浅倉が増えて、樋口のストレスは加速した。   作:バナハロ

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性的知識に最も必要なのは性的倫理観。

 視界がぼんやりしている。まるで、やたらと眩しいものを見ているように。

 頭もぼんやりしている。まるで、頭の中にもやがかかっているように。

 そんな朦朧とした意識の中、黒い影が真ん中にぼやーっと現れた。……いや、黒じゃない。白? ふわふわしていて、装飾がたくさんついていて……そして、とても綺麗なものだ。

 

『菅谷』

 

 名前を呼ばれて、その人影がようやくはっきりする。ぼんやりした影に現れたのは……白いウエディングドレスに身を包んだ浅倉透。いつもの笑みなのに、やたらと幸せそうに見えるのは、服装の所為か、それとも……。

 なんにしても、何故そんな格好を? と、思ったのも束の間、透は自分に背中を向け、視線だけこちらに移したまま告げた。

 

『私、なるから。幸せに』

『えっ……?』

『今まで、ありがとう』

『ちょっ、待っ……』

 

 そのまま、天に召されるように空に浮かんでいった透に、中途半端に明里は手を伸ば……そうとした所で、身体を起こした。

 

「はっ⁉︎」

 

 季節は夏……当然の事ながら、自室にいても暑い。クーラーもつけっぱなしでは電気代がギャグみたいになるのでそれは出来ない。

 いやそんなことよりも、だ。今の夢……ちょっと、嫌だと思った時には、身体は動いていた。

 

 ×××

 

「あっつ……」

 

 そんな呟きと同時に目を覚ました透は、少し不機嫌だった。なんか、日差しとは違う別の暑さに襲われたからだ。

 なんだろう……まぁ何でも良いけど、クーラー入れるし……と、思いながらベッドの下に落ちているリモコンを取るために少し身体を這わせようとしたが、動かない。後ろに引っ張られる。

 

「?」

「……」

 

 後ろに視線を向けると、自分にしがみついていたのは明里だった。

 

「……リカ?」

「……とおるん、行っちゃいや〜……」

 

 ……何の夢を見ているのか非常に気になるところだが、まぁこんな機会、滅多に無いし、もうしばらくここにいても良いと思う。

 それにしても……いつも、甘えてばかりの自分に、リカの方から甘えにきてくれるなんて……。昨日の夜は、確かに一人で寝てたはずなのに。

 

「ふふ、可愛い。やっぱりお姉さんじゃん、私が」

 

 言いながら、背中側に手を回して頭を撫でてあげた。少し暑いくらい、どうって事ない。

 

 〜30分経過〜

 

 まだ明里は動かない。肩甲骨の間に明里は顔を埋めていて、強引に背筋を伸ばされていて少しキツい。

 自身に抱きついている明里の両手は、足と足の間の少し上、おへそより下と微妙な位置にある故あって、デリケートな部分に当たりそうで当たっていない状況だった。

 つまり……少しムズムズする。ただでさえ真夏に密着していて、身体が火照って来ているというのに。

 

「リカ……あの、起きない? そろそろ」

「……」

 

 ダメだ、返事はないどころか、両足を絡めて逃げられなくされてしまう。明里の足の体温が、自分の足を伝って来る。……背中側にいるのに、良い匂いもしてきた。というか、何でこの彼氏はこんなに可愛い匂いがするのか。可愛い匂いって何? と言われるかもしれないが、可愛い匂いとしか言いようがない香りがする。

 

「ふふ、冗談。もう少しゆっくりしてて」

「……」

 

 そう言いながら、また頭を撫でてあげて、透はとりあえずまた香りと体温を堪能した。

 

 〜さらに30分経過〜

 

 明里の身体は少しずつ上に上がり、透の上半身に超しがみついていた。いつの間にか二人で向き合うように寝転がっていて、透の顔面は明里の胸板にむぎゅっと押し込まれるようにしがみつかれていて、両足と両腕は完全に透の背中側に回されてホールドされている。

 この真夏に、呼吸を塞ぎにくる勢いのホールド……いくら半袖短パンとは言え、流石に息苦しい……のだが。

 

「ふふ、リカの……お腹の匂い……」

 

