浅倉が増えて、樋口のストレスは加速した。   作:バナハロ

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朱に交われば赤くなる。

 9月になった。

 久しぶりの学校が始まり、円香は透と一緒に登校した。席に座ると、透が自分の席に荷物を置いて歩いて来る。

 

「いやー、久々だね。学校」

「前に川ボラ来たでしょ」

「でも二週間くらい前じゃん」

「まぁね」

 

 あの後、割と菅谷と一緒にいる事も増えて来て、三人一緒にお祭りに行ったり、美術の課題の風景画を描きに行ったり、最終日に図書館で三人集まって宿題を終わらせたりした。

 とにかく、来年から絶対、3人で宿題を三分の一ずつ分けて写し合いにしてやる、と強く決めるほど大変だった。

 

「浅倉、来年からもう宿題見せないからね」

「え、なんで?」

「浅倉と菅谷が三分の一ずつやるなら、写させてあげるから」

「え?」

「何その返事。自分はやるつもりないって事?」

「いや、来年はもう菅谷いないでしょ」

「……あ、そっか」

 

 そういえば、今年で卒業だった。未だに菅谷がどこの高校に行くかは知らないが、なんだか一緒にいるのが当たり前みたいに思ってた。

 ……それを思うと、なんだか少しだけ羞恥心が込み上げて来る。その円香を見て、透が珍しくフォローするように言った。

 

「私も気持ちは分かるよ。なんか、今年初めて知り合った感じしないよね」

「あんたは似てるからでしょ」

「え、そうかな」

 

 残念ながら不発だったが。……しかし、そう思うと円香自身にとっても、おそらくそうなのだろう。

 透と似ているから、4月に初めて会った気がしない。そう思うと、割と初対面からガンガン言ってしまった自分の事は、今思えば反省してしまう。……まぁ、菅谷が相手だし、あんま気にすることないか、とすぐに反省を打ち消したが。

 

「まぁ、向こうにその気があるなら、卒業しても連絡くらい取れるでしょ。チェインとかあるし」

「そっか。じゃあ、私めっちゃチェイン送ろ」

「勝手にすれば。私は送らない」

 

 少し、来年も一緒にいると思っていたことが癪だった為、しれっと返しておく。そもそも、あいつと一緒にいても疲れる事の方が多い。

 お祭りに行った時は勝手に透と別方向にウロウロし始めて、二人の位置を可能な限り把握しないといけなかった。二人とも、行く店が割と円香にも興味ある店だったのが余計に腹立つ。

 美術の宿題をやりに行った時は、一人だけ川じゃなくて蟻の絵を描いていた。これはもう捨て置いた。ムカつくほど上手かったし。

 最終日の宿題なんて、途中で飽きて透と脱走し、かくれんぼになる事も多かった。誰と誰の宿題を手伝い、写させてやっているのか考えて欲しい。途中で見せるだけ見せたが、円香もやめて本を読み始めると、二人ともやり始めたので、本当に放っておいた方が良いのかもしれない。

 だから、別にあんなのいなくたって平気だ……ん? 平気かどうかの悩みだったっけ? と、悩んでいると、自分の隣の席に男子生徒が現れる。

 

「うーっす。浅倉、ヒグマ」

「おはよう」

「誰がヒグマ?」

「いや、夏休みも終わったし、そろそろ新しいあだ名を考えてた所で『樋口円香って、略したらヒグマじゃね?』って……」

「アレだ。夏休デビューってやつ」

「それだ」

「どうでも良いけど、その呼び方しても返事しないからね」

 

 しれっと一刀の元、斬り捨てた。もうヒグっさん呼びの訂正は諦めたが、ヒグマとか言う真夏のキャンプに気を付けなければならない哺乳類みたいな呼び方は頼むからやめてほしい。

 そんな中、透が隣から割り込んできた。

 

「ね、私のあだ名は?」

「浅倉? 浅倉は〜……南ちゃん?」

「え……やだ」

「いや、ていうか浅倉ってやたらと呼びやすいから、浅倉のままが良い」

「え、私のママ?」

「うん」

「私のママの名前知ってたっけ?」

「え、いや知らないけど」

「え?」

「え?」

 

