浅倉が増えて、樋口のストレスは加速した。   作:バナハロ

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運が芽生える時は消費をした後。

「……今何回?」

「……48」

 

 そんな虚な会話が、二人の間で交わされる。レバーを回し、中から出て来たのは、オオエンマハンミョウ。このガチャガチャの中で唯一、クワガタじゃない景品だ。そして、こいつが出たのは23個目である。そして、一つのガチャポンはすでに空にしている。

 

「……透、500円玉作れる?」

「お札全部飛んだ。円香は?」

「もうない」

「……」

「……」

 

 一度、コンビニで下ろすしかないが……しかし、何故こんなに出ないのか? ちょっと異常なくらい、メンガタクワガタだけ出てこない。これなら普通にバラで買った方が安……や、だから売ってないからこうしているわけで。

 

「下そう……」

「コンビニならあったよね、下に」

「手数料」

「細か」

「あんたが気にしなさすぎなだけ」

「でも、それだと今から探すんでしょ? 銀行」

「……まぁ」

 

 流石に少し疲れた。肉体的にも精神的にも。でも、みんなで暮らしている以上、手数料さえも切り詰めないといけない。一人暮らしはそんな簡単なものではないのだ。

 

「今から見に行ったら入荷してないかな? メンガタクワガタ」

「ないでしょ。誰かが奇跡的に売らないと入荷しないし」

「……あー。そっか」

 

 まぁ仕方ない。後半戦だ。そして、今月のお昼はもやし弁当に決定した……なんて思っている時だった。透が「あっ」と声を漏らした。

 

「何?」

「このクワガタ、売れば良いんじゃないの」

「! 天才。それで少しでも稼げる」

「よし、行こう」

 

 と、いうわけで、売りに行くことにした。

 二人で紙袋の中に詰まった大量のカプセルを抱えて、念のためにフロアを変えて売りに行った。

 しかし、こういう時、オタクの街というのは助かる。基本的に他人に興味はなく、自分が購入したもの、或いはしようとしているものにしか意識が向かないので、ノクチルの二人の手の中に虫のおもちゃが詰められているのは知られることがない。

 まぁ、売ってしまう時はもう致し方ないわけだが……何、このフロアはフィギュアとか売ってるフロアだし、オタクと言ってもアニメオタクが多いだろうし、自分達がアイドルとはバレないだろう。

 でも念の為、円香は持参していたサングラスをかけた。

 

「これ、買取お願いします」

「お願いしまーす」

「わっ、ノクチルの樋口円香さんと浅倉透さん⁉︎」

 

 秒殺だった。

 

「えっ、うそっ……やっば、ちょっ……失明するくらい眩しっ……好き、超好きっ……あはっ、やばっ」

「「……」」

 

 しかも、超ファンだった。さて、困った事になる。別に公表しているわけではないが、もう三年弱もアイドルをやっていると、ライブのMCとかで核弾頭二人が自分の苦手なものとか普通にバラすのだ。

 つまり、ライブに顔を出すほどのファンならば、円香の弱点が虫であることは知っているわけで。このままだとキャラ付けだと思われる。別にファン以外にどう思われようと知ったことではないけど、ファンにだけはそれはまずい。

 

「浅倉、売っといて。私そんな気色悪いもの見たくない」

「えっ」

 

 紙袋を押し付けて退散した。どうせ透は何も察しないだろうし、これがベストだろう。

 そのまま売却を任せて、とりあえずトイレに向かった。他にすることないし。ぼんやりした表情のまま歩いていると……ふと見覚えある顔がこちらを見ているのに気がつく。

 

「あっ、円香さーん!」

「……小宮さんと、芹沢さん」

「円香ちゃん! こんにちはっす!」

 

 二人とも背が伸びて、今や透よりも大きい。果穂は元々だが。ということは当然、円香よりも大きいわけで。

 それでも円香にとって二人とも小糸に次ぐ愛しい少女だ。気にする様子もなく円香は声をかけた。

 

「何してるの?」

「これを買いに来ました!」

 

 果穂が見せてくれたスマホの画面には、仮面ライダージュウドの変身ベルトが写っていた。困ったことに、明里が変身するライダーだと思うと少し欲しい。

 

