浅倉が増えて、樋口のストレスは加速した。   作:バナハロ

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素直さにも種類はある。

 それから、色々なお店を回った。せっかくの秋葉原なので、メイド喫茶にゲームセンター、よく分からないフィギュアのお店に、あと何故か味と看板が濃いラーメン屋……などなど、とにかく沢山だ。

 それはそれで楽しかったのだが、そろそろ本題に入りたい。

 

「ゆ、結華さん……そろそろ」

「ああ、乙女ゲーね。りょーかいりょーかい」

 

 元々の目的はそれである。そんなわけで、結華の案内でそのゲームが売っているお店へと向かった。

 ……しかし、なーんか誰かに見られている気がする。秋葉原に着いてから気が付いた事なのだが、不思議とその視線に嫌悪感は感じなかった。

 でも……気になる。嫌悪感がしないだけなら良いのだが、その理由が自分ではなく結華に向けられているからだとしたら、やはり嫌だ。

 ……言った方が良いだろうか? いや、結華を不安にさせてしまうかもしれない。

 

「……気付いた? いとちゃん」

「え?」

「……つけられてるよね、ずっと」

「え、あ、はい。……気付いてたんですか?」

「そりゃ、分かりやすかったし」

 

 マジか、と少しだけ小糸は意外そうに結華を見上げる。いや、前々から割と色んな細かいところに気付く人だとは思っていたけど、後ろの尾行にまで気付くとは。

 まぁなんにしても、それなら話は早い。

 

「ど、どうしましょう……」

「うーん……まぁ、放っておいても問題はなさそうなんだけど……これ以上、ついてこられてもねえ」

「……は、はい……」

「よし、一旦別れよっか」

「え?」

「まぁ、三峰を信じて?」

「は、はい……!」

 

 そう約束すると、二人は次の曲がり角で小糸は真っ直ぐ歩き、結華は左へ曲がった。

 

 ×××

 

「……疲れた」

「ちょっと休みたい……」

「二人ともうるさい」

 

 ぴーこらぴーこら言い出した二人を円香が黙らせる。お願いだから、尾行に集中して欲しいものだ。

 

「……ていうかマドちゃんー、別に乙女ゲー買うくらいなんてことないってー。もう俺達も秋葉原楽しもーよー」

「……うるさい。それ私とか透が乙女ゲー買うのをスルーするのと同じだから」

 

 そんな風に言われては、明里も従うほかないわけだが……少し狡いと思わないわけでもない。

 すると、透がふと気がついたように「あっ」と声を漏らす。

 

「なんか二手に別れた」

「え?」

「……どうする?」

「私と透で小糸を追うから、リカは三峰さんをお願い」

「テキパキしてる……」

「ね、指揮官みたい」

「え、なんの指揮官?」

「なんかの」

「任務中にお喋りとは良い度胸だな二等兵達」

「「ご無礼をお許しください」」

 

 速攻で謝った。さて、とりあえず命令通りに二手に分かれた。透と円香は真っ直ぐ歩き、小走りで小糸を追う。

 しばらく小糸を追っていると、コンビニの中に入ったのが見えたので、その中に透と円香も入る……が、その中で小糸は腰に手を当てて仁王立ちしていた。

 

「! 小糸……!」

「わぉ、やられた」

「本当に円香ちゃんと透ちゃんだった……」

 

 小糸も驚いていたので、すぐに理解した。これは結華が考えた作戦……そして、それはつまり……結華が進んで明里と二人になったことを指し示す……。

 

「「リカが危ない⁉︎」」

「ぴえっ⁉︎ ど、どうしたの二人とも……ていうか、どうしてあとつけてたの?」

「後で話すから」

「リカ探さないと」

「だ、ダメー! まずはなんでつけてたのか説明して!」

 

