11月1日。つまり、ハロウィン翌日。一時間目がロングホームルームで、教員がまだ来ない教室の中、円香と菅谷は困っていた。
……何故なら、透が拗ねていたからである。もう朝、一緒に登校を約束してから、学校に到着し、今に至るまで、机におでこを擦り付けたまま微動だにしない。
「はーあ……」
「ま、まぁまぁとおるん。そんなに落ち込まないでよ」
「そうだよ。来年は行けるでしょ」
昨日のハロウィンが雨天中止となった。
もう色々と考えていた透のハロウィンイチャイチャ大作戦は全てダメになり、せめて構ってもらおうと思い、雨の中、傘も刺さずに外出したら電車に乗るのも止められ、仕方なく帰宅した。
「……はぁ」
「落ち込まないでよ、とおるん。そうだ、放課後にみんなでタピオカ飲まん?」
「私も空いてるし、行こっか」
「……リカは平気そうだね」
「え?」
机に突っ伏している透から、そんな声が漏れる。
「……せっかくのお出掛け、中止になったのに」
「? だって、あの後結局、二人で遊んだじゃん」
そう、あの後、菅谷は透の家に行って、二人でずっと駄弁っていた。
「そんなにハロウィン、楽しみだったの?」
「……違うけどさ……ちょっと納得いかないだけ」
「? 何に?」
「……リカに」
「え、俺?」
「……なんか、ズルい……樋口も、リカも……」
言われて、菅谷は小首を傾げるが、円香はなんとなく言わんとすることがわかった。確かに、いちゃつきたくてハロウィンに行くことになったのに、結局は家デート……それも菅谷に自宅へ来てもらったため、親の手前、過激なことが出来ないようでは、結局いつものデートと同じだ。
そんな話をしていると、教室に先生が入ってきた。
「……あ、来た」
「そうだ、とおるん。もしあれだったら、タピオカ奢るよ」
「……ありがと」
今は、透と菅谷は席が近く、円香だけ遠い。正直、円香からすればそれはそれで羨ましい案件なのだが、まぁそれはそれ、これはこれという事だろう。
自分の席に戻ってボンヤリと待機していると、先生が全員に言った。
「日直号令〜」
挨拶を終えると、先生はチョークを持って黒板に文字を書き始めた。書かれた文字は「職場見学」の文字。
「はい、というわけで、今日はこれについて説明するから」
そういえばそんなのやるって言ってたっけ、と円香は頭の中を切り替えた。透は基本的にホームルームの話を聞かない。菅谷が最近は聞くようになったが、中学までは自分しか聞かなかった癖で、他人の分も理解しておかないと、と言う癖がついていた。難儀な癖である。
話を要約すると、職場見学に行く場所は大まかに分けて六箇所。その中で興味がある所に各々が見学するというもの。
「で、この紙配るから。希望の場所にチェック入れて、明後日のLHRまでに持って来るように」
なるほど、アンケート方式か、と理解した円香は、先生に配られた紙を見る。
正直、どこでも良い。まだ進路とか決まっていないから。
まぁ、こういうのは透か菅谷が決めるだろう。ここは黙って待機……と、思っているときだった。
「……あ」
これ、使えるかも。
×××
夜中、透は少し傷が癒えていた。帰りに菅谷がかなり盛り上げてくれたので、なんだかんだ楽しい放課後を過ごせたから。
まぁ、そもそも三人一緒で今後も付き合っていくつもりだし、今思えばそんなに悲観的になる事ではないのかもしれない。
この先、円香と同じような機会はいくらでもあるはずだ。そう強く思い込んだ時だ。スマホが震えた。円香からだ。
マドちゃん『そういえば、二人は職場見学何処にすんの?』
職場見学? 何の話だろうか?
