浅倉が増えて、樋口のストレスは加速した。   作:バナハロ

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怒られる、と思っている人達は本当に困らせる要素を作る。

 しかし、透、円香、雛菜、小糸の四人は腕を組んでいた。やった。やってしまった、と強く思う。

 わざとではない。しかし、結果こうなってしまったのだから仕方がない。どうするべきか、四人で考えるしかない。

 何せ、旅行の予定を決めてくれて、キャンプ以外に立ち寄れそうな場所も下調べしてくれて、行き帰りの運転までしてくれた人の……アメンボ水上ビニールボートに穴を空けてしまったのだから。

 

「……あー」

「……」

「あは〜……」

「ぴぇ……」

 

 四者四様のリアクションをするしかない。

 何故、こんなことになってしまったのか……それは、朝に遡る。

 

 ──ー

 ──

 ー

 

「リカ、そろそろ起きて」

「う〜ん……」

 

 珍しいことに、明里が全く起きる気配がなかった。テントの中で、ずっとゴロゴロして動かない。

 既に円香が外で五人分の朝食を作ってくれていて、透がずっと起こしてくれているのだが、起きない。

 多分、昨日よほど疲れたのだろう。何せ、三人で一緒にいるときに寝落ちしてしまったほどだ。

 でも、円香に怒られるのは自分だし、起こすしかない。

 

「おーい、リカー。起きないと襲っちゃうよー」

 

 そんなわけで、ゆさゆさと身体を揺すり続けていた時だ。ガッ、と透の身体を明里がつかむ。

 

「えっ」

 

 そして、そのまま引き込まれてしまった。ぎゅっ、と抱き締められ、そのまま抱き枕にされてしまう。

 浅倉透は、こういう時の切り替えは非常に早かった。

 

「仕方ないなぁ」

 

 すぐに明里の胸前で自分も丸まり、目を閉じて胸板に頬を押しつける。

 

「……二度寝〜……」

「んん〜……」

 

 本当に幸せかも、なんて透は目を閉じて思う。こんな風に、好きな人と至近距離で眠れる……それも、キャンプ場で。

 それが、なんだか心地良くて、気持ち良くて。まぁ、ぶっちゃけ季節が季節だけに暑苦しくもあるわけだけど。

 ……でも、良い機会だ。堪能しないと勿体な……。

 

「何してんの? 浅倉」

 

 久しぶりに苗字で呼ばれる時というのは、マジギレのサインでもある。恐る恐る目を開くと、円香がテントの入り口で自分達を睨んでいる。

 

「……鳩尾に発勁で起こそうかと……」

「じゃあどうぞ。続けて?」

「え、じゃあ……発勁」

 

 あっさりと両手の平を、明里に向けて突き放った。奥へ転がり、ぶもっとテントの中に顔を埋めてしまう。

 

「ぶごっ……な、なんだ……⁉︎」

「朝だよ、リカ」

「いつまで寝てんの?」

「え……え、今何時……」

「9時」

「っ、ご、ごめん! 今、起きるから……!」

 

 慌てて明里は身体を起こし、着替えを始めた。上半身の服を脱いだところでハッとする。まだ二人ともテントの中にいた。

 

「あっ、ご、ごめん!」

「いやどうぞ」

「遠慮せず続けて」

「こ、このすけべども……」

「「はっ?」」

「な、なんでもないです……」

 

 そのまま着替え始める明里を二人で眺める。すると、ふと明里がまた欠伸を浮かべた。

 

「眠いの?」

「うん……ちょっと」

「もう少し寝てる?」

「いや、大丈夫。せっかくの旅行だからね」

 

 そう言いながら、明里は着替えを再開した。その様子を眺めつつ、円香と透は顔を見合わせる。

 それはその通り……なのだが、まぁ疲れているのなら寝かせてあげたほうが良い気もする。何せ、帰りの運転中に事故でも起きたら大変だ。

 頷き合うと、円香が提案した。

 

「じゃあ、とりあえず朝ご飯だけ食べて、その後でもう少し休んだら?」

「……良いの?」

「勿論。帰り、温泉施設とか寄るから、その時にもゆっくり休んで」

 

 透も言うと、明里は少し考え込むように黙り、そしてにこりと微笑んだ。

 

「ありがとう。……じゃあ、そうしよっか」

「ん……じゃ、早くきて。朝ご飯できてる」

「食べよう」

「うん。……ね、とおるん。マドちゃん」

「「?」」

 

 改まって二人とも顔を上げると、微笑んだまま明里は言った。

 

