浅倉が増えて、樋口のストレスは加速した。   作:バナハロ

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呼び方一つとはいえ、変わる事は少なくない。

 12月31日、つまり、年末。円香と透は、神社の小さな駐車場近くで待機していた。これまで色々と勉強し続け、今日は円香の母親に言われた通り、願掛けしにきたわけだ。

 現在、23時30分。円香は腕時計を眺めながら、マフラーに下唇が隠れた口から、白い息を漏らす。

 

「……遅い」

 

 菅谷が来ない。チェインも何度か送ったが、応答が無かった。既読すらつかない様子に、少し円香は不安に……はならなかった。前に透と学祭に行く時の待ち合わせで普通に遅刻していたし、今回もそれかもしれない。

 とはいえ、寒い中、それを待たされる身としては普通に苛立ちはするのだが。

 

「ホント、あいつは毎度毎度……」

「ねぇ、樋口」

「何?」

「すっごく今更だけどさ、菅谷の下の名前ってなんだっけ?」

「? 何急に?」

「いや、何となく」

 

 そう言われればそうだが……自分も透もずーっと菅谷と呼んでいるし、気になる所ではある。

 考えてみれば、菅谷は自分の名前を言う時も苗字しか言わない。……たまに、普通に下の名前を言った方が良い時でも苗字だけしか発さない。

 

「前に試験用紙を見た時は、明るいって漢字が入ってたけど」

「じゃあ……アキラ?」

「いや、二文字だった。……なんだっけ?」

 

 正直、あんまり気にしていなかったのはあるが、話に出されると気になってしまう。隠しているのか言わなくなったのかは分からないが、聞いてみても良いかもしれない。

 

「うーん……明人とか?」

「明を男の子の名前で使うの、割とハードル高いよね」

「あ、明斗とか?」

「それ漢字しか変わってない」

「じゃあ、暁人」

「明も使ってないでしょ」

 

 そんな話をしながらしばらく待機していると、自分達の前に、車が止まった。ミニクーパーと呼ばれる、円香でも知っているほど有名な車だ。

 そこからウィーンと顔を出されるのは、如何にもお金を持っていそうで、厳格そうな男の人だった。

 

「えーっと、君達がマドちゃんさんと、とおるんさん?」

 

 聞き覚えのある呼び方に、大体何者か分かったので、頷いて答えておく。

 

「おい、起きろ。着いたぞ」

 

 男の人は後部座席に声をかける。が、後部座席から声は無い。

 

「おい、いい加減起きろ。お前が行くって言ったんだろ」

「んぁ……」

「明里! 友達、待ってるぞ!」

「……んー……」

 

 明里? 誰? なんて思っていると、ようやく後ろの席の扉が開く。そこから降りて来たのは、寝ぼけた様子の菅谷だった。

 

「ふわぁ……おはよう、父ちゃん……」

「こんばんは、だ、むしろ。良いから、初詣だろ? ……ったく、柄にもなく31日になっても勉強なんてすっから……」

「え……もしかして、菅谷のお父さん?」

 

 分かっていなかった透が隣から聞くと、その人は頷いて答えた。

 

「ええ。失礼、息子がずっと眠ってしまっていて。昨日から楽しみにしていたようで、夜はずっと眠れず勉強していましてね」

「……そ、そうですか……」

 

 本当に単純な男である。それが悪いとかではないが……いや、悪いか。そんなに楽しみにされても、支障が出ていたら意味がない。

 すると、菅谷が車から降りてくる。大きなあくびを片手で押さえながら、ぼんやりした目線を宙に向けていた。

 

「……あれ、マドちゃんにとおるん……? なんでここにいるの?」

「初詣でしょ」

「おはよう、菅谷」

「あ、そっか……父ちゃん、サンキュー」

「気をつけて帰ってこいよ」

 

 元々、歩いて行かせる予定だったからか、父親はそのまま帰ってしまった。

 ようやく意識が戻ってきた菅谷が、ぼんやりした表情で二人を見回し、片手をあげる。

 

「おはよう。二人とも」

「遅刻なんですけど」

「ごめんごめん」

 

 まぁ、理由があまりに子供っぽいだけに責める気にはならなかったが。

 

「コンポタ自販機で奢るから許して」

「私、お汁粉で」

「私はコンポタで良いよ」

「はいはい」

 

 そんな話をしながら、神社に上がる前に自販機へ向かう。

 そんな中、円香は少し神妙な表情で顎に手を当てていた。彼の父親が出てきた事と、遠足前の小学生みたいな理由の遅刻で、ついタイミングを逃してしまったが……彼の名前、明里と呼ばれていなかっただろうか? 

