浅倉が増えて、樋口のストレスは加速した。   作:バナハロ

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ポーカーフェイスにも現れる感情はある。

 三月。今時、番号を高校まで見に行って「あるかな」「わくわく」「そわそわ」「ドキドキ」なんて合格発表はなく、合否判定が家に送られてくる。

 三人とも無事に合格し、同じ高校へ入学することになった。卒業式も無事に終えて、彼の両親から「高校でもよろしくお願いします」なんて挨拶され、みんなで写真まで撮った。

 強いて言うなら「あの時、2点くれてありがとう」と改めて先生にお礼を言ったら泣かれてしまった卒業式から、数日が経過した。

 次の環境に向けて各々が準備を進める中、菅谷はさらにもう一つ、住処の準備もしていた。

 場所は、親がわざわざ気を利かせてマンションにしてくれた。絶対に高校生が三年間だけ暮らすような場所ではない。

 そんなマンションの引っ越しを終え、あとは細かい荷物をしまうだけである。

 

「……ふぅ、疲れた……」

 

 ようやく、一息ついた。ソファーやテレビ、ベッド、机と椅子に冷蔵庫、洗濯機などの必需品の設置は済んでおり、後は細かいもの……なのだが、面倒臭くなって来ていた。片付けが下手な奴は、一気に全部済まそうとするから、体力が切れた時以降、進まなくなる。

 

「……」

 

 自分だけの空間……と、少し感慨深くなりながらも物寂しさを感じつつ、ベッドの上で天井を見上げる。

 ……。

 ………。

 …………。

 

「……マドちゃんととおるん、何してるかな」

 

 スマホを手に取って電話を掛けた。とりあえず、昨日夜遅くまでチェインしていた透に電話を掛ける。

 

「もしもし?」

『……あ、リカ? どしたの?』

「今暇?」

『樋口と今、買い物してるけど……今日は引越しだから無理って言ってなかった?』

「引越し飽きた。俺も行きたい」

『別に良いけど……あ、じゃあ私達が引越し手伝おうか?』

『は?』

 

 円香の「え、なんで?」と言わんばかりの声が耳に届くが、菅谷は無視。

 

「良いの?」

『良いよ。買い物、今終わったとこだから』

『ちょっと、何勝手な事言ってんの? 私、行かないから』

『じゃあ、雛菜誘おう。多分、暇してるし』

 

 なんと、雛菜が来るかもしれない。それなら、オヤツでも用意した方が良いだろうか? 

 

『待って。それなら私がいくから』

 

 しかし、それを隣から食い止める声。

 

『なんで?』

『なんでも良いでしょ』

『あそう。……やっぱ樋口くるって』

「はいよー。とりあえず……駅まで迎えにいくね」

『え? あーそっか。ていうか、リカの家が初めてか』

「あ、今駅遠い? てか、買い物って何処行ってんの?」

『駅で平気だよ。30分後くらいで良い?』

「それで」

 

 約束して、とりあえずぼんやりした。

 

 ×××

 

「はぁ、もう……なんでこうなるの」

 

 そう愚痴るのは、待ち合わせ場所に到着した円香。その隣にいる透が飲み物を啜りながら聞いた。

 

「嫌なの?」

「率直に言って嫌」

 

 わざわざ引っ越しの手伝いまでしてやることはない。ただでさえ、今は親に家事のコツをさりげなく聞いている所だ。まだ振る舞えるほどの腕前はない。

 

「素直に言ったら?」

「は? 普通に嫌だけど?」

「……ふーん。ま、良いけど」

「それより、あいつまだ来ないわけ?」

 

 あいつ、というのは菅谷の事だろう。未だ見えない彼の姿に、多少の苛立ちが募っていく。

 

「自分から誘っておいて待たせるとか、ほんと良いご身分」

「部屋に行くって言ったのは私だけどね」

 

 そうツッコミを入れつつ、透は小さく伸びをする。

 

「ん〜……なんか、楽しみかも。リカの部屋」

「多分、全然片付いてないと思うけど」

「飽きたって言ってたしね。生き物の事以外だと飽きっぽいから」

「ホント、よく私あいつを合格させられたよね……」

 

 普通にしんどかった。理科以外は本当に何も出来なかったのだから。特に英語と社会は苦労した。昆虫に置き換えないと初代総理大臣の名前も答えられない。

 あと個人的に不思議だったのが、聖徳太子を藻類に喩えていたのは何なのだろうか? 