「俺、二人が彼女で良かった」

「……何恥ずかしいこと言ってんの」

「お互い様だよ」

「うん。……にへへ」

 

 話しながら、三人でテントを出た。

 さて、朝食。円香が作った焼きそばを食べながら、明里は今日の予定を全員に話す。

 

「とりあえず、この後は午前中だけ川で遊んで、その後は軽く温泉行って帰るけど、それで良い?」

「雛菜は良いよ〜」

「わ、私もそれで良いです……!」

「途中、行ってみたいとこあったら言って。全然、寄って行くから」

「じゃあ、雛菜北海道行きたい〜」

「考えとく」

「リカ」

 

 考えないで、という意味で名前を呼ばれ黙った。

 

「じゃあ、午前中は川かぁ〜。雛菜、暑かったから助かる〜」

「俺はちょっと休んでるから。楽しんでて」

「え……も、もしかして菅谷先輩……まだ、少しお疲れですか……?」

「心配しなくて良いよ、小糸ちゃん。事故は起こさないから」

「は、はい……」

 

 というか、そのためのチャージ期間だったりする……のだが、そこで雛菜が声を漏らした。

 

「え〜、雛菜今日は明里先輩にかまちょしようと思ってたのに〜……」

「え、あー……じゃあ、少しは……」

「リカ、ダメ」

「休まないと、事故起こされても困るから」

「あは〜冗談〜。二人とも可愛い〜」

 

 遊ばれた、と透は「まぁいっか」みたいな感じだが、円香はむすっとしながら顔を赤くするのを見て、雛菜は満足そうに頷く。

 

「まぁ、じゃあ……これ使って良いよ」

 

 言いながら明里は、一度車に戻ってからビニール袋に入ったものを持ってきた。

 

「何それ?」

「アメンボ型ビニールボート」

「いやほんとになにそれ……」

「結構おっきいよ。三人くらいまでなら乗れるかも」

「じゃあ、小糸ちゃんと透先輩と乗る〜。円香先輩だけトナカイね〜?」

「なんでサンタが三人もいるの。季節真逆だし」

 

 なんて話しながら朝食を終えた。

 で、川遊びである。明里が「良いよ」と言ってくれたので、とりあえずアメンボのボートを膨らませる。

 円香としては、形に抵抗がないわけではないが、でもただのボートなのだし、気にしなければ良い。明里の部屋の虫フィギュアコレクションに比べれば楽勝だ。

 

「出来た」

「雛菜乗る〜」

「じゃ、私も」

「じ、じゃあ……円香ちゃんと私で押そうか……」

「むしろ流して放置しても良いけど」

「だ、ダメだよ! そしたら、菅谷先輩が大事にしてるボートも無くなっちゃうよ!」

「そこ?」

 

 だが、その通りだ。仕方ないので、二人を上に乗せる。アメンボの胸と胴体の上に二人揃って跨った。

 その下に、円香と小糸は潜って、前足に手を置く。その際、円香は小糸に耳打ちした。

 

「じゃあ出発〜」

「いえ〜い」

「はいはい。せーのっ」

「ご、ごめんなさい!」

 

 直後、二人は手に持っていた足を持ち上げてひっくり返した。当然、アメンボの形をしたボートなんてアンバランスなものだし、少し力を入れればひっくり返すのは簡単だった。

 ブクブクブク……と、沈んだ二人は、少ししてからジト目だけ出してこちらに向けてくる。

 小糸は「ぴええええ……」と狼狽えていたが、円香は冷たい目で睨み返した後、ふっとほくそ笑んだ。

 それに伴い、当然二人とも黙っていないわけで。

 

「あー……なんか、トナカイの方が好きだわ。サンタより」

「円香先輩、乗らない〜?」

「ノーサンキュー」

「雛菜、乗りたいって」

「乗せてあげよっか〜」

「は? ちょっ……!」

 

 直後、二人は円香の両腕を掴み始めた。

 

「ていうか、なんで私だけ……⁉︎」

「小糸ちゃんは謝ってたし」

「可哀想だし〜」

「さ、三人とも落ち着いて……!」

 

 小糸が止めようとするが、もう遅い。雛菜が円香の上半身を抑え、そして透は潜って円香の脚を掴み、持ち上げる。

 

「ちょっ……あ、あんたら本気で……!」

「これどうやって乗せる〜?」

「……投げちゃう? このまま」

「は⁉︎」

「「せーのっ」」

「いい加減……ぶべっ!」

 

