浅倉が増えて、樋口のストレスは加速した。   作:バナハロ

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羊を数えても眠れない。

 いよいよ、誕生日も明日になった。円香と透から聞いた話では、動物園に連れて行ってくれるらしい。

 正直言って、わくわくソワソワ爆発モノである。好きな場所に、好きな人達と行ける……そんな事、滅多に無い。

 とりあえず、明日の夕方は自分の部屋でパーティなので掃除をしていた。それを終えて、今はソファーの上で映画を見ている。

 ……何故なら、ワクワクしてしまうと眠れなくなるからだ。遠足前の小学生のようになっているが、仕方ない。楽しみなのだから。

 さて、そんなわけで、ずーっとワクワクワクワクしている事もあって、気を鎮めるために映画を見ていた。バッドエンド映画のミ○トとかを。

 

「……つまんな」

 

 飽きて、すぐにお風呂に入った。湯船にのんびりと浸かっていると、ピンポーン、とインターホンの音が聞こえる。自動ドアからではなく、家の前からだ。

 

「……有栖川さんかな?」

 

 そう思い、仕方なくお風呂から出る。身体を拭き、パンツと寝巻きのジャージだけ羽織って飛び出した。

 

「はーい?」

「こんばんは」

「いえーい、リカ」

「? どしたの、二人とも?」

 

 というか、どうやって入ったのだろうか? 夏葉に入れてもらったとか? いや、それよりも、もう20時も回っている時間に何しに来たのか? 

 それを聞くと、答えてくれた。

 

「決まってるでしょ」

「リカのバースデーイヴ」

「……」

「それより、その格好お風呂上がりでしょ」

「エロくて好きだよ、私は」

「風邪ひくから、早く入れて」

 

 そう言われ、思わず菅谷の涙腺は弛みそうになる。わざわざ、ワクワクを抑えるために鬱映画なんて見る必要はなかったのだ。何故なら、どうせ三人集まるのだから。

 サプライズはやらない、なんて言っていたのに、まさかの前日サプライズに、もうなんか色々と感極まった菅谷は、そのまま玄関の前の二人を強く抱きしめてしまった。

 

「もう、二人ともホント大好き……」

「はいはい。それは良いから部屋に入れて」

「あと、裸ジャージは水着よりえっちなこと自覚して」

「とおるんはそればっか?」

「浅倉がオープンになったの、リカの所為だから」

「樋口がむっつりになったのもね」

「あの……分かったから、一先ず中に入って」

「それさっき私が言った」

 

 なんて話しながら、二人を部屋の中に招き入れた。靴を脱ぎながら部屋の奥に案内しつつ、円香と透がしれっと菅谷に言う。

 

「ちなみに泊まるから」

「で、明日は朝から遊ぶから」

「ま、マジで……?」

「お風呂、先に入ろっか」

「ね。リカ上がったばかりっぽいし」

「あの……だから目の前でそういう話は……」

「リカ、晩御飯用意しといて。私と浅倉、お風呂入るから」

「……ふ、二人で……?」

 

 本当に風呂に入られ、仕方なく菅谷が晩飯の準備をした。ちなみに、菅谷はもう晩飯を食べ終えているので、マジで二人の分を用意するハメになっていた。

 

 ×××

 

 お風呂と食事を終えた三人は、洗い物だけ済ませて寛ぐ時間となった。ソファーに座ろうとする菅谷を、円香が止めた。

 

「待った。リカ」

「ん?」

「今日はあんたのイヴで来てるから」

「知ってるけど?」

「だから、好きなこと私と浅倉に命令して良いから」

「うん。なんでも言って」

 

 急にそんなことを言われたわけだが、思わず小首を傾げてしまう。

 

「? もう現状が、二人に叶えてもらいたい事なんだけど?」

「言うと思った。ミスター仏教徒」

「そうじゃなくて、膝枕とかそういうの」

「えー、いいよ別に。俺が二人の誕生日イヴの時、そこまでもてなせてないし」

 

 片方は直前で急に知って強引に祝ったし、円香に至っては風邪で途中でダウンした。

 しかし、透や円香からすれば「菅谷の所為とはいえ、怪我を隠してた自分にちゃんと気遣ってくれていた。あとファーストキス記念日」や「風邪引いていても誕生日を祝おうとしてくれた。あと添い寝良かった」と本音と建前をきれいに使い分けた思い出がある為、そうはいかない。

 

「ダメ。もっと欲望に素直になって」

「本当はやりたいけど我慢してること、あるでしょ?」

「……」

 

 それを言われると、まるで図星をつかれたように菅谷は頬を赤らめる。これは……まさかとは思ったが、菅谷にもやはりそういうピンク色な望みがあるということだろうか? 

