DQ11短編集   作:風亜

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 過去編の邪神討伐後。


失われし時の復讐者

「ジュイネ、村の入り口に来客が来ているそうだよ」

 

 母のペルラがジュイネにそう告げた。

 

「え、誰かな?」

 

「会いに行けば分かるだろうさ、早く行っといで」

 

 

 

「⋯⋯久しぶりね、ジュイネ!」

 

「お久しぶりです、ジュイネ様⋯⋯!」

 

 そこには、小さな姉と大きな妹のちぐはぐな見慣れた姉妹が立っていた。

 

「ベロニカ、セーニャ、よく来てくれたね!」

 

 

「邪神討伐後、それぞれの故郷へ戻って数ヶ月ほどになりますものね」

 

「あたしとセーニャがあんたの元に来たのには、れっきとした理由があるのよ」

 

「理由って?」

 

「ジュイネ様が授けられた勇者の剣を、命の大樹の魂に返された方が良いと思いまして」

 

 

「僕が持ってちゃ、駄目なの?」

 

「駄目なわけじゃないけどね⋯⋯ほら、大樹の記憶で賢者セニカ様が大樹の魂に勇者の剣を奉納してたじゃない。やっぱり返しておくべきだと思うのよね、平和になった世の中だからこそ。勇者の剣を返したからって、ジュイネが勇者じゃなくなるわけじゃないしね」

 

「⋯⋯そっか、分かったよ」

 

 実の所ジュイネ自身も、平和になった世界で勇者の剣を持ち続けている事に違和感を覚えていた為、その申し出は正直有り難かった。

 

 

「ルーラでは直接迎えないので、短い旅になるかと思いますが、久しぶりにジュイネ様と旅が出来ますね、お姉様⋯⋯!」

 

「というか身体鈍ってるんじゃない? 魔物も綺麗さっぱりいなくなったものねぇ」

 

「そんなことないよ。平和な世界になったっていっても、いつなんどきに備えて鍛錬は怠ってないから」

 

「そう? ならいいけどね! じゃあ、そんなに長くなるわけじゃないけど旅の支度してきてくれる? あたし達はここで待ってるから」

 

 

「うん。⋯⋯あ、キャンプ用にシチューの材料急いで用意しなきゃ」

 

「お姉様⋯⋯! 久しぶりにジュイネ様お手製のシチューを頂けますわねっ」

 

「セーニャったら何がっついてるのよ⋯⋯。まぁジュイネがキャンプで作ってくれるシチューは美味しいからねぇ、その気持ちは分かるわ」

 

 

 

「───お待たせ! 荷物は白馬のシチューに運んでもらって、僕はこの子を先導してベロニカとセーニャとは一緒に歩くから」

 

「⋯⋯そういえばジュイネの白馬って、あんたが大好物なシチューの名前にしてるんだっけ? 単純ねぇ」

 

「それでは、命の大樹へ向けて出発致しましょう!」

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 大樹の魂の場にて。

 

「ここへ来るのも、本当に久しぶりですね⋯⋯。大樹の魂は、変わらず美しい輝きを放っていますわ」

 

「そうねぇ⋯⋯前に来た時は、敵の尾行に気づかずに勇者であるジュイネと命の大樹の魂を危険に晒してしまったものね。勇者を守る双賢の姉妹として、我ながら情けなかったわ⋯⋯」

 

「ジュイネ様自ら敵の謀略に気づき、強力な闇の力から私達を守って下さったんですものね⋯⋯」

 

 

「⋯⋯⋯⋯」

 

「さっきから黙っちゃって、どうしたのよジュイネ?」

 

「───大樹の魂から、何かが出て来ようとしている⋯⋯! 二人共、下がって!」

 

「えっ、急にどうされたのです? そんな険しいお顔をされて───あっ」

 

 セーニャは息をのみ、大樹の魂を覆っている蔦が解け中から黒い物体が唐突に現れる。

 

 

「──⋯⋯ふうぅ、やーっと見つけたよ、“僕”を」

 

 

「“お前”は⋯⋯何者なんだ」

 

「あれぇ? フードを被ったままじゃ分からない? 僕は“君”だよ、そして君は“僕”」

 