 乗せられることもなく、放り投げられた。ボートの近くに落下し、揺られたボートはそのまま川の向こう岸に流される。

 この川沿いのキャンプ場は、そこそこ上流の方にあるため、川岸は一つしかなく、もう片方は森から生えている木々がはみ出ている。その木の方へ流されてしまった。それなりの勢いで。

 

「げほっ、げほっ……あ、あんたらホント……!」

「やは〜、円香先輩の髪、わかめみたい〜」

「ウケる」

「ふ、二人とも煽らないで……!」

 

 なんて始まった時だった。なんか、プシューッという音が円香の耳に届く。なんか、ヒヤリとするほど嫌な予感。思わずバカ二人を気にする余裕もないほどに。

 

「何の音?」

「何が〜?」

「……あ、ほ、ホントだ……。なんか、空気が抜ける音が……」

「……あっ」

 

 その方向を見た直後、四人とも固まった。

 

 ー

 ──

 ──ー

 

 と、いうわけである。プシューっと空気が抜けて、今やその枝に干してあるように、アメンボは萎れてしまっていた。

 

「あー……どうしよっか」

「畳んどけばバレなくない〜?」

「だ、ダメだよ雛菜ちゃん……!」

「でも、実際それ以外どうしようもないでしょ〜」

 

 と、話す中、透が珍しく重々しく口を開いた。

 

「リカって実は、高校の時に三回、暴力振るってるんだけど」

「えっ、そ、そんなに?」

「一回目が、文化祭。二回目が事務所で。……で、三回目は、修学旅行」

「何があったの〜?」

「北海道の密猟者を相手に暴れてた。3対1で勝ってた」

「……」

 

 どういう状況かは問題ではない。問題なのは「動物を意味もなく殺すことにマジギレする」ことにある。三人とも病院送りにして、警察には表彰されたが、教員と父親と円香にはしこたま怒られてた。

 いや、まぁ流石にビニールのボートと北海道の動物を比べてはいけない気がするが、それでも万が一はある。

 どうしよっか……と、四人が悩んでいる中、ふと四人は後ろに目を向ける。明里は用意した椅子の上で寝息を立てていた。

 

「……とりあえず、抜こう」

「円香先輩のすけべ〜」

「は? そっちじゃない」

「な、なるべく、穴が広がらないようにしないと……!」

「一気」

「と、透ちゃん聞いてた⁉︎」

 

 もう見事にバラバラである。本当に幼馴染? と思われてもおかしくない程度には何もあっていなかった。

 とりあえず、ボートは回収出来た。四人とも川から上がって、萎れたアメンボに視線を落とす。

 

「どうするかー」

「謝るしかないでしょ」

「でも今寝てるし」

 

 疲れてるから寝かせてあげてるのに、わざわざ起こして残念なプレゼンをするのは少し申し訳ない。

 

「じゃあどうすんの?」

「起きた時に言えば良いんじゃない〜?」

「で、でも……菅谷先輩が、謝る前にビニールボートに気付いたら……その、かなり心象悪いんじゃ……」

 

 それもその通り……つまり、結局隠すしかない。方針は決まったので、とりあえずたたみ始めた。

 小糸が明里を見張りつつ、雛菜と透と円香で手早く片付ける。何せ、この様子を見られたら、隠蔽工作真っ只中だと思われるから。

 

「で、問題はこれだよね。どこに隠す?」

「うーん……まぁリカが起きても目に入らない場所……」

「埋める〜?」

「いやいや、返す時に掘り起こすの見てリカどう思うのよそれ。もう少しまともな案出して」

「は〜? 元々、円香先輩が穴開けたんでしょ〜?」

「……は? あんた達が私を投げたからでしょ」

「でも最後に触れたのは円香先輩じゃん〜」

「それ、人を殺したのは引き金を引いた人間じゃなくて、銃弾を発射した銃が悪いって言ってるのと同じなんだけど?」

「何その喩え〜。厨二くさ〜い」

「ふ、二人とも……落ち着いて……!」

 

 少しずつギスギスしていく。こういう時の雛菜と円香は困るものだ。おそらく、諌められるのは一人だけなのだろうが……その一人は、ビニールシートの上に石を積み重ね始めていた。

 

「と、透ちゃん何してるの⁉︎」

「え、埋めるのかなって」

「それはダメって円香ちゃんが言ってたでしょ!」

「あっ」

 

 アンバランスな岸の上で、アンバランスな石をいくつも置いていたからだろう。穴の上に石を重ねた直後、石が転がり、足の角が引っ掛かってそのまま穴を広げてしまった。

 

