友人の【魔法適正】が最強クラスだったので、僕は大人しく支援に回ろうと思います。 作:にっぱち
世界は未知で満ちている。
例えば神様なんて会ったことないからいるかどうかなんて分からないし、死後の世界なんて行ったことないからあるかどうかなんて分からない。
だから、所謂『異世界』なんてものも、実際に行ってみないとあるかどうかなんて分からない。
* * * * * * * * * * * *
「くあぁ~~……ねみぃ」
大きなあくびをかましながらだるそうに僕の隣を歩く
そんな僕、
「灯火、昨日何時に寝たの?」
「ん~……寝た記憶が無いな」
「灯火……」
灯火は短く切り揃えられた茶色の髪をポリポリと搔きながら昨日の記憶を思い返し、僕に対してとんでもない返答をしてきた。
「灯火、そんなんで来月の大会大丈夫なの?」
自堕落な生活を送っているように見えるが、これでも灯火は全国的にも有名な総合格闘技の選手で何度も賞を取っているほどの凄い人間だったりする。お母さんって訳じゃないけど、小さいころから見ている僕的には少し心配になってしまう。
「大丈夫だろ、多分」
「ねえ……」
「しゃーないだろ? お前が貸してくれたゲームが面白すぎて辞め時見つけられなかったんだから」
「……今貸さなきゃ良かったって思ったよ」
夜更かしの原因が僕の貸したゲームと言われてしまえば、僕自身も責任を感じざるを得ない。面白いと言ってくれる分にはうれしい限りだけど、それで体調を崩すようなことになってしまったら目も当てられない。
いらない心配をしている僕を他所に、灯火は別の話題を僕に振ってきた。
「そういや陽向、お前最近模試の成績上がったってマジ?」
「え? ああうん、2つだけだけどね」
僕たちはまだ17歳。高校二年生ではあるけれど、僕は灯火と違って部活は何もやっていない。格闘技を頑張っている灯火の姿を見て『自分も何か頑張らなきゃ』と思って始めた勉強だったけど、今ではかなりいい成績を取れるようになってきている。
「お前、俺の順位が2つ上がるのと陽向の順位が2つ上がるのじゃえらい違いだろ。
今回で全国トップ10入りだろ?」
「あはは……」
褒められることに未だに慣れていない僕は、灯火の尊敬の眼差しにどう答えていいのか分からずに照れ笑いをしてしまう。
「俺ももうちょっと勉強出来たらな」
「そう言う灯火だって、十分勉強できるじゃん。この間の中間テスト、どうだったの?」
「中間は、まあまあだったかな? その前にちょっと大きめの大会があったからあんまり勉強できなかったんだよ」
「それで何点?」
「確か合計が467点だったかな?」
うちの学校で行われる2学期の中間テストは、国数英と社会系の選択科目1つ、そして理科系の選択科目が1つの計5科目500点満点だから、467点だったら高得点も高得点だ。
「文武両道って、まさに灯火のことだよね」
「才色兼備も追加していいんだぞ?」
そう言って、シュッと整った顔を僕に向けてくる灯火。確かに灯火は男性の僕が見ても惚れてしまいそうなほどカッコイイ顔をしているが、それを自分で言うのは果たしてどうなんだろう。
「灯火、才色兼備って普通女性に使う言葉だよ」
「別に男に使って悪いことは無いだろ」
「そりゃあそうだけど……」
変に反論したら、うまいこと言いくるめられてしまった。頭の回転が速いと言うか口がうまいと言うか……。
「とにかく、夜更かしはダメだよ? それで学校の授業で居眠りなんてしたら内申に響いちゃうんだし」
「分かってるって、今回だけだよ」
僕の注意を、いつものように流す灯火。こう言った灯火が今回だけで収まったことは今までで一度もない。
「もう……」
それを分かっていても、僕はこれ以上灯火に強くは言えない。これが僕たちのいつものやり取りとなっていた。
この後はまた他愛もない話をしながら学校へ行き、授業を受けて一日を過ごす。それが僕たちの日常。
でも今日は、そんな日常とは少しだけ違った出来事が僕らの目の前で起こってしまった。
「……あ、おーい! まだ信号赤だぞ!」
僕たちが学校までの途中にある道の中に、大きな坂がある。僕らが今いる地点は下り坂の始まりの方で、坂を昇ってきた車が僕たち歩行者側から見にくいというところから交通事故が多い場所で有名なところだった。
そんなところで、僕らの前を歩いていた少年が一人、歩行者用の道を飛び出て車道へと出て行ってしまった。
「君、危ないって!」
少年はゲームをしていたようで、前を見ていなかった。だからだろうか、歩道を外れたことに気づかずに歩いていってしまったっぽい。
僕は慌てて少年を追いかけ、道の途中で少年を捕まえることに成功した。
「駄目だよ、ゲームしながら歩いちゃ。ちゃんと前見て歩かないと」
少年を注意する僕。少年は僕の方を見ると、口の両端を吊り上げて笑った。人様の子どもに使っていい表現じゃないとは思うが、口は笑顔なのに目には一切の感情を感じられない、その顔がとても不気味だった。
「おい陽向! 早く逃げろ!!」
僕の背中から、灯火の焦ったような声が聞こえる。そっちを振り向こうとして僕の目線は坂上の方へと一度向けられた。
「……あ」
僕の目には、坂のてっぺんから下り始めるトラックが映った。坂を下り始めたトラックはスピードを緩めることが出来ず、僕たちの方へと突っ込んでくる。
「っ……灯火!」
僕は咄嗟に灯火の名前を叫んで、目の前の少年を灯火の居る方に向かって突き飛ばした。せめて少年だけでも、そんな思いが僕の身体を突き動かしてくれた。
しかしそれと同時に、灯火が僕たちの方へと向かって飛び出してくるのが見えた。
「「……え?」」
トラックのクラクションが鳴り響く中、2人の重なった素っ頓狂な声がやけに大きく聞こえた気がした。
少年と入れ違いになる形で僕のところへと来た灯火と一緒に、僕たちは眼前に迫る恐怖に対して目を閉じた。