浅倉が増えて、樋口のストレスは加速した。   作:バナハロ

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感想や評価をくださる方、いつもありがとうございます。やる気出ます。マジで。


一緒にいれば思考も変わる。

 七月。期末テストもあと、少しと言う日の土曜日。今日は透と円香が志望する高校の学園祭。だが、透が一緒に行く相手は菅谷である。

 駅前に到着した。待ち合わせ時間は、30分前。つい寝坊して遅れてしまったわけだが、また彼の姿は……。

 

「……あっ」

「おっ……」

 

 今きた、みたいな感じで前から歩いて来ていた。

 

「ごめん。遅れた。寝坊したわ」

「大丈夫、私も。寝坊して今きた」

「マジか。爆笑」

「うん。じゃ、行こっか」

「ああ」

 

 それだけ言うと、二人で並んで駅のホームに歩いて向かう……前に、菅谷が透に手を差し出した。

 

「繋がない?」

「え、なんで?」

「今日、電車混んでそう。デ○ズニーの夏休みイベ、今日からだから」

「詳しい。もしかしてこの前行った時からハマってた?」

「うん」

 

 意外と可愛いとこある、と思いつつ、透は手繋ぎに応じる事にした。二人で手を繋ぐと、そのまま歩いて駅に向かう。

 歩きながら、菅谷は透を見る。短いデニム生地のショートパンツに白のキャミソール、そして上から羽織っているグレーの薄いシャツと、首から垂らしたネックレス……なかなか、季節にあった活発な服装だ。

 

「相変わらず、浅倉って私服のセンス良いよね」

「そう?」

「そうだよ。カッコ良いし」

「そこは可愛いじゃないの?」

「え、だってカッコ良いし」

「ふふ、女の子に言う言葉じゃなくてウケる」

 

 そんな側から見たらデートにしか聞こえない会話だが、本人達的には適当な会話である。

 

「なんだっけ、これから。学祭だっけ?」

「うん」

「俺、学祭とか行ったことないんだけど、何あんの?」

「さぁ……でも要するにお祭りでしょ? 花火とかあるんじゃない?」

 

 いきなり絶対に無さそうなものを言った透だった。学祭のイメージを問いただしたい……と、普通の人なら思う所だが、残念ながら一緒にいる男は同種の人間である。

 

「マジか。じゃあ御神輿とかもある感じ?」

 

 またも、なさそうな奴が来た。何なら伝統行事じゃないとない奴である。

 

「知らない。でもあったら面白そう」

「学校で御神輿とか、俺なら絶対嫌だ。しかもこのクソ暑い中……」

「て言うか、誰が担ぐんだろうね。御神輿部?」

「何その部活。部分的過ぎて笑えるわ。それ大会とかあんのかな」

「知らないけど。ていうか、何を競うの? 速さ?」

「や、知らないけど。……美しい担ぎ方とか?」

「いやどう担いでも暑苦しいでしょ」

「プフッ、確かに」

 

 笑いをもらしながら、二人で改札口を通り過ぎて会話を続ける。今度は透が思いついたように言った。

 

「あ、あれは? お祭りと言えば、盆踊り」

「それはありそう。ワンチャン」

 

 悲しいかな、二人の会話はツッコミ役がいないと、何処までも変な方向に広がってしまうのだった。

 

 ×××

 

「あ、円香ちゃーん!」

「あ、きた」

 

 一方、その頃。駅前にて、同じように待ち合わせしている二人の女子中学生がいた。

 片方は樋口円香、そしてもう一人は、円香や透と幼馴染の福丸小糸である。一個下で別の中学ではあるが、なんだかんだ幼稚園からの付き合いだ。

 

「ごめん。試験も近いのに」

「う、ううん……! 大丈夫だよ……!」

 

 呼び出したのは円香の方。これから、一緒に志望高校の文化祭に行く……のだが、小糸は不思議だった。何故、自分も一緒なのか、と。

 

「それで、円香ちゃん……どうして、私も一緒なの……?」

「……別に、大した理由じゃない」

「あ……も、もしかして寂しかったのっ⁉︎」

「……それは小糸でしょ」

「いふぁふぁふぁふぁ!」

 

 キューっと鼻を摘みつつ、抓る。実際、一人だけ中学が違うから、色々と思う所はあるのだろうと思い、誘ったという理由もある。

 