「か、カッコ良いね……」

「ですよねですよね⁉︎」

「芹沢さんは?」

「私は虫の一番くじ買いに来たっす!」

「なるほど」

 

 そんなのあったんだ、と思っていると、当然次は向こうから聞いてくる。

 

「円香ちゃんは何しに来たっすか?」

「私は……まぁ、ちょっとね」

 

 言えない、ゴキブリと虫のおもちゃを叩き潰して弁償しに来た、なんて口が裂けても言えな……。

 

「円香ー、全部売ってきたよ。すごい、14,000円くらいになった。また下さなくてもいけるわ、メンガタクワガタ」

「……」

「「メンガタクワガタ?」」

 

 今日ほど思い通りにいかない日は中々ないだろう、と思ってしまう程、何もかもうまく行かない日だ。明里には人を幸運にする加護があるのでは、なんて思ってしまうほどである。

 

「おー、果穂ちゃんとあさひちゃん。どしたのこんなとこで」

「これ買いにきました!」

「それより、メンガタクワガタってなんすか?」

「円香が壊した。リカの。それ弁償するために買いに来たんだよね。ガチャポンで」

 

 あの口、縫い付けてやりたい。なんで何もかもを話してしまうのか。もう成長した二人は、普通に円香の剛腕に恐れ慄く。

 

「え……ま、円香さん……何してるんですか?」

「ストレスっすか?」

「違うから。……いや、まぁ良いやそれで」

 

 とりあえず、ガチャポンだ。あさひは知っていそうだし、もう言ってしまうことにした。

 

「とにかく、メンガタクワガタが必要なの」

「私、たくさん持ってるっすよ? ヨーロッパミヤマが欲しくて結構引いたっすからこれ」

「「えっ」」

「良かったらあげるっすよ全然」

 

 ……天井叩いて最低保証が出た気分ってこんな感じなのかな、とソシャゲゲーマーの感覚を味わってしまった。

 とはいえ、年下の子からタダでもらうのは気が引けるし、何か交換条件を出そう。

 

「……じゃあ、さっき言ってた虫の一番くじ一回分と交換ね」

「ほんとっすか⁉︎ ラッキー!」

「あの……じゃあ、まずはあたしのベルトだけ先に買っても良いですか……?」

「よーし、じゃあ果穂ちゃんは私と行こう。仮面ライダーリカのベルト買いに」

「ジュウドです。メタ発言はやめて下さい」

 

 と、いうわけで、一旦4人は二手に別れて買い物を進めた。その際に、透が売って得て来たお金は二等分する。

 まぁ、なんやかんやあったけど、とりあえず目当てのものは手に入ることが確約された。ほって一息つきつつ、円香はあさひとその一番くじの場所へ向かう。

 

「へぇ……これが、一番くじ」

「そうっす!」

 

 ……なんか、明里が持ってるフィギュアの中でもリアルさが違う方のものに似ている。ガチャポンと出来が違うのは当たり前かもしれないが、にしてもリアルすぎて気持ち悪い。果穂の方について行けばよかった。

 

「……買うの?」

「買うっすよ?」

「……」

 

 勘弁して欲しいが……まぁ、これも明里のメンガタクワガタのためだ。

 仕方なく、買うことにした。普通のアニメとかの一番くじに比べると安いのはありがたい。

 A賞はネプチューンオオカブトか……なんかもう名前から普通に怖いあのカブトムシ。上下に生えている角の間、左右に並んでいる短いツノが気持ち悪い。

 

「芹沢さんはどれが欲しいの?」

 

 他にもギラファノコギリクワガタや、ヘラクレスオオカブト、下位の商品でもオウゴンオニクワガタなどがあって、種類は豊富だ。

 

「私はサカダチコノハナナフシが欲しいっす!」

「えっ……」

 

 あの、カナブンとバッタとカマキリを足して3で割ったような奴だろうか……? 虫嫌いならわかってくれると思うが、緑色の虫は色合い的に無理なのだ。どうしても。

 ゴキブリやらムカデのようなレジェンドメンバーを気持ち悪いと言うならば、それらの虫は気色悪い、というべきか。

 