 なんか噛み合わない二人の話を聞くこともしないで、円香はその場でため息をつく。

 

「ていうか、別に樋口って呼びづらくないでしょ」

「え? うん、まぁ」

「じゃあそのヒグっさんって呼び方もやめて」

「えー、もうヒグっさんで慣れちゃったよ」

「良いじゃん、ヒグっさん。私もアサっさんが良い」

「いやそれは呼びづらい」

 

 まぁ、こう言うやりとりになるから、訂正はもう諦めた所あるのだが。

 そんな話をしていると、教室に先生が入ってくる。それに伴い、透は一度、軽く挨拶して席に戻った。

 

「おーし、お前ら。久しぶりー。とりあえず、課題回収すんぞー。英語から前に回せー」

 

 先生のセリフで、全員が課題を前の人に流して渡す。円香と菅谷は一番後ろなので、自分達が回さないと回収が始まらない……のだが、菅谷は鞄の中を漁り続ける。

 

「何してんの?」

「ないわ、課題」

「……は?」

「忘れちゃった」

「……全部?」

「全部」

「……」

 

 思わず円香はため息が出る。この男、何故ここまでバカなのだろう、と。せっかく手伝ってやったと言うのに、このザマである。

 それと同時に、少し後悔してしまった。昨日、宿題が終わって解散した後、透には「ちゃんと忘れないようにね」と伝えておいた。それを、菅谷にするのを忘れていた。

 

「はぁ……どうすんの?」

「先生に土下座するわ」

「土下座は逆に怒られると思うけど?」

「じゃあ袖の下」

「もっと怒られるでしょ。普通にお願いしたら?」

「……そうする」

 

 さて、菅谷の列も、菅谷の前の席から回収が始まり、課題のプリントが重ねられていく。

 普段、給食に使われる配膳台の上に、課題が全部、重ねられると、先生は続けて言った。

 

「今、自己申告すれば、少なくとも俺が受け持ってる公民の分は明日まで許してやる。課題、忘れた奴はいるか?」

「はーい」

「菅谷、お前は分かってる。手を下げろ」

「いや、違うんですよ。ちゃんとやってあるんです」

「分かったから。そう言うのは持ってきてから言え」

 

 そう言って菅谷はおとなしくされる。まぁ、公民の分だけ待ってもらえただけでも良しとするべきなのだろう。

 すると、先生は今度は透の席の前に立ち、まるで重要参考人として連行した被疑者に詰め寄るように、机に手を置いた。

 

「浅倉、白状しろ」

「え……何を?」

「課題、忘れたろ? 言ってみ? ん?」

「いや、持ってきたけど」

「今なら公民は許してやるって言ってんだろ?」

「や、ほんとに」

「……」

 

 日頃の行いが、これでもかと言うほど火を吹いていた。流石に円香にもフォローは出来ないので、黙って無関係を装っていると、先生が円香の方を見ているのに気づいた。

 

「樋口、お前ん所の双子、どうなってんだ? ちゃんと面倒見ろよ」

 

 それにより、教室内から控えめな笑いが漏れる。イラリ、と額に青筋を浮かべた円香は、すぐに言い返す。

 

「は? 私の子みたいに言わないでくれません?」

「でも保護者だろ?」

「違います」

 

 ……とはいえ、まぁ宿題をやってあるのも持って来たのも事実なので、このまま透が攻められるのは少し可哀想な気もする。

 仕方なさそうにため息をついた円香は、すぐに続けた。

 

「ていうか、少なくとも浅倉の課題はあると思いますよ。昨日、菅谷とまとめて見ましたので」

「やっぱり保護者じゃん」

「は?」

「っ……怖っ」

 

 お調子者のクラスメイトを眼力で封殺すると、続けて言った。

 

「疑わしいなら今、確認してくれません?」

「……あっそ。なら良いや。じゃ、お前ら廊下出ろよー」

 

 とりあえず信用することにしたのか、先生は廊下に並べさせた。これから始業式である。

 

 ×××

 

 さて、始業式が終わり、教室に戻って来た。とりあえず、もうやる事は何もない……はずだが、先生は全員に言った。

 

「よし、お前ら。席替えやんぞ」

 

