友人の【魔法適正】が最強クラスだったので、僕は大人しく支援に回ろうと思います。   作:にっぱち

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第一章第10話 【路傍の石】

「……ん、んぅ」

 

 窓から差し込む朝日の眩しさに、僕は耐え切れずに目を覚ます。最初は心配だったベッドだけど、寝てみると意外にも快適でぐっすりと眠ることができた。

 

「まあ、夢オチってことはないよね……」

 

 ほんの少しだけ期待していたことではあるが、藁のベッドと昨日と同じ光景でそんなものは簡単に打ち砕かれた。

 

 隣を見ると既に灯火の姿は無かった。きっといつものロードワークにでも行ったのだろう。異世界に来たというのに殊勝なことだ。

 

「僕も早く行動しなきゃ」

 

 部屋を出て食堂に向かう。今日は街を散策するのと同時に、働けるところを探すっていう大事な用事があるから早めに行動しないといけない。まだ太陽は昇り始めたばかりのようで、街の中に昨日のような騒がしさは無い。これなら一日をフルに使って仕事探しと街の探索が出来る。

 

 食堂でおばさんにお金を払って朝食を作ってもらう。この宿には僕らの他にも冒険者が泊っているようで、食堂には4人の冒険者がそれぞれ食事をしていた。

 

 

 

 

「はい、お待たせ」

 

「ありがとうございます」

 

 少し待っていると、おばさんがお盆に料理を乗せて持って来てくれた。内容は茶色ががったパンと野菜のスープ。朝ご飯としては十分すぎる内容だ。

 

「頂きます」

 

 両手を合わせて挨拶をし、パンを一齧り。日本で食べていたパンよりも硬いけど、食べれないってことは無い。というか普通に美味しい。

 野菜スープも啜る。こちらも野菜そのものの味がしっかりと出ていて美味しい。料理に詳しくないから何の出汁を使って作っているのか分からないけど、美味しいのは確かだ。

 

 ものの数分でご飯を平らげ、空になった皿とお盆をおばさんのところへと持っていく。

 

「ご馳走様でした。とっても美味しかったです」

 

「そうかい? それはよかったよ」

 

 おばさんは食事を作り終えて軽い休憩を取っているところだった。今なら邪魔にならないだろうと踏んで、今日の行動のために聞きたかったことをおばさんに聞いてみることにした。

 

「あの、少し聞きたいことがあるんですけどいいですか?」

 

「ん? なんだい?」

 

「この街で、僕を雇ってくれそうなところってありますか?」

 

 僕の質問に、おばさんはキョトンとした顔をした。

 

「雇うって……あんた冒険者は?」

 

「その……僕は冒険者にはならないんです」

 

 理由に関しては敢えて伏せたが、おばさんは僕の表情から察してくれたのかそれ以上は追及せずにいてくれた。

 

「……そうかい。まあ流れ人が絶対に冒険者にならなきゃいけないって決まりも無いからね。あんたがそう決めたならいいと思うよ。

 にしても雇ってくれるところね……うーん……」

 

「やっぱり、"流れ人"じゃ厳しいですか?」

 

 "流れ人"の部分を少し強調して言ってみると、おばさんは大きなため息を吐いて僕に憐れむような視線を向けた。

 

「その様子だと気づいているみだいだけど……流れ人ってのはあんまり好かれていなくてね。勿論あんたらみたいに礼儀正しい子たちもいっぱいいるんだけど、如何せん悪い者が良く目立つというか、そういうのばかりが印象についてしまうと言うか……

 って、私のぼやきはどうでもいいか。それで仕事だったね、うーん……」

 

 おばさんは両腕を組んで暫く難しい顔で唸る。この街に住んでいる人でこれだけ悩むとなると、働き口を見つけるのはかなり骨が折れそうな気がしてくる。

 

 

 

 

 

 

「……ごめんね、私が思い浮かぶ限りじゃ雇ってくれそうなところは……」

 

 かなりの時間悩んでくれたが、返ってきた答えはいいものではなかった。

 

「いえ、相談に乗ってもらってありがとうございます。働き口は自分でも探してみますので」

 

「本当にごめんね。出来ることならうちで雇ってやるって言えたらいいんだけど、うちも結構厳しくてね……」

 

「そんな、その気持ちだけで十分ですから。本当にありがとうございます」

 

 再びお礼を言って、食堂を後にする。こうなれば自分の足で探すしかないだろう。取り敢えずは色んなお店に行ってみて、直談判をしていこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うちは流れ人は雇ってねぇ、帰りな」

 

「流れ人? お前らは冒険者でもやってろよ」

 

「うちは今従業員の募集はやっていないので……」

 

