浅倉が増えて、樋口のストレスは加速した。   作:バナハロ

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お久しぶりになってしまいました。でもしばらく投稿頻度は上がりそうにないです。スミマセン。


久々に会うと甘えたが爆裂する。

 浅倉透は、少しニヤニヤしていた。何故かって? それは勿論……写真集の写真だ。プロデューサーに自分のスマホで写真を撮ってもらい、それを明里に送りつける。

 R-15と言うほどのものではないけど、それでも何処か官能的な構図の写真を撮ったのだ。これで、真っ赤にしているか、あるいはベタくそ褒めてくれる明里の妄想が出来る。

 そんなわけで、休憩時間になり、スマホを手に取った。改めて写真を見ると、我ながら可愛く撮れている。

 

「……ふふっ。まずはこれ」

 

 もう秋なのに、波打ち際をやたらと薄いワンピース一枚で、裸足で歩く姿。風が吹いて長めのスカートも見えるか見えないか……いや見えないわ、という位置まで捲れている。

 これを見てどんな反応するかな、とウキウキしながら送信した。その数秒後……返事が来た。

 

 浅倉明里『可愛い! 清楚っぽい!』

 樋口透『でしょー?』

 

 ぽい、は余計だけど無視した。流石に、一緒に暮らしているだけあって、このくらいで照れることはないようだ。

 

 樋口透『他は?』

 浅倉明里『でも、足が泥だらけだよ。今の時期で裸足で歩くのすごいね』

 

 そういうのが聞きたいんじゃない。少しイラッとしたので、すぐに返事をした。

 

 樋口透『褒め言葉以外、受け付けてませんー』

 浅倉明里『可愛い! 美人! 好き!』

 

 まずいことになった。頬の緩みが止まらない。ニヤニヤしてしまう……って、違う。向こうをリアクションさせないといけないのに。

 そのためにもまずは……やはり、これをこうして、と自撮りモードにする。せっかく今、際どい衣装を着ているし、片腕でこう……寄せるように……。

 

「……よっ」

 

 自撮りを終えた。胸を腕で持ち上げつつ、少しだけ頬を赤らめて目をとろんとさせてみた。これならどうだ……と、写真を送った。

 

 浅倉明里『リカに変な写真見せないで』

 

 ……円香にスマホを没収されていた。まぁ……普通に送ってから恥ずかしくなったし、それはその通りと言わざるを得ない。

 その直後だった。円香のアカウントから写真が送られてきた。散歩でもしているのか、紅葉をバックに明里の腕に自分の腕を絡ませ、真顔のままウィンクをしている円香とぼんやりした表情の明里が映っていた。

 その後で、さらにメッセージが来る。

 

 菅谷円香『デートなう』

 

「……」

 

 ズキッ、と胸が痛むことはない。でも……羨ましい。狡い、そして……羨ましい。よって、メラメラと闘争心が湧いてきた。

 次こそ照れさせる、と思い、別の写真を選んだ。今度のは、カクテルが入ったグラスをパラソルの下で飲んでいる奴。勿論、ノンアルコールだが。

 何が色っぽいって、グラスに口をつける直前の唇だ。ウインクしながら飲んでいる為、まるで男を誘っているような飲み口だ。

 これならどうだ……と、思って返事を待つと、すぐに返ってきた。

 

 浅倉明里『綺麗! 大人っぽい! 素敵!』

 

「むっふーん」

 

 それはもう、ピノキオのように鼻が伸びていた。なんかあんま照れてる感じしないわけだけど、褒められればそれはもう嬉しさのあまり踊り狂ってしまう。

 なんて思っていると、また円香から写真が送られて来た。

 

 菅谷円香『デートなう』

 

 写真には、円香が明里の首筋に唇を当てている写真が送られてきた。

 

 浅倉明里『マドちゃんなんなの急に……恥ずかしい写真撮るのやめてよ』

 菅谷円香『うるさい』

 

 こいつら……まさか本当にデートしているのだろうか? 自分を抜きにして? ……やはり羨ましい。

 

 樋口透『狡い』

 樋口透『狡い』

 樋口透『狡い』

 樋口透『狡い』

 樋口透『狡い』

 樋口透『狡い』

 

 連打した。すると、やっぱり先に反応したのは円香だった。

 