「じ、じゃあ……円香ちゃん、行……」

「いや、待って。まだ行かない」

「へ?」

「もう少し様子見たい」

「……なんの?」

 

 聞かれるも、気にしてると思われるのが嫌なので言わなかった。

 ……と、言うのも、今日の目的は、もう透と菅谷の尾行をする、というものに半分くらい変わっている。

 今の今まで、出かける時はいつも三人一緒だったが、ここに来てまさかのマンツーマンデート……いや、デートかどうかは知らんけど、何にしても変な事をするようであれば許されない。

 その上、あのアホ二人のデートを一人で尾行する、という絵がなんか腹立ったので、小糸と一緒に来た次第だ。

 ……が、二人のデートが気になる、なんて小糸にしられるのも嫌なので、その言い訳も考えないといけない。

 

「ごめん、小糸。昨日、夜遅くまで勉強してたから少し疲れてて……近くのカフェで休んでからでも良い?」

「あ、そ、そうなんだ……やっぱり、受験生って大変なんだね……!」

「小糸は大丈夫でしょ。勉強できるし、ダメそうなら私が見るから」

「ホントに⁉︎ ありがとう!」

 

 本当に小糸にはこれでもかと言うほど甘い円香だった。雛菜? 誰それ? と言わんばかりの空気だ。

 オープンテラスのあるカフェに入り、駅前を眺めることを可能にしつつ、二人でカフェオレを飲む。

 現在、11時5分過ぎ……あの二人が待ち合わせていたはずの時間をかなりオーバーしている。

 にも関わらず、片方ならともかく両方来ない。どうなっているのだろうか? 

 

「にしても、これから高校かぁ……た、楽しみだね、円香ちゃん……!」

「別に普通でしょ。近いとこ行くし、浅倉も同じとこ来るって言ってるし。今までと変わらない」

「そ、そうなんだ……あ、で、でも高校は私も同じ所、行くからね……!」

「……それは楽しみかもね」

 

 言いながら、小糸の頭を撫でてあげつつ、机の上のポテトをつまみ、駅前をチラ見する。やはり、来ていない。もしかして、待ち合わせ時刻が変更になった? 

 ……いや、そんな気がきくような真似をする二人じゃない。多分これは……寝坊だ。

 

「……はぁ」

「? どうしたの?」

「別に」

 

 なんか自分で自分が馬鹿馬鹿しくなって来た。こんなくだらない事に時間を割くなんて、我ながら、らしくなかったかもしれない。

 しかし、休むと言ってしまった以上はもう少しここにいないといけないので、小糸に話しかけてみた。

 

「ちなみに、小糸」

「? 何?」

「私達、もう割と長く一緒にいるけど、カレシとか出来るとしたら、誰が先だと思う?」

「え……」

 

 少しぼんやりした顔を浮かべてしまう小糸。少し自分っぽくない話題だったかもしれないが、聞くだけ聞いてみたかった。

 やがて、小糸は何かを察したような表情になった後、顔を赤くして大声を出した。

 

「も……もしかして、円香ちゃん好きな人いるの⁉︎」

「落ち着いて。そういうんじゃないから」

「どんな人⁉︎ う、運動部? カッコ良い……イケメンさん? あ……ま、まさか実は透ちゃんが男の子だった、とか……⁉︎」

「落ち着いて。てか最後のはどう言う意味」

「ぴゃんっ……!」

 

 額に手刀が来て、小さな悲鳴を漏らして座り直す小糸。しょぼんと肩を落としている。可愛い。

 

「なんとなく思っただけ」

「え……だ、誰だろう……? 透ちゃんかも……いや、でも円香ちゃんがいるし……」

「だからそれどう言う意味?」

「ぴゃ? だって……円香ちゃんなら、変な人と付き合わせないと思うから……」

 

 そういう意味か、と黙ったまま納得してしまう。

 

「……雛菜ちゃん?」

「なんで?」

「いや、何となく……」

「私なら絶対、あれは選ばないけどね」

「あ、あはは……」

 

 とはいえ、まぁ気持ちはわかる。人当たりは良いし、顔だけは可愛いし、スタイルも四人の中で抜群……まぁ、中身は最悪だと思っているが。

 

