浅倉が増えて、樋口のストレスは加速した。   作:バナハロ

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雪の日を嫌って良いのは社会人か休校にならない学校の学生のみ。

 ある日の休日、菅谷はコタツムリだった。昨夜、また新たな雪が降り積り、外は白銀の雪景色。この東京にウサギやキツネ、ホッキョクグマがいるのなら遊びに出るが、いないのならコタツから出る理由はない。

 まぁ、強いて言うなら透や円香の家になら行きたいものだが、二人は自分と違って実家だし、突然お邪魔すると失礼だろう。

 従って、コタツムリである。スヤスヤと寝息を立てたいが、なんとなく寝てる時間が勿体無い気がして、なんとか起きていた。

 そんな中、震えるスマホ。透からだった。

 

「……もしもしー?」

『あ、リカ? 外出てきて』

「やだよ。寒いもん」

『雪合戦やろう』

「聞いてた?」

 

 会話が成り立っているとは思えない返事だった。人の話を聞いていたのだろうか? 

 

「でも良いよ。あそぼっか」

 

 結局そうなった。

 

「待ってて。今、防寒してから降りるね」

『んー』

 

 そんなわけで、すぐに下に降りた。さっきまでコタツムリだったのにすぐ動く辺り、やはり菅谷も透が大好きだった。

 着替え、コートを着込み、円香にもらったマフラーを装備し、財布と家の鍵だけ持って部屋を出た。

 エレベーターに乗って、そのまま一階へ降りる。自動ドアから出て、マンションから出て行った直後だった。

 

「とおるぶっ!」

「いえーい、ヘッドショット」

「……」

 

 顔を見る前に顔を汚された。こうなっちゃった以上、菅谷もヒートアップするしかない。

 無言のままその辺から雪を拾い、丸め、そして透へ目を向けた。

 

「分かったよ……開戦の狼煙ね?」

「え……ま」

 

 直後、顔面に雪玉が発砲された。透に直撃し、後ろに怯む。

 

「やったなー……!」

「先やったのそっち」

 

 そのまま開幕雪合戦が開催された。二人揃って真冬に汗かくまで雪玉を投げ合う。

 透の連続攻撃を、菅谷は引くほどの反射神経と瞬発力で回避し続け、その後でカウンターを放つように雪玉を放る。それを透はギリで回避しつつ、また連続で投げ返した。

 手数は透の方が多かったが、精度は菅谷の方が高かった。

 そんな時だった。

 

「わっ」

 

 菅谷の一撃を避けた透が、足元を滑らせて転びそうになった。それに伴い、菅谷は超速で距離を詰めて手を繋ぎ、なんとか転ばさないように支え、自身の元に引き込んだ。

 直後、透は手を繋いだままクルクルと回り、菅谷の胸前に身を預ける。背中を逸らし、菅谷と顔を見合わせた後、二人で手を繋いで、少しだけ凍っている道路の上で二人で回りながら踊り始めた。

 クルクルと回り、回り、回り……回るしか知らない二人はとにかく回り、途中で力なく動きを止めた。

 

「……酔った」

「それな……」

「ていうか……なんで途中からスケート?」

「とおるんが回りながら来るから……」

 

 二人揃ってバカだった。そこで、ツッコミがないことに気がついた菅谷が、三半規管を整えながら聞いた。

 

「……てか、マドちゃんは?」

「家。雪の日は外出たくないって……」

「なんで?」

「雪合戦になる気配がするからだって」

 

 その第六感、正確にも程があった。

 

「で、だ。リカ」

「何?」

「樋口に、めっちゃかまちょしない?」

「……」

 

 それを聞いて菅谷は親指を立てた。

 

「よし、行こう」

「うん」

 

 そんなわけで、二人ですぐに円香の家に向かった。

 

 ×××

 

 円香は、リビングでコタツムリしていた。今日は寒い。雪が昨晩、新たに降り積もってくれたおかげで、行動力が消滅した。

 たまには、バカとバカのお世話から離れて、ゆっくりとこうして休息するのも悪くない……なんて自堕落を正当化しながら、とにかくぬくぬくしている時だった。

 スマホが震えた。バカ(♂)からの電話だ。流石に無視は気が引けたので、仕方なく応対する。

 

「……もしもし」

『お前の可愛い彼氏は預かった』

 

