浅倉が増えて、樋口のストレスは加速した。   作:バナハロ

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人付き合いに興味持たないとこうなる。

 ようやく雪も溶けてきたのに、寒さは引かない季節になった。従って、こたつをしまうのもまだまだ先。

 樋口、浅倉、両家とも、未だにこたつをしまうという事はなかった。

 ホワイトデーが過ぎ去り、三人でのデートを終えて、これからしばらく予定無し……とは、そうは問屋が卸さなかった。

 浅倉家のコタツで温まっている円香と透が、早速声をあげた。

 

「で、リカの誕生日が近いじゃん」

「うん。次こそはリカのサプライズに負けないで行こう」

 

 何せ、バレンタインでは見事なカウンターをもらってしまった。アレはおそらく、菅谷自身も「マドちゃんととおるんのことしか見てないよ」という意思表示で渡してくれたものなのだろうが、はっきり言って負けた気がした。

 だから今回こそこちらが喜ばせる、そう思っていた。

 とりあえずサプライズは無理なので、特に菅谷に隠す事なく準備を進める。

 

「場所はリカの部屋でしょ?」

「うん。サプライズなんてする気ないから、当日堂々と上がり込んでガン無視決め込んでセッティングしよう」

「ん。で、何使う?」

「やっぱくす玉?」

「あれ意外と高いから。というか、なんなら外で軽く遊びに行っても良いし」

「あー、私達の時みたいに? リカなら昆虫園とか喜びそうじゃない?」

「は? キレそう」

「冗談だから」

「あの〜……」

 

 相談している中、やんわりとした声が二人の間に入る。コタツを挟んでみかんを摘みながら相談をする二人に、同じように温まっている菅谷が口を挟んだ。

 

「……その、そういうのは……俺がいないとこで話してくれませんか……?」

「は? なんで?」

「嫌だよ。どうせ隠し切れないし」

「恥ずかしいんだけど……」

「「知らない」」

 

 無視である。そもそも、菅谷だって大体「祝ってくれる」って事くらい理解しているだろうから、隠す理由もないのだ。

 

「そうだ、リカ。あんた行きたいとこないの?」

「俺に聞くの?」

「あ、そうじゃん。それ一番、手っ取り早い」

「じゃあ……昆虫博」

「は?」

「う、うそです……」

 

 余りの円香からの圧に、菅谷は狼狽える。

 まぁ、流石にどこに行くかを聞いたのは冗談だ。行先くらい自分達で決めなくてはならない。

 すると、コタツの中でいづらそうにしている菅谷が、ポツリと呟くように言う。

 

「うーん……でも、そんな俺の誕生日なんか気にしなくて良いのに」

「は? 殺すよ?」

「なんで私達がやりたい事、リカに否定されなきゃいけないの?」

「そ、そんなに怒らなくても……」

 

 そのセリフに二人揃って切れ味鋭く反応する。

 

「……あ、あー……じゃあ、俺も何かお礼を……」

「ダメ、やめて」

「それ、もらっても雛菜と小糸にあげるから」

「……」

 

 というか、誕生日なのに祝う人達に何かを送るって正気だろうか? 逆チョコならまだしも、誕生日でそれはちょっと違う。

 

「……そういえば、とおるんとマドちゃんと知り合って、もうすぐ二年かぁ……」

「早いよね。時間」

 

 透が頷きながら呟く。

 

「うん。良かったよ。俺、映画が趣味で」

「そういえばそうだったっけ」

「トムの話でずっと盛り上がってたよね、あんたら」

「そうだっけ?」

「あんま覚えてない」

 

 あの頃は、二人ともこんなことになると思っていなかったから、仕方ないと言えば仕方ない。

 

「ねー、リカ」

「んー?」

「キスしたい」

「んー……ん?」

 

 今なんて? と小首を捻ったのも束の間、コタツの中に潜り込んで菅谷がいる面から、唐突に透は身体を出した。

 

「えへへ、捕まえた」

「待って、さっき何したいって……」

「んー」

「んっ……⁉︎」

 

 唇に唇が触れ、離れる。舌が入ってきたわけではないが、しっかりと唇の柔らかさを同じ唇で感じてしまう。

 

