福丸小糸は、サングラスにマスクを装備してゲームショップに来ていた。ノクチルの放送以外でゲームをあまりやることがない小糸だが、どうしても調べなければならないことがあった。
……そう、乙女ゲーである。それも、ただの乙女ゲーではない。姉妹間モノの乙女ゲーだ。
何故、こんな暴挙に移ったのか、それはここ最近の出来事に遡る。
最初聞いた時は「ぴえっ? ふ、二股?」とは思ったが、それでもまぁ某画像のように「でも幸せならOKです」と、透と円香の顔を見て少なからず思ったので流した。
しかし、驚いた。その彼氏の口から聞いたが、三人は既にエッチなことを経験していて、しかも何を思ったのか兄妹プレイに手を出しているらしい。
透は……まぁ、多分あれで案外、切り替えられるから良いとして、気を許した相手には驚く程、ちょろい円香にはマズイ。実際、この前は異変が出ていた。
そのため、今日はまずその「兄妹プレイ」とはなんなのかを理解しにきた。元に戻すには、理解することである。
で、まぁ……ちょっと今、18歳未満禁止のものを見るのはあれなので、先に全年齢版の兄妹ものの乙女ゲーを探しにきたわけだ。
「……」
が……分からない。自分にお兄さんはいないが、妹はいる。異性ではないが、どう考えたってそれを恋愛対象としては見れない。妹を仮に弟として見たとして、その上でメチャクチャイケメン、勉強も出来て柔道もアホ強く、頼り甲斐しかない天然として見ても無理だ。ましてや、エッチなことをするなんて確実に無理。
はぁ、とため息が漏れる。だが、まぁこの手の感情はそもそもやってみないと分からないものだ。
「……よ、よし……!」
とりあえず……「店員のおすすめ評価☆5」の奴を手に取ってみた。裏表紙を見ると、日本人の兄のはずなのに、やたらと髪の色が賑やかな人、にクールな髪の色なのにキザッたらしく見える男の人、そして髪の色自体は普通だけどメガネをかけてジョジョ立ちのようなポーズをしている三人が映っている。これを自分は兄と見て、誰か1人を落とさないといけないらしい。つーか、兄妹なのに全然、似てない。
「……菅谷先輩に似てる人……って言ったら、賑やかな人かな……」
髪の色ではなく、性格は一番、明るそうだ。さて、これを持ってレジに……と、思ったところで、棚の前から離れると、見覚えのあるスーツの人とメガネの人とばったり遭遇した。
「あっ、いとちゃ……えっ」
「小糸? こんな所でな……えっ」
「ぴえっ」
目の前にいたのは、三峰結華とプロデューサーさん。
変装しているのに正体がバレた上に、兄妹ものの乙女ゲーを持っているところを見られた。
コミュ障とか内弁慶とか、そんなん関係なくフリーズしてしまった。
「え……いとちゃん、そういう趣味……?」
「い、意外だな……いや、意外でもないのか……?」
「い、いやっ……そ、その……これは、違っ」
「だ、大丈夫。三峰は何も誰にも何処にも呟かないよ。ノクチルの三人にも言わない。うん。性癖は人それぞれだから」
「い、いえ、ですから違」
「ただ……本当に兄がいる身として一言だけ言わせて」
全く話を聞く気がない結華は、ガッと小糸の両肩に手を置いた。意外な力強さに「ぴえっ」と声が漏れる。
そして、メガネ越しにらしくなく鋭い視線を自分の視線に合わせた結華が、やたらと実感のこもった声で言った。
「……兄にそんな感情を抱く妹はいないから。それだけは忘れないで」
「ぴえん……」
思わず涙が流れそうになった反面、ふと思ったことがあった。
「そ、それ……義兄とかでも、ですか……?」
「……」
すると、結華はとっても意外そうな表情になる。自分がそんな事を呟いたのが意外だったのだろうか? いや、意外だそれは。
