轟轟戦隊ボウケンジャー Return−White.adventure 作:竜の蹄
今年も残すところ、あと二月ですね! 寒くなりますが、気を付けていきましょう!
影斗はラボの座椅子に腰を下ろし、物思いに耽っていた。
作業机上には、ゴーゴービークルの設計図、飲みかけのコーヒーが入ったマグカップ、空になった栄養ドリンク瓶が数本、乱雑していた。
乱雑している机の中で、一箇所だけ片付いているスペースがあった。其処には写真の入ったスタンドと、剥き出しのままの写真が置かれている。
一つは穏やかそうな老齢な男性と共に映る幼い自分の姿……自分の育ての親であり、先代ボウケンジャーを支えた至高のメカニック、牧野森男の写真だ。
もう1人は、雪歩の映った写真だ。影斗は写真を取り上げ、雪歩の姿を穴が開く様に見つめた。
影斗には、自分の過去が無い。10年前、牧野森男に拾われ、牧野影斗として生きる様になる前の過去が…。
しかし、この雪歩と言う女の子には、自分の中に眠る過去の記憶を呼び起こさせる様な気がしてならなかった。
記憶を無くす、と言うのは記憶そのものを忘れたり、消えてしまう事では無く、脳を箱に例えれば箱が開かなくなっただけであり、記憶そのものは消失していない。
影斗は自分が何者であるか、自分の生い立ちを是が非でも知りたかった。それは興味本位では無く、自身の分身である記憶を思い出せば、改めて自分を受け入れる事が出来る、と言う確信からだ。
牧野影斗として生きた10年間、欠伸が出る程に穏やかで自分にとっては幸福な人生だった。
別に記憶が無くても、困る事は無かった。牧野が生活に必要である常識、そして勉学を教えてくれたからだ。
しかし、彼の胸中は穴が空いた様に虚しかった。虚無に満ちた日々を埋める為、義父を倣って技術者の道を進んだ。
サージェスに加われば、記憶を取り戻す手掛かりを掴めるかも知れないと思い、引退した義父に替わる体で、メカニックに就任した。
だが、記憶を取り戻す事は未だに出来ない。と、其処に自身のスマホガ鳴り響いた。
影斗はスマホを見ると、画面には『非通知』となっていた。しかし、影斗は構う事無く電話を取る。
「もしもし?」
『やァ、影斗君。元気にしてるかな?』
「……貴方は⁉︎」
声の主に影斗は聞き覚えがあった。自分に“力”を与えた男に違いない。
「何故、僕の番号が⁉︎」
『そんな事はどうでも良い……それより、僕の与えた力は身体に馴染んで来たかな?』
電話の向こう側の男は試す様に聞いた。影斗は「……ああ」と呟く。
『それは結構。その力を使い熟せたなら、まず君は誰にも負けないだろう。そうして、プレシャスを集めていき給え』
「……何故、僕にそんな事を?」
影斗は尋ねる。彼と出会ったのは、半年前に遡る。仕事を終え、机に膝をついて転寝をしていると、彼は不思議な夢を見た。
気が付くと、影斗は何も無い真っ白い空間に居た。辺りを見回しても何も無い。これは夢だ、と彼は直ぐに確信した。
夢なら、直ぐに目が醒める筈だ、と考えていると……
〜これは、夢じゃ無い。君の頭の中に直接、話し掛けて居るんだ〜
「誰だ⁉︎」
影斗は当たりを見ても、誰も居ない。謎の声がクスクスと笑う。
〜探したって無駄だよ。僕は此処には居ない。少し離れた場所から君にコンタクトを取っているんだ、牧野影斗君?〜
「僕の名前を知っている⁉︎」