 そのセリフに、また全員が盛り上がる。本当に同じイベントで盛り上がるなんて単純、と円香は鼻息を漏らした。

 しかし、まぁそろそろだとは思っていた。前回の席替えは6月だし、新学期になったこともあって心機一転と化すのは考えられた事だ。

 

「あーあ、ヒグっさんともお別れかー」

「転校するみたいに言わないでくれる? 席が変わるだけでしょ」

「でも、寂しいじゃん」

「……別に。むしろ清々する」

 

 本当に鬱陶しいし、なんなら寝顔を見ないために寝かさないよう、起こし続けるのが大変だった。だから全然、清々する。

 

「ふーん、俺は寂しいけどなー」

「……」

「あ、でも浅倉と一緒になれるならやっぱ寂しくないや」

 

 そんな言葉を聞きながら、回って来たくじを引く。全員が番号を確かめ始める間、先生が続けて言った。

 

「あ、ちなみに次の席順が修学旅行の班員になるからな。心して引けよー」

 

 引く前に言えよ、と誰もが思ったが、黙って全員、くじを引いた。そういえば、修学旅行かー、なんて円香はぼんやりと思った。

 まあ、旅行でくらい周りの言う「保護者」の位置から外れて一人、のんびり回るのも良いかもね……なんて、思ってもいない事を思いつつ、机を移動した。

 また一番後ろ、そして今度は廊下側になった。相変わらず、程よくサボれる席だ。

 さて、誰が班員になるかなー……なんて思っていると、前の席に透が来た。

 

「あ、樋口じゃん」

「……結局、保護者ね……」

 

 まぁ、こっちなら楽出来るし、悪くない……なんて思っていると、透の隣に菅谷が来た。

 

「お、ヒグっさんと浅倉」

「わっ、勢揃い」

「……」

 

 気苦労を覚悟する他なかった……はずなのだが、そこまで憂鬱には感じなかった辺り、やはりなんだかムカつく。二人にも、自分にも。

 残りの一人は、同じクラスの男子生徒。菅谷の後ろ、円香の隣の席に来るなり、焦ったような声を漏らす。

 

「え……ま、マジ? 三馬鹿姉弟勢揃い?」

「……は?」

「あ、しまっ……!」

 

 円香が一瞥した直後、その生徒は口を塞ぐ。しかし、時既に遅し。

 

「あんた今なんて言った? 三馬鹿姉弟?」

「い、いや……」

「それ私も含まれてんの? てか、誰と誰が姉弟?」

「ちょっ……別に俺が言い出したわけじゃないし……」

「……それどういうこと? クラス全員が言ってるわけ?」

「……」

 

 目を逸らす男子生徒。クラス全員を見ると、一斉に顔を背けた。

 

「菅谷、私達姉弟だって」

「なんそれウケる。マジで姉弟になれちゃったじゃん」

「菅谷が弟なのは確定してるとして、私と樋口、どっちが姉?」

「え、なんで確定?」

 

 バカ二人はもう受け入れている。コイツらのせいで、自分までバカにカウントされて……いや、まぁ心当たりがないわけでもないが。その事実が余計に怒りを増させた。

 

「……ちなみに、言い出しっぺは?」

「先生」

「……は?」

 

 片眉を上げながら黒板の方を振り向いた時には、もう教員の姿はなくなっていた。

 

 ×××

 

 さて、翌日。授業の中にたまに混ざる「学活」の授業。学級活動という奴だ。

 この時間は、修学旅行の予定について班員で決める。使って良いのは、図書室とコンピューター室。

 自分達の残りの班員の一人は「俺は俺で調べるから」と早々にいなくなってしまった。

 

「いるよね、ああいう協調性ないの」

「それな」

「あんたらが言うな」

 

 そもそも、あの男の子の気持ちも円香にはわかる。三馬鹿姉弟とか抜かされている三人の中に放り込まれたら、誰だって気まずいだろう。……とはいえ、わざわざフォローしてやるほどお人好しでもないが。

 図書室で京都・奈良関連の資料を漁りながら、透が聞いた。

 

「で、どうしよっか。自由行動出来るのって一日目の午後と二日目の午後でしょ?」

 