 菅谷円香『うるさい』

 菅谷円香『デート中に投爆やめて』

 

 頭にきた。

 

 樋口透『私も混ぜて。今から帰るから』

 菅谷円香『バカなの? 明日、帰ってくるんだから我慢して』

 樋口透『リカ独占禁止法です』

 菅谷円香『は? 別に独占してない』

 菅谷円香『そっちが勝手にいなくなっただけ』

 樋口透『あ、そういうこと言っちゃうんだ』

 樋口透『じゃあ円香が家にいない時、リカのこと食べちゃう』

 菅谷円香『は?』

 菅谷円香『じゃあ私は今日食べる』

 樋口透『狡い』

 

 なんて、少しずつ険悪になっていく中……ふと、そういえば明里が大人しいことに気が付いた。

 

 樋口透『てか、リカは?』

 

 聞くと、既読がついたまま返信が途切れる。恐らく、周囲に明里がいなくなったのだろう。

 しばらく待っていると、写真が送られてきた。

 

 浅倉明里『カマキリいた』

 

 それと同時に、カマキリを肩に乗せた2ショット写真が送られる。かわいい。透にとっては。

 

 菅谷円香『ブッ飛ばす』

 浅倉明里『え、なんでチェインで言うの?』

 

 そこで返信は途切れたが、おそらくリアルファイトを行なっていることだろう。羨ましい……と、強く思う。

 休憩時間が終わってしまったので、撮影を再開した。

 

 ×××

 

 さて、翌日。透は不機嫌だった。もう無理、と頭にきているのを隠そうとしないで、駅に到着した。今日は絶対、三人でイチャイチャしてやる。朝まで。と思いながら改札を通って階段を降りたときだ。

 

「とーおーるーんー!」

「リーカー!」

「「ひしっ」」

「……おかえり」

 

 完全にハグしている自分達を無視している円香だった。透はすぐに円香にも目を向け、明里と一緒に手を伸ばす。二人の間に引き寄せると、そのまま三人でハグ。

 

「帰ってきたー! えっと、あれ……ア・バオア・クーに?」

「あれ? ルナツーじゃなかった?」

「ソロモンでしょ」

「そう、ソロバン」

「ゾロファン?」

「何でも良いから。リカ、言うことあるでしょ」

「うん。おかえり、とおるん」

「ふっふーん、ただいま」

 

 と、挨拶をする。今日は透が真ん中で三人で手を繋いだ。

 

「晩御飯、出来てるよ。今日はたこ焼きにした」

「イェーイ、タコパ」

「あとケーキ買ってあるから」

「お、マジ? 何かのお祝い?」

「何処かの誰かが昨日から拗ねてたから、リカがケーキ用意しようって」

「やった。じゃあもう少し拗ねてよっかな」

「リカ、二人で食べよっか」

「うん」

「嘘嘘。ごめん」

 

 もう怒りなんて何処かに行ってしまっていた。迎えに来てくれるだけでこんなに嬉しいとは。

 三人で手を繋ぎながら歩く中……ふと、父親と母親に挟まれて帰っていた時のことを思い出した。あの時、両手を繋いでぶら下がったりしてたっけ……と。あれ、やりたい。

 

「ね、リカ、円香」

「何?」

「あれやりたい。ぶら下がる奴」

「何それ?」

「あー、両親とかに昔やってもらったやつ? 手のブランコ」

「そうそれ」

「は? 重いでしょそんなの」

「やーりーたーいー」

「良いよー。ね、マドちゃん?」

「はぁ……勝手にして」

 

 やった、と小さくガッツポーズ。透は一歩下がって二人と繋いでいる両腕を伸ばす。

 

「いっくよー」

「はいよー」

「どうぞ」

 

 一気に踏み込み、透は下半身を真上に持ち上げる。両腕を伸ばし切って、一回転するんじゃないかってほど持ち上がる。やっぱりこういうの楽しい。

 そう思って、着地のことを考えていなかった。当然ながら、子供時代より腕は長い。つまり、腰以外、足も腕も何もかも伸ばしたままにしていると、まず道路に直撃するのはお尻である。

 

「ぎにゃっ!」

「うわっ、大丈夫? 何でちゃんと着地しないの?」

「バカでしょ」

「お、お尻が……割れた」

「え、おしり割れてない人間ってこの世にいるの?」

「リカ、バカにならないで」

 