 ……いや、何にしても望む所だ。円香も透も、ごくりと唾を飲み込んだ。

 

「良いよ、好きなこと言って」

「殺人以外ならね」

「じゃあ……ちょっと、待ってて」

 

 何やら道具が必要なようで、部屋に戻っていく菅谷を眺めながら、円香と透は内心リラックスしていた。何をさせられるのか……いや、菅谷のことだからどうせおもちゃを持ってきて「クワガタごっこ」だとかそんなレベルかもしれない。

 だからこそ、まぁああ言ったものの変態的なものは来ないと簡単に推測できた。

 しかし、二人は忘れていた。菅谷と三ヶ月ほど前、ハードなプレイをしてしまっていたことを。

 

「お待たせ」

 

 戻ってきた菅谷は、背中に何かものを隠しているように駆け寄ってきた。

 

「全然待ってないけど……」

「何持ってんの?」

 

 効かれた直後、菅谷から手渡されたのは……犬耳と猫耳だった。

 

「はい」

「……」

「……」

「さ、おいで」

 

 手渡した後、床にあぐらをかいて座り、トントンと床を叩く。

 透と円香は顔を見合わせた。「どうする?」と言わんばかりにアイコンタクトを送る。何せ、これは完全に盲点。何が盲点って、菅谷は特に変態的なプレイをしているつもりがないあたりだ。

 つまり、照れさせられるのは間違いなく自分達だけだ。だが……やると言ってしまった以上、やるしかないわけで。

 先に動いたのは、透だった。犬耳を頭に装着し、四つん這いになった。

 

「わんっ」

「とおるーん、おいでー」

「わふっ、わふー」

「よしよしよしっ」

 

 すごい、と円香は素直に感心した。菅谷に頭を撫でられ、顎を撫でられ、抱き締められ、さすられる。されてる事だけ挙げればいちゃついてるカップルではあるのだが、犬扱いという大前提を忘れてはいけない。

 にも関わらず、透は恥ずかしそうにしながらも受け入れていた。……少し幸せそうに見えるのは気のせいだろうか? 

 逆に、菅谷は菅谷で犬扱いと言っても人間という意識があるからか、それとも単純に犬を飼っても芸を仕込むつもりがないのか「お手」「おかわり」「ふせ」「ちんちん」と言った芸をさせることはなかった。

 

「よしよしよし。さっきたくさんご飯たべたねー」

「わん」

「たくさん食べるのは良いことだからね。もっと大きくなろうね」

「すけべ」

「いや、胸の話じゃなくて……俺、動物の背中に乗って野を駆けてみたい。夢だから捨てられてないんだ」

 

 しかし、今の透の「すけべ」だけでどんな勘違いをされてるかは分かるようになったようだ。……なんで同級生の男の子の性への興味の成長を、こちらが気にしなければならないのか……。

 少し呆れながらも、そろそろ円香もゴクリと喉を鳴らす。やる、と言ったからには、菅谷のために恥を忍ぶべきだ。

 猫耳を頭に装着し、そろそろ……と、思ったところで、菅谷がふと透の犬耳を外した。

 

「……ごめん、とおるん」

「わん」

「や、ワンじゃなくて。やっばり、とおるんとマドちゃんは、人間の方が良いや」

「……」

 

 それを言われて、透は少し目を丸くする。やはり、菅谷は菅谷のようだ。別にこの演技がどうしても嫌、というわけではないが、そんなセリフで少し嬉しくなってしまった。

 ……のは、当たり前だが透だけの話。円香からすれば「私も撫でろ」となるのは必然であって。

 

「マドちゃんもそれ外して良いよ」

「……シャアァァァ」

「え、なんで威嚇……」

 