「わぉ」

「ぴ、ぴぇええ……」

「「……」」

 

 あ、悪化した……と、ふらりと小糸は頭をクラつかせ、倒れてしまう。

 円香はジロリと今度は透に目を向ける。

 

「……あんた何してんの?」

「いや、埋めるのかなって」

「それを今、雛菜と議論してたんだけど、なんで勝手にやるわけ?」

「やっちゃった」

「じゃないでしょ。なんでそんな勝手に考えなしに動くわけ?」

「え、いやだって早めに動いた方が良いかなって……」

「透のそれは何も考えてないだけでしょ。そもそもあんた二股ってわかってる? 前々から思ってたけど、あんたがそんなんじゃ長くこの関係も続かないんだけど」

「いや、私だって考えてるから。少しは」

「少し過ぎるって言ってるんだけど」

「ふふ、めっちゃ怒るじゃん」

「は? 何笑ってんの?」

 

 普段、円香にとって愛すべき小糸と明里が揃いも揃って寝てしまっているため、もう止める人はいない。

 むしろ、油を注ぐ奴ばかり残っていた。

 

「円香先輩、うるさ〜い。透先輩、もう雛菜と遊ぼ〜?」

「え、いや待って雛菜……」

「ていうか、透先輩髪にゴミついてる〜。雛菜が洗ってあげるね〜?」

 

 半ば強引に、雛菜が透を連れて行ってしまった。

 その様子を見ながら、円香は思わず舌打ちを漏らしてしまう。

 

「……もういい」

 

 その言葉は誰に言ったのか分からない。だが、二人の後を追う事なく、とりあえず倒れている小糸を椅子の上に寝かせてあげて、穴の空いたボートを一人で畳んで置いておいた。

 

 ×××

 

「ん〜……なんか、よく寝た気がする……」

 

 声を漏らしながら目を覚ました明里は、軽く伸びをする。時計を見ると、予定より20分くらい早い目覚めだ。

 体力は回復できたし、20分くらいは遊んでも全然平気だろう。そう思いながら川の方を見ると……川で雛菜に引き摺られる透と、寝ている小糸の面倒を見る円香……と、完全に二手に分かれてしまっていた。

 

「……えっ、なんかすごいギスギスしてる?」

「あ、起きた」

 

 その声の主は円香。その表情は、それはもうあからさまに不機嫌だ。

 

「な、何かあったの?」

「何にもない」

「それは無理あるから……」

「それより」

 

 と、円香が言葉を遮って立ち上がる。そして、畳んであるビニールボートに手を伸ばした。

 

「ごめん、リカ。みんなで遊んでたらこれ、穴空いちゃった」

「え? あ、あ〜……いや、いいよそんなの。それよりどうしたの?」

「大事なものなんじゃないの?」

「大事だけど、四人のことのが大事」

「……」

 

 その直後だった。じわっ……と、今まで不機嫌にしか見えていなかった円香の涙腺が弛む。お陰で明里はギョッとしてしまった。

 

「あ、あれれれっ? ど、どうして泣くの? どこか痛いの?」

「泣いてない」

「だ、大丈夫だよ、俺がいるからっ。みんなもいるから、だから泣かないで?」

「泣いてない」

「大丈夫! マドちゃん、強い子っ。よしよしっ、ギスギスした空気なんかに負けない強い子っ。だから泣かない泣けない泣いてないっ」

「黙って」

 

 そう返されつつも、頭を撫でてくる明里の手を跳ね除ける事はなかった。

 そのまましばらく撫でてあげながら、改めて話を聞く。早い話が、ボートの穴を開けてそれをどうするか悩んだ後、喧嘩になった、と。

 それを聞いて、最初に明里は落ち込んだ。

 

「……俺、ビニールのボート壊されただけでブチギレるキャラだと思われてたの……?」

「……ごめん。今思えばそれはなかった」

「わざとじゃないんでしょ? なら怒らないよ」

「でも、リカあれ新品でしょ? 一回も乗ってないのに良かったの?」

「壊れちゃったのなら仕方ないでしょ」

 

 にしても、まさかそんな事で喧嘩になるとは……もしかして、ノクチルって落ち着きの割に大人じゃないのかもしれない。

 でもまぁ、逆に言えば事の発端は、自分がボートを壊されたらブチギレると思っていた事。それがなかった今、喧嘩の原因なんてない。……もしかしたら、言い争いの時にいらんこと言ったのかもしれないが、それは喧嘩両成敗。故に、お互いにごめんなさいで済む。