が、やがて結華は両肩にあった手を顎に当てて目を逸らす。
「……考えた事も無かった……義兄、か……お兄ちゃんと血が繋がってなくて……日常生活を送る……」
「は、はい……!」
「……もしかして、いとちゃんそういうの興味あるの?」
なんて答えようか……いや、普通にないわけだが。だが、円香を元に戻すため、目の前のサブカル女子から色々と話を聞くのはアリかもしれない。
「……は、はい!」
「よし……今度、良かったら良い感じの乙女ゲー探しに行かない?」
「良い、感じ?」
「義兄ものの」
「……いきます!」
「えっ⁉︎」
声を漏らしたのはプロデューサーだった。
「い、行くのか……?」
「は、はい……! 私には、道に戻さなければならない人がいるので……!」
「え、教員目指してる?」
そんなツッコミも無視して、結華と小糸は握手をした。
「じゃあ、次の休みに……新しい道を模索しよう!」
「は、はい……! では、私はこれを使って先に勉強しておきます!」
「待った、いとちゃん!」
「な、なんですか……?」
「兄と義兄じゃ全然、違う。実際に実の兄がいる三峰が言うんだから、間違いない」
「そ、そうなんですか……?」
「そうだよ。……だから、お宝は私と出かける時に、至高の一品を掘り出そう」
「は、はい……!」
頼りになる……! と、普段のコミュ障も忘れて目を輝かせる小糸と、新たな道とその布教を同時にこなす結華の姿を、プロデューサーは複雑そうに眺めた。
×××
「ふっふっふー、ついに追い詰めたぞ。ライダー」
「現れたな……怪人、クリアサイダー!」
七月手前になって、そろそろ暑くなってきた頃。シェアハウスで暮らす馬鹿二人は、良い歳して暴れていた。
「ライダー……変、身! とうっ」
ポーズを決めた明里は、ソファーの上から両手を上に伸ばしてジャンプした。指先が天井に直撃し、ボギッと嫌な音がした。
「痛っ……」
「隙を見せたな、ライダー!」
「え」
割とシャレにならない音が聞こえたのだが、蹲っている明里に透は聞く気もなく詰め寄ってくる。
「ちょっ、今突き指したから待って……」
「いないでしょ。突き指したからって待ってくれる怪人」
「や、安全を考慮して特訓しないと……」
「浅倉レインボー」
「や、待っ……あひゃひゃひゃひゃひゃ!」
脇の下に指を挟まれ、小刻みに指先のみで振動される。しかも、蹲っている背中の上に跨って、だ。
「し、死ぬっ! とおるっ……や、やめっ……!」
「わ、今呼び捨てした? 新鮮。もっかい」
「もっがいじゃなくってっひゃっひゃっひゃっ!」
なんていう馬鹿をやっている二人を眺めながら、円香は小さくため息をついた。本当に元気なものだ。
今度、明里が仮面ライダーをやる事になったらしいので、その練習を二人でやっているらしい。大学生のアイドルと大学生のモデルが二人揃って仮面ライダーごっこ……流石に円香は付き合いきれないので、無視して明里が出ているファッション誌を読み耽る。
「……」
……えっちだ。夏に向けての特集らしいが、爽やかな青いシャツを第二ボタンまで開けて、胸元の大胸筋をチラつかせ、その胸元にサングラスを引っ掛け、アンニュイな視線を空に向けている。……えっちだ。
えっちだ、が……これが……。
「こっ、の……そっちがその気なら……!」
「わっ……すっごい力……!」
「ライダープロペラ!」
「おごっ……⁉︎」
どうやっているのかは知らないが、透の下で高速回転して体を上に向けた直後、両腕で透の脇の下に手を差し込んで持ち上げると同時に担ぎ上げ、フル回転し始めた。
「ちょっ……やめっ、よ、酔う……!」
「やめなかったのはそっちが先だから……うげっ、俺も酔ってきた……」
「アホー!」
