさん!」

 

ロウ

「⋯⋯姫よ、ご苦労じゃったな」

 

マルティナ

「ふふ⋯⋯ロウ様だけじゃなく、キミ達も来てくれたのね」

 

ジュイネ

「後は僕らに任せて下さい⋯⋯あ、あの巨大な蜘蛛とハンフリーは僕らが何とかしますから」

 

ロウ

「姫は、あの繭に閉じ込められておる闘士達を助けてやってくれんか」

 

マルティナ

「判りました。どうか巨大蜘蛛には気を付けて」

 

ハンフリー

「闘士達のエキスは、俺にも必要な物だ。アラクラトロ様の邪魔はさせん⋯⋯!? うぐッ、こんな、時に⋯⋯ッ!(胸を押さえ苦しみ倒れる)」

 

ロウ

「⋯⋯ハンフリーよ、お主の身体はそのエキスによってボロボロじゃ。孤児院の為に賞金を稼がねばならんのは判るが、やり方が悪かったな」

 

アラクラトロ

「フシュルルルル⋯⋯そいつはもう使い物にならんか。身体を向上させるエキスを分けてやる代わりに、闘士達を数年前から捕らえさせてきたが⋯⋯まぁ良い。16年前に憎きグレイグから受けた傷を癒すのに大分時間が掛かったが⋯⋯」

 

ジュイネ

「グレイグ、将軍⋯⋯!?(こんな奴からグレイグ将軍の名前を聴くことになるなんて。それにしても、巨大蜘蛛は見てるだけで嫌だな⋯⋯)」

 

アラクラトロ

「そろそろ地上に出てもいい頃合いか⋯⋯この街を我だけで壊滅させるくらいの力は溜め込んで来たからな⋯⋯試しにお前達の相手をして肩慣らしといこうか⋯⋯!!」

 

 アラクラトロはいきなり行動不能にする呪縛糸を放ち、躱した者もいれば幾重にも糸に絡まれ動きが取れなくなった者もおり、更に次の瞬間には避けきれない広範囲に渡る鋭い棘の嵐を降らせてくる。

 

ジュイネ

「(ぐっ、何て強力な攻撃なんだ⋯⋯! 16年前にグレイグ将軍がアラクラトロと戦った時よりずっと強くなってるのかな⋯⋯とにかく反撃を)」

 

 させまいとするかのようにアラクラトロは全体を混乱に陥れる《メダパニーマ》を放つ。

 

ジュイネ

「(あっ、あれ⋯⋯?? 僕は一体、何をすれば??)」

 

ロウ

「⋯⋯しっかりするのじゃ!」

 

 そこへ謎の老人ロウが《キアラル》を唱え、混乱状態を解消してくれる。

 

ジュイネ

「(た、助かった⋯⋯これでまもとに戦える⋯⋯!)」

 

 ジュイネは渾身斬りで反撃し、呪縛糸から解かれ動けるようになった仲間も回復行動や補助、畳み掛けるようにアラクラトロに攻撃を加えてゆく。

 

アラクラトロ

「ぬゔぅ⋯⋯! そこの大剣使いの餓鬼め⋯⋯憎きグレイグを彷彿とさせる⋯⋯!」

 

ジュイネ

「!?」

 

 アラクラトロはジュイネに狙いを定め、素早く鋭い前脚の攻撃によりジュイネを猛毒状態にする。

 

ジュイネ

「(ゔっ、ぁ⋯⋯気持ち悪すぎて、身体が───)」

 

 他の仲間が回復行動をとる前に再び呪縛糸で行動不能にし、猛毒状態で立っていられなくなり膝をついたジュイネへ向けアラクラトロは鋭い前脚で串刺しにしようとする。

 

マルティナ

「──させるものですか!!」

 

 そこへ間一髪女武闘家が割って入り華麗な脚技でアラクラトロを後退させる。

 

ジュイネ

「マルティナ、さん⋯⋯!」

 

マルティナ

「私が引き付けておくから、今の内に毒消しを!」

 

ジュイネ

「(そ、そうだ、回復アイテム⋯⋯!)」

 

 鞄から毒消しを取り出し口に含むが、特殊な猛毒のせいか効きが悪くすぐには回復しない。

 

ジュイネ

「(他のみんなは呪縛糸で動けないし、僕とマルティナさんでやるしか⋯⋯!)」

 

 ジュイネはその直後ゾーン状態に入り、同じくゾーンになったマルティナと協力してアラクラトロを相手に、呪縛糸や死グモの棘を素早く躱してアラクラトロの顔面の傷跡に強烈な会心の蹴りと大剣での会心の一太刀を浴びせ、撃破する。

 

アラクラトロ

「グギャアアァ⋯⋯!? 気に入らぬ⋯⋯気に入らぬぞ⋯⋯!! あの忌々しいグレイグという人間にやられたと同じようにやられるとはァ⋯⋯!?」

 

 アラクラトロは断末魔と共に黒い霧と化し消滅した。

 