 いや、しかしまさかそんな女の子みたいな名前になることは……しかし、それは人それぞれな気もするし……しかし、名前を隠したがる理由もわかる気がする名前……しかし『明るい』という漢字が使われているように、それなりに明るい子にはなってて……しかし……。

 などと円香が考え込んでいる間に、その隣で透が言った。

 

「菅谷って下の名前、明里って言うんだ?」

「うん。知らなかったの?」

「だって聞いてなかったし」

「そうだっけ?」

 

 普通に聞いてくれやがった。しかも、本人もさほど気にした様子は見せていない。

 

「明里かぁ……女の子みたいな名前だね」

「透に言われたくない」

「いや、男女共用でしょ。透は」

「それもそうか」

 

 まぁ、本人が気にしていないのなら良いだろう。円香は黙って、自販機で購入した飲み物を受け取る。

 

「ありがと」

「いや、お詫びだし」

「あそっか。じゃあ今のお礼無しで」

「とおるんも、はい」

「ありがと」

 

 なんにしても、女っぽい名前で隠したかったとか、そういう重い理由じゃなくて良かった、と安堵していた円香がおしるこに口を付ける中、隣の透が思いついたように言った。

 

「そうだ。せっかくだし、菅谷のあだ名も考えようよ」

「は?」

 

 また面倒なことを……と、円香がため息をつく。というか、何でいちいちあだ名をつけないと気が済まないのか。

 

「樋口と一緒に考えるから」

「は?」

「ね?」

「いや、ね? じゃなくて。私は別にいいから」

「えー、樋口だって菅谷にあだ名付けてもらってたじゃん」

「別に頼んでないし」

 

 というか正直、マドちゃんと呼ぶのもやめて欲しいとこある。マゾなのかサドなのか分からないし。

 だが、その菅谷は少し寂しそうに円香を見ている。

 

「俺欲しいかも。あだ名」

「は?」

「二人のあだ名は俺が考えたし……二人から考えた奴を一つ」

「いや、一つ、じゃなくて……」

「ほら、樋口。考えて。明里から」

 

 ……まったく、こういうよく分からないノリを引き出してくれて……良い迷惑だ。

 とりあえず、以前のヒグマの仕返しと思って言ってみた。

 

「アリで良いでしょ。よく観察してるし」

「ぷっ……ふふっ」

「良いよ。俺はそれで」

 

 しかし、予想外にも帰ってきたのは笑いと許可。提案した自分が言うのもなんだが、人でなしか、と思った。

 

「じゃ、俺はこれからアリで」

「よろしく。アリ」

「待って待って、やめて。なんかハードなイジメみたい」

「えー、可愛いじゃん。アリ」

「そうだよ。アリ」

「やめなさい」

 

 透の額をペチンと叩く。ホント、未だこの2人からは読み取れない言動が多過ぎる。

 というか、なまじ気に入られているだけあって、このままでは本当にアリで決まってしまいそうだ。真剣に考えなくては。……なんでこんなことで、真剣に考えないといけないのか、というのはあるが。

 

「あ、じゃあこれは?」

「はい、とおるん」

「アカちゃん」

「ごめん、それは嫌」

「浅倉、あんた天性のいじめっ子か何かなわけ?」

 

 良いわけがない……と、思いつつも、アリは良くて赤ちゃんはダメな理由は少し分からなかったが。

 

「じゃあ、もうアカリちゃんで」

「それ普通に女の子じゃん。ちゃん付ける意味ある?」

「確かに」

 

 というか、透こそ真面目に考えていない気がする。……ほんと、何故付き合わされている自分が真面目に考えないといけないのか。

 

「ていうか、マドちゃんは何かないの?」

「所望しないで。……考えてるから」

 

 とはいえ、アリもアカも使ってしまったし、カリというあだ名もちょっとよく分からない。金でも借りにいくのか、それともモンスターでも狩りに行くのか……なんて思った時だ。

 

