役立たずの徒花   作:お米ちゃん

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第六話 黄泉がえり

花御が身構えた直後。

 

「……ッ!!」

 

数瞬前まで存在していなかった気配、質量のようなものを感じ、他の3人も後ろを振り向いた。

人骨だ、それも一つとか一人ではない。通路を塞ぐように、ぎちぎちに詰まっている。

それらは前進していることに誰かが気付く。

誰が言うでもなく、一斉に足を動かした。

 

 

―――――禁は破られた。

 

 

走った。わたしの頭はからっぽだ。何一つ考えていない。いや一つ考えていることがあった。

 

「じげも”ぉ!絶対、許さんぞ!!」

 

叫んだ。目には涙が浮かび、口は罵詈雑言で溢れている。

 

「うさぎとかめ」は、兎と亀が山の頂上を目指して競争し、油断した兎が着実に歩いていた亀に負けるというお話だ。この物語で得られる教訓としては「油断大敵(ゆだんたいてき)」や「点滴穿石(てんてきせんせき)」などがあるだろう。

わたしは亀だ。呪力による身体強化が出来ないので早く走るのには向いていないが、反転術式で体を回復できるので長距離走には向いている。

 

だが今求められるのは兎で、わたしだけ亀だった。

 

「ギリシャ人!おんぶ!!」

「ガキか!走れよ!!」

 

助けを求めるが、重面にそんな心はない。

自分が良ければそれで善い、都合が悪いことは全て忘れる。重面はそういう男だ。

 

「…アレ(・・)に捕まると、どうなる?」

 

真人は改造人間を取り出して骨の塊に放り投げた。骸骨は不可逆的な死、その末路。どうなるのかなど想像に難くないが、念のため確かめる。

改造人間は勢いよく形を変え、棘の物体になった。

 

「…ちっ」

 

骨に当たるが、砕けない。寧ろ改造人間に齧りつき、肉を貪り血を(すす)り始める。

 

「幸月がんばれー」

「血も涙もねぇ!!」

 

最前列の真人と最後尾のわたし。ふり返る余裕などないが、咀嚼音は耳に届く。改造人間が食われるなら、花御はと声をかける。だが何も起こらない。

 

「花御?」

『やっていますが、出来ません!!』

『術式が発動しない…というより、命芽生える環境がない!!』

 

植物は強い。砂漠の植物は地下に10数メートルの根を伸ばして水を求め、都会の植物はアスファルトを押し上げてでも光を求める。

 

その植物すらも生えない此処は、まさに”死の国”。

 

「もうゴールしてもいいよね…」

「ふざけんな!俺どうなるんだよ!!」

 

この世界には、わたしの術式でやって来た。術式が消えたら出口は閉じるだろう。最悪この世界すら消えるかもしれない。

 

「俺が先頭、幸月は重面に持たせて真ん中、花御が最後。これで逃げ切る」

「なんで俺が持つんだよ!」

俺ら(呪霊)が持つのは危ないだろ、分かれ人間」

 

生き残るべきなのは真人、次点でわたしだ。呪物を持つのは真人だし、そもそも呪霊達のボスなので捕まってはいけない。

真人を逃がすためにわたしが要るので、癪だが重面に持たせる。改造人間に持たせてもいいが、あれの寿命は短い。

花御は最悪の場合、囮になって本命を逃がす。重面は最後尾でないことに感謝すべきだろう。

 

「なんで俺が…」

 

重面は仕方なくと言った様子でわたしを担ぎ、4人は出口を目指す。

 

「幸月、出口まであとどれぐらい?」

「大体2.5キロ、このままいけば10分で着く」

 

先程までわたしに合わせていたので小学生の徒競走だったが、今は遅刻寸前の女子高生が乗る自転車並の速度で走っている。

 

「あー酷い目にあった…。見ただけで襲うとか沸点低すぎ、ピッグ〇ンを見習え」

「どーみても、ス〇ルトンだろ!クソガキが!!」

「ツッコむ余裕あるんだ…」

 