 低い声を作っているが、幼馴染の声を聞き間違える事はない。すぐにバカ(♀)である事を理解した。

 

『返して欲しければ、我々と雪合戦を』

 

 そこで切った。付き合いきれないし、だらだらしたい。そう思って目を閉じた時だ。またスマホが鳴り響いた。顔を向けると、写真が送られてきた。雪の中に大の字で寝転び、そこに向かってビームライフル型の水鉄砲を構えている透の姿があった。

 

「やっちゃってどうぞ」

 

 そう言いつつ、返信もしないで保存だけして、再び目を閉じる。とにかく、今は相手にしない事だ。

 そう思ったのだが、さらに写真が届く。開くと、菅谷がその向けられているライフルに対し、起き上がりながら回避する仕草を見せている。透はカメラ目線のまま……つまり、油断している。

 

「……」

 

 すると、すぐにまた写真が来た。中腰のまま、余所見している透に構えをとっている。

 危ない、後ろだ後ろ。戦闘中に油断するな……というか、だからツッコミを入れるな、自分。こんなの無視が一番なのだから。

 なんて思っていると、また写真が来た。今度は、菅谷が後ろから透を抱き締めている……というより、捉えている様子だ。腕ごと押さえているので、ライフルの銃口も下に向けられてしまっている。

 言わんこっちゃない……と、思ったのも束の間、だからコメントを頭に思い浮かべるな、と自分に怒る。

 その後、また写真が来た。今度は、菅谷が透を持ち上げていた。割と高くまで持ち上げるのは結構だが、ミニスカートがめくれてパンツが見えている。これは後で透に送ってやろう……と、思いつつ、手に汗握る展開に、少しだけ夢中になってしまっていた。

 

「っ……て、いやだから……!」

 

 何を少し胸熱になっているのか。今日は本当にだらけると決めたのだ。なんならこのまま眠りこけてやろうかと思いつつも、すでに眠気なんて無いことに気づかないでいると、また写真が来た。

 二人揃ってひっくり返っている。透の抵抗により、自爆させてバックドロップを回避した後のような状況。代わりに、お陰で透の手からライフルは離れている。

 すぐに次の写真が来た。

 今度は、二人とも距離を置くために雪の上で真逆の方向にローリングして受け身を取っている。そして、偶然か必然か、ライフルは二人の真ん中に落ちている。

 

「っ……」

 

 先が見えたとはいえ、円香はゴクリと唾を飲み込む。なんで紙芝居を見せられているのか、とか考えなくなった。

 次の写真は、透のみ。姿勢を低くしたまま構え、不敵に笑っている。

 その次は、菅谷のみ。同じように低い姿勢を保って、同じように笑みを浮かべる。

 そして、次の写真。二人ともライフルに向かって走り出した。次で決着が決まる……そう思った直後、新たなチェインが届いた。

 

 LIKA☆『続きは外で!』

 

 メキッとスマホの画面に亀裂が走るほど握りしめてしまった。こいつら……大概にしろよ、と。どんだけ自分を巻き込んでまで遊びたいんだ、と。

 というかこれ、2人とも写ってるけど誰が撮っているのか……と思っていると、またメッセージが来た。

 

 LIKA☆『撮影協力:とおるんママ』

 

 なんて良いタイミングで送ってくるのか。ていうかこれ、後ろの背景、浅倉家の真前でなく、自分の家の前だ。ご近所さんの目があるからやめてもらいたい。

 とにかく、無視だ無視。一々、反応なんてしていたら、本当に外に出て遊ぶハメになる。

 そう決めて、スマホを放置した。

 その時だった。コタツがあるリビングにある出窓から見える庭、そこの端っこから、ムーンウォークをしながら現れる愚弟。無駄に上手いのが腹立つ。

 

「……なんでそんな元気なの……」

 

 今度は何……と、思っていると、その後に続いて透が現れる。声は聞こえないが、二人ともやたらと楽しそうにダンスを舞っている。それこそ「何処かで御経験でもあったんですか?」と聞きたくなるほどだ。

 すると、なんか聞き覚えがある曲が流れてきた。いや、窓を閉めているから、大音量でスマホから流している音楽が、うっすらと耳に届いているというだけだが。具体的には、砂糖の歌と苦い足踏み。