とおるん『何それ?』
マドちゃん『一時間目に話してたでしょ』
マドちゃん『ていうか、明後日に提出だけど、まずちゃんと持って帰った?』
とおるん『何を?』
LIKA☆『プリントでしょ』
言われて、鞄の中を確認した。だが、それらしいプリントは入っていない。
とおるん『ないわ』
マドちゃん『学校に取りに行った方が良いんじゃないの?』
明後日提出なんじゃないの? と入力しようとしたが、その前に円香が連続して送信してきた。
マドちゃん『リカ。あんた、一緒についていってあげたら?』
その時点で入力していた文を消した。言わんとしていることが理解できたからだ。
……つまり、二人で出かける口実が出来た。何せ、菅谷が住んでいるマンションの最寄駅=学校の最寄駅だ。何の問題もない。
LIKA☆『良いよ、俺は』
菅谷からの許可も出た。後は、自分がOKするだけ……なのだが。
「……」
……なんか、今更になってちょっとヒヨった。いや、ヒヨるというより、遠慮したくなった、と言うべきか。
わざわざこんな風にお膳立てされなくても、もう自分の中で吹っ切れた後なのだ。わざわざ、本当は行きたいであろう円香に気を遣ってもらってまで、二人きりになる事はない。
……あとは、まぁ、なんだ。万が一、そういうちょっとえっちな展開になったら、深夜テンションでもない限り破裂するかもしれない。
とおるん『じゃあ、今から行くね』
とおるん『樋口と一緒に』
マドちゃん『は?』
少し肝試しみたいで楽しくなってきた、と思いながら、透は円香を連れて家を出た。
×××
「あんた、どう言うつもりな訳?」
聞いたのは円香。せっかく、提案してあげたのに、なんで自分を巻き込んだのか、という所だ。
「別に? ……ただ、今後長い付き合いになるし、私にもいつか、そういうことがあるでしょって思ったら、わざわざ気を遣ってもらうこともないのかなって」
「……あっそ」
まぁ、そういう風に割り切ってくれたのなら、円香としてはもう何も言うこともない。そうだ、別にあの日の夜だって思い出と言えば聞こえは良いが、1日に偶然が重なって出来たイベントに過ぎないのだ。
どう足掻いたって完全に公平にはならないし、不公平な日だって増えるだろうし、透だけが得する日も増えるかもしれない。
……ただ、強いて言わせてもらうのなら。
「じゃあ別にプリント、明日取りに行けば良かったんじゃないの?」
「……」
身も蓋もない一言だった。結果的に見てみれば、一人の忘れ物に二人が付き合う形になっている。
だが、今から帰るにしては、もう親に「忘れ物取りに行ってくる」と言ってしまっているし、その上で隣の駅まで来てしまった。
「おーい、とおるん。マドちゃん」
そんな中、菅谷が手を振って駆け寄ってきた。
「あ、リカー」
「さっきぶり」
「うん。なんかこの時間に、いつもの場所に集まるのって新鮮だね」
……まぁ、菅谷がこんな様子で何も考えていないのなら、別に細かいことを気にする必要もないのだろう。
「幽霊とかいるかなぁ」
「いるんじゃない?」
「だよね。七不思議とかないの?」
「聞いたことないけど……あ、作っちゃう? 七不思議」
「良いね。めっちゃ怖い奴」
「樋口も作ろう」
「……眠れなくなっても知らないから」
との事で、三人ともノリノリで校内探検に向かった。
しかし、三人は忘れていた。……夜の学校とは、怪談話の代名詞になり得ると言うことを……。
×××
夜の学校の何が怖いか……それは、人工物なのに薄暗く人気が少ないところである。人がいた痕跡、と言うのは「なんで人がいなくなったの?」と言う想像力を働かせることにより、人々を恐怖へと掻き立てるのだ。
それも、普段賑やかなのに夜になると静かになる所なら尚更のインパクトがある。
さて、そんな夜の学校を怖がらないコツがある。それは……何も考えない事だ。
「どんなのが良いかな。七不思議」
「やっぱり、ラップ音とか、花子さんとか?」
「ベタ過ぎでしょ。捻りがないと、今時の高校生は怖がらないから」
「じゃあ……POP音とか、花男くんとか?」
「いやそうじゃなくて」
「何それめっちゃ怖そう。教室の机がPOP歌うの?」
「それ怪談じゃなくてT○Y STORY」
なんて話しながら、校内を回っていた。
「とりあえず、夜の教室を見てからじゃないと、雰囲気掴めなくない?」
「だね。じゃ、まずは図書室から行こっか」
「良いね」
いやまず教室行って忘れ物回収しろや、と誰もが思う所を、三人とも平然とスルーしていた。
さて、本当に図書室の前に来た。扉を開けようとしたが、ガキっと引っかかる音。
「鍵閉まってる」
「……そりゃそうか」
「え、どうすんの?」
「図書室は無しで」
割とメジャーな所が早くもダメになってしまった。
「というか、普通に考えて、何処も閉まってるんじゃないの?」
「あー……確かに」
「じゃあ、他の設備とかで決めるしかなくない?」
「と言うと?」
「トイレ」
「廊下」
「階段」
「……三不思議にする?」
「トイレの花男くんと?」