 付き合い始めて二年……それまで、一度も性的交わりをしてこなかった事もあって、透と円香の性癖はとっくに壊れていた。

 透は、パジャマの裾から頭を潜り込ませて、明里のお腹を直で頬擦りしていた。

 

「ふふっ……おへそだ。可愛い形してる」

「……」

「……舐めても良い?」

「……」

「返事しないってことは、OKってことだよね?」

 

 眠っているからか、スイスイと勝手に話を続ける透。割と大胆になってきてしまっていた。

 そんな中、まぁもう一人が一時間も待たされれば黙っていないわけで。

 

「ちょっと、いつまで寝てん……は?」

 

 ガチャっと扉が開かれたが、透はお腹に夢中で気が付かない……が、明里は違った。Tシャツの中に透を入れたまま身体を起こした。

 

「っ、ま、マドちゃん⁉︎ これは違くて……! ちょっと、寂しかったというか……!」←彼女をTシャツの中に入れてる彼氏

「うわっ……身体折れそう」←彼氏のTシャツに頭を突っ込んでいるもう一人の彼女

「……は?」

 

 ブチギレている円香にも、Tシャツの中の透は気がつかない。半分パニックになりながら、モゴモゴと動く。

 

「ちょっ……とおるん、暴れないで……!」

「出口は……あった」

 

 言いながら身体をひょこっと出したのは……Tシャツの、明里が頭を出している部分。つまり、一枚のTシャツを二人で着ている状態で出て来た。

 それを見るなり、円香は頬に青筋を浮かべる。

 

「…………は?」

「と、とおるん……! 何して……てか、どっから顔出してんの……⁉︎」

「ふふ、元気な女の子ですよ」

「喧しい! ていうか暑い!」

「は? 人には散々しがみついてた癖に」

「っ、そ、それは……ごめん。暑かった?」

「いや、平気。役得だったし」

「お腹、舐めたかったら舐めても良いけど……俺が寝てる時にしてね。恥ずかしいから」

「は?」

「え?」

 

 今のは聞き捨てならない。というか……そもそも今思えば、円香が部屋に入ってきた時の反応から少しおかしい。

 

「起きてた?」

「う、うん……」

「最初から?」

「はい」

「……」

 

 直後、透はすくっと立ち上がった。同じ箇所に頭を突っ込んだまま立ち上がれば、当然立たなかった方はTシャツを脱がされるわけで。

 明里は上半身裸になるが、今の透はそれに興奮することはなかった。何せ、ブチギレているから。

 

「知らない」

「えっ……あ、あのっ、待っ」

 

 部屋を出て行こうとする透だが、明里がすぐに動いて後ろから抱きしめた。

 

「何? 暑いんだけど」

「ま、待って。行かないで……!」

「嫌。暑い」

「結婚しないで……!」

「…………は?」

 

 その脈絡がなく意味が分からないコメントは、端的に言えば地雷だった。結婚? 自分が明里以外の人間とそれをすると思っているのか……それとも、明里と結婚するなと言っているのか……どちらにしても、透の額に青筋が浮かぶ。

 

「するから、結婚」

「え……?」

「円香と結婚するから。リカは出て行って」

「えっ」

「えっ」

 

 なぜか巻き込まれた円香の腕にしがみついた透は、そのまま円香をつれて部屋から出ていった。

 

 ×××

 

 何がタイミング悪いって、今日は小宮果穂に会うために、透と明里は二人で出かける日なのだ。残念ながら円香は一緒に行けない。

 ……だが、朝食の席では……食卓で食べる円香と透。そして明里は透によって自室で飯を食わされていた。

 

「……ねぇ、何があったの?」

「知らない」

「話してくれないと分からないんなけど。……てか、怒ってるのが自分だけがと思わないで」

 

 何せ、円香も朝食を作って長い時間待たされた挙句、放って置かれて二人で過ごされたのだ。

 まぁ、冷静になった今、朝食はともかく二人でイチャイチャは逆のパターンもあったことだし、そこまで気にしていない。

 だからこそ、二人の仲を何とかしてあげないといけないのだが……もう時間がない。自分は出掛ける時間だし、二人とも果穂に会いに行くのだろう。

 なので、一言だけ言っておいた。

 

