12月31日。ようやく煩わしい忘年会などから解放された菅谷は、のんびりと伸びをしながら実家のコタツに籠る。
三人のグループトークルームに、久しぶりのメッセージを送った。
LIKA☆『こんばんは』
LIKA☆『起きてる?』
その直後だ。ヴーッヴーッと二回、スマホが震える。しかし、トークルームを開いたままの時は、スマホは震えない。
つまり、二人以外からのメッセージになる……と、思い、トークルームを選ぶ画面に戻った。
「?」
不思議なことに、円香と透、個別のルームでメッセージが届いていた。
マドちゃん『起きてる』
とおるん『起きてるよー』
……なんで別々で? と、片眉を上げる。しかし、全く同じタイミングで送れるものだ、もしかしたら一緒にいるのかな? なんて思ってしまう程のタイミングだった。
とりあえず、グループチェインにそのままメッセージを流した。
LIKA☆『なんで個別でメッセージ?』
LIKA☆『何かのドッキリ?』
しかし、二人は相変わらず別のメッセージで流して来る。
マドちゃん『は? 何が?』
とおるん『ん、なんとなく』
理由をはっきり言わないあたり、深刻だなと菅谷はすぐにピンと来た。
とりあえず、二人に自分も個別でメッセージを送信した。まずは、上の欄に来た円香から。
LIKA☆『何かあった?』
続いて、すぐに戻って透のトークルームに戻り、メッセージを送る。
LIKA☆『何かあったの?』
すると、円香からすぐに返信が来たのか、ヴーッと震える。
マドちゃん『別に何もない。気にしなくて良い』
LIKA☆『いや何もないことないでしょ。気にしないのも無理だよ』
それを返事した直後、今度は透から返事が来た。
とおるん『喧嘩した。樋口と』
LIKA☆『え、何があったの?』
すぐに脳を切り替える。ホント、幼馴染でなんでここまで反応が違うのか気になるところだ。
……が、気になっても気にする余裕もなく円香から返事のバイブが来た。
マドちゃん『あんたには関係ないから』
マドちゃん『それより、そっちは平気だったの? 色々と』
LIKA☆『平気だったけど平気じゃなくなったよ』
LIKA☆『関係ない事ないから』
なんで一々、そうやって素直に話さないで話を逸らそうとするのか。もう透から喧嘩したと裏は取れてるし、確認する必要が……あ、また透から返事が来た。
すぐにトークルームを戻って内容を確認する。
とおるん『ちょっと意地の張り合いになって』
とおるん『三日くらい喋ってない』
LIKA☆『え、なんでそんなに……』
とはいえ、意地の張り合いになったのならば、もう原因は割とどうでも良いのかもしれない。
なら、普通に謝れば良いことでは……と、思ったが、それが出来ないから意地の張り合いになっているのだろう。
どうやって解決しようか考えていると、またすぐに円香から返事が来て、脳内を切り替える。……なんの話してたっけ? と、ログを見ながら、新着メッセージも覗く。
マドちゃん『ないでしょ。関係なんて。あんたはそっちにいるんだから』
LIKA☆『何それ。別々の場所にいれば無関係とか、そんな薄い縁だったの、俺達』
少しイラッとして、棘のある返しをしてしまった。慌てて自分を落ち着かせて続きを送る。
LIKA☆『マドちゃんが三人でいられるようにしてくれてるみたいに、俺も三人でいられるように手を尽くしたいから』
LIKA☆『だからそんな事言わないで』
ふぅ、と少しため息。透と円香の喧嘩を仲裁するのに、自分まで喧嘩腰になってどうするのか、と落ち着かせる。
……と、透から返事が来た。落ち着きと一緒に、そっちとどんな会話してたか思い出した。
とおるん『部屋の掃除を手伝ってもらったのに、少し嫌な態度とっただけ』
とおるん『そのうち仲直りできると思ってたんだけど、機会がなくて話せなかった』
そういうものなのだろうか? と、二人以外に友達はいなくて、その上で拳で語る以外の喧嘩をした事もない菅谷は、どうしたら良いのか考える。
とりあえず……素直になれば良いのでは……いや、だから意地の張り合いみたくなってるのなら、それは無理だ。
