浅倉が増えて、樋口のストレスは加速した。   作:バナハロ

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ポーカーフェイスも見慣れた人にとっては二十面相。

 高校一年の授業は、割と最初の2回くらいは授業をやらない。こんな事するよーだとか、自己紹介ーとか、そんなんばかりだ。

 それらが終わってから、ようやくまともに内容に入るわけだが、何の因果か知らないがまた菅谷と透は隣の席だった。出席番号が近いのは分かるが、女子の「あ行」の隣に「す」が来るのは決して高い確率ではない気がする。

 さて、そんな新たな環境なのにそれを感じさせない日々。当然、透も円香も菅谷も同じように三人で連んでいた。

 ハッキリ言って、もう他の新しい友達なんかに興味はない三人は、休み時間には円香の席付近に集まって、駄弁っていた。

 しかし、他のクラスメートから見れば、そこに集まっているのはモデルが三人いるようなものであって。

 

「……やべーよな、あそこ」

「ホントな。でも、偶然あんなイケメンと可愛い子がつるむかよ」

「どういうこと?」

「入学初日から面食い同士がつるんでるってことだろ」

「いや、あれ中学の時かららしいよ。なんか……ナントカ姉弟とか言われてたらしい」

「じゃあ中学の時から面食いって事じゃね?」

「お似合いだよ。イチャイチャしやがって」

 

 と、まぁ悪目立ちしていた。美男美女なんて、クラスに大体1〜3人しかいない。つまり、まだお互いの中身も知らない段階で、まず何に惹かれるかと言われれば、やはり外見だろう。

 その外見だけで言えば優良物件同士がくっ付かれれば、誰も良い気がしないのは当たり前と言えば当たり前なのかもしれない。

 さて、そんなガキの文句など意に介さない……というか、なんなら聞こえていない三人は。

 

「でさ、だいぶ前やってた映画あるじゃん。海外の……なんだっけ。ベ○ディクト・カンバーバッチが主演の」

「え? ああ、戦争の?」

「戦争? ……ああ、まぁうん。戦争だね。最後は無限ループにしてたし、面白かった」

「あれ……ああ、うん。あんま覚えてないけど良かった」

「イ○テーション・ゲームとドクター・ストレンジは別の映画だから。毎回毎回、噛み合ってないまま話を進めないで」

「「あっ……なるほど」」

「ちなみに、私はドラマだけどシャ○ロックが好き。特にあの結婚式の時の」

「ああ、あれね。分かる」

 

 ……そんな話を聞いた直後、愚痴っていた周りの面々は呟くように感想を漏らした。

 

「……ごめん、全然イチャイチャしてなかった」

「むしろコントやってたな」

「……ああ、思い出した。三馬鹿姉弟って言われてたんだ」

「「納得」」

 

 ほんの数日で、三人を狙う男子も女子もいなくなった。

 

 ×××

 

 円香は早くも給食がない学校生活に慣れつつあった。円香は。

 

「あ、お弁当忘れた」

「俺も」

「……食堂行こっか」

 

 仕方なく、円香は二人を連れて教室を出た。一年生は割と他学年も使う食堂を利用する事が憚られる事も多いが、三人とも何食わぬ顔でテーブル席に座った。

 

「じゃ、私ら食券買ってくるから」

「待ってて」

「はいはい……」

 

 そう言いながら、円香は弁当を机の上に置いて待機した。あの二人、いつになったら弁当を持ってくる事を覚えるのだろうか? たまに忘れる程度の透はともかく、ほぼ毎日持ってこない菅谷はどうかしている。

 最近はようやく駅で待ち合わせしても普通に学校へ行けるようになり、おそらく菅谷も一人暮らしに慣れてきたのだろう。

 まぁ、何にしても慣れてくれて良かった。ゴールデンウイークも近いし、そろそろ遊びに誘ったりしても平気だろうか? 

