頑張ります。
「「「終わったー」」」
と、三人揃って期末を終え、両拳を空に突き上げた。試験の返却が終わり、これで二学期終了である。
さてさて、こうなったら後残るはメインイベントだけ。……つまり、クリスマスイブである。
「そんなわけで、二人とも。17時半に私の家ね」
「はいはい」
「おっけー」
「へっくち」
「とおるん、風邪?」
「わからん」
そんなわけで、珍しく一緒に帰らず、お昼だけ食べて三人バラバラに動き出すことになった。五時間後に、浅倉家で!
×××
現在、13時。目的地への移動に少し時間が掛かったが、円香はショッピングモールに来た。
とりあえず二人へのクリスマスプレゼントだが、割と難易度ハードモードである。何せ、喜ばせる対象が、頭の中が銀河の彼方にある二人組だ。慣れれば行動パターンは読みやすくとも、プレゼントとなればまた話は変わる。
何が喜ばれるのか、それを考えるのは少し難しい。
「……ま、何だって良いか」
あの二人のことだ。何を買ったって喜びそうだし、何だって良い。ただ、まぁどうせお金を使うなら喜んでもらいたい。何より、あの二人だって妥協しないだろうし、劣るのはゴメンだ。
結局、つまり何だって良いわけではない結論になったことにも気付かず、円香はショッピングモール内を見て回った。さて、改めて何を買おうか。
とりあえず、フロアマップを見る。渡す物も、服は控えたほうが良いと思った。理由は単純、大きいから。枕元に置けるものじゃないとダメだ。
しかし……そうなるとアクセサリー……大きくてもマフラーや手袋、帽子くらいだろう。少し、ありきたりな気がする。
……菅谷なら蛇のマフラー? いや、確かに喜びそうだが、円香が渡したくない。せっかくなら、円香のセンスで選びたい。
「……ま、適当で良いでしょ」
そう、適当で良いのだ。わざわざクリスマスなんて毎年、同じ日に全員平等に来るもので、凝ったものを渡す必要なんかない。ましてや、相手はお金持ちの息子。必要なものなんてないし、実用的なものも選びようがない。
だから、選ぶのならデザイン重視、それも見た目だけなら落ち着いてる奴だし、落ち着いた印象の色……と、やっぱり適当とは思えない真剣な表情で見て回っていた。
そんな時だった。
「……」
ふと目に入ったのは、カジュアルな男性向けの洋服屋……というより、革製品の店だ。革ジャン、靴、鞄など様々なアイテムがある。
こういうの、見てくれだけは良い菅谷のことだし、割と似合うかもしれないと思い、中に入った。
「いらっしゃい」
声を掛けてくれたので、会釈だけして中を見て回る。革製品……なんだかシックで大人のイメージだ。
例えば……革ジャン。この茶色い奴は、なんだか西部のアウトローを想起させ、菅谷の天然パーマと少しだけマッチする……気がして頭の中でシミュレーションしたのだが、何だか合わない。何故だろうか?
「……?」
まぁ、革ジャンなんて高くて大きいもの、そもそも買うつもりはないから良いのだが。
このお店の製品は他に小さなものといえば、パスケースやお財布なのだが……うん、革製品なだけあって普通に高い。
「何か、お探しかい? 嬢ちゃん」
店員に声を掛けられ、ドキッとしてしまう。しまった、声をかけられる前に店を出るべきだった。
「い、いえ……」
「珍しいね、女の子のお客さんは」
「私が使うものではありませんので」
「ほう、すると何か? 男に何かくれてやるのかい?」
「……」
「おや、当たりか。可愛いお客さんも来るもんだねい」
……まずった、と、円香は冷や汗を流す。バレたことよりも、他人に男にプレゼントを渡す、という事がバレるのが、思った以上に恥ずかしかった。
せっかく声をかけてくれた店員さんに、冷たく「あの、大丈夫ですので」と言って逃げるわけにはいかない。事実を言うことにした。
「……でも、困ってるんです。こちらのお店の商品は素敵ですが、あの子には合わないかな、と」
「ほう……どうしてそう思う?」
「分かりません。……見てくれだけは良い人で、実際、想定してみても似合っているように見えるのですが……何故か、しっくり来なくて」
なので失礼します、という前に、男の店員さんは小さく微笑んだ。
「ハッ……そりゃあ、その男の中身を、嬢ちゃんが知っちまってんのが原因さ。要するに、見た目は良いけど中身は残念な奴なんだろう?」
「いいえ、彼は中身も優しくて、自分の好きなことに夢中な所も可愛くて、見た目の割に中身はウブでそれはつまり誠実さを示していて、女の子……いや男の事も含め全員を見た目だけでなく中身から評価してくれる子なので、全然残念なんかじゃないです」
「お、おう……」