素直にさせるしかない。……つまり。
LIKA☆『じゃあ、冬休みの間、俺が戻るまでずっとそのままで良いの?』
LIKA☆『市川と福丸の合格祈願に、四人で初詣行くんでしょ?』
それだけ送った後で、円香からまたメッセージが届く。……二人同時にチェインでやり取りするの、思ったより大変だ。
さっき何を話して……そうだ。ちょっと言いたいこと言ってしまった後だ。
マドちゃん『声聞きたい』
「えっ」
ちょっ、透とも今やり取りしてるからそれは難しい……と、思っていると、透からもすぐにメッセージが届いた。
とおるん『構って』
とおるん『電話したい』
お前もかよ! と頭の中で焦る。正直、菅谷も声は聞きたいが、二人いっぺんに一人で電話するのは……いや、やる前から無理だと諦めるのは違う。何せ、ここは実家。家電話もあるのだから。
LIKA☆『ちょっと待ってて』
二人にそのメッセージを送ると、部屋を出てリビングに向かった。家電話の前に立つと、右耳にスマホ、左耳に電話の受話器を当てて、二人に電話をかけた。
『あ、リカ?』
『もしもし』
「もしもし、菅谷だけど」
『……何この番号?』
「実家のだよ」
『実家? あ、今?』
「そう」
会話に齟齬が起こらないよう返事をしつつ、頭の中で「自分は聖徳太子……」と言い聞かせる。
「で、どうしたの?」
『どうしたら良いの?』
『確かに、このままは嫌だなって』
二人の言葉は確かに聞こえた。さて、二人に対してどうやって返事をしたものか。さっきみたいな会話を続ければ、いずれ二人同時に会話をしている事がバレる。
「なら、簡単でしょ。とりあえず、今まで通り一緒にいなよ」
『え、なんで?』
『どういう事?』
小首を傾げているであろう二人に、続けて菅谷は言った。
「三日間も口聞いてないから解決してないだけだから。二人で何かしても良いし、何もしなくても良いし、いつもみたいに言いたいこと言ってれば良いじゃん。とおるんとマドちゃんなら、それでなんとかなるよ」
『……』
『……』
割と本気で思ったことを言った。幼稚園から一緒なら、喧嘩だってそれなりにしてきただろう。今更になって他人にどうこうしてもらうより、自分達で話あってくれた方が絶対に良い、と思った。
すると、スマホに連絡が届く。グループチェインに、二人から連絡が来た。
とおるん『起きてるよ。もうすぐ年末だし』
マドちゃん『リカこそよくよく夜更かし出来てるじゃん』
何事も無かったかのように会話を始める二人。それはそれで結構だが、それなら通話は要らない気がする。
正直、せっかく久しぶりに声が聞けたのだ。このまま切るのは惜しいが、せっかくなので二人で仲直りしてから、改めてグループ通話してもらいたいものだ。
「二人とも、そっちで会話するなら、電話切って良いよね?」
『『二人とも?』』
「あっ……じ、じゃあ仲直りしたらまた電話してね」
半ば、誤魔化すようにそう言って電話を切った。これで、なんとか仲直りしてくれる事を祈るばかりだ。
まぁ、心配ないとは思うが。必要なら自分に電話してくれれば良い。そう思って、しばらく待機した。
×××
今年も残り30分。円香と透はコンビニまで行こうと思い、家を出た。すると、お互いの家からお互いが出てきたものだから、目を丸くする。
「……浅倉」
「樋口……」
「何処行く気?」
「コンビニ。そっちは?」
「……同じ」
「わぉ、超奇遇」
とのことで、二人でコンビニに向かった。言えない、一応謝る為、何かコンビニで買って、それをお詫びのつもりで持っていこうと思ってた、なんて言えない。
「……一緒に行こうよ」
「……んっ」
透に声を掛けられ、円香は従った。二人並んで、のんびりとコンビニに向かう。
「さっき、リカと電話してた?」
「うん。家電に掛けて」
「やっぱり」
「……てことは、そっちもあれに相談したんだ」
「した。……というより、聞かれたから話した」
「ふーん……まぁ、私もしつこかったから話してあげたけど」
一体どのスタンスで話しているのか、と本人がいたら怒られそうな会話だったが、いないので問題ない。