「老化が止まらない廊下」
「怪談が止まらない階段」
「ダジャレじゃん。……てか、怪談が止まらない階段って何?」
「夜にその階段を登ると……口が勝手に怪談話をするようになる……」
「笑い話じゃん」
なんて、話しながら歩いていると、トイレの前に来た所で、菅谷が二人に声をかけた。
「ごめん、トイレ行ってくる」
「いってら」
「ついて行ってあげようか?」
「とおるんのえっち」
「いやそういう意味で言ってないんだけど……」
「てか、それだから男のセリフじゃないって」
なんて話しながら、菅谷がトイレに行くのを眺めながら二人は待機する。
「でも……なんていうか、ホントに緊張感無いよね」
「分かる。夜中の学校でトイレに普通に入れるって、ちょっとおかしいでしょ」
「そんな事ないよ。二人だって入れるでしょ」
「「早っ」」
「じゃ、行こう」
もう戻ってきたので、改めて教室に向かって歩き始めた。
三人のクラスの教室まではあと少し。そろそろ夜の学校の散策にも飽きてきたが、このままではあまりにも得るものがない。
そう思った透が、振り返りながら提案した。
「ね、二人とも。最後に屋上で星を見に……あれ、リカ?」
振り返ると、菅谷が窓の外を眺めているのが見えた。
その視線の先には、満月が浮いている。それを見て、透が声をかけた。
「リカ? どうしたの?」
「え? いや」
「満月?」
察したように円香が続ける。その後から、さらに透が聞いた。
「そういえば、リカって理科系得意だけど、地学もいけるんだっけ?」
「いや、流石に無理」
「やっぱりかー。興味ないこともないんだけどね。星とか綺麗だし」
「それならプラネタリウムでも行けば良いでしょ」
「あ、良いねそれ。今度、三人で行く?」
「じゃ、私探しとく」
そんな話をしながら、緊張感のかけらもなく三人は進んだ。もう他の教室も開いていない、と理解した時点で、すぐに忘れ物がある教室に向かった。
「着いたよ」
「教室は開いてるんだ」
「ね」
三人で中へ入った。のんびりと伸びをして。透が机の中を覗き込む。
のんびりと黒板を見ている菅谷を見て、円香が横から声をかけた。なんだか今日は大人しくてボケっとしてる事が多くて、気になってしまった。
「怖いの? リカ」
「え? あ、いや……」
「あったよ」
透が声を上げる。すると、菅谷が二人に声をかけた。
「ね、二人とも。写真撮らん?」
「どうしたの急に?」
「や、夜の学校なんて中々ないでしょ。来ること」
「確かに。撮りたい」
そんな話をしながら、三人で黒板の前に立った。スマホを構えるのは菅谷。真ん中に透が立ち、ピースをして、円香はウインクした。
「……撮るよー」
「うん」
カシャっとシャッターを切った。
「後で送って」
「今送るよ」
「じゃ、帰ろっか」
そんなわけで、帰ることになった。なんか、行けるとこが少なくて思ったより刺激はなかった。雰囲気くらいだろう。
歩きながら、ふと透が言った。
「結局、何も出なかったね」
「まぁ、簡単に出たらお化けじゃないでしょ」
「えー。でもせっかくの夜の学校なのにさー」
「お化けなんていないってこと」
「まぁ、だよね」
しかし、だからこそ三不思議を作ると面白いかも、なんてことも思ってしまったり。
「で、どんなのにしよっか。三不思議」
「まだそれ考えてたんだ」
「三人で一つずつ作ろうよ」
「……何処だっけ? トイレと階段と廊下?」
「そう。花男さんはつまんないから無し。……で、私が老化が止まらない廊下で、リカが怪談が止まらない階段」
「じゃ、私トイレが止まらないトイレ」
「いや怖いけども。駄洒落にもなってなくない?」
「怖いなら良いでしょ。怪談じゃないのこれ?」
「うーん……リカはどう思う……あれ、リカ?」
「?」
二人とも菅谷の方を見たが、そこにバカな姿はない。
「逸れた?」
「まさか。どうやって学校で逸れるの。どうせ何処かに隠れてるんでしょ」
なんて話しながら辺りを見回すと、さっきの教室に入っていくのが見えた。
「隠れるところ見られてるし……」
「忘れ物したんじゃない?」
「一応、様子見に行く?」
「うん」
まぁ、驚かすつもりなら、掛かってやるのも一興かもしれない、なんて思いながら、二人で教室まで戻った。
「リカー。帰るよー」
「てか、何してんの?」
なんて声をかけながら扉を開けると、意外にも菅谷はポケットに手を突っ込んだまま、月明かりを浴びながら窓の外を見ていた。その様子はサマになっているが、てっきり悪戯するつもりだと思っていた円香としては少しだけ驚いてしまった。
声を掛けたのに、菅谷は無視して月光を浴び続ける。その格好良さを自覚しているような素振りが苛立ったのか、透がすぐに言った。
「リカ、無視? 聞こえてたでしょ?」
「……」
しかし、何か違和感がある。さっきまでの菅谷との会話に。けど、菅谷は、地学は出来ないと言った。確か前に、正確には、宇宙は何キロ上空から先のことを言うか、みたいなのを教えてくれた覚えがあるのだが……あれは地学の範囲ではないのだろうか?
