浅倉が増えて、樋口のストレスは加速した。   作:バナハロ

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もはやH2O。

「えっ、明日からとおるんの写真集の撮影?」

 

 そんな声を漏らしたのは明里。それに対し、頷いたのは透だ。

 

「うん。2泊3日ー」

「え……じゃあ三日間もいないの?」

「うん。寂しい?」

「寂しい……」

「私もー。リカー」

「とおるんー」

「「ひしっ」」

「うるさい」

 

 その馬鹿二人が目の前でハグをしたので、思わず円香も毒を漏らしてしまう。ていうか……自分は良いのだろうか? 別に良いけど。

 なんて思っていると、明里が平然とした間抜け顔で言った。

 

「とおるん、マドちゃんが混ぜてだって」

「カモーン」

「は? 別にいい」

「そこで発生しましたツンデレ専用ブラックホール。なかなか素直になれないあなたにお届け」

「吸引モードに入りまーす」

「っ、ち、ちょっと……ていうか、動き気持ち悪い……!」

 

 何せ、二人はハグしたまま片手を開け、近寄って来る。逃げる……いや、逃げるのも面倒くさい、と鼻息を漏らして巻き込まれてあげた。

 そのまま二人の間に挟まり、ギューっと抱き締められる。

 

「捕まえたー」

「ふふ、超素直。本当に混ざりたかったんだ?」

「逃げるのも面倒だっただけ」

「ツン」

「デレ」

「……うるさい」

 

 もう反論もしない。……まぁ、その、何……似たような顔の良い男女に挟まれ……まぁ、その……悪い気分でもなかったし。

 ……こういうスキンシップ……やっぱり悪くない。二股して良かった……なんて思っていると、床についていた足元がふわりと浮き上がった。

 えっ、と思ったのも束の間、明里と透が持ち上げているのだとすぐに分かった。

 

「ちょっと……何して」

「ブラックホールによる時空乱流でーす」

「衝撃に備えてくださーい」

「ちょっと……あんたらやめ……!」

「「ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるー」」

 

 二人はそのまま回転し始めた。前門のリカ、後方の透に挟まれて回転……しかも、身体が浮いている状態。もう普通に酔いそうだ。

 

「ふ、2人ともっ……待っ……吐く……!」

「ごめん、私も気持ち悪くなってきた……」

「じゃあ止まりまーす」

 

 流石、柔道で受け身を極めた明里だけ平気そうにしたまま止まった。

 

「大丈夫?」

「あんたらほんと碌なことしない……」

「まったくだわ……」

「あんたもだから」

「えっ」

 

 ……ダメだ、ふらふらする。曲の中でたくさん回転するような曲もあったが、ちょっと勢いが強すぎた。

 

「あー無理……これは今日の晩御飯当番無理」

「えっ」

「あれ、この中で……一人だけ目を回してない人がいるぞー?」

 

 透も狙いに気がついて乗ってきた。

 

「……分かった。まぁ、とおるんいなくなっちゃうしね。とおるんが食べたいもの作ってあげるよ」

「じゃあ……ソテー、フォアグラの」

「あの、パソコンも買わなければならないので、勘弁してもらえませんか……」

「てか今、19時だから」

 

 流石に今から買いに行くのは無理だ。ていうか、そもそも何処に売っているのだろうか? フォアグラとか。

 

「じゃあキャビア」

「それならスーパーにあるかも」

「ないでしょ、金持ち坊や」

 

 割とその辺の感覚もズレている。そんな大袈裟なものでもないが、売っているものの勘違いとかはよくあるようだ。この前はスーパーで松茸の初物を探していた。

 

「とにかく、食べたいもの言って、家庭料理で」

「じゃあ……目玉焼きハンバーグ」

「ダメに決まってるでしょ。写真集を撮る前夜に何重いもの頼んでんの?」

 

 基本、放置するけど流石に看過できない。それはノクチル全体……そして小糸への評価に繋がるかもしれないから。

 

「じゃあ、目玉焼きハンバーグの目玉焼き抜きで」

「それ普通のハンバーグじゃん」

「ていうか、ハンバーグも重いからダメ」

「えー。全然食べさせてもらえないじゃん」

 