「……あ」

「何?」

「じゃあ……理科得意だし、リカっていうのは?」

「……」

「……」

 

 明里を一部ひっくり返したのと、理科が得意なのをかけてリカ。

 二人の無言の視線が集中する。思わず照れが爆上がりし、円香の頬が赤く染まる。

 

「っ、な、何……?」

「それアリ」

「樋口、センスあるじゃん」

「え、良いの?」

 

 決まりのようだ。……なんか自分だけ真剣に考えていたみたいで、これはこれで恥ずかしい気がする。

 

「女の子っぽいのは変わってないと思うけど」

「そんなの別に気にしてないし。それに、マドちゃんが考えてくれた奴だし」

「え、私も考えたんだけど」

「いや、浅倉のはダメだから。私が無理」

「とにかく、決まり。俺がそれって言ってるし」

 

 そう言いつつ、菅谷は円香に微笑む。その真っ直ぐな笑みに、円香は思わず怯みかけてしまう。こんな事で、そんなに喜ぶのはやめて欲しい。

 その円香に、まるで追い討ちをかけるように透が言った。

 

「じゃあ樋口、早速呼んであげてよ」

「っ、え、な、なんで私なわけ? そもそもそんな改まって呼ぶ事ないでしょ」

「いやだって思いついたの樋口じゃん」

「あんたらが勝手に私を巻き込んだんでしょ」

「え、じゃあマドちゃんは俺のこと、そのあだ名で呼んでくんないの?」

「……呼ばない」

 

 別に一度も呼ぶとは言っていない。そういう頭の悪いカップルみたいなノリは二人でやっていれば良いだけのことだ。

 

「じゃあ良いよ。私と菅谷だけで呼ぶから」

「ねー、とおるん」

「ねー、リカ」

「……」

 

 イッッッラァッッ……と、円香の額に青筋が浮かぶ。こいつら打ち合わせでもしてんのか、と思うほどに息を合わせてこちらのイライラポイントをくすぐり回して来る。

 いや、別に羨ましいとかではなく、疎外感とイチャイチャ感が腹立つ。

 

「……分かったから、リカ。これで良い?」

「良いよ。マドちゃん」

「満足したら、さっさと鳥居を潜るよ。そんなに神社の真下で年を越したいわけ?」

「「はーい」」

 

 呑気に二人揃ってそう言うと、三人で階段を上がった。

 

 ××+

 

 時計を見ると、今年も残り5分となっていた。それに伴い、バカなことを考えるのが得意な二人のうちの男の方は、平気な顔で提案した。

 

「今年もあと少しだし、どうやって年を迎えるか考えようか」

 

 もうこの手のノリに慣れた円香は、とりあえずありきたりな提案をしてみた。

 

「定番なのはあれでしょ。年越しと同時にジャンプして、地球上にいなかったって奴」

「え、何それ。樋口バカだけど頭良い」

 

 そう言ったのは透。円香も聞いた話を伝えただけだったが、透的には褒め言葉であるセリフに何かを言い返すことはなかった。

 しかし、その横で菅谷が意外そうな顔で余計なことを言う。

 

「え、いや宇宙の範囲って定義的には高度100kmから上空だから、それ以内は普通に地球上だよ」

「は? 私、聞いた事あるヤツ言っただけだから。知ってたからそれくらい」

 

 すぐに反旗を翻した。菅谷に知識で負けるのだけは我慢ならない。実際、知らなかったわけだが。

 その横で、実に素直で羨ましい性格の透が少し驚いたように聞いた。

 

「へぇ、そうなんだ」

「そうだよ。だから成層圏と中間圏と熱圏はまだ地球。その上の外気圏から初めて宇宙になんの」

「清掃権と中間県と熱拳? 変なのばっかだね。最後の、必殺技っぽい」

「まぁ、大気圏に人がいれば死ぬから、最後のと言わず三つとも必殺されちゃうけど」

「怖っ。樋口、知ってた?」

「別に知らなくても死にはしないでしょ。私達が行く高校、地学ないし」

「それもそっか」

 

 上手いこと論点をずらし、透の興味を逸らす。絶対に負けた感じは出さなかった。

 