 今、思い出してもため息をついてしまう程の苦労であったが、その隣にいる透は、何食わぬ顔でしゃあしゃあと言った。

 

「私もいたからでしょ」

「重石の片割れが何言ってんの? 大概にしてよホント」

「え、でも虫に例えたら? って言い出したの私だよ」

「……そのお陰で、私はこの前の期末で三権分立、ハリサシアリ、グンタイアリ、アルゼンチンアリって書いたけどね」

「ウケる」

「ウケない」

 

 先生には「大丈夫か? バカに挟まれてバカになったのか? 今ならまだ間に合うぞ?」と心配された挙句、カウンセラーまで紹介されそうになった。

 ……なんか思い出したら腹立ってきた。

 

「あ、いた。ごめん、お待たせー」

 

 タイミング悪く現れた菅谷が、片手を振るう。……が、円香はその菅谷の頬を摘み上げた。

 

「えっ、い、いふぁいんふぇふけふぉ……」

「反省して」

「ふぁひひ……?」

「良いなぁ、樋口。私も触る」

「え、ほ……」

 

 そのままつねり散らかした。あまり頬が柔らかい感じはしなかった。まぁ普通くらいだろう。

 

「樋口の頬のが柔らかいね」

「不要な比較しなくて良いから」

「知ってる? なんか頬が柔らかい人ってむっつりすけべなんだって」

「そう言う浅倉はどうなの?」

 

 今度は透に手を伸ばした。頬をつまむが、柔らかいと言うよりすべすべしている。ムカつくほどのしっとり素肌だ。

 

「……これはこれで腹立つ」

「えっ」

「あ、俺も触る」

 

 菅谷がさりげなく手を伸ばし、透の頬に触れる。手のひらの、親指の付け根のあたりで押すようにフニフニと触れた。

 

「ホントだ、すべすべ」

「何? その触り方」

「え……変?」

「変。……ま、まぁ良いけど……」

 

 ……良いんだ、と円香はいつの間にか二人から手を引いた。……まるで、猫の頬を撫でる飼い主のようだ。

 

「……ゴロゴロゴロ〜」

「タマ〜」

「猫ごっこまでしなくて良いから。……なんか変なプレイみたいだし」

「プレイ? ……え、猫ごっこするゲームとかあるの?」

「ねー、どういう意味? 樋口〜」

「っ、う、うるさい……!」

 

 ……二人にあっさりと蹴散らされそうになったので、二人のおでこをぺしっと叩いて誤魔化す。

 

「……え、ホントにドユコト? プレイって何?」

「しつこい」

 

 女の子に恥をかかせるのはやめなさいと教わらなかったのだろうか? あの厳格そうな父親に育てられたとは、思えない男である。

 

「早く行くよ。さっさと済ませて、そのお礼にご飯でも奢って」

「安いのにしてね」

「お、良いんだ。ラッキー」

「とおるん、ちゃんと手伝わないと奢らないから」

「えっ」

「せっかくなら、働いた量だけ高いの選べるようにしたら?」

「あ、それもらうわ。何もしなかったら伝票しか奢らないから」

「それ奢ってないどころか奢らせてる」

 

 そんな呑気な話をしながら、三人で歩いてマンションに向かう。

 その途中で、透がふと気になったように菅谷に聞いた。

 

「ところでさ、リカ。なんで私達の家と同じ最寄駅にしなかったの?」

「父ちゃんがマンション選びに拘ったんだよ。俺は1DKで良いって言ったんだけど、セキュリティが万全なとこじゃないとダメとか、三階以上じゃないとダメとか、ご近所さんが良い人じゃないとダメとか」

「ご近所さんなんてどうやって決めたの……」

「父ちゃんがベランダに出て『助けて殺されるー!』って大声で叫んで、助けに来てくれた人が隣に住んでたらって」

「……」

 

 すこし、心配しすぎではないだろうか? 