「……ま、あんたがそういう感じでいくなら別に良いケド」

「いや、ほんとに知らないんだけど。なんか急にベッドに潜り込まれて恥かかされただけだから」

「何にしても、まずは話を聞いてあげるところからでしょ」

「……」

「じゃ、そろそろ私出るから。あとは二人でご自由に」

 

 それだけ話して、円香は食器を片付けた。

 さて、言われた側の透は、少し悩んでから、とりあえず立ち上がる。まだ残っている朝食のうちの食パンのお皿を持ってリビングを出ると、明里の部屋に入った。

 

「……リカ」

「分かったら、さっさと行ってきますのキスし……」

「はいは……」

 

 ……円香が明里に迫っていた。目前まで顔を近づけて、キスする寸前で止まる。

 

「……何してんの?」

「行ってきますのチュー」

「……ま、マドちゃん今日、一日仕事だから……」

「……あっそ。お邪魔してごめん」

「わ、わー待ってとおるん!」

 

 部屋を出ようとする透を慌てて追おうとする明里だが、その明里を円香が止める。

 

「先にキスして」

「あ、ご、ごめん」

「ん……はい、よく出来ましたー。ミスター女たらし」

「ひ、人聞きが悪いな……」

「そうじゃん」

「と、とおるんまで……!」

 

 何せ、二人の女の子を引っ掛けているのだから。二股を認めるなんてなかなかあることじゃない。

 

「それより、リカ。朝ご飯食べよ」

「え……い、一緒に食べて良いの?」

「いいよ、嫌なら」

「あ、す、すぐいく。じゃ、マドちゃん、お仕事頑張ってね」

「ん」

 

 明里は慌てて自分の朝食を持って部屋を出た。

 で、透と二人で朝食を食べる。揃って食事をしながら、透が声をかけた。

 

「で、どうしたの? なんでベッドに潜り込んできたの」

「あー……うん。実は、その……変な夢見て……」

「変な? 私が誰かと結婚する夢?」

「……」

「ふふ、図星とか。ウケる」

「ウケないよ……心臓に悪かったんだから」

 

 それで自分の背中に朝からしがみつくって……やっぱり可愛いにも程がある。

 

「ふふ、相変わらずバカで何も分かってないなー、リカは」

「えっ、な、なんでなじられるの」

「私がリカ以外と結婚することはないから」

「……ほんとに?」

「疑うなら、私も疑っちゃうぞー。三人目の彼女が出来るかもって」

「えっ……う、嘘。信じる」

「うん。じゃあ、私も信じる」

 

 そう言って微笑みながら、目の前で食事をすすめる明里の頬をむにっと抓る。

 

「ふふ、じゃあ……仲直りね」

「……うん」

「仲直りのチュー」

「えっ、な、仲直りは握手じゃないの……?」

「嫌なの?」

「わ、わかりました」

 

 話しながら、明里は透の方へ口を近付けた。

 二人とも、とりあえず仲直りできて、テンションは大きく高くなる。さて、この後は果穂と待ち合わせである。

 

 ×××

 

『ごめんなさいね、樹里。果穂の付き添い、任せちゃって』

「急な仕事なら仕方ねーよ」

 

 本当なら今日、果穂が憧れの人に会いに行くのに付き添うのは夏葉だったのだが、急遽樹里に頼むことになった。

 

「でも、夏葉知り合いなんだろ? なんだっけ……菅谷明里って人と」

『ええ。気を付けなさいよ?』

「何にだよ。変態とかなのか?」

 

 一応、話は聞いてる。後々、ボロが出ないために、一緒に来る予定の透とは恋人同士だと言うこと。

 それを果穂には察されないようにする。まぁ果穂は隠し事できるタイプの人間では無いし、妥当な判断だろう。

 

『そうじゃなくて……ちょっと言葉にしづらいけど』

「お、おう?」

『浅倉透が二人いると思っておきなさい』

「……地獄か?」

『あら、ごめんなさい。プロデューサーが呼んでるわ』

「お、おいちょっと待て……!」

『樹里に一番、高いお土産買ってくるから』

「不安を増大させる気遣いはやめろ……!」

 