 早速、行動に……と、思っていると、円香が頭を明里の胸に置いた。目線を合わせようとしないあたり、少し申し訳なく思っているのかもしれない。

 

「……ごめん。リカ」

「? 何が?」

「せっかく休んでもらったのに、また疲れさせるようなことして」

「そんな事、気にしないで。そんなこと言ったら、俺ととおるんはしょっちゅう、マドちゃんを疲れさせてるでしょ」

 

 そう言いながら、また頭を撫でる。そして席を立とうとすると、自分達の前に透と雛菜が歩いて来ていた。

 

「円香」

「円香先輩〜」

「……何」

「ごめんね」

「ごめんなさい〜。ちょっと言い過ぎた〜」

「別にいい。……こっちこそごめん」

 

 秒で仲直りし終えた。これなら自分いらなかったんじゃ……と、思わないでもないが、まぁその辺は気にしない。

 すると、透と雛菜は明里にも頭を下げて来た。

 

「あとリカも。ごめん」

「これ……穴空けちゃった〜……」

「ああ、いいよ。気にしないで。……ねぇ、俺ってそんなに物壊されて怒りそうなイメージ?」

「ものっていうか……生き物全般?」

「正直、怒られるかもって思ってた〜。……でも、雛菜怒ってる明里先輩も見てみたかったかも〜」

「「それはやめて。本気で怖いから」」

 

 それはそれでショックなのだが……しかし、そんなに自分が怒ってるところを見たかったのなら、怒ったふりだけでもしてみても良いかも……何せ、自分は仮面ライダーになるのだ。少しはそういう練習してみても良いのかも……と、思った時だ。

 

「う〜……んっ、あれ……私、寝ちゃってた……?」

 

 小糸が目を覚ました。そういえば、あの子はなんで寝ていたのか。

 その小糸が四人の方を寝ぼけた様子で眺める。そんな中、明里を視界に収め「ぴえっ」と声を漏らした。

 

「す、菅谷先輩……起きてる⁉︎」

 

 そういえば、当然ながらあの子も自分が怒ると思ってるんだよな……そういえば、ちょうど良い。少し試してみようか? 

 そう思い、近くにあるビニールボートを掴み上げると、無表情のまま小糸に低い声を出した。

 

「人の大事な大事なビニールボートに穴を空けたのは、だぁ〜れだ?」

「ぴぃっ⁉︎ ぴっ……ぴぇえええ……」

「あっ」

 

 また失神してしまった。やり過ぎたかな、と思っていると、後ろからガッと肩を掴まれる。

 円香が、さっきまでとは比にならない怒りを醸し出していた。

 

「……あ、あれ……お、怒ってる……?」

「ちょっときて」

 

 連行されて、メチャクチャに怒られた。

 

 ×××

 

 なんやかんやで、川遊びを終えてキャンプ場を出た。明里の運転で出発し、助手席にはまた円香が座る。

 そのまま、五人はまず温泉に向かった。一応、キャンプ場の周りに軽く風呂入る場所はあったとはいえ、やはり女の子的には物足りないから。透と雛菜がバタフライを始めたので、円香と小糸は他人のふりを結構した。

 で、ついでにその施設でお昼を食べた。この辺で美味しい天ぷら蕎麦があるらしいので寄ってみた。山の幸を天ぷらにしたそれは絶品だった。

 で、そこで少しゆっくりしてから、再度出発。途中で木彫りの小物を販売している店を見つけ、そこでお手製のおみくじがあったので負けた人がこの店でみんなの欲しいものを奢りゲームをやり、小糸が負けたので円香が男気を見せた。

 

「……後で俺も半額出すから」

「……助かる」

 

 ボソッと耳打ちしてくれたのは、円香としても助かった。

 などなどと、とにかく様々な場所を巡って、記念品とかを買って、そろそろマジで帰るか、となって帰路についた結果……渋滞にハマった。

 

「あは〜〜〜♡ 王蟲の群れみたい〜〜〜」

「分かるわ」

「トイレ行きたい人いない?」

「だ、大丈夫だよ、円香ちゃん」

「行きたくなる前に言うくらいの心意気でいるようにね」

「ニュータイプじゃん」

「見える……僕にも尿意が見える……!」

「やは〜〜〜♡ 大佐、邪魔です。退いてくださ〜い」

 

 聞いているのか聞いていないのか分からないが、まぁこの様子なら大丈夫だろう。

 さて、そんなわけで、しばらく車は動かない。カーナビはついているし、最悪、高速降りた方が良いのかも……と、思ったので、とりあえず相談してみた。

 