「リカ……!」
「浅倉、待って」
「何?」
「あのリカ……なんか、肌白くない?」
「……え?」
言われて、透も目を凝らす。確かに……なんか、肌の色が悪い気がする。月光を浴びているからだろうか?
すると、菅谷がこちらに目を向けた。その表情は、あのバカとは思えないほど落ち着いた様子で爽やかな笑みを浮かべていた。
「……あれ、リカ……?」
「いや……違うでしょ……」
「……じゃあ、誰……?」
「知らないけど……弟とか?」
「仮にそうだとして……なんで……この高校にこの時間にいるの?」
「だ、だよね……」
ただ分かるのは、二人ともまずいものを見ているような、そんな予感だ。
そして、その男はゆらりと身を揺らしてこちらに歩み寄り始めていた。
「二人ともやっと見つけたあああああ‼︎」
「「おぎゃああああああああああああ‼︎」」
「え、何? 生まれたて?」
突然、後ろから大声が聞こえ、二人とも大声を上げて教室の中に飛び込んでしまった。
心臓をらしくなくバックンバックンに加速させながら、尻餅をつきながら後退りし、教卓に背中を強打、倒してしまいながらも気にする余裕もなく、二人で上半身だけ抱き合いながら、頬をくっつけて顔を上げる。
そこに立っていたのは、いつもの間抜け面とイケメンを兼ね合わせた不思議な顔の菅谷である。
「もー、なんで二人とも置いて行くの。トイレから出たら誰もいないんだもん」
「……へ、と、トイレ、から……?」
「さ、さっきまで話してたよね……普通に……?」
なんとか声を絞り出して、円香と透が確認するように聞く。が、菅谷は相変わらずキョトンとした表情で小首を傾げた。
「え? いや俺ずっとトイレにいたよ。小便してたらお腹痛くなって個室に入って……あ、そうそう。なんか隣の個室にも誰かいたみたいでさ。スズメバチ談義で盛り上がったよ。いつの間に出ていったのか、最後に『ありがとう』とかお礼言われて、知らない間にいなくなってたけど」
「……」
「……」
「あ、もしかして話し声聞こえてた? だから先に教室来てたの? だったらごめんね」
「…………」
「…………」
いよいよもって二人とも汗も出ずに、ただただ真っ青になってしまっている。「じゃあさっきまで私達が一緒にいたのは誰?」みたいな。「て言うか、お前も不思議体験してんじゃん」みたいな。
そこで、ハッとした円香と透が、もう1人の菅谷の方向を見る。これ、もしやドッペルゲンガー? と思ったからだ。ドッペルゲンガーであれば、菅谷とどちらかが消えねばならない。しかし、菅谷は強いから、消えるのはドッペルゲンガーの方だ。
だが、そこには誰もいなかった。……と、いうことは、やはり……霊的に何かが、菅谷に化けていた……ということに……。
「…………」
「…………」
「二人とも、どしたの? なんか顔色悪いけど……」
シバきたい。八つ当たりといわれようと、目の前のバカと同じ格好した奴にビビらされた身として、一発ぶっ飛ばしたい。
……だが、しかし。それは後だ。二人とも顔を見合わせて頷き合うと、僅か1秒で菅谷の前後に移動し、透は前から、円香は後ろから飛びついてサンドイッチの如く挟んだ。
「ち、ちょっ……ふ、二人とも⁉︎」
抱っことおんぶを同時にやるハメになり、片腕ずつでなんとか二人を支える。
「連れてって」
「早く」
「な、何……どうしたの? お化けでもいた?」
「……」
「……」
「あがががっ! し、絞まってる! 首が折れちゃう! 分かった、学校出るまでこのまま行くから……!」
「落としたらブッ飛ばすから」
「覚悟しといて」
「じゃ、しっかり掴まっててね」
そう言いながら、菅谷は微妙に震えている二人の体に片手を一本ずつ当てて運んだ。
たったそれだけで震えがおさまってしまったのだから、自分達はやはりチョロいのかも……なんて思いつつ、透と円香は、前後から両サイドの肩に顎を置いた。
