浅倉が増えて、樋口のストレスは加速した。   作:バナハロ

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期待してる程度じゃ貰えない。確信がないと。

 なんかやたらと周りがソワソワしてんな、と菅谷が思ったのは、おそらく気の所為ではないだろう。

 学校の最寄駅での待ち合わせということは、この辺にいると自分と同じ高校の生徒が学校へ向かう為、それらの様子をよく見ることが出来るのだが……特に落ち着きがないのは男子だ。

 ……もしかして、バレンタインデー当日だからだろうか? 

 今まで「チョコをもらう」という発想が無かった菅谷には、その気持ちが分からない。今年は貰えるわけだが、事前にそれは把握してしまっているし、特にソワソワすることなんてない。

 そんなわけで、呑気にスマホをいじって待機していると、円香と透がやって来る。

 

「おはよ」

「お待たせ」

「あ、おはよ」

「早速で悪いんだけど、リカの部屋寄ってくれない?」

「チョコ、保存しといて欲しいから」

「……」

 

 仮にもバレンタインなのに、本人の家でチョコ冷やしておきたいとか、もう風情とかかけらもなかった。

 けどまぁ、透は何も考えていないのだろうが、円香のことだ。多分「チョコが溶けるかも」と言うことを危惧しているのだろう。

 

「良いよ」

「ん」

「やったね」

 

 そんなに溶けやすいチョコなのだろうか。まぁ、どんなのでも二人が作ってくれたものなら嬉しい。

 ワクワクしながら、三人で自宅に向かった。

 

「……ちなみに、どんなチョコ?」

「言うわけないでしょ」

「放課後のお楽しみ」

「そこは言わないんだ……」

 

 そんなわけで一度、部屋に戻ってから登校を再開した。

 とりあえずチョコを冷蔵庫に入れて、改めて出発した。正直、かなり気になると言えば気になるのだが、まぁ仕方ない。

 

「……バレンタインかぁ……なんか、結局今年もあんまドキドキしなかったなぁ……」

「確定だったもんね。樋口がバラしたから」

「まだ言うのそれ……いや、まぁ実際そうだけど」

「あーあー、俺サプライズされたかったなー」

「樋口がちゃんと授業受けてなかったからなー」

「二人とも、今日の晩御飯にタバスコ一本入れるから」

「「えっ」」

 

 あまりにも容赦がない制裁だった。二人とも揃って冷や汗をかいてしまう中、無視して円香はサクサクと先に進んだ。

 そんな時だった。透がふと思ったように菅谷に聞いた。

 

「そういえばさ、リカ」

「何ー?」

「樋口に聞いたんだけど、おっぱいマウスパッド買おうとしたんでしょ?」

「ブフォッ‼︎」

 

 当然、吹き出した。いきなり何を言っているのか、この野郎は。

 

「マドちゃん! 言ったの⁉︎」

「そりゃ言うでしょ。私と浅倉の間で、リカのこと情報共有しないわけにいかないから」

「っ……お、俺のプライバシーはどこへ……」

「他の人には言ってないんだから良いでしょ」

 

 そういうものなのだろうか……と、思ったが、そういえば二人は二人で自分を勝手にドSにしたりドMにしたりして妄想していることを知ってしまったのだから、仕方ないと言えば仕方ないのかもしれない。

 

「その時にさ、どうしてもムラムラした時は私か樋口がエロい写真送るんでしょ?」

「浅倉、言い方」

「ていうか、頼まないよそんなの!」

 

 結局あれ以来、何か頼んだことはない。スマホでこっそりその手のエロ画像を調べたこともないし、ちょっとそんな気分になった時は座禅で誤魔化している。

 

「いや、そんなのどうでも良くて。知りたいのは、リカのタイプ」

「タイプ?」

「例えばー……胸とか。大きいのと小さいの、どっちが好き?」

「っ、な、何聞いてんの⁉︎」

「だから……浅倉」

 

 なんでそんな男子高校生のような話題を好きな人としなければならないのか。というか、透の発想が最近、割と男子高校生過ぎて困る。

 

