男女で海に来て、まず重要なのが水着のお披露目である。大抵、男はそうでもないが女の子の水着は双方にとって特別なもの。
その為、円香も透も気合を入れて選び抜いた。ただ好きなものにするのではなく、ちゃんと自分に似合うものを選択して。
『と、いうわけで、雛菜。私と樋口の水着、一緒に選んで』
『え〜、円香先輩も〜?』
『……』
小糸だけ来れなくて雛菜と3人で勉強した日、そんなお願いをしてみた。雛菜の成績ならたまにはこっちに付き合ってもらっても問題ないし、雛菜ならそういうの選ぶのが得意だ。
『別に良いけど〜……なんで今年に限って?』
『ん? ん〜……まぁ、見せたい人がいるから、かな』
『……ふーん、円香先輩も〜?』
『……まぁ』
その素直な返事に、雛菜は目を丸くしていた。この人、本当にあの円香なのだろうか? それとも……素直にならざるを得ないほど、菅谷のことが好きなのだろうか?
『あは〜、分かった〜』
『ありがと、助かる』
なんて一幕があって、ようやく選んだ水着に身を包んだ。日焼け止めも塗り終え、既に外で待機している。
まだ菅谷の姿は見えない。着替えに手間取っているとは思えないので、おそらく外で遊ぶ物に空気を入れているのだろう。
……手伝ってあげれば良かっただろうか?
「私、ちょっと見てくる」
「あ、じゃあ私も……」
「浅倉は待ってて」
「え、なんで?」
「……さっきの件、あったでしょ。向こうかなり気にしてたし、一応様子見も兼ねてるから」
「あー……うん。分かった」
一応、意見を飲んでくれた。さて、改めて円香は近くにあるUVカットのガウンを羽織って、ビーチから離れる。
確か、ああいった遊び道具は一階の遊戯場にあると言っていた。おそらく、そこで膨らませていることだろう。
玄関から入り、一階のその部屋の扉を開けると、中で菅谷は水着の上にパーカーを羽織った姿でダーツをしていた。
「……」
文句が出るより先に、見惚れてしまった。その眼差しは真剣そのもので、意外とこういうワンランク上の遊びがとても似合ってしまっていた。
それは、容姿もさることながら、まるで経験があるかのような佇まい。部屋の中を見ると、浮き輪とビーチボールの膨らましは終わっていたので、休憩がてらにダーツをしていると思うことにして、せめて三投くらい待ってやる事にした。
少し緊張気味に唾を飲み込み、一投目を待つ。
真剣な表情をする菅谷の手が、狙いを定めるように微妙に揺れ始めた時だ。何故か、菅谷の頬が赤らんだのを、円香は見逃さなかった。
直後、放たれた一投は明後日の方向、ダーツの筐体の角にあたり、天井に向かって跳ね返り、浮き輪に直撃し、パンッと破裂させた。
「……やめときゃ良かった……」
「全くでしょ」
声を掛けると、顔を向けた菅谷は驚いたように目を丸くする。
「わっ、やっべ……」
「何遊んでるの」
「や、これは……ちょっと、呼吸が疲れちゃって」
「膨らますなら砂浜に持ってきて。私も手伝うから」
「う、うん。……今の、見た?」
「見掛け倒しも良いとこだったとか思ってないから」
「違うから。俺、普段ならダブルブルとか余裕で……」
「はいはい」
適当に返事を一蹴しながら、円香はため息を漏らしつつ、菅谷の方へ歩き、とりあえず破裂した浮き輪の破片を拾う。
「これ、捨てちゃって良いのね?」
「あ、うん。ね、マドちゃん」
「……何?」
改まったような声の掛け方……言われることは予知出来る。なんなら、改められる前に分かっていた。だからこそ、思わずボートを膨らませるより破裂した浮き輪の片づけに意識が向ってしまったわけだが。
その自分の褒められ慣れてなくて他のものに逃げ込んだ感じが非常に情けなくて嫌だった。
そんな自己嫌悪を吹き飛ばすように、菅谷はおそらく笑みを浮かべたまま告げた。
「その水着、とっても似合ってるよ」
「…………んっ」
そんなストレートでなんの捻りもない感想が、とてつもなく恥ずかしくて、嬉しさを噛み殺すのに必死になりながら、10秒で拾えるゴミを30秒かけて拾った。