 そして、菅谷が右端でポケットに手を入れ、軽くステップを膝で踏み始めた。

 その後、今度は左端で透が踊る。ポケットに手を突っ込んだまま、身体を揺らして踊る。

 その後、今度は菅谷が指を鳴らしながらリズムを取る……などと、無駄にクオリティ高くダンスは進んだ。

 やがて、サビに入る。二人が腕を組んで歩きながら足を上げ始めた時点で、ウザくなった円香は渋々、コタツから出た。

 そして、モソモソと二人の方へ歩く。それに気づいた二人が、窓の外で円香を出迎えるように両腕を広げた直後だった。

 

「不法侵入」

 

 言いながら、カーテンを閉めた。こいつら、ホントいい加減にしてほしい。

 こうなったら、とことんだらけてやる。そう強く決め、コタツから出たのを機に部屋に戻った。

 こうなったら、もうお布団に入るしかない。いや、まぁ正直、少し楽しそうだな、と思わないでもないが、ここまで意地でも外に連れ出そうとされると、逆にこちらも意地を張りたくなる。

 なんとなく、天照大御神の気持ちを理解できた気がした円香は、スマホを持ってぬくぬくと暖まった。

 ……次はどんな手を使ってくるのかなー、なんてちょっぴり楽しみになっている時だった。

 スマホが震える。また次の手段? と思い、画面を見ると、小首を傾げてしまった。

 何故なら、クラピカの「命をかける」というセリフがあるコマの写真だったからだ。

 

「? ……ーッ⁉︎」

 

 何の話? と、思った直後だ。ズンッッッと、やたらと大きな重低音が聞こえた。というか、ベランダに小さな隕石でも落ちてきたかのような衝撃だ。

 慌てて布団から出てベランダの窓を開けると、菅谷が透の家のベランダから、こちらに飛び越えてきたかのように立っているのが見えた。

 

「……何してんの」

「遊びに来たよ」

「リカー、次私行くから、ちゃんと受け止めてー」

「良いよー」

「ダメに決まってんでしょ! 分かった、開けるから玄関から来て!」

 

 早くも折れるしかなかった。

 

 ×××

 

 さて、そんなわけで、身を折った脅迫によって円香はようやく外へ……とはならなかった。

 その前に、まずは二人とも説教である。

 

「とにかく、次にベランダとベランダを渡るような真似したら、ホント許さないから」

「「すみませんでした」」

「よし」

 

 怒られたので、二人とも素直に頷いた。自業自得である。

 さて、そんなわけで、改めて外での遊びである。三人揃って着込んで表へ出た。

 

「で、何するの?」

「わっせろーい!」

「あぶなっ⁉︎」

 

 怒られた直後とは思えない掛け声と量の雪を、円香の顔面に散らかされた。

 

「ちょっと、危ないんだけど……」

「第二波」

 

 今度は当たった。透の一撃が。顔面に。

 

「はい、これで樋口の命、残り二個ね。私、1ポイント」

「一番ポイント少ない人が罰ゲームで、この後ラーメン奢り」

「良いね」

 

 人に意見を聞かず、人を勝手に家から連れ出し、人にいきなり顔面に雪をぶつけ、競技開始をルール説明の前に宣言する……流石に円香も殺る気が出るというものだ。

 

「……分かった。じゃあ、本気で行くから」

「良いね、マドちゃん。やるならカモッ、カモッぶへっ!」

 

 一撃で顔面をクールに狙われ、鼻の中を上った。あまりの威力と唐突な呼吸困難に、思わずひっくり返ってしまう。

 というか、単純に威力と速度もエグかった。ここバッティングセンターだっけ? と、透が思う程だ。

 

「カモンって言うから行ったのに。ま、これで1ポイント」

「樋口、協力しよう。リカを集中狙いで。報酬はリカからのラーメン奢りで。実はさっきまでのかまちょも全部、リカから助力を求められました」

 

 秒で裏切る透だった。しかし、残念ながらそれをやるには、透も目立ち過ぎた。

 

「で?」

「え?」

「分かってないみたいだから言い直す。ボコボコにした上にラーメンも奢ってもらうから」

「待って、降さ……んっ!」

 

 結局、雪玉を浴びた。透も同じように菅谷とひっくり返る。すぐに分かった。本気の円香を倒すには、共闘するしかない、と言うことを。

 その円香は、ラスボスのオーラを放ちながら、指をゴキゴキと鳴らして二人の方へ歩み寄る。

 