「相変わらず真っ赤になるの早っ」

「あ、あの……普通にキスするのはちょっと……」

「出会った時のことを思い出して、したくなったんだから仕方ないじゃん」

「で、でもほら……まだ俺からキスしようとしたことはないし……というか、まだできないし……あんま慣れてないし……」

「いや、もうリカからもキスしてくれたじゃん。それも、深い方」

「え……し、したっけ?」

「は?」

 

 直後、会話に入ってきたのは円香。聞き捨てならない。

 

「何それ、聞いてないんだけど?」

「え? だってこの前、したじゃん。ポッキーゲームの時」

 

 言われて、円香と菅谷は当日のことを思い返す。確か、ポッキーゲームの最終戦。お互いにポッキーを両端から食べていた時、確かにキスするまでがゲームだと勘違いしていた菅谷が、透を逃さないように頭に手を添え、口の中を舐め回し……。

 

「あ、ホントだ」

「っ……!」

 

 思い出し、頬を赤く染めた菅谷がビクッと肩を震わせたのは、円香が「確かに」と言うように思い出したからだ。

 その後は早かった。透と挟み込むように、円香がコタツの中を移動してくる。

 そして、菅谷の方を見て目を閉じ、少し唇を尖らせる。

 

「ん」

「……し、しろと……?」

「ん」

「あの、そんな急に……」

「ん」

「……恥ずかしいんだけど……」

「ん」

「有無を言わさない……」

 

 完全にする気満々である。その圧力は、キス待ち顔とは思えないレベルの覇気を放っていた。

 

「がんばれー、リカー」

「う、うるさい……誰の所為でマドちゃんの変なスイッチが入ったと……」

「は? 入ってないし。割と常にこんな感じだから」

「えっ」

 

 聞きたくないことを聞いた、と言うように菅谷は冷や汗をかくが、円香は自分に言ったことにも気付かずに目を閉じてキスを待つ。

 しばらく菅谷がどうしたものかワタワタと焦っていると、後ろから透が菅谷の頭を掴んだ。

 

「じゃ、手伝ったげる」

「え?」

「は?」

「「ぶっ!」」

 

 そして、それを前方へ加速させた。お陰でキスどころか、額と額が衝突し、二人とも後方にノックバック。菅谷の後方には透の頭があり、額に後頭部が衝突。三人とも死んだ。

 

「……浅倉……!」

「とおるん……!」

「リカ……!」

「「いやお前の所為だから!」」

「わっ、やばっ……」

 

 逃げようと思った透は、コタツの中に引っ込む。しかし、良いとこで邪魔をされたご立腹の円香が逃さない。コタツの中へ追いかける。

 その間、待っていた菅谷の真後ろに、透をホールドした円香が顔を出した。菅谷と挟み込むように。

 

「リカ」

「流石、やっちゃおっか」

「え、ま、まって。前後挟むのはズル……」

「樋口アースクウェイク」

「菅谷覇王幻影弾」

「ッッッ‼︎」

 

 二人に狭い空間で脇の下に手を挟まれ、指先を高速かつ優しいタッチで動かされる。

 

「っ、ちょっっ……やめっ……!」

「ごめんなさいは?」

「ひょっ……ひょへんなひゃっ……!」

「なんてー?」

「聞こえない。やり直し」

「〜〜〜っ!」

 

 そのまましばらく二人がかりでイジメ、真ん中の透が珍しく身体を全力で悶えさせて暴れている時だった。

 さっきまで笑いで顔をほんのりと赤らめていたのが、急に真っ赤に染まる。

 

「っ、ま、待ってっ。リカ、待って……!」

「ごめんなさいは?」

「や、違っ……だから、ホントのやつで……!」

「いや、私達もホントのやつだから」

「ねー?」

「っ〜〜〜!」

 

 しかし、らしくない反応に菅谷は何事かと思った。が、自分はちゃんと胸やお尻に手がいかないように気を付けているし、変な所は触ってないはず……と、思っていると、暴れ過ぎて自分のポケットからスマホが落ちた。

 暴れてる透に踏まれて画面が割れるかも、と思って拾うことにした。

 

「ごめん、マドちゃん。スマホ、ポッケから落ちたから拾う」

「ん」

「ちょっ、らめらっへ……!」

「うるさい。謝って」

 

 止めようとする透を円香が止めている間に、菅谷はコタツの中に引っ込んだ。掘り炬燵の中に潜り込み、落ちている光る板に手を伸ばす。

 それをポケットにしまった直後、踵が迫って来ているのが見えた。

 