「ほ、他に欲しいのはないの?」

「あとは、ハンカチとかクリアファイルっすかね」

「? あの辺ってハズレじゃないの?」

「ハズレじゃないっすよ。冬優子ちゃんと愛依ちゃんにもあげて、三人でお揃いにしたいっす!」

 

 やはり、この子も基本的には果穂や小糸と一緒で、前とほとんど変わっていない。オフの日でもユニットメンバーのことを考える優しさと、自分の好きなものを他人とも共有したいという可愛い幼さ。

 本当、純粋な子は羨ましいくらい眩しさを保っている。

 ……でも、やめた方が良いと思う。冬優子に虫のハンカチ使え、なんて言ったら半殺しでは済まなさそう。

 

「? どうかしたっすか? 円香ちゃん」

「ううん。買おっか」

 

 でも止めなかった。年下に甘い円香に止める術はなかった、と言うべきか。

 そのまま二人で一番くじを引く。……せっかくだから、明里へのお土産として自分も余分に買おうか。透と三人でお揃い、なんていうのもありな気がする。

 

「4回お願いします」

「私は19回で!」

「19⁉︎」

「欲しいっすから!」

「そ、そう……」

 

 まぁ止めないけど。人のお金だし、多分明里も趣味にもそれくらい使っているし。

 さて、そんなわけで早速……と、まずはあさひから引いた。本当に19枚、連続で引く。確か、あさひが欲しがっているサカダチコノハナナフシはB賞。上から二番目だ。

 で、その結果……。

 ネプチューン(A賞)、ヘラクレスリッキーブルー(C賞)、ギラファノコギリクワガタ(E賞)×2、その他大勢……と、全力で物欲センサーを発揮していた。

 なんていうか……あさひでもこんなことあるんだな、と変に感心してしまった。

 

「はぁ……中々出ないっすねー」

「まぁ、まだ私の分残ってるから」

 

 そう言いながら、円香はまず一回、あさひの分で一枚引く。

 

「はい、めくって」

「ありがとうっす!」

 

 とはいえ……円香としては正直、不安があるのだが……その不安はしっかりと的中したようで、次に引いた景品はヘラクレスオオカブトの通常verだった。

 

「……ま、良いすけど」

「どんまい」

 

 話しながら、いよいよ自分達の分。とりあえず一つ目……明里の分。剥がして中を見てみると、ハンカチだった。

 

「……ふむ」

 

 悪くないかも。三人でお揃いなのだから、こういう小物がちょうど良い。

 はい、二回目。次は透の番。またハンカチだった。

 

「あはは、円香ちゃんもついてないっすねー」

「いやむしろ当たりだから。リカ達にお土産だし」

「? 明里兄ちゃんにお土産なら、尚更フィギュアの方が良いんじゃないすか?」

「三人で使えるものにしたいから」

「あー、なるほど。超好きっすね、明里兄ちゃんのこと」

「……別に良いでしょ」

 

 文句あるのか、と思いつつも、まぁ雛菜以外の年下に怒るのはちょっとアレだし、目を逸らしてスルー。

 続いて、最後の自分の番。くじを引いて中を見ると……B賞の文字があった。

 

「……うげっ」

「あっ」

 

 つまり……サカダチコノハナナフシ。緑色の気持ち悪い奴のフィギュア。なんで自分の分、と決めた時に限ってこんなものが出てくるのか。

 

「あー! 円香ちゃん良いなー!」

「っ……じゃあ、いる? これ」

「え……?」

 

 まぁ……別に自分はそもそも虫が嫌いだし、わざわざ3人お揃いにする必要はないのかもしれない。透と明里にあげてしまおう。

 

「良いっすか⁉︎」

「私はいらないし」

「でも、明里兄ちゃんは喜ぶかもっすよ?」

「どうせあいつ持ってるし平気」

 

 そう言いながら、あさひが景品を大量に入れてもらっていた袋の中に箱を一つ追加した。

 ……さて、そろそろ帰るか、と思いながら、景品を入れてもらった袋を受け取った時だった。その袋の中に、あさひが薄いビニールに入ったハンカチと、箱を入れた。その箱はあさひがダブったギラファノコギリクワガタだ。

 