「ほら、続き」

「とおるん……」

「うん、分かってる」

「よし、じゃあここは……!」

「一時、共闘で」

 

 そう言って、透が雪玉を持って走り出し、円香もそれに応じるよう、雪玉を構えた直後だった。

 ぽすっ、と優しく背中に何か当たる感覚。振り返ると、菅谷が雪玉を投げていた。

 

「……へ?」

「いや、さっき嘘ついて人を売ろうとしてたのムカつく」

「や、あれは不可抗力でぶへっ!」

「はい、浅倉アウト」

 

 円香の一撃が、透の額を穿ち、終わった。

 さて、残りは菅谷と円香。正直、菅谷はもう勝ち負けなんてどうでも良かった。何せ後一回、円香に当てれば2ポイントで透の奢りになるから。

 

「よし、やろっか」

「ん……覚悟して」

 

 そのまま戦闘が始まった。

 

 ×××

 

 結局、透の奢りにな……ると思いきや、覚醒した円香の前に手も足も出せず、1ポイントも取れないまま負けてしまった。

 そんなわけで、二人で円香の分を半額ずつ出す事になり、とりあえず雪遊びである。

 

「リカー、大きいの出来たよー」

「はいはい。こっちも行くよ」

 

 言いながら、菅谷が胸前に抱えて大きな雪玉を持って来た。が、それはどう見ても菅谷の上半身を隠すほどの大きさを誇っている。

 

「……いや、大き過ぎない?」

「そう? 土台どこ?」

「もう少し前」

 

 円香のツッコミをスルーして、透が誘導する。

 

「枝とか用意した?」

「出来てる。後あんたの頭を乗せて足と枝詰めるだけ」

「え、俺の頭に……?」

「いやそうじゃなくて。良いからもう少し前」

「この辺……あっ」

 

 直後、菅谷は足を滑らせた。思いっきり転んで、でっかい雪玉を持ったまま前に置かれている土台に突っ込んだ。雪玉は二つとも粉々に四散した。

 

「……」

「……」

「いってぇ〜……あ」

「……リカ」

「あーあ……」

「へぶしっ」

 

 結局、雪だるまは諦めた。

 

 ×××

 

 さて、一通り遊び尽くし、三人はラーメンの前に円香の家に引き返した。と、言うのも、バカ二人は割と雪の上で転がったりしていたので、このままでは風邪を引くかもしれないからだ。

 透は自宅で準備。菅谷は円香の家のシャワーを浴びて身体から雪や汚れを流し、私服は円香が誰のためにどんな事を想定して用意したのか知らないが、偶然あった男性用のスエットとTシャツとトレーナーを着込んだ。不思議だね。

 

「いやー、マドちゃんの服の趣味すごいね。意外とメンズ服とか着るんだ。もしかしてパジャマ用?」

「死ねば?」

「え、ひどい」

「こういう時のためでしょ」

「……あ、あー……え、なんで俺の服のサイズ知ってるの?」

「誰があんたの洗濯物干したりしてたの?」

「……」

 

 なるほど、と頭の中で理解する。それと同時に、どこまで準備が良いのか、と少し嬉しい反面、気恥ずかしくなるが。

 

「あ、ありがと……」

「別に」

 

 お礼を言いながら、外に出た。家の前では、既に透が待機していた。

 

「お待たせ」

「ううん。リカ、着替え持って来てたの?」

「いや、マドちゃんがこう言う時のために用意しといてくれたみたい」

「……行くよ」

「ほんとにお姉ちゃんじゃん」

「ね」

「うるさい」

 

 本当に口が減らない二人だ。切実にムカつく。

 早速、と言うように透がまず聞いた。

 

「何ラーメンにする?」

「あんまこってりしたのは嫌」

「マドちゃんが勝ったんだから、マドちゃんが選んで」

「勝ったって言うか、蹂躙された感覚だけど……というか、私はリカに背中刺されたし」

「自業自得でしょ」

「ごめんって。今思えば大人げ無かったよ。替え玉ならとおるんも食べて良いから」

「マジ? ラッキー」

 

 こういうとこ、菅谷は甘い気がする。とはいえ、まぁラーメンまるまる一杯ではないのでスルーするが。

 それ以上に気になる点があったので、そこを口にした。

 