 でも残念ながら、割と前日に食べたものは次の日に響く。透は余程、食っちゃ寝しない限りは太らないが、ドカンとこの時間にタンパク質×タンパク質は身体に出る。

 その透が少し困った様子で聞いてくる。

 

「じゃあ何なら良いの?」

「青汁」

「えー……それは勘弁」

 

 ま、こういう時は隣の理科系雑学王に任せるところだろう。

 

「リカ、何かない?」

「うーん……猪肉とかなら太りにくいとは言うけど、そんなもんないよね」

「うん」

「じゃあ、チキンカレーにしよっか」

「お、良いねー」

「まぁ……それなら」

 

 ハンバーグよりはマシだろう。野菜も多いし、米の量を減らしてもお腹に溜まるし。

 

「じゃ、待ってて」

「うん」

 

 さて、それからおよそ40分後くらい。机に料理が並べられた。……ホクホクのフライドチキンが乗せられた、スパイシーな香りのカレーライスが。

 明らかに明日の撮影を意識した出来栄えではなく、思わず冷ややかな目を彼氏にむけてしまう。

 

「……リカ?」

「おー、美味しそう」

「ごめん……どうせなら、美味しいって喜んで欲しいなーって工夫してたら……揚がってた」

「なら目玉焼きハンバーグ作ればよかったでしょ」

「味は良いと思うから、おあがりよ!」

「あまりイライラさせないで。……これで小糸の評価まで下がったらほんとに怒るから」

「ご、ごめんって……でも、とおるんに、美味しいもの食べて欲しかったから」

「……」

「り、リカ……えへへ」

「…………」

 

 そんな風に言われて、そんな風に喜ばれたら、もう何も言えない。……それに、透は自分より明里の料理の方が良いかな、と思った判断とはいえ、元々当番を代わってもらった立場的には文句は言えない。

 

「……じゃあ、食べよっか」

「うん」

「良いね」

「でも、終わったら走りに行くから」

「「えっ」」

 

 話しながら、食べ始めた。

 

 ×××

 

 さて、走り終えてからお風呂を終えて、寝る時間。透は、何となく円香が気を利かせてくれたことを理解していた。多分、明里の手料理を透が食べたいと思って、みたいな。

 でも……自分は別に円香の料理でも良かった。何せ、離れ離れになるのは明里だけでなく円香もだからだ。

 そんなわけで、これから明里のベッドに忍び込むわけだが……一人で行くのは嫌だった。

 

「まーどかっ」

「? 何?」

「リカのベッドで一緒に寝に行かない?」

「……行かない。お一人でどうぞ」

「えー」

 

 こっちの意図を理解してだろうか? 既に布団の中にいる円香は自分に背中を向けながら、連れなくそう言う。

 

「えー、良いじゃんー。一緒に寝よ?」

「私は明日から毎日、リカと一緒に寝るから。今日くらい二人で寝たら?」

「? でも、明日から二日は寝れないじゃん。三人で」

「……」

 

 三人が良いのだ。透は。

 それを伝えると、円香は渋々、身体を起こした。

 

「……甘えん坊」

「三人から一人になるの、ちょっと寂しいよ。想像すると」

「私はそう思わないから」

 

 いや、透には分かる。むしろ一番、寂しく思うのは円香なんだろうな、と。もっとも、口にすれば一緒に寝てもらえなくなりそうなのでしないが。

 さて、二人で明里の部屋に入る。中は暗く、明里は既に布団の中。この時間はたまに虫のおもちゃの手入れをしているのだが、今日はそれはしていないようだ。

 ならば好都合。……まずは透が突撃した。

 

「浅倉プレスー」

「げっふぇ!」

「近所迷惑」

 

 真上に飛び乗った。もう季節が季節だけに薄いタオルケット一枚は無理があり、掛け布団が掛けられている。

 その上に飛び乗ったからダメージが少ないようだ。すぐに明里はうっすらと目を開ける。

 

「とおるん……どしたん?」

「寝にきた。一緒に」

「ん……いらっしゃい。マドちゃんも」

「……ん」

 

 寝ぼけた声……割と寝てた所にジャンピングプレスをもらったのに何一つ怒らないあたり、優しいを通り越して悟りの域に達している気さえする。

 さて、明里の布団なのに、モゾモゾと動いて、透を挟んで布団の中に入る。

 