「あぶなっ!」

 

 悶え過ぎている透の一撃を、しゃがんで回避する。直後、首の周りに何か布が引っ掛かる。

 なんだ? と、思いはしたが、とりあえずコタツから出てから取ろうと思い、顔を出した。

 

「ふぅ……危なかった」

「スマホあった?」

「うん」

「……ていうかあんた、それ何首から下げてるの?」

「分かんない。とおるんの踵避けた時に引っかかった」

 

 言いながら、首からその布を外した菅谷は「なんだこれ?」と小首を傾げる。何処かで見たような気もするし、やっぱり気の所為な気もするような……なんて考えながら、それを外して床に置いた。

 

「え、それ……浅倉のスカートじゃない?」

「え?」

 

 言いながら手を止める円香と、キョトンとする菅谷。

 まさか、と思って二人が肩で息をする透を見下ろす。その透は、真っ赤になった顔のまま、ウギギッと言うような表情で菅谷を見上げた。

 ギョッとすると同時に、嫌な予感がする菅谷。それは正しかった。頭にきていた透は、コタツの布団をペラリとめくった。まるで、わざと下着を見せつけるように。

 

「〜〜〜っ⁉︎」

「浅倉!」

「リカが悪い」

 

 失神した菅谷と、ビッチみたいな真似をした透に怒る円香だった。

 

 ×××

 

「……俺が悪いのかな……」

「お互い様だと思うけど……まぁ、理屈じゃないから。こういうのは」

 

 お詫びのためにアイスを買いに行くことになり、円香はそれについて行った。少しでも好きな人と一緒にいたい乙女心♡ などではなく、透が円香にも怒っていたので、少しいづらかったからだ。

 

「で、どうだった?」

「何が?」

「浅倉のパンツ」

「……水色」

「すけべ」

「聞いたのマドちゃんでしょ!」

「前までのあんたなら、まず『何聞いてんの⁉︎』ってなってたでしょ」

「っ……」

 

 それはその通りかも……と、頬を赤らめて俯く菅谷を見て、円香はため息をつきながら言った。

 

「別に、悪いとは言ってないでしょ」

「え?」

「ようやく普通の男子高校生っぽくなってくれたってだけ。……少しくらいすけべになったってだけで、引いたりしないから」

 

 言っても、いまいちピンと来ていない顔。まぁ、気持ちは分かる。自分も思春期はそうだった。口ではそう言うけど、実際はどうなの? と。性的な事なら尚更だ。

 やがて、菅谷はそんな表情のまま小首を傾げて聞いてきた。

 

「……もしかして、マドちゃんもパンツ見せたいの?」

「……」

 

 全然、違った。こいつの頭はどうなっているのか。イラッとしたので、円香はその場で足を止める。

 

「あっそ。じゃ、先に戻ってるから私のアイスもお願い」

「わー! 嘘嘘、嘘だから一緒に来て」

 

 本当にバカな男である。もう少し礼儀を学んだ方が良い。

 仕方ないので、とりあえずそのまま一緒にコンビニへ向かう。

 

「でも、俺はマドちゃんにもとおるんにも、何度もパンツ見られてるんだよねー」

「履いてない奴でしょそれ。いくらこっちが思春期でも、洗濯したてのパンツに欲情なんてしないから」

「そうなの?」

「あんたは雑巾みたいになってるパンツを見て変な気分になるわけ?」

「……よくよく考えたら、パンツって何がえっちなんだろ」

「……さぁ……」

 

 なんだか話が変な方向に逸れていったが、まぁ円香は乗ってやることにした。菅谷とこういう話になるのはレアケースなので、逃す手はない。

 

「あれじゃない? やっぱり……肌に一番長く密着してる布だから、とか」

「えー、でも排泄物を出すとこだよ? たまにクラスの男子が『レムりんのおしっこならかけられても良い』とか言ってるけど、普通に嫌だよ俺」

「ていうか、レムりんって誰」

「いや知らないけど……女の子でしょ、多分。俺、マドちゃんとかとおるんにそんなのかけられたくない」

「まぁ……それは私も嫌」

「やっぱり、別にパンツってエロいものじゃないよね」

「じゃあ、家に戻ったら私のパンツ見る?」

「え、いやそれはちょっと恥ずかしいというかむしろ恥ずかしくないの? というか……」

「つまりそういうことでしょ。エッチはエッチって事」

「……うーん、難しいなぁ」

 