「マドちゃん、高速降りる?」

「んー、どうだろ。同じ考えの人、結構いそうだし。ただ、万が一の時は降りといた方が早く行けそう」

「じゃあ降りよっか。次で」

 

 なんて話している時だった。二人が座るシートの間から、にゅっと透が顔を出した。

 

「私には聞かないの?」

「え?」

「高速降りた方が良いか」

「? なんで?」

「……」

 

 聞かれて、透はむすっとする。

 すぐに円香は何がしたいのか理解した。さっき、つい口論になった時のことを思い出したのだろう。

 

『透のそれは何も考えてないだけでしょ。そもそもあんた二股ってわかってる? 前々から思ってたけど、あんたがそんなんじゃ長くこの関係も続かないんだけど』

 

 それはつまり、何もお互いに平等に構ってもらったり、何かイチャイチャした時は報告すれば良いだけのことではない。

 こういったことの判断や家事など、そういったことをやるかやらないかだけで溝が生まれるというもの。

 その上で、とりあえず混ざろうと思ったのだろう。

 それについては謝ったんだし、気にしなくて良いのに……と、思う反面、でも行動する事は悪くないので、気持ちを汲むことにした。

 

「透はどう思う?」

「このままが良い。もう少し王蟲の群れを見てたい」

「降りるよ」

「ん」

「えっ」

 

 人がくれてやったチャンスを簀巻きにして川にぶん投げる人に渡す慈悲はない。

 そのまま、しばらく高速で動いてるのか分からない体験を小一時間ほどした後、高速を降り始めた。

 

「今のうちに、親御さんに連絡しておいて。予定より遅くなるって」

「はーい」

「わ、分かりました……!」

 

 そう言って、年下二人はスマホを取り出す。

 ハンドルを切って、高速の降り口へ。そのまま高速を降りた。さて、ここからはサクサク動きはするが、時間は掛かる。信号はあるし、目的地に直行できるわけでもないし、予定外なのでカーナビが必須だ。

 その為、帰宅にはそれなりに時間が掛かり、早一時間。

 

「椎茸」

「ケムッソ」

「ソーラン節」

「すぴー」

「すやすや〜……」

「あ、寝ちゃってる」

 

 雛菜と小糸が寝息を立ててしまっていた。まぁ、長時間車でじっとしていたら、そりゃ飽きるというものだ。

 

「ま、ほとんど二日間遊び倒してたからね。何かある? ブランケットとか」

「ないよ、真夏に。円香、この上着借りる」

「……ん」

 

 何とか無事に終わりそうで良かった。ずっと気を張っていたから、明里としては少しホッとしてしまう。

 まだ家に着いていないので気は抜けないが。

 

「どうだった? マドちゃん、とおるん。楽しかった?」

「ん」

「私もー」

「なら喧嘩するのはやめて……結構怖かったんだけど……」

「「……ごめん」」

 

 起きた直後にギスギスしていたのは今でも忘れられなかった。

 

「あの……一応、聞くけど……俺がいないとこで仲悪い、とかないよね?」

「ないから」

「それはない」

「なら良いけど……」

 

 まぁ、元々仲間内で言えば自分が1番の新参者。だから、自分がいないからって仲悪くなる事はないだろう。

 

「まぁ、仮に喧嘩するにしても、俺がいる前でしてね。知らないところで喧嘩になって、そのままっていうの困るから」

「そのままって何」

「今日、俺が起きるまで二人とも別々になってたし」

「「……」」

 

 それはそうかも、と二人とも黙り込む。特に、円香は自分の顔を見るなり泣いてしまったし……。

 

「ぐえっ、う、運転中はやめてよ」

「……運転中に余計なことを思い出さなくて良い。ミスター女泣かせ」

「なんで頭の中で考えてることかわかるの……ていうか、その言い方は語弊が」

「は? リカ、円香のこと泣かしたの?」

「えっ、いや泣かしたのはどっちかって言うととおるんの方……」

「最低。彼女泣かしたの彼女の所為にするとか」

「ま、マドちゃん……!」

「分かった。ここでリカを殺して私も死ぬ」

「事故らせるのはやめて!」

「ほんとにやめて。それ私も死ぬ」

 

 なんて車の中でイチャイチャし始める中、寝ていた小糸はちょうど目を覚ました。……起きづらかったが。

 ちなみに、雛菜はガチ寝で起きる事はなかった。

 

 

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