あのたまに出る人間離れした瞬発力と身体能力はもちろん、仮面ライダーの役者に向いているが、今気になるのはそこではない。
……あの、バカなことしている子が、この雑誌のクールな青年と同じ人……ホント、人は見た目通りとは限らない生き物である。
「……はぁ、まぁ良いか」
こういうアンニュイな明里は新鮮だから、別に良い。こんな顔で明里にふまれるのも悪くないかも……なんて魔が差して呟きながら、雑誌を閉じた時だ。スマホが震えた。
「……二人とも。静かにして。プロデューサーから電話」
「え……それ、私らが出て行かないといけないの……?」
「いいよ、とおるん。ついでに休憩しよう。コンビニでアイス買いに行かない?」
「お、良いねー」
「マドちゃん、今から会えない? みたいな電話だったら俺に言ってね。何もしないけど明日には彼の身に何か起こってるから」
「はいはい。私、パ○ムのほうじ茶で良い」
二人で部屋を出て行くのにリクエストをかました円香は電話に出た。
「もしもし? プライベートな時間に何か御用ですか? ミスターお節介」
『お節介でも良いから聞いてくれ。緊急事態なんだよ……!』
「そうですか」
『……小糸が今度、結華と乙女ゲーを買いに行くらしいんだ……!』
「……は?」
『それも……義兄モノの』
「……エイプリルフールなら終わりましたが」
『本当だって! こんな嘘、円香につくほど命知らずじゃない』
「どういう意味ですか?」
『円香→菅谷くん→大外刈り』
「……そうでしたね」
なんていうか、すごく話が分かりやすい男だ。
「それで……何故、そんな事に?」
『俺にも分からないけど……でも、円香には伝えておいた方が良いかな、と思ったんだが……余計なお世話だったか?』
「いえ……あなたにしては良い判断だったと言えるでしょう。……その日はいつですか?」
『次の休みって言ってたよ』
「……となると、小糸の休みは来週の土曜。ありがとうございます」
『え、どうするの?』
「それはあなたには関係ないので。情報には感謝します」
『う、うん?』
それだけ話して、電話を切った。さて、そうと決まれば、協力者を募ろう。そう決めて、すぐにコンビニまで出掛けることにした。
×××
さて、土曜日。駅前のロータリーで、小糸は少し緊張気味に肩から下げている鞄の紐を握っていた。
つい、勢いで了承してしまったが、ノクチル以外の人と二人きりで外出なんてあまりない。いまだになれない事だ。
だが、それでも円香を元に戻すため、覚悟を決めるしかない。
すると、その自分の前にサイドカー付きのバイクが止まる。
「おっまたせー、いとちゃーん」
「あ、は、はい……! 結華さん……か、カッコ良いですね……」
「え、そう?」
少し前までは原付だけだったはずだが、進化していた。乗ってみたいと言えば乗ってみたい。
「いとちゃんも……少し、私服大人っぽくなったじゃん」
「え、そ、そうですかっ?」
「うん。三峰はもう20超えたおばさんだからよく分かりますよー」
「そ、そんなことないです! 結華さんも……全然、お変わりなくて……!」
「……胸もね」
「ぴえっ……⁉︎」
しまった、と小糸は声を漏らすが、結華はすぐにへらっとした笑みを浮かべて続けた。
「なーんて、じょーだんだよ。……でも、いとちゃんもそのまま成人までお変わりなかったら、283事務所貧乳同盟を作ろう」
「ぴ、ぴえー……」
「ちなみに、ひおりん、りんりん、じゅりちーも呼ぶ予定です」
嫌だ、と率直に思ってしまったが、もし加盟することになった場合、その三人にも変わっていてほしくないと思ってしまう程度には小糸も成長が無かった。
「よし、じゃあ行こう。最高のそれを探しに!」
「は、はい……!」