 そんな話をしながら、コンビニに到着した。アイスを選びながら、菅谷は顎に手を当てる。

 

「あ、もしかして……」

「何?」

「隠されると見たくなるのでは?」

「……じゃああんた、私がガンダムのTシャツ着てて、でも恥ずかしいから隠してて、いざ見ちゃった時に欲情するわけ?」

「……あー」

 

 話しながら、アイスを選ぶ。透に頼まれたガ○ガリくん(うめ味)と、菅谷のパ○ム(ほうじ茶味)と、円香のク○リッシュをカゴに入れる。

 

「良いよ、マドちゃんの分も一緒で」

「え、良いの?」

「うん。……とおるんには内緒ね? 一応、お詫びで買ってるから」

「……んっ、ありがと」

 

 話しながら購入を終えて、コンビニを出た。

 浅倉家に向かいながら、今度は円香が声を漏らす。

 

「……もしかして、面積じゃない?」

「え?」

「ほら、布の面積。肌を隠す面積が少ないから。だから、下着姿は恥ずかしい」

「あー……なるほどね」

「実際、女子って真夏に汗でブラウスから下着透けてもあんま気にしないし。ジロジロ見られると不愉快だけど、くっきり肌が見えなければ、正直、気にならない」

「それか……じゃあやっぱり、基本的には肌を見られるのが恥ずかしい……ってことね」

「それで良いと思う」

 

 なんか結論が出ていた。少しスッキリした様子のまま、二人は帰宅し、浅倉家に戻った。

 女の子の下着の話で盛り上がったのに、あまりエッチな雰囲気にならなかったな、と円香は少し自分で自分に困惑していると、ふと菅谷が自分の方を見ているのが目に入った。

 

「? 何?」

「いや、でもマドちゃんの肌は綺麗で、隠すのは勿体無いなって」

「っ……ふーん、そう。じゃあつまり、あんたは他の男にも私の肌、見せて良いとか思ってるわけね」

「あ、そ、そういう意味じゃないよー」

 

 やはり、こいつの直球に全て素直に応じることは出来ない。思わず捻くれた返しをしてしまい、菅谷は困ったように笑みを浮かべながら、円香の頬に手を添えた。

 

「……俺ととおるんにだけ見せてくれれば、それで良いって意味」

「バカ……ホント重い、そういうとこ……」

「マドちゃんと同じだよ」

「一緒にしないで……」

 

 赤く染まった頬を隠すように目を逸らす円香だが、それをさせまいと菅谷は自分の方に向ける。

 その視線はまっすぐと自分に向けられ、じっと瞳を見つめられる。

 え、まさか……と、円香は冷や汗をかいた。ここでキス? なんて思ってしまったが、大変困ったことに否定をする理由はない。

 いや、特に困ったことはないのかも……と、思い、黙ってキスを待とうとすると、菅谷が照れたような笑みを浮かべた。

 

「なんて……ごめんっ。無理矢理、空気を作ろうと思ったんだけど……やっぱり恥ずかしいね」

「……」

 

 笑みをこぼして、手を離されてしまった。正直、お預けを食らった気分だ、少しムッとしたが、菅谷なりに努力をしたと思えばそこまで腹を立てることはない。

 ……むしろ、今こちらから手助けしてやれば、キスしてもらえるかも、そう思った円香は、菅谷の頬に手を当てた。

 

「……バカ。どうせするなら、最後まで責任持って」

「え……で、でも……」

「……強引に迫られて困った顔してたのか、彼女の顔をよーく見ることくらいしたら?」

「……」

 

 言われて、菅谷は再び円香の頬に手を当てる。ゴクリと唾を飲み込み、顔を向ける。円香が目を閉じると、菅谷はそのまま顔を近づけようとした時だった。

 

「へー、人のスカートを二人がかりで脱がしてそのペナルティで買いに行ったアイスを届けることもなく、人の家の玄関でマウストゥーマウス……流石、肝が太いね」

 

 ビクッ、と二人揃って肩を震わせる。らしくない長ったらしいセリフ……間違いなく透の声だ。

 確かに、無神経だったかもしれない……というか、無神経だった。その透は、いつもの笑顔さえ消えて、真顔のままこちらを睨み付けている。

 