×××
「はぁ? 俺にそっくりのお化け? ……プハッ」
校門から出た帰り道、二人を降ろして事情を聞いた直後、笑みをこぼして二人に殴られた。
「笑い事じゃないから」
「ホント、あんたムカつく顔してる」
「えー。なんでそんなこと言うの」
「前から思ってたんだけど、顔と性格があってないの」
そんなこと言われても、菅谷は困るだけだ。
「でも、俺も見てみたかったなぁ。俺にそっくりな相手」
「ドッペルゲンガーに会いたいとか、頭おかしいでしょ」
「まぁ、リカよりオーラはイケメンだったけどね」
「よし、絶対に会う。そして殺す。ドッペルゲンガーは殺しても罪にならないよね?」
「浅倉、余計なこと言わないで。こいつのマンション、学校に近いんだから。これから毎日、夜中に学校、通われるでしょ」
というか、普通に閉じてる校門をよじ登って侵入してしまったが、怒られたりしないだろうか?
「はーあ……でも、楽しかったね。こういう探検も」
「私は二度とゴメン。まさかあんな幽霊に出て来られるなんて……」
「幻覚だと信じたいけど……私と樋口が二人で見ちゃってるからねぇ」
「逆に、幽霊見た後なのによく二人とも平気でいられるね」
それを言われ、二人とも思わず口を閉ざす。確かに、と思ったからだ。自分達の大切なバカに化けて出てこられ、あのまま何をされていたのか分からないと言うのに、割と平常心だ。
……もしかしたら、隣の阿呆が助けてくれたからだろうか? 文化祭の時も、今回も、なんだかんだ言って彼は助けてくれた。だから、今後も万が一の時は、なんやかんやで助けてくれるかもしれない、そんな信頼があるのだとしたら……ちょっと、口にするのは憚られる。
「リカが助けてくれたからだよ」
と、思ってたら、透は普通に言っちゃった。ほんとそう言うとこ羨ましい円香だった。
「え、俺?」
「うん。私、同じ顔でもあんなシュッとしたリカより、今の間抜けなリカの方が好きだよ」
言いながら、透は菅谷の正面に立ち、両頬に手を当てる。そして、その手を両肩に置くと、ジャンプして一気にしがみついた。
唐突に抱っこを強要されたものの、菅谷は上手いこと支えてみせる。
「ありがと、リカ」
「っ、う、うん……」
頬を赤らめて目を逸らす菅谷。……正直、円香としては、ちょっとえっちな事になるより、ああしてナチュラルにボディタッチし、本音を本音のまま伝える事ができ、周りの目を一切、気にすることなく甘えられる透の方が、よほど羨ましいってものだ。
「じゃ、リカ。このまま家までお願い」
「家まで? や、あの……それだと、電車……」
「知らなーい。嫌なら落としても良いよ。私の尾骶骨骨折しても良いなら」
「うぐっ……」
「んっ」
「い、今ほっぺに口つけた?」
「ダメ? 樋口とはマウストゥーマウスする癖に」
「だ、ダメじゃないけど……」
「ほら、このまま進んで」
……ちょっとやり過ぎではないだろうか、なんて円香は思ってしまったり。自分では人前では絶対に出来ないことをされて、思わず憎たらしく思ってしまった。
そう思った時には遅かった。菅谷の背中にドスッと額を置いてしまう。
「っ、ま、マドちゃん……?」
「私も怖かったからおんぶ」
「えっ……」
「行くよ。ちゃんとおぶってくれないと尾骶骨骨折するから」
「いやいやいや! 流石に駅まで二人まとめて担ぐのはキツ……」
「よっ」
「ちょっ、待っ……!」
「樋口と私、どっちが重い?」
「なんでこのタイミングで原爆落とすの⁉︎」
「浅倉でしょ?」
「樋口でしょ?」
「ど、どっちも重い!」
「「どっちも軽いと言え」」
「ごぶっ……!」
結局、駅員にキセルだと思われそうになって、途中で降り、家まで再び二人とも持った。知らない間に家まで送ることになっていた事に疑問を持たなかったのは、言うまでもない。