「そんなのないから。俺は別に……」

「いや、あるでしょ。少しの好みくらい」

「ないってば」

「むぅ……強情」

 

 そんなん言われても、ないものはない。そもそも、円香と透が相手でなかったら、異性に興味さえ無かったのだ。仕方ないと言えば仕方ない。

 

「じゃあ、例えば胸が大きい人と小さい人が裸で目の前にいたら、どっちを見ちゃう?」

「え、何その質問」

「例えば、の話」

「そんなの聞かれても……目を合わせないように通報すると思うけど」

「……あー、そうなる」

「浅倉、もう諦めて。本当にそういう人なの、リカは」

 

 そう言いつつ、円香は冷や汗をかいていた。それ逆に言えば「女の子を性格でしか見てないから、自分と透の二人を好きになっている」のかもしれない。

 今後、気に入った性格の女性が現れたら殺してでも好きにはさせないとして……もし、菅谷が小学生の頃から女の子と友達になって遊び慣れていたら、同時に何人と恋愛されてたか分かったものではない上に、全員をまじで面倒見始めそうでさえある。

 

「リカ」

「何?」

「浮気したらホント殺すから」

「しないよ……え、俺そんなモテそうに見える?」

「……」

 

 そうだった。そもそも、性欲と引き換えに動物愛を手にしたような男だった。自分と透以外に、この男を好きになる女はいない。

 大事な事を改めて思い出している間に、校門に到着した。昇降口から入り、下駄箱を開いていると「何これ?」と、少し離れた場所にいる菅谷が声を漏らす。

 

「どしたん?」

 

 隣の透が聞くと、下駄箱の中から箱を取り出した。何処かのお店で買ったものなのだろうが、綺麗に包まれている。

 

「えっ」

「誰からだろ……『雑誌読みました。応援してます』だって。え、これもしかして……」

「……ふーん」

「っ、と、とおるん?」

 

 それは、間違いなく透と円香の鞘から、白銀の刃を抜かせた。

 二人揃って顔を見合わせると頷き合う。これはおそらく、単純にファンとしてだったのかもしれないが……その中に自分達2人の壁を突破したがる身の程知らずがいないとも限らない。

 とりあえず……今日一日、絶対に離れないことを心に決めた。

 

 ×××

 

 一時間目、美術。つまり、移動教室である。他のクラスとも合同でやるこの科目は、いつもより隙が多くなる。

 そのため、透と円香は両サイドから菅谷の動きを封じるように腕を掴み、そのまま移動していた。

 

「……あの、とおるん? マドちゃん?」

「こちら、浅倉。周囲に女子生徒の気配はありません、どーぞ」

「こちら、樋口。左にも女子生徒の反応、ございません、どーぞ」

「トランシーバーもないのに、なんの『どーぞ』?」

 

 などと話しながら、二人は移動していて、正直、菅谷は困ってしまった。普通に歩きにくいし、他の生徒からの視線がまた痛い。

 さて、移動を完了し、席に座る。移動教室の先では席替えなんてないため、初期の出席番号順に座らせる。

 透と菅谷は比較的に席は近いが、円香は少し離れた位置になってしまっていた。

 

「浅倉」

「任せて」

「何を……?」

 

 その反応を無視して、菅谷と透は席に座った。

 

「……あの、とおるん。俺別に……」

「ダメ」

「まだ何も……いや、何でもないや、もう……」

「ちなみにリカ。さっき下駄箱に入ってたチョコ、どうするの?」

「え、そりゃ食べるけど……」

「ふーん……食べるんだ」

「一緒にどう?」

「美味しそうだったら食べる」

 

 直球である。これでもか、と言うほどに。

 そうこうしている間に、先生が教室に来る。挨拶だけして、授業が始まった。

 

「えー、では今日も前回の続きです。教室内の像をデッサンして下さい」

 

 鉛筆とパンの耳で描くあれである。教室内の像とは、どこかの神殿においてありそうな、人物の腕と下半身がない像のこと。それをモデルに、絵を描かないといけない。

 勿論、一つの像を全員で描くわけにいかないので、複数種類あるものの中から選べる。当然、円香と透と菅谷は同じものだ。

 で、いざその像を囲んで絵を描くのだが……。

 