 しかし、通話はそこで切れてしまった。もう約二年も同じ事務所で活動していれば、同じユニットでなくてもわかる。浅倉透も、ついでに樋口円香も割と普通の人じゃない。悪ノリの度合いで言えば、ノクチルと芹沢あさひは事務所の中でも厄介な方だ。

 その筆頭である浅倉透の影分身……嫌な予感しかしないのだが……ていうか、今更ながら確か事務所に乗り込んできてプロデューサーに背負い投げをかました男だと思い出す。

 そりゃ、確かに要注意人物かも……と、少しヒヨっている樹里に、横から果穂が元気に声を掛けた。

 

「今日はよろしくお願いします、樹里ちゃん!」

「お、おう……なぁ、果穂」

「なんですか?」

「菅谷明里……さん? ってどんな人だ?」

「カッコ良い人です!」

「……」

 

 参考にするのはやめておいた。多分、参考にならないから。まぁ、変態ではなさそうだが、下手なマネをすればこっちがしばかれると思い、とりあえず慎重に会話する……と、決めて、樹里と果穂は待ち合わせ場所のカフェに入った。

 二人で適当に飲み物を注文し、店内を見回した。

 

「もうあいつら着いてんのかな」

「あ、あそこです!」

 

 果穂が指差す先では、やたらと顔が綺麗な二人組が座っているのが見えた。

 実を言うと、存在は白瀬咲耶と一緒に雑誌に写っていた頃から知っていた樹里は、ちょっとだけ明里の姿を生で見られて感動もしている。

 早速、声をかけようと歩み寄った時、会話が聞こえてきた。

 

「じゃあ、マドちゃんにサプライズでごめんなさいの悪戯を仕掛けると」

「そう。巻き込んだから。やっぱ、私達らしく謝らないと」

「どんな感じにする?」

「やっぱー……驚かす感じ。ストレンジの二作目みたいな」

「ホラーね。OK。夏だし、水鉄砲とか買う?」

「良いね。中の液体、タバスコとか?」

「必殺タバスコ星?」

「ふふ、ウソップじゃん」

「ラダーだ、右足でラダーペダルを押せ!」

「あれ、それウソップだっけ?」

「知らん」

 

 ……なんか、あったま悪ぃ会話してんなぁ、なんて少し引いてしまう。隣の果穂も、二年前ならよく分かっていないで目を輝かせていたかもしれないが、今では少し苦笑いを浮かべている。

 

「あ、あはは……何の話でしょうか……?」

「知らね。とりあえず、声掛けろよ」

「あ……は、はい……!」

 

 そう言って、果穂は緊張気味に「あのぅ……」と声を掛ける。すると、それに気づいたイケメンの天然パーマがこちらに顔を向けた。

 

「あ、小宮さん。こんにちは……と、有栖川さんの代理の方ですか?」

「あ、ああ。西城樹里だ。よろしく」

「菅谷明里です。こちらこそ」

「浅倉透でーす。よろしく」

「知ってるよ」

「俺は浅口円里でーす。しくよろ」

「何で言い直したお前?」

「じゃあ……菅谷透です。夜露死苦ぅ」

「何で苗字変わってんだ⁉︎」

「あー……じゃあ、浅倉明里でーす。よろよろ」

「お前まで変わったら意味ねーだろ!」

「樋口透と?」

「樋口明里でーす」

「「ヨークシャーテリア」」

「なんで犬の名前と円香の苗字が出てきた⁉︎ ていうかなんで犬の名前もしっかりとハモるんだよ!」

 

 なんだこいつら、本当に同一人物じゃねえの? と、勘繰るほどに息ぴったりである。

 そこで、ハッとして自分の左にいる少女に顔を向ける。今のバカ炸裂している会話を聞いたら、流石の果穂の憧れも消えてしまうのでは……と、思いながら横を見ると、案の定苦笑いを浮かべていた。

 

「え、えっと……仲良しなんですね……あはは」

「こう見えて義姉弟だから」

「えっ⁉︎ そ、そうなんですか⁉︎」

 