「ふふ、両手に花」

「とおるんー。良い匂い。シャンプーの」

「……暑苦しい。ていうか、たかが出張で大袈裟すぎ……」

「じゃあ円香が出張の時は、一緒に寝てあげない」

「は? べつに嫌とは言ってないでしょ」

「よし、じゃあ寝るまでしりとりやろっか」

「良いね」

「リカの提案をなんでも肯定しないで。たまには反論の一つでもしてみたら?」

 

 そんな呑気な話をしながら、そのまま三人で駄弁って、翌日は寝坊した。

 

 ×××

 

 さて、翌日。二人は透を事務所まで送った。昨日の夜、一緒に寝たからか、別れの時に行きたくないーとか言われなかった。

 で……今日から数日間、二人暮らし。その為、円香は……。

 

「……リカ、今日のご飯当番、私が変わってあげる」

 

 舞い上がっていた。透が普段から邪魔だった、とかではない。……ただ、二人の時間というのはとても貴重だ。基本はいた方が良いが、いない時も少し欲しかったりしないわけでもなくて。

 

「? なんで?」

「昨日、代わってもらったから」

「まぁ良いけど。……はぁ、行っちゃったねー。とおるん」

「ん」

 

 ……あまり二人きりで暮らす、というのもあったわけでもないので、少し緊張するが……まぁ、気にしても仕方ない。

 

「とおるんも寂しくないかなー」

「大丈夫でしょ。あれでも大人だし」

「え? いや俺ももう大人だけど寂しいよ?」

「リカは子供だからまだ」

「え、いや」

「子供だから」

「う、うん……」

 

 まだまだ子供である。実際、今年度で19とは言え、大人になったなんて認めるつもりはない。

 

「さ、帰ろっか」

「ん」

「帰ったら、久々にやらない? やわらか頭塾」

「良いよ。今日こそ叩き潰すから」

「いやそういうゲームじゃないからアレ……」

 

 明里のアホは、こういうのにも強い。特に、数字と分析と直感が異常に発達している。

 ……とはいえ、このアホの子に負けるのは嫌だから、実を言うと密かに練習していたりするが。

 そんな時だった。プチっ、と腰から違和感。何が起こったのかはわからないが、やたらと恥ずかしいことが起きている気がして仕方なかった。

 

「ごめん……リカ、ちょっと……」

「? 何?」

「トイレ行きたい……確認したい」

「確認? ……あ、もしかしてとおるんが身に付けてるものに発信器でもつけた?」

「違うから……お願い、コンビニに……!」

 

 なんて話している時だった。スカートの裾から、それが自由落下した。それを見るなり、違和感の正体をすぐに理解した。

 これは夏休み前……まだ、明里を襲おうと思っていた時、透とノリで買った紐パンである。

 今日、こんな下着履いたっけ? なんて思ったが、思い出した。今朝、つい気まぐれで適当に手に取ったこれを履いてしまったことを。

 だが、結んだところが解けたわけではない。紐が、切れた。

 

「マドちゃん……あっ」

「……!」

 

 見られたっ……と、顔を真っ赤にしてしまう。よりにもよって紐パンを……と、顔が真っ赤に染まって、反射的に拳を握りしめてしまう。

 ……が、明里が自分の上着を脱ぎ始めたことで拳を解く。何をするつもりなのだろうか? なんて思ったのも束の間、明里は頬を若干、赤らめたままその脱いだ上着を円香の腰に巻いてくれた。

 

「……はい、とりあえず隠して」

「っ……か、カッコつけ男……」

「え、このパンツ、もう履けないんだよね?」

「蹴るよ?」

「や、履けるなら余計なことしちゃったから……」

「……」

 

 こいつに憎まれ口はかけらも効かない辺りがまた腹立って困る。何が腹立つって、これで頬を赤らめている自分に。

 

「……履けないから、拾っておいて」

「え、お、俺が?」

「このまま私にしゃがめと言うとは……流石、ミスターノーデリカシー」

「あ、そ、そっか……ミニスカートだもんね……!」

 

