役立たずの徒花   作:お米ちゃん

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戦闘描写って難しい。

後書きに呪霊の情報を纏めました。よろしければご覧ください。


第十三話 揺籃

時代劇で使ってそうな日本家屋。居るのは着物の人ばかり。ここは何処だろうか。

 

そう、禪院家である。

五条と伏黒はフルダテという男に案内され、建物外周の廊下を歩いていた。

案内の男は、一室の前で膝をつく。

 

(なお)毘人(びと)様。五条様と、伏黒様をお連れしました」

 

そう言って、丁寧に襖を開けた。

 

「入れ」

 

低くはっきりした声に急かされ、部屋の中に入る。そこに居たのは、七十はある御老人。

禪院家の26代目当主にして特別一級術師、禪院直毘人である。

隙あらば酒を呷る男だが、今は飲んでいない。

 

「では、私はこれにて」

 

それだけ言うと、男は去って行った。

三人の間に沈黙が流れる。聞こえるのは、ぎしぎしと軋む足音だけ。

それすら無くなってから、直毘人が口を開いた。

 

「よく来たな、恵君(・・)

伏黒(・・)です」

「ふっ、相変わらずだな。…………まあ良い、座れ」

「失礼します」

 

机を挟む形で伏黒は対面に正座する。

五条も当然のように、伏黒の隣で胡坐をかいた。

 

「で、ほんとに知ってんの?件の呪詛師について」

 

五条は少々皮肉に語尾を切った。伏黒を誘うための方便、と疑っての発言である。

だが、そんな疑いなど気にもせず、直毘人は首を縦に振った。

 

「知っている、もちろん答えるとも。だが縛りは結んでもらうぞ」

 

直毘人の返答は意外なもので、五条は目隠しの下の目を丸めた。

禪院家は腐っても呪術界の名門。嘘の縛りを結んでまで、伏黒を取り込む事はしない。

高専にも五条家(じっか)にも無かった呪詛師の情報が、禪院家にはあるらしい。

 

「内容は?」

「縛りの内容は3つだ。

一つ、これを聞くのは伏黒恵のみ」

「えー?僕も聞きたいんだけど」

「最後まで聞け。

二つ、公にするのは呪詛師の情報だけだ。それ以外は話すな」

「『それ以外』とは?」

禪院家(うち)の歴史についてだ」

「それ聞いて恵に何か得ある?」

 

五条の口調が軽いものから少しばかり冷めたものに切り替わった。

 

「損得の話ではない。

その呪詛師は千年前、禪院家の興りに関わっている」

「!!」「…ふーん」

「だが、余所者(・・・)に語る歴史ではない。正直言って…汚点だな」

 

そう吐き捨てた直毘人の顔には苦々しい表情が浮かぶ。

御三家の歴史は長い。加茂家のように、過去に恥じる様な事があってもおかしくはない。

最も、現代に置いて汚点は無いと言えるかは別の話だが。

 

「故に…最後の条件だ。

伏黒恵、お前を禪院家の次期当主候補(・・)とする」

「調子乗んなよ、ジジイ」

 

その声は、ぴしりと部屋の時間を止めた。

アイマスクを取ると、整った顔立ちには不釣り合いなほど、六眼に侮蔑の念が籠っている。

怒りを隠さぬ五条を前にしても、直毘人は一切動じない。それどころか、

 

「フフ…」

 

むしろ愉快だと言わんばかりの笑みを浮かべている。

ピリピリとした空気の中、先に口を開いたのは意外にも伏黒であった。

彼は小さく息をつくと、直毘人を見つめ返す。

 

「確認ですが。

俺がなるのは、飽くまでも次期当主候補ですよね?」

「ああ。そうだな」

「そして、着任を拒否することもできる」

「その通りだ」

「……なら、いいでしょう」

「えっ!?ちょ、ちょっと待って!」

 

突然の契約成立に、五条は思わず声を上げる。

 

「どういうこと?恵、まさか承諾したわけじゃないよね?」

「しましたけど」

「じゃあなんで……」

「…はあ」

 

伏黒はため息をついて、次は五条に向き直った

 