そうだ。最高のそれはともかく、円香の性癖のためだ。頑張らないと、と気を強く引き締めて、小糸は結華からヘルメットを受け取った。
×××
「小糸を、サイドカーに乗せてる……羨ましい……!」
「ねぇ、マドちゃん。これ俺何してんの?」
「いいから車出して。見失う」
その二人が出発した少し後ろで、車の運転席に乗っている明里に円香が命令を下す。
後ろの席に透も座ってはいるが、スマホをいじっている。
仕方なく、明里は車を出し、そのまま二人の後をつけた。
「……三峰さん……あの人が、小糸の性癖を……せめて、義兄じゃなくて義姉を勧めてくれれば……!」
「いや、そっちの方がヤバくね?」
「アホは黙ってて」
「……」
あんまりな言い草に、明里は思わず黙り込んでしまうが、円香には関係ない。羨ましいこと山の如しだ。
「……私もバイクの免許取ろうかな……」
「やめといた方が良いんじゃないの。危ないし、事故率高いし」
「取ったら、リカもサイドカーに乗せて連れ回してあげるけど?」
「いや、それ俺が連れ回すべきなのでは?」
「……リカは弟でしょ?」
「その前に彼氏のつもりなんだけど……それに、たまには俺が兄貴になっても良いんだけど?」
「……」
この前のことを揶揄われているのかと思ったが、おそらく違う。むしろ「たまには自分に甘えろ」と言ってくれているのかもしれない。
だが、分かっていない。今この瞬間が、既に甘えている状況であることに。
「……バカ」
「えっ、なんで?」
「リカー、私も乗せてー?」
「三人乗りは無理でしょ……やっぱ車で良いよね」
「それなー」
話しながら、後を追った。
×××
到着したのは秋葉原。やはり乙女ゲームを買うならここだろう。
近くのバイクも停められるパーキングにそれを止めると、そのまま二人で秋葉原の街並みを歩いた。
「す、すごい……秋葉原って、大きい建物が多いんですね……!」
「まぁね。一つの建物にいろんなジャンルのもの売ってるし、見て回るだけでも面白いよ」
「へ、へぇ〜……」
あまり興味はなかったが、少し出て来た。こうして見回すだけでも、建物の看板やら何やらに二次元の美少女やイケメンがデカデカと貼られている。
そんな中、ふと目に入ったのは、頭から馬耳を生やした女の子だった。
「あ……この子、円香ちゃんに似てるかも……」
「ん? あー、タイシンね。……確かに超似てるかも」
「こ、これ、なんのアニメの子ですか?」
「ウマ娘。ウマが女の子になるの。最近、アプリも出たよ」
「え、ウマが……なんで?」
「そこは突っ込んじゃいけないとこだから」
よく分からないが……そう言うなら従っておいた方が良い気もする。それより、少しだけゲームに興味が出た。
「ど、どんなゲームなんですか……?」
「ウマ娘を育成するゲームだよん。面白いよ?」
「わ、私が……円香ちゃんを育成?」
「や、タイシンね。……それに、割とかなり沼ではあるけど」
「沼?」
「あー……まぁ、始めたら止まらないというか……むしろ止まれないというか……割と地獄が待ってる感じはある」
「そ、そうですか……」
「とりあえず、おすすめはやめておくね。責任取れないから」
「わ、分かりました……」
そう返事をしつつも、小糸の視線はその大きなナリタタイシンの絵柄に向く。かなり気になってしまう。このツンデレっぽさが特に。
それを敏感に感じ取った結華は、少しクスッと微笑むと小糸に声を掛けた。
「ま、推しを愛するのは何もゲームをやることだけじゃないからね」
「あ、愛するなんてそんな……」
「同人誌とか見に行ってみる?」
「同人誌って……なんですか?」
「二次創作って言って、他の人のキャラで漫画を描くの。……ま、見てみた方が早いよ」
そう言って、二人でそのお店に向かった。