「……あの、近いんですけど」

「知らない」

「我慢して」

「……」

 

 椅子を自由に移動させて良いからか、菅谷の肩に二人の肩がくっつく距離でデッサンを始めた。

 

「あの……お二方?」

「は?」

「殺すよ」

「なんで⁉︎」

 

 菅谷以上に、周りの女子生徒の方がいづらかった。

 

 ×××

 

 休み時間。トイレに行きたくなった菅谷が席を立った直後、透と円香も席を立って教室を出た。

 

「あの……何?」

「そっちこそ何?」

「私達の許可なくどこ行くの?」

「トイレに許可が必要だったの⁉︎」

「「いいから早く」」

「……」

 

 この人達は、一体全体どうしてここまでついてくるのか……いや、わかるにはわかるのだが、普通に少し居心地が悪い。

 

「あのさ……別に俺、チョコもらったからって浮気とかしないよ?」

「そういう事じゃないから」

「隙だらけのお馬鹿さんにチョコを渡したいのなら、面接しないとダメでしょ」

「え、め、面接するの……?」

 

 そんなに嫌なのだろうか? 自分にチョコが渡るのが、と思うと少し不安になる。そもそも、関わったことない男子にチョコ渡す奴なんて、そうそういるとは思えないのだが……。

 

「リカ、想像して。もし私とか樋口が、ホワイトデーにチョコあげてもない男子から何か貰ったら?」

「コクピットだけを、狙えるのか……⁉︎」

「要はそういうこと」

 

 なるほど、と渋々納得した時だった。トイレの前に到着する。

 

「じゃ、待ってるから」

「さっさと済ませて来て」

「覗かないでよ?」

「「さっさといけ」」

「あっ、ハイ」

 

 怒られたので、さっさと用事を済ませることにした。しかし、たかだか小便に一々、ついて来られるのは、少し居心地が悪いというものだ。

 ここは一つ、少し悪戯でもしてみようか。その名も、バレずにトイレから脱出作戦。

 そうと決まるや否や、どうするか考える。上着を脱ぐ? いや、ダメだろう。それだけじゃバレる。

 隠すにはやはり、顔を隠さないといけないわけだが……。

 

「……」

 

 こっそり出て行くのはやめた。逆に驚かせてみることにした。顔に、包帯のようにトイレットペーパーを巻いて、ミイラっぽくなってみる。これで逃げてくれれば、少しは一人の時間も確保できるというものだ。少なくとも、トイレの時間くらいは。

 ちょうど鏡があるので、瞳だけ出すように巻いて……そのまま、突撃する! 

 

「ブルァッ!」

「っ⁉︎ ……な、なんだ。リカか」

「何してんの?」

「……なんでわかるの」

「声」

「匂い」

「体格」

「かわいさ」

「待って。マドちゃん、匂いと可愛さってなに?」

「用が済んだのなら、早く教室戻るよ」

「もしかして俺、臭い?」

「「それはない」」

「ホント何⁉︎」

 

 結局、何も教えてもらえずに教室へ引き返した。

 

 ×××

 

 続いての授業は、体育。またしても移動教室である。男子の着替えは教室だが、円香と透は教室で駄弁ってる女子、最後の二人になるまで残ってから更衣室に向かっていた。

 さて、相変わらず外には雪が残っていて、グラウンドは使えないので男子女子、共に室内。

 体育館にて、体育館を半面ずつ使ってバレーボールである。菅谷は別に運動神経抜群というほどではないので、程々にプレイする……のだが、やたらと視線を感じる。

 その視線の主は、言わずもがな。

 

「リカー、スパイク決めてー」

「何、コートの端っこでボケっとしてるの」

 

 声援まで届いて来る。気持ちは嬉しいけど、恥ずかしい。他の女子だってそんなガッツリ応援していない。

 ……だが、まぁ応援の実態はなんとなく理解している。自分たちが見ているのだから、他の女はチョコを渡すな、という牽制だろう。

 それをするのは結構だが、そもそも体育の授業中にチョコは渡せないだろうに……。

 まぁでも、割と学校で三人一緒にずっとバカやってるので、今更気にすることもないか、と思い直し、改めて構える。折角、見られているのだ。少しは良いところを見せておきたい。