「でも、彼氏かぁ……私もいつか、憧れの男の人と……?」

 

 何を想像しているのか知らないが、まぁ小糸の頭の中は分かりやすいものだ。憧れの王子様ーみたいな抽象的な男に、お姫様抱っこしてもらっている事だろう。

 ホントそういうところが、可愛らしい小糸の所以でもある。……けど、小糸の彼氏なんて絶対に許されない。

 

「小糸、もし彼氏になりそうな人、或いは告白されたりとかしたら私に言って」

「え、ど……どうして……?」

「三者面談するから」

「ぴゃっ⁉︎」

 

 なんで? と言わんばかりの「ぴゃ」が小糸から漏れた時だった。

 駅前で、見覚えのある二人組が、お互いに手を振って合流しているのが見えた。今回のターゲットだ。いや別にドッキリを仕掛けるつもりなわけではないが。

 

「……小糸、行くよ」

「えっ、も、もうっ? まだ残ってるよ⁉︎」

「飲み歩きで」

「お行儀悪いよ! あとこれからすぐ電車に乗るんだよ?」

「……平気でしょ。飲まないで持っとけば」

 

 それだけ言って、二人の様子を眺めながら慎重に後を追う。その時だった。菅谷が手を差し出し、透がそれに応じて、手を繋いで移動を始めた。

 直後、ベコッというプラスチックの容器が潰れる音が響く。遅れて、黒と白が入り混じり、茶色となった液体が溢れ出す。

 

「ぴえっ⁉︎ ま、円香ちゃん、どうしたの⁉︎」

「なん。でも。ない」

「な、ない事ないよ! 洋服に掛かっちゃってるよ!」

「そんな事より、行くよ。小糸」

 

 すぐに邪魔するため、強引に先へ進もうとしたが、小糸が引き止める。

 

「そんな事じゃないよ! それ去年、誕生日に透ちゃんにもらった奴でしょ?」

「っ……」

 

 それを言われると、止まらざるを得なくなる。

 

「そんなに派手に散ったわけじゃないから、拭けば大丈夫だと思うよ」

「っ……ご、ごめん……」

 

 結局、見失った。

 

 ×××

 

 電車に乗り、高校に到着した二人は、ボンヤリとアーチをくぐった。

 

「おー、すっげぇ。なんかマジで祭っぽくね」

「ねー。割と本格的じゃん」

「で、まず何から見る? 花火? 御神輿? 盆踊り?」

「花火は夜でしょ」

「じゃあ、御神輿と盆踊り探そっか」

「てか、探すまでもないよ。なんかパンフ配ってるし」

「お、マップじゃん」

 

 そんな呑気な話をしながら、二人でそのパンフをもらい、中を開いた。盆踊りもお神輿も花火も載っていなかった。

 

「……ないよ。三つとも」

「マジか。……あ、お化け屋敷ある」

「行く?」

「うん。じゃあ行こうか」

 

 そんなわけで、早速昇降口に向かった。人混みを避けながら、とりあえず下駄箱を見下ろす。

 さて、ここで二人は重大なミスに気がついた。……スリッパも上履きも持って来ていない。

 

「菅谷」

「忘れた」

 

 聞くまでもなく大体、分かってしまった。そもそも二人ともカバン一つ持っていない。特に透は志望校の学祭に来たにも関わらず、だ。

 どうしようか、と二人揃って辺りを回す。

 すると、実行委員らしき腕章をつけた生徒が案内をしているのが見えた。

 

「ちょっと聞いてみるね」

「うん」

 

 二人でその生徒に声をかけに行った。

 

「すみません」

「はい?」

「上履き忘れちゃったんですけど……」

「あ、でしたら来客用のこちらをお使い下さい。校舎を出る時は、各箇所の我々、運営委員が回収致しますので」

「そうすか。どうも」

 

 軽くそう言うと、スリッパと靴を入れるビニールを受け取って中に入った。

 二人で並んで、手を繋いだまま歩いていると、透が足元を見てつぶやく。

 

「スリッパってさ、歩きにくいよね。なんか足から落ちそうになる」

「分かるわ。落ちそうになる」

「ね。……そういえば、スリッパでGとか殺した事ある?」

「あるよ」

「私も。超やりやすいよね。これむしろG駆除機だよね」

「うん。スパイクの瞬間の音が心地良い」

「なんなら楽器じゃん」

「楽器とか……爆笑」

 