少しプルプルとかなり小刻みに身悶えさせつつも、何とか気を落ち着ける。小さく悟られないように深呼吸をし、胸の鼓動を抑える。
そして、照れを誤魔化すように聞いた。
「……それより、あんたちゃんと日焼け止め塗った?」
「え? 塗ったよ?」
「ん。ならさっさとボート膨らませて」
言いながら、まだ赤くなってる顔が収まらないので、顔を見せないまま部屋の中のゴミ箱に向かった。
その中に捨て、改めて向き直る。こうなった以上、もう真っ赤になっている顔を菅谷の方へ向けるしかない。
だが、まぁさっきよりは少し落ち着いているので、少しくらいの照れは自然だと開き直り、顔を向ける。すると、視界に入ったのは、同じように真っ赤に染めた菅谷の顔だった。
「……なんであんたの方が照れてるの」
「っ……だ、だって……肌の方が、布より多いから……」
「……それはあんたも一緒でしょ」
改めて円香にも菅谷の水着姿が見えてしまう。パーカーの下から見える海パンは黒い布地の上に南国の葉を白で描いたシンプルなもの。男の水着に感想を言って良いものなのか分からないが、普通に似合っていた。
だが、それ以上に顔を真っ赤にしている菅谷が気になってしまう。
「……良いから、早く準備して。浅倉が外で待ってるから」
「っ……う、うん……」
「ビーチバレーのネットどこ?」
「あ、重いからそっち俺やるよ。マドちゃん、膨らませてて」
「ありがと」
なんて言いながら、各々に別れて準備を始めた。
一通り揃ったので、それらを持って家を出る。ビーチの方へ歩いて行くと、透が退屈そうに準備体操しているのが見えた。
「ごめん。お待たせ」
「あ、遅い……リカ? 何してんの?」
「?」
透がまず気がついて顔を向けて来た。円香も気になって隣を見ると、いつの間にか隣に菅谷はいなくなっていた。代わりに、自分の両肩に手を置いて背中に隠れ込んでしまっている。両手に持っていた荷物は、足元に落として散乱していた。
「……リカ?」
「…………ない」
「え?」
「顔……見れない……」
一瞬、自分を見た時とのリアクションの差に少しだけショックを受けた。だが、すぐに事情を続きから話してもらえて納得した。
「…………さっきの……その、胸が……頭に浮かんじゃって……」
「……」
なるほど、と円香は変に納得する。まぁ、三人しかいない空間で、あれだけガッツリ見てしまったら、意識してもおかしくないのかもしれない。
それを察しているのかいないのか分からないが、とにかく感想が欲しかったのだろう。透が、ひょこっとその菅谷を追うように、自分の前から顔を出した。
「ね、リカ。水着、どう?」
「ーっ……」
「? リカ?」
一歩、円香を中心に逃げるよう隠れてしまう菅谷を、透はさらに後から追う。
が、また一歩、隠れてしまう。何でも良いが、自分を挟まないで欲しい。
2〜3周ほどぐるぐる回った後、焦れったくなった透は、少しムスっとしてとうとう手を伸ばしてしまった。
菅谷の手首をギュッと掴むと、自身の方に引き寄せる透。
「ね、リカ。どう?」
「ーっ!」
「ちょっ、浅倉……」
今更になって止めようとしたが、遅かった。菅谷と透はガッツリ目が合ってしまう。しかも、ほぼ半裸の水着姿で。
さっきまでの光景をより鮮明に思い出してしまったのだろう。オーバーヒートした菅谷は、手を強引に引き剥がす。
「っ、ご、ごめん忘れ物した!」
そのまま別荘の方へ逃げ込んでしまった。その背中をぼんやり眺めながら、ポツンと取り残された透は数回、瞬きする。
「……そんなに刺激強い水着かな?」
「強かったのは水着じゃなくてさっきの光景でしょ」
「……え、まだ気にしてたの?」
「普通、気にするから……」
過去最高クラスに面倒な事になりそう……と、円香は内心で強く思いつつ、とりあえず今の菅谷の心情を説明した。
×××
何とか円香の口利きで、菅谷は戻って来た。とりあえず慣れるまでの間は透にパーカーを着てもらう事にする。……つまり、これだけ暑いのに海に浸かれなかった。