影斗は自分の名前を言い当てられた事に、些か恐怖を感じた。いや、言い当てられたと言うより寧ろ、最初から知っていた様な口ぶりだ。
〜君の頭の中に直接、話し掛けて居る、と言っただろう? 勿論、君の情報は僕の頭の中に筒抜けさ。
そう……牧野影斗と言う名前も真の名前では無く、君は自分が何者であるかを知らない。考えても、待てど暮らせど、本当の君は闇に覆われたままだ。どうだい、図星だろう?〜
人を食った様な話し方に、影斗は不快感を募らせた。だが、同時に影斗は、とある考えが頭に浮かんだ。
「僕の頭の中に直接、話し掛けて居ると言ったが……アンタは、本当の僕を知っているのか?」
〜勿論。だけど、教えるつもりは無い〜
謎の声は、サラリといった。影斗は苛立ちを隠せずに、姿を見せない人物を怒鳴る。
「いい加減にしてくれないか⁉︎ じゃあ、アンタの目的は何だ⁉︎ 僕を手玉に取って楽しむ為か⁉︎」
〜落ち着き給え。教えるつもりは無い、と言うのは……仮に僕の口から聞いても、君の記憶は取り戻せないし、君は本来の姿に戻れる訳でも無い。その代わり、君に“お宝を追い求める力”を貸してあげよう〜
と、言うと、影斗の目の前の空間が歪む。次の刹那、影斗の掌にシアンと黒を基調とした奇妙な拳銃が握られていた。
〜それは、ディエンドライバー。其れを使うと、君はディエンドと呼ばれる戦士に変身する事が出来る。
因みに変身する為には、このカードを銃に挿入するんだ〜
また空間が歪むと、一枚のカードが手元に現れた。。カードには「Masked Rider DIEND」と記された文字と、シアンと黒のマスクを着用した戦士の顔が写されていた。
〜ディエンドに変身すれば、君の戦闘力は向上する。どうしても、ヤバくなったら、それ以外にも様々な特典を付けてあるから、上手く使い給え。詳しい使い方は、ディエンドライバーが教えてくれるよ〜
「……怪しいな。何で、僕にこんな力を渡す? 何が狙いだ?」
影斗は益々、謎の声の主に対して不信感を募らせる。はっきり言って、見ず知らずの人間に、そんな優れた品を無償で手渡すとは考え難い。
〜別に狙いなんか無い……そうだな。強いて言えば、君が君を取り戻してくれる事が目的かな?〜
信用出来ないなら、それでも良い。その時は、ディエンドライバーを返してくれ。それは、僕の持つコレクションの中で一番、価値のある品だからね。君は、自分が何者か分からないまま、空虚な人生を送り続ければ良い〜
謎の声の放った言葉に、影斗は悩んだ。この男は信用ならない……だが、自分の記憶を取り戻せれば、と幾多と考えた事か。
ひょっとしたら、これが最後のチャンスかも知れないのだ。
「……少し、考える時間が欲しい……」
そう言って、影斗は目を閉じて考えた。すると、謎の声は…
〜勿論、じっくり考えてくれ給え。だけど、あまり長く考えないで欲しいな。僕も何かと忙しい身の上でね〜
と、言った。暫く考え、影斗は目を開けた。
「……分かった……。アンタが何者なのか、何の目的があるかは、この際、どうでも良い。
ずっと、自分が何者であるかが知りたかった……自分に過去がない事が苦しかった……それを取り戻せるなら……この力を貸して欲しい……」
〜契約成立、だね。但し、これだけは守って欲しい。君がディエンドである事は誰にも悟られてはならない。
君の義父、牧野森男にさえもね。あと、サージェスには充分に注意する事。君の正体を知れば、何をされるか分からないよ〜