「替え玉って言ってる時点で博多確定になってるでしょ」

「じゃあ、サイドでも良いよ。餃子とかチャーハンとか」

「チャーハンは太るからなぁ……餃子で」

「浅倉、リカの前で餃子食べて良いの?」

「なんで?」

「口臭」

「……あー」

 

 それは確かに困るかもしれない。

 

「? 好きなの食べれば良いじゃん」

「いや、だからニンニクとニラを混ぜたものなんて食べたら、気になるでしょ」

「大丈夫だよ。俺はとおるんが例え毒ガスを撒き散らかす超生物になっても、ずっと好きでいるから」

「何言ってんの?」

「ブッ飛ばすよ」

「あれっ?」

 

 言いたいことはわかるが、言い方が悪かった。なんにしても、円香はなんか話してたらこってりするものが食べたくなったので、とんこつにする事にしたが。

 ちょうど、美味しそうな匂いを毎回、駅で垂れ流すお店がある。お陰で学校帰りはバカみたいにお腹が空くものだ。特に、菅谷の家で食べていかなかった時は飯テロレベルである。

 

「ここにしよう」

 

 店に到着し、円香が言った。

 

「良いの? とんこつだけど」

「平気」

「じゃあ替え玉かー」

 

 なんて話しながら、入店した。各々、買うものを購入し、席に座る。カウンターではない四人がけの席に座らせてもらい、腰を下ろす。

 すると、透がふと思ったように言った。

 

「今更だけどさ、あんまリカ、街歩いててもキャーキャー言われないよね」

「そりゃそうでしょ。一回、雑誌に載っただけだし」

「自意識過剰……いや、自じゃないけど、意識し過ぎ」

「だって、学校では一回、バレたじゃん」

「アレは偶々でしょ」

「ね。リカと浅倉は学校で有名だし」

「樋口もでしょ」

「なんで自分だけしれっと外してるの?」

「誠に遺憾だから」

「……」

「……」

 

 円香はここまで目立つつもりはなかった。知らない間にこんなことになってたのは、果たして誰の所為なのか。

 思わずジロリと二人を睨むと、菅谷と透がすぐに返事をした。

 

「いやいやいや、俺ととおるんの所為じゃないから」

「樋口も十分、変だしね」

「あんたらがそのポテンシャルを引き出すからでしょ」

「いや、その語彙力とカタカナ好きは俺らの所為じゃなくない?」

「ね。大雑把に言うと、ツッコミなんて『なんでやねん』で事足りるし」

「じゃあそれで良いのね? 今後」

「「ダメ」」

 

 なんなのコイツら、と円香はため息をつくが……まぁ、その異常さは自分でも自覚はある。特に、カタカナはともかく、あまりにも面倒を見過ぎている点とか。

 菅谷も透も、基本的にはバカなのに顔が良くて高校をウロウロすると言う、アマゾン川に放り出された薩摩地鶏みたいなものだ。心配にならないはずがない。

 世話焼きと言われようと、絶対に自分が目をかけておかないと……と、思っている時だった。

 

「でも、マドちゃんのそういうとこ、俺大好きだから」

「私もー」

「……」

 

 こいつらホントそういうとこ……と、円香は顔を赤くして目を逸らす。

 

「ひゅう……言うね、あの男」

「あれ、てかあの男の子、どこかで見たことない?」

「なんだっけ……」

「ラーメン屋で告白? わ、あの子顔真っ赤じゃん……」

「て言うか、なんで三人?」

 

 周りのヒソヒソ声が耳に響く。ホント、こういうとこだ。

 辱めはやはり怒りに変わり、赤くなった円香はそのまま菅谷に言った。

 

「替え玉」

「え?」

「私にも替え玉奢って」

「な、なんで?」

「人前で辱められたから」

「良いけど……体重平気? (小声)」

「小声で言えば配慮したつもりになってるわけ?」

「え? いっだ!」

 

 脛を蹴られた。

 

「……前から思ってたんだけど、なんで体重って指摘しちゃいけないの?」

「デリカシー」

「傷つく」

「そういう……もの?」

「「そう」」

 

 でも、傷ついた時にはもう遅い時だってあるような……なんて菅谷が思っているうちに、三人の元にラーメンが運ばれてくる。

 

「おまちっ、とんこつ三つです」

「おー、きたきた」

「浅倉、ごち」

「味わって食べて。本当に」

 