 今日一日でこの街にある殆どの魔道具店と鍛冶屋に行ってみたが、返事はどこも同じだった。

 灯火の冒険をサポートできるような仕事に就いて、灯火の冒険を少しでもサポートしたいと思って鍛冶屋と魔道具店を虱潰しに当たってみたが、結果は散々。

 既に日も暮れかけ、もうすぐ灯火も帰ってくるであろう時間帯になっていた。

 

「……帰ろう」

 

 今日という日が完全に無駄になってしまったこと、そしてこの街での流れ人の印象が思っていたよりも悪かったことに肩を落としてしまう。明日もこんな調子だと、働き口を見つけるのは不可能かもしれない。そうなれば僕は完全に灯火のお荷物になってしまう……。

 

「いや、それだけは駄目だ」

 

 灯火にこれ以上迷惑は掛けられない。灯火が冒険者として命を懸けて戦ってくれる以上、僕もまたこの身を粉にして働き、脚を使って情報をかき集めなければいけない。たった一日駄目だったくらいで折れてる場合じゃない。

 よし、明日からまた頑張ろう!

 

「……って、あれ? こんなところに魔道具店なんてあったっけ?」

 

 決意を固めて顔を上げた時に、僕の目に偶然飛び込んで来た一つのお店。

 

 見た目は殆ど普通の民家で他の魔道具店のように魔法のステッキが描かれた看板は無かったが、今まで巡った魔道具店に書かれている共通の文字列が見受けられた。恐らくこれが『魔道具店』的な意味を持つこの世界の言葉なんだろう。

 

「せっかく見つけたんだし、最後にここも行ってみよう」

 

 今さっき固めた決意を無駄にしたくなかった僕は、目の前の魔道具店の門戸を叩いた。

 

「……御免ください」

 

 中にはランタンなどの明かりの類は無く、窓から差し込む夕陽だけが唯一の光源だった。他の魔道具店は棚に所狭しと様々な用途を持った魔道具が展示されているのに対して、このお店は棚にずらりと本が並べられていた。

 しかもそれらの本は展示されているというより、ただ整理するために置いているようだった。外見といい、この棚の本といい、ぱっと見だとここがお店だとは気づきにくい。自分でもよくここが魔道具店だと気づいたと思う。

 

 ふと一冊の本が目に入った。背表紙に書いてある文字は相変わらず読めないが、僕はその本を手に取って中を開く。

 中を開いてもやっぱり内容を読み取ることはできない。冷静に考えてみると、自分でもどうしてこの本を手に取り読もうと思ったのかまるで理解が出来なかった。気づいたら手に取っていた、そんなところだ。

 

「その本は売り物じゃないよ」

 

 ふと手に取った本を元通り本棚に戻そうとしていると、突然背後から声を掛けられる。慌てて振り返ると、そこには僕よりも二回りくらい小さなお婆さんが僕を見上げて立っていた。

 

「あ、その、こんにちは……」

 

「ポーションだったらあっちの棚だ。今日はもう店を閉めるから、それ買ってとっとと出ていきな」

 

 右手で店の奥を指差すお婆さん。やはりどこか排他的で、僕を鬱陶しく思っているように見えた。

 

「あの、僕は買い物に来たんじゃないんです」

 

「あ? なら冷やかしかい? それなら尚更早く出ていきな」

 

 お婆さんの声に苛立ちが含まれる。慌てていたので言葉に気を配っている余裕が無かったが、思い返せば今の言い方は流石に誤解を招く。

 

「僕、浦沢陽向といいます。僕をここで働かせてほしいんです!」

 

 お婆さんに向けて頭を下げ、全力でお願いする。最初の反応から見れば恐らく断られることは目に見えているが、それでも全力で頭を下げる。そうしなければ、自分の誠意も思いも伝わらない、そう思うからだ。

 

「……なんで働こうとするんだい?」

 

 今まで行ってみたお店の人とは異なる反応を示すお婆さん。僕はお婆さんに対して、包み隠さずに全てを話す。

 

「親友の冒険をサポートしたいからです。魔道具の製作が出来るようになれば、親友の負担を少しでも軽減できるんじゃないかって、思ったからです」

 

 まるでこのお店での経験を踏み台にすると言っているようにも捉えられかねないかもしれないが、ここで嘘を言ったところで何も伝わらないだろう。紛れもない僕の気持ちは、親友の為に技術を身に着けて冒険のサポートをすることと、親友が戦っている間に地球に帰る方法を探すことだ。

 

「…………」

 

 お婆さんは僕の目をじっと睨む。そしておもむろに、その視線が僕の目から僕の手元の本へと移った。

 

「それ、読めるのかい」

 

「この世界の文字は、まだ……。でも