 そうと決めた直後、味方がサーブを放った。

 向こうのコートに飛び、レシーブ、オーバーハンドパスと繋ぎ、最後の一撃が来る。素人にとってスパイクは割と難易度高いのだが、それでもかなり早い一発。

 

「菅谷!」

「はいはい」

 

 すぐに落下点に入る。とりあえず、レシーブで大きく上げて、向こうに返せれば仕事としては十分だろう。

 そう判断し、両手を組んで打ち上げようとした時だった。

 

「リカー、点取ったら恐竜の化石発掘チョコ奢ったげる」

 

 その余計な一言が透から飛んできた時点で、構えは変わった。スパイクを打つためのような姿勢になり、手のひらを掌底でも放つかのように閉じて構える。

 

「バカ、普通に返せ!」

「恐竜!」

「この生き物バカ……!」

 

 もう何も見えていなかった。菅谷は、降ってくるボールにタイミングを合わせ、思いっきりボールを引っ叩いた。

 しかし、力の加減を間違えたのか、他の加速が予想を超えた。

 向かってくるボールに対し、早すぎるタイミングでの手の振り……つまり、中指を持っていかれるわけで。

 ボールは無事に敵の陣地へ勢い良く戻っていった。でも、中指は戻らなかった。

 

「今、すごい音しなかった?」

「ね。割と洒落にならない音」

「木琴みたいな」

「そんな良い音だった?」

 

 そんな会話が周りから聞こえる中、菅谷は黙って自分の中指を見下ろす。……逆側に90度曲がった指。

 

「ちょっ、リカ……!」

「うわ、やっば」

「菅谷、大丈夫か?」

 

 体育教師と透と円香が駆け寄って来る。が、菅谷は真顔のままその中指を掴んだ。

 

「大丈夫大丈夫。脱臼くらいならこうすればすぐ治るから」

「「「は?」」」

「よっ、と」

 

 メキッ、と強引な音と共に指を元の位置に戻す。直後、ぐっぱっと開いて閉じて、また開いてみせた。

 

「ほらね?」

「樋口、浅倉。保健室へ連れて行け」

「「はい」」

「え、な、なんで……?」

 

 連行された。怒られた。

 

 ×××

 

 少なくとも、女子はその様子を眺めていて、強引に脱臼を直した菅谷にドン引きしていたので、結果的に透と円香の作戦は上手くいったと言える。

 そんなわけで、その後も円香と透の執拗なブロックは続き、バレンタインのチョコレートは結局、今朝にもらった一つだけ。多分、前に握手を求められた少女だろう、と予想しつつ、三人で菅谷の部屋へ帰宅した。

 ちなみに、菅谷の指は本当に何ともなかった。化け物である。

 

「はぁ……にしても、体育の時はほんと、心臓止まりかけたわ」

「まったくだから」

「え、二人ともそんなに心配だった?」

「どちらかと言うと頭がね」

「私も」

「え、酷い……」

 

 そりゃそうである。少なくとも「酷い」なんて言う資格はないというものだ。

 

「ていうか、それもお義父さんから習ったわけ?」

「え? うん、まぁ」

「私達のお義父さん、何を想定してるんだろうね……」

 

 なんて話しながら、とりあえず手洗いうがいを済ませた。

 

「で、チョコ!」

「……なんかもう、風情もへったくれもないけど」

「まぁいっか。去年は感激されたしね」

 

 とのことで、二人は冷蔵庫に向かう。揃って箱を取り出すと、床に座っている菅谷の元に持って行った。

 

「はい」

「ハッピーバレンタイン」

「ありがとー」

 

 お礼を言いながら、菅谷はそれを机の上に置く。さて、どちらから開けるか? ……こういう時、少し困るかもしれない。両方同時に開けられれば良いのだが、どちらかを選ぶと優先順位がついているみたいになってしまう。

 そんな菅谷の悩みを見透かしたかのように、いつのまにかコタツに入って頬杖をついている円香と透が微笑みながら言った。

 