何とかなる(・・・・・)んでしょう?」

「……そっか、そうだったね」

 

伏黒の問いに、五条は不敵な笑顔を見せた。

 

「ジジイ、僕からはもう何も言わない。けど、一ついいかな」

「何だ?」

 

直毘人は少しだけ、眉をひそめる。

 

 

 

 

「僕どうやって時間を潰せばいいの?」

「アニメならあるぞ」

「デジアドある?」

「ある」

 

とにかく。

五条悟の暇つぶしと、呪詛師の情報開示が始まる。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

場所は変わって。

 

「やっほー、どんな感じ?」

「真人か。外で見張ってて欲しかったんだけど」

「見張ってるだけとか暇すぎるもん。どうせ人なんか来ないし」

「そうかい。まあそろそろ終わるよ」

 

領域に侵入し、中を見学する真人。視線の先にあるのは牛鬼…ではなく、少女が出した黒い渦。

少女がそれに呪符を翳すと渦の中央が盛り上がり、それを取り込んだ。

 

それは大きな蛇だった。

真っ黒でありながら、黒曜石のような艶がある。

 

「あれも式神?術式の応用かな」

「術式と呪符を組み合わせたものだね。低級式神なら、生得術式に依らずとも呪符で召喚できる」

 

八種雷蛟(やくさのいかずち)

 

迫りくる巨腕へと、黒い蛇が跳びかかる。

 

ごろろおん。

 

海を裂くような光と、音がして。それが牛鬼の体を消し飛ばした。背負っていた髑髏には血管のように模様が刻まれ、潮風に焦げた臭いが混ざる。

はっと我に返り、何が起こったのか理解した。

 

「っ、……雷!!」

「すっげぇ一撃じゃん。順平の式神より強いわ」

「誰だソイツ…まあ本職じゃないからコスパは悪い。『八種雷蛟(やくさのいかずち)』は顕現したのと呪符のを合わせて八匹しか存在できないし、一発撃ったら即退場」

「それで八種(やくさ)か。でも低級にしては強すぎない?」

「一匹だけなら…多分スタンガン程度、さっきのは八匹分を纏めて使った」

「強化の倍率おかしいでしょ」

「そこは才能」

 

八種雷蛟(やくさのいかずち)。遺骸創術の黒沼と呪符を媒介にして蛇の式神を召喚する、少女の拡張術式だ。

本来の遺骸創術で創るのは失われたモノのみで、新しく創るのは専門外。

だが呪符に式神をデザインし、それを取り込ませることで、沼を肉にして式神を召喚した。

 

「…ま、牛鬼とやらは祓い終えた。げと…夏油?」

 

 

「そうか…君は…」

 

呪霊操術の強みは手数の多さだが、退魔の力で祓えない呪霊はほぼいない。その上で少女に有効打を与える呪霊となれば特級呪霊でも限られる。その一体を祓われた。

 

「本当に、面白い」

 

その事実に、だが夏油は酷く穏やかで。焦りとはむしろ逆、どこか懐古的な声だった。

 

「『牛鬼を祓ったら私が相手をする』。そういう約束だったね」

 

少女に向かって、夏油は手を伸ばす。掌にあるのは呪いの塊。

 

(まだあるか)

 

それは―――――

 

うしろ(・・・)

 

―――――形を成さず崩れていく。その手で夏油は、代わりに少女を指さした。

 

「っ、あ?」

 

後ろからどんと押された感覚。

 

「疑問に思わなかったのかい?

