役立たずの徒花   作:お米ちゃん

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術式の詳細は後書きに纏めました。



第二話 術式開示

青と白が、流れ込んできた。

 

「……海だ…」

「穏やかでいい場所だろう?私達はよくここで作戦会議をするんだよ」

 

暗く長い廊下の先、ドアを開けると海があった。砂浜は白く、空は青く、森も青い。開けたドアが、熱された大地の熱気を運んでくる。

 

「早く締めなよ、皆待ってるよー?」

「…ああ、うん」

 

埃被った部屋。血濡れた廃村。そして、鬱蒼とした森の牢。暗い場所ばかり見てきたせいか、やけに光が眩しく感じる。今は9月。やや季節外れの光景に見蕩れていると、待っていた真人がいつになく楽し気な声で急かしてくる。真人もこの空間がお気に入りらしい。

わたしは初めて真人に対し「気が合う」という感情を覚えた。

 

「遅いぞ、夏油!いつまで待たせるつもりだ!!」

「ごめんごめん。ちょっと紹介したい子がいてね。漏瑚なら、きっと気に入ると思うよ」

 

ビーチベットに腰を下ろす、小柄な影が見える。それは夏油の名を呼ぶ声の主であり、声色のせいか口調のせいか、幸月はその呪霊から短気な印象を受けた。頭部が富士山のようになっており、そこから湯気が立ち昇っている。先ほどの熱気は、この呪霊によるものかもしれない。

 

「…人間、それも、(わっぱ)か。弱者はいらん」

「まあ、そう言わずに。幸月(さつき)、例のモノ」

 

夏油がわたしを呼んだので、その呪霊へ肩にかけていた鞄を差し出す。呪霊はそれを奪うように受け取り、チャックを開く。中には、絹の織物が折り畳まれている。

 

「……ほう、知らん呪具だが、退魔の類か。厳密には呪具とは呼べぬが上物だな」

「そういうの知ってるんだ。流石は呪具コレクターの漏瑚だね」

「ふん。正の呪力が込められておる、見ればわかるわ」

 

漏瑚と呼ばれた呪霊は鞄をビーチベッドの下に入れる。そして呪霊は、わたしの方へ顔を向けてきた。

呪霊の目は一つしかなかい。だがその目は、わたしの眉間を貫くような鋭さがある。

 

「…で」

 

空白の後、少しして向こうから話を始めた。

 

「儂の機嫌を取るために、ここに来た訳ではあるまいな」

「………桁違いの富士山だな」

「あ”?」

「漏瑚、怒るなよ。暑くなる。それに、子どもの言ったことだろう?」

「っぷ、一生使わないでしょ『桁違いの富士山』なんて。どういう意味?」

「いや、凄く強そうだなと思って。その…名前なんだっけ?」

「………!?貴様あの台詞だけで意味が伝わると思ったのか!?分かるか!!」

 

人間の表裏を嫌う漏瑚だが、子供は幾分か純粋だ。悪気はない。しかしその素直さゆえ、時に裏のない残酷な言動をすることもあると、漏瑚はこの時学んだ。

 

「はあ……儂は漏瑚。見ての通り大地の呪霊だ。先の質問に戻るぞ。貴様は此処に何をしに来た」

「?……顔合わせ?」

「違う。何の目的があって我々に協力するのか、と聞いておるのだ」

「わたしの世界を創るために」

 

 

 

 

「…正直なのはいいことだ。お前のことは、既に聞いておる。嘘八百を並べれば焼いていた」

「………面接怖い」

「そういうのは言わんでいい」

 

突然の質問。ついノータイムで答えたが、逆に好印象を与えたらしい。

 

「真人が認める以上、儂がお前を如何(どう)するつもりはない。だが、無能とは組みたくないのでな…術式を見せろ。お前自身もよく分からんのだろう」

「―――――千年ずっと、寝てたから。忘れてることも、多い」

「へえ。君、平安生まれなんだ」

「…遺骸創術 『開』」

 

術式を発動すると、白い砂浜に黒い沼が浮かび上がる。沼と砂の境界では、黒が白を取り込むようにしてその粘度を増している。

 