 本当にお尻が痛い。思わず彼氏の前でさすってしまうほど。

 

「うう……円香のお尻くらい大きかったらもう少しダメージは少なかったと思う……」

「次、ケツバットにする?」

「え、お尻の大きさに個人差とかあるの?」

「リカ、真に受けないで」

「あるよ。円香のマジで美……嘘嘘、ごめんごめん、ほんとマジで」

 

 指を鳴らし始めた円香に慌てて謝った。殺されかねない気がしたから。なんとか立ちあがろうとするけど……やはり、お尻痛い。立てないかも……と、思っているときだ。明里が自分の前に膝をついて背中を向けた。

 

「ほい」

「おっ、おんぶ?」

「正解」

「いえーい」

 

 そのまま透は明里の背中に乗り込む。ギュッ、としがみついて、持ち上げてもらった。

 

「リカ号、発進」

「フルアーマーZZガンダム、出るぞ!」

「……待って」

「え?」

 

 止めたのは円香だった。何故か少し頬を膨らませている。そして、明里の正面から両肩に手を置き、軽くジャンプした。

 

「ちょおっ……⁉︎」

「フルアーマーなら前もでしょ」

「も、も〜……甘えん坊なんだから」

「うるさい黙って」

 

 円香もそういうとこある。多分、チェインで透ばかり誉められていたのが羨ましかったのだろう。自分だってデートしてたくせに。

 明里の頭を挟んで、左右の肩にそれぞれ頭を置いている円香と透はお互いに睨み合った。

 

「なるべく暴れないでね。あんま暴れると落としちゃうから」

「ん」

「分かった」

 

 つまり、おんぶの独り占めには……暴れれば良いという事だ。そのまま円香の脇腹に手を伸ばした。

 

「きゃうっ」

「ちょっ……マドちゃん?」

「な、何でもない……!」

「な、なるべく……動かないでって……!」

「ごめん……」

 

 あ、今睨まれてる、とオーラを感じとった。その直後、今度は透の首筋に人差し指の先端が当たる。

 

「ひゃうっ?」

「わちょっ……だ、だからとおるん……!」

「ごめんて」

 

 謝りつつも、ビシッと自分と円香の間に稲妻が走る。面白くなってきた。

 

「ちょんっ」

「ひゃうっ……このっ」

「ぎゃひっ! ……それっ」

「ふぉうっ?」

「ちょっ、二人ともいい加減に……して!」

「えっ」

「ちょっ」

 

 直後、身体が強引に持ち上げられた。何が起こったのか……と、思ったのも束の間、二人揃って両肩に抱えられた。

 

「ちょっと……! 仮にも彼女を岡持みたいに……!」

「おー、めっちゃ揺れる。……酔う」

「だって二人ともなんか暴れるし。そのまま大人しくしてるように」

「ふふ、担がれてるサバイバーの気分だわ」

「全くなんだけど」

 

 そのまま帰宅した。

 

 ×××

 

「で、どうだったの? 写真集」

「めっちゃ綺麗に撮れた」

「自信家」

 

 そうは言うが、円香も大成功はしてるんだろうな、と察している。透は顔面の良さだけを使う仕事なら出来るから。

 

「買っちゃおっかなー、俺もそれ」

「いや、買わなくて良いよ。貰えるから、私」

「そういうんじゃなくて、他の男に少しでも行き渡らないようにしないと。とりあえず、駅前の文○堂の在庫は全部買い取る」

「透、発売日教えて。その日はこの男、監禁する」

「わかった」

「えっ、な、なんで……?」

 

 本気でわかっていないトーンである、この男。

 

「当たり前でしょ。破産したいわけ?」

「そうだよ、リカ。それやると減っちゃうから、私のファン」

 

 少しずつファンとかアイドル業とかを理解し始めた透は、ファンを大切にすることも覚え始めた。つまり……自分の写真集は可能な限り、ファンの人たちにも届けたいと思っていた。

 

「でも……あ、あんなに綺麗で、その……ちょっと、えっちなとおるん……他の人に見せるんでしょ……?」

「……」

「……」

 