残念ながら、円香は自分はボロクソに言うくせに他人が悪く言うのは許せないワガママガールだった。思わずダンディーな店員さんも引いてしまうほど。
「でも……今の褒めてたつもりかもしれねえけど、要するにガキだってことしか伝わらなかったんだが……」
「それは……そうですね。良くも悪くも子供ですね、彼」
それはちょっと否定できなかった。別に、それが嫌なわけではないし、子供っぽい彼だからこそ、伝わる優しさや気遣いがあるのも確かだから。
「だから、そういうその子の面をお前さんは知ってる。だから、見た目だけ大人にしたって違和感が出ちまうんだよ」
言われて、円香は目を丸くする。夏休みに菅谷が自分と透の水着を褒めてくれたのと同じ理屈だったからだ。
「お前さん、良い子だな。だから、店員の身でこんなこと言うとバチが当たるかもしんねえが、お前さんの男にうちの商品は合わねえよ」
「……そうかもしれませんね」
……良い店員さん、と言うより、プロ意識の高い店員さんというべきか。売上より、お客様のことを考えてくれている。
「すみません。ありがとうございます」
「いいってことよ」
こういう人もいるんだ……と、少しだけホッとしつつお店を出てから、また新しい商品を探しに……行った所で、円香は足を止めた。
そして、ツカツカと歩いてさっきのお店に戻る。
「いらっしゃ……あり? さっきの嬢ちゃ……んっ?」
「まだ私の男ってわけではありませんから」
「お、おう……?」
それに、どの道、自分だけの男というわけではない、ということを真っ赤な顔で強く訂正してから、円香は再び店を出て行った。
さて、改めて仕切り直し……と、思っていると、電話がかかってきた。菅谷からだ。
プレゼントを選んでいるハズなのに、なんか用だろう? と思って応答した。
「もしもし?」
『……マドちゃん?』
「な、何……どしたの?」
『……俺に「虫と私、どっちが大事なの」って言って』
「…………は?」
なんだろう、その頭の悪い質問。……いや、本当に何だろう。まぁ、よく分からないけど、無駄に時間を取られるよりはマシかもしれない。
「虫と私、どっちが大事なの?」
『マドちゃん!』
「っ……」
返事は分かっていたはずなのに、何故か嬉しい。まさかこいつ、わざと照れさせるためにそんな問いをしてきたわけじゃないでしょうね、と頭の中で八つ当たりが浮かんだ。
「……何なの?」
『ありがとう。吹っ切れたよ』
「こっちが吹っ切れてないんだけど」
『よし、良いプレゼント探してくるね』
「あ、ちょっ……」
切れてしまった。本当に子供みたいな子だが……まぁ、でもあそこで自分を選択してくれる辺り、やっぱり嬉しい。多分、自分の趣味で虫関係のプレゼントを渡すか、それとも別のを考えるかを考慮した結果、虫関係のものをやめようと決断するための物だったのだろう。正直、ありがたい。
誕生日にもらったヤモリのイヤリングは可愛くてお気に入りだけど、流石に二度続けてその手のアイテムはちょっと、と思ってしまう。
「……まったく、バカ……」
自分のためにそこまで悩んでくれてることに嬉しく思いながら、また別の店を探し始めると、ふとまた良さそうなお店が目に入った。
そこはガラス製品のお店。アクセサリーが並んでいて、ブローチやネックレスが多かった。
お店の前から、中をチラリと覗く。どれも、確かに菅谷には似合いそうだが、やはりあのお店のおっちゃんが言ってた通り、想像してもしっくりこない。少し、大人っぽ過ぎるのだろう。
「……はぁ、なんか面倒臭くなってきた」
そもそもなんで自分がこんなに悩まないといけないのか。そう、何だって良い、何だって良いはずなのだ。だから、まぁある程度、菅谷の喜ぶ顔が見られればそれで十分だ。
そんなわけで、決めた。直感的に、適当にピンとくる奴にしよう、と。まぁ、多少の吟味はするが。
そう強く思った円香は、ツカツカとまたショッピングモール内を歩く。すると、ふと目に入ったのは、ピアスのお店だった。
「……」
あそこ、もしかして……と思い、中に入る。やはり、透に菅谷がピアスを買ったお店だ。同じものだけど色違いがある。
何だかちょっとだけ不思議な感覚だった。知り合いが知り合いに送った物が売ってるお店を見つけてしまうのは。
まぁ、菅谷の両耳はもう埋まってるし、あまり用はないかな……と、思っていると、ふと一つのピアスが目を引く。シンプルな白い丸のピアス……なのに、何故かやたらと目を引いた。
……これは、もしかして似合うのではないだろうか? 透に。
「……良いかも」
何が良いって、片耳だけで販売されている事だ。透の耳は半分、埋まっているが、もう半分に付けられるのではないだろうか?