 

「ねぇ、そこの」

 

 そんな事を考えている時だった。ふと高圧的な声を掛けられ、イラっとしながら顔を上げる。立っていたのは、上級生の女子生徒だった。

 

「……なんですか?」

「そこ、四人席なんだけど。一人で使うならカウンター行ってくれる?」

「すみません。あと二人、学食組がいるので」

「……」

 

 あくまで失礼にならないよう、敬語で言った。……他にも一人で学食組の分、席を確保している連中はいるのに、唯一の一年である自分に声を掛けてきたのはスルーしてあげながら。

 しかし、それでも納得がいかないのか、上級生は苛立ちを隠そうともせずに片眉を上げる。

 

「私達は今使うの」

「使う予定って言うだけなら、すぐ使う人に譲るべきなんじゃないの?」

「……見たところ、お弁当は持っていないようですが。あなた方も学食なのでは?」

「私は弁当持ってるし」

 

 一人、弁当を持っている人は確かにいる。しかし、それならこちらも同じだ。

 

「であっても、条件は五分だと思われますが」

「……ちっ、もういいわ」

「あんた、顔覚えたからね」

 

 諦めて、立ち去ってくれた。……が、何やら不穏なことを言って去っていったし、タダでは済まないかもしれない。

 ま、何をするにしても結構だ。リボンの色を見た感じ三年。今年耐えれば良いし、そもそもあの頭が悪そうな三年に、いじめをする様な時間的余裕があるとは思えない。

 

「……ふぅ」

 

 とはいえ、少し気疲れした。上級生を相手にするのは面倒だ。

 しばらく、ぼんやりと待機していると、ようやく二人が戻ってきた。おぼんに乗っているお椀の中は、おそらく麺類だろう。

 

「お待たせー」

「遅い」

「あれ、機嫌悪い。どしたの?」

「上級生が席変われって言ってきたから、少しムカついてただけ」

「ふーん……次、そういうことあったら俺呼んでね。俺が二分で奴らを蛹のように閉ざしてやるから」

「何を閉ざす気? ていうか、喧嘩とかやめて。女の人に暴力とか最低だから」

「そんな事しないよ。ただ、マドちゃんととおるんに何かあったら……あの、あれ。なんか、なんかするから」

「……」

 

 ホント、そういう事をこの男は平気で言う。そういう人をナチュラルに照れさせるあたりが、本当に嫌いだ。……その分、いつでも裏表がない点は決して嫌いではないが。

 

「……甘い言葉を吐いてる暇があるなら、お昼にして。さっさと食べないと伸びるよ」

「あ、そっか」

 

 いつのまにか透は既に座って麺を啜っている。菅谷も席に座った。

 麺を啜っている透が「そういえば」とふと気になったように声を漏らした。

 

「リカって喧嘩とかするの?」

「しないよ。しつこく売られない限り」

「するんじゃん」

「手を出すな、と教わってて実際、喧嘩になったことはないけど、親が『真に自分の身を守るのは、学力と武術』とか言って、小一から小六まで柔道習わされてたし、いざという時、自分の身くらいは守れるよ」

 

 護身といえば護身なのかもしれない。本当に過保護な彼の父親らしい教育だ。

 

「ふーん……頼れるんだか頼れないんだか……」

 

 思わず漏れた円香の呟きの横で、透が啜ったラーメンを飲み込んで言った。

 

「じゃ、私がもしもの時はちゃんと助けてね。リカが」

「わーってるよ。いつも助けてもらってるし」

「そうだっけ?」

「そうなの」

 

 それは円香にも心当たりがない。どちらかと言うと、二人を自分がまとめて助けている気がしないでもない……が、まぁ口を挟まないでおく。

 

「……ていうか、リカ。今日もお弁当ないけど、ちゃんと一人暮らし出来てるの?」

「え、な、なんで?」

「や、だからお弁当ないから。……お願いだから、部屋が汚さすぎて病気になるとかやめてよ。面倒とか見に行きたくないし」

「え、部屋が汚くて病気になるの?」

 

 聞いたのは透だった。透の部屋は基本、綺麗だが、それはものがなさすぎるから綺麗なだけだったりする。

 

「もちろんでしょ。不潔な所にはウイルスとか菌が溜まるし、それが病気の元になる事だってあるから」

「へー、怖」

「……で、綺麗にしてある? 食生活も毎日、コンビニとかファミレスで済ませてたりしてないんでしょうね?」

「も、勿論でしょ」

「……じゃ、体調崩しても知らないから」

 