「ふざけた事抜かすんじゃないわよ、ジュイネはこの世にただ一人しか居ないわ! あんた何者よ、大樹の魂から出てくるなんて、随分と御大層な出現の仕方ねっ」

 

「待って下さい、お姉様⋯⋯! この方は───」

 

「ははっ、ベロニカは手厳しいなぁ。セーニャは分かってくれてるみたいだけど⋯⋯君はどうかな、ねぇ⋯⋯ジュイネ?」

 

 相手は黒いフードの中から怪しげな笑みを浮かべている。

 

 

「(彼は、本当に僕なのか⋯⋯? 確かに、黒のフードを被って目立たないように行動していた時期はあったけど⋯⋯あの頃の僕というわけじゃ、ない気がする)」

 

「過ぎ去りし時を求めた勇者⋯⋯色んな君を見てきたよ。“僕”がしたかったこと、出来なかったことをする“君”をね」

 

「(⋯⋯っ! まさか)」

 

 

「この紛い物! ジュイネを訳の分からない戯言で惑わすんじゃないわよ! 世界が平和になって魔物もいなくなったはずなのに、まだ闇の力に脅かされているのかしら⋯⋯ならここで成敗するまでよっ!」

 

 ベロニカは杖を構えた。

 

「駄目ですお姉様、お止め下さい!!」

 

 両の手を広げ、黒のフードを被っている青年の前を遮るセーニャ。

 

 

「あんた、何でそいつを庇いに出るのよ! そいつは得体が知れないわ、危険よっ!」

 

「だって⋯⋯この方も私にとって、ジュイネ様なんですもの! 私には、何となくですが分かるのです⋯⋯勇者としての使命を果たせなかった、もう一人のジュイネ様だと」

 

「なんですって⋯⋯?」

 

 

「(使命を果たせなかった、もう一人の⋯⋯僕。それが本当なら彼は、“あの時”の)」

 

「そうだよ、気づいてくれたね。───“君”が時を遡った際にその時間軸から弾き出された、もう一人の“僕”をさ」

 

「時を、遡った⋯⋯? どういうことよ、ジュイネ」

 

 ベロニカに問われても、ジュイネは答える事が出来ない。

 

「⋯⋯⋯⋯」

 

 

「最初はわけが分からなかったね⋯⋯聖地ラムダの大聖堂から突然異空間に追いやられたんだから。その際に景色が遠のいて行く僕と、その景色に向かって前進して行く“もう一人の僕”を見掛けた⋯⋯何故だか冷静に悟ったよ。あぁ、知らない未来の“僕”に成り代わられたんだって」

 

「⋯⋯⋯!」

 

「それから一体どれだけ時空の狭間を彷徨ったかなぁ⋯⋯時間の感覚なんてとっくに忘れちゃったよ。その間ずっと君に取って代わられた時間軸を探してたんだけどね⋯⋯君は勇者として全う出来たけど、僕は“失われし時の復讐者”として覚醒しちゃったんだよ」

 

「失われし時の、復讐者⋯⋯」

 

 

「この剣⋯⋯見覚えあるだろう?」

 

 左手の平から右手を水平になぞるように“それ”を出現させる。

 

「ジュイネ様が、私達を守る際に使用していた禍々しい大剣ですわね⋯⋯」

 

「そう⋯⋯魔王の剣だよ。勇者が魔王を誕生させ勇者の剣を魔王の剣にさせられてしまった⋯⋯真の勇者の“君”が粉々に壊してしまってから何故だか僕の手元に新品同様に納まったんだよ。だからこそこの剣の力で、時間は掛かったとはいえやっと“こちら側”へ来ることが出来たんだけどね」

 

「魔王の剣⋯⋯? 何を言ってるのよ、魔王はこの世界で誕生してなんかいないわ!」

 

「─────」

 

 

「そうだよベロニカ、“この世界”ではね。だって命の大樹での件で彼が魔王誕生を阻止したから。⋯⋯元の世界では多くの命を犠牲にして魔王を誕生させてしまった罪深き勇者様、だからね?」

 

「元の世界で、魔王を誕生させた⋯⋯?」

 

「あぁベロニカ、君が───」

 

 

「やめろ!! それ以上⋯⋯言うなよ」

 

 もう一人の自分らしき者を、ジュイネは睨み据える。

 

 

「フフ⋯⋯どうしても無かったことにしたいんだ、“お前”は」

 

