円香と透が菅谷と知り合いになって、早一ヶ月。円香は、疲れていた。それはもう、本当に胃が痛いほど。
「アデニン、グアニン、シトシン、チミンだって。うける」
「それな。最後の母音を『in』で揃えてるあたり、多分名前つけた奴、ラッパーだよね」
「なんでいちいち、韻踏んだんだろうね。ラップ好きだったのかな」
「しりとりめっちゃ弱かったのかもよ」
「え、これ名前つけたの日本人?」
「知らないけど」
受験に備えて軽く勉強しに、学校の図書室にいるわけだが、バカ二人の会話に混ざらなくても疲れてしまう。
ちなみに、少なくとも円香と透が受験する予定の高校(仮)の受験科目は英語と国語と数学の三教科のみである。
「ねぇ、うるさい。勉強するなら静かにして」
「ヒグっさん、今何してんの?」
「……現国」
「じゃあ俺らもゲンコクにしない? ラッパー飽きた」
「良いよ」
「やめて。何のために一人で現国にしたと思ってんの?」
「「なんで?」」
「あんたらと同じ科目やってると、絶対間違って覚えるから」
失礼なことをズカズカ言うようになってしまった。まだ知り合って一ヶ月程度なのに。
……と、いうのも、菅谷があまりにも透に似たところが多い為、つい気安く接してしまうというのもあるが、何より一緒にいて疲れるから、つい厳しいことを言ってしまうのだった。
とはいえ、それにカケラの反省もしていないが。
「……で、ゲンコクって何? 裁判?」
「え、元の国じゃないの?」
「……数学やろう」
「じゃあ、私も数学にする」
「あ、じゃ俺も……」
「鬱陶しい……」
ストーキングされているような気分だ。……教科のストーキングって新しいな、と思わないでもないが。
そんな中、透が当然のように聞いて来た。
「数学って何やったっけ? 英語?」
「いや、だから数学でしょ」
「なんだって、なんか式が並んでる……電車みたいな奴」
「連結方程式」
連立でしょ、と頭の中でツッコミを入れる円香だが、無視。反応したら負けな気がした。
「……連結?」
「そう。なんか、こう……合体だって。とりあえず足せば良いんじゃないの。……あれ、でもxを求めよ、だって」
「前から思ってたけど、なんで数学の問題って『求めよ』って王様になるんだろうね?」
それは正直、円香も思った。口にはしないが。
「もしかしたら、王様なんじゃね。これ先生が考えてるんじゃなくて、数学の王様による見えない糸でのマリオネット的な」
B級映画みたいな話の想像やめて、と思う。やはり口にはしないが。
「マリオ……? ……ああ、うん。配管工も兼業してそう」
マリオじゃなくてマリオネット、とツッコミを入れたくなった。耐えた自分を褒めたくなって来た。
「配管……? それむしろ工場長かも」
「……」
……やはり、噛み合わないまま話が進む。何なのこの二人。もしかして、脳内で通じ合ってる? と、エスパー説を押したくなるほどだ。
しかし、今はそんなことしている場合ではないので、黙って科目を変える事にする。数学は家でやる。じゃないと、次に数学をやる時にはマリオネットのマリオが工場を運営している光景が浮かぶようになってしまう。
……というか、そもそも配管工は工場を運営する工業ではなく、様々な建物に様々な種類の菅を取り付ける建設業だ。
ホント……この二人バカな事ばっか話す……よく知らない言葉を使うんじゃない。
「ぷっ……ふふっ……」
思わず、笑いをこぼした。こぼしてしまった。後になって、笑ったことにハッとして顔を上げると、二人がキョトンとした顔でこっちを見ていた。
「え、なんで笑ったのヒグっさん」
「もしかして、普通の人には見えてないもの見えてる?」
「っ、あ、あんたらがそれ言うな……! バカな事話してるからでしょ」
「聞いてたんか」
「樋口ってさ、意外と無視するの下手だよね」
「っ、う、うるさい……!」
本当にうるさい。こうなったら、校則違反を覚悟して持って来たスマホとイヤホンでも使ってやろうか、と思い、カバンの中を漁り始める。
そんな円香を眺めながら、菅谷は微笑みながら言った。