 相当気になっているのか、小糸にしてはしつこく二人の手首を掴んでいる。

 どうする? みたいな視線のやり取りをしたあと「ここまで食い下がられると無視できなくない?」「小糸ちゃんには甘いね。相変わらず」「うるさい。私が話聞くから、透は後を追って」「りょかい」と、視線だけで0.2秒間、会話した後、頷き合ってすぐに提案した。

 

「じゃ、透だけでも先に行って」

「りょ」

「ダメ! 二人で説明して……!」

「「……」」

「ぴえっ……」

 

 ちょっと睨んでしまった。まぁ、ストーキングしてた自分達が悪いのだからお門違いなのだが。

 もうこうなった以上は、さっさと説明して後を追った方が良い気がする。

 

「実はね、小糸……」

「うん?」

 

 そう、元はと言えば小糸が義兄モノの乙女ゲーを買うという話。この際、直接聞いてみても良いかもしれない。

 

「小糸は……義兄が欲しかったの?」

「……ま、円香ちゃんは何を言っているの……?」

 

 ちょっと聞き方を間違えた。とはいえ……どう聞いたら良いのか分からない。こういう性癖的な話は、オブラートに包んで聞かないとならないから。

 頭の中で言葉を選んでいると、透が一刀の元、斬り捨てに掛かった。

 

「プロデューサーから聞いたんだって。小糸ちゃんが買おうとしてるとこ」

「ぴえっ……な、何を?」

「義兄モノの乙女ゲー」

「ぴゃんっ⁉︎」

「……まぁ、そういうこと」

 

 特にフォローする事なく、円香も頷いた。何せ、真っ赤になった小糸はそれは可愛らしかったから。

 

「な、なんでそれを……⁉︎」

「や、だからプロデューサーから聞いた」

「ち、違うの、二人とも!」

「否定しなくても良いよ、小糸。私も透も何も言わないから」

「っ……!」

 

 すると、小糸はちょっとだけ腹が立ったように眉間に皺を寄せる。あれ、今そんな腹立てるようなこと言った? と、円香が小首を傾げると、小糸は顔を真っ赤にしたまま怒鳴った。

 

「そ、そんなの円香ちゃんに言われたくないよ! 本当は菅谷先輩のこと、義兄にしたいと思ってるくせに……!」

「……は?」

「ぴえっ……」

 

 思わず眼光を鋭くギラつかせてしまった。殺意の波動を何とか抑えながら顔を向けて聞き返す。

 

「違うから。リカは弟だから」

「じゃあなんでこの前、普通にお兄ちゃんとか呼んでたの⁉︎」

「っ……」

 

 思い出してしまった。トラウマに近い感情を。いや……まぁ、悪くないと言えば悪くないのだが、それにしても的確にレバーを何度も狙われたように吐血しそうになる。

 

「こ、小糸、やめて」

「私は円香ちゃんがおかしくなっちゃったんじゃないかと思って、まず理解しようと頑張ってたのに……!」

「小糸」

「ていうか、そもそも弟って言うのもよく分からないから! 同い年なのに……性癖変なのは円香ちゃんだよ!」

「……小糸。周り見て」

 

 少しずつヒートアップしていくに連れて、周りの人の視線が向けられていく。ここは、秋葉原の街中なのだ。

 ハッとした小糸は、周りを見る。確かに、ちょっと声が大きかったかも知れない。

 

「とにかく、落ち着けるとこ行こう」

「何処?」

「じゃあ、義妹喫茶で。さっきはメイド行ったし」

「「ええ……」」

 

 困った顔をしつつも、二人ともとりあえず透の案に従った。

 

 ×××

 

 一方、その頃。

 