「……分かった……。それで、僕はこの力を使って、どうすれば良い?」
〜それは、また連絡する。取り敢えず、君はディエンドの力を使い熟せる様にして待機していてくれ。
重ねて言うけど……君は契約を承諾した。もし、契約を破ったら……とんでもない事になるからね〜
若干、脅す様に、謎の声は言った。影斗は最後に尋ねた。
「……聞かせて欲しい。貴方は……名前は何て言うんだ?」
〜通りすがりの仮面ライダー、とでも覚えていてくれ給え〜
そう言って、謎の声は途絶える。影斗の意識も、其処で途切れた…。
「……そうして、目を覚ますと、僕の前にディエンドライバーがあった。夢じゃ無かったと悟り、僕はディエンドになる力を手に入れた……。しかし、分からない。何故、貴方は僕に協力するんだ? 貴方は、僕の事を知っているのか?」
『言った筈だ。僕の口から全てを話しても、君は君を取り戻せない。失った者は自分で取り戻すしか無い。
僕は、その御膳立てはした。後は君の頑張り次第だ』
電話の主は淡々と話す。相変わらず、全てを語ろうとはしないが、影斗は腹を括っていた。
「プレシャスを探せって言ったけど、プレシャスと言ってもごまんとある。それ全てを見つけ出すのは至難だ」
『心配無い。君が探すプレシャスは、世界に四つしか無い貴重な存在だ。サージェスの連中は、メガ・プレシャスと呼んでいる』
「メガ……プレシャス……」
影斗は繰り返す。かつて、義父から聞いた事がある。数あるプレシャスの中でも取り分け強大なエネルギーを持ち、使い様によっては死にゆく命を救う事も出来るとか。
それだけに希少価値があり、今やプレシャスの殆どについて詳細があるサージェスでも、メガ・プレシャスについては全く情報が無い。
『しかし、メガ・プレシャスの中に一つだけ、所有者に真理を見せるプレシャスがあると言う……それ以外は正確な場所は僕にも分からない。だが、ボウケンジャーの向かう所には必ずプレシャスがある。君は、其れを先回りして奪い取れば良い』
軽く言ってくれる、と影斗は思った。しかし、もう踏み込んではならない領域に踏み込んだ以上、自分は進むしか無い。
失われた過去を取り戻す為、影斗は穏やかな日常に別れを告げ、殺伐とした世界に身を置く決意を固めた。
そうして、影斗は電話を切り、ディエンドライバーを腰のホルスターに納めると、ラボを後にした。
ドアには「只今、仮眠中」の札をして、影斗はサージェスの裏口へと繋がるエレベーターへと乗った…。
さて、東京郊外にある別荘では、盛大なパーティーが開かれていた。主催者は樺蔵美江。資産家であり、アドベンチャー時代の好景気を折に更なる資産を蓄えた樺蔵氏の妻である。樺蔵氏が二年前に死亡後は、未亡人となって、連日の様に金に物を言わせた贅沢なパーティーを開いているのだ。
招待されているのは何れも、アドベンチャー時代によって成り上がった富裕層のみであり、樺蔵夫人に取り入ろうとする下心が我先にとやって来ているのだ。
そんな中に混ざり、綺麗な紫のドレスに身を包んだ菖の姿に、多くの来賓客は目を見張る。
すると、1人の老年の金持ちがにこやかに近づいて来た。
「ひょっとして……牧村菖さんじゃ無いですかな? 牧村直辰氏のお孫さんの?」
金持ちの言葉に、菖はニコリと微笑む。
「ご無沙汰してますわ、斉藤様」
「おお、やっぱり‼︎ いやァ、若い頃の大奥様と瓜二つでしたから、直ぐに分かりましたよ‼︎ お祖父様は元気ですかな⁉︎」