 奈良と京都で半日ずつ。三日目は全員グループ行動になる。

 まず手を挙げたのは、菅谷だった。

 

「俺、あれ食べたい。どろどろスープのラーメン」

「グルメ旅行じゃないから。そういう話すると浅倉が……」

「あ、じゃあ私、京野菜のカレー食べたい」

「ほら乗っちゃう……」

 

 グルメ旅行はプライベートで行ってもらいたいものだ。食べ過ぎると普通に太るし。

 

「そうじゃなくて、観光地でしょ。清水寺……はクラスで行くからいいとして、京都と奈良の観光地を探してくれる?」

「鹿公園」

「大仏公園じゃなかった?」

「奈良公園ね」

 

 少なくとも、円香はそのイージーな名前を間違えて覚えている人を見たことがなかった。

 

「とりあえず、そこ行ければ良いよね」

「うん。ロデオしたい」

「あれ天然記念物だから。そんな事したら怒られるよ」

 

 ロデオはそもそも牛である。せめて一般常識は身につけて欲しいところだ。

 

「……そうじゃなくて、何処で時間を潰すか考えないとだから。修学旅行に行った後は、どうせレポートとか書かされるし、ちゃんと事前に調べておかないと面倒になるよ」

「あ、俺あれも食べたい。バッテラ」

「聞いてんの?」

「じゃ、私たこ焼き」

「それ大阪だし」

「京都も大阪も同じじゃないの?」

「浅倉、それ現地で言ったら殺されるかもだから気を付けて」

「えっ」

 

 よくもまぁ、ここまで言いたい放題出来るものである。もうこうなってしまったら、食べ物の話から脱却できない。

 そうなったら、円香もツッコミなんて入れても無意味だ。

 

「私はにしんそば食べたい」

 

 もう訂正を諦め、話に参加した。それを聞いて、菅谷が賛同するように微笑んだ。

 

「良いね。正直、俺観光よりも食い倒れ旅行のが興味ある」

「分かるわ。なんなら行っちゃう? 私達だけ、大阪に」

「……ありだな。大阪なら、たこ焼きもお好み焼きも串カツもあるし」

「一応、後で聞いてみよっか。先生に」

 

 なんて変な方向に話は盛り上がっていく。最近になって、円香は二人の自由さに当てられるようになってきていた。

 菅谷が、ふと思い出したように言った。

 

「あ、大阪といえばU○Jあるじゃん」

 

 デ○ズニー擬き……なんて言えば双方から怒られるアレである。実を言うと、映画等の作品などで言えば、デ○ズニーより円香はバ○クトゥザフューチャーやス○イダーマンの方が好きである。

 円香が少し行きたい、と思ったあと、さらに透が続けて言った。

 

「良いね。あと大阪城」

 

 それは正直、興味なかった。いや、見たくないわけではないが。何にしても、行きたいところがあるのは結構だが、その二つの間にどれほどの距離があるかを知らないといけない。

 

「待って、二人とも。全部回るなら計画的にルート決めないと無理。泊まる宿は京都だから、交通の面でも考えないと。特に、U○Jなんて行ったら一日潰す事になるよ」

「じゃあ、その辺は樋口よろしく」

「うん。俺らそういうの出来ない」

「はいはい……あんたら、代わりに案出してね」

 

 と、言うわけで、三人で計画を練り始めた。行き帰りの時間を含め、あれこれと考え、大阪を回るのに可能な限り現実的な案を作り上げた。

 その結果……。

 

「京都・奈良って言ってんだろ、三馬鹿姉弟」

 

 勿論、やり直しを喰らった。

 

 ×××

 

 土曜日、円香と透は、雛菜や小糸と買い物に来ていた。旅行に持って行く化粧品のためである。化粧水やリップなど、そういった物を三日間分、持っていかないといけない。年下二人は付き添いである。

 手早く買うべき物の購入を終えて、ついでに本屋などで旅行雑誌を立ち読みしていた。

 