「失われたモノを復元する、そういう術式だったね。具体的に何処まで復元できるか、その線引きを調べよう。それ次第で、君の役割も変わる」

 

夏油は懐から一冊の本を取り出す。表紙には、「呪術高専 喪失呪具記録簿」と書かれている。その本を開き、『黒縄(こくじょう)』という名の呪具を指差した。

 

「まずは、どの程度から復元出来なくなるのか確かめる。『黒縄』は完全に消滅している呪具だ。…やってみて」

 「了解。【黒縄】」

 

名を呼び、呪具の具現化を試みる。しかし、何も起こらない。

 

「…無理っぽい」

「はい、次はこれ」

 

次に夏油は、『天逆鉾(あまのさかほこ)』の具現化を指示する。

 

「黒縄の術式効果は『術式の撹乱・相殺』。具現化出来ないのは、『完全に破壊されているため』『呪具自身の術式が復元を阻害するため』の2つが考えられる。似た術式の天逆鉾で確かめよう。もし天逆鉾の刃が具現化できて、かつその術式が残っていれば、前者の仮説を確定できる」

「おっけい。【天逆鉾】」

 

その名を呼ぶと、沼の表面に波紋が生まれる。手を上にやると、それは出てきた。二又の短刀のようであり、見方によっては鍵のようにも見える。そして、どちらの刃も折れている。

 

「ふむ、剣としては死んでいる。…問題は術式の有無だな。試しに使ってみろ」

「夏油やれ。わたし出来ない。それ重い」

「……何故だ?肉体を呪力で強化すれば造作もなかろう」

「呪力の肉体強化は、負の呪力でやるものだろう?わたしはそれが出来ない。正の呪力しかないから」

「無いとはどういう意味だ。正の呪力は負の呪力同士を掛け合わせて作るものだろう。」

「そのままの意味。正の呪力しか(・・)ない、そういう体質」

 

「…信じられない?なら証明しよう。

―――――錦御機(にしきのみはた)の術式効果は『伸縮』。正の呪力で伸びて、負の呪力で縮む。…そして、正の呪力には『遊び』が設定されている。呪具自身の正の呪力で術式が発動しないためにな。だけど、負の呪力には遊びが設定されていない。それを踏まえて…何もせずに、錦御機を持つ」

 

わたしが手に錦御機を握る。何も起こらない。

 

「次に。夏油」

 

錦を夏油に手渡す。夏油の手にある錦御機は、端の方から少しずつ消えている。

 

「見ての通り、僅かな呪力漏出にも術式が反応する。

これが、負の呪力を持たない証明だ」

「へえ、面白い体質だね」

「…成程な」

 

漏瑚は少女の特異体質を理解すると同時に、少女の思惑を理解する。

 

正の呪力しか(・・)ないというのは、呪霊が相手なら正の呪力だけで消し飛ばせるので然程デメリットにはならない。しかし、術師…というより人間が相手なら致命的な欠点だ。正の呪力は人間の肉体を再生することは出来ても、人間の肉体を傷つけることは難しい。だが「わたしの世界」を創りたい少女には、人間は邪魔だ。故に、人間を害することに関しては他の追随を許さない呪霊(我ら)と手を組んだ。

利用されている。でも悪いではない。少女が人間に組しないだけで、人間側の力は大きく削がれる。

 

そして、何よりも、

 

(この童は、五条悟(ごじょうさとる)ではない。…乗ってやるか。どの道100年後の荒野で笑うのは呪霊だ)

「―――――話が逸れたな。夏油、剣を振れ。的は用意する」

「【火礫蟲(かれきちゅう)】」

 

漏瑚の頭部から、蝉と蠅を足し、人間の手を生やしたような式神が放たれる。それは夏油の前で止まり、蜻蛉のように滞空し始めた。

 

「そいつを刺せ」

「……え?大丈夫?爆発しない?」

「案ずるな、爆竹程度に抑えてある。術式が発動すれば、音もなく消えるはずだ」

「チッ」

「真人」

「何も言ってなーい」

 

夏油が剣で蟲を刺す。すると、

 

 

 

 

「ババババババッ!!」

 

「―――――音、鳴るね」

「……何を確かめてたんだっけ?」

「黒縄を具現化出来ない理由。これで術式が発動すれば『完全に破壊されているため』で確定できたけど、発動しなかったね。…他の呪具で確かめよっか」

 「わかった」

 