斉藤と呼ばれた老人は親しげに言った。菖は…
「ええ。まだまだ若い者には負けられん、と意気込んで居ますわ」
「ハッハッハ‼︎ その気概が有れば、まだまだ長生きしそうですな‼︎」
「あのォ……話の腰を折って悪いのですが……」
急に中年の金持ち夫婦が擦り寄って来た。夫人の方が、揉み手せんとばかりに…
「牧村氏の孫娘と伺いました。実は、私達の息子もお嬢様と歳が近いのですが、宜しければ……」
「まだ大学生ですが、ゆくゆくは我が社を継がせるつもりでして…‼︎」
夫婦揃って、菖に媚を売ってくる。菖は、ウンザリした様に…
「申し訳ありません。結婚は、お祖父様の眼鏡に適った殿方となりますので……では、ごめんあそばせ」
と適当に言って、そそくさと後にする。すると、2人組のウェイターとウェイトレスに出くわした。
「あら、貴方達。無事に潜入できましたわね」
「うん! コッソリと忍び込んだよ! スパイみたいだった!」
「あのよ……なんで、お前が来賓客なのに、俺達はバイトのウェイターとウェイトレスな訳⁉︎」
ウェイターとウェイトレスは雪歩と紺亮だった。菖は、何を言ってるんだ? と言った具合に首を傾げる。
「あら? 貴方達が、パーティーに招待される様な顔に見えまして?」
と、痛い所を突いてくる菖。紺亮はガクリと項垂れた。
「それを言っちゃ、お終いだろうよ……。にしても……お前、そうして見ると普通にお嬢様なんだな……」
「それは、どう言う意味かしら?」
菖は目を釣り上げる。紺亮はニヤっと笑って…
「馬子にも衣装だな、て奴?」
と、茶化して来た。すると、菖はヒールの踵で、紺亮の右足を踏み付けた。
「〜〜〜〜!!!!!」
「あら、失礼。足が当たりましたわ」
済ました顔で、菖は言った。紺亮は踏みつけられた足を抑えつつ、悶える。
「お〜い、バイト2人! サボって無いで、こっちを手伝って‼︎」
先輩ウェイターが、2人を呼んでいた。
「は〜い。ほら、紺君!」
「…チッ! わァッてるよ‼︎」
雪歩に促され、紺亮は去っていく。去り際に、菖に振り返り「覚えてろ」と言わんばかりに睨むが、菖は素知らぬ振りだ。
と、暫く待っていると、中央にある上座に1人の女性が姿を現した。
「ご機嫌よう、皆さん。今日はワタクシ、樺蔵美江の主催するパーティーに参加して頂き、感謝してます」
そう言いながらも、樺蔵夫人は来賓客を値踏みする様に見回す。
(フン。今日も、ワタクシの持つ資産の恩恵を受けようと、蟻の様に集って来てる様ね。これだから、パーティーは辞められないわ! 自分にへりくだる愚民共を見下す事が出来るのだから!)
等と、傲慢な事を思案していた。それは、蟻の様に集まって来た来賓客も同様である。
(幾ら会社経営の為とは言え、この成金ババアにヘコヘコと頭を下げ無ければならないとは……)
(まあ、ご機嫌取りの為に媚を売っておいて、損はしないからな)
(大体、パーティーの大半は、この婆さんの自慢話だ。全く、早く終わってくれんかな…)
来ている人間全員が、樺蔵夫人に対する友好など、欠片も抱いてない。ただ自分達にとって利になるから、と言う下心しか持ち合わせていない。
そんな薄汚れた連中を菖は心底、軽蔑していた。人を見下す人間とは、それを口に出さずとも、知らず内に態度で示してしまうものだ。
(何度、出席しても……嫌な雰囲気ですわ……)