……いや、何なら、自分の分も買ってしまおうか。三人でお揃いの耳というのも良いかもしれない。
「すみません」
買った。片耳ずつを二つ。箱を鞄の中にしまい、一仕事終えた顔でお店から出た。
お店から出てしばらく歩いたあと、ふっと円香は俯き、自嘲気味に笑みを浮かべた。……結局、幼馴染のバカよりも、お金持ちのバカの方が手間掛かるな、と……。
×××
菅谷は同じショッピングモールに来ていた。場所はたまたま見かけた模型屋。そのレジに置いてある一番くじの棚だ。
「しまった……今日発売日か……!」
昆虫の。これには流石に度肝を抜かれてしまった。超引きたい。コンプしたい。しかし、今日は二人の誕プレを買いに来た日。時間とお金の無駄遣いは避けなければならない。
「っ……ぐっ、い、一回だけか……⁉︎ いや……絶対に外したらもっと引きたくなる……これでもし、マドちゃんととおるんへのクリプレが、このスズメバチのハンカチとかになったら……」
嫌われる、間違いなく。もう嫌われる自信がある。特に円香から。
……ダメだ。このままだと、引かなかったことを未練がましくだらだら引きずりそうだ。今度、引けば良い事なのに。
とりあえず吹っ切る為、円香に電話をすることにした。
『もしもし?』
「……マドちゃん?」
『な、何……どしたの?』
「……俺に『虫と私、どっちが大事なの』って言って」
『…………は?』
意味わからないって反応だ。そりゃそうだが、とりあえず形だけでも聞かれることが大事だった。
『虫と私、どっちが大事なの?』
「マドちゃん!」
『っ……』
「……」
言ってから少し恥ずかしくなった。自分は何をしているのかと。……いや、少しどころか普通にかなり恥ずかしい。
ちょっと電話してるのも恥ずかしく思えてきたので、勢いで乗り切ることにした。
『……何なの?』
「ありがとう。吹っ切れたよ」
『こっちが吹っ切れてないんだけど』
「よし、良いプレゼント探してくるね」
『あ、ちょっ……』
切って、恥ずかしさを拭うように歩き始めた。
さて、改めてプレゼントを考える。円香と透に渡すものは同じものにするか、それとも別のものにするか。
顎に手を当てて、考え込みながら歩いていると、ふと目に入ったのは……本屋だった。
「……あれ、今日って……」
何となく嫌な予感がして、中に入る。早足でスイスイと進み、見かけた先にあったのは……「冬眠する動物図鑑(小○館)」だった。
「し、しまったああああ!」
客の視線が一斉に集まるのも無視して、菅谷は顔を両手で覆う。これも今日発売日だった。知識よりも、動物の寝顔がアップになった写真が掲載されているため、写真集として欲しかった。
どうする、買ってしまうか? いやしかし、だから買うにしても二人のプレゼントを買ってからだってば。
……でも読みたい。寝てる動物を見て、ほっこりしたい……。
いや、だから、これで二人のプレゼント良いのあったのにお金足りないとかなったらどうするの。泊まりなのに会わせる顔なくなっちゃうよ。
「クソっ……かくなる上は……!」
スマホを取り出し、透に電話を掛けた。1コール、2コール、3コール……あれ、出れないのかな? なんて思ったのも束の間、応答があった。
『ふぁい……へっきし!』
「あ、とおるん。……寝てた?』
『寝てないけど……ふわああ』
「……」
寝てたんじゃねえか、と思いつつ、要件を終わらせることにした。
「あのさ『私の寝顔と動物の寝顔、どっちが大事なの』って言って」
『良いけど……え、何それ。どういう事?』
「それで吹っ切れるから」
『え、何が吹っ切れるの?』
なんか急に目が覚めたみたいだが、どうしたのだろうか? まぁよく分からないが、誕プレを買うのが優先だ。
『……言わなきゃ、駄目?』
「駄目」
ハッキリ言うと、少し透にしては歯切れが悪い声音で答えた。
『……わ、私の寝顔と動物の寝顔、どっちが大事なの……?』
「とおるんの寝顔!」
『っ……あ、そう……』
「よし、吹っ切れたよ。ありがと」
『う、うん……』