「……ごめん」
「許した。ごめん」
「許した」
「はい、終わり」
「……んっ」
終わった。秒だった。もうあんまりキッカケとか関係なかったので、当たり前と言えば当たり前だが。
「そういえば、結局掃除は終わったわけ?」
「うん。私の部屋、超ピカピカ」
「ふーん……ま、なんでも良いけど」
「ちゃんと飾ってあるよ。樋口とお揃いのピアス」
「あ、そう。そんな高くない奴だけど」
「別に、値段は求めてない」
正直、この歳になるまでずっと一緒にいて、またお揃いみたいな真似をすることになるとは思わなかった。そういうのが再び出来るのは、菅谷という異分子が入ってきたおかげかもしれない。
「ね、樋口」
「何?」
「やっぱ私、樋口のことも大好きだわ」
「っ……な、何急に……」
「ん……いや、リカが実家戻って、樋口とも喧嘩して。なんか……ずっと、暇だったから」
「……リカがいなかったからでしょ」
「そんな事ないよ。夏休みの時は別に寂しくなかったし」
それは正直、まだ好意を自覚する前だからだと……いや、そういうのは無自覚だろうと自覚していようと、寂しさは感じるものだろう。
その時の差は、やはり自分がいたかいないか、ということだろうか? だとしたら……少し気恥ずかしい。なので、話題を変えた。
「……ていうか、ここ数日くらい、何してたの? 暇だったって言うけど」
「掃除。あとはずっとコタツにいた」
「一緒か」
「樋口も?」
「私がダラダラしてたのは31日だけだけど」
透の母親経由で添い寝したことが母親にバレた円香は、父親に黙っててもらうために、大掃除を割と色んな場所、手伝い続けた。
おかげで綺麗にはなったが、円香は割と疲れた。
「ふーん、お疲れ」
「うるさい」
「じゃあ今日はわりとゆっくりできたんだ?」
「出来た。……でも、暇だった」
「一緒じゃん」
菅谷は菅谷で忙しかったのだろう。チェインが来る事はなかった。だから、向こうからチェインが来たさっきはとても嬉しく思ってたりする。
そうこうしているうちに、コンビニに到着した。
「樋口、何食べたい?」
「別に、特にない。……あんたは?」
「私も」
「……なんでもいいから」
「じゃあ、樋口もなんでもいいから言ってよ」
一応、二人とも仲直りは済んだとはいえ、お互いのために食べ物を買いにきたのは変わらない。
そして、今のやり取りでお互いに何をしにきたのか分かってしまった。本当に分かりやすい幼馴染である。
そんなわけで、まずは透が食べたいものを言った。
「じゃ、私は肉まん」
「この時間から?」
「大丈夫でしょ、一日くらい」
「年明けにリカとあって『とおるんって……そんなだった?』って言われても知らないから」
「大丈夫でしょ。そんなん言われたらとっちめるし」
「あっそ」
菅谷が大丈夫ではなさそうだが、円香はスルーする。菅谷がどうなっても知ったことではない。
「樋口は何食べる?」
「……ピザまん」
「私より太る奴じゃん、それ」
「うるさい」
話しながら、お互いに買うものを購入した。コンビニを出ると、そのまんじゅうをお互いに交換する。
「はい。お詫び」
「なんの茶番?」
「自分だって買ってるくせに」
「……まぁ。こういうのは形が大事でしょ」
「ぐだぐだだけどね」
話ながら、家の前で二人で並んで食べる。ハムっと頬張り、咀嚼した。
「美味し」
「……こういうのも、たまには良いかも」
「うん。暖まるね」
「それは微妙」
「あれ」
何せ、見上げれば真っ暗な冬空だ。雲がちらほら見えるが、それは寒さに拍車をかけるだけなのだから、なおさらだ。
「……来年も、一緒にいようね」
「リカも入れて三人で?」
「うん。……あ、やっぱ五人?」
「雛菜と小糸も?」
「いた方が良いでしょ。リカと仲良くするのは許されないけど」
「……まぁそうだけど。でも、雛菜とか絶対言うこと聞かないと思うけど」
「平気でしょ」
「あんただけならまだしも、私も一緒だし」
「え? 樋口と雛菜、仲良いじゃん」
「……」
もう訂正するのもやめた。どこをどう見たら仲よく見えるのだろうか?