 こっちだって彼氏にパンツを拾われたく……いや、悪くない。ある種では悪くないけども、恥はあるわけで。

 拾ってもらうと、明里はそれをカバンの中にしまった。

 

「じ、じゃあ……帰ろっか」

「無理」

「え?」

「……これから電車乗るのに、ノーパンミニスカートで行けって言うワケ?」

「え……でも、そのままお店に入るの?」

「それしかないでしょ……」

「……え、だ、大丈夫……?」

「平気だから、早く歩かせて。……一秒でも早くノーパンから解放される努力をして」

「あ……う、うん……!」

 

 そんなわけで、半ギレ気味にランジェリーショップに向かった。もう二度と紐パンは履かない。

 

 ×××

 

 さて、そんなわけで店に到着した。しかし……と、円香は冷や汗を流す。彼氏……彼氏なんだから問題ない……と、思い込もうとすればするほど、何故か罪悪感と興奮が際立つ。

 男と二人で女性下着のお店……死ぬほど恥ずかしい。しかも、今すぐに装備しないといけないあたりが余計に。

 

「絶対、店員さんに変なプレイだと思われる……」

「プレイ?」

「いや、だから……や、何でもない」

「……ええ」

「せっかくだから、リカが選ぶ?」

「えっ⁉︎ 良いの⁉︎」

「冗だ……は?」

 

 冗談のつもりだったが、思っていたのと違う反応に、眉間に皺を寄せる。

 

「前から思ってたんだ。洗濯してる時とか。マドちゃんの下着……とおるんのに比べて大人っぽ過ぎるって」

「は?」

「フリフリとか……あと、なんていうんだっけ……ボウリングの0点みたいな名前の……あ、ガーターとかそんなの。マドちゃん、まだ今年で19なんだから……その、男を挑発するような下着はやめて欲しかったんだ」

「……は?」

「俺も電車の中でたまにやたらと薄着の女の人の下着が見えたことあるから、もしかしたら完全に隠すのは難しいのかもしれないけど、それならせめて見られても男が興奮しない下着を選んであげないとなーって思ってたんだ。任せて、良いの選ぶから」

「…………は?」

 

 苛立ちが増していく。誰のためにその手の下着を買っていると思っているのか。

 

「よし、じゃあ……どんなのに……」

「リカ」

「ん?」

「そこまで言うからには、ちゃんと私に似合う下着選ばないと許さないから」

「…………えっ?」

 

 決めた。こいつにパンツだけでなくブラも選ばせ、性癖の把握に努めてやる、と。

 

「ほら、早く。人にそれだけ言うんだから、良いの選べるんでしょ? 言っとくけど、一切口を挟んであげないから」

「お、おう! 任せろ!」

「その代わり、私が気に入らなかった奴を選んだ数×1枚、写真撮って透に送るから」

「え、良いけど?」

「……言ったな?」

 

 決めた。色んな写真を撮ってやる、と。

 さて、そんなわけで二人でノーパンであることを忘れたまま店内を見て回った。

 明里も周りの視線なんか気にならなくなったのか、真剣に店内を見回す。

 

「……うーん、マドちゃんだから……やっぱり、可愛い方が良いよね……大人びてる感じより。でも、下着の可愛さとかよくわかんないんだよな……熊さんとかかな?」

「……」

 

 なんだろう、真剣に選んでくれているのが……なんか余計に恥ずかしい。なんなのこの人、と顔が少しずつ赤く染まる。

 

「ググってみよう。あまり見られても恥ずかしくない……あ、スポブラって奴がそうなんだ……」

 

 それはそう。でも今はとっても恥ずかしい。周りの視線が視線だけに、円香は思わず口を挟めずに顔を赤くしたまま俯くしかなくなる。

 

「スポブラ……うーん、有栖川さんに聞いてみるか」

「……!」

 

 人に言う気かよ! と固まってしまう。しまった、口は挟まない、なんて言うべきじゃ無かったかもしれない。

 

「もしもし、有栖川さん? 今、平気ですか?」

『ええ、平気よ。……どうしたの?』

「マドちゃんが下着を選んで欲しいらしいんだけど、スポーツ用の下着で良い感じのない?」

『え……どういうプレイ?』

「? はい?」

『っ……な、何でもないわ……えっと、下着?』

「そう」

 