 なんか怒ってる……と、冷や汗をかいたのも束の間、円香は襲いかかって来た。

 

「フシャアー!」

「ちょっ、な、何さ……!」

「にゃー。んにゃっ!」

「いだっ! ひ、引っ掻くなー!」

「……なう」

 

 止めると、円香は一息ついて菅谷の前で頭を差し出す。それを見て、菅谷はどうするか迷うように唸った後、口を開いた。

 

「もしかして、撫でて欲しかったの?」

「……」

「……猫じゃなくても、撫でてあげるよ」

「…………じゃ、お願い」

 

 菅谷の膝の上に頭を置く円香。その頭を、菅谷は撫でてあげた。

 菅谷の意外と硬い手が、自身の側頭部に当てられては離れ、また当てられる。その優しい手つきが、円香は好きだった。あまりの心地よさに、思わず寝そうになってしまった時だ。

 

「ふふ、樋口もうまんま猫じゃん」

「浅倉うるさい」

「私も撫でてあげる」

「んっ……」

 

 菅谷の膝の上に頭を乗せ、二人がかりで撫でられる円香。たまにはこんなのも悪くないのかも……と、目を閉じているときだった。

 

「って、違うでしょ。今日は私達が甘やかすんだから」

 

 急に顔を上げた円香が、ハッとしたように言った。しかし、菅谷も透も膝の上にそれを押し付けるように戻す。

 

「良いから良いから、ゆっくりしてて」

「ね。リカは私達のどちらかを撫でてあげたいんだから」

「うっ……」

「とおるんも。膝来る?」

「え、良いの?」

「うん」

「じゃあ……お邪魔します」

 

 二人揃って、しばらく菅谷の膝の上を堪能した。

 

 ×××

 

 さて結局、円香と透は甘やかすどころか甘えてしまい、就寝時間になった。菅谷の寝室について来た円香と透を見て、菅谷は少しだけ困ったように尋ねた。

 

「……俺のベッドで寝るの?」

「「もちろん」」

「勿論、じゃないよ……」

 

 流石にそればっかりは照れてしまうのは当たり前だ。だが、二人とも退きそうにない。

 しかし、まぁ仕方ないと言えば仕方ないのかも……と、思い、もう三人で寝るのも三回目なので、なんとか気を落ち着かせる。

 

「……よし、寝ようか」

「お、覚悟決めた」

「珍しい」

「……うるさいよ。いざとなったら、自分で自分を絞め落とすから」

「それをしたら私達、ベッドから出るね」

「死なれたら困る」

「大丈夫だよ。窒息死には段階があって、最初の方なら……」

「聞いてないから」

「死のリスクがあるのはやめて」

 

 怒られたのでやめた。まぁ、元々冗談のつもりだったのだが。

 改めて、三人でベッドに入る。少し暑そうな菅谷が、パチパチと瞬きを繰り返し、ポツリと声を漏らす。

 

「……狭い」

「リカ、また背伸びたんじゃない?」

「私も思った」

「え、そう?」

「うん。よしよし」

「えらいえらい」

「え、俺子供?」

「「そう。子供の上に弟」」

「……」

 

 ……まぁ、もうそれで良いや、と思い、菅谷は目を閉じた。

 両肩に当たる柔らかい二人の肩の感触にも、少しずつ慣れてきた。そして、慣れてきてもその温もりを真横で味わえる事に、いつまで経っても幸福感に満たされていた。

 そんな菅谷に、透から声が届く。

 

「……リカ、まだ起きてる?」

「うん」

「しりとりしよ」

「え、なんで?」

「ドキドキして眠れないから」

「嘘だぁ。もうキスもしてるのに」

「いや、添い寝ってキスの先にあるでしょ」

「え、そうなの?」

「そう」

「マドちゃんはどう思う?」

「……知らない。ていうか、寝かせて」

「あ、ごめん」

「あ、樋口起きてたんだ」

 

 しかし、やたらとリラックスしている菅谷が異常なだけで、普通は簡単に眠れない。

 さて、とにかくしりとりである。しりとりの「り」から透が始めた。

 