「……何?」

「交換っす!」

「別にいい」

「いえ、そうもいかないっす! 昔から結構、円香ちゃんには飴とかチョコとかもらってたっすから! それ、明里兄ちゃんにあげて仲直りのキッカケにしてくださいっす!」

「……いや、喧嘩はしてないけど別に」

 

 ……この子も成長しているんだな、と、心の瞳が潤う。この姿、冬優子に見せてあげたいまである。

 

「ありがとう」

「いえ!」

 

 まぁ、ありがたく受け取ろう。どうせ明里は持っていると思うが、こういうのはやっぱり気持ちだから。

 そう思いながら、二人でお店を後にした。

 

 ×××

 

「やっと買えましたああああああ!」

 

 別のお店で、果穂はベルトを両手に持って真上に掲げる。その様子を透はぼんやりと眺めた。

 

「おー、イェーイ」

「はい! イェーイ!」

 

 元気良いなーと思いながらも、果穂の手元のベルトをのんびりと眺める。

 

「こういうの、どうするの? 飾るの?」

「はい! 私の部屋、仮面ライダー専用の棚があるので、そこに飾ります!」

「あー、なるほど」

 

 やはり日常的に装備するわけではないらしい。当然と言えば当然だろう。

 ……と、思いつつも、こんなの飾れるスペースがあることに驚く。いや、まぁ実際は自分の部屋にもあるのだろうけど……。

 

「果穂ちゃん、大変じゃない? 部屋の掃除」

「そうですねー。埃とか溜まると本当にちょっと、その……面倒で」

「だよねー。で、知らないうちに汚れが溜まって……」

「いえ、定期的に掃除しています! ベルトとかフィギュアに、埃がつくと嫌なので!」

「えっ……一々?」

「? はい?」

 

 ……こんな小さい子、と言っても背は高いし中学生だけど、ちゃんと趣味のために部屋の掃除をしているらしい。良い子だ。

 それに引き換え自分は……どんなに同い年の好きな子に掃除しろ、と尻を叩かれても、面倒で途中でサボって漫画とか読んだりして……で、その結果でモンスターを生み出し、幼馴染にフィギュアを破壊させてこんなとこまで来てしまった。

 

「あー……果穂ちゃん。部屋って綺麗な方が良い?」

「? それはそうだと思いますけど……たまに、ベルトをつけて変身ポーズの練習とかしますけど、その時に汚れてたら嫌ですし」

「や、じゃなくて。一緒に暮らしてる人の」

「はい。お兄ちゃんの部屋、昔汚くしてゴキブリが出て私の部屋に来た時『大っ嫌い』って言っちゃってから、とっても掃除とか他の家事もするようになりました」

「えっ……」

 

 そ、それは可哀想……と、思う反面、だ。もし、自分にまた同じことがあったとして……いや、というか明日帰って来た時、だ。

 

『とおるん、ゴキブリ出てマドちゃんを泣かしたって?』

『俺の好きな人泣かすなんて酷いじゃん。いくらとおるんでも限度あるから』

『大っ嫌い』

『大っ嫌い』

『大っ嫌い』

 

 頭の中で、言われてもいない辛辣なセリフが木霊する。それと同時に、神里流・霰歩の如く突き進む氷の刃が胸の奥底に突き刺さる。死ぬ。言われてもいないのにこの威力なのに、そんなこと言われたら確実に死ぬ。自殺ではない、ショック死する。

 どうしよう、とりあえずメンガタクワガタの弁償だけでは足りない気がする。何かお詫び申し上げる品をもう一つ用意しなくては。

 

「果穂ちゃん」

「なんですか?」

「そのお兄ちゃんに嫌いって言った時、何かお詫びもらった?」

「はい! お兄ちゃん、その日のうちにケーキを買って来てくれました!」

「よし、ケーキを買いに行こう」

「えっ? でも、あさひさん達と合流しないと……」

「果穂ちゃんの分も奢ったげる」

「ほんとですか⁉︎ 行きましょう!」

 

 行った。

 

 ×××

 

 翌日、明里は何故か腰が疲れたような感覚で帰宅していた。精神的な疲れというものは、常に肩か腰にくるのだ。

 相変わらずしんどいけど、まぁいい加減慣れて来た。モデル的にも色んな方と知り合えるのは助かるし、今日のパーティには夏葉とその父親もいたので挨拶しておいたから比較的楽だった気がする。