 

「ちなみに、来たの? 助け」

「うん。これから行くところは来たよ。すっごい美人さんだった」

「……ふーん」

「……へー」

 

 円香と透は、思わず冷たい返事をしてしまう。その情報いるか? みたいな……いや、聞いていないよりマシかもしれないが。

 

「? 何?」

「「別に」」

「???」

 

 別になんだって良いしどうだって良い。こいつが美人さんの隣に住もうが、そもそもその女の人を美人さんと認識していようが、自分には何も関係ない。

 

「着いたよ」

「え、早くない?」

「駅から近い方が良いでしょって父ちゃんが。あと近くにコンビニとスーパーもあるよ」

「……立地良すぎない?」

「俺、本当に何も言ってないのに父ちゃんと母ちゃんが、ここにしないと一人暮らし許さないって」

 

 確信した。この子の両親、めっちゃ親バカだ。甘やかされたが故のルーズさと、あと変なところでの逞しさの根源が垣間見えた気がする。

 

「……ていうか、大きくない? ここ」

「ホントそれ」

「そうなの? 俺あんまマンション行った事ないから知らない」

「何階建て?」

「え、知らないけど。俺が住むのは15階」

 

 なんだか、改めてお金持ちであることを実感させられた。でも……この歳になると羨ましいとは思わなかった。なんというか……自分の家庭くらいで十分、みたいな。

 そのまま二人で並んで歩き、菅谷の部屋に向かった。まずは自動ドア。ナンバーを押さないといけない……のだが、菅谷は動かずに指を宙で止める。

 

「……何番だっけ?」

「いや知らないけど」

 

 透は首を横に振るう。いや、それ以前に、と円香は顎に手を当てる。

 

「そもそも、ここに鍵当てれば番号いらないんじゃないの?」

「え? あ、そっか」

 

 慌ててポケットの中を弄る……が、何も出てこない。

 

「やべ。部屋に忘れてきた」

「……は?」

 

 普段、鍵を持ち歩く習慣がなかったのだろうか? ……いや、なさそうではあるが。

 

「ていうか、どうすんの?」

「ごめんあった」

「……」

 

 あるんかい、と頭の中でツッコミを入れ、中に入った。

 エレベーターのボタンを押し、しばらく待機していると、透がまたバカな提案をする。

 

「階段で行かない? 15階まで」

「は? バカじゃないの」

「良いね。一回はそれやっておきたい」

「15階ってわかって言ってる?」

「じゃあわかった。じゃんけんで勝った人1人がエレベーター。負けた二人は階段ね」

「とおるん、それもらい」

「……」

 

 負けられない、そう思った円香は、両手の指をゴキゴキ鳴らしながら、冷徹な視線を放ちつつ言い放った。

 

「あっそ……じゃあ良い。私、パー出すから」

「「!」」

 

 心理戦である。死んでも階段で行きたくない円香は本気だ。

 それにより、透も菅谷も表情を変え、引き締める。

 

「じゃあ私、チョキしか出さない」

「なら、俺はグーしか出さないわ」

「じゃあ、行くよ」

 

 言いながら、三人揃って拳を引く。コオォォォ……っっと、冷気でも放っているような呼吸をする。元々、落ち着いていた鼓動をさらに鎮める。

 とくん、とくん、とくん……と、胸の奥に響く音がさらに遠く感じ、気と肉体を充実させた最高潮……一気に目を見開いた! 

 

「最初はパー!」

「最初はチョキ!」

「最初はグー!」

 

 最初から全員、ルール無視。だが、己で定めたルールは守った。次に来る一手は、ランダム! 

 

「「「じゃんっ、けんっ、ぽん!」」」

 

 繰り出されたのは、透のチョキ、菅谷のグー……そして、円香のグーだ。

 

「え、樋口?」

「私は二人と違って『パーしか出さない』とは言ってないから」

 

 さて、一人脱落。残りは菅谷……だが、円香にとってはその方が御し易い。

 

「で、あんたグーしか出さないんでしょ?」

「え? いやそれはさっきのじゃんけんの話で」

「は? そんな事一言も言ってないでしょ」

「や、そうだけど……」

「……」

「……はい、グー出します」

 

 数秒後、円香は無言で15階まで上がった。

 

 ×××

 

 2人が15階まで到達した。

 

「遅……どしたの?」

「……疲れた」

「もう二度と……徒歩でここまで、来ない……」

 

 疲弊し切っていた。しかし、そんな事円香には関係ない。

 

「いいから早く開けて。そして片付けを終わらせて晩御飯奢って」

「……マドちゃん、冷たい……」

「うるさい」

 

 ヨロヨロと歩きながら、玄関を開けた。三人で中に入ると、円香は思わず目を見開く。思ったより広く、暮らしやすそうだ。というか、とても一人暮らし用に思えない。

 大きな家具の配置は終えているようだが、細かいものは何もいじっていないようで、段ボールが散らばっている。

 

「リカ一人には勿体無いほど広い部屋……あんたが男じゃなかったら、泊まりに来たかった」

 