 三人で麺を啜るに啜った。

 なんだか、幸せだった。いまだに付き合っていないけど……というか、もう形だけ友達みたいな関係だけど、こうして天気が悪くてもバカみたいにはしゃいで、服やシャワーを貸してでも次の行動に移れて、一緒にこうしてラーメンを食べられることが、なんだか幸せに感じた。

 それは、円香だけでなく透と菅谷も同様だ。本当にこのまま三人でずっとバカやっていられたら、そんな風に思えて仕方なかった。

 

「ね、リカ」

 

 声を掛けたのは透。頬にラーメンのスープをつけていて、それを円香に拭いてもらっている菅谷が「ん?」と聞き返すと、すぐに続きを言った。

 

「モデル、あんま売れないでね」

「なんで?」

「困るから。一緒にいられなくなると」

「大丈夫。俺別にそこまでモチベーション高いわけでもないから」

「なら良し」

「それに、リカなら売れても一緒にいてくれるでしょ」

「お、樋口、理解度高い」

「分かってるじゃん」

「……うるさい」

 

 それだけ話しながら、三人でラーメンを啜った。ちなみに、他のお客さんは知らない間に全員いなくなっていた。

 

 ×××

 

 三人揃って満足した様子のまま帰宅していた。と言っても、円香の家に、だが。透は言わずもがな隣だし、菅谷も着替えを回収しないといけない。

 家の近くまで行くと、ふと目に入ったのは、円香の母親。家の前で誰かを待っているように腕を組んでいる。

 

「樋口ママ?」

「どうしたんだろ」

「リカの荷物があったからでしょ。許可なく家に入れちゃったし」

「え、俺怒られるの?」

「怒られるのは私だと思う」

 

 なんて話しながら、家の前に到着した時だった。ふと自分達に気付いた樋口の母親が、三人に言った。

 

「おかえりなさい、どこ行ってたの?」

「ラーメン屋」

「そう。たくさん動いたから、たくさんお腹がすいたってこと?」

「え、知らないけど……動いたって?」

「なにせ、荒らすだけ荒らして雪かきも何もせずに遊びに行っちゃったくらいだしね?」

「「「あっ」」」

 

 今更ながら、雪だるまの後に雪合戦で、飛び散った飛沫が円香の家の車や壁にめっちゃ付着していた。

 

「……」

「……」

 

 すぐに逃げようとする透と菅谷。だが、その襟を円香が掴んだ。

 

「三人一緒にいるんでしょ……!」

「たまには一人になりたい時もある……!」

「私もランニングに行きたい……!」

「スコップは三人分あるから。サボった子はうち出禁ね」

 

 そう言われてしまえば仕方ない。三人でスコップを受け取り、雪かきを始めるしかなかった。

 

「はーあ……雪浴びてシャワーの後にまた雪かぁ……」

「文句言わない。誘ってきたあんたとリカが悪いんでしょ」

「いや樋口もノリノリだったでしょ……」

「うるさい」

 

 なんて話しながら、二人で雪を一箇所に集める。一方、菅谷だけその様子を眺めていた。

 それが目に入った円香が、文句ありげに聞いた。

 

「何してんの? 早く手伝って。終わるまで帰らせないから」

「いや、雪かきって俺初めてだから。そこに集めれば良いの?」

「そう」

「へー。初めてなんだ」

「うん。必要なかったから」

 

 大体、室寺と父親と母親がやってくれていた。一回だけ手伝っている間に、一箇所に積み上がった雪の山を見て「あそこなら家の二階から落ちても怪我しないんじゃね?」と思って飛び降りて怪我をしてから、やらせてもらえなくなった。

 

「あ、そだ。せっかくだし、俺あれ作りたい。かまくら」

「ああ、良いかもね」

「雪かきしろって言われたばかりでしょ」

「かいた雪はどうしたって良くない?」

「やるなら楽しい方が良いでしょ」

「……はぁ、全くバカなんだから……」

 

 「まぁ、仕事が早く進むならなんだって良い」そう思った円香は、渋々参加した。

 大体、一時間後。透だけでなく菅谷がいたので、手作りのお菓子でもどうかと思ってクッキーを焼いた円香の母親が様子を見に行くと、雪かきは終わっていて、三人はかまくらの中で缶コーヒーを飲みながら談笑していた。

 雪かきも終わっている様子だし、三人ともにこにこと楽しそうにしているし、何より娘が幸せそうにしているので、しばらくそっとしておく事にした。

 

 

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