「もちろん、私のから開けるでしょ? あげるって言ったの私だし」

「いやいや、私のからでしょ。私が先にキスしたし」

「うぐっ……」

「冗談だから」

「そんな真剣に悩まなくて良いよ」

「ほっ……」

「「で、どっち?」」

「……じゃあ、下駄箱の中に入ってた……」

「「あ?」」

「嘘嘘!」

 

 マジの殺意だった。先にいじって来たのはそっちなのに。

 まぁ、でもそういう話なら、とりあえずチョコをくれる、と言い出したらしい円香のものから開けることにした。

 袋を開け、綺麗にラッピングされた中から顔を出したのは、半分に割れたハートだった。微妙にピンク色である。

 あんまりな形に、思わず頭の中が真っ青になった。

 

「え……もしかして、失恋……?」

 

 急に涙目になった菅谷を見て、円香は少しピンと来た表情になる。

 

「……そうって言ったら……どうする?」

「え……」

 

 直後、菅谷の目尻に涙が浮かぶ。どうしたら良いのか、ワタワタと手元が空を切るように忙しなく動くが、やがてしょぼんと力なく項垂れた。

 

「……分かりました……どうぞ、俺のことが嫌いになったのなら、いつでも……わっ、わがれでぐれでもッ……!」

 

 徐々に歯を食いしばり始め、流石に普通じゃない様子に狼狽えた円香は、慌てて声をかけた。

 

「いや、冗談だから泣かないでくれる? そもそもまだ名義上、付き合ってはないし」

「……じょう、だん……?」

 

 予想以上の反応に、円香は少し狼狽える。菅谷は数回、瞬きしたあと、透の方を見た。透は真顔で小首を傾げているが、なんとなくのノリで手を広げた。

 その中に、菅谷は抱き抱えられに行き、お互いに強く鬱陶しく抱き合う。

 

「とおるんー!」

「ねー、今のは樋口良くないよねー」

「自分が言われてたら絶対キレる癖にねー!」

「キレるどころか『次やったら別れるから』って宣言しそうなとこあるよねー」

「……あんたら……」

 

 結束すると面倒臭い。呆れてしまったが、まぁ今のは自分が悪いかも……と、思い直し、円香はため息をついた。確かに自分が似たようなことをやられたら、ついうっかり「別れる」なんて言って、最悪解決までに時間を要しそう。まさか、泣かれると思わなかったし。

 

「ごめん。もう言わない」

 

 素直に謝ると、もう許したのか、泣きそうだった顔が急に戯けた表情になり、透の方に身を寄せ、ヒソヒソ話をするように話し始める。

 

「……どう思います? とおるんさん」

「これは、あとでお仕置きが必要ですね」

「例えば?」

「ポッキーゲーム」

「え、いやそれはちょっと俺も恥ずかしいから……」

「バカ二人、調子に乗らないで」

 

 さて、とにかくチョコである。菅谷は改めて、円香からもらったチョコを開けようとしたが、それを見て透が止めた。

 

「あー、待った。私の方も開けて」

「え?」

「食べる前に」

 

 言われて、菅谷は透のも開けた。すると、次に出て来たのは、抹茶っぽく緑色に染まったハートの片割れ。

 それを見れば、流石に理解してしまった。つまり、これとこれは……。

 

「合体する……ってこと?」

「「そう」」

「わおっ……すごい……!」

 

 直後、菅谷は瞳をキラキラと輝かせ、二つとも出して皿の上に乗せた。慎重に二つのギザギザした断面を繋ぎ合わせる。プラモデルではないので「カチっ」という合体音がするわけではないが、ぴったりハマった。

 

「おお〜! 色違い!」

「大変だったんだよ。それ作るの」

「ホント。どうやっても大きさ変わっちゃうし。少しでも欠けるの嫌だったし」

「練習用のチョコ食べ過ぎて、お父さんと小糸ちゃん鼻血出すし」

「……私達も少し太るし」

 

 その「合体」というエンタメ感がかなり気に入ったのか、菅谷はめっちゃ嬉しそうにチョコをくっつけては離し、またくっつけるを繰り返している。

 ちなみに朝、チョコを先に家に置きに来たのも、少しでも欠けるリスクを回避する為である。

 