ジュイネ

「はぁ、ふぅ⋯⋯何とか、倒せたけど⋯⋯けほっ、けほ⋯⋯!」

 

 気持ち悪さで咳き込むジュイネ。

 

マルティナ

「大丈夫⋯⋯じゃないわね。私は呪文はさっぱり使えないから⋯⋯」

 

 マルティナがジュイネの背中を摩る。

 

セーニャ

「すみません、ジュイネ様⋯⋯、呪縛糸から中々抜け出せず回復が遅れてしまって。今、身体から毒を消し去りますわ⋯⋯!」

 

ロウ

「ちょいと、待ってくれんかのお嬢さん。わしに、任せてもらえんか」

 

セーニャ

「あ、そういえばロウ様も回復呪文を扱えるのでしたね。そう仰るならお願い致しますわ」

 

ロウ

「ぬーん⋯⋯《キアリー》! ⋯⋯どうじゃ? 身体から猛毒は抜け切ったかの?」

 

ジュイネ

「う、うん⋯⋯大分楽になったけど⋯⋯うっ、吐き気が、まだ」

 

ロウ

「ふむ⋯⋯念の為この超万能薬を飲むと良い。お主が喰らったアラクラトロの猛毒の効果は通常より高いようだしの」

 

ジュイネ

「え、でもその薬、かなり高価なんじゃ⋯⋯」

 

ロウ

「いいんじゃよ、お主らはわしの頼みを聞いてここまで付き合ってくれたのじゃし、元凶も倒せたしの」

 

カミュ

「じいさんがいいって言ってんだから飲んどけよ⋯⋯ほら」

 

 ジュイネに水の入った皮袋を渡すカミュ。

 

シルビア

「そうよん、気持ち悪いままなんて嫌でしょ?」

 

ジュイネ

「うん⋯⋯それじゃあ、遠慮なく」

 

 超万能薬を口に含み、水と共に飲み込む。

 

ジュイネ

「⋯⋯⋯⋯」

 

ベロニカ

「気分はどお、ジュイネ?」

 

ジュイネ

「わぁ⋯⋯すぐに気分が良くなったよ。ありがとう、ロウさん」

 

ロウ

「うむ、顔色も良くなったようで何よりじゃ。さて⋯⋯」

 

 上体を起こし座り込み、項垂れているハンフリーに目を移すロウ。

 

ハンフリー

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

 

ロウ

「魔物の甘言に従ったお主のやり方は確かに間違っておったが、まだやり直せるはずじゃ」

 

ハンフリー

「⋯⋯⋯?」

 

ロウ

「わしがこの街の町長に話をつけてしんぜよう。なに、悪いようにはせんよ。孤児院がこの先も運営してゆけるよう取り計らうとしようぞ」

 

ハンフリー

「う、うぅ⋯⋯ッ。ありがとう、ございます⋯⋯。そして本当に、申し訳なかった⋯ッ!」

 

 ハンフリーはその場で泣き崩れた。

 

ジュイネ

「(ハンフリー⋯⋯)」

 

 持ち越されていた優勝セレモニーは、翌日行われる運びとなりとりあえず一行はそれぞれハンフリーは孤児院へ、女武闘家のマルティナと謎の老人ロウは別の宿屋、そしてジュイネ達5人はいつもの宿屋で休む事となる。

 

 

 

ベロニカ

「───ジュイネ⋯⋯ジュイネってば。昨日の今日だしまだ寝てたいのも分かるけどそろそろ起きた方がいいわよ、優勝セレモニーに間に合わなくなるわ」

 

ジュイネ

「ぁ、うん⋯⋯そうだね、起きるよ」

 

セーニャ

「ジュイネ様、身体の調子は如何ですか?」

 

ジュイネ

「大丈夫、何ともないよ。むしろ調子はいいくらいだし」

 

セーニャ

「良かったですわ、アラクラトロが精製したエキスや猛毒による後遺症は心配ありませんね」

 

 宿屋の階下に降り、先に起きていたカミュとシルビアとも合流する。

 

カミュ

「ハンフリーは先に闘技場に行ってるってよ、優勝賞品の虹色の枝は売ったりせずオレ達に寄越してくれるそうだが⋯⋯何かスッキリしねぇな」

 

シルビア

「事情が事情とはいえ実質ハンフリーちゃんの罪は公(おおやけ)にはしない方向だものねぇ。まぁその分、これからは正しい方向で孤児院の運営に力を注いでもらいましょ」

 

ジュイネ

「そういえば、マルティナさんとロウさんは⋯⋯」

 

ベロニカ

「二人は先に準優勝賞品のイエローオーブを受け取って、もう町から旅立ったそうだわ。せめてちゃんとお別れくらいしたかったわね」

 

ジュイネ

「そっか⋯⋯(結局あの二人は、何者だったんだろう。いい人達なのは間違いないけど)」

 