「なら⋯⋯なら“お前”は、僕と同じ状況であんなこと、になったら⋯⋯そうしなかったって、言えるのか」

 

「そうしようがないもの、だって“お前”の決断が僕を生んだのだから」

 

「⋯⋯⋯っ!」

 

 

「ジュイネ、もうそいつに耳を貸さないで。話すだけ無駄よ!」

 

「僕が放り込まれた次元の狭間では、不思議な事に君が経験した記憶が逐一僕に流れて来た⋯⋯。仲間とより一層絆を深めたみたいだよねぇ、“君”は。“僕”が経験していない元の世界でも、遡った過去ですら。“僕”はさぁ、ほら⋯⋯命の大樹に向かう直前に君と強制的に入れ替わっちゃったから、仲間だったはずのみんなと完全に切り離されてしまったんだよねぇ」

 

「⋯⋯⋯⋯」

 

 

「理不尽じゃないか⋯⋯どうして世界を救い直した“お前”だけ幸せになるんだ。“僕の”居場所を、奪っておきながら」

 

 魔王の剣をジュイネへ向ける黒フードの青年。

 

 

「いけませんジュイネ様⋯⋯そんなことをしても、“あなた”は」

 

「安心しなよセーニャ、僕は“そいつ”と成り代わるつもりは無い。なれるわけがないんだよ⋯⋯僕はもう、“失われし時の復讐者”なのだから」

 

「過去に遡ることで弾き出されたもう一人の僕が、復讐者に⋯⋯?」

 

「そんなに驚くことじゃないだろう? だって元々“僕ら”は、災いを呼ぶ悪魔の子と呼ばれていたのだし、大した違いはないよ」

 

 

「⋯⋯それは、違います」

 

「⋯⋯?」

 

「やはり“あなた”も、ジュイネ様なのです。違いはありません。⋯⋯私達は、何度だってかけがえのない絆を紡げるはずです」

 

「──⋯⋯セーニャ、君の希望的観測なんて聞いちゃいないんだよ」

 

 魔王の剣から禍々しい闇の力を放ち出す。

 

 

「そう⋯⋯そうなのね、あの時仲間のみんなと居られる幸せな気持ちは⋯⋯そういうことだったんだ」

 

「ベロニカ⋯⋯?」

 

「おかしいとは思ってたのよね、みんなが集まってた聖地ラムダの大聖堂から忽然とジュイネの姿が見えなくなって、次に姿を見せた時には禍々しい剣を持ってて⋯⋯それ以降、あたし達が初めて体験するようなことをジュイネは、前もって知っていたように何度か見えたから」

 

「⋯⋯⋯⋯」

 

「あたし⋯⋯元の世界では死んだんでしょ。あたしだけじゃなく、魔王が誕生して多くの人々も」

 

「───っ」

 

「あんたはそれに押し潰されそうなほどの責任を感じていた。⋯⋯だからこそ、時を遡る手段を使って過去へ戻り、元の世界での魔王誕生を阻止した⋯⋯そうなのよね、ジュイネ」

 

 ベロニカに顔を向ける事が出来ず逸らしたままでいるジュイネ。

 

 

「ご明察、流石は大魔法使いのベロニカ様だ。ほら、聴かれてるよ? 何とか言ったらどうだい、───世界を救い直した、“真の”勇者様?」

 

「そう⋯⋯そう、だよ。ベロニカを、多くの人々の命を元の世界で犠牲にしてしまったのは、僕の責任であり勇者としての罪、だから───世界を救い直しに、ベロニカや多くの人を死なせないように時を遡った」

 

「⋯⋯なら、“彼”を生み出してしまったのはあたしの責任でもあるわね」

 

「え⋯⋯? 違う、ベロニカには何の責任も」

 

 

「私の、責任でもありますわ。ジュイネ様と、ベロニカお姉様、多くの方を守れなかったんですもの」

 

「セーニャまで責任を感じる必要は全く無い、これは僕だけの罪で」

 

「それこそ違うわ⋯⋯ジュイネだけが背負うべき罪じゃない」

 

「⋯⋯ベロニカ」

 

 

「あはは⋯⋯! 超がつくほど優しい仲間達で良かったね、“僕”? きっと他の仲間も同じようなこと言うんだろうな、ははは! 笑わせてくれるよ」

 