「あんまり根を詰め過ぎても良くないよ。休憩しようよ」
「あんたらは全然、詰めてないでしょ」
「え、超勉強してたじゃん。数学が工場長説は多分、私らが初めて発見したよ」
「ヤバいよな。こんな所で新たな人類の叡智が発見されたわけだし」
「いやその説、全然意味わかんなかったから。あんたら本当に高校行く気あるわけ?」
「答案用紙に『マリオ』って書いたらどうなるかな」
「怒られるでしょ。ウケる」
「ウケない。そしたら私、他人のフリするから」
そもそも数学の回答用紙に日本語は絶対に出てこない。絶対に怒られるどころかブラックリストに載りかねないのが目に見えている。
そんな中、透がふと思い出したように「そういえば」と口を開いた。
「もうすぐゴールデンウイークじゃん。どっか行く?」
「良いね」
もう勉強は本当に休憩に入ったようで、透は頬杖をつき、菅谷は背もたれによっかかって、二人ともペンを手放している。
いつの間にかしっかりとツッコミを入れていたことを思い出し、仕方なく円香も会話に参加した。
「……だから受験生の自覚ないわけ? 勉強したら? 普通に中間も近いし」
「いやほら、中学最後のゴールデンウィークだし」
「あ、じゃあ俺あれやってみたい。制服デ○ズニー」
「あれまだやってる人いるの?」
「知らん」
「でも、楽しそうじゃん。私もいきたい」
また勝手に話は盛り上がっていってしまう。正直、興味がないと言えば嘘になるが。
……いや、まぁ円香は正直、無理なく行ける高校に進学するし、猛勉強が必要になるのは目の前の二人……というより、菅谷はどこの高校に行くのかも知らないし、透だけだ。
なら、まぁ本人の好きにさせても良いのかもしれない。
「よし、行こうか」
「よっしゃ、決まり」
その判断に、菅谷は少し驚いたように円香を眺める。「何?」と視線で聞くと、菅谷はそのまま口にした。
「いや、どうせ『勝手に行けば』とか言われると思ったから」
「私はちゃんと余裕あるし。その代わり、あんたら直前で私に泣きついて来ないでね」
「分かってるって」
「どっちのデ○ズニー行く?」
分かってないな、と思いつつ、とりあえず当日の事を相談し始め、そのままその日の勉強会は幕を閉じた。
×××
さて、疲れると分かっていながらも約束してしまった制服デ○ズニー当日。雛菜が好きそうな響きだが、服装が変わるだけで何か変わるのだろうか?
少し、想像してみよう。一番、円香が想像しやすい相手は、福丸小糸である。理由は単純。可愛いからだ。とても市川雛菜と同い年とは思えない少女である。
自分達と唯一、違う制服の少女がそのままデ○ズニーに行き……例えば、頭に巨大ネズミをマスコット化した物の耳を乗せて……。
「……」
……普通にアリかもしれない。ミスマッチ感が、私服に耳を生やした時とは違う可能性を示唆している。
少し楽しみになって来た……が、でも一緒に行くメンバーは透と菅谷だと思うとやはりテンションは落ちる。あいつらが制服のまま耳を付けたところで、透はともかく菅谷とか見ても、円香は全く得しない。
……いや、何なら自分が耳をつけるハメになるのかも……。
「……」
まぁ良いか、と思い、とりあえず家を出た。自分と透の家が隣同士であることを知ると、2回も待ち合わせするハメになる手間を省くためか、わざわざ自分達の家の前で待ち合わせにしてくれた。そういう気遣いが出来ることに驚きだった。
そんなに分かりにくい所にあるわけではないが、口頭で道順を説明しただけだったから、ちゃんと来れるか心配だ。
が、それはいらない心配だった。表に出ると、既に透と菅谷は待機していた。……私服姿で。
「……は?」
イラッとした声を漏らしてしまった。それに気付いた二人は、軽く手を振ってくる。
「あ、おーい。樋口ー」
「? なんで制服着てんの?」
「制服デ○ズニーって、言ってたでしょ」
「あれ、そうだっけ?」
「やべ、忘れてた」
今度は、もうあからさまにイッラァっ……と、眉間にシワを寄せる円香。
「やばっ、私着替えてくる」
「じゃあ俺も」