 相変わらずわけのわからない話で盛り上がっている。見た目は盛り上がっていない表情だが、本人的には最高潮である。

 ちなみに、お化け屋敷に行くと明言した割にパンフを開くことなく歩いている為、どんどん遠ざかっていった。

 

「浅倉は楽器とか出来んの?」

「鍵盤ハーモニカとリコーダーなら」

「学校で習う奴じゃん」

「そっちは?」

「俺はピアノも出来るよ」

「へぇ、意外。何弾けんの?」

「いや楽譜と時間があれば大体、なんでも弾けるよ。余程、ぶっ飛んだ奴じゃない限り」

「じゃあ……古今和歌集」

「……いけっかな。ちょっと考えてみるわ」

「うん」

 

 そんな話をしながら、二人は体育館に来ていた。お化け屋敷の教室は本校舎2-4である。

 中に入ると、ステージ上でやっていたのは吹奏楽部だった。さっきスリッパが楽器とか抜かしてたにも関わらず、のうのうといった。

 

「わっ、演奏じゃん。これルパンのテーマじゃね?」

「ぽいね。聴いていこうよ」

「良いね」

 

 そのままパイプ椅子が並んだ席の方へ歩いて行った……が、空いている席はない。

 流石に立ったまま聞くほどじゃないので「どうしようか」と顔を見合わせ、菅谷が声を漏らした。

 

「とりあえず……席増やしてもらう?」

「誰に言えば良いのそれ」

「舞台袖の人に聞けば良いんじゃね。あそこの扉、袖に入れるっぽいし」

「そうだね」

 

 普通、スタッフオンリーだとわかるものだが、お構い無しだった。

 そのままのんびりと歩いてその入り口に向かう。吹奏楽部の演奏はそれなりにオーラがあり、普段は騒がしいはずの客席に座る生徒達は静かに清聴していたが、二人だけが話しながら歩いていた。

 

「なんだっけ、あのラッパ。えーっと……ふ、フロート?」

「フルート?」

「そうそれ。あれ音出すのめっちゃむずいらしいよ」

「へー。まぁ明らかに使いにくそうだもんね。なんであれだけ横にして吹くのあれ。吹き矢でさえ縦にして吹くのに」

 

 そんな呑気な話をしながら、扉を開けた。中に見えたのは、吹奏楽部などではなく、サーカスでもやるのかってくらい色々な衣装に身を包んだ面々だった。

 

「えっ、だ、誰君達?」

「すみません。席座りたいんですけど埋まってて」

「椅子ないですか?」

「いや知らないよ!」

「ここバックヤードだから! 出て行って……!」

「どうかしましたか?」

 

 なんか困り始めてしまったと思ったら、奥から普通に学生服の生徒が歩いて来た。腕章があるあたり、スタッフなのだろう。

 その男は、透と菅谷を見るなり目を輝かせた。

 

「っ、き、君達! ちょっと良いかい?」

「え」

「なんですか?」

「頼みたいことがあるんだ!」

 

 そのまま二人は訳がわからないまま連行されてしまった。

 

 ×××

 

 ようやく目的地に到着した円香と小糸は、パンフレットをもらい、先に元々の用事であった説明会を終えた。

 付き合ってくれた小糸に、円香は出店で売っていたかき氷をご馳走し、食べ終えてから再びパンフレットを見る。その間、円香はバカ二人を捜索するために目を光らせていたが、見つかることはなかった。見てくれだけは美男美女なのだから、すぐに見つかると思っていたが。

 一応、お化け屋敷の前や漫画研究会の漫画喫茶、美術部の抽象画展など二人が興味持ちそうな店は抑えたのだが、何処にも影も形もなかった。ついでに、小糸がお化け屋敷でビビり散らしている絵は可愛かった。

 

「小糸、どこか見たい所ある?」

「え? えーっと……」

 

 パンフレットをペラペラと眺めながら、小糸は顎に手を当てる。すると「あっ」と声を漏らした。

 

「これ行きたい!」

 

 小糸が指差す先にあるのは、体育館のステージだった。演劇部の次にやる演目「ミス・ミスター○□高校コンテスト」らしい。

 

「小糸、こう言うの興味あったっけ?」

「え……わ、私は興味ないけどねっ? 円香ちゃんは、あるんじゃないかなってね?」

「は? どういう……」

 

 そこで脳裏に浮かんだのは、小糸とさっきまで話していた内容。四人の中で恋人がどうの……と言う話。もしかして、触発されたのだろうか? 