そのまま電話を切った。よし、吹っ切れた。菅谷はサクサクと歩いて本屋を出て行った。
×××
浅倉透は、ショッピングモールに来たものの、眠気が襲ってきた。お昼ご飯食べたばかりだからだろうか? 普通に眠くなってきた。
プレゼント選びはー……まだ移動時間含めて4時間と20分あるし、少し仮眠を取ってからで良いかもしれない。
と言っても、ぐっすり眠れる場所なんて……と、思いながら歩いていると、マッサージ機を見掛けた。一時間300円らしい。
「……」
先にお昼寝することにした。鞄から財布を出し、ちょうどあった300円を入れて腰を掛ける。
コースは……よく分からないので全身。疲れてないけど。強度は……寝たいし優しめ。
なんて決めながら、瞳を閉じた。
〜20分後〜
ふと、胸ポケットに入れていたスマホが震えた振動で目を覚ました。せっかく安眠してたのに、誰起こしたの……と、思いつつ、とりあえずスマホをポケットから抜いて画面を見ると「LIKA☆」の文字。すぐに文句は消えて出る気になった。
「ふぁい……へっきし」
『あ、とおるん。……寝てた?』
「寝てないけど……ふわああ」
『……』
バレバレの嘘をつきながら、透は目をかきながら返事を待つ。
しかし、今日は何だかやたらと冷える。特に下半身が。
『あのさ「私の寝顔と動物の寝顔、どっちが大事なの」って言って』
「良いけど……」
……ん? 寝顔? と、小首を傾げる。まさか見られてる? と、辺りを見回すが、菅谷の姿は見えない。
「え、何それ。どういう事?」
『それで吹っ切れるから』
「え、何が吹っ切れるの?」
それは本当に意味が……え、まさか……今晩のお泊まりの時、何かするつもりだろうか? いやしかし何で動物……いや、まさかこの前のペットごっこの時、なんだかんだ楽しそうにしていたし……まさか、何かに目覚めさせた……?
え、でも初体験であんな特殊なプレイは……。
「……言わなきゃ、駄目?」
『駄目』
容赦がない返事……と、透は頬を赤く染める。
「……わ、私の寝顔と動物の寝顔、どっちが大事なの……?」
『とおるんの寝顔!』
「っ……あ、そう……」
こ、この野郎……マジで何買う気なの? 犬耳か猫耳……は家にあるので、尻尾か首輪か……両方か。
『よし、吹っ切れたよ。ありがと』
「う、うん……」
考えている間に、電話は切られてしまった。まさか、まさかまさかまさか……とうとうその気に? それならせめて菅谷の鞘にして欲しいところだ。
羞恥心から顔が赤く染まり、項垂れるように肩を落とす。……いや、まぁ望む所ではある。そうだ、今のうちに自分は自分でやれることをしよう。
……たとえば、その……何? 避妊具を買うとか? それを決めて、透は席を立った。もう眠気なんかない。まだ時間が余っているが、さっさと店内を見て回る事にした。いつの間にか握り込んでいた鞄を持って、歩き始めた。
でも……その、何? ゴムがどんなお店に売っているのか知らない。……円香なら知っているだろうか? あの割と備えあれば憂いなしタイプの幼馴染なら、以前の風邪の時から備えている理由も十分ある。
「……」
そうだ、その手の行為をするなら、どうせ円香も一緒にやるし、報告するついでに、聞いてもらった方が良い。
そう思い、円香に電話を掛けた。流石、二人の保護者。1コールで出た。
『もしもし?』
「あ……樋口。あのさ、避妊具って……へくしっ」
『風邪?』
「や、なんでもない。どこに売ってるか分かる?」
『待って。あんた何渡そうとしてんの?』
速攻で止めが入った。当たり前だ。
「え……だ、だって……リカがそういうのしたいって……」
『は……? う、嘘でしょ……?』
「嘘じゃ、ない……」
少しずつ言ってる内容が恥ずかしくなり、透の口調は少しずつ弱々しくなっていく。
『……まず、何があったのか、一から説明して』
「え? いや……あー、うん」
まぁ、あの菅谷の事だ。また別の意図があっての発言かもしれない。
事の顛末を説明すると、円香がすごく呆れたようにため息を漏らした。
『……あんた、バカでしょ』
「え、なんで」