「……アイスだけ置いて帰ってくれる?」

 

 慌てて二人とも謝り倒した。

 

 ×××

 

「リカー、アイスー」

「畏まりました」

 

 結局、コタツの中で透を膝の上に乗せることで許されることになった。菅谷への命令だけで円香も許されたのは正直、菅谷としては納得いかないが、まぁ仕方ないので受け入れた。

 膝の上の透は、菅谷にアイスを食べさせてもらいながら、ぬくぬくしている。

 

「透様、お味の方は如何でしょう?」

「んー、微妙。バカが食べさせてくれるから」

「……」

 

 やはり、割とブチギレている。だが、まぁ怒っても仕方ないのかもしれない。

 

「リカ、撫でて」

「はっ」

「んー、43点」

 

 厳しい……と、菅谷は少し涙目。

 一方、円香は向かい側で一人、アイスを齧っている。

 

「リカー、ハグ」

「畏まりました」

「その口調、面倒だからやめて」

「わ、分かった……」

 

 自分でやらせた癖に……と、思いながらもハグをする。

 それを堪能している透は、そのまま本来の話に戻した。

 

「で、樋口。誕生日、どうしよっか」

「え? あー、うん」

「やっぱり、リカにも喜んでもらいたいし、リカが喜びそうなとこが良いよねー」

「……動物園とか?」

「いや、昆虫博とか」

「っ……」

「冗談。そういうとこ」

「……ほっ」

「リカ、最近むっつりっぽいし、池袋でやってる性いっぱい展とか連れてってみる?」

「……んー、良いかも」

「あ、あの……だから、俺の前でそういう話は……」

「これ、夜のっていうのがキャッチフレーズっぽいけど、昼もやってるのかな」

「調べれば出るんじゃない?」

 

 ガン無視である。知ったことではない、と言わんばかりの反応に、菅谷は項垂れてしまう。

 

「リカ、アイス」

「あっ、ハイ」

 

 そういう時だけ声を掛けてくれるものだ。

 流石にその菅谷に同情した円香が、代案を出した。

 

「あー、でも今の季節、暖かくなって来たし、外歩く動物園の方が良いんじゃない?」

「あー、確かに」

「あと、私達の時は次の日に雛菜達とケーキ食べたけど、リカの時はそうもいかないし、日帰りで行ける場所が良いと思う」

「じゃあ、やっぱ動物園とか水族館だね」

「そうなるかな」

「あの……別に外出なんてしなくても、普通に家で良いけど……」

「浅倉はショッピングモール行ったんだっけ?」

「うん。誕プレ買ってもらうついでにね。急だったから」

 

 その意見は円香も無視した。この男、自分は気を使う癖に気を使われるのを嫌がるのは少しムカつく。あれだけ最高の誕生日を祝ってくれて、何もしないわけがないのに。

 

「じゃ、動物園で。とりあえず」

「決まり。リカ、アイス。あとナデナデ止まってる」

「は、はい……」

 

 実に菅谷を使いこなして、そのまま誕生日の予定を詰めていた。

 ひとまず会議はそこで終わったので二人はそのまま伸びをしつつ、円香が菅谷に言った。

 

「もう一度言うけど、リカ。あんたから私達にプレゼント用意するのはやめて。バレンタインの逆チョコとは訳が違うから」

「……俺なんかに二年間も付き合ってくれてありがとう、っていう意味でも?」

「は? 俺なんか、って何?」

「それでもダメに決まってるじゃん」

「わ、分かりました……」

「リカ、アイス。最後の一口」

 

 透も追撃するように言いながら、アイスを食べ終える。菅谷が袋の中に棒を入れると、そのまま透は後ろの背もたれに声をかけた。

 

「リカ、リクライニング」

「え? あ、うん」

「ウィーン……」

 

 菅谷が後ろに体を倒すのに合わせて、透も菅谷の上で仰向けになった。

 

「んー、人の上、最高」

「あの、とおるん……まだ怒ってる?」

「どう思う?」

「うっ……ごめん」

「……」

 

 しばらく黙り込む透。が、やがて、少し拗ねた口調で言った。

 

「……パンツ」

「え?」

「リカの今履いてるパンツ見せて」

「「……えっ?」」

「それでドローにしてあげる」

 