 照れてる、明里が。透から写真を送られた時、素直な褒め言葉しか返していなかった、あの明里が。実はあの言葉には、照れも含まれていたのかもしれない。

 それ故に、実は割とちょろい透は、すぐに親指を立てた。

 

「よし、許可する。買い占め」

「ほいきた」

「いやダメでしょバカども」

 

 透を止めながら、円香はたこ焼きをひっくり返す。

 

「とにかく、やめて。そういうのは。売上があれば良い、なんてものでもないんだから」

「でも、リカが載ってる雑誌、円香買ってるよね。保存用と観賞用と切り抜きスクラップ用で」

「え」

「透、余計なこと……」

「ふふ、愛が重いわ。こっそりやってる分、なおさら」

「……」

「あ、あーごめん、嘘嘘」

 

 無言でタコをひっくり返す棒を向けられ、慌ててヒヨる透だった。

 

「でも、実際マドちゃんこの三日間すごかったよ」

「は? 何が?」

「ちょっとリカ……」

「すっごく甘えん坊さんで。お風呂にも一緒に入ろうとされて困ったよー」

「……へー」

 

 今度は円香が透に睨まれる番だった。や、だって透がリカを食べるとか言うから……と、言い訳がましいことを頭の中でボヤいていると、透がすぐにいった。

 

「じゃあ、リカ。私と入ろう、今日は」

「え、マドちゃんとも入ってないけど……」

「いいから」

「じゃあ水着で入ろっか。マドちゃんも久々に入る?」

「私はいい、三人であの風呂は無理だし。……透、甘えたら?」

「んー……じゃあ私もいいや」

 

 自分も入ろうとしてやめた。けど、透が疑うなら入ったら良い、そう思って言ったのだが、逆にそれは看破されたようで、透は首を横に振るった。こういうとこ、幼馴染でありながら可愛げがない。

 

「……あっそ。ま、勝手にどうぞ。リカ、焼けた」

「え、まず私にちょうだいよ。私が帰ってきた記念パーティーでしょ?」

「なんで帰ってきただけで記念になるの。あんたが行ってきたのは戦場?」

「えっ」

 

 我ながらメチャクチャなことを言っている自覚はあったが、そのまま強引にたこ焼きを明里の皿の上に置く。

 

「ありがと、マドちゃん」

「マドちゃん、私のはー?」

「はい」

「え……これ焼く前のタネ……」

「ソースかける?」

「いけるかな?」

「やめなって。お腹壊すよ」

 

 明里がバカを慌てて止めると、自分のお皿の上のたこ焼きを箸で摘み、透の口元に運んだ。

 

「もう……しょーがないな、二人とも……はい、あーん」

「お、いえーい……あーん」

 

 ま、これくらいの役得は許してやっても良いだろう。そのまま食べさせてもらって……。

 

「あっつ!」

「とおるん、一口は無理あるよ」

「はふっ、はふっ……!」

「吐く?」

「っ、っ、っ……!」

「あ、そう。無理しないでね。口の中の火傷って鬱陶しいから」

 

 ……騒がしい。やはり、この二人に恋人らしさなど無理なようだ。それは自分も同じかもしれないが……まぁ、せっかくだ。そのまましばらく放置した。

 

「そういえば、リカは出さないの? 写真集」

「いや、俺は所詮、バイトだし。それに、今は仮面ライダーの撮影で忙しいから」

「それ、いつ終わるの?」

「知らない。けど、来年の九月でジュウド終わるし、それまでには」

「ふーん……」

 

 なんて話していると、熱々のたこ焼きをようやく食べ終えた透が口を挟んだ。

 

「リカ、お水ある?」

「はいはい。これ、牛乳だけど」

「ああ、円香が毎日飲んで、寝る前に胸を揉む為の……あ、ホント嘘だから勘弁して」

「嘘じゃないでしょ、ほとんど言ってたでしょ。そして2回目でしょ」

「マドちゃん、牛乳飲んでなんで腕を揉んでるの? 疲れてるの?」

「ほら、バカだから通じてないしセーフ」

「リカ、ほんとそのままバカでいて」

「え、な、なんで⁉︎」

 

 胸と腕を聞き間違えるあたり、耳ではなく頭が悪い。……とはいえ、透がいつ自分のそれをしているのを見たのかも気になる所だが。

 そんな中、牛乳を飲み干した透が声を掛けてきた。

 