「えっ、モデルの菅谷明里さん⁉︎」

「えっ、知ってるんですか俺のこと?」

「知ってるよ〜! さくやんが出てた雑誌に出てる子でしょー? ていうか、一時期並んで出てたって聞いてるし。……え、なんで」

「ここにいるか、とかですか? まあちょっと、マドちゃんが狂って……あっ、これ言っちゃダメな奴だった」

「え、まどちゃんって……樋口円香?」

「そうですよ。それと、とおるん……浅倉透も一緒で」

「……え、二人と一緒? どういう関係?」

「口止めされてるんですけど……」

「内緒にするから〜……イロイロ聞かせて欲しいなー、なんて三峰は思うわけですよ?」

「えー……どうしようかな……」

「実は三峰……とおるんとまどちゃんが事務所のソファーでキスしそうな距離感で寝てる写真を持っていまして……」

「どこで話します?」

 

 円香と透の危険察知能力は見事に的中した。ちゃんとおしゃれ雑誌などをチェックしていた結華は、円香と透と一緒にいた男がまさかの相手で、自分の中で芽生えていた「ノクチルにちょっかい出そうとしてる危ない男説」を早くも忘れていた。

 さて、どうせ円香と透と積もる話もあるだろうし、敢えて小糸にはしばらく連絡しなかった結華は、明里と義妹喫茶に入った。

 看板に義妹体験ができるとか書いてあり、結華は誘われていたがお断りして、席に着いた。

 適当に注文を終えて、ワクワクした様子で結華が聞いてくる。

 

「で、ぶっちゃけどういう関係? 二人と」

「付き合ってます」

「ほほう……ズバリ言うねえ。どっちと?」

「どっちとも」

「またまたぁ〜、そういうの良いから本当の所を……え、本気で言ってんの?」

「はい?」

「……ふ、二人と?」

「いや、二人とって言い方は語弊があります。三人で、です」

「……」

 

 なんだろう、この感じ……と、結華は冷や汗をかく。内心、おふざけで「そうだったら面白いな〜」とか思っていたが、いざ本当にそうだと知ると、ちょっとどうしたら良いのか分からない。

 

「な……なんで? つまり、どういう事?」

「え、いやですから」

「二股?」

「まぁ……そうですね。それより写真下さい」

「あ、うん。はい。チェイン……QRコードプリーズ」

「はいはい」

 

 そのまま連絡先を交換し、写真を送った。すると、明里は何を思っているのか、少しだけ微笑んだ。

 

「ふふっ……二人ともやっぱり、事務所でも仲良しだなぁ」

「知らなかったの?」

「いや、知ってたけど、こうして俺がいない時の二人は見る機会がないので。……二人とも、二人でいるのが当たり前だから、あんま写真とか撮らないんですよ」

「そうなんだー」

 

 気がつけば明里のペースで話が進んでしまっていた……が、良い機会でもあるので聞いてみた。

 

「ちなみにだけど……どうして、その……二股? って関係になったの? ていうか、いつからの付き合いなの?」

「中三ですよ。とおるんと隣の席になったのがきっかけでした。そしたら、マドちゃんもとおるんと基本一緒にいるから、そのまま三人で仲良くなりました」

「へ、へぇ〜……そのまま、恋愛に?」

「はい。なんか、三人で一緒にいたいなーみたいに思えて。こんな言い方したら変ですけど……マドちゃんととおるんも、俺を独り占めしたい……みたいなこと言わなくて。俺は二人が他の男の人と一緒にいるの見ると朽木倒ししたくなるのに」

「それ禁止技じゃなかった?」

「? え、護身に禁止も何もないでしょ?」

「……」

 

 ……もしかして、この子だろうか? 二年前に事務所に乗り込んできてプロデューサーに背負い投げをかました、283事務所で伝説になっているイケメンというのは。

 

「ふふ……こがたん、さくやん、まみみん、きりりん……三峰は今、伝説と一緒にいるよ……」

「え、いやそんな大袈裟な……」

「ね、写真撮らない? 記念に」

「あの、俺別に天然記念物とかじゃないですよ?」

「ん、良いじゃん。一応、芸能人同士の記念って事で」

「まぁ良いですけど……マドちゃんととおるんには見せないで下さいよ」

 