 円香も声を漏らしたが、菅谷は困ったように冷や汗をかく。……が、許可を出すしかない。

 

「わ、分かったよ……」

「はい。決まり」

「えっ、嘘でしょ?」

「樋口はもうリカのパンツ見てるでしょ。誕生日に」

「いや見たくて見たわけじゃないんだけど……」

 

 まぁ、見たには見たし……と円香は仕方なく黙る。……とはいえ、コタツの向かい側で、見えない二人がパンツを見せ合っている姿の声だけを耳にするのは割ときついものがあるが。

 仕方ないので、円香は目を閉じて寝転がった。少しでも意識を二人に向けないためだ。

 

「……あの、自分で脱がさせてくれない?」

「……人のは脱がした癖に」

「いやそれはわざとじゃなくて……ていうか、そうじゃなくて、チャックの真下は、その……」

「……じゃあ、自分で脱いで」

「う、うん……」

 

 だめだ、耳に入ってくる。というか、なんか知り合いの行為を盗み見している気分だった。

 

「……はい」

「……わぉ、ボクサータイプ……」

「トランクスだと、スースーするんだよね」

「ふふ、男の子はいろんな種類あるんだもんね。個人的には、ブリーフとか見てみたいかも?」

「勘弁してよ……」

「あー……でも、見るなら、トランクスの方が良かったかも……」

「? なんで?」

「いや割と、ピッタリしたタイプだと、もっこり出ちゃうんだね。それ」

「っ……え、えっち!」

「それ、男のセリフ?」

「も、もういいでしょ! 終わり!」

「……」

「……な、何?」

「……」

「とにかく、今日はここまでだから!」

「え、じゃあ次は何処まで?」

「っ……もう機嫌直ってるみたいだし、もういいでしょ」

「ちぇー」

「もう……マドちゃんも言ってやってよ。マドちゃん……マドちゃん?」

 

 応答がなかったことを、不審に思ったのだろう。こちらを見るために、身体を起こさないでみられる、コタツの中から覗き込んできた。

 いつのまにか円香は、コタツの中に潜って、二人のやりとりを眺めていた。少し、赤くなった顔で。

 

「……何してんの?」

「……別に」

 

 円香はすぐにコタツの中から出て、不貞腐れたように目を閉じた。3人とも、コタツで寝転がったまま沈黙が続く。

 ……やがて、菅谷がぼんやりした表情のまま二人に呟くように言った。

 

「……あの、今後うちで泊まるような事があっても、二人とも襲って来ないでね」

「は? そんな見境なくないから」

「ていうか、人をすけべみたいに言わないで」

「……」

 

 どの口が言うのか、と思いながらも、菅谷は目を閉じてそのまま眠る事にした。

 

 ×××

 

 今日、浅倉家に夜まで両親は帰って来ない。透も円香もそれは理解していて、しばらくコタツの中でボンヤリする。

 特に、円香は向かい側で寝転がっていたのに、何食わぬ顔で菅谷を挟むように透達と同じ所から身体をはみ出させた。

 二人の間には、あどけない寝顔から「すぅすぅ……」と寝息を立てている、二人の想い人がいる。

 

「……襲うな、とか言われてもさぁ」

「こういう、無防備過ぎるとこだよね」

 

 正直に言って、二人は菅谷のこういうとこを見るたびに少しだけ頬を赤らめる。信用されている、と言われれば聞こえは良いが、だからと言ってもう少し考えてほしい。

 高校生は、中学生以上に性行為について理解し始める時期。そして何より、三人の場合は「もう何があっても嫌い嫌われるような事にはならない」「つーかほぼ恋人」「両親がいない一つ屋根の下にもいつでもなれる」という条件が揃い踏みだ。

 つまり、二人の間には、極上の高級タラバガニがあるようなものなわけであって。

 

「……」

 

 それでも理性がまだ勝っている。だから大丈夫ではあった。

 そして、その度に思うのは、今後の事。モデルの仕事……バイトとはいえ、芸能界と言えば芸能界。まだ雑誌に載る程度だが、今後どうなるか分からないその道を、こんなバカ一人で歩かせるのは少し不安ではある。

 だから、せめて自分達も守れるようにならないといけない、と。

 

「……浅倉」

「……んっ」

 

 とりあえず、誕生日以外にも色々と考える事があることを、改めて実感した。

 

 

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