「ちなみに、緑が抹茶。ピンクは苺味ね」

「凝ってるなぁ……ちなみになんで緑とピンク?」

「ん……チョコにした時、美味しそうな味にしたくて」

「二人で別の味にしたかったんだよね」

 

 なるほど、と頭の中で理解する。同じ形で別の味、ということだろう。二人で一人の相手にあげるにはもってこいの案だ。

 

「ちなみに、樋口これ豆蒔きの時に思いついたんだって」

「豆……ああ、節分の時の?」

「そう」

「え、じゃあこれもしかして……ハートじゃなくて、その……むね、だったの……?」

「違う、すけべ。割れた豆を見て思いついただけ」

「あ、だ、だよね……ビックリした」

 

 ちなみに、作っている最中に「ひっくり返したら胸に見えるかも」と実際、円香が思っていたのは内緒だ。

 少しエッチな発想をしてしまったのか、それとも当日の手の感触を思い出してしまったのか、菅谷は誤魔化すようにスマホを取り出した。

 

「……あ、そだ。写真撮っちゃお」

「女子高生か」

「リカってそういうとこ女々しいよね」

「思い出だから」

「……でも、撮りすぎでしょ」

「1枚ずつに割れたパターンに合体したパターンとか、いろんなバリエーションはいいから食べてよ」

 

 と言われても、煩悩を払うためでもあるので、簡単にはやめない。4〜5枚、撮った後、確かにそろそろ食べた方が良いと思い、自分も準備にかかった。

 

「あー……じゃ、ちょっと待ってて」

「え、待つの?」

「溶けちゃうよ?」

「1分かからないから」

 

 そう言うと、菅谷は立ち上がる。その様子を見て、円香と透は小首を傾げる。何かあったのだろうか? 

 何を思ったのかベランダに出た菅谷は、ガサッと何かを取ってくる。そして、袋に入ったそれを、円香と透に一つずつ手渡した。

 

「はい。俺からも、ハッピーバレンタイン」

「え……」

「リカから……?」

「うん。多分、美味しいから」

 

 それを言われたものの、円香と透は頭上に「?」を浮かべてキョトンとする。

 

「なんで?」

「今日クリスマスじゃないけど」

 

 双方からプレゼントを交換する機会ではない。

 だが、菅谷もキョトンとした顔で言い返す。

 

「え? 男がチョコあげちゃダメだって誰が決めたの?」

「……」

「……」

 

 今度こそ、二人とも思わず目をパチクリさせてしまった。バレンタインのことなんて「聖バレンチヌスの命日」くらいしか知らない二人だからこそ、妙に納得してしまった。実際、アメリカの風習では男がチョコを贈る風習があるらしい。

 そのチョコを2人揃って開けると、中から出て来たのはキラキラした小袋に入った、一口サイズの生チョコ。それが三つずつ入っている。

 素人臭のするラッピングを見て、円香が小首を傾げた。

 

「これ……手作り?」

「うん。一応」

「わぉ……リカの、チョコ」

 

 円香も透も、感動したようにそれを眺めた後、菅谷の方を見た。

 

「?」

 

 菅谷が「何?」と聞くように小首を傾げた直後だった。二人揃って、その無垢な少年に思いっきりハグをした。

 

「っ、ちょっ……二人ともっ?」

「……逆チョコとか、気持ち悪い」

「ふふ、一生推すわ」

「う、うん……あの、流石に少し恥ずかしいんだけど……チョコ、溶けちゃうし」

「うるさい……ミスター女子力」

「ふふ、リカ心臓爆速」

「……あ、でもこれでホワイトデー何もしなくて良くなっちゃうのかな」

「は? ……あー」

「じゃあ、ホワイトデーは遊びに行けば良くない?」

「お、良いね。何処行く?」

「適当に」

「ホワイトだしー……雪祭り」

「良いね」

「何でもかんでも肯定しないで。ぎりぎりやってたとしても北海道になっちゃうでしょ」

 

 なんて話しながら、そのまま三人でチョコを食べた。

 

 

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