「小糸ちゃんの方が強敵になるんじゃない?」
「何処が? 小糸は平気でしょ」
「いや、ペットっぽいから。なんかの間違いで猫耳か犬耳がついた時には」
「……つけなきゃ問題ないから。絶対につけないで。つけるなら私の前だけにして」
正直、見たい円香だった。
さて、そうこうしている間に食べ終えてしまった。ゴミをくしゃっとまとめて、二人とも各々のポケットにしまう。
それと同時に、ポケットからスマホを取り出す。菅谷からメッセージが来ていた。
LIKA☆『仲直りしたー?』
LIKA☆『したら教えてー』
LIKA☆『久々に声が聞けて嬉しかったからー』
自分達で解決させた割に、かなり気になっているようだ。
電話しても良いのだが、そろそろ普通に寒くなってきた。
「帰るね」
「私も」
「樋口、良いお年を」
「……ん」
それだけ話して、二人は家の中に戻り、電話をする事にした。
×××
さて、それから数日が経過した。菅谷はようやく一人暮らしの地に戻って来る。
荷物を背負って、疲れた顔で自宅に入る。もう昔からとはいえ、やはり正月が一番、疲れるものだ。
もう荷解きする元気もなく、菅谷は手洗いうがいだけして、コタツの中にモゾモゾと入った。
今日は、ここで寝ようかな……なんて思いながら瞳を閉じて、本当に意識を失うまで早かった。
そのまま眠りこけてしまった。
〜12時間経過〜
ふと目を覚ますと、朝になっていた。ちゅんちゅんと鳥が鳴……いているわけではないが、中途半端に開いているカーテンの隙間から日差しが差し込まれ、眩しさが鬱陶しくて意識を取り戻さざるを得ない。
ノロノロと身体を起こし、伸びをしながらコタツから脱する。
「いちち……背中と腰が、痛い……」
身体がなんか固くなった気さえする。というか、何時間寝ていたのだろうか? 昨日、こちらについたのが0時半ごろで……現在は……。
手元にあったリモコンでテレビをつけて時間を見ると、思わずビックリ。
「……え」
1月4日、12:30。寝過ぎた……以前に、だ。昨夜の透と円香とのチェインの内容を思い出す。
とおるん『じゃ、明日は12時に駅前ね』
マドちゃん『遅れたら眼球にデコピンするから』
「……」
既に、30分の遅刻である。それも、昨日風呂にも入らずに家に帰ってきて、速攻寝込んだ体で、だ。控えめに言って大ピンチである。
「やっばああああ!」
まずはスマホを見ると、チェインからメッセージが。
『新着メッセージが62件あります』
つまり、同じ所からの新着が多すぎて表示しきれない時に出るアレである。というか、これは少し送ってきすぎではないだろうか?