それは、雪歩達も同様だ。上辺だけ綺麗にして、内面はヘドロの様に汚れた人間達……雪歩は、特にそんな彼等の心境を見通していた。
「……な〜んか、やな感じ……」
「……まあな……だけど、プレシャスが出てくるまでは辛抱して……て、おい‼︎」
話の途中で、紺亮は雪歩の肩を小突く。
「どうしたの? トイレ?」
「ちげェよ‼︎ アレだよ、アレ‼︎」
声を顰めながら、紺亮は顎で方角を示す。其処にはガッチリした赤いスーツドレスに身を包んだ化粧の濃い女、青いグラスを掛けた背の高い黒服、とにかく体格の大きい黒服、と言う異様な三人組が来賓客に混ざっていた。
「……アレって……まさか……」
「……ああ、そのまさかだよ……アイツ等だ……」
雪歩、紺亮は一発で理解した。クエスターズの三人に間違い無い。三人共、人間に化けているつもりらしいが、はっきり言って怪しさしか無く、かえって目立っている。
「…どうする?」
「プレシャスが出てくるまで、騒ぎは起こせねェ。少し様子を見るぞ」
「分かった」
紺亮に言われ、雪歩は何時でも、ホルスターのスーパーアクセルラーを取り出せる様に準備した。
「ねェ……私達、逆に目立ってないかしら?」
ラアナは不安げに言った。しかし、ツルギは胸を張って言った。
「何を言いますか⁉︎ ダークシャドウ仕込みの変装、完璧に成り済ませています!」
一体、何を根拠に言っているのか、ツルギは自信満々だ。しかし、ラアナは…
「そもそも、私の美しさが余計に際立って、これじゃあ注目の的になるじゃないの! ああ……美しいって罪……」
等と、検討違いな事を心配していた。ツルギは冷めた目で…
「大丈夫ですよ……。別に、ラアナ様の姿なんぞ、誰も見てませんから……」
「どう言う意味よ‼︎」
ツルギの余計な一言に、ラアナは激怒した。すると、周囲に居た来賓客が恨めしげに睨む。
「ちょっと煩いですよ⁉︎」
「あ、すいません……」
叱られて、ラアナは謝罪する。しかし、ツルギは既に、樺蔵夫人の長っ
たらしい話に痺れを切らしていた。それは、ドゴランも同様だ。
「……それで……私は世界中の珍しい者を得る為になら、私財を次々と投資して……」
「全く、中身の無い話をペラペラと……早く終わらないもんか…‼︎」
「ゴドラン……‼︎」
「我慢おし! あの婆さんが、プレシャスを持ち出した瞬間、動き出すのよ‼︎」
ラアナは焦れ始めた2人を宥める。と、同時に樺蔵夫人は漸く、一息吐いた。
「……で、あるからして……今日、私がお見せするのは、私がこれまで収集して来たコレクションの中でも、トップクラスに入る物だと確信しています!
ズバリ、それは! 最早、絶滅したとされていた動物を今日、此処に連れて来たのです‼︎」
『は⁉︎』
樺蔵夫人の発言に、ラアナ達は一斉にポカンと口を開けた。動物? プレシャスじゃ無くて?
来賓客も全員、ざわついていた。
「あの、夫人? 此れは、貴方様の趣味である美術品の品評会では?」
来賓客の1人が質問し、樺蔵夫人は自慢げに頷く。
「その通り! 私は今まで、月に一回のペースで行って来た品評会に皆様にお見せして来た物……今宵、用意した動物に比べたら、ガラクタ同然でした!
しかし! 今日、用意した物は、そんなガラクタとは訳が違う! この生物の絶滅は私達、人類の大いなる過ちであり、許されざる大罪でした!
皆様は運が良いですわよ? 何しろ、歴史的瞬間に立ち会えるのですから!