夏油から本を受け取る。本はあいうえお順で呪具の名前と外見、また有る場合はその術式効果が記載されており、比較的新しい呪具は写真か絵が付いているが、そうでないものも多い。また大きなくくりで等級毎に分けられており、わたしは『特級』のページから、いくつか呪具の具現化を試みた。

 

 

* * * * *

 

 

「完全に消滅した呪具は出せないみたいだね。具現化できる限界が『破壊直後の状態』になってて、それ以上は具現化できないみたいだ」

「全部呪具として死んでおった。術式の死…というより『本来の機能の喪失』が、どうやら死の定義らしい。生き物なら、『生命活動の停止』といったところか」

「」

 

絶句する。いろいろ出したが、その悉くが(ごみ)だった。

…心なしか、漏瑚の目が冷めている。

 

「…ん?でもおかしくない?錦御機は?」

「ああ、確かに。あれの術式は生きてるよね。心当たりは?」

「………はっ!え、錦?……あーそういえば、錦は最初から中にあったな」

「…成程。今度は、その本を中に入れてみて」

「…入れる?沼に?……弁償しないけど」

「それは困るな」

 

恐る恐る、沼に本を入れる。するとそれは、ずぶりと沼の底に沈んでいった。

 

「…どうやら現実のものでも、出し入れは出来るみたいだね」

「へぇーすごい。頭いいなあ」

「ていうか入れたこと忘れるって……もしかして、頭悪い?」

「寝ぼけてたんだよ!」

 

本の題名を呼ぶと、沼から本が出てきた。本に汚れは付いておらず入れる前と変わっていない。それを夏油に返す。

 

そして、真人達が下した術式の評価は……

 

「まあ…便利っちゃ便利なんだけど、…何というか…」

「宝の持ち腐れだな。いや、宝だったものと言うべきか」

「君、今から呪霊にならない?武器庫呪霊って言うんだけど」

 

術式自体にダメージを与える手段がないため火力は術者の身体能力に依存するが、幸月にそれはない。道具を使うにしても、出てくるものは我楽多(がらくた)ばかり。

要するに、弱くね?

 

「…言ったな?」

 

黒沼の表面が大きく波立つ。

 

「わたしの術式は、名前を呼ぶことであの世の魂をこの世に呼び寄せる。でもそれは、呼ぶ魂を指定したいときの話だ。指定しなければ名前を呼ぶ必要もない」

 

術式の開示。自身の術式情報を公開するという縛りが、術式効果を底上げする。

 

「遺骸創術 『開』」

 

黒い沼が、噴水のように物体を吐き出す。出てきたのは雑多な(ごみ)ばかりで、勢いもない。

だがどうにも数が多い。

 

「っ!止めんか!!」「これは………面白!」

 

漏瑚は火を放ち制止するが、止まらない。瓦礫は積み重なっていく。

 

「ほら、しゃーざーい」

「……調子に乗るな!貴様のために言っておるのだぞ!!」

 

 

 

 

突然、塵の噴出が止まった。溢れていたモノも溶けていく。

 

ナハ

「……?」

 

            ナハ

再度術式を発動させるも、発動しない。

    ナハ

                          ナハ

『何を、している』

 

無貌の精霊が、そこにいた。




タイトル通り、術式開示の話。
説明に時間使いすぎて、漏瑚しか顔合わせ出来なかった…。

次回
   『幸月、死す』

遺骸創術(いがいそうじゅつ)
生物無生物を問わず、失われたモノを蘇らせる術式。コピーではなく本物の魂を軸に物体を具現化している。『降霊術』とは違い、依り代は必要なく名前を呼ぶだけでOK。
ここまでだとスゴそうに聞こえるが再現度は遥かに低く、基本ぶっ壊れた塵か死にかけの生物(死んでるけど術者の反転術式で無理矢理命を繋ぎ止めてる)の状態でしか呼ぶことが出来ない。
今回の実験で『開』の中に現世の物体を出し入れする使い方を発見した。
 
因みにモノを具現化する時より、『開』を発動する時の方が呪力消費量が多い。
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