そのため始まったのは、まさかの初手からスイカ割りである。冷蔵庫に冷やしてあったウォーターメロンと、木製バットを持って砂浜に置く。
「誰割る?」
「私」
「俺。……あ、とおるん、どうぞ」
ずっと円香の背中に隠れている菅谷に遠慮してもらったので、透はバットを握り、円香に目隠しをしてもらった。
「よし、おっけー」
「わっ、ホント見えん」
「ちゃんと誘導するから、聞いててね」
「いや、去年私恋占いの石で極めてるから」
「木に直進してたでしょ」
そうツッコミをくれたのは菅谷だった。目を隠していて顔が見えないからか、それともパーカーを着ているからか、あるいは両方か……なんにしても、普通に話せた事が少し嬉しかった透は、とりあえずバットを構える。
「よーし、めっちゃ割ろう。粉々にするから」
「食べる分は残してよ」
「あとあんま散らさないように」
「任せて」
なんて話しながら、いざ開始。フラフラと歩きながら、スイカの方へ向かう。
「もっと右、右」
「いやむしろ左」
「後ろ」
「上」
「昨日」
などと早くも好き放題言い始めていた。当然、透も当てにするのをやめて、直感を信じる。
ふと、目隠しされている中で目を開けると、思わず驚いた。この布薄くて、割と前が見える。
「……」
そんな中、ふと良い案が浮かぶ。今、このままなら、菅谷の方に近寄れるのではないか? と。
そう思うと、善は急げだ。フラフラしながら方向を変え、菅谷の方を見る。
「……え、なんかこっち見てない?」
「……浅倉、後ろ後ろ」
「え、後ろ?」
言われて、180度の旋回を行なった。二回言われたので二回。
「ねぇ……なんか、やっぱこっちきてない? あいつの方向感覚ヤバない?」
「浅倉、ステイ」
「聞こえない。指示は?」
「だからステイだってば」
「ていうか、アレ見えてるでしょ」
「樋口、危ないよー」
「狙いは俺か⁉︎」
「ちょっ、浅倉……何考えて……」
……確かに、近付けてもどうしたら良いんだろう、と透はふと思ってしまった。今の状態では、水着も見られていないし「似合ってる」とは言われないだろう。
少しどうしたものか悩んだ時だ。砂浜から顔を出していた貝殻に足をつまずかせた。
「あっ」
ドシャッと前方に転がる透。
「危なっ⁉︎」
慌ててバットから避けると同時に、倒れる透の身体を支えに行った。砂浜なら転んでも平気だとは思うが、それでも抱えてくれる気持ちは嬉しかった。
なんにしても、調子に乗り過ぎた自分が悪い。謝ろうと思い、目隠しをとりながら言った。
「ごめんごめん、大丈夫? リカ……」
「っ……!」
しかし、忘れていた。今の菅谷には、自分の顔でさえ特攻が入る事を。その上、この距離である。
顔を真っ赤にした菅谷は、目をグルグルと回し始める。
「……あっ、大丈夫?」
「きゅう……」
「……あーあ」
失神してしまった。今更だが、胸を見られた側じゃなくて、何故見た側が顔を赤くするのか……と、少し思ってしまったり。
困ったように顔をあげると、円香が呆れた様子で透を睨んでいた。
「……何してんの?」
「やっちゃった」
「……バカ」
仕方ないので、しばらくシートの上で寝かせてあげることにした。とりあえず、スイカはしまっておく事にした。
×××
ほんの10分ほどで目が覚め、再び遊びを再開……したが、円香は気まずかった。
とりあえず、次はビーチバレー。ネットは張らずに、準備運動がてら三人でトスを上げ合うことにした……のだが。
「……なんで縦並び?」
円香を間に挟み、何故か一直線に並んでいた。リレーの練習でしか、この並びは見られないだろうに。
「あんたら、これからやるのなんだか分かってる?」
「分かってるよ」
「じゃあ、三角形になって」
との事で、透が移動を開始する。すると、菅谷はその対角線になる方へ移動した。
「……」
「……」
「……」
仕方ないので、逆回転を試みる。しかし、それでも逆側に移動するだけだ。
……まぁ、ただでさえ特攻入ったのに、あんな距離に近づいて身体に触れ合うようなことがあれば、と思うと気持ちは分かる。
「……このままやろう」