呪霊を祓ったのに、なぜ領域が解けないのか(・・・・・・・・・・・)

 

振り向くと、水母(くらげ)と女を合わせたような呪霊がいた。ぶよぶよとした白い肌。骨盤の被り物。髪のように触手が伸びて、その先端から何かの液体が滴る。

刺されたと理解するのに、少し時間を要した。

 

「”()(おんな)”同じく海の呪霊だよ、こいつらは集合体なんだ。

故にその内の1体を祓ったところで、領域は解けないし祓えない」

「…は!?」

「君が思ってる以上に、呪霊にもいろいろあるのさ。ん、そろそろかな」

 

身体が重い。もしやと思って刺された左胸を触る。

 

石になっている。

白紙に垂らした墨のように、じわじわと生身を侵食する。

胸から腕へと覆い始めたところで、

 

「この海と同じ毒だよ。さ、どうする?」

 

夏油の声で、止まっていた思考が動き始めた。

身体の変化を拒むように、少女は胸を穿ち、反転術式で孔を治す。

しかし、これは。

 

「症状の軽減は出来ても、根本の除去は出来ない。

…ああ、そうだ。『対症療法と原因療法』ってやつだね」

 

毒を抜けば、呪いは解けるだろう。だがそんな余裕はない。水母(くらげ)の様な呪霊…濡れ女に、錦を放つ。

 

「……!」

 

するりと空を切り、目標を失った錦はひょろひょろ落ちる。

躱す動作はなかった、いや躱せる速度ではないが。

まるで当たらない事が分かり切っていたように、攻撃に対して無関心な反応。

 

「消える、のか…ッ!」

「シンプルだろう?」

 

再び。濡れ女の触手が少女を貫いた。どくどくと、石化の呪いを送り込む。

 

「元は、己の姿や残穢などを隠す術式。でも領域の恩恵でね、『攻撃の瞬間まで存在しない』。

姿を隠す術式と、存在を消す必中効果を使い分けている」

 

術式の開示による、術式効果の底上げ。

それは夏油にとって、盤石の布陣が整ったことを意味している。

 

「もう一つ。牛鬼はね、復活するんだ」

 

瞬間。底から牛鬼が這い上がってきた。

その身体は海を押し広げ、島が隆起したかのように錯覚する。

 

『アア"アオ"オ"オォ!!』

 

復活の産声か、殺戮の狂喜か。

何れにせよ掲げ上げた鋏の手は、既に振り下ろされている。

最早、少女に余裕はない。

先ずは目前に迫る脅威を祓うべく、錦を牛鬼に向けた。

 

だから気付かなかった。

間合いを詰めて王手をかける、夏油に。

 

「余所見とは、感心しない」

「『天具(テング)』」

 

黒い八つ手の羽うちは。それを扇ぐと風が起こり、巻き込まれた少女は海の彼方へ飛ばされた。

七つに減ったその羽先を、夏油は撫でる。

 

「その呪具、何処から取り出したの?」

「武器庫呪霊から。気配を覚られないよう、念のためにね」

「便利だね。まー俺はいらないか」

 

漏瑚なら欲しがりそう、という真人の言葉は、牛鬼が起こした波に搔き消された。

 

「つーか、俺の玩具なんだけど。死んだらどうすんの?」

 

ざざ、と砕けた波が海に還る。

真人がそれに目をやると、何事もなかったかのように凪いでいた。

 

「人が成長するには、何が必要だと思う?」

 

水平線を見つめたまま、夏油は逆に問いかけた。

 

「…………え?何急に。禅問答でも始める気?」

 

真人は呆れたように肩をすくめる。

 

「これはサービスさ。人の親切は、素直に受け取るものだよ」

「ふぅん。じゃあ教えてよ」

 

そう言いつつも、真人は真面目に答えを聞くつもりはないらしい。その視線は既に夏油から外れていた。

少しの間、沈黙が落ちる。波の音だけが二人の間に流れる。

やがて、諭すような声音で夏油は語る。

 

「危機意識。成長とは、理想と現実のギャップを埋める作業だ。

そのギャップに気付かせる最も手っ取り早い手段が、生命の危機という訳さ」

 

今みたいにね、と夏油は付け加えた。

 

「スパルタってやつ?古典的だね」

「そうだね。でも一番効果的な教育法だよ。古いものが、必ずしも新しいものに劣るとは限らない」

 

夏油の答えに真人はくつくつと笑った。

 

「なるほど。それは確かに真理だ」

「まぁ、死んだら意味のない話だけどね」

「ホントそうだよ。もっかい聞くけど、死んだらどうすんの?」

 

今度は、夏油も笑いながら答えた。

 