 さて、とりあえず駅に到着。円香と透からのチェインによると、車で迎えに来てくれているらしい。

 

「ふぅ……あっ」

 

 車が目に入り、小さく手を振ると運転席の透が手を振り返す。円香も助手席に座っている。

 とりあえず、挨拶しながら後ろの先に乗り込んだ。

 

「ただいまー」

「おかえり」

「どうだった?」

 

 話しながら車を走らせる透。円香の問いに、明里は懲り懲りした様子で答えた。

 

「寂しかった」

「っ、バカっ、違っ……そうじゃなくて忘年会が」

「私も寂しかったー」

「いぇーい、とおるん仲間」

「いぇーい」

「運転中にハイタッチしないでバカコンビ」

 

 怒られた透はすぐに前を向き、明里も手を引っ込める。パーティがどうだったか、と聞かれると……まぁ、いつものだ。

 

「疲れたよー。有栖川さんとか来てたんだけど、途中で酔っ払って介抱するのが大変で……まぁ、普段きちっとしてるから、そのギャップは……」

「降りて、車から」

「え、なんで⁉︎」

 

 まずい話題だっただろうか? そういえば、二人が酔っ払った時はどうなるのだろうか? 透とか超お酒弱そうだ。

 

「そ、それより二人とも、俺がいない間にトラブルとかなかった?」

 

 一先ず、そんなことを聞いて話を逸らした。なんか分からないけど、今の話題はマズそうだから。

 すると、二人とも揃って目を窓の外に向ける。

 

「? 何かあったの?」

「言ったでしょ」

「……ああ、コカローチの件ね」

 

 そういえばそんな話をしていた。……思い出すと、少し家に帰るのが憂鬱だが……まぁ仕方ない。また買えば良い。

 それより、円香は平気だったのだろうか? 

 

「マドちゃんは大丈夫だったの?」

「平気。子供じゃないし」

「びっくりして腰抜かしてお尻で床突き抜けて下水道まで落ちてリザードに出会したりしなかった?」

「太ったって言いたいわけ?」

「え? あ、いや嘘嘘! なんでもないです!」

 

 そうか、そういう解釈になるのか、と慌てて弁解する。円香は透と違って食べ過ぎると普通に太る体質らしいので、その辺は敏感だ。

 

「とおるんは平気?」

「私も太ってないけど?」

「いや違くて。カファール」

「平気。でも部屋にホイホイ置いた」

 

 まぁそれくらいしてくれたほうが良い。明里は決してそれが嫌いではないが、好きでもない。なので、やはり基本的には清潔にしてもらいたいものだ。

 

「ていうか、リカこそ体重平気なの?」

「え、俺?」

「そうだよ。なんか太るって言うじゃん。忘年会で」

「いや俺そもそもそんな食わないし」

 

 だらしない身体になるのは嫌だから、普通に運動するし逆に食べ過ぎたりはしない。

 そんな話をする中で、透がふと思い出したように呟いた。

 

「そういえば、昔いたよね。ゴキブリ食べまくったギネスの人」

「あーいたね」

「よくそんなこと出来るよね……リカでもいける?」

「いや俺踊り食いとか好きじゃないし、あの人亡くなったらしいよ。体内でスゥスールが繁殖して」

「うわ……強っ。ゴキブリ」

「ちょっと、その話題やめて。……吐きそう」

「「ごめん」」

 

 円香が本当に顔色を悪くしていたのでやめることにした。

 さて、そうこうしているうちに家に到着。駐車を終えて、家の中に入った。なんか、一日いなかっただけなのに随分と久しぶりに感じる。どれだけ自分はここに恋焦がれていたのか。

 中に入り、手洗いうがいを済ませてリビングに上がると……ケーキとプレゼントと思われる袋が用意してあった。

 

「えっ」

 

 ケーキの上のチョコレートプレートには「部屋に被害を出してごめんなさい」の文字。何があったのだろうか? と、頭上に「?」が大量に浮かぶ。

 

「え、何これ?」

「いや、壊しちゃったから。フィギュア」

「お詫び」

「お詫びでケーキとプレゼント、だと……?」

 