重面とは違い、余裕が出てきた。担がれたついでに話し相手をしてもらおう。重面も話をしたがっていたはずだ。

 

 

次の瞬間。壁から生えた腕がわたしの頭を掴む。

 

「は、あ、ああ?」

「くそっ離せ!!」

 

重面が刀で叩き切るが、手は増える一方。わたしの頭はもう半分、骸に覆われている。

 

『!!なぜ私ではない!?』

 

花御は疑問を抱いた。

先の調査では、振り向かせた者は全員帰ってこなかった。(トリガー)を破ったのは全員。今最後尾にいるのは花御で、少女は真ん中にいる。

 

(距離ではない。順番がある?)

 

少女だけが襲われている。重面が反撃しても「邪魔だなぁ」と言う風に振り払うだけ。

 

「幸月、呪力抑えて」

「…!あ、そういう感じ!?」

「かもしれない」

 

呪術とは術師や呪霊の数だけあり、千差万別。それでも多少の法則はあり、呪術の問題なら大抵呪術で解決できる。

まずは「呪力の量で決めている説」から。

 

「っ!マシになった!」

 

引っ張る力が緩む。花御が隙を突いて手を砕き、わたしは拘束から解放された。

だが標的は変わらない。わたしを捕えるべく、また壁から手を伸ばし始めた。

 

「単純な呪力量じゃない、他にもあるな」

『……真人。これは、呪力の”質”では?』

「呪力の質…成程。あり得る」

『確かめましょう』

 

花御はもんぺのようなズボンから”実”を取り出し、地面に転がした。

 

骸はその実に手を伸ばす。

 

「ビンゴだね。正の呪力が、彼等の好みらしい」

 

花御がわたしに植えた呪力の種。それから生まれた呪力の実には、わたしの呪力が込められているらしい。その実に骸が齧りつき、足を止めた。

 

「それはいいとして…」

『実は先程ので出しきりました』

「んー嫌な予感」

 

 

呪胎九相図(じゅたいくそうず)。最悪の呪術師として名を馳せた加茂憲倫(かものりとし)によって作り出された、特級に分類されるほどの呪物。呪霊の子を孕む特異体質の娘により、九度の妊娠と九度の堕胎を繰り返して生まれ堕ちた胎児が、死後呪物と化した。

 

「イエーイ!九相図(くそうず)のみんな見てるぅー?」

「今花御が女の子に種付けしてまーす!」

『真人』「流石に人間性を疑う」

 

花御がわたしに種を植え、わたしの呪力が実を育てる。完璧な作戦である。だが重面は呪木を抱えて走るのはキツイらしく、呼吸を乱す。真人は何もしない。

 

骸骨達は実の方に夢中で、何なら取り合いすら起きている。死の世界においても食糧不足は深刻な問題らしい。そのお蔭でわたし達は、かなり距離を離すことが出来た。

 

「あと500メートル…」

「このまま逃げ切るよ」

 

意識が飛ぶのが先か、出口にたどり着くのが先か。何とか脱出する方が早く終わりそうだ。

そう思った矢先、誰のものでもない声がした。明らかな異変、全員が振り返る。

 

サツ…サ…

                 カエ…テ

         タ…ケ…

 

 

其処にいたのは、肉を付けた骸達。だが揃って中途半端で、いっそ骸骨の方が不快感は少なく思える。

 

「…やっぱりピ〇グマン」

「言ってる場合じゃないだろ!」

 

それらは今までとは比べ物にならない速さで此方に迫り来る。時間はない、花御は覚悟を決めた。

 

真人は、全く別のことを考えていた。「肉を付けたのは単に実を得たからだけではない」と。

起死回生(きしかいせい)。それは窮地からの逆転を表す四字熟語。「起死」と「回生」は共に、死にかけた人を生き返らせることを意味する。

この状況で追い詰められているのは逃げる生者と追う亡者、その両方。だが亡者たちは肉を得て状況を立て直し、距離を縮めてる。ならば此方も、死地に活路を開かなければならない。

 

(より洗練された逃げるための形)

(逃げるためのインスピレーションを表現しろ!!)