 なんだかんだ、小糸もそう言うのに興味が出て来た年齢、と言うことだろう。可愛らしいものだ、本当に。

 しかし、円香の中の「イケメン」のイメージは、何処かの何かの菅谷によって「中身は残念」なイメージもセットでついて来ている。

 思わず、両手で小糸の肩に手を置き、真剣な表情で忠告してしまった。

 

「小糸……顔だけの男は、選んじゃダメ」

「え?」

「ちゃんと、中身を、見て。……良い?」

「は、はひ……」

 

 強く強くそう言うと、小糸は控えめに頷いた。……とはいえ、まぁ外見が気になるのもわからなくはない。とりあえず、そのコンテストに行ってみることにした。

 二人で歩きながら、ちゃんと持参した上履きに履き替えて体育館に向かう。

 

『はい、ミスorマスっ……ミズっ……ミスター○□コンテスト。女性部門、エントリーナンバー5を紹介します!』

 

 どうやら、もう始まっていたようだ。二人とも空いている席を探したが、無かったので階段を上がり、体育館を見下ろせる通路に立った。

 ステージを見る限り、おそらく男子と女子、同時にやっているのだろう。左に女子、右に男子が並んでいて、全員がナンバープレートを着けている。

 とりあえず、今並んでいる男子のなかなか、小糸の好みはいるのだろうか? 

 

「小糸、どう?」

「な、なんか……高校生って、なんかもうみんな大人なんだねっ。私も高校生になったら、あんな風になれるのかな……!」

 

 どちらかと言うと女子の方に目がいっていた。まぁ、それはそれで良いやと思った円香は、黙って耳を傾けた。

 

『この方は飛び入り参加! というより、こちらから出場をお願いしたわけですが……思わずスカウトしてしまう程の顔の良さ!』

 

 へぇ、と円香は少し興味が出る。並んでいる女子生徒を見た限りだと、ぶりっ子そうな女子しかいない。化粧も濃いし、割と不自然な感じある。……一方で、男子は二人ほどイケメンはいるが、一人はブーメランパンツでめちゃくちゃマッチョ、もう一人は女装して出ている。ネタ過ぎる。

 

『浅倉透さんです!』

「は?」

「ぴゃ?」

 

 思わず円香と小糸から声が漏れた。揃って顔を向けると、そこに立っていたのは本当に浅倉だった。さっきまでの活発な私服姿ではなく、何故かドレスまで着させられて。

 

『どうもー。浅倉です』

「え……なにしてんの?」

「透ちゃん……え、いつ入学したの……?」

「いや違うでしょ。何してんの……?」

 

 二人の疑問を他所に、司会の人は浅倉への質問を続ける。

 

『まずはクラスをお願いします』

『3年2組です』

 

 中学でしょ、という1番重要な点が置いていかれてる。

 

『え……3年にこんな綺麗な子いたっけ……ま、いいや。趣味と特技をお願いします!』

『え、趣味は……なんだろ。映画とかドラマとか……最近は菅谷とか樋口と一緒にいることです』

『……そんな名前の人いたっけ。ま、いいや。その方達は、お友達ですか?』

『はい』

『……なるほど。特技は?』

『特技……何かな。人の顔とか覚えること?』

『じゃあ、僕のこと見たことあります?』

『ないです』

『……そ、そう……生徒会長なんだけど……』

 

 そりゃないでしょ、と円香は眉間に皺を寄せる。そもそも学校が違うのだし……と思ったところで理解した。パンフレットを見ると、これをやる前には演劇部による演劇が行われていた。

 つまり、なんらかのことがあって私服姿を演劇部の一人と勘違いされ、飛び入り参加する事になったのだろう。

 

『で、では最後に一言お願いします』

『え、じゃあ……パラセーリング』

『……なんで?』

『やってみたいなって』

『そ、そうですか……では、次はミスターの方へ行こうと思います』

 

 もう完全に司会者も逃げてしまっていた。

 