 どういう事なのか。いや、分からなくもないけど、ほとんどクリスマスや誕生日のようになっている気がする。

 

「あの……なんで?」

「いや、正直ここまでやるつもりなかったんだけど、透が……」

「これで大嫌いにならない?」

「ならないよ! こんな真似しなくても!」

 

 どんだけ暴君だと思われているのか。大事にしているとはいえ、たかだかおもちゃである。

 

「え、二人とも俺がそんなことで嫌いになると思ってるの……?」

「え、いや果穂ちゃんのお兄ちゃんが……」

 

 ちょっとイラっとしてしまったので、二人の肩に腕を回して力任せに抱き寄せた。

 

「分かった。二人がそういうイメージ俺に持ってるなら俺にも考えがあるから」

「いや違くて。なりゆきで……」

「二人に対してもっと優しく尽くせば良いのね」

「いや、だから聞いて……」

 

 喧しい。二人の弁解が言い訳にしか聞こないくらいだ。

 ホールドした状態で両足を高速で動かし、二人の足を引っ掛ける。

 

「えっ」

「ちょっ」

 

 足が浮いたことで一時的に円香と透の体自体が宙に浮く中、明里は足を正座の形にし、床に着地。腕で二人の首をホールドしているので、そのまま二人とも寝転がらせ、膝の上に頭を置いた。

 

「はい、よしよし。俺みたいな暴君の為に、よく用意してくれました」

「あの、リカ聞いて。悪くないけど」

「違うから、リカ。気持ち良いけど」

「ケーキも二人で食べて良いし、買って来てくれたものも二人で使って良いからねー」

「お願いだから待って。……あ、リカの膝……」

「新鮮……」

 

 しばらくそのまま呑まれるしかなかった。

 

 ××+

 

 さて、ようやく円香も透も正気に戻った。本当にようやくで、三時間膝でゴロゴロしていた。

 

「なんだ、そういうことだったんだ」

「うん。そういうこと」

「誤解だから」

 

 説明を受けた明里は、ホッとした様子で胸を撫で下ろしていた。どんなか不安に思ってたの、と透も円香も呆れてしまう。

 

「なんかごめんね、俺なんかのために……」

「原因は私達だから。リカは悪くないから」

「そうだよ。謝らないで」

「でも、とおるんのはあながち勘違いじゃないよね」

「あー、まぁね。でもあれはほら、果穂ちゃんのお兄ちゃんのあれだから」

「はいはい」

 

 不安になってしまったのだろう。円香も気持ちは分かる。明里ほど純粋真っ直ぐちゃんに「大っ嫌い」なんて言われたら、おそらくその場で絶命するだろう。自殺ではなく、ショック死する。

 なんて透と同じことを考えながら、ケーキを摘みつつ円香は袋を手に取った。

 

「で……はい。これ、メンガタクワガタとおまけ」

「ありがとー」

「あんたのも入ってるから」

「え、ほんと?」

 

 あさひと交換したハンカチ。三人でお揃いだ。

 

「おおー! 良いじゃん!」

「私のもあるんだ」

「ついでだったから」

 

 まぁ、今にして思えば、我ながら虫のハンカチをお揃いで持つ二股カップルってよく分からないけど。

 でも、それもアリな気がする……なんて思いつつ、もう一つあげた。

 

「あとこれ」

「え、まだあるの?」

「芹沢さんからもらったやつ」

 

 言いながら差し出したのは、ヘラクレス。持っているかもしれないけど、明里は同じものがいくつもあるのを気にしないし、平気だろう。

 

「おおー! ヘラクレスじゃん!」

「あげる」

「良いの⁉︎」

「……持ってないの?」

「うん。これだけこのシリーズで持ってない」

 

 めっちゃ喜んでくれてる……と、少し頬が緩む。その自分に追撃するように、明里は笑顔で告げた。

 

「ありがとう。マドちゃん」

「っ……だから、お詫びだって言ってるでしょ」

「ふふ、円香照れてる」

「うるさいバカ倉」

 

 そんな風に話をしながら、三人でケーキを食べた。もちろん、この時間のケーキは太るので運動してから寝た。

 

 

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