「じゃ、私から。リカ」

「カリウム」

「……紫式部」

「ブラジル」

「ルイージ」

「自動ドア」

「浅倉」

「あー、それ俺言いたかったのに。……落雷」

「入間」

「円香」

「あー! だからー!」

「リカうるさい。寝るためにやってるんですけど」

 

 円香に怒られたので、仕方なく黙る菅谷。とにかく、何か言いたい……そう思った結果「あっ」と声を漏らした。

 

「かなり可愛い透」

「は?」

「っ……ふふ、ヤバっ。照れる」

「ほら、次マドちゃん」

 

 言われて、円香は小さくため息をつく。まったく、くだらない事を考えるものだ、と言わんばかりに呆れてから、すぐに次を言った。

 

「……ルビー」

 

 言うと、今度は透が顎に手を当てて思い返すように呟く。

 

「い、いー……犬より可愛い樋口」

「……浅倉。それ褒めてるつもり?」

「お、良いねー。じゃあ俺は……チャーミング過ぎる透」

「てへへ」

「はい、次マドちゃん」

「……」

 

 まぁ、乗ってやるのも一興かもしれない。元々、菅谷をもてなすために来ているわけだし、仕方ない。

 

「……あ、樋口。リカは私、私は樋口だから、樋口はリカね」

「……あっそ」

 

 褒めてあげるくらい何だって良い。とりあえず、適当に言った。

 

「……ルビーより綺麗なリカ」

「え、なんでルビー?」

「適当に選んだんでしょ」

「そっか……俺ってマドちゃんにとって……」

「……分かったから。言い直すから」

 

 仕方なく円香は考え込む。る、るー……と、腕を組んでから、ゆっくりと答えた。

 

「……瑠璃色の瞳が綺麗で、汚らしくないむしろどこかオシャレに映る天然パーマ、服の上からでは分からない細くもがっしりした身体、そしてそれらと綺麗にマッチしない可愛い性格、トータルしてギャップ萌えの塊と呼べる愛しいリカ。……これで満足?」

「……ぐー」

「……すやすや」

「……あんたらぶっ飛ばすよ……」

 

 どう考えても寝たふりだったのが、また腹立たしかった。隣から菅谷の頬をムニっと抓って続けた。

 

「ねぇ、あんたらが言わせたんですけど」

「……いや、だって言い過ぎだし……」

「……普通に恥ずかしいよ……」

「……」

 

 確かに、と思わないでもないけど、でも言わせたのはお前らだろ、という感想が拭いきれなかった円香は、拗ねたように菅谷と透に背中を向けた。

 

「……なら、あんたらだけで勝手に惚気ててどうぞ」

「わー、ごめんマドちゃんっ」

「リカ、樋口真ん中にして。超愛でよう」

「は?」

「りょかい」

「ちょっ、待って。やだっ……どこ触ってんの……!」

「お腹。……あ、大丈夫。ポヨンとしてないよ」

「うるさい……!」

「とおるん、布団持ってて」

「はいはい」

 

 脇の下から手を通して円香の身体を持ち上げると、透が両手で支えている布団の中で方向転換をして、真ん中に移動させた。

 

「いらっしゃい、樋口」

「……来たくなかったんですけど」

「今だ、愛でろ」

「ラジャー」

「ちょっ、やめっ……」

「よしよしよし」

「よしよしよしよし」

「んっ……」

「よしよしよしよしよし」

「よしよしよしよしよしよし」

「変なとこで競わないで」

 

 そう言いつつも、円香は抵抗しなかった。どうせ言ってもやめないし、黙ってされるがままにされていよう……なんて言うのはそれこそ言い訳だった事に気付いていなかった。なんだかんだ、気持ち良かったからだ。菅谷からだけでなく、透からのそれも。

 そのまま、なんやかんや一番美味しい思いをしたままゆっくりした。

 

 ×××

 

 翌朝。まず目を覚ましたのは、珍しく透だった。自分の腕の上に円香が頭を置いて目を閉じている。

 その円香の背中に、菅谷が抱きついて寝息を立てている。少し微笑ましく感じた。

 

「ふふ、やっぱ……私の方が姉じゃん。樋口」

 