「ていうか、円香ちゃん! 大丈夫なの? これ、止めた方が良いんじゃ……!」

「いや……もう放っておこう」

「ええっ⁉︎」

 

 何故なら、もう既に嫌な予感がしている。透と一緒に来たはずの菅谷の姿が見えないからだ。

 こうなってしまうと、もうむしろ関わりたくない気さえしてくる。

 

『つ、続いては男性陣エントリーナンバー5……こちらも飛び入り参加の方です。菅谷……ヘヴシッ! ……さんです、どうぞ!』

 

 くしゃみで下の名前は聞こえなかったが、とりあえずやはり菅谷はいるようだった。

 

『どうも、菅谷です』

『クラスと趣味、特技をお願いします』

『3-2。趣味は浅倉と樋口と遊ぶ事と生き物の観察、特技は理科です』

『お……というと、あなたはやはり、先程の浅倉さんの?』

『友達です』

 

 それを聞いて、ふと円香は思うところがあった。友達と言っていたが、今朝は二人で手を繋いでいた。あれはなんだったのだろうか? 

 

『なるほど。……しかし、男女間の友達は成立しないのはご存知で?』

『え、そうなんですか?』

『はい! 実は、男子と女子が親密になれば……』

『どうなるんですか? 兄妹になるとか?』

『いえ、それは盃を交わしていただかないと……』

『じゃあ、姉弟?』

『いやだから順序の問題じゃなくて』

『義兄妹?』

『今まで義理のつもりじゃなくて言ってたの⁉︎』

 

 て、そうじゃなくて! と、司会者は声を荒立てると、直球で聞いた。

 

『異性が仲良くなると、恋人になれるのをご存知ありませんか?』

「ぴゃっ⁉︎」

 

 小糸の悲鳴に近い声は、客席のざわめきによって掻き消された。平静を装ってはいるが、円香も内心で少し狼狽えていた。

 何故なら、あの二人なら、このムードのまま「え、恋人?」「そうなの?」「爆笑」「なっちゃう?」「良いね。樋口驚きそう」というノリで恋人になりそうな所だ。

 二人に恋人になられるのは困る。いや、嫉妬だとか自分も菅谷のことが好きとか、そんな事はかけらもなく、今後、どうせ三人でまた一緒にいる事があるのなら、今の関係が変化するのは嫌だ。特に、よりにもよって透が自分より菅谷を選ぶような事になるのは許されない。

 どうしたものか悩みたいが、自分にはどうすることもできない……と、思っていたら、菅谷が答えた。

 

『や、それはないです。もう1人、仲良い奴がいるし、俺も浅倉も……少なくとも中学を卒業するまでは、ずっと友達のままでいると思いますよ』

「……」

 

 それを聞いて、円香は目を丸くした。まさか、そんな風に考えているとは……てっきり、なんだかんだ言っても、透を狙っているものだと思っていた。

 なんだか、安堵したような、それとも少し何故かむかっとしたような……ただ一つ思ったのは、あの男もこの関係を楽しんでくれていることだ。

 

「……」

 

 少し、笑みをこぼしてしまうほど、嬉しかったからだろう。今の発言、しれっと問題発言が混ざっている事に気付かなかったのは。

 

『え……中学卒業?』

『え?』

『え……待って。この高校の生徒じゃないの?』

『違うよ? え、そんなこと言ったか俺?』

『……もしかして、同じクラスで友達の浅倉さんも?』

『え、そうだけど?』

 

 透も聞かれて真顔のまま答えた。それを見るなり、円香は体育館から出ることにした。多分、だいぶ騒ぎになる。その中に巻き込まれたら堪らない。

 

「小糸、行こう」

「……」

「小糸?」

「ま、円香ちゃん……あの人、友達なの?」

「え? あ、うん」

 

 そういえば、小糸と雛菜には紹介していなかった。……というか、雛菜がいなくて良かった。いたら、あの中に突っ込んでいきそうだったし、なんなら今後も教えない方が良いかもしれない。

 

「クラスメートだから。今度、機会があったら紹介する」

「う、うん……」

 

 そう話しておいて、そのまま2人を捨て置いて帰宅した。

 とりあえず……ここまで伝説になった以上、もうこの高校に入学することはできないかな、と決めながら。

 

 

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