 軽く引いていたはずの果穂は、一気に食いついた。信じている、姉弟であることを。

 冗談に決まってんだろ……と、いつもの樹里なら言うところだが、恋人であることを隠しているあたり、ここは乗っておくのが正解かもしれない。

 

「ああ、らしいぞ。確か、中学からだっけ?」

「そうそう。あと円香も入れて三人でね」

「先生に一番、目つけられてたもんね」

 

 こいつら、嘘を隠すつもりがあるのだろうか? いや、ないのだろう。本当に呼ばれていたのだろうが、円香も入れて3人義姉弟は無理がある。

 

「そ、そうなんですね〜!」

「とりあえず座ったら?」

「っ、す、すまん」

 

 言われて、そこは素直に従って座らせてもらう。二人でバカ姉弟の向かいに腰を下ろした。

 しかし……驚いた。まさか、夏葉の言っていた通り、ここまで息ぴったりな生写しだとは。このカップル、仲良いのは結構だが、割と周りに色々なものをぶち撒けてくれるものだった。

 これは確かに気合い入れないといけない……と、同時に、これちょっと良いお土産じゃ割に合わねえぞ夏葉……と、強く思う。

 とりあえず、このまま義姉弟トークに花を咲かせたら、話はどんどん逸れるし長くなる。軌道修正を試みた。

 

「なぁ、果穂。それより、菅谷さんに……」

「あ、菅谷で良いですよ」

「そうそう、同い年だから」

「え、そうなん? てことは、西城さんも大学生?」

「そう。今年で19歳」

「で、去年受験生?」

「そう。JKからJDになったばかり」

「その中身のない確認やめろ!」

「さっきからツッコむな、すごく……マドちゃんタイプか」

「いやいや、円香も私達の前でしかあんまツッコミ入れないから。小糸ちゃんタイプ体格的にも」

「おいコラ透! 喧嘩売ってんのか⁉︎」

 

 何なのか、この二人の絶妙なコンビネーションは。円香と二人で付き合っていると聞いたが、あの子はこの二人を一人で捌いている? トリオで芸人目指したらいかがでしょうか、と勧めたくなるレベルである。

 そんな時だった。隣から少しだけ切ない声が聞こえる。

 

「良いなぁ……樹里ちゃん、ツッコミ上手くて……」

「っ……!」

 

 そこでハッとする。ダメだ、果穂を置いてけぼりにしては。というか、ツッコミを入れたら思う壺だ。

 

「果穂、菅谷に何か質問とかないのか?」

「はっ……そ、そうでした……!」

「そうだよ、小宮さん。元々、俺は小宮さんに会いに来たんだから。何か、話したい事とかある?」

 

 その辺はちゃんとしてるんだな……と、少し見直しつつも、樹里は何も言わずに明里を見る。

 果穂は少し緊張気味になりながらも、明里に思い切って聞いた。

 

「あ、あのっ……明里さん!」

「はいはい」

「彼女はいますか⁉︎」

 

 いきなり爆弾ぶっ込んだ! と、樹里は唖然とした。まさかの恋人関係を隠したことが裏目に出る一撃。お陰で透の顔色も一気に豹変する。

 

「なんで?」

「い、いえ……その、ファンとして気になると言いますか……」

「いるよ。普通に」

「っ、や、やっぱりそうなんですね……」

 

 少しショックそうだ。まぁ別にガチ恋とかではないのだろうけど……やはり、好きな芸能人に恋人がいたらショックなものなのだろうか? と、樹里は気まずそうに目を逸らす。

 

「どんな方なんですか? 彼女さん」

「え? あ、あー……」

 

 隣隣、とは言えないので、樹里は黙っておく。というか、どっちを紹介するのだろうか? まさか両方とは言わないと思うが……。

 

「アホでキチッとしててクールに見えて何も考えてなくて生活力がある人、かな……?」

 

 合体させた! と、樹里は笑いそうになって手で口を抑える。と言うか、何だそのよくわからない人。果穂もピンと来てない様子で眉間に皺を寄せている。

 そんな中、隣の透が頬をギギギっと抓る。

 

「ちょっと、何で私の方だけ悪口ばっか?」

「ひ、ひひふはから!」

「事実じゃないから」

 