「……あ、そうだ。円香」

「何?」

「プロデューサーが明日の仕事、仕事なくなったって」

「は?」

「出るはずだったCMの撮影、延期になったから」

「なんでそれ最初に言わないの?」

「忘れてたわ」

 

 ……まぁ、次の日にこっちから問い詰めるまで忘れてた高校時代に比べればマシになったが。

 その話に、明里が乗っかってくる。

 

「マドちゃん、CM出るの? 録画しなきゃ」

「どうやってよ」

「なんのCM?」

「クリスマスケーキ」

「へー、じゃあそれ買おう」

「いい、買わなくて」

「えー、なんで?」

「作りたくない? 二人で」

「お、良いね」

「いや私も混ぜてよ」

「「何されるか分からないからいい」」

「あーそう言うこと言っちゃうんだー。拗ねちゃおーっと」

「拗ねる前にたこ焼きひっくり返して」

 

 なんて話しながら、たこ焼きパーティーは和気藹々と進んだ。やはり、こうして三人で食事した方が楽しい。

 まったりしながら三人でとにかく食事を続けた。

 

 ×××

 

 さて、就寝時間。明里は自室のベッドにダイビングして目を閉ざした。今日はそろそろ……寝る前のフィギュアの手入れをしないと。

 なんて思いながら、こっそり買った円香と透のフィギュアの埃を払おうとティッシュを手にしたときだ。

 

「おーっす、リカー」

「あっ」

「ん? ……わぉ」

 

 バレた。フィギュアのこと。よりにもよって、スカートの中を磨いているときに。

 

「えっち」

「違うから! 手入れしてただけで……」

「じゃあ、本物にも手入れしてよ」

「……は?」

 

 何言ってんの……と、思ったのも束の間、床に腰を下ろした透は、明里の膝の上に両足を乗せた。

 

「マッサージ」

「え……して欲しいの?」

「うん」

「……」

 

 ……まぁ、それくらい良いけど……でも、生足を揉んでしまって良いのだろうか……? 

 いや、まぁ致し方ない。とりあえずフィギュアを置いて、乗せられた透の足に手を置く。まずは足の裏から、と思い……爪の先端でなぞった。

 

「わひゃひゃひゃっ」

「すごい笑い声出したな……」

「何でくすぐっておいてそういうこっ……くはははっ……!」

 

 後ろに寝転がってジタバタするけど、絶対に足から手は離さなかった。なんかこうして爆笑する透は少し珍しくて可愛かったから。

 さて、そろそろ嫌われるかも、と思ったのでマッサージを始める。柔道を習っていた頃から、この手のことは割と学んでいた。

 

「あっ……意外と上手」

「でしょ? ……ていうか、サイズ合わない靴でも履いてた? なんか硬いよ」

「サイズというか……普段、あんま履かないのとか。裸足の時もあったけど」

「そっかー。お風呂入った時にちゃんとマッサージした方が良いよ。指と指の間とか開くように」

「んー……じゃあ、リカやってー?」

「水着着るなら良いよ」

「よし、じゃあ今からやろう」

「えっ、い……今から?」

 

 もうお風呂入ったのに……いや、入ったからこそお湯に浸かるだけとはいえ……なんて思っている間に、透は立ち上がった。

 

「着替えてくるから、リカは着替えなくて良いよ」

「うん……いや、俺も着替えるよ!」

「ふふ、待ってる」

 

 たまに、透だけでなく円香もやたらと肌を見ようとしてくるのは何故なのだろうか? いや、別に嫌なわけではないが。恥ずかしいだけで。

 さて、言い出しっぺになってしまった以上は、自分も準備しなければ。まずはお湯を再度、沸かしてから、夏にしまった水着を引っ張り出す。

 しばらく待機していると、ようやくお風呂が沸いたので入った。寒いので湯船で待機していると、透が後から入ってきた。

 

「おーっす」

「う、うん……」

 

 夏と同じ水着……とはいえ、やはりちょっと一緒にお風呂というのは緊張する。

 

「前、失礼しまーす」

 

 そんな自分の緊張を知ってか知らずか、平気で透はお風呂に入る。そして、自分に向かって生足を伸ばしてきた。

 あれ、ていうかこれ……想像していたよりまずい事態なのでは? なんて冷や汗が流れる。ほぼ裸の女性の生足を、自分もほぼ裸で揉む……いや、そういう風に捉えるからだ。

 えっちな目で見るな……と、言い聞かせつつ、手に取った。

 