 ……お、意外な反応……モデルなんてやってるんだし、二股状態だし、あまり気にしないのだと思っていた。

 

「……ただでさえ二股をしているのに、他の女の子とも仲良くするんだ? って、殺されるので……」

「でもそれ事実じゃない?」

「いやあなたが誘って来たくせに……それに、とおるんとマドちゃんと同じ事務所の方からのお誘いを断るわけにはいかないでしょう。俺、尾行してた側ですし」

「あ、それ一応、聞いておかないと。なんでつけてたの?」

「マドちゃんが『小糸が乙女ゲーを買うなんておかしい』って」

「ああ……それは三峰も思ってたけど、まぁ良いんじゃない? 性癖は人それぞれだし」

「そうですよね」

 

 なんて話していると、隣を義妹喫茶の衣装である高校や中学くらいの制服を着た女性が横を通りかかった。

 

「あ、すみません。写真撮ってもらって良いですか?」

「…………は?」

「……あら」

 

 横を通りかかったのは、円香だった。声をかけられた事により、円香の眉間に皺がより、額に青筋が立ち、口元が引き攣る怒りの円香三点セットを発揮。

 ヤバい、と結華は冷や汗を流す。修羅場だ。それも、超弩級の。例えるならそう……光秀、秀吉、信長の同窓会のように。

 ヤバい……と、結華は思わず目を逸らした時だ。

 

「わっ、マドちゃんセーラー服も超似合うね!」

「……は?」

「えっ」

 

 何一つ理解していないような男は、純真で純粋で純白な笑みを浮かべてそう言った。

 

「ていうか、どうしたのその格好? なんでコスプレ?」

「お店の義妹体験で……いや、そんな事より、なんで三峰さんと二人で写真……」

「ああ、なるほど。言われてみれば、マドちゃんまだまだ全然、高校生にも見えるもんね」

「い、いやだから、そんなことよりもなんで……」

「ね、写真撮ろうよ。二人で……あ、三峰さん。写真お願いします」

「え、今頼もうとしてたの三峰達……」

「マドちゃん、隣座って。で……なんかこう、妹っぽく甘えて」

 

 スゲェ、と結華は変に感心してしまった。最初はゴリ押しで誤魔化すつもりかと思ったが、これを演技でやっているのなら、モデルより役者をやった方が良い。

 案の定、円香は。最初こそ怒っていたはずが、最初の一言で顔を真っ赤にし、その次の質問で冷静さを取り戻したものの、また褒められて赤くなる。青筋も引き攣りも取れて、最後に残ったのは眉間の皺だけだった。要するに、1番可愛い奴である。

 で、結局……。

 

「…………妹っぽく甘えるって何」

「それはー……マドちゃんが一番、甘えたいポーズで」

「ミスター無責任」

 

 明里の隣に座りながら「お願いします」と呟きながら、円香もしれっとスマホを結華に手渡していた。

 ……ダメだ、この子……可愛過ぎる。思わず、嗚咽が漏れそうになる程。

 

「三峰さん?」

「は、はいはい……じゃ、撮るよ?」

 

 話しながら、円香は明里の方に体重を預け、肩に頭を置いた。妹……というより、恋人にしか見えねえ〜……と、思いつつも、まぁでも兄妹の甘え方なんて割とあんなもんかもしれない、と思い直す。

 

「じゃ、撮るよー」

「……リカ」

「んー?」

「……お兄ちゃん」

「はうっ……」

 

 自分は何を見せられているんだ……と、少し嫌そうな顔になってしまった時だ。

 

「ほ……ほら、やっぱり円香ちゃんも義兄が性癖なんじゃん……!」

「は?」

「え?」

「いとちゃ……え、なんでスモッグ着てんの?」

 

 それもまさか衣装? このお店の妹の範囲広過ぎない? と、結華が思うのも無視して、円香はまた顔を赤くしたまま続けた。

 