 そんなやりとりを眺めながら、透はにこにこ微笑みながら、また余計なことを言う。

 

「なんか、樋口ってお母さんみたいだね」

「……は?」

「いや、お姉さんかな? 本当に姉弟になっちゃってんじゃん」

「……うるさい。別に、私はリカが体調崩そうがどうなろうが知った事じゃないし」

「ふーん?」

「……」

 

 イラッとした円香は、机の上にあった七味を透のラーメンに流し込んだ。

 

「あっ、え、なんで?」

「自分の胸に聞いて」

「樋口より大きい?」

「トッピング足りない?」

「あの……あんま俺の前でそういう話は……」

 

 そんな呑気な話をしながら、昼飯を続けた。

 

 ×××

 

 授業も残り一時間。その時間はLHR。未だ担任が現れない教室で、時間なので席にだけついてはいる生徒達だが、その騒がしさは休み時間のそれだった。

 

「ねぇ、リカ。前から思ってたんだけどさ」

「? 何?」

「LHRってなんの略?」

「さぁ……雲雀、鷹……駒鳥の略?」

「え、どういう事?」

「雲雀はラーク、鷹はホーク、駒鳥はロビンって言うから」

「ふーん……良いね。何する授業?」

「バードウォッチング?」

「それ生物じゃない?」

 

 バードウォッチングとなったら、もはや趣味の範疇である。

 

「やったことあるの? リカは」

「うん。でも最初は楽しくないよ。見つからんし、見つけても雀とか燕とかだし……それはそれで見つかったら可愛いんだけど、やっぱ普段見れない鳥見たいじゃん?」

「ふーん……」

 

 なるほどね、と透は相槌を打つ。まぁ別にやりたいとは思っていないが。映画とかドラマはともかく、生き物をじっくり鑑賞するのは退屈になりそうではある。

 ……まぁ、この前借りた図鑑を見てからは、たまに虫の動画を見ることもあったが、それでも動きがあるかないのか分からないものを見に行きたいとは思えない。

 

「あ、そうだ」

 

 そんな話をしている中、菅谷がふと思い出したように口を開いた。

 

「とおるん、家にグ○グルキャストある?」

「? 何それ?」

「ネトフリとかプライムとか見る奴」

「分かんないけど……H○LUなら家で見てるよ」

「父ちゃんがデ○ズニープラスに登録したから、見れるようになったんだよね。マーベルの映画」

「え、良いなー。てことは、ドラマとかも?」

「うん。デアデビルもルークケイジもパニッシャーも見れるよ」

 

 本国ではメジャーだが、日本では割とマイナーなヒーローの名前が列挙される。

 しかし、彼が自慢とはらしくない。何か他に言いたい事があるのでは? 

 その読みは正しく、続きを言った。

 

「うちで見ない? 映画でも、ドラマでも」

「……良いの?」

「うん」

「やったね。じゃあ、樋口も誘って……」

「あー……ま、待って」

 

 言いかけた透の台詞を遮る。どうしたの? と、視線で問うと、菅谷はいつになく挙動不審な様子で言った。

 

「その……まぁ、なんだ。……二人で、見たい」

「……え?」

 

 そのセリフに、少なからず透は動揺した。それは、いったいどういう意味で言っているのだろうか? 

 これでも、透だって女子高生。異性に興味がないわけではないし、菅谷をその対象として意識する事もたまにある。

 その上、趣味が映画やドラマなだけあって、その手の台詞には敏感だった。

 ……だが、それ故に、少し複雑だった。

 

「あー……リカ。気持ちは嬉しいよ。ほんとに。何よりも。……でも、私はやっぱり、樋口とリカと……二人とずっと三人で……一緒にいたいからー……」

「え、俺もだよ?」

「え? あ、うん……え?」

「え、なんで急にそんなこと言ったの? 普通に恥ずかしいんだけど」

「……」

 

 こっちのセリフだった。というか、どういう意味で言っていたのか。

 

「……なんで、私と二人?」

「いや……実を言うと部屋汚いんだよね。埃とかはないと思うんだけど、その分袋が溜まっちゃってて……」

「……」

 

