役立たずの徒花   作:お米ちゃん

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※読まなくても本編にはあまり関わらないです。


プロローグ 始まりの終わり

(いけると思ったんだけどなぁ)

 

吉野(よしの)順平(じゅんぺい)や里桜高校の人間を利用して虎杖(いたどり)悠仁(ゆうじ)に縛りを促し、両面宿儺(呪いの王)を呪いの仲間に引き入れるという真人(まひと)の計画は、己の天敵であった虎杖悠仁や1級術師・七海(ななみ)建人(けんと)の存在により、失敗に終わった。

だが得たものはある。己の新たな力、領域展開(自閉円頓裹)。そして何より、宿儺さえ復活すれば呪いの時代がくるという、確信。

 

(次はどう殺してやろうか)

 

回復を終えた真人は、どうしようもなく高まる殺意を感じながら、協力者の下へと向かっていた。

 

 

異常に気づいたのは、偶然。たまたま視界に入っていた鴉の群れが、突然直角に進路を変えた。

 

「何だあれ」

 

世の中には生き物を操る術式もあるが、その鴉たちは微弱な呪力しか纏っていない普通の鴉。何もない空で、何かに遮られたような不自然な動き。真人は己の好奇心に身を任せ、『なにかある』空間へと向かった。

そこにあったのは、四方20メートルほどの小さな藪。市街地のど真ん中で、そこだけが過去に取り残されたかのように、鬱蒼とした草木を残す。

 

花御(はなみ)が見たら喜ぶかな。それはいいとして…)

 

その空間を囲うようにして、張られた結界。

 

(この結界があるから入れない、というより空間の存在自体を認識出来ないのか。意識に干渉するから、ここに入るという発想自体無くなる。かなり高度な結界だな)

(…問題は、なぜ俺は認識できるのかってこと。呪力量か、あるいは(呪霊)だからか)

 

とりあえず結界に手を入れてみると、直ぐに異変は起きた。

 

侵入した部位が、四散していく。

 

 「っ!!」

 

反射的に腕を引くと肉体の崩壊は止まった。

 

(結界の中が、(呪霊)とは真逆、正のエネルギーで満たされている。呪霊以外には認識できず、呪霊が入ると即座に祓われてしまうわけだ。流石に魂までは削られてないけど、これじゃ肉体の構築が追い付かないな)

(でも、抜け道はある)

 

懐から人差し指ほどの(人間)を取り出し、藪の中に投げ入れる。

 

 

無為転変(むいてんぺん)

 

 

圧縮されていた(人間)はその魂を解放し、概ね人の姿へと形を変えた。

 

(中から呪物の気配…石造りの祠、あの中に『ボス』がいる)

「祠にあるものを取ってこい」

 

指示を与えられた改造人間は祠の前に移動すると、観音開きの戸を開けた。

 

(守るよりも隠すことに特化した結界。呪霊以外なら、空間を認識は出来ないが侵入は出来る(・・・・・・・・・・・・・・・・・)。なら改造人間を入らせてしまえば、後は楽勝だね)

 

正の呪力は、負の呪力で体を構成している呪霊にとって、致命的な弱点となる。酸の性質と塩基の性質がお互いを打ち消し合うように、正の呪力と負の呪力が中和し合う。

だが、これはあくまで呪霊の話。改造人間は呪力とは別に肉体があるので、正の呪力に触れても体が消し飛ばされることはない。真人はそこを突いた。

改造人間が戻ってくると、手に入れたモノを差し出す。

 

持っていたのは、一対の目玉。縦に長い瞳孔。紫と黒が入り混じった光彩。いつからあったのかは分からないが、かなり乾燥している。

 

「よおーしっ!特級呪物(推定)、ゲットだぜ!!」

 

真人は目玉を掴もうとするが、その手は力をなくし塵になった。

 

「ああ、そうだった」

 

呪物を持った改造人間に触れ、魂をいじる。改造人間は手のひらサイズの箱に変形し、中に目玉を納めた。

 

(…取り込ませる人間は、誰でもいいんだっけ?帰ったら夏油(げとう)に聞くか)

 

箱を片手にどうしたものかと思案すると、たまたま人間と目が合った。真人が「見られている」ことに気付くと、女も気付いて視線を逸らす。

 

「へぇ、君……俺が見えるんだ」

 

ただそれだけの理由だ。

 

 

* * * * *

 

 

呪術(じゅじゅつ)廻戦(かいせん)』という漫画がある。人間の負の感情から生まれる『呪い』を題材にした物語であるためか、残酷な描写や容赦のない展開が多く、主要人物や名無しモブを問わず人がポンポン死ぬ作風だったと記憶している。

 

 

私はその世界に、二度目の生を享けたらしい。

 

 