高いビルのお店に入る。小糸にとっては見たことのない建物だ。
「お、大きい……」
「さ、入ろう入ろう」
話しながら、エレベーターに乗って六階に到着した。中に売っていたのは……薄い本が大量に置かれている本棚だった。
「こ、これが……同人誌、ですか?」
「そうそう。ウマはー……こっちかな?」
話しながら歩いていると、ウマ娘の同人誌が置いてあった。
結華が手に取ったものの表紙には、どこか違う気がするけど、さっきと同じナリタタイシンが写っている本。
「なんか……さっきの子と少し違う?」
「そりゃねー。これ書いたの、さっきのと違う人だし。ゲームをやっている人とかアニメを見た人が描いたんだよ」
「へぇ〜……」
「気になるのがあったら買ってみたら? 高いものでもないから」
「は、はい……!」
こういう創作もあるんだ……と、少し感動ながら、そのフロアを見て回った。
×××
「これと私、どこが似てる?」
「「何もかも」」
「あんたら後でご飯抜きだから」
ナリタタイシンのデッカい絵の前で聞いたが、二人に口を揃えて頷かれたので、少し半ギレした。
「ていうか、いいから小糸の後追うよ」
「いやマドちゃんから話振ったんじゃん」
「……にしても、似てるね。円香とこの、ナリタ……ダイジン?」
「タイキンじゃなかった?」
「ガイジンだった気もする」
「いいから早く来て」
そもそも自分はこんな仏頂面じゃない。……まぁ、表情が変わりやすいわけではないという自覚もあったが。
そのまま三人で、慎重に気づかれないように後をつける。バレたらさすがに怒られるだろうから。
そんな時だった。
「ご主人様、よろしければメイド喫茶で休んでいかれませんか? こちらサービス券をお配りしております♡」
「サービス券って……ラーメン大盛り無料とか?」
「は? あんた何興味持ってんの?」
「大丈夫です」
「あ、すみません」
街で営業していたメイドさんを、秒で二人が追い返した。あまりに鉄壁なガード且つコンビネーションに、メイドさんはすぐに引き下がる。
「あんた……いい加減にしてくれる?」
「あんまモテられると困るんだけど」
「え、もしかして俺、怒られてる?」
「「当たり前でしょ」」
「ええ……」
理不尽なことを言っている自覚はあったが、どうにもやはりこうなってしまう。
それでも明里は特に不満を抱いている様子はなく、二人に声をかけた。
「しかし……賑やかな場所だよね。なんか……ちょっと変な臭いするし」
「まぁ……確かに。結構、道端にタバコの吸い殻とか落ちてるし。ね? リカ」
「わ、悪かったってこの前は……」
「ホントだよ。リカ」
「とおるんだってノリノリだった癖に……」
話しながら、横断歩道を渡った。結華と小糸の二人が渡ったからだ。
だが、正直円香としては思ったより普通の街な感じがする、というのが正直な感想だった。もっとこう……女の子の絵柄が描かれたTシャツを着ている奴がいたり、渦巻きが書いてあるメガネをかけている奴がいたりするものだと思っていたからだ。
むしろ、割とオシャレな人もいて驚いている。
そんな中、透がポツリと呟いた。
「にしても……小糸ちゃんが乙女ゲーかぁ……なんか、感慨深いよね」
「は? 大ピンチでしょ。あの小糸が乙女ゲーなんですけど?」
「まぁ、円香は小糸ちゃんの事、大好きだからね。昔から」
あの小動物を嫌いになる人間はいない。いたら普通に頭おかしいとさえ思ってしまう。
まぁ、何にしても円香の中で乙女ゲー……それも義兄とか少しレベルが高そうに見えるものに良いイメージはない。まずはどういう理由でそれが好きになったのかを知りたい。
「ちなみに……リカは恋愛ゲームとかやったことあるの?」
「ないよ。マドちゃんとかとおるんと出会う前は恋愛なんて興味なかったし。二人は?」