「違うから、小糸。これは別に……」

「な、何が違うの……⁉︎ 今、お兄ちゃんって呼んでた……」

「小糸も思わん? 俺、やっぱ弟より兄だよね」

「あんたは黙ってて」

 

 素直さはこういう場合、マイナスに働くんだな……と、結華はもうなんか傍観者の心地で二人を眺めていた。

 そんな時だ。いつの間に、と思うほどいつの間にか、白セーラー服の透が明里の隣の席に座っていた。

 

「ふふ、おにーちゃん」

「わぉ、とおるん? とおるんは、白いセーラー服なんだ。可愛い」

「いえーい」

 

 そう言いながら、透は明里に体重をかけ、腕を腕に絡める。本当に二股だった。そして、本当に二人とも明里を仲良く半分こしていた。

 すごいな……と、変に感心している場合でもない。透は明里に甘えはじめて、円香は小糸に迫られているカオス状態。周りの客の視線も集めてる……というか、どの義妹がいる机よりもこの机にいる女の子達が一番可愛いの面白い。

 なんにしても、落ち着けないといけない。

 

「まどちゃん、いとちゃん」

「なんですか?」

「ま、円香ちゃん! 話はまだ終わってないよ!」

「座ったら? とりあえず」

「……」

 

 すると、円香は自分の反対側を見る。隣にいる透が明里に甘えていた。それを見るなり、円香もスススっと明里に身を寄せた。

 

「人が怒られてる間に他の妹とイチャイチャですか、ミスターブラザー」

「おにーちゃん」

「や……あの、ちょっと……」

 

 なんがこの男は……と、結華は思わず冷や汗を流す。何そこ、天国? というか理想郷? 

 なんだこの男、前世でどれだけの徳を積んだらこうなるのか? ……いや、むしろ今世で積んだのでは? ゴキブリも殺さない博愛主義で生きて来たのか、それとも無知でありながらも親切心からペットショップの生き物を自腹切って購入して野に放ったりとかしてたのか……どちらにしても、この二人の間に挟まれる人間、そうはいない。

 だが、本人の女性耐性は低いのか、二人の唐突なお兄ちゃん呼びに狼狽えていた。

 

「あ、あの……二人とも、胸があたってるから……」

 

 そこかよ! てかそこは喜ぶとこだろ! と結華は頭の中でパニくる。なんだろう、この純情さ。大学生だよね? 現役バリバリの盛り盛りだよね? なんて逆にこっちが恥ずかしくなって来ていた。

 さて、一方で結華の隣に座った小糸が、頬を赤くして口を挟む。

 

「ま、円香ちゃん! 聞いてるのっ?」

「……うん、もう性癖義兄って事で良いから、少し放っておいて」

「ええっ⁉︎ だ、だから私はその変な性癖を止めるために……」

「いとちゃん」

 

 口を挟んだのは結華。今のはちょっと聞き捨てならない。

 

「それはだめだよ。いとちゃん」

「えっ……ゆ、結華さんまで……⁉︎」

「義兄が好きで、何が悪いの? 世の中には、ショタコンと言って12歳までの男の子じゃないと勃たない女の子もいるんだよ?」

「た、たつ……? 何が……?」

「心のナニかが」

「マドちゃん、何が立つの?」

「……知らない」

「あれじゃない? 藍染」

「私が天に立つ……なるほど。つまり、12歳の男の子を見るとBLEACHを思い出すと。……や、だからなんで?」

「日番谷?」

「それか」

 

 なんて馬鹿二人が盛り上がるのを無視して、結華は続けた。……というか、男の子が理解できないのおかしい。

 

「で、でも……」

 

 それでも納得できない様子の小糸。まぁ、この子の性癖はおかしくないのだろうし、その手の話になった事もないのだろうから感覚は分からなくもない。ある意味では、目の前の二股とかおかしな事してるのに性癖は曲がっていないクソモテ男と同じだ。