「バカなの? 時間無くなるでしょ」
「え、でも樋口だけ制服ってヤじゃない?」
「別に気にしない」
いや、気にしない事はないが、透が着替えたら菅谷は一人で私服になってしまう。
制服二人と私服一人、それも女子と男子では周りの見る目も変わるかもしれない……と、思った時だ。
「浅倉、背中にカメムシついてた」
「え、マジ?」
「マジ」
そう言ったのは、菅谷だった。ポイっとその辺の茂みに投げると、続けて透に言う。
「カメムシの臭いって服にも移るし、着替えてきたほうが良いよ」
「えー。割と気に入ってた奴なのに」
「待ってるから」
「はーい」
素直に……というより多分、何も考えていないまま従った透は、家に引き返す。
その背中を眺めながら、円香は菅谷に顔を向けた。
「ほんとにカメムシいたの?」
「え? うん。まぁ道路を歩いてた奴だけど」
「……何のつもり?」
怪訝な顔で顔を覗き込む。相変わらず何か考えていそうで何も考えていない表情のまま答えた。
「や、一人だけ私服は別に良いけど、一人だけ制服はアレでしょ」
「……余計な気、回さなくて良いから」
そう言いつつ、背中を向けた。なんか、悔しかったからだ。よりにもよってこんなバカな男に気を使われたことが。少しギャップを感じたのもあるが、なんか腹立たしく感じてしまった。
そんな自分の気も知らず、相変わらず菅谷はすっとぼけた表情のまま続けた。
「ていうか、カメムシの臭いってほんとに服に移んのかな」
「知らないしどうでも良い。……ていうか、その手で私に触ったら通報するから」
「え、なんで?」
「臭い移るかもしんないから」
「……」
ぐうの音も出なかった。
×××
到着した三人は、まず菅谷が手を洗いに行ってから、装備を整えに来た。物販で、色々とグッズを見て回った。
「うわっ、これ良くない?」
「良い。派手じゃない。……でもこれエコバッグだよ」
「えっ」
そんな話をしながら仲良く「地球に優しく、人に優しい」をテーマにしたグッズを見ながら、そんな事を話している。
円香は、その後ろからついていきながら、ぼんやりと店内を見回す。中々、煌びやか且つレトロな内装。好み、というわけではないが、割と落ち着いていられる所だ。
「……あっ、浅倉あれ。制服デ○ズニー鉄板の奴」
「ああ、あれね。つける?」
「うん」
そう言うと、透はミ○キーの耳を取りに行き、それを頭に装備させた。菅谷の。
「ぷっ……似合う」
「ナチュラルさ以前に根本的なこと聞くね。なんで俺?」
「え、着けたかったんじゃないの?」
「……」
そのやり取りに、思わず無言で……というより、必死に声を押し殺し、両手を顔に当てて笑いを堪える円香。
それが視界に入った菅谷は、透の前を通り過ぎて、円香の前に仁王立ちした。
それに気付き、フルフルと震えながら顔を上げる円香。睨みつけるように顔を向けてしまったのは、力んでいるからだ。
その円香にトドメを刺すように、菅谷は真顔のまま裏声を出して言った。
「It's me MARIO(裏声)」
「「ブフォッ!」」
円香だけでなく、透も吹き出した。お腹を抱えて笑い声を噛み殺しながらも、二人揃ってツボに入る。
ミッキーじゃねえのかよ、と。なんでそこマリオなんだよ、と。
フルフルと震えて笑い声を噛み殺す。こんな所で、下品に大声で爆笑するのは趣味じゃない。……とはいえ、笑いを堪えるのは大分苦しいが。普通に。
徐々に過呼吸になりつつ、もはや頭痛さえ響いて来た自分を眺めた後、真顔のまま菅谷は笑いから解放された透に声を掛けた。
「めっちゃ笑い堪えるじゃん、ヒグっさん。ウケんだけど」
「樋口、あんま騒がしいの好きじゃないから」
「マジか。じゃあ、今くすぐったらどうなんの?」
別の意味で吹き出しそうになった。この野郎、なんてことをほざき出すのか。
バカの思いつきを聞いてしまったのか、少し目を丸くした透が、やがて「その手があったか」と言わんばかりの真顔になる。
「樋口」
「っ……ひぃっ、ふぅっ……な、何……?」
「動かないでね」