「「まったく」」
「だよねー。なんかそんな感じするし」
円香も、恋愛なんて興味なかった。それこそ、明里と出会うまでの間は。
「わぉ、見てリカ」
「んー?」
「これ、ヒグチタイシンのぬいぐるみじゃん?」
「ほんとだ。やっぱ超似てる」
「そこ、うるさい」
……何度も何度も、好きになる相手を間違えた、と思う事はあっても、別れてやりたい、と本気で思ったことは一度もなかったのだが……やはり不思議なものだ。色々と。
とりあえず、そのヒグチタイシンという言い草はやめてほしいものだ。普通に恥ずかしい。
「……二人とも、次にヒグチタイシンとかほざいたらビンタするから」
「「えっ」」
「いいから、まじめに小糸を追って」
そのまま二人の手を引いて、円香は小糸と結華の背中を追う。
しばらく歩いていると、二人が入って行ったのは、大きな建物だった。壁にはま○だらけ総本店と書かれている。
「うおー、すげー。総本店だって。なんかすごそう」
「わかるわー」
「……こんなオタクオーラがすごい建物に、小糸が……」
感動する二人を捨て置いて、円香は奥歯を噛み締める。何やら垂れ幕には「同人誌」という言葉があったが、脳裏に浮かんだのは明里のガンダムエロ同人預かり事件である。
つまり、同人誌という言葉にあまり良いイメージがない。
「よし、行くよ」
「せっかくだから、色んなもの見てみたくない?」
「うん。良いね」
「……そういうのは二人がいるフロアで見て」
三人とも建物の前で隠れていると、エレベーターに乗り込む二人が見えたので、扉が閉まった後に何階に向かったのかを確認する。
「六階……割と上の方行ったなー」
「階段で行くから」
「「えっ」」
「当たり前でしょ。バレるから、エレベーター使ったら」
「「……」」
円香がサクサクと階段を使って登り始める中、二人は仕方なさそうに階段を使った。
……万が一、えっちな同人誌があったら、その時は明里の目を塞がないといけない。そういう時のためでも、円香は先に登る必要があった。
さて、せっかくの休日とか、知ったことかと言わんばかりにサクサク階段を登った円香は、目的の階に上がる。
「着いた」
一応、ここに上がってきたはず……と、思いながら、中を覗き込む。
「気になるのがあったら買ってみたら? 高いものでもないから」
「は、はい……!」
慌てて引っ込んだ。ウマ娘、だっただろうか? その同人誌コーナー、思ったより階段の近くにあったからだ。
隠れて、中の様子を眺める。小糸はいつもショッピングする時と同じように、見ていた。
……まぁ、正直オタク文化に小糸が触れてると思うと少し複雑だが、それでも楽しそうにしている分には見守った方が良い気もする。あの表情だと、この前のようにえっちなもの、というわけでもなさそうだし。
とにかく、同じフロアにいるのは危険だ。ここは、店の入り口で中を見物するのがベストだろう。
「リカ、透。しばらくここで……あれ?」
振り返ると、いなかった。二人とも。は? と、すぐ眉間に皺がよる。あいつら何してんの? と思ったのも束の間、スマホに連絡が来た。何やら形容し難い怪獣に電線が通り、コントローラーに結ばれているおもちゃの写真だ。
LIKA☆『見てこれ!』
LIKA☆『10万円だって!』
……だから何なんだろうか? この男は……。あと、写真に透が映っているのも謎だ。
何にしても、せめて寄るなら一言声かけてくれれば良いのに。絶対に引き止めたから。
……まぁでも、確かに秋葉原なんて滅多に来ないし、二人とも興味あるのなら仕方ないのかも……と、少し理解しようとしながらも、とりあえず、という風に続けて返信しておいた。
マドちゃん『早く上来ないとビンタするから』