 絶対戸惑ってる。明里のリアクションを見るだけで分かる。

 そのまましばらく、夏葉にアドバイスをもらう明里。なんていうか……なんだろう、この公開処刑。どうかしている。

 

「よし……ありがとう」

『ええ。でも、あまりいじめないであげなさいね?』

「え? いじめ? 誰が?」

『うん、何でもない』

「じゃあ、ありがとうございました。今度、何かお礼を……」

『絶対にいらない』

「えっ」

 

 電話は切れたようだ。すると、明里はサクサクと選び始め……そして、本当にスポブラとスパッツを持ってきた。

 

「これでどう⁉︎」

「もう、なんでも、良いから……早く、帰らせて……!」

「え……な、なんで怒ってるの……?」

「後で覚えといてよホント……!」

 

 ぶっ飛ばす、もうなんでも良いからぶっ飛ばす、そう決めながら、円香は下着を購入し、店員さんに「今すぐ使います」と羞恥プレイにも程がある一言を告げた。

 

 ×××

 

 さて、家に着いた。明里と円香、二人だけの夜。ソワソワしていた、円香は。ソワソワソワソワしていた。

 なにせ……二人きりだから。何か起こらないなーなんて思う反面、いや、でも可能な限り穏やかに過ごしたい、と思わないでもなくて。

 まぁ、どちらにしても、ひとまずは落ち着かなくてはならない。とりあえず、二人だけでの晩御飯を終えて、お風呂も入ってあとは団欒するだけ。

 部屋に戻ると、明里がスマホをいじっていることに気がついた。

 

「リカ? 何してんの?」

「チェイン。とおるんに。寂しいよーって連絡来てたから」

「……ふーん」

 

 自分も何かしら反応してあげよう、と決めて、スマホを見てみると……写真が大量に来ていた。写真集用の写真、こっそりとプロデューサーにスマホで撮ってもらい、それを送ってきている様子だった。

 その度に、明里が「綺麗だね。グレーのワンピースも素敵じゃん」とか「モデルさんみたい、そのパンツ履かれると俺なんかより全然格好良い」とか「でも胸元はもう少し隠して」とか褒められている。

 

「……」

 

 いや、気持ちは分かる。向こうは一人、こっちは二人、だからこそ一人の方が連絡できる時は構ってあげようと思うのは。

 ……でも、せっかくこっちはやはり二人なんだから……生身の方にも構って欲しい。

 そんなわけで、自分も自慢することにした。下着を明里に選んでもらうなんて、透だってしたことないだろうから。

 一度、洗面所に戻り、自分が買ってもらった下着に着替え、そして洗面台の鏡にスマホを向ける。

 

「……」

 

 顔を見られるのは恥ずかしいので、口元をスマホで隠して撮った。……中々、えっちなのでは? これなら明里も顔を赤らめる事だろう。

 そう決めて、三人のグループに送ってみた。

 

「……」

 

 その、わずか0.0000001秒後だった。明里が洗面所の扉を蹴り壊してきたのは。

 真っ赤な顔をしてカチコミに来たそいつは、そのままの勢いで怒鳴る。

 

「マドちゃん! 何この写真!」

「え、待って。まだ送信完了したばかり……いや、なんなら完了する前には動いてた?」

「こんな写真、撮るのやめて! お、俺達だからまだ良いけど……」

「……」

 

 言われて、改めて自分が送った写真を見る。それは、どう考えてもツイスタにたまに上がっている裏アカ女子のそれと同じだ。

 ……というか、透から返信が来た。

 

 菅谷透『ふふ、裏アカ女子ごっこ?』

 菅谷透『超えっちじゃん』

 

 ……なんか、今更になって気恥ずかしくなり、頬が赤く染まる。死にたくなってくる……と、同時に「じゃあどうすればよかったの……」という想いがふつふつと湧いて出てきた。

 そして……思わず正面から明里を抱き締めてしまった。

 

「ちょおっ……ま、マドちゃん……その格好で抱きつかれると……!」

「……うるさい」

「えっ……お、怒ってるもしかして?」

「怒ってない。……別に、今は私より遠くにいて、私より素直で可愛げがあって胸も大きい透の方が目の前にある私より良いって言うならどうぞそれで。ミスターおっぱい星人」

「おっぱい星人って何……おぶっ!」

 