 いや事実だろ、と、樹里は思っても口にしない。コーヒーを一口、口に含んで目を逸らした。

 その間に、果穂がまた新たに質問をする。

 

「で、では、見た目はどんな方なんですか?」

「え、み、見た目?」

 

 また困る質問だ。何せ、透と円香は別に似ていない。空気は似ているかもしれないが、見た目は全然だ。クール、の方向性も違う。

 その問いに対して明里は……顎に手を当てたまま何とか捻り出す。

 

「か、髪型は……」

「は、はい……!」

「右が茶髪で左がグレー」

 

 まさかの天使と悪魔が混在! と、また笑いを噛み殺した。どんなセンスをしていたらそんな髪型になるのか。パンクロッカーか! とツッコミが浮かぶ。

 透も笑いを堪えている。

 

「で、顔は……パッチリした透き通る瞳の下に、泣きぼくろがひとつあって……」

 

 また融合させてる……! と、笑いを堪える樹里と透。

 

「で……身長は、俺の肩くらいまでで……あんまり太ってない感じ?」

「な、なるほど……」

 

 結局、最後まで融合させて終わってしまった。こいつ、こういうとこ愛おしいな……と、樹里は少し油断してしまった。そのため、果穂が新たな爆弾を投下したのを止められなかった。

 

「で、では……その……」

「何?」

「え……えっちなことは、したんですか……?」

「「「ぶふぉっ!」」」

 

 果穂は、思春期に入りたてだった。

 

「お、おい! 何聞いてんだ果穂! 失礼極まりないだろうが⁉︎」

「え、そ、そうなんですか? クラスの子達……『うちの兄貴、彼女とよくヤってるらしいぜ』みたいな話を平気でしてるんですが……」

 

 これだから、性的な知識が倫理的な面でも足りない中坊は……と、樹里は焦る。これじゃ、むしろ嫌われるだろ……と、思いながら明里の方を見ると、明里は顔を赤くしながら目を逸らし、透は心底、参った様子で顔に手を当てている。

 え、まさか……と、樹里は冷や汗をかく。高二の春から付き合っていて……そして、彼女が二人もいながら……まだシていない……? と。

 とりあえず、と樹里は果穂に声を掛けた。

 

「そういう質問はやめろ。それ、菅谷だけじゃなくて、私ら放クラのメンバーにも失礼だ」

「ウッ……そ、そうなんだ……ごめんなさい」

「気にしてないよ」

 

 それだけ話して、とりあえず樹里は後で夏葉に一週間、飯を奢らせる事を誓った。

 

 ×××

 

 さて、その後は仮面ライダーの話で盛り上がり、公園で変身シーンを練習したり、とエンジョイして解散した。数日後、夏葉から「財布を空にさせられたんだけど」と苦情が入った。

 まぁそんな話はさておき、明里は透と帰宅。円香のサプライズのために、ドンキで買い物をしていた。

 

「……えっちなことはしたんですか?」

「ブフォッ!」

 

 商品を選んでいる中、突如隣からそんな声が聞こえてきて吹き出してしまった。

 

「な、なんだよ急に……!」

「いやー? そういえば、まだシてないなーって」

「……そ、それはそうだけど……」

「いつでも良いから。私と円香は」

「か、からかうなっつーの……!」

 

 そう言って、明里は適当ないたずらアイテムを探す。悩みながら、明里は顎に手を当てて店の奥に進んだ。

 ドンキには、様々なものが売っている。それは、パーティグッズのようなみんなで楽しむためのものから……大人が楽しむためのものまで。

 そして、その辺の知識が疎い明里は、一人でいつの間にかエログッズコーナーに迷い込んでしまっていることに気が付かなかった。

 

「……あっ」

 

 そこで、声を漏らして、一つのアイテムを手に取る。それを持って、透を探しに戻った。

 

「おーい、とおるん!」

「? 何?」

「面白いもの見つけた!」

 

 そう言いながら明里が持って来たのは、手錠だった。

 

「……えっ」

「これで、しちゃおうぜ。拘束」

「……うん、面白いかもね」

 

 この後、普通にビンタされた。

 

 

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