ちょっと恐怖を覚えながらも、恐る恐る中を開く。
〜前略〜
マドちゃん『ちょっと。だいぶ時間過ぎてるんですけど』
とおるん『✌︎('ω'✌︎ )(←スタンプ)』
マドちゃん『せめて既読くらいつけたら?』
とおるん『٩( 'ω' )و』
マドちゃん『遅れるなら連絡くらいしてくれない?』
とおるん『(`_´)ゞ』
マドちゃん『分かった。迎えに行ってあげるから』
とおるん『(((o(*゚▽゚*)o)))』
マドちゃん『今、自動ドアの前。開けて』
とおるん『ᕦ(ò_óˇ)ᕤ』
マドちゃん『開けて』
とおるん『W(`0`)W』
マドちゃん『開けて』
とおるん『ε=ε=ε=ε=ε=ε=┌(; ̄◇ ̄)┘』
マドちゃん『開けろ』
とおるん『_| ̄|○』
マドちゃん『有栖川さんに入れてもらったから。上に行くまでに返事なかったらぶっ飛ばす』
とおるん『d( ̄  ̄)』
マドちゃん『もういい。知らない』
とおるん『∑(゚Д゚)』
〜後略〜
ヤバい、と菅谷は冷や汗を流した。激おこである。というか、帰られてしまった可能性さえある。
大慌てで返事をした。
LIKA☆『ごめんごめん。今起きた』
LIKA☆『ごめんなさい。まだいる?』
LIKA☆『ごめんって。お願い、未読無視やめて』
LIKA☆『分かった。お年玉あげるから』
LIKA☆『お年玉って言ってもゲンナマじゃなくて、落としたダイヤモンドの玉』
LIKA☆『嘘嘘、落とした純金の玉』
LIKA☆『分かった。落としたサファイアの玉がついた指輪』
そこまで言って反応がなくて、そろそろ首を括ろうかと思った時だった。返事が来たのは。
ただし、チェインではなくインターホンで。
「げっ」
まさか、いるとは。
慌てて玄関を開けると、何も考えてなさそうな薄い笑みの透と、涙目で拗ね散らかしたような表情の円香が立っていた。
「おはよう、ミスター寝坊助。流石、モテる男は少しくらい女性を待たせても物で釣れば何とかなると考えているようで何よりです」
「イ、イヤ、その……そんなつもりは……す、すみません……」
「何その寝癖だらけの顔と頭。本当に今起きた所でしょ。そんなツラでよく私達の前に顔出せたよね」
「や、そ、それは……」
「まぁ、あなたは社交辞令の渦の中でお疲れだったんだから仕方ないんでしょうけど。見たところ、昨日の夜、何一つ家事をすることなく眠りこけた様子だし、相当お疲れだったんでしょうね」
「う、うん……うん?」
「とにかく、まぁ第一声が謝罪だった事と、まだ疲れが残ってる汚い顔から事情を考慮してあげるから、まずは人前に出れる身なりにしてきて」
「……?」
あ、あれ? なんかこれ、別に怒られてるわけじゃない? と、菅谷は少し困ったように冷や汗をかく。
……というかこれ、なんなら労われてる? 透もなんだか楽しそうにニヤニヤしているし……。
なんてボケっと考えている間に、ジロリと睨みつけた円香が続けて言った。
「早くして」
「あっ、はい! す、すみません……あ、その前に」
「何?」
「あけましておめでとう、とおるん。マドちゃん」
「……ん」
「おめでと」
それだけ言って、とりあえず菅谷はシャワーを浴びに行った。
×××
「あはは、結局新年から何も変わってなかったね」
「笑い事じゃないから」
「ホント、すみませんでした……」
菅谷がシャワーを浴びている間に、円香と透は菅谷の荷物を開け、洗濯物、実家から新しく持ってきた衣類と消耗品などに小分けし、それらをしまい、ついでに朝食も作ってあげていた。ちょうど、ついでに透と円香にとってはお昼にもなるし。
身支度が終わったので、ようやく外出である。ただし、もう時刻は14時近くだが。
「ていうか、そんなに疲れたの?」
「疲れたよ……。もうホント、気を遣って気を遣って気を遣って気を遣って……途中で気を遣うの飽きてグンタイアリの動画見てたら怒られて……」
「自業自得も含まれてるけど」
「うわ……でも、大変だったね」
「いや、大変だったから実際。ほんとに」