 この男、本当にこの男……と、透はらしくなく頭に来ていた。この野郎は本当に人を誤解させる……と、全力でブーメランを投げながら、苛立ったまま言った。

 

「……誘うから」

「え?」

「樋口、絶対誘うから」

「え、や、やめてよ。俺死んじゃう」

「知らないから」

 

 思わず狼狽え、なんとか言い訳をしようと思ったタイミングで、先生が教室に入ってきた。

 

「……あ、きた」

「お前ら、静かにしてねー」

「……」

 

 仕方なく二人とも黙る。一応、女性の先生が軽く手を叩く。

 

「今日は、近いうちにある林間学校について。班分けとか当日の予定とか説明するから、ちゃんと聞いてね」

 

 仕方なく、耳を傾けることにした。

 

 ×××

 

 放課後。

 

「樋口ー、リカが家で映画見ようだって」

「良いけど」

「……」

 

 瞬間で強制的に行くことになってしまった。自分の家なのに、もはや強制連行でもされるように二人に挟まれて帰宅する。

 

「ていうか、なんで映画鑑賞?」

「ん、いやなんかリカのお父さんがデ○ズニープラスに登録したから、そのアカウント使えば見れるんだって」

 

 明らかにリカのために登録したのだろう。それに気付いていない透は、単純に「羨ましい」の一言だったが。

 帰宅しながら、ふと透のスマホにチェインが届く。菅谷からだ。

 

 LIKA☆『マジで連れていく事になるとは思わなんだ』

 

 まるで女の子みたいなユーザー名だが、元々のユーザー名が女の子っぽいのでノータッチ。……にしても☆まで付けることはないと思うが。

 

 とおるん『自業自得でしょ』

 LIKA☆『鬼』

 

「樋口」

「? 何?」

 

 話し掛けると、透は間髪を容れずにしれっと言った。

 

「実は、今リカの家ってき……」

「はいちょっとストップごめん謝りますから待って」

「……ふーん? ま、良いけど?」

「……なに?」

「「なんでもない」」

 

 菅谷と声を揃えて言うと、円香は怪訝そうな表情で睨みつつ、口を塞ぐ。

 こうなった以上、菅谷としては自分で自分の身を守るしかない……と、思ったのだが、なんか面倒になったし「ま、いっか」と思う事にした。

 見た感じ、埃が溜まっている感じはしないし、汚いと言ってもゴミも袋に入ったまま積んであるだけ。……まぁ、洗濯もなんか面倒になって土曜の朝にまとめてやるようにしてしまったし、溜まっているといえば溜まっているわけだが。

 

「なるようになれ」

「何が?」

「何でもない」

 

 そんな呑気な話をしながら、菅谷の部屋に到着した。

 

 ×××

 

「で、何か言うことは?」

 

 円香はブチギレていた。目の前で、タコスケを正座させ、仁王立ちで冷徹な波動をビンビンに放ちながら。

 

「いえ、あの……掃除はしてたんです。ゴミ袋がそれを物語っているかと……」

「この部屋が物語っているのは、あなたが最近、ちゃんと時間通りに待ち合わせ場所に集まったのは、ゴミを出す時間も洗濯をする時間も省いて、自炊もしないで、家事もろくにしないまま来てるって事でしょ」

 

 ソファーの上に脱ぎ散らかされた洗濯物と、廊下に並んでいるゴミ袋を見て、さらにそのゴミ袋の中のカップ麺やコンビニ弁当のゴミを見て言われ、菅谷は何も言えずに黙り込んでしまう。

 

「この家で集まって映画見るとか正気?」

「それに関しては私も同意見」

「っ、と、とおるん……!」

「あなたは誰と話してるわけ? 目の前にいる私見えてない? その目は飾りか何か?」

「……すみません」

 

 ションボリと肩を落としてため息をつく菅谷を見て、円香は腰に手を当てて盛大なため息をついた。それはもうエアコン並みに大きなため息。

 