 下着姿のまま抱きしめて、ボディブローしてやった。こいつほんとムカつく。

 

「せっかくなんだから……こっちにも構ったら?」

「……ごめんて」

「ん」

「だから、その……まずパジャマを着て……」

「……どう? リカが選んだブラとパンツ」

「……お、お似合いだけど……」

「見られても良いように選んでくれた奴なんでしょ?」

「そ、それはそうだけど……や、やっぱり……その、好きな人の下着姿は……刺激、強いから……」

「すけべ」

「……その写真を撮って送っちゃう人に言われたくな」

「は?」

「いえ、ごめん……」

 

 いつもの明里に戻り、それはもうキョドって可愛いものだ。

 

「じゃあ、今日は構ってくれるってことで良い?」

「う、うん……」

「じゃ、着替えたげる」

「そうでなくても着替えて欲しいんだけど……」

「うるさい」

 

 とりあえず、円香は着替えることにした。

 

 ×××

 

 さて、そんなわけでその日の夜は、二人で寝る。いや、何がそんなわけなのか全くわからないが、円香の甘えたゲージが溜まるとこうなるのだ。

 二人は揃って……今日は、円香のベッドに入っていた。

 

「この時期だと、二人で寝ても暑くないね」

「もう涼しくなってきたからね」

「マドちゃん、最初一緒に寝てた時、ずっと体温高かったからなぁ」

「……あんたが言わなくて良い」

 

 明里は照れていて体温が上がっていたが、円香は火照っていて上がっていた。同じ現象でも意味が全然違うあたりが憎たらしかったりするのだが、まぁそういう男だし仕方ない。

 甘えたな日、なだけあって、円香は寝返りを打ちながら、明里を横から抱き締める。もう何度も一緒に寝ているからか、明里も慣れた様子で抱き枕にされた。

 

「リカ、もっと詰めて。寒い」

「あ、うん」

「は? そんなに私から離れたいわけ?」

「え?」

 

 壁の方に寄る明里を引き留めるどころか、抱き締めている両腕の力を込める。

 

「人肌で温め合えば良いでしょ」

「っ……そ、そうだね……」

「そう」

 

 ぎゅーっと拘束するようにしがみついた。……そうだ、せっかくだし……今のうちに明日の予定も詰めてしまおう。

 

「リカ、明日午前までだよね。仕事」

「うん」

「なら……午後、デートね」

「良いよ。今日はあまりとおるんに二人の写真、送ってあげられなかったもんね」

「……ん」

 

 どこが良いだろうか? 今日、買い物とかしてしまったし、遊びがメインになるようなところが良い。

 

「俺、お散歩で良いよ」

「は?」

「散歩。仕事終わった後、待ち合わせした場所から、二人で歩きで行けるとこまで行こうよ。……で、写真撮ってとおるんに送るの」

「……」

 

 面白いかもしれない。まぁ、仕事が終わった場所次第だが、例えば隅田川沿い。歩くだけでこの季節は楽しそうだ。

 

「……良いね」

「でしょ?」

「じゃ、それで」

「ふふ、そういえば二人きりでデートの約束してデートって久しぶりかも」

「毎回、三人だからでしょ。……そういう意味じゃ、透ともちゃんとして来たら?」

「うん。……でも、とおるんは落ち着きあるようでないからなー」

「お守り、よろしく」

 

 あれで長女を名乗るとは、片腹痛い。まぁ、生まれた順番だけで言えば確かに長女ではあるのだが。

 

「でも、マドちゃんがいない時だからね。いるときは、やっぱり三人で行こう」

「……んっ」

 

 やっぱり……良い子だ。三人であることが当たり前になっていても尚、こうして三人であることを望んでくれるのが、もしかしたら長く二股を続けられている秘訣なのかもしれない。

 自分も、このままずっと三人でいたい……そんな風に思いながら、目を閉じた時だ。

 

「あ、でもマドちゃんととおるんは、小糸ちゃんと雛菜も一緒が良いから……五人かな?」

「殺すよ」

「えっ」

 

 やっぱりよく見張っておく必要は十二分にあるようだ。

 

 

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