仕方ないので、円香は真ん中から菅谷にトスを上げた。それに伴い、菅谷は対角線側にいる透に飛ばす。その透は円香に返す。
「……なんでこの並びで成立するの」
そう言いつつ、円香はまた菅谷に渡し、菅谷から透へ行き、透から円香に戻る。
そんなループを繰り返す中、透はふと思った。今ならボールに視線が集中しているし、近寄れる。
近寄ったら、言えば良い。お願いだから、あまり意識しないで、と。難しいかもしれないが、いい加減海に入りたいものだ。
何度かラリーを続けつつ、少しずつ距離を縮めていく。まるで分針と秒針である。
さて、そのまま二人の距離は少しずつ縮まって行く……と、思いきや、菅谷も少しずつ離れていた。よくよく考えれば、菅谷から透にボールを射出するわけだし、気付いて当たり前だ。
「……」
「……」
「……」
なんでそれだけ動きながらトスしてミスらないの、という円香の感想は置いといて、少しずつ透に焦りが出る。このままでは、差が縮まらない。
それを思ったのは、透も同じだ。なんだか「そこまでして自分から逃げたいのか」と思い、ムスっとする。
こうなったら、もう強引な手に出る他ない。円香に向かって、大きく一発あげる。それにより、菅谷と円香の視線はそのボールに向く。
その隙を突いて、スタートダッシュを切った。円香を避けて、菅谷の方へ走る。
「ーっ⁉︎ な、何……⁉︎」
「逃がさない」
ヤバっ、と思った菅谷も逃げ出す。が、スタートダッシュが命運を分けた。慌てて後ろを振り向く菅谷の背中を、透は思いっきり捉え、後ろから抱きつくように押し倒した。
それを眺めた円香は、一瞬だけ心配になり、駆け寄ろうとした。……が、ふと透の背中が何かを語ろうとしているのに気付き、足を止める。「手出し無用」と言われた気がした。
「っ、と、とおるんっ……な、何⁉︎ ていうか、胸が……!」
「待ってよ。いい加減」
「……っ、い、いや……でも……」
「……逃げられる人の、気持ちになってよ」
「……」
言われて、菅谷は少し黙る。透にも、今の自分の気持ちがよく分からなかった。傷付いているのか、緊張しているのか、なんか知らんけど嬉しいのか分からないが、まず間違いなくある気持ちは「このままは嫌だ」だった。
せっかく泊まりで遊びに来た、という点を除いても、一瞬でも避けられるような事態が続くのはゴメンだった。
「……ごめん」
「許した」
「……いや、逃げてる方だけじゃなくて」
「おっぱい見た件も許した」
「……直球やめて」
「……とにかく、全部許すから。逃げないで、普通に遊んで」
「……正直、まだ少し恥ずかしいんだけど。ダーツのマト見ても思い出すぐらいだし」
「……どうしたら、解消される?」
「……」
如何にも二人らしいやりとりである。ただ、思った事を言い合うだけ。つまり、本音のぶつけ合い。考える前に口にしている。
しかし、透の問いを即答するのは、いくら菅谷でも難しかった。どうしたら解消されるのか、そんなの自分が聞きたいくらいだ。
それを察してか、透も返答を待ちながら、頭の中で提案すべきことを考える。
しかし、よくよく考えたら難しい事だ。逃げられた理由として一番大きいのは、やはり照れだ。罪悪感もあるのだろうが、ウブな菅谷の弱点を、女性の生乳というのはあまりに的確にエグリ過ぎた。
だから、透に思いつく手は一つだけだった。
……もう一度、同じ衝撃を与えること。
いや、そんなビッチみたいな事はしたくないが。流石に言葉に出る前に堪えた。……だが、万が一、菅谷の方からそれを頼まれた暁には……。
なんて思っていると、菅谷は真剣な表情で顎に手を当てたまま答えた。
「……生で野生のヘラクレスオオカブトを見るとか……」
「……は?」
今度は、純度100%でイラッとした。
「……コーカサスオオカブトとか、タランドゥスツヤクワガタとか……あ、カブトムシやクワガタじゃなくても、タガメとかでも良いかも。流石にホッキョクグマを見たいとか言い出すほど命知らずじゃないけど……」
「……本気?」
「うん」
「それはつまり……私の胸は虫以下だと?」