「笑うな⋯⋯、“お前”に僕の仲間を笑う資格は無い!!」

 

 勇者の剣を抜きもう一人の自分にジュイネは斬り掛る。

 

 

「ぉおっと⋯⋯、危ないじゃないか。───忘れないでくれよ、“お前”の仲間達は元々“僕”の仲間だぞ。それに、資格が無いというなら“お前”にも⋯⋯勇者を名乗る資格は無い!!」

 

 魔王の剣で斬り返しジュイネの左肩に傷を負わす。

 

「くっ、そんなの分かってる。だけど⋯⋯これは僕の“勇者としての罪”だから、そこから目を背けるわけにはいかないんだ!」

 

「大層な心掛けだ⋯⋯流石は罪深き勇者様。だがそれが何になる? 貴様が罪と向き合っている振りをした所で、同時に世界を救い直した幸せを噛み締めている⋯⋯矛盾しているじゃないか。本気で自らの罪と向き合うなら⋯⋯存在ごと消えろ。“俺”を、無かったことにしたようにな!!」

 

 

「(存在ごと、消える───そうか、“彼”はその感覚を、次元の狭間を彷徨い続ける中で味わっていた。当の僕は、元の世界での犠牲を無かったことにして、勝手に満足していたんじゃないのか。存在を消されたもう一人の自分の痛みも、知らずに)」

 

 茫然自失で両膝をつくジュイネへ、容赦なく魔王の剣を振りかざすもう一人のジュイネ。

 

 

「───⋯⋯やめなさい、ジュイネ。あんたのその痛みは⋯⋯十分伝わったわ」

 

「そうです⋯⋯もうこれ以上、ご自分を傷つけるのはおやめ下さい」

 

 魔王の剣を杖とスティックでバリアを張り受け止めるベロニカとセーニャ。

 

 

「判るはずないよ、ベロニカ。僕が⋯⋯俺がどんなに絶望したか。君が死んだ時も、君が死なずに済んだ時も、見ている事しか出来なかった俺の痛みなんて。確かにソイツは、俺がしたかった事、出来なかった事を“した”さ。けどね、“それ”が“間違っている”と分かった以上、もう一人の“俺”を野放しには出来ない。俺が復讐者となって⋯⋯それこそ魔王となって、存在ごと消すしかない」

 

 ギリギリと魔王の剣の重みが増し、ベロニカの杖とセーニャのスティックに亀裂が走る。

 

 

「だったら、あたしの存在も消しなさい。罪を一人だけ背負った勇者が消えるなんて、理不尽でしょ」

 

「ジュイネ様と、お姉様だけを先へは行かせません⋯⋯私も共に、参ります」

 

 

「(ベロニカ、セーニャ、ダメだそんなこと───)」

 

 

「あぁ⋯⋯もう、俺の愛しき“元”仲間達⋯⋯。君らはこの世界の新たな脅威として君臨する魔王としての、俺の下僕になっていればいいんだよ。今はまだ、眠っているといい」

 

 魔王の剣に浮き出ている眼が妖しく濃い紫の光を放ち、ベロニカとセーニャの意識を失わせた⋯⋯かに思われたが、ベロニカは苦悶の表情を浮かべながらもすぐに意識を取り戻し、震える足で立ち上がる。

 

 

「ベロニカには⋯⋯魔王の放つ不気味な光が効かないのかな? 無能な勇者の守り手だけはあるね」

 

「ジュイネ⋯⋯あんたは魔王なんかじゃない。その証拠に⋯⋯左手の甲のアザがまだ、うっすらと残ってる。あんたはまだ、魔王になりきれてなんかないわ」

 

「あぁ⋯⋯確かに、ね。けどこのアザを完全に消す方法はあるよ。勿論、罪深き勇者様の存在を消せばいいだけの話さ」

 

 魔王の剣を薙ぎ払い、ベロニカとジュイネを後方へ吹き飛ばす。

 

 

「小さな身体を張って愚かな勇者を護るお姉様⋯⋯泣かせるなぁ。それだから、一度死んじゃったんだもんね」

 

 魔王の剣を引き摺りながら、折り重なり倒れている二人の元へおもむろに近づく。

 

 