では、どうぞ‼︎」
樺蔵夫人は部屋の照明を消して、目の前に置いたサークルにスポットライトを当てる。
そして、サークルが照らし出されると、一匹の仔犬の姿が……。
「あ、あの犬っころが……?」
「プレシャス、ですと……?」
「ど、ドゴラン……」
完全に、クエスター達は拍子抜けだった。メガプレシャスを手に入れる、と踏んで来てみれば、ただのペット自慢だったのだから、堪らない。
「これは、唯の犬ではありません! 今は絶滅したとされ最早、過去の生き物と呼ばれていた伝説中の伝説‼︎
その名も『アーベントデンメルング・ウォルフ』ですわ‼︎」
自信満々に話した夫人に対し、来賓客は全員「またか…」と、げんなりした様子だった。
実際、彼女がこう言った珍しい物と称して、品評会を開くのはザラである。しかし、其れ等の大半は夫人の暇潰しで収集された偽物であり、そんな偽物でも、こっちは褒めそやさなければならない。はっきり言って憂鬱である。
しかし、菖はコッソリ、スーパーアクセルラーのサーチアプリを開いた。仔犬をサーチすると……
「菖ちゃん、どう?」
雪歩は尋ねる。すると、菖は…
「ハザードレベル…0…。つまり、あの仔犬はプレシャスでも何でもない。ただの仔犬、と言う事ですわ」
と首を振る。どうやら、自分達はとんだガセネタに振り回されたらしい。
「……いや……完全に、ガセネタって訳じゃ無さそうだぜ? あの、オバハンの着けてる悪趣味な腕輪……どうやら、あっちが本星だ」
「どう言う事ですの?」
「見てみな」
そう言って、紺亮は樺蔵夫人が右腕に嵌めた狐のレリーフが象った腕輪を調べる。
「ハザードレベル…20。プレシャスだな」
「……狐の腕輪……もしかして…‼︎」
菖は何かを悟ったかの様に、スーパーアクセルラーのプレシャス名鑑アプリを開く。其処には夫人の着けている物と同一の品があった。
「プレシャス《妲己の腕輪》。封神演義にも出てくる中国最大の悪女、妲己が身に付けていたとされる曰く付きのプレシャスですわ」
「妲己? 知ってる! 私、子供の頃に本で読んだよ! 狐の妖怪で、太公望に倒されたの!」
「それは単なるフィクションですわ。中国の各王朝が没落した理由が、あの腕輪を付けた所為だと言われた皮肉から付けられているだけ」
「腕輪の所為で没落? あの腕輪、そんなヤバい力があんのか?」
「……と言うより……腕輪を身に付けた者が問題なんですわ」
菖は眉根を寄せる。
「腕輪自体には国を滅ぼす様な力は無い。ただ見る分には、悪趣味な腕輪でしか無いけど、腕輪を付けたら最後、自分の欲望を抑えきれなくなる。欲しい物は力尽くで手に入れようとするし、自分を破滅させてでも、目に写る物全て我が物としなければ気が済まない。
恐らく、あの夫人は、腕輪を付けた為に欲望に対し忠実になって、自分の取るに足らないコレクション集めに精を出しているのでしょうね…」
「……じゃあ、あの人……可哀想な人なんだね……」
雪歩は目の前で、ただの仔犬を珍しい犬だと自慢げに話す樺蔵夫人を哀れむ様に見た。結局、自身の浪費も放蕩もプレシャスによって引き起こされた物なのだから……。
「……まァ、ハッキリ言って、あの夫人が破滅しようと私達の知った事では無いですわ。私達は、プレシャスを回収するのが任務ですもの」
「……お前ってさ、本当にドライな女だな……!」
紺亮は呆れた様に言った。菖は目を釣り上げる。
「……また踏みつけられたいのかしら?」
「……つまり、あのオバハンはテメェが裸の王様になってる事自体、気付いて無いんだろ? それって、これ以上な不幸は無いじゃねェか……」
そう言いながら、紺亮は夫人を見つめる。それは、とても物悲しく……まるで、誰かと重ね合わせている様だった。
「……誰にも否定されず、周りから肯定されて舞い上がってるだけなんてよ……そんなもん、見ている方は痛々しさしかねェよ……」
「紺君……」
雪歩は、何かを察した様だ。菖は苛々とし始める。
「私達はサージェスの命令で、プレシャスを探して保護する事が任務ですわ。それに私達は正義の味方では無い。場合によってはネガティヴ以上の狡猾さを持ってプレシャスの保護を当たらなければ……!」
「……確かに、正義の味方なんてナンセンスだとは思う……! けどよ……やっぱり、放っておけねェだろ!」