 ここは一つ……納得させてあげるしかない。じゃないと、この義妹喫茶で自前のアイドルに義妹になってもらって気が触れた話を大きな声でして周りの視線を集めてある意味営業妨害みたいになっている状況を打破出来ない。

 許せ、我が同志……と、思いながら、結華は机に肘をついて手を組み、その上に顎を乗せて隣の小糸に告げた。

 

「ところで、いとちゃん」

「な、なんですか……?」

「いとちゃんにとって、ふゆゆってどんな人?」

「え? ふゆゆって……冬優子さんですか?」

「そう」

 

 言われて、小糸は少し考え込んでから言った。

 

「優しくて気品があって……面倒見が良い方、でしょうか?」

「そのふゆゆの性癖が、成人済みで捻くれ拗らせ生意気アホグレボーイだとしたらどうする?」

「え……な、何ですかそれ……?」

「……」

 

 言いながら無言で結華が見せた写真は、リディ(黒)の等身大パネルと写真と写っている冬優子だった。

 

「え……ふ、冬優子さん……?」

「要は、どんなに良い子でも、性癖はどうしようもないって事だよー。だから、義兄萌のまどちゃんも、変なわけじゃないよ?」

「な、なるほど……」

 

 というか、そもそもの話、だ。

 

「それに……どちらかと言うと、まどちゃんもとおるんも……その、義兄と言うより、菅谷くんに萌えてるような気がするかな……」

「……」

 

 それはその通りだった。小糸と一緒に、正面に座る男を見る。

 

「お兄ちゃん、お腹すいた。奢って」

「おにーちゃん、私もー。甘いもの食べたい」

「お兄ちゃんは財布?」

「お兄ちゃん、お姉ちゃんに口答えしないで」

「おにーちゃん、絶対だから。姉の言うことは」

「あれ? お兄ちゃんなのにお姉ちゃん……?」

 

 なんか頭悪い会話してんな、と思わず冷や汗をかいてしまった。まぁ、何にしても、小糸も納得してくれたようだ。

 

「……すみません。その通りみたいでした……」

「じゃあ……どうする? この後の乙女ゲー」

 

 結華的には沼に嵌めたい気持ちがないわけではないが……その、小糸の場合、こうして心配して見に来た保護者が三人……いや、そのうちのおそらく一人だろうが、とにかくいるのでヘタは打てない。

 断ってくれても結構だが……なんて思ったのがフラグになったのだろうか? 

 

「い、いえ……その……それは正直、興味ないこともないので……お願いします……」

「……ふふ、良いだろう」

 

 ただし、そちらが望むのであれば話は別である。良かろう、その覚悟……決まる前から受け止めたり。深淵まで、ソナタをご招待しよう。

 

 ×××

 

 さて、なんやかんやで解決したので、小糸は理由を話さぬまま結華について行き、二人で至高の一品を探しに行った。

 で、円香と透と明里はせっかく秋葉原に来たので、そのまま少しだけ色々見てみることにした。

 しかし、明里としてはなんやかんや楽しかった。色々とオタクっぽいお店を回れたし、メイド喫茶なんか入っちゃったりして。なんか周囲の客はすごい睨んで来ていたが、覚えがないので無視。円香と透が楽しそうならなんだって良いのだ。

 そのまま見て回っていると、円香が商品棚を見てポツリと声を漏らした。

 

「……これの何が良いんだか」

「え、何かあったの?」

「リカには早い」

「ぐぇっ」

 

 顔に張り手をもらい、首を真後ろに向けられた。お陰で捩じ切れんばかりだ。

 

「あー、美少女フィギュア?」

「そう。それも水着」

「確かに早いかも」

「あの、俺同い年でお兄ちゃんなんじゃ……」

「は? いつまで夢見てんの?」

 

 酷い言いようだった。まぁ別に見たいわけでもないのだが。

 