 そしてハンフリーとジュイネは仮面武闘会待合室で挨拶こそするもののどこか気まずく会話が進まないまま、闘技会場にて優勝セレモニーが始まった。

 

司会者

「───それでは! 仮面武闘会を制したハンフリー&ジュイネチームには優勝賞品の虹色の枝を贈呈⋯⋯」

 

ハンフリー

「ちょっと待った。⋯⋯ここはチームとして優勝した者同士、エキシビションマッチと行こうじゃないか。勿論、勝った者だけが虹色の枝を手にする事が出来るんだ」

 

ジュイネ

「えっ⋯⋯?」

 

 司会者からエキシビションマッチが伝えられると会場は大いに盛り上がる。

 

ジュイネ

「ハンフリー、どうしてそんな」

 

ハンフリー

「いいんだ、エキスの力を借りない俺の実力を観客に見せしめる良い機会さ。⋯⋯遠慮は要らないぞジュイネ、どちらが本当に強いかはっきりさせようじゃないか!」

 

 爪装備を構えるハンフリーと、剣を構えるジュイネ。

 

ジュイネ

「⋯⋯!」

 

 

 ───エキシビションマッチとは到底言えないほど、呆気なくハンフリーはジュイネに敗れ、会場はざわめく。

 

ハンフリー

「ハハ⋯⋯俺の実力なんて、こんなもんさ。俺はこれを機に闘士を引退する、そもそも⋯⋯闘士である資格すらないから、な」

 

 踵を返し退場して行くハンフリーに、温かい声援が送られる。それは、例え正攻法でなくともこれまでいい試合を見せてくれたせめてもの観客からの感謝の気持ちだったらしく、それを受けたハンフリーは罪悪感と共に涙を流しつつも背筋を伸ばしその場を後にした。

 

司会者

「⋯⋯何とも波乱の多い大会ではありましたが改めて! 真の優勝者であるジュイネさんに虹色の枝の贈呈を」

 

ジュイネ

「(真の優勝者って⋯⋯複雑すぎるけど)」

 

大会関係者

「た、大変です! 虹色の枝が⋯⋯いつの間にか何者かに盗まれました!!」

 

ジュイネ

「えっ、えぇ⋯⋯??」

 

大会関係者

「そ、それでジュイネさん⋯⋯あなた宛に、手紙が残されてまして」

 

ジュイネ

「僕に、手紙⋯⋯?」

 

 内容を見ると準優勝者の謎の老人ロウからの手紙だったらしく、そこには虹色の枝が欲しければユグノア城跡まで来てほしいという丁寧な文字が綴られていた。

 

ジュイネ

「(ろ、ロウさん⋯⋯どういうつもりなんだろ。それに、マルティナさんは───)」

 

 仮面武闘会は大波乱と共に幕を閉じ、大会組織委員会からは謝罪をされつつも優勝賞品はご自分で取り戻して下さいとの事だった。

 

⋯⋯優勝セレモニー後、すぐにグロッタから出て行こうとすると街の出入り口付近にて人集りが出来ており、老若男女問わずジュイネのファンと名乗る者達が握手やサインを求めて来る。

 

女性

「きゃーん、ジュイネ様ーこっち向いてー♡」

 

老人

「ワシも若ければアタックするんじゃがのー! いやすまん、男子じゃったか??」

 

子供

「ねぇねぇ、サインしてよー!」

 

男性

「大人しそうに見えて闘いになると凛々しくなるそのギャップが堪らない⋯⋯! 握手して下さい!!」

 

ベロニカ

「あーらら、勇者じゃなくて闘士の方で人気になっちゃったわねぇ」

 

ジュイネ

「ハンフリーの件もあるし、僕一人じゃ到底優勝出来なかったんだけど⋯⋯」

 

セーニャ

「彼に関しては正攻法ではなくとも、ジュイネ様は十分頑張ってらっしゃいましたし、胸を張ってもいいと思いますよ」

 

カミュ

「おらおら、道を開けてくんねーか。握手もサインもしてる暇ねぇんだからなッ」

 

 ジュイネの前を遮って出るカミュ。

 

シルビア

「ロウちゃんの手紙によると、ユグノア城跡に来てほしいって事だったわねん。⋯⋯そこって、ジュイネちゃんの本当の生まれ故郷だったはずよね?」

 

ベロニカ

「そうだったわね、ジュイネって王じょ⋯⋯じゃなくて王子でもあったんだっけ。⋯⋯多くの魔物に滅ぼされてしまったのよね、ユグノア王国は」

 

ジュイネ

「⋯⋯⋯⋯」

 

カミュ

「ジュイネ、辛いのは分かるが虹色の枝の為に行くしかねぇ⋯⋯って、どこ見上げてんだ?」

 

ジュイネ

「あ、この街のグレイグ将軍の像を見るのもしばらく見納めかなぁって⋯⋯」

 

カミュ

「あのなぁ⋯⋯緊張感のねぇ勇者様だぜ」

 

 

 

end

 

 

 

 

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