ここへ来て、菖と紺亮はスタンスの違いから対立してしまう。菖は飽くまで任務最優先、紺亮は出来るだけ被害を少なく……どちらも理に適っているだけに、互いに譲れない。
其処へ雪歩は言った。
「じゃあ、間を取ろう! あの人に事情を話そう! おじいちゃんも言ってた。宝を手にする時は勝手にじゃ無く、許して貰ってからって!」
さっきまでギスギスしてた雰囲気を緩和する様に、雪歩の言葉は2人のエスカレートしていた感情の溜飲を下げた。
「貴方……それ、本気ですの?」
「勿論! なっちゃん達もそうしてたって言ってたし、それに私達が戦うのは、ネガティヴにだけでしょう?」
「まァ……そうだな……」
「だったら、私達はあのオバさんにプレシャスを渡す様に頼むの! そうしたは、紺君や菖ちゃんも両方の意見が通るよ‼︎」
妙に説得力のある言葉だった。菖は根負けした様に、溜め息を吐く。
「……仕方ありませんわね……。どちらにせよ、ネガティヴを回収しなくてはチーフに報告出来ませんし……」
「あのオバハンが素直に応じるか分からねェけど、やって見る価値はあるかもな」
「よし! じゃ、それで行こう!」
密かに作戦を展開した三人。紺亮と菖は雪歩の一言で、メンバーを一つにした事で雪歩を少し見直していた。
(こいつ……知らない内に、大人になってたな……。無駄に浪人生活してた訳じゃ無かったんだな……)
(なんだかんだで、彼女もプレシャスの危険性を危惧してますのね。ただ、任務に囚われていた私が恥ずかしいですわ……)
と各々に、雪歩の認識を改めた。しかし、雪歩は嬉しそうに……
「私、プレシャスに触るの初めてなんだ! 前回は破壊しちゃったから、楽しみだよ!」
「は? 楽しみ?」
急に雪歩の放った一言に2人は唖然とする。其処へ来て、2人は理解した。彼女はプレシャスの危険性や夫人の安否を気にしていた訳では無い。ただ、珍しいプレシャスを手にする事に頭が一杯なだけだった。
「……クソ……一瞬でも、コイツを見直した俺がバカだった……‼︎」
「……正直、私の感動を返して欲しいですわ……‼︎」
紺亮、菖は頭を抱える。雪歩は何にも変わっていない……ただ、冒険と夢を愛する生粋の冒険バカだった事を2人は思い知る。
「さて……宴も竹縄。話す事も尽きた所ですし……」
と、樺蔵夫人が締めようとした所……
「おっと! そうは行かないわよ‼︎」
突然、会場に声が響く。すると、ラアナがいつもの姿に戻って杖を突きつける。
「な、なんなの⁉︎ 貴方達⁉︎」
「全く長ったらしい話を聴かせて、挙げ句の果てに犬っころの自慢話⁉︎ 冗談じゃ無いわよ! さっさと、プレシャスをお渡し‼︎」
「ね、ネガティヴだ‼︎」
「キャアァァッ!!!」
「け、警備員は⁉︎」
来賓客は口々に叫びながら逃げ始めた。しかし、ホールの出口が開くと大量のサングラスの黒服が乱入して来た。
「は、ハンター⁉︎」
「ラアナ様、逃○中じゃ無いんですよ‼︎ カース、正体を現せ‼︎」
ツルギが、ラアナのボケにツッコミを入れつつ、黒服達に命じる。すると、黒服は一斉に姿を現し、カースへと早変わりした。
出口を塞がれた事で、来賓客全員が人質となった。
「オホホホ‼︎ さァ、樺蔵夫人! 命が惜しければ、プレシャスを渡して貰いましょうか⁉︎」
「な、なんの事⁉︎ 私はプレシャスなんか……‼︎」
「隠しても無駄ですよ‼︎ このプレシャス探索グラスで、全てを見通しています! 貴方が右腕に嵌めた、その腕輪‼︎」
ツルギが指摘すると、夫人は腕輪を隠す。
「い、嫌よ! 此れは旦那の遺産の大半を使って、漸く闇ルートから流させたのよ‼︎ 誰にも渡すものですか‼︎」
「オホホホ……それは、それは……! けど……闇から得た品なら、奪われたとしても、誰かに訴える事は出来ないわよねェ⁉︎」
そう北叟笑むと、ラアナの杖から念動力から放たれた。すると、夫人はラアナの下に引き寄せられ、腕輪の嵌った右腕を掴む。
「嫌…‼︎ 私の宝物を返して! この泥棒‼︎」
「泥棒は良かったわね? そもそも、プレシャスは誰の物でも無いの! 幾ら金を掛けたか知らないけど、大金叩いた所で、古代の遺産を懐に仕舞っておけるだなんて思った?