『ちょうどさっき、本屋にいたんだけど……今日発売の本でこんなのあった。「冬眠する動物図鑑(小○館)」』
「……」
『つまり、これ……誕プレ買いに来たのにこれ欲しくなったから、煩悩打ち払っただけじゃない? 煩悩まみれなの、浅倉だったわけだけど』
クリティカルヒットした。羞恥心から、顔が真っ赤に染まり、それと共に紛らわしい言い方してきたバカに殺意が芽生える。
「……ごめん。落ち着いた」
『ん。じゃ、いつまでも寝てないでちゃんとプレゼント買うように』
「え、なんで知ってるの?」
『さっき前、通り掛かった』
「……」
『ヨダレ垂れてた』
「嘘」
『じゃ、後で』
「ちょっ、待っ……へくちっ!」
電話を切られてしまった。痛烈に恥ずかしい思いをしてしまったことに、少しだけ後悔しつつ、とりあえずプレゼント探しを始めた。
×××
樋口円香は、菅谷のプレゼントを探すため、のんびりと歩いていた。しかし……難しいものだ。中々、こう……ピンと来るものがない。透の方がすんなりと決まったのは、透の事の方が菅谷より詳しく知っているからかもしれない。
どうやってプレゼントを探すものか……なんて考えていると、前から走って来る大学生くらいの男と肩がぶつかった。
「いった……!」
「あ、すんません」
茶髪のチャラチャラした男。店内を走り回るんじゃない、と思ったものの走ってさっさとどこかへ行ってしまう。
割と、ガキっぽい男は多いのかもしれないが、菅谷はああいうガキっぽさじゃなくて良かった、とホッと胸を撫で下ろしながら歩いていると、見覚えのある奴がマッサージチェアで寝ているのが目に入った。
「……くかー」
……同じとこでプレゼント買いに来てたんだ、と思いつつ、とりあえず気持ちよさそうに寝ているので起こすことはしなかった。でも寝顔だけ写真を撮っておいた。涎を垂らしているのは割とレアだ。
その写真を雛菜と小糸と菅谷に拡散しながら、とりあえず横に置いてある鞄は盗まれないように、透の手の中に握り込ませておいた。
その直後、すぐに連絡が来た。
ひなな〜♡『めっちゃ寝てる〜涎垂れてる〜』
福丸小糸『それどこで寝てるの……?』
LIKA☆『めっちゃ可愛い。涎垂れてる。やっぱ俺よりとおるんのが弟っぽい』
……三者三様のお答えだが、とりあえず適当に返事だけして……と、思った時だ。
ふと、菅谷に合いそうなものが浮かんだ。それはつまり……ちょっとバカっぽいものだ。見ての通り、学力が生活に活かされない(理科系科目以外)バカ丸出しの菅谷なので、そういうのが似合うかもしれない。
そう思って、本屋に来てみた。円香自身はその手のアクセサリーやファッションに詳しくないので、一度調べてみようと思ったからだ。
さて早速、雑誌コーナーに向かおうとすると、ふと目に入ったのは新刊の図鑑。
「……」
冬眠する動物図鑑(小○館)、本日発売らしい。菅谷が好きそうなものだが……これは絶対に渡さない、と強く決めた。
そんなのは無視して、雑誌を見て回っていると……ふと目に入ったのは、模型の雑誌だった。
こういうのもありかもしれない。この前、三人でガンダム見たし、こう……ガンダム関係のものでも良いのかもしれない。
そう決めて、模型屋に行ってみることにした。せっかくなので色々調べながらいこうと思い、スマホを取り出した時だ。透から電話だ。どうやら、目を覚ましたらしい。
「もしもし?」
『あ……樋口。あのさ、避妊具って……へくしっ』
「風邪?」
『や、なんでもない。どこに売ってるか分かる?』
「待って。あんた何渡そうとしてんの?」
思わずこっちまで頬を赤く染めてしまう。
『え……だ、だって……リカがそういうのしたいって……』
「は……? う、嘘でしょ……?」
『嘘じゃ、ない……』
……いや、落ち着け。どうせ変な勘違いだ。バカとバカのやり取りだ、まず間違いなく下らない話に間違いない。
そう思いつつ、内心では「何で自分にはその誘いがなかったのか」なんて考えながら、透に話を促し、耳を傾けた。