「……まだ一人暮らし始めて一ヶ月弱でこれじゃ、先が思いやられるから。お父さんかお母さんに今からでも一緒に暮らしてもらったら?」

「うぐっ……!」

「そもそも、あなたその辺の話はちゃんとご両親として、キチンとするとか約束しなかったわけ? そういうとこちゃんとしないと、実家に連れ戻されるかもよ?」

「はぐっ……!」

「私達はあなたがいなくなっても転校して一人暮らしとか出来ないから。そしたらもうサヨナラだから」

「……」

「とにかく、もっとそういうとこ考えて……」

「樋口、樋口」

 

 ふと、横から透が肘で肘を突いてくる。こういう話に透が口を挟んでくるのは珍しい。どうしたのだろうか? と思って透を見ると、透の視線は菅谷に向かっている。

 ……そして、菅谷は完全に意気消沈としてしまっていた。それを見て、円香も少し「うっ……」と悪気を感じてしまった反面、少しそのしょんぼり顔に何かを感じてしまったり。

 なんにしても、コホンと咳払いすると、背中を向けながら言った。

 

「……映画の前に掃除だから。ゴミ捨てはどうしようもないけど、洗濯くらいは済ませる」

「……はい」

 

 手錠もしていないのに、刑事と被疑者のように連行する円香とリカを眺めながら、椅子に座っている透がニヤニヤしながら言った。

 

「リカー、先に見てて良い? 映画」

「浅倉、あんたも手伝って」

「え、なんで私も……」

「あんた、なんでも自分の思い通りに行くと思ってたでしょ」

 

 ギクッ、と透は表情を凍らせる。それを見透かしたように円香は続けた。

 

「そうはいかないから。さっさと終わらせて、さっさと映画見て、さっさと帰るから」

「……」

「ぷふっ」

「は? リカ、あんたなんで笑ってんの?」

「イエ、ナンデモ」

 

 そのまま二人を連れて、洗濯をする事にした。円香が洗面所から持ってきたかごに、菅谷がソファーの上の洗濯物をぶち込み、洗濯機の中にぶち込む。

 透が洗濯機の中に洗剤を入れ、電源を入れた。

 その間に、円香は部屋の中から洗濯物をかき集める。靴下のような細かいものは、割と分散してしまっていた。

 カゴの中にホイホイと入れてながら、少し反省するように自己嫌悪。さっきは、割と言いすぎたかもしれない。あんなに凹んでいる菅谷を見たのは初めてだったから。

 元々、高校生での一人暮らし。慣れないことも多いに決まっている。それをフォローするために、自分も家事のコツを色々と習っているというのに。

 ……なんなら、次の土日でまた顔を見にきた方が良いかもしれない。

 

「あ」

 

 ふと目に入ったのは菅谷のパンツ。スパイダーマンの柄のボクサーパンツだ。

 

「……まったく……!」

 

 これも、洗濯しないわけにはいかない。ため息をつくと、頬を赤らめながらもそれを拾い、なるべく見ないようにしながらカゴに入れた。

 

「……」

 

 一瞬だけ、チラ見してしまった。また頬を赤らめながら、今度こそ見ないようにして洗濯機の前まで運んだ。

 ……スパイダーマンのパンツとか、子供っぽいの履いてる、とか思ってしまったのは内緒である。

 

 ×××

 

 洗濯を終えて、映画を見ながらの夕食を終えて、帰宅。わざわざ、菅谷のために円香が日持ちするカレーを作った。

 

「なんか、悪かったね。二人とも」

「別に良いよ。アントマン見れたし」

「ん。でももうこんな汚い状態で呼ばないで」

「……はい」

 

 そう言いつつも、円香は少し胸の奥で引っ掛かりを覚える。なんか、彼が悪いとはいえ、ここに来てからキツイことしか言っていない。

 ……もう少し、何かこう……少しは彼にとって良い事も言ってやるべきだろうか? 

 

「……好みは?」

「え?」

「カレーの好み。今日、少し甘いって言ってたから」

「……え、美味かったよ?」

「美味しいかじゃなくて好みを聞いてるんだけど。国語、もう少し頑張ったら?」

「……少し辛め」

「……ん。まぁ次、その通り作るとは限らないけど」

「え……え?」

「うわ、樋口。それ作るやつじゃん」

「浅倉うるさい」

 

 そんな話をしながら、少し照れを隠すようにさっさと帰宅した。

 

 

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