「それより、他に案は無いわけ?」

「じゃあ年末年始、息を止めて過ごすのは?」

「ふむ……面白いかも」

「いや、地味でしょ。周りからしたら何も分からないし」

「じゃあ、三人で三人の口を塞ぎあえば良いのでは?」

「なんで年末年始にデスゲームをしなきゃいけないの」

「面白いかもね。それにしよう」

 

 スイスイとやることは決まる。まぁ、円香も別にそれくらい良いか、と思い、三人で円になって向かい合った。

 時計を見ると、残り2分で年越し。思ったより時間が余ってしまった。

 

「……時間までしりとりしようか」

「じゃ、俺からね。樋口円香」

「なんで私の名前……まぁ良いや。カラス」

「菅谷明里」

「り、り……あ、リトアニア」

「あ? 顎」

「樋口……なんで私の名前出してくれないの……」

「冷たいなぁ、これだからまったくマドちゃんは……」

「なんて答えたって私の勝手でしょ」

「……ゴジラ」

「ら〜……ライア」

「足」

「……屍」

「になったマドちゃん」

「それしりとりじゃないでしょ」

「樋口がスルーするからでしょ」

「でしょでしょ」

「どんな語尾……⁉︎」

 

 年末だというのに、すごくくだらない事で言い争いが始まった時だ。神社にいる周りの参拝客が「5!」とカウントダウンを始める。

 それにより、三人とも元々やろうとしていたイベントを思い出し、慌てて円香は菅谷に、菅谷は透に、透は円香に手を伸ばした。

 しかし、揃いも揃って勢いが強過ぎて、鼻の頭にビンタをするような形になり、後ろにひっくり返る。

 その直後、ごぉ〜ん……ごぉ〜ん…………ごぉ〜ん…………という、風情ある余韻と参拝客の「0!」のコールが神社中に上がる中、三人とも顔を抑えたままダウンしていた。

 

「……」

「……」

「……」

「あけおめ」

「ことよろ」

「あけよろ」

「何あけよろって」

「フュージョン」

 

 年が明けた。

 

 ×××

 

 さて、1月1日になり、三人は改めてお参りしにいく。列に並びながら、年始めからやりたいことをしくじったものの、それがなんだかおかしくて三人とも笑っていた。

 

「はぁ……マドちゃんの一撃、普通に痛かった」

「私も浅倉からキツイのもらったからお互い様」

「正直、リカのはあんま痛くなかったけどノリで倒れた」

「一人勝ちされてますよ、円香さん」

「許されないわ。浅倉、歯ぁ食いしばって」

「いや、樋口が叩くの? そこはリカじゃないの?」

「女の子に手をあげる男は最低だから」

「いやリカ、あんたもう、一回振るってるから」

 

 なんて話している中、もうそろそろお参りの順番が回ってきた。

 それにより、ビンタされる前に透が話を逸らした。

 

「何お願いする?」

「それ先に言うと叶わないってよ」

「じゃあ俺、高校落ちますようにって」

「お、リカ賢い」

「でしょ?」

「それで本当に落ちたらビンタするから」

「嘘嘘。合格したいから口にしないで願う」

「それもう言ってるようなもんじゃない?」

「セーフ。神様だし少しくらい融通聞くでしょ」

「融通って言っちゃってるし」

 

 そこをツッコミつつも、円香も大丈夫だろうと思っていた。何故なら、自分も似たような願いをするつもりだから。自分も口にしなければ大丈夫のはずだ。

 その隣の透も、大丈夫でしょ、と確信していた。透も似たような事を考えている。円香も同じことを考えるだろうし、口にしていないから平気のはずだ。

 さらにその隣の菅谷も、大丈夫だと強く感じていた。神様も少しくらい融通を利かせてくれる、と本気で思っていたから。

 

「お、次だ。いくら入れる?」

「5円。神様にご縁があるように、って」

「じゃあ俺、1000円入れよ。縁より金で」

「じゃあ足りなくない?」

「2000円」

「だけ?」

「えーい、持ってけ泥棒! 5000円だ!」

「やめなさい。神様に泥棒とか言うの」

「樋口、そっち?」

 

 結局、みんなで5円ずつ入れ、そして手を合わせ、目を閉じた。

 頭の中で唱えた三人の願いは、もはや必然と言うべきであろう程に一致していた。

 

『三人で、合格出来ますように』

 