「そもそも、前からリカに聞きたかったんだけど、フィギュアって何が良いわけ?」

「え、なんで俺?」

「あんた虫のいっぱい持ってるでしょ」

「ああ……いや、俺の場合はこう……自然の中を少しでも感じたいから飾ってると言うか……」

「……ふーん。意味分かんない」

「そういえば、リカの部屋またもの増えたよね。観葉植物。それにてんとう虫のちっさいおもちゃ飾ってた」

「どんだけよ……」

「う、うるさいな……」

 

 というか、自分も別にフィギュアが良いと思っているわけではない。生き物が良いと思っているのだ。

 だから……まぁ、正直、美少女フィギュアの良さは分からなかった。二次元のキャラに興味がないからだろう。

 そんな話をしながら歩いている時だ。ふと目に入ったのは、芸能人の稼動フィギュアが売っている場所。思わずたまげてしまった。こんなものもあるのか、てかすごくリアルだ。

 

「……へぇ、こんなのもあるんだ」

「あるよー」

「知らなかったの?」

「うん。全然」

 

 ……なんか、ちょっと夜中とか一人でに動き出しそうで怖い……なんて思っている時だった。

 そのコーナーから出て来た男の人が抱えているフィギュアが目に入った。「立体ノクチル、浅倉透」と。

 

「……え」

「? リカ?」

「何かあった?」

「い、いや……」

 

 え、出てるの? と少しだけ冷や汗をかく。どうしよう、本人達はそれを知っているのか……いや、知らなかったら問題だ。

 ……どうしよう、美少女フィギュア欲しい……! だが、こんなの二人の前で買えない……! 

 かくなる上は……と、思った明里は二人に声をかけた。

 

「……ごめん、トイレ行ってくる」

「あー、私も」

「行こっか」

 

 性別の壁を利用し、購入した。

 

 ×××

 

 その日の夜、円香はふと目を覚ました。現在、深夜二時……なのだが、なんか騒がしい。声ではなく、足音が。ギシギシと音がしてる気がした。

 しかし……この時間はもう明里は寝ているはずだし……まさか、泥棒? だとしたら……警察……いや、通報して間違いとかだったら笑えない。一般人ならともかくアイドルだから。

 ……なら、仕方ない。まずは明里を起こして助けてもらおう。大丈夫、あのご飯に接着剤をかけて食べてるような頑丈で最強の子供なら何とかしてくれる。

 そう思って、部屋から出て、慎重な足運びで明里の部屋に向かう。

 ……だが、その物音は明里の部屋から聞こえて来ていた。まさか……明里の部屋から侵入したと言うのか? だとしたら……寝てる明里が危ない! 

 

「リカ!」

「ふぁっ⁉︎」

「えっ」

 

 開けると、なんか部屋の灯がついてるどころか、明里は部屋の真ん中で胡座をかいていた。

 手に握られているのは、透とトンボのフィギュア。そして……その明里の前に置いてあるのは、カマキリの背中に跨っている円香のフィギュアだった。

 自分が、虫の背中に……と、思うと鳥肌が立つ……と、共に少し苛立つ。こいつ何してんの? と。たか、手元のそれは何? と。そして、なんで自分がカマキリなの? と。

 それら全ての意味を込めて聞いた。

 

「…………何してんの?」

「……いや、その……」

「……」

「……か、かいました……今日」

「……」

 

 気に入らない、何もかも気に入らない。私に虫を触らせるな、と言うか跨らせるな、とか、いろいろ思ったが、まず口に出たのは自分的にも恥ずかしい事だった。

 

「…………本物がいれば十分でしょ。ミスターコレクター……」

「…………そう、ですね…………」

「分かったら、早く布団に入って詰めて」

「え、詰めるの?」

「理解したかどうか分からせるから」

「は、はぁ……」

 

 翌朝、透が起こしに来て揉めに揉めた。

 

 

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