「その時は…その時さ」

 

 

 

* * * * *

 

 

 

奈落に堕ちる。

 

手足に絡みつく水の感触と、全身を包み込む浮遊感。肺から洩れた泡が、空へ弾けて消えていった。

揺蕩う黒髪が、視界に映ってはまた消える。

このまま目を閉じれば、或いは。

 

(……いや)

 

まだ負けてない。

陸に居る呪霊達を祓えばいい。『(ひらき)』で島ごと呑み込んでしまえば、一網打尽に出来るはず。

そう考えて、残った酸素を吐き出そうとした。

 

ごとり。

 

下で、何か崩れる音がして、体の向きを変えた。

そこにあったのは、石灰色の地蔵。海底を埋め尽くす石の中から、頭だけ出している。

それが、もぞもぞと動いて。底から身体を這い出して、こちらを見上げた。

 

赤子。

 

首から下は、どう見てもそれだった。

強いて異常な点を上げれば、腹にある開いた切り傷。

そこから呪霊らしく、紫色の体液が漏れて。しかし赤子らしく、手足を揺らしている。

 

『ほがああぁ、ほがアアア!!』『だぁあ、だあああだ!』

『むうううんんん』『きゃああ、きゃあああ!!』

 

水中だというのに、湧き起こる声はとめどなく。見える範囲だけで、優に30は超えている。

そのどれもが、同じ顔をしていた。

 

(……くそっ)

 

呪霊というのは、基本的に決まった形を持たない。人の負の感情から生まれるそれらは、多種多様の姿となる。

だが、目の前にいるこれらは違う。個としてではなく、群としての存在。

つまりこういうことだ。呪霊は、3種類いた。牛鬼に、濡れ女。そして…赤子の呪霊。

そしてこれらを全て祓わない限り、恐らく領域は解けない。

 

不愉快だ。

 

脳みそが眠れと煩くて、赤子の声も喧しい。だというのに、何も出来ない。

やがて光も届かなくなって、今度こそ目を閉じた。

そして―――――

 

 

 

 

「…領域(りょういき)展開(てんかい)




なんかいろいろある話。

オリジナル呪霊について。
今回夏油が使ったのは、群体型の呪霊です。牛鬼、濡れ女、そして名前を出せませんでしたが児奸(じかん)の3種類。
牛鬼と濡れ女は一体だけで、児奸は複数います。牛鬼または濡れ女がやられると、児奸の一体がそれに替わります。

??「俺達は、三人で一つだ」

これらの呪霊ですが、実は海以外にもモチーフにしたものがあります。

水子です。
2つ以上のイメージが混在しているので、一つ消えても問題ないって感じです。
では、それぞれの解説を。

・牛鬼
ヤドカリと男を足したような呪霊。でかい。うるさい。
元ネタはそのまんま牛鬼。有名ですね。
術式:『成長』
呪力と時間さえあれば、何処までも大きくなれます。但し適応する訳じゃないので、耐性とかは付きません。
必中効果は…特に思いつきませんでした。強いて言えば海が安置になるので、そこで安全に成長できます。

・濡れ女
水母と女を足したような呪霊。水も滴るいい女。
元ネタは濡れ女。牛鬼は、ある地方では濡れ女や磯女と共に現れると言われています。
術式:『透明化』
呪力にまつわるものを隠す事が出来ます。その気になれば牛鬼や児奸の呪力も隠せますが、消耗が大きいのでやりません。
必中効果は、存在そのものを消す事。これで安全に攻撃できますし、回避もします。3人の中で一番殺意が高いかも。

・児奸
石灰と赤子を足したような呪霊。いっぱいいる。
「濡れ女が赤子を人に渡すと、その赤子が重い石になる」という話から思いつきました。「ストーンベイビー」ともかけてます。
元ネタは「児干(じかん)」。これは妖怪ではなく、薬の名前です。素材は名前から察してください。
術式:『石化』
体液に触れたものを石にします。最初は表面を覆うだけですが、時間が経つと芯まで届きます。
必中効果は、絶対切れない釣り針。釣りもですが、堕胎手術のイメージです。
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