聞くところによると、透に「私の寝顔と動物の寝顔、どっちが大事なの」って言わせたらしい。
……ほんとにくだらない勘違いだった。それどころか、どこかで聞いた覚えすらある。
「……あんた、バカでしょ」
『え、なんで』
紛うことなき本音だった。というか、もうちょっとドキッとさせやがって、と苛立ちも強くなる。
「ちょうどさっき、本屋にいたんだけど……今日発売の本でこんなのあった。『冬眠する動物図鑑(小○館)』」
『……』
「つまり、これ……誕プレ買いに来たのにこれ欲しくなったから、煩悩打ち払っただけじゃない? 煩悩まみれなの、浅倉だったわけだけど」
意地の悪い言い方になってしまったが、まぁ仕方ない。
『……ごめん。落ち着いた』
「ん。じゃ、いつまでも寝てないでちゃんとプレゼント買うように」
『え、なんで知ってるの?』
「さっき前、通り掛かった」
『……』
「ヨダレ垂れてたよ」
『嘘』
「じゃ、後で」
『ちょっ、待っ……へくちっ』
少し意地悪を言いながら電話を切った。全くバカなことでこちらをドギマギさせてくれる。
……避妊具、か……なんて頭に少しよぎる。が、とりあえず購入は控えた。少なくとも、今のあの子じゃ裸を見た時点で鼻血噴出失神病院ルートなので、必要はなさそうだ。
そう強く決めて、模型屋へ歩いた。……というか、なんかやたらとくしゃみしている気がする。やはり風邪だろうか?
のんびりと歩いていると、菅谷が正面から歩いて来た。
「あ、リカ」
「マドちゃん。ちょうど良かった」
「? 何?」
「ちょっとハグさせてくれない?」
「は……⁉︎」
直後、菅谷は両手を広げて正面から抱き締めた。
「っ⁉︎」
「うーん……身長、157センチくらい?」
「な、何を……!」
「いや……もう少し小さいかな。まぁどっちでも変わんないか」
なんか勝手に納得した菅谷は、すっと円香から離れた。
「ありがと。じゃね」
「……」
なんだったのか……と、円香は思いながら自分の身体を抱きつつ、顔を赤らめる。……まぁ、プレゼント関係と思えばムカつきはしないが。
さて、また歩き始め、模型屋の前に到着した。この手の世界観には割とついていけないのだが、それでも菅谷のためと割り切り、中を見て回る。
売っているのはプラモデルやフィギュア。特に、フィギュアは中古のものも売っているようで、透の誕生日にもらった弥生のフィギュアも売っていた。円香も律儀にあのフィギュア、いまだに飾ってある。
そんな中、目に入ったのは、昆虫の一番くじだった。
「……そういうことね」
あのバカが、自分にさっき電話して来た理由がよく分かってしまった。要するに、透と同じ理由だろう。
……まぁ、あの程度でプレゼントを優先してくれたのなら良しとしよう、と思う事にして、自分もプレゼントを探す。
そんな中、ふと目に入ったのは、ザクのマフラーだった。
「っ……!」
つい、来てしまった。円香の「菅谷に似合うセンサー」に。確か彼はザクが好きだったハズ。そして、そのザクのモノアイをデザインした黒を緑で挟んだ横長の模様。黒い部分の真ん中にはピンク色のモノアイ……このバカっぽさと、色合い的な落ち着きの良さは間違いなく菅谷に似合う。
……でも、これで良いのか、女子高生樋口円香。仮にも好きな人にあげるプレゼントがガンダムって……。
「……」
いや、大事なのは「菅谷が喜ぶか」だ。目を瞑り、覚悟を決めるようにそれを手に取った。
さて、購入を終えた。物珍しそうな目で店員から見られたが「プレゼント用で」の一言で今度は同情的な目になられた。違う、別に嫌々買わされてるわけではない。
とりあえず、一仕事終えた気分でお店を出て、小さく伸びをした。
これからどうするか……一足先に透の家に帰っても良いが、しばらく暇潰しに施設内を見て回ることにした。
そんな時だった。幼馴染から電話がかかって来た。
「もしもし?」
『あー……樋口?』
「何?」
『どうしよう。リカ、死んじゃったかも』
「……は?」
何があったのかわからないが、とにかく走ることにした。どうして他二人はいつもいつも目を離すと事件に発展するのだろうか?