幼いころから、人には見えない異形が見えた。それを気づいたのは、4つになる頃。公園で友達だったチヨちゃんと遊んでいたときに、彼女の左足に憑いていたヒルのような何かが、チヨちゃんや両親たちには見えていなかった。そいつが怖かったのと、皆に変な子と思われたくなかったので見えないふりをしていたが、次の日チヨちゃんは左足に大きな赤い斑と、大きくなった『それ』をつけていた。

 

その日から、私がいつも通っていた幼稚園に行くことは無くなった。

 

お昼寝の時間。それは突然体から無数の触手を生やし、子ども達を突き刺した。触手を付けられた人たちは血か肉か、或いは命を吸い取られ、二度と目覚めることは無かった。寝かしつけていた先生が異変に気付いて皆を避難させた後どこかに通報し、暫く経つと黒色のスーツを着た女とグラサンを掛けた強面の男が現れた。男が園内に入ったのを確認すると女は何かを唱え始め、空から黒い幕が降ってきて幼稚園は夜に包まれた。

その光景にどこか既視感を覚えた直後、私の中に、存在しない記憶(・・・・・・・)が流れ込んできた。

 

 

呪術を用いて呪霊を祓う者『呪術師(じゅじゅつし)』。

人間の負の感情から生まれ、人間に害をなすモノ『呪霊(じゅれい)』。

呪いを炙り出し、呪いを秘匿する結界『(とばり)』。

 

 

嫌でも理解した。ここは呪いが跋扈する、『呪術廻戦』の世界なのだと。

 

読者だった頃の私ならば、現実にはない非日常や得体の知れない恐怖に、面白いと感じたかもしれない。空想の世界でどれだけの理不尽があろうが、大勢の人間が死のうが、『登場人物(オモチャ)』がどうなろうが面白ければそれでいいからだ。だが鉄臭い血の匂い、助けてと叫ぶ子どもの声、チヨちゃんの腹の中でもぞもぞ動くそれは、紛れもない現実だった。私が今いるこの世界は物語などではなく現実だ。私は傍観者としてではなく、当事者として『呪い』を体験したのだ。

 

あの事件以降、中学生になった私は出来るだけ呪いを避けるように努めてきた。もしも私に呪術の才能があって、呪いを祓えるだけの力があれば、呪術師になる未来を選んでいたかもしれない。しかし、現実は非情だ。

だがこれでも、その他大勢の非術師よりかは恵まれている方だろう。呪いを視認する程度の才能はあるし、呪霊は「見られている」と感じた場合襲ってきやすいといった対処法を知っている。

 

私がこの世界に求めるものは非日常の体験ではなく、何の変哲もない日常、主人公風に言うなれば「正しい死」だ。呪いと関わる事なく、平和に生き延びる。『オモチャ』にはならない。これが私の、物語だ。

 

 

 

 

しくじった。

 

目で追ってしまった。アイツがいたから。くすんだ水色の髪。青と灰色のオッドアイ。継ぎ接ぎ顔の人型呪霊。

 

逃げ「へぇ、君」

「俺が見えるんだ」

 

 

* * * * *

 

 

「おかえり。…おや、珍しいね。真人が生きている人間を連れているなんて」

 

真人の協力者・夏油傑(げとうすぐる)は、一足早くセーフハウスに帰り、真人の帰還を待っていた。嘗て。バブル時代に熱狂した地方がリゾートマンションとして建築した此処は、今では立派な廃墟となった。夏油達にとっても拠点の一つにすぎず、内部に積もった埃の量がその空白を映し出す。

 

「失礼だなー。生きている人間(・・・・・・・)ぐらい、死ぬほど持っているよ」

「そうだった。で、君の描いた絵図はどうなった?」

「大失敗。でもいい経験になったよ。ついでに、面白そうなものも見つけたしね」

 

真人は意識のない女を床に転がし、夏油に箱を手渡した。

 

「何ソレ、獄門彊(レプリカ)?上手くないけど」

「いやそっちじゃなくて、その中身」

 

箱を開けると、中にあったのは2つの目玉。

 

「…呪物だね。何処で手にいれたんだい?」

「藪の、祠の中で。街のど真ん中にあったよ」

「覚えがないな」

「呪霊じゃないと見えなくなっていたからね」

 

手に取るとそれは乾いており、放置された年月を物語る。

 

「反転術式と同じ、(プラス)の呪力で出来ている。ただの呪物ではないな」

「でしょ?俺もそこが気になってさ、それが何かを確かめたい」

「ヤバいやつかもしれないよ。受肉させるの?」

「勿論さ。あーでも、夏油がやってくんない?俺それ触れないから」

「いいよ」

 

夏油はそれを詰まらせないように気を付けながら、女の口に突っ込んだ。

 

「さて、何が出るか」

 

暫く待つが、何も起こらない。危険な呪物の中には器を選ぶ物もある。この眼も、その類だったのだろう。

 