手をワキワキさせながら近寄って来た。これはまずい。多分、声を出すまで止めてもらえない。
全くもって余計なことを言ってくれた物だ。ちょっと気を許すとこれだ。もう絶対、許さない……! と、思って、キッと菅谷を睨みつけると、さっきまで立っていた場所にはもういない。
何処へ消えた? と、思った直後、後ろから肩に手を置かれる。振り向くと、浅倉透に負けていない顔の良さが近くにあった。
「大丈夫、我慢しなくて良い。……思いっきり、声を出せば良いさ」
「ーっ……!」
限界だった。こういう時に限って良い顔で良い声を出して余計な事を抜かしやがって、と思った円香は、反射的に手が出た。
まるで、巨大なゴムをアホほど伸ばした後、手を離したような音が店内に響き渡った。
「フゥーッ、フッーッ……!」
気が付けば、自分は荒ぶる獣のように吐息を漏らし、目の前で菅谷が頬を赤く腫れ上がらせて倒れていた。
周りの目など気にする余裕もなかった円香は、そのまま顔の影を濃くして透の方を振り向く。
「……まだ、やる気……?」
「やりません」
おそらく初めて、浅倉透をヒヨらせたであろう日だった。
×××
「口の中、まだ血が滲んでるんだけど……」
「分からない坊やには、時には体に教えないと分からないってコトでしょ」
腫れ上がった頬を押さえながらになったが、三人で園内を歩き回った。ちなみに、円香の手も普通に痛いのは内緒だ。
プンスカ怒ってしまった円香に許してもらう為に、菅谷は円香にはミ○ーの帽子付きの耳カチューシャ、そして何故か透にまでフ○ンダーぬいぐるみカチューシャを奢るハメになった。これで今年のお年玉の四分の一が消滅した。
ちなみに、フ○ンダーのぬいぐるみカチューシャとは、脳天のあたりに魚が置かれているカチューシャである。シュールなことこの上ないが、透は普通に気に入っていた。
「ごめんって」
「もう怒ってないし。死ね」
「いや、死ねって言ってんじゃん……」
そう言いつつも、本人達的には、誰一人険悪なムードは感じ取っていなかったのは流石だった。周りから見たら険悪そのものなのだが。
「ていうか、菅谷は買わなくてよかったわけ?」
「いや、男だからね俺」
「気にしなくて良いでしょ。……ぷっ、ふふっ……に、似合ってたし……」
「漏れてる漏れてる、笑顔が漏れてる」
「……」
少しロマンチックな表現をされてイラッとしたが、それも本人の語彙力のなさが故なので無視した。ちなみに、その時の写真もちゃんと撮ってある。許すための交渉道具として、透と一緒に確保しておいた。
そんな時だった。さっきから静かに先頭を歩いていた透が「あっ」と声を漏らした。
「どうしたん?」
「すごい。めっちゃおおきい」
そう言う透の視線の先にあったのは……シ○デレラ城だった。高く聳え立つ西洋風のお城。それが、物販が並ぶストリートから抜けるといの一番に、来場者を迎えてくれる。
久しぶりにデ○ズニーに来た円香も、実は初めて来た菅谷も、少し圧倒されてしまった。
何より驚くべきは、城の前に広がる花畑。いや、実際には目の前というわけではないのだろうが、遠近法と三人が立っている位置によって、目の前で咲き誇っているように見えてしまった。
「……」
「……」
二人揃ってぼんやりとそのお城と花を眺めていると、目の前の透が振り返りながら、スマホを取り出した。
「ね、撮らない?」
「? 写真?」
「そう。初めて三人で遊びに来た記念」
言われて円香はハッとする。今更ながら、同級生の男の子と一緒に、少し遠出して遊びに来たのは初めてかもしれない。
……それがストレスの対象でしかない菅谷だというのは誠に遺憾だが。なんだかまた少しイラっとして来て、不機嫌そうに目を閉じて言った。
「……その次も三人で遊ぶみたいな言い方やめてくれる? 今日来たのは気まぐれだから」
「え、樋口嫌なの?」
「嫌」
「なんだかんだ楽しそうにしてたくせに」
「……」
幼馴染だから故の、お互いに表情だけで何を思っているか分かってしまうそれが、向こうから発揮されてしまった。