 ……返事がない。後ろを見ると、二人とも玄関で寝転がっていた。

 

「ねぇ、何してんの?」

「……ちょっと、ハード過ぎない?」

「グリコなんてやりながら来なければ良かった……」

「自業自得でしょ。早くして」

 

 強引にバカ二人の襟を掴み、リビングまで連れて行った。キッチンは普通に最新式だし、食卓も割と大きめ。ソファーはテレビの前に設置されていて、そのテレビの下にはゲーム機が置かれている。

 

「リカ、ゲームとかやるの?」

「いやあんまりやらないけど、父ちゃんが家にあっても仕方ないからって」

 

 そう言う通り、少し古いタイプのようだ。円香自身、別にゲームをやる方ではない。透がやってる奴はやるくらいだろう。

 その透も、昔少しポケモンやマリオをやったくらいで全然やらないし、必然的に円香もやらなくなっている。

 まぁ、その辺はどうでも良い。それより、片付けだ。早速、近くのダンボールを無断で開けた。

 

「これは何処にしまえ、ば……」

 

 その箱の中から出て来たのは、菅谷のパンツだった。思わず頬を赤く染めてダンボールを勢いよく閉ざす……が、二人はガッツリみていた。

 

「いやん、マドちゃんったらえっち」

「樋口、超大胆な下着泥棒の巻」

「っ、う、うるさい! ていうか、良いから片付け!」

 

 バカ二人を黙らせて、作業に移った。パンツの箱を菅谷が座り込んでいじり始めたので、なるべく中を見ないようにしながら声をかける。

 

「リカ、何したら良い?」

「あー……じゃあ、あのダンボールの中に私服入ってるから、それ俺の寝室に運んで」

「はいはい」

「私はー?」

「とおるんは……あれ。教科書を机の上に並べて置いて」

「りょー」

 

 高校になると、教科書はあらかじめ郵送される。入学式前に学生服の採寸のついでに教科書を買わされ、それが後日になって届くのだ。

 

「どれが私服のダンボール?」

「分かんない。適当に開けちゃってくれる?」

「覚えといてよ……」

 

 円香が早速、適当に菅谷の真後ろにあったダンボールを開くと、そこからクワガタや芋虫、スズメバチがでてきた。

 

「〜〜〜っ⁉︎」

 

 思わず後退りし、後ろにあったダンボールに踵を打ち、ひっくり返って菅谷の膝の上に頭を落としてしまった。

 

「っ、え、な、なんで急に膝枕?」

「っ、違う!」

「ほぐっ……⁉︎」

「グハっ……!」

 

 至近距離に現れた菅谷の顔に、思わず起きあがろうとして、額と額が激突した。後ろに倒れる菅谷と、頭を押さえたまま横に転がり、膝の上から転がり落ちる円香。

 

「……何してんの?」

 

 透が困惑したように二人に聞かれたが、自分も何をしているのか分からなかったので、答えられなかった。

 ……いや、それ以前に、だ。あの箱は一体なんなのか。びっくり箱もびっくりな箱だった。いやそのまんまだが。なんかもう自分の脳内がわけわかんなくなっていたが、とにかく驚かされた上に醜態を晒した事が、とっても頭にきて、思わず菅谷の胸ぐらを掴んでしまった。

 

「ちょっと、何あの箱⁉︎」

「え? ああ、最近のガチャポンってすごいよね。500円であーんなにクオリティ高いフィギュアが飾れるんだもん」

「本当にクオリティ高くてすごかった! 思わず2回もひっくり返るほど」

「それであんなに驚いて頭突きかましてきたの?」

「っ……!」

 

 ま、まぁ確かに菅谷にしてみれば、勝手に驚いてひっくり返った挙句、頭突きされたのに迫られているように感じるかもしれないが……。

 

「……こういうことになるから、どの箱に何が入ってるか覚えといてよ」

「あ、はい……ごめんね? でも可愛いでしょ?」

「気持ち悪い」

 

 バッサリ切り捨てると、円香はそのダンボールを退かし、別のを開ける。今度こそ私服だった。

 その奥で、教科書の箱を探していた透が菅谷に声をかけた。

 

「ていうか、リカさぁ。ペットとか飼ってないの?」

「ペットって?」

「クワガタの……なんて言うんだっけ、ビルダー?」

「ブリーダーじゃない?」

「そう、それ」

 

 円香の助け船に乗っかってきたものの、受験してもう何もかも忘れたのか、と円香は少し不安になったが、透は無視して聞いた。

 