 なんだかんだ二人とも可愛らしく見えてしまうものだ。甘えん坊二人を相手にする姉のように笑みを浮かべた透は、身体を横にして片手を円香の頭に乗せ、軽く撫でる。

 さて、たまには自分が朝飯を用意しよう。そう思った透は、実に器用に円香の頭の下から腕を退かし、代わりに枕を設置。そのまま布団を出て行った。

 適当にお味噌汁とサラダを用意し、あとはパンを焼くだけ。メニューはあまり時間がかかるものではなかったが、何処に何があるのか少しだけ悩み、結局時間はかかってしまったが、なんとか用意できた。

 

「よし、完了」

 

 そう思った直後、ちょうど良いタイミングで円香が起きてくる。

 

「……おはよ」

「あ、おはよう」

「浅倉……? 何してんの?」

「朝ご飯の準備。あとパン焼けば終わりだけど」

「……どしたの急に」

「いや、何となく。二人の寝顔可愛かったし、先に目が覚めたから」

「……あそう」

 

 とりあえず、ちょっぴりサプライズは成功、という事だろうか? サプライズとは今決めたわけだが。

 さて、家主はどうしたのだろうか? 

 

「リカは?」

「まだ寝てる」

「ふーん……先に食べちゃう?」

「いや、せっかくだし待てば良いでしょ」

 

 話しながら、円香は洗面所の扉を開ける。中に入る直前、透に言った。

 

「寝癖、直すだけ直したら?」

「あ、そっか」

 

 なんだかんだ、二人とも女の子だった。時間があるのなら、みっともない顔は見せたくない。……まぁ、割と泊まりとか色々しているから、今更な感じはあるわけだが。

 二人で持ってきた荷物の中の櫛やら何やらで髪を整えていると、透が円香に言った。

 

「樋口」

「何?」

「やっぱり、私が姉で樋口が妹ね」

「は? それはないから」

「いや、身長と心情的に」

「……あっそ。もう勝手にして」

 

 そんな話をしながら整え終えると、続いてアクセサリーを装備。完全にいつもの二人……となった所で、扉が開かれた。

 

「はよ〜……あれ、二人とも早いね」

「あんたが遅いんでしょ」

「おはよ、リカ」

 

 何にしても、眠そうなので2人は菅谷に挨拶する。

 

「リカ、誕生日おめでとう」

「おめでとう」

「え? ……あ、そっか。ありがと」

 

 お礼を言いながら、顔を洗うために流しの前に立った。

 

「これで俺も16歳かー」

「そんな感慨深くないでしょ」

「まぁそうだけどね。でもやっとマドちゃん達と同い年になれたなーって」

「気にしたことない癖に」

 

 とはいえ、円香には少し気持ちも分かる。透と五ヶ月誕生日がズレているだけあって、子供ながらに「今日から年下だから敬語ね」なんてネタをやっていた事もある。

 菅谷もそういうの、よくやられた口なのか……いや、友達いなかったらしいし、それはないだろう。

 

「んーっ、目が覚めた」

「リカ、朝ご飯できてるから、食べよ」

「マドちゃんが作ってくれたんでしょ」

「は? 違うから」

「作ったの浅倉だから」

「……熱あるの?」

「ブッ飛ばされるよ」

「いや樋口も似たような反応してたから」

 

 なんて話しながら、三人は洗面所を出た。

 まずは朝食。三人で席につき、パンを焼いてから食べ始めた。まずは味噌汁から。菅谷が口をつけるのを、透はソワソワしながら眺める。

 

「んっ……美味しい」

「当たり前じゃん。私が作ったんだし」

「いや、とおるんが一人で料理してるとこ初めて見たから」

「そうだっけ?」

「多分そう」

「ま、何にしても美味しいから」

「……へー」

「浅倉照れてる」

「……樋口」

「とおるん可愛い」

「……うるさい」

 

 なんて話しながら、箸を進める。

 

「うーん、にしても美味しい。マドちゃんととおるんで、毎朝交互に作って欲しい」

「……強欲」

「ほんとに」

「いやいや、二人だけにやらせるつもりはないよ。晩御飯はその分、俺が毎晩作るから」

「いや、それじゃあんたに負担偏ってるでしょ」

「ね。やるなら……シフト制が良いんじゃない? 月、火、木、金が樋口で、水と土がリカ。日曜は暇だったら私やるよ」

「それとおるんほとんど何もしてないじゃん」

「てか、なんで私にばっか負担かけるの」

「それは樋口のご飯が一番、美味しいからでしょ」

「……ホント、ずるい奴」

 