「じゃあ、マッサージするね」

「うん」

 

 そのまま、お湯の中につけたまま親指で圧していく。

 

「あ、あー……気持ち良い。二重で」

「痛かったら言ってね」

「うん……んっ」

「……」

 

 女の人が足を自分に向けて開いている……ちょっとえっちだ。だが、何とか気を落ち着かせつつ、続いて脹脛。手のひらで挟み込むように揉みほぐしていく。

 

「あー良いねージェットバス感ー」

「凝ってますなー。ちょっと硬いよやっぱ」

「立ってること多かったからねー」

「お疲れ様ー」

 

 なるべく会話すればエッチな目で見てしまうことはない。そんな時だった。透が不意に、思い出したように言った。

 

「そういえばさ、リカ」

「何?」

「高一の夏休みで、私のオッパイ見たよね」

「っ、き、急に何⁉︎」

 

 吹き出すのは何とか堪えたが……にしても、むせそうになってしまった。

 

「な、何言ってんのいきなり……!」

「いや、あの時やたらと後まで引き摺られて、会話も拒否られたこと思い出しちゃってさー」

「わ、悪かったよ……慣れてなかったんだよ、女の人の……そういうの」

「今もじゃん?」

「そ、それはまぁ……」

 

 というか、慣れている方がどうかしていると思う。その手の恥じらいは人間には必要だと思う。

 そんな明里に、少しだけ頬を赤らめた透は、上目遣いで声をかけてきた。

 

「今のうちに慣らす?」

「えっ……」

 

 どういう意味、と聞く前に、透は水着の裾に指を引っ掛けた。

 

「っ、な、何して……!」

「見る? 中」

「み、見ないよ!」

「でも、見たくないわけじゃないんでしょ?」

「え……や、見たくな……!」

「それ失礼。彼女に。本音は?」

「……み、見たくないことはない、です……」

 

 それはそう。多分、裸をマジマジ見ると勃ってしまうだろうし。それに……まぁ、何れは見ることになるだろうし……。

 

「だからさ、今のうちに」

「……で、でも……」

「大丈夫、私も死ぬほど恥ずかしいから」

「……」

 

 ……どうしよう、見るだけなら良い、のだろうか……? 円香も一緒のが良いのだが……多分、もう寝ているし……。

 いや、まぁ言ってしまえば既に見ているわけだし、あんまり気にしなくても良い気も……。

 

「……」

 

 いや……待て。仮に見るとして……自分が見るだけになってしまって良いのだろうか? 男と女の身体は違うし、男の胸なんて同価値とは言えない。

 つまり……あくまでも等価交換にするには……手を打つしかない。こちらも、恥を覚悟した上での手を。

 

「もし、とおるんが胸を見せてくれるなら」

「うん?」

「俺も、下半身を出すよ」

「……うん?」

 

 何言ってんだこいつ、みたいな顔をされた。

 

「等価交換だよ。……いや、俺の下半身なんかが等価と呼べるかは分からないけど、同じ身体の一部という部位的な意味合いと、恥を負うという意味では等価、と考えるしかない」

「え、でも……逆に良いの?」

「うん。覚悟は出来てる」

 

 言われて、透は頬を赤らめ……そして、なんかその時が来たと同時に、やたらとその赤みが強くなった。

 

「ま、待った!」

「え、何?」

「……やっぱり、その……またの機会に、しよっか……円香に悪いし……」

「え……まぁ、とおるんがそう言うなら……」

 

 ……ちょっと助かった。覚悟は出来ているとはいえ、普通に恥ずかしいし。でも、おかげで吹っ切れた。やはり、まだえっちな目で見るのは早い。

 

「もう少しマッサージするね。多分、太腿も凝ってるし」

「え、いやあの……」

「ほら、動かない。疲れは早めに取るに限るから」

「ちょっと待って、まだちょっと恥ずかしい……」

「いいから。脚は第二の心臓って言われてるんだから、ちゃんとケアしないと」

「あの、待っ」

 

 このあと、メチャクチャマッサージした。透は夜中は眠れなかったらしい。

 

 

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