「私達との約束すっぽかして寝こけられるくらいだものね」
「や、だから悪かったって……」
そんな話をしているうちに、神社に到着した。三人で鳥居を潜る。
「二人とも、初詣行ったんでしょ? おみくじどうだった?」
「私、大吉」
「私も」
「……れ、恋愛のとこは?」
ソワソワした様子で聞かれ、透と円香は顔を見合わせたあと、真顔なのに意地悪そうな表情になる。
「ん……知りたい?」
円香に聞かれ、菅谷は控えめに頷く。
「人のおみくじ知りたがるとか。やらし」
「ね。人に言ったら叶わないのにね」
「それはお賽銭でしょ」
「あれ、そうだっけ?」
「いやあの……教えてくれないの? 結果」
「別に、あんたが気にするほどのことじゃないから」
「ね」
実の所、二人とも結果には困惑していた。書かれていたのは、円香が「いい加減にしろ」で、透が「あんま長引かせると逆に付き合えなくなるよ」と書かれていた。つまり……なんか、神様に怒られたわけだ。
言われた通り、今年……いや、今年度中に勝負を決めた方が良いのかもしれない、とは思っていた。
「でも……去年の俺のおみくじは大当たりだったからなぁ」
「そうなの?」
「なんて?」
「選ぶ必要はない、って」
「「……ふーん」」
確かに大当たりである。
「ま、ほんとに気にしないで。どうせ近いうち、意味なくなるから」
「うん」
「え、ど、どういう事……?」
「「気にしないで」」
話しながら、三人でお賽銭を済ませる。円香と透は二度目だが、以前は小糸と雛菜の合格祈願をした為、今日はまた「三人でずっと一緒にいられますように」と願った。
「何お願いした?」
「や、だから言ったら叶わなくなるから」
「おみくじで良い恋愛の結果が出ますようにって」
「小さ」
「もうそれ叶わないよね」
「いや嘘だから」
さて、続いてはそのおみくじである。ぶっちゃけ、初詣の楽しみっておみくじだけだったりする菅谷は、ソワソワしながらそれを引いた。
四角の箱から、にゅるっと手を引き抜く。
「どうだった?」
「ちょっと貸して」
「え、まっ……」
菅谷が見る前におみくじを奪われてしまった。二人ともソワソワしながらおみくじの中を眺めた。
中吉。そんなのどうでも良い。それより恋愛の所……あった。
『男は度胸と器量だよ』
なんで神様に勇気づけられているのか、と呆れてしまった。というか、この神社のおみくじ、フランク過ぎない? それとも自分達が引いた奴だけ?
「どうだった?」
「「男は度胸と器量だって」」
「……どういうこと?」
二股に備えろってことだろう。おみくじを返し、菅谷が読んでいる間に円香と透は先に進んだ。
「ほら、帰るよ。リカ」
「え、も、もう?」
「久々に会えたんだし、リカの部屋でダラダラするから」
「リカが疲れてるからって」
「マドちゃん……!」
「……浅倉」
それに感動し、菅谷は慌てて後を追う。三人で並んで帰宅した。そんな中、ふと円香の脳天に当たった軽い感触。手を当てると、指の先端についていたのは、溶けた後の雪だった。
「え……」
「どしたの?」
「雪が……」
「え?」
三人揃って空を見上げる。ちらほらと、大きな埃のような雪が落ちて来るのが目に入った。この勢いは積もりそうだ。
「やばっ、雪じゃん」
「明日、やる? 雪合戦」
「良いね」
子供二人が楽しそうな感想を漏らす中、円香は小さくため息をつく。楽しそうなのは結構だが、雪合戦は普通に嫌だ。このクソ寒い中、何が悲しくて冷たい塊を投げ合わないといけないのか。
「マドちゃんも明日、雪合戦ね?」
「負けたら、罰ゲームだから」
「……」
……でも、二人揃ってにこにこと微笑みながら誘われれば、断る気も失せるというものだ。当日は精々、防御を固めさせてもらおう。
「……まず勝ち負けの判定を教えて」
「お、ノったな?」
「命3個、最初に無くした人の負け」
「意外とシンプル……」
「あっ」
「リカ、どしたの?」
「洗濯物!」
「……なんで今思い出すの」
「じゃ、急ごっか」
「やべー!」
慌てて三人で走って帰った。