 そんな言葉一つで作る気になってしまっている自分が嫌だった。

 すると、菅谷がクスッと笑みを漏らす。透と円香が、それに対して小首を傾げた。

 

「何?」

「どしたの?」

「いや……なんか、楽しくて。もし、マドちゃんととおるんと三人で一緒に暮らせる日があったら……こんな感じなのかなーって」

「……ふふ、確かに」

「それは嫌。絶対、私に負担偏るし」

「えーそんなことないよ」

「ちゃんと手伝うから、リカが」

「その時点で私とリカに負担偏ってるでしょ」

 

 そんな話になった直後、菅谷がふと顎に手を当てたまま言った。

 

「……実際の所……三人で暮らすことになったらどうしよっか?」

「最短でも6年はそんなことにならないから……」

「今のうちに役割決めとく?」

「そうだね」

「……浅倉」

「じゃ、私はゴミ出し」

「じゃあ……俺はルンバ」

「他全部私にやらせる気なわけ? てか、ルンバの役割って何、ルンバって。ボタン押すだけとか言ったらぶっ飛ばすよ」

 

 ……この二人の厄介な所は、変な所だけ記憶力が良い所だ。つまり、万が一にもこの二人と暮らすことになったとして、今話していることが実践される可能性は十分ある。

 そうならない為に、上手いこと誘導した方が良い。

 

「リカは洗濯でしょ。力仕事だし。あとゴミ出し」

「えー、いや良いけど……でもそれだと俺、二人の下着とか干すことになるよ」

「あー……いや私は良いけど」

「私も、別に気にしない」

「分かった。……あ、確かお袋が昔、下着洗濯してた時さ、ブラジャー洗濯ネットに入れてたと思うんだけど……あれって二人の時もやった方が良いの?」

「え? あー……どうだろ」

「そういうのは必要な時に言うから。今心配しなくて良い」

「へーい」

 

 というか、と円香は続ける。

 

「一応、言っとくけど、衣服だけじゃなくて、ベッドのシーツとか洗えるもの全部だから」

「ん」

「え、それは私、自分でやるからいい」

「?」

「なんで?」

「樋口はリカに洗ってもらって良いの?」

「……やっぱり自分達の分は自分でやる」

「え、なんで? 俺全然……」

「「いいから」」

「声を揃えて⁉︎」

 

 二人揃って止めると、円香がすぐに話を移した。

 

「浅倉はお風呂とか部屋とかの掃除」

「え、どうして?」

「私の朝、昼、晩の食事係と洗い物と交換する?」

「分かった。十年経っても新品みたくしてやるから」

 

 これで、とりあえずなんか将来結婚しようみたいな約束をしている子供の会話は抜け出せた。

 さて、朝ごはんを食べ終えた。そろそろ、今日の本題である。

 

「で、何処に行くの?」

「動物園」

「やったぜ!」

「何その直球の喜び方。小学生なの本当に?」

「ていうか、リカ。動物園行くのは良いけど、ちゃんとルールは守ってね」

「ルール?」

「動物の檻の中に入らない、手懐けない、触れ合わない」

「そんな事しないよ」

「信用ならない」

「え、なんで?」

「とにかく、移動する時は私か浅倉、どっちかが手を繋ぐから」

「俺は子供かよ……」

「「そうでしょ」」

「……とにかく、準備しようか」

 

 食器を片付け始めた。

 円香が食器を洗っている間に、菅谷は着替えに行き、透は歯磨きをする。円香も手早く終わらせると、歯磨きをし始めた。

 それを完了すると、自分達が使わせてもらうためなのにほとんど使っていない部屋で着替えを始めた。

 二人とも気合を入れた私服に身を包んだ後、最後に手に取ったのは、耳につけるピアスとイヤリング。誕生日に菅谷からもらったものと、クリスマスにお互いに送ったものだ。

 

「よしっ」

「行こっか」

 

 何かに気合を入れるように言った二人は、部屋を出て、菅谷と合流した。

 

 

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