 

この土壇場において、真人は成長を遂げる。

 

無為転変(むいてんぺん) ”多重魂(たじゅうこん)”」

 

無為転変は魂に触れその形を操作する術式。今ここに真人は複数の魂を混ぜる術を身に付ける。一人でやれることには限界があり、魂も同じ。それは改造人間を使った技の出力を大きく上昇させた。

 

マヒトカート(改造シャ)

「今なんて言った!?」

 

融合(コラボ)させた魂達は、車の形に生まれ変わった。真人はそれに花御とわたしを乗せる。

 

「!俺も」

「悪いね重面、この車三人用なんだ」

 

車はエンジン(?)を鳴らし、洞窟を走り抜けた。

 

 

「しぶといなコイツ…」

 

発車の直前。重面は車体に引っ掻けるように刀を刺した。車はそのまま発車し、途中重面は気を失ったが、刀が重面を握り返し事なきを得ていた。

 

「やっとく?」

「いや、そのうち死ぬでしょ」

 

気絶した重面と燃料(じゅみょう)切れの改造車を置いて、三人で夏油の待つアジトへ向かう。

 

「あ、もう一つ思いついた」

 

真人が二つに別れ、それぞれ瓜二つの姿になる。

 

「俺達、マヒトブラザーズ」

「…弟さんは?」

「まんまミーや」

 

コイツ絶対早死にするな、と思った。

 

 

* * * * *

 

 

交流会襲撃の後。

まだ一段落ついたとまで言えないが、呪術高専の教師達は一ヶ所に集まり、現段階での情報を共有していた。

 

『ハンガーラックを作りたかったんだ。それをあの坊主名前は知らねぇ』

『男か女かも分かんねぇ、白髪オカッパのガキだ』

 

捕えた呪詛師の自白。まともじゃない要領を得ない発言も多いが、それでも貴重な情報。精査はする。

 

『黒髪のクソガキ…サツキって言ってたな、こっちは女だ術式は知らねぇ』

『ああでも、反転術式?は使えるぜ。腕とか骨まで生えるんだよ。見てて面白かったなーアレは』

 

「…性別不詳のオカッパ坊主のガキんちょ、それから反転術式の”サツキ”、心当たりは?」

 

1級術師・冥冥(めいめい)が訊ねる。

 

「無い。無いけど伊地知(いじち)、黒髪の方についてもっと何か言ってなかった?」

「……えー、重要性は極めて低い情報ですが…」

「いいよ、言って言って」

「……『あのガキ、俺をハゲ呼びしやがって』と…」

「OK、黒髪の方は確定だね。ハゲの頭からハゲって言葉は出ない。でしょーおじいちゃん?」

「…」

 

補助監督・伊地知潔高(いじちきよたか)の情報から名推理を決める男・五条悟。これはおじいちゃん…楽巌寺嘉伸(がくがんじよしのぶ)も閉口せざるを得ない。

 

「極めて高度な反転術式を使うとなると…相手は、特級相当の呪詛師か」

「家入タイプかもだし、そこまで身構える必要もないでしょ。特級クラスなら襲撃に来ててもおかしくなかった」

 

警戒するのは東京校学長・夜蛾正道(やがまさみち)

だが「反転術式が使える」という事しか分かっていない。警戒するにも情報が無さすぎる。

「え?いる感じで話進めるの?」とおじいちゃんは夜蛾を見るも、視線は合わない。

 

それから今後の立ち回りを幾つか決めるが、目下の課題・交流会中止の成否は生徒たちに委ねられた。

 

 

* * * * *

 

 

「…逃げたな。ま、食われても困るか」

 

静まり返った洞窟に、声が響いた。

 

「クヒッ、少し待とう。須臾(しゅゆ)に等しいことだ」

 

何が可笑しいのか、それは笑う。

 

「必ず殺す、■■■




マヒカを思い付いた真人の話。

ちなみに少女は、実在した(らしい)人物をモデルにしています。
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