「あらら、死んだ?」

「だろうね。取り出すか」

 

死体の胸を裂いて、目玉を取り出そうとしたその時。

 

 

「おい」

 

 

「!」「…おはよう。随分と遅いお目覚めだったね」

 

真人が問うと、死体は喋る。

 

「継ぎ接ぎ。何故、禁を解いた?」

「うーんと、人助けかな?」

「そうか」

 

女はふらりと起き上がり、机の上に胡坐をかく。

 

「…それは座るものではないんだがね」

 

 

 

「地に伏せよ」

 

「「やだ」」

 

真人は言葉を発するのと同時に女に触る。

無為転変。

女の魂に触れ、その形を変えようとした。

 

(っ!防御されている!!)

 

無為転変は相手の魂を操作する術式。それを防ぐ手段は殆どない。だが女は「自身の魂の形を知覚した上で魂を呪力で保護する」ことで、無為転変を防いでいた。

次に女の呪力が溢れはじめ、空間を満たす。それは先の結界よりも濃度は薄いが、真人の身体を蝕み膝をつかせた。

 

「わたしは、嘘が嫌いだ。人助けで人を殺す馬鹿がいるか?二度目はないぞ」

「…君をもっと知りたいと思ったから」

「ほう、呪霊に口説かれたのは初めてだ」

 

だが返答に満足したのか、女の圧は収まった。

 

「いいだろう教えてやる。わたしはだ」

「げとーこれヤバいやつっていうか、ただのヤバいやつじゃない?」

「さっき自分のこと人間扱いしてたよね」

「………」

 

神。その形に答えを出すのは難しいだろうが、あえて言えば「とにかくスゴイもの」だろう。日本では、超常的な存在や現象を「カミ」として崇拝、或いは畏怖し、現代でも、「とにかくスゴイもの」を「神ってる」とか「神作品」とか呼ぶこともある。この女は、どうだろうか。

 

「君の名前を教えてくれないかな?」

「…幸月(さつき)。上は教えない」

「こちらも自己紹介をしよう。私は夏油傑(げとうすぐる)。で こっちが」

真人(まひと)。人間への恐れから生まれた呪いだよ、よろしくね」

 

場の緊張感が和らいだところで、夏油は女を観察する。身長140cm半ば。腰まで伸びた黒髪。口角左斜め下にある艶ぼくろ。変わっているのは、やはり目。黒と紫、そしてごく微小の光の粒が、星の海を湛えるように、互いに滲み混ざり合っていた。

 

(…凄まじいな)

 

そしてそれ以上に気を引いたのは、圧倒的な呪力量。記憶を辿っても、これ(・・)に比類しうるのは、乙骨憂太(おっこつゆうた)祈本里香(おりもとりか)くらいのモノだろう。少なくとも、神ってるのは間違いない。

 

「起き抜けに悪いんだけどさ、俺の話に付き合ってくれない?」

「…まあ、聞こう」

 

 

 

「つまり、呪霊が人間に成り代わる世界を創るために協力してほしい、と?」

「話が早くて助かるよ」

「…いいよ。だが、真人。先に確認したいことがある」

「何でもどうぞ」

 

少女は口走る。

 

「お前らが呪いの世界を創った後で、わたしの世界を創るのは、アリか?」

 

 

 

 

「…君が初めてだよ。そんなこと聞いてきたのは」

「っふ、あっはははははっ!いい!凄くいいよ、それ」

 

真人から見た女は、傲慢不遜な唯我独尊系といった印象。確認の形を保ってはいるが、「当然だろ」という気を隠さない。『特級』を目の前にして、この態度。

真人の本能は、この女は危険だと告げている。だが「この女を自らの手で殺したい」という欲求も抱いていた。

今は、その時ではない。呪いの時代、その暁。この女を殺して、俺達(呪霊)は永遠となる。

 

そして狙いは、もうひとつある。自分を神だと自称する少女の魂を、解き明かしてみたくなった。真人は人間観察が好きだと自覚している。魂の代謝に揺さぶられ、動くその様が大好きだ。この少女を観察すれば、魂をより理解出来るという予感。それに従ってみたい。

 

真人は手を差し伸べる。

 

「改めて宜しくね、幸月(さつき)

「…いきなり名前呼ぶ距離の縮め方キショク悪」

「いや名前しか聞いてないけど」

 

殆ど静観していた夏油だが、彼も真人と同じく少女の加入を認める。

 

「ちょっとお出かけしようか。どっちがいい?騒がしいところと、静かなところ」

「じゃあ、静かなところで」

「おっけー」

 

彼らはその場を立ち去り、暗い部屋に静寂が訪れた。




即堕ちコマ。
次回から戦闘描写入ります。

追記:文章の前後を変え、少し文を足しました。
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