「あーあ〜……透先輩、修学旅行なんて休んじゃえば良いのに〜」

「ひ、雛菜ちゃん……ダメだよ、わがまま言ったら……!」

「円香先輩は別に良いけど〜」

「何。一々、私を引き合いに出さないと気が済まないわけ?」

「雛菜と小糸ちゃんも来る?」

「ぴゃっ⁉︎ 行けるの⁉︎」

「やは〜〜〜♡ 行く〜〜〜」

「行けるわけないでしょ」

 

 もうほとんどいつもの会話である。仲良いのか悪いのか分からないが、雛菜がまともに会話する時点で、円香ともそれなりに仲が良いと見るべきだろう。

 雑誌を眺めながら、透がふと思ったように聞いた。

 

「二人とも、お土産は何が良い?」

「えっ、か、買って来てくれるの……⁉︎」

「透先輩好き〜♡」

「勿論。樋口と割り勘で」

「……まぁ良いけど」

 

 割り勘なんだ、と少し意外に感じてしまった。勿論、割り勘ということは二人で一つずつのお土産を二人に買うことになる。二人で二人に買ってくるより低コストで済むので、そう言う意味だとセコイとは思うが。

 

「やは〜♡ じゃあ、雛菜はね〜……京都のおばんざい食べたい〜」

 

 まぁこう言う無理難題を平然と抜かす可愛げのない後輩だから、それでも良いか、と思ってしまうわけで。

 ちなみに可愛げのある……というか、可愛げしかない後輩の方は。

 

「じ、じゃあ……私は、よーじやのあぶらとり紙! 私ももう、大人だからね!」

 

 と、一番低く小さい胸を張ってそう言った。本当にどこまでも可愛い子である。本当は八つ橋とか食べたいだろうに。

 

「わかった。じゃあ、小糸はよーじやね」

「雛菜、やっぱり八つ橋の方が良いかも〜」

「えっ、ひ、雛菜ちゃん……八つ橋にするの?」

「うん〜。甘いもの食べると、しあわせ〜ってなるから〜」

 

 さっきまでおばんざいを望んでいた少女とは思えないセリフである。それが雛菜たる所以ではあるのだが。

 お陰で振り回される方は大変である。そんなことを目の前で言われれば、小糸も当然、食べたくなってしまうわけで。

 

「じ、じゃあ……やっぱり私も八つ橋!」

「味は?」

「チョコレートで!」

「雛菜はあんこ〜」

「っ、や、やっぱりあんこ!」

 

 ちょっとよくわからない所まで競い始めた。可愛い、と思わず円香も透も雛菜もほっこりしてしまう。

 そんな生温かい目を逃れるべく、小糸は新しく提案するように言った。

 

「し、修学旅行と言えばさ、やっぱり夜だよね! 男の子と女の子が集まって、トランプとか枕投げとかしちゃって……」

「いや、男子と女子はまず階が違うから。先生とか見張ってると思うし、無理でしょ」

 

 が、円香が切り捨てる。教員が思っているほど、中学生の性欲は強くないのに、万が一に備えてかなりの数が防衛に出ている。

 

「そ、それ以外にもさ、好きな男の子と宿を抜け出して、浴衣で空を眺めるとか……」

「え……10月中旬だし、お風呂上がりだと普通に寒いかも……」

 

 透が少し困惑したように言う。夜は割と冷え込む季節だし、そもそも浴衣で外に出ればかなり目立つ。

 

「ほ、他にもさ! 外に出なくても部屋に入らなくても、温泉の近くにある卓球台で、身体を動かすとか!」

「雛菜、部屋でお菓子食べてた方が幸せかも〜」

「……」

 

 小糸は涙目になって黙るしかなかった。で、小糸が涙目になれば、黙っていない奴が一人、いるわけで。

 さりげなく庇うように小糸の前に出た円香が、頭を撫でてあげながら透と雛菜を睨み付ける。

 

「あんたら、もう少し夢見る小糸の話に付き合ってあげられないわけ?」

「え、樋口が真っ先に止めてたんじゃん」

「あは〜♡ 円香先輩、最低〜〜〜」

「は? 私は私、あんたらはあんたらでしょ」

「お、落ち着いて三人とも……!」

 

 なんか勝手に険悪になり始め、小糸が慌てて止めるしかなかった。

 何はともあれ、もうすぐ修学旅行である。

 

 

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