「そんなに仲良く一緒に消えたいなら、そうしてやるよ⋯⋯バイバイ」

 

 

「────っ!」

 

 瞬時に起き上がって勇者の剣で魔王の剣を弾くジュイネ。

 

 

「⋯⋯往生際の悪い勇者様だな、そんなに自分の作り出した罪と向き合いたくな───」

 

 勇者の剣をつと手放したジュイネは、魔王と名乗るジュイネの首の後ろに両の手を回し身体をぎゅっと引き寄せ、その際相手の黒のフードが脱げて同じ顔がはっきりと露になる。

 

「何のつもりだ⋯⋯気持ち悪い奴だな、やめろ」

 

 突き放そうとするが、されるがままになっている。

 

 

「身体をあげるから⋯⋯僕の身体を、好きに使っていい。君が、魔王になる必要はないよ」

 

「ふざけるなよ無能勇者が⋯⋯!」

 

 傷を負っている左肩に齧り付く。

 

 

「ぐっ⋯⋯、ふざけて、いないよ⋯⋯僕は、本気だ」

 

「ほう⋯⋯いいのか? そんな事をすれば、俺はお前の仲間全員を殺すぞ。お前の育った村も、幼なじみも、育ての母親もな」

 

 口から血を滴らせつつ、耳元で囁かれる。

 

 

「いいや⋯⋯君はそんなことはしない。出来ないんだ、きっと。さっきまでチャンスはいくらでもあったのに⋯⋯誰も殺せてない」

 

「言わせておけば⋯⋯!」

 

 乱暴に突き放して仰向けに倒しその上から魔王の剣を胸元に突き立てようとする。

 

 

「ほら⋯⋯やっぱり、手が止まってる。テオおじいちゃんの言葉、覚えてるんだね⋯⋯『人を恨んじゃいけないよ』って」

 

「うるさい⋯⋯うるさ───っ?!」

 

 仰向けに倒れているジュイネが自ら魔王の剣の切っ先に胸元を刺されに起き上がる。

 

 

「!! なん、で」

 

「ふふ、平気だよ⋯⋯これは元々、勇者の剣だよ⋯⋯?」

 

 口から血を流し胸元を自ら刺されると、その魔王の剣先から形を変えてゆき元の勇者の剣へと戻ってゆく。

 

 

「⋯⋯⋯⋯!」

 

「そうだ⋯⋯これが元々、本来の世界の勇者の剣⋯⋯。僕はそれを魔王の剣ごと壊した⋯⋯無かったことにした。ベロニカを失って、みんなで心を込めて創った勇者の剣も、時を遡る際に壊した⋯⋯元の世界も無かったことにしてしまった。そして過去の君を⋯⋯世界から弾き出した。とんでもない悪魔の子だよね、僕は」

 

「──────」

 

 胸元に突き刺さった勇者の剣を更に深く胸に突き通しながら、もう一人の自分へと諸手を向ける。

 

 

「だからこそ、償わなきゃ⋯⋯。さぁ、僕の中へ⋯⋯おいで。君は、“これから”を、生きるんだよ」

 

 

─────────

 

─────

 

───

 

 

「うっ⋯⋯ジュイ、ネ⋯⋯?」

 

 ベロニカは朧げに意識を戻す。

 

 

「おはようベロニカ。いや⋯⋯こんにちは、かな」

 

「ここ、あんたの自宅⋯⋯? いつの間に。セーニャは隣のベッドで寝てるけど、もう一人の、ジュイネは───」

 

 

「安心して。⋯⋯もう一人の僕とは、一緒になったから」

 

「一緒に、なった⋯⋯?」

 

 

「うん、これからは記憶と体験を直に共有して、一緒に生きていくんだ。もう、寂しい思いはさせないから」

 

「そう⋯⋯あんた達はやっぱり、“同じ”だったのね」

 

 

「過ぎ去りし時を求めた僕と、失われし時の復讐者になり掛けた僕⋯⋯。どちらも、“僕”であることに変わりないんだ。遡ったのが先か、弾かれたのが後かの違いだよ。───これから改めて、平和になった世界を巡ろうと思うんだ。それぞれの場所でがんばってる仲間にも、会いに行きたい。会わせてあげたいんだ⋯⋯僕の中の、もう一人の“僕”に」

 

 

 

end

 

 

 

 

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