友人の【魔法適正】が最強クラスだったので、僕は大人しく支援に回ろうと思います。   作:にっぱち

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第一章第8話 【薄暮の迫る街】

 ギルドが手配してくれた宿は、豪華とまではいかないけれど十分に立派なものだった。

 受付には40代くらいのおばさんが立っていて、僕らが入ってくるのを見つけると驚いたような顔をした。

 

「あら、流れ人なんて珍しいね。ギルドからの手配証は持ってるかい?」

 

「はい、これを」

 

 僕は地図と一緒に渡された銀色のプレートをおばさんに差し出す。おばさんはそれを受け取ると、表裏を確認し始めた。

 

「偽造防止用の刻印も有り……と。

 あい、いらっしゃい。何泊してくんだい?」

 

 手配証が本物であることを確認すると、おばさんは笑顔で僕たちを迎えてくれた。

 

「一応魔法に関する講義が終わるまでの予定なんですが」

 

「ふむ……それだったら一応10日で取っておくから、それ以上伸びそうだったらその時に言っとくれ。部屋はツインでいいかい?」

 

「はい、大丈夫です。ありがとうございます」

 

「それじゃあ名前教えてくれるかい? こっちで書いておくから」

 

 ギルドの時と同じように、名前をおばさんに書いてもらう。

 

「ヒナタとトウカ、ね。

 ご飯だけど、朝食は一人銅貨30枚、夕食は一人銅貨50枚になってるよ。まあ夕食に関しては、他のところに行った方が値段は掛かるけどいいもの食べれるから、そっちに行くのもいいと思うよ」

 

「あの、相場観がいまいち分からないんですけど、銀貨1枚って銅貨何枚分なんですか?」

 

「銀貨1枚は銅貨100枚分だね。まあうちのはギルドと提携している分、他より安めになっているとは思うよ」

 

 銀貨1枚が銅貨100枚で、朝食が銅貨30枚。ここの相場観で言えば、確かに多少節約すれば銀貨1枚で二人分の一日の食事は賄えそうではあるか。

 

「なるほど、ありがとうございます。では今日から暫くの間、お世話になります」

 

 おばさんに向かって、僕と灯火が同時に頭を下げる。

 

「あいよ。あ、部屋に貴重品は置いていかない方がいいよ。一応鍵は出来るけど、誰かに荒らされてもうちは責任取れないから。

 それじゃあ、部屋は二階に上がって突き当りにあるところを使いな。水は自分で作れるならそれでいいけど、無理なら外にある井戸から汲むか食堂で買うかのどっちかになるからそのつもりでね」

 

「はい、分かりました」

 

 再度おばさんに頭を下げて、僕たちは指定された二階の一番奥にある部屋へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 部屋にはベッドが二つとちょっとした荷物置きのスペース、それとテーブルとクローゼットがあるだけの簡素なものだった。窓にはカーテンの類は一切無く、外から丸見えの状態になっている。まあ二階だから角度的には見えないとは思うけど。

 窓から外を覗いてみると、辺りはすっかり夕焼け色に染まっていた。

 

「いい景色……」

 

 窓から見るタラハットの街並みは、風情と芸術に彩られた中世の姿そのものだった。ここだけ切り取ったら観光地にいられるような気分になれて最高なんだけどな。

 

 改めて部屋の中に目を向けてみる。部屋の中は綺麗に掃除がなされていて、ベッドにもシーツのようなものが掛けられている。しかし綺麗な直方体の形をしているわけではなく、歪な形をしていた。触ってみると、ちくちくとした感触が返ってくる。

 中を捲ってみると、そこには大量の藁が入っていた。

 

「まあ、そりゃあそうだよね」

 

 ここまでの街並みや人々の衣装を考えるなら、羽毛や綿が使われたベッドが庶民にも行き渡っているとはとても考え難い。それでもシーツが敷かれていたり掛布団には羊毛が使われていたりするから、睡眠にはそこまで支障は出ないだろう。

 

「十分じゃねえの? 寝具が気になるようだったらある程度稼げるようになってから宿変えればいいだけの話だろ」

 

 灯火は特段気にする様子もなく、窓際に備えられたベッドに身体を投げ出す。ガサリという音と共にベッドの形が歪み、灯火の身体が沈み込んだ。

 それに倣って僕も身体を預けてみる。制服を着ているおかげで上半身にチクチクとした感覚は無いが、下半身は布が薄いこともあってか少し気になってしまう。

 

「まあ、大丈夫でしょ」

 

 部屋の確認も終わったところで、僕たちは寝転がりながら今後のことについての話し合いをすることにした。

 

「灯火は講義を受けるってことは、そのまま冒険者として稼ぐってこと?」

 

「今んとこはそのつもりだな。

 そういう陽向は、冒険者やるのか?」

 

「そう……だね」

 

 灯火に聞かれて、一瞬口ごもる。

 

 

 

 

「陽向、お前冒険者やめとけ」

 

 

 

 

 灯火から帰ってきた返答は、僕が冒険者になることを否定する言葉だった。

 

「……なんで? 僕に魔法適正が無いから?」

 

 灯火に捨てられたような気持ちになってしまった僕は、縋るように灯火に聞き返す。

 

「まあそれもあるけど、陽向が冒険者やるのは陽向の負担が増えるだけだろ」

 

「負担?」

 

「武術の経験が一切無いお前がいきなり剣を振るうのは流石に無理があると思う。まずは身体づくりからやっていかなきゃいけない。身体づくりの後は剣術の指南を受けなきゃいけない。俺だって剣の経験は無いけど、武術やってるから身体は出来てる。

 それにお前、地球に帰る為の情報収集とかも一人でやるつもりだろ」

 

 灯火に図星をつかれてしまい、何も言えなくなってしまう。それを察したのか、灯火は更に続ける。

 

「俺だって誰かと話して情報を得ることは出来るけど、書物関連は無理だ。字が読めないからな。

 お前、この世界の文字も覚えようとしてるだろ? そうなるとお前にかかる負担が大きすぎるし、時間だってどれだけかかるか分からん」

 

「……そんなことまでばれてたか」

 

「何年親友やってると思ってんだ。

 兎に角、今から陽向が戦闘面に参加するのは非効率だ。どうせお前だって頭ではそんなこと分かってんだろ? でも俺だけが危険な戦場に行くのが忍びないから、自分も冒険者になろうとしてるんじゃないのか?」

 

 僕の考えをすべて言い当てられてしまう。そこまで理解してくれている嬉しさを感じるのと同時に、全てを見通されている感じがしてなんか恥ずかしくなってきた。

 

「大丈夫だよ、俺は死なない。

 少なくともお前を残して、俺は死んだりしねーよ」

 

 お互い、身体の殆どをベッドに沈めている為に顔を見ることはできない。灯火が今どんな顔をして僕に言葉を掛けてくれているのかを見ることは出来ないけど、きっと昼間みたいな浮足立った顔ではないだろう。

 

「なんかそれ、告白みたい」

 

 だから僕は照れ隠しに、そんな返事を返した。

 

「嫁に貰ってやろうか?」

 

「僕が貰われる側なの? ちょっと嫌だな~」

 

「自分で言っといて断るのかよ」

 

 いつもの軽いやり取り。ここにきて漸く、気持ちが軽くなったような気がした。

 

「ありがとね、灯火。お言葉に甘えて、僕は勉強に専念させてもらうよ」

 

「ああ。その代わり、いい情報期待してるぞ」

 

「ご期待に沿えるように頑張ります」

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