友人の【魔法適正】が最強クラスだったので、僕は大人しく支援に回ろうと思います。 作:にっぱち
「ん……くあぁ~~!!」
太陽がまだ昇ってすらいない時間帯、
「よし」
いつものランニングをこなす為、靴を履いて外に出る。制服にローファーなせいでかなり走り辛いが、着替えなんて持ってないし仕方ないだろう。
……昨日のうちに買っておけばよかったと思わなくもないが、別にこの格好じゃ走れないって訳じゃないからまあ良しとしよう。
外に出てから念入りに柔軟をして、まだ寝ぼけている身体を叩き起こす。足首周りを念入りにほぐしておいて、怪我をしないようにしないと。
「まだこの街の道殆ど知らないし、迷わない程度にグルグル走るか」
ゆくゆくは街中を走りながら色々なところを見て回りたいが、今日はそういったことはお預け。迷子になって今日から始まる講義に遅れたら元も子もないし、それに今日は他にやらなきゃいけないこともあるから早めにギルドに顔を出さなきゃいけない。
程よく身体が解れたので、早速走り始める。空は段々と白み始め、太陽が頭を出していた。走り始めてから気づいたけど、正確な時間や距離が分からないから感覚でしか走れないのは結構不便かもしれない。
時計みたいなものがあればいいんだけど……魔道具ってどのくらい便利なアイテムなんだろうか? 家電製品みたいな位置づけで考えていいのかな?
……まあ、そこら辺は実際に色んな魔道具を見てみれば分かることか。
* * * * * * * * * * * *
「……何してるんだ?」
暫く走ったところで、目の前に見知った顔が現れる。見知ったと言っても昨日会ってほんの少し話した程度ではあるけど。
「ランニングっす」
昨日俺たちに受付の場所を教えてくれた心優しき冒険者は、まだ朝も早い時間だと言うのに背中に剣を携えてどこかへ行こうとしているところだった。
「えっと……お兄さんは?」
咄嗟に会話をして、そういえばこの人の名前を聞いていなかったことに気づく。
「ダインだ」
「え?」
「お兄さんではなく、ダインだ」
俺が名前を呼ばなかったので察してくれたのか、お兄さんのほうから名乗ってくれた。本当は礼儀としてこちらから名乗るべきではあるんだけど、まあ結果オーライと言うことで。
「ダインさん、でしたか。俺は明村灯火って言います。灯火って呼んでください」
「トウカ……分かった」
そこで一度会話が途切れる。ダインさんはそのままどこかへと行こうとしたので、俺が慌てて呼び止める。
「あ、ダインさんちょっと待ってください!」
「……なんだ?」
ここでダインさんに会えたのはかなりラッキーだ。何なら今日は一日中ギルドで張る予定だったから、その分の時間が浮いたのはデカい。
「俺に剣を教えてくれませんか」
俺が昨日からずっと考えていたこと、それはこのダインさんに剣術の指南を乞うことだった。俺には格闘技の経験はあっても剣術の経験は一切ない。昨日ギルドにいた冒険者を見た感じ、皆剣なり弓なり斧なりと、何かしらの『武器』を持っていて、拳一つで戦っていそうな人間は誰一人いなかった。
そもそも俺だって、あんな化け物たちと拳でやりあえるなんてこれっぽっちも思っちゃいない。でも剣術に関してずぶの素人の俺がいきなり剣を握って、どうにかなるとはとても思えない。そこで昨日会ったダインさんにお願いしてみようと思いついた訳だ。
ダインさんは驚くでもけなすでもなく、じっと俺の目を見つめる。だから俺も自分の真剣さを伝える為に、じっとダインさんの目を見返す。
「何故俺に指南を乞う」
「あなたが強いと思ったことと、俺たち流れ人に対して偏見無く接してくれたからです」
「…………」
昨日一日を通して思ったことだけど、この街の……というより恐らくこの世界の人たちは、だと思うけど、俺たち流れ人に対してあまりいい印象を抱いていないように思えた。
幸いなことに、俺たちが接してきた人たちはそこまで露骨に嫌がっている人はいなかったけど、ギルドに行くまでの道すがらやギルド内部でかなりの人たちが俺たちに煙たがるような視線を向けていたのを感じた。
俺たちの態度が悪かったようには思えないし、そもそもそんな不快感を与えるようなことなんてしていない。だから多分、元々嫌われているんだろうなと感じた。
「俺はそこまで強くは無いぞ」
「一切の気配無く俺たちのところに歩み寄ってきている時点で相当強いと思いますし、もしそれで強くないと言うなら俺はこの世界で生きられる資格は無いと思います。
でも、俺はこの世界で生きなきゃいけないんです。生きて元の世界に、陽向と一緒に帰らなきゃいけないんです。その為にはここで死ぬわけにはいかない。戦えないじゃ駄目なんです。
だから、お願いします。俺に剣を教えてください」
昨日から何度下げたか分からない頭を下げる。
今の俺には何も無い。金もなければ生きていくだけの力も無い。だから俺がこの人に差し出せるものは何一つとして無い。だからこそ、俺は誠意しかこの人に見せられない。
長い、長い沈黙が流れる。
頭を下げ続けている俺には、ダインさんの表情は見えない。もしかしたら俺がこうして頼み込んでいるのも、ダインさんにとっては迷惑かもしれないんじゃないだろうか。一度は優しくしたけど、こうしてつけあがるならあんなことしなければよかった、そんなことを思っているんじゃないだろうか。
そんなマイナスな思考ばかりが頭を駆け巡る。
「……今日は魔法に関する講義だったな」
どれだけの時間が経っただろうか、ダインさんがぽつりとそんなことを言った。
「え、あ、はい」
「ならそれが終わったら門の前まで来い」
それだけ言うと、ダインさんは俺に背を向けて歩いて行ってしまった。
「……あ、ありがとうございます!」
俺はこの世界で戦う力を手に入れることが出来る。これで俺も漸く、この世界でスタートラインに立てる。
不安でどうにかなりそうだったが、ここにきてやっと重りが一つとれた気がした。