……まぁ、確かに? 少しだけど、笑かしてもらったりしたし、つまらなかったわけではないが。
ちなみに……菅谷はどう思っているのかな、と思って隣を見ると、姿はもうなかった。……いや、正確に言えば、しゃがんで何かを見ている。
「……何してんの?」
「すごいよ。夢の国にも蟻がいる」
「……」
こいつ、やっぱり普通にムカつく。今後、もう二度と遊んでやるもんか。
それならば、逆に最初で最後の記念に、写真くらい撮ってやっても良いかもしれない。
小さくため息をつくと、樋口は蟻に夢中になってるバカの腕を引いた。
「うわっ、ちょっ……何?」
「写真」
「は?」
「三人で。撮るよ」
「良いけど……どうしたの、ヒグっさん。熱でもあんの?」
「あったとしたらあんたが原因だから。責任取ってよね」
「結婚しろっての?」
「やっぱ写真やめよう」
「うそうそ、撮ろうか」
面倒になって切り上げようとしたら、慌てて乗って来た。なんだかんだ、彼も撮りたいようだ。
改めて三人揃ってシ○デレラ城の前に立ち、横に並ぶ。透がスマホを構えて、三人入るように調節し始める……が。
「浅倉、もっと左。ヒグっさん映ってない」
「違う、浅倉。逆逆」
「今度は俺の頭入ってない」
「よし、そこで」
「ヒグっさん、俺の頭入ってないってことは、お城も入らないってことなんだけど……」
「ここ?」
「いやなんで撮るの」
あまりに透が下手過ぎた。まぁ、一人だけ首が映っていない写真は、それはそれで面白かったので保存したが。
何にしても、せっかくなら城と三人が映ったちゃんとした写真が欲しいところだ。
どうするか悩んでいると、掃除のスタッフさんが声をかけて来た。
「あの、よろしければお撮りしましょうか?」
「あ、お願いします」
スマホを手渡した透がそう言うと、改めて三人並ぶ。証明写真のように、直立不動で真顔のまま揃っているその絵に、スタッフさんは冷や汗をかきながら苦笑いで訂正した。
「あの……何かポーズとか取られては如何ですか?」
「ポーズ……どうしようか?」
透が聞くと、円香が答える。
「じゃあ、ピース?」
「普通すぎない? ウルトラマンとかは?」
「みんなスペシウム光線になるでしょ」
透の案に円香が反対すると、真ん中の菅谷がツッコミを入れる。
「ストリウム光線とエメリウム光線とメタリウム光線とM87光線があるじゃん」
「いや知らないし」
「あ、あはは……」
あまりにぐだって来て、スタッフさんが苦笑いを浮かべた。気を利かせて声をかけてくれたのに、あんまり時間は掛けられない。
とりあえず、と言うように透が言った。
「菅谷、なんでも良いからテーマ決めて」
「え? じゃあ……苦悩と困難」
「絵画のコンテストか」
「よし、じゃあそれで」
「浅倉、すぐに乗らないで」
「じゃあ、すみません。3カウントでポーズ取るので、それに合わせて撮ってください」
「え、本当にそれにするの?」
「分かりました!」
透がそう言うと、円香のツッコミを無視して、スタッフさんは快活な返事をする。自分から声かけて来たのに、もう嫌になっているようだ。いや、気持ちはわかるが。
「じゃ、いきまーす! 3……2……1……!」
慌てた円香は、仕方ないのでその場でしゃがみ込み、考える人のポーズを。
そして浅倉は、まるで競馬に大負けした人が、膝をついて両手を顔に当てるポーズを。
最後に菅谷は、持って来たカバンを頭に被ってスペシウム光線を放った。
カシャっという乾いたシャッター音が切られ、三人はポーズを解くとスタッフさんの方に駆け寄る。
「はーい、どうぞー。では、ごゆっくりお楽しみくださいねー」
「ありがとうございましたー」
「ありがとうがざいます」
「どうもー」
そう言ってそそくさと退散するスタッフさんに各々、お礼を言いながら写真を確認すると、三人とも半眼になった。
「……誰も顔写ってないんだけど」
「ホントだ、ウケる」
「俺なんて一枚目も映ってないんですけど」
「あんたのポーズ何してんの?」
「ヒーローとしての困難と苦悩」
結局、これはこれで良いか、となって、三人は園内をエンジョイした。