「え?」
もしかして、ブチギレていらっしゃる? と言わんばかりの菅谷の声音が鼻につく。この男、本当にこういう所だ。
ちょうど良い所に、自分は今、うつ伏せの菅谷を後ろから組み伏せている。……つまり、制裁を加えるにはあまりに完璧なシチュエーションというわけだ。
「い、いやそんな事ないよ! とおるんの胸の方が上!」
やばいオーラを感じ取ったからか、大慌てで言うが、そんなものは逆効果。透は苛立ちを隠すこともせずに聞いた。
「……どんなところが?」
「えっ、ど、どんなって……」
「5、4、3……」
「カウントダウン⁉︎ え、えーっと……」
「2、1……」
「と、とおるんの胸だったとこ!」
「……」
それを聞くと、透の中の凍りついた殺意が一気に消え失せる。つまり、他の女の人の胸とはまた違う、ということを伝えられたわけだ。
……まぁ、そういう、ことなら、許してやらん、わけでも、無い感じ。
「……今日一日、私に絶対服従」
「え?」
「それで、許したげる」
「……まぁ良いけど……」
「じゃ、まず最初の命令」
そう言うと、透はパーカーのチャックを下ろす。それにより、はだけた隙間から水着越しの胸が溢れるようにはみ出る。
直後、菅谷はすぐに目を逸らした……が、それを透は許さない。パーカーを脱ぎ捨てると、両手で菅谷の顔を掴み、キスでもするかのように自分の方へ向けた。
「っ、と、とおるん……!」
「褒めて」
「え、胸を?」
「え? 胸でも良いけど?」
「……り、立派だね……とか?」
「ありがと。さ、そろそろ海に入ろう。もう体焼ける」
なんかもう胸でも良いや、と思った透はそろそろ円香も混ぜないと待たせすぎると理解した。多分、自分でなんとかしようとしているのを察して、何も介入して来なかったのだろう。
そのまま走って円香の元へ向かおうとした時だ。
「あ、とおるん。待って」
「? 何?」
「水着、とっても綺麗だよ」
「っ……」
褒めて、なんて命令するまでもなく褒めてくれた。
なるほど、と透は理解する。円香がよく喰らい、そのあと愚痴る「不意打ち」とはまさにこの事なのだろう。これは確かに腹が立つほど嬉しい。
「……ありがと。リカも海パン、似合ってるよ」
「男の海パンって、似合わない人の方が少なくない?」
「まぁね」
そんな話をしながら、円香と合流した。
×××
「よし、というわけで、今から海の遊びをやり直します」
さっきまでオドオドと挙動不審にしていた菅谷の姿など微塵もなく、体育座りをしている二人に言い放つ。
「いや、その前に海、入りたいんだけど」
「ね、いい加減暑いし」
「……はいはーい。海に入りますよー」
あらかさまにテンションが下がった菅谷だが、素直に従う。円香はともかく、透の言うことには従わないといけないから。
軽く準備運動してから、サンダルを脱いで波打ち際に爪先を漬ける。普段なら冷たく感じていたであろうが、ずっと水に浸かっていなかっただけあって、むしろ心地よかっ……。
「浅倉ポセイドン」
「樋口リヴァイアサン」
「おぶぁっ⁉︎」
後ろから盛大に二人の女子から背中を押され、水の中にダイブした。
メチャクチャ溺れたかのようにしばらくゴボゴボと泡が立ち、鼻や口に水が入る。
ようやっと水面から顔を出すと、そこで立ってこちらを見ているのは、ニヤついている幼馴染二人組がこっちを見ている。
「……なんの真似?」
「ごめん、手が滑った」
「足が滑った」
「技名も聞こえたんだけど」
「「口が滑った」」
「それ別の意味だから!」
やり返すように水を思いっきりぶちまけた。それによってスイッチが入った二人は、指をコキコキと鳴らしながら迫ってくる。
「ふふっ、やったなー」
「悪いけど、今日は二対一だから」
「えっ、な、なんで……?」
「避けられた」
「待たされた」
「……」
確かに二対一になるだけの事はあった。
「上等だよ。かかって来なさい」
「言ったな?」
「よし、袋叩きだ」
そのまま二人との水かけっこが盛大に始まった。もちろん、ボロカスにされた。