「そういうのやってそうとか思ってたんだけど」

「やらないよ、俺は」

「なんで?」

「動物とか昆虫とか、そういうのは自然の中で生きてこそでしょ。人の手で管理してる生き物観察しても、何も面白くないし、飼われる動物自身も面白くなさそうじゃん」

「……あー」

 

 小耳に挟んでいた円香も、少し意外そうな表情を浮かべていた。それは、菅谷なりの倫理観なのだろうか? それも一つの考え方なのかもしれない。

 

「でも、絶滅危惧種とか保護してる人達のことすごいなーとかは思うし、動物園とか水族館とか、行けばなんだかんだ楽しいから、あんま説得力ないかもだけど」

「そんな事ないんじゃないの?」

「え……そう?」

「うん。私はそんなの考えたこともないから」

 

 素直にそう言う透の言葉は、おそらく本音だろう。本当に考えたこともないだろうが、だからこそ素直に感心しているように見える。

 そういう割と裏表がない部分が、円香としては気に入っている点でもあり、同時にたまに気に食わなかったりするのだが。

 そんな事を思いながら、円香は私服のダンボールを持って寝室に向かった。ここで開けるより、しまう場所に持っていった方が早いことに気が付いたからだ。

 この部屋以外の扉は四つ。バスルーム、トイレ、そして謎の部屋二つ。勘で右の部屋を開けると、当たりを引いたようだ。勉強机とベッドとタンスとクローゼット……と、寝室としか思えないものが多くあった。

 そんな中、目を引いたのは部屋の壁。犬や猫のポスターや、サバンナの動物が映った風景ポスター、昆虫の写真が載っているカレンダーが飾られていて、壁際に見えるガラスの小ケースには、動物や爬虫類のフィギュアが飾られていた。

 

「……いや、そこまでオタクなら何か飼いなさいよ……」

 

 さっきの虫のフィギュアは、ほんの一部に過ぎなかったようだ。

 やはり、彼の趣味は少し理解を超えていた。

 

 ×××

 

 他に、3人で割とテキパキと片付けを終え、途中で昆虫や哺乳類や魚類や両生類や爬虫類……というか、あらゆる生き物の図鑑が大量に出てきたり、ハンカチやタオルの柄が昆虫の一番くじの物だったりと、割とこの部屋に来るのが憚られる物が多かったが、とりあえず片付けを終えた。

 

「ふぅ……疲れたね」

「ホント。意外と物多かった」

「どうでも良いけど、あのアナコンダの巨大抱き枕、3メートルくらいあったんだけど、使ってるの?」

「使ってるよ?」

 

 やはり、理解の範疇を優に超えている。円香は少し、次にこの部屋に来る時が憂鬱だ。

 頭痛を抑えるように眉間を抑える円香の横で、透が聞いた。

 

「で、ご飯か。……どうしよっか?」

「え、食べ行くんでしょ?」

「奢りなの、忘れてないでしょうね?」

「分かってるよ。何食べたい?」

 

 聞かれて、円香は透と顔を見合わせ、頷き合った。

 

「私は、ここで食べていければ良い」

「私もー」

「え、なんで?」

 

 意外そうな表情で目を丸くする菅谷に、円香は答えた。

 

「何となく。食材がこの家にあるものなら、あんたの奢りだし」

「うん。それに、せっかく新居なんだし、みんなでワイワイしたいじゃん?」

「……」

 

 せっかくの機会、というのもあるが、彼のご両親としては菅谷にそのようにして欲しくて、この部屋にしたのかもしれない。

 勿論、親バカっぽいし菅谷……つまり明里本人のためというのが大きいのだろう。が、それ以上に広めの部屋だったり、大きめのソファーであったり、古めとはいえゲーム機であったり、片付けている時に気づいたが、食器の枚数だったり、明らかに一人用ではない。

 その上、親元を離れて初めての夜だ。今日はなんかかまちょも多かった気がする。晩御飯くらい、一緒に食べて損は無いだろう。

 

「で、ダメ?」

「ダメでもそうするけどね。手伝った私達の希望だし」

「良いけど、冷蔵庫カラだよ。まだ買い出し行ってないし」

「「……」」

「時間も時間だし、食材買ってからここで作って食べるとかじゃ、二人とも遅くなるよ?」

 

 意地でもここで食べることにした円香は、マックをテイクアウトさせてこの部屋で食べた。

 

 

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