つ、ま、り……このプレシャスは、私に奪われても文句は言えないし、言う道理もない! だから、此れは私達、ネオ・クエスターズが貰っておくわ‼︎」
「そんなの唯の屁理屈だよ、オバさん‼︎」
突如、声が響く。ラアナは青筋を立てながら…
「誰が、オバさんよ! 誰が……って、この声は…‼︎」
振り返ると、雪歩達が立っていた。菖が、サージェスのシンボルマークを見せる。
「サージェス財団ですわ‼︎ 危険極まりないプレシャスは私達が回収させて頂きます‼︎」
「大体よ、泥棒を泥棒って言って悪いかよ⁉︎ 盗人猛々しい、てのはよく言ったもんだな‼︎」
「そのプレシャスを返して! オバさん‼︎」
「キイィィィッ‼︎ 相変わらず、口の減らない小娘ね⁉︎ でも、この前の様には行かないわよ‼︎」
「今回は、お前達が邪魔しに来る事を見越し、強力な兵器を持ってきたのだ‼︎ ゴドラン、準備は良いか⁉︎」
「ゴドラァァ‼︎」
雪歩達を前に、カース達は取り囲み始める。来賓客達は、サージェスと言う単語にざわめき立つ。
「お、オイ……今、サージェスって…⁉︎」
「植村家の令嬢が…⁉︎」
来賓客達は、さっきまで話していた菖がサージェスの関係者である事を驚いた様子だった。サージェスと言えば、このアドベンチャー時代の立役者と言え、知らない者は居ない程に強大な組織だからだ。
ざわめき立つ来賓客に対し、菖は怒鳴る。
「何を惚けているの⁉︎ 命が惜しければ、さっさと逃げなさい‼︎」
菖の怒声に我に返った来賓客は我先に、と会場を後にする。残されたのは雪歩達とクエスターズ、そして腰を抜かす樺蔵夫人だけだ。
「オホホホ! 別に愚民共など、どうでもいいわ! 私達の目当てはプレシャスだけ‼︎
さァ、ツルギ‼︎ 自慢の忍科学を見せておやり‼︎」
「御意‼︎ 現れよ、ツクモロボ‼︎ カラシシ・ツクモ‼︎」
ツルギが命を出すと突然、屋敷を突き破って巨大な手が侵入して来た。巨大な手は、樺蔵夫人を捕まえると手を引いていく。
「いやァァァッ!!!??」
「な、何だ⁉︎」
手が引っ込んだ後、その姿を確認した三人は驚愕した。其処には巨大なライオンに似た胸部を持ったダークレッドのロボットが立っていたからだ。
「見よ! これぞ、我が忍科学の生み出したプレシャス略奪兵器!
カラシシ・ツクモだ‼︎」
ツルギは高らかに宣言した。雪歩達は、その姿に思わず絶句するしか無かった。
ー次回予告
ボウケンジャー達の前に現れたネオ・クエスターズの兵器、カラシシ・ツクモ‼︎
しかし、その力の前にボウケンジャー達は苦戦を強いられ……
次回! 轟轟戦隊ボウケンジャーReturn−White.adventure
task5 新武器、投入‼︎
ラアナ「さァ、ツルギ‼︎ やっておしまい‼︎」
ツルギ「発進! カラシシ・ツクモ‼︎」