 と。

 三人揃ってお参りを終えると、列から外れる。視界に入ったのは売店。お参りに来た中学生グループがやることと言えば一つだけだ。

 提案したのは、透だった。

 

「よし、おみくじ引こう」

「良いよ」

「負けた人、罰ゲームにしよう」

 

 提案したのは円香だった。一番、神様を信じていない円香の発言だった。

 それに、菅谷が尋ねる。

 

「どんな」

「合格祈願のお守り奢り」

「え、あれ意外と高くない?」

「俺は良いけど……てか、他人が買ってご利益あるのああいうの?」

「知らない」

「じゃあどうする?」

「後ろから雛菜の肩を叩いて頬ぷにっで」

「「良いね」」

 

 透の提案に決定した。おそらく、タダでは済まないだろうに。

 さて、三人でお金を払い、おみくじを引く。中身を見る事なく、三人は購入を済ませると、少し離れた場所に移動し、向かい合って一斉に顔を見合わせた。

 

「「「せーのっ」」」

 

 透→大吉

 菅谷→大吉

 円香→吉

 

「「はい、勝ちィッ!」」

「……いや、こういうの勝ち負けないから」

「「いやいや、マドちゃんから言い出した事でしょ」」

「浅倉、あんたがマドちゃんって呼ぶな」

 

 まぁ、負けたものは仕方ない。小さくため息をついた円香は、とりあえずおみくじをポケットにしまった。

 それに釣られて、他二人もおみくじをポケットにしまった。

 

「ちゃんと私達の前でやらないとダメだからね」

「始業式の日、俺ととおるんが隠れて見とくから」

「はいはい……」

 

 円香は適当な返事をしながら、今からそのことを憂鬱に思いつつ、とりあえず今のうちに言い訳を考えておいた。

 その横で、透が菅谷に声を掛ける。

 

「てか、リカ。見ときなよ、中身」

「え、おみくじの中身ってポエムしか書いてないじゃん」

「学業のとことかあるでしょ」

 

 円香も口を挟む。この中で一番、不合格になる可能性が高いのは菅谷だ。

 菅谷が開いたおみくじの様々な項目が書かれている箇所を、円香が指差す。

 

「どこ見れば良いの?」

「ここ」

「あ……ほんとだ。こんな見やすいとこあったんだ」

 

 言われて菅谷はその場所を見る。学業の他にも失せ物やら健康やらたくさん興味が惹かれるものがあった。

 

「スゲー、万能だなおみくじ……うわ、恋愛まであんじゃん」

 

 その一言に透と円香はピクッと反応する。

 

「読み上げて」

「え?」

「学業と恋愛」

「……う、うん?」

 

 二人に促され、目を通してみた。実際、菅谷も恋愛の所は少し興味があった。

 

「えーっと……学業。あ、やれば出来るみたいな事書いてある。松○修造かな? で、恋愛は……」

「「は?」」

「……『選ぶ必要はない』だって」

「「……」」

 

 その直後、二人の視線が菅谷に集中する。心なしか、ゴミを見る目だ。

 

「……え、何?」

「「別に」」

 

 二人揃って目を逸らした。

 

 ×××

 

 円香は、困っていた。家に帰ってから、自身のあの時の感情のブレに疑問があったから。

 気になったのは、おみくじを見ていた時の話。何故、彼の恋愛の欄の結果が気になったのか分からない。

 というか、ここ最近、菅谷関係について悩むことも多かった。何故かは自分でも分からない。別に、菅谷が好きではない。顔を見て胸が高鳴ることは無いし、まぁ一緒にいて楽しいし面白い奴とも思うが、それだけだ。

 何より、別に透と菅谷が仲良くしていても、全然嫌じゃない。いや、イラっとすることはあったが、それは決して嫉妬のような感情では無いと断定出来た。

 ……でも、雛菜と菅谷が仲良くしていたら、それは少し嫌だと感じるだろう。透は良くて雛菜はダメ、なんていう感情がまたよく分からなかった。

 

「…………なんなの……」

 

 新年からなんでこんな事で悩まないといけないのか。この感情は何なのか。それと、透は自分や菅谷の事をどう思っているのか。

 何もわからないまま、とりあえず眠いので目を閉じた。願わくば、この悩みが高校に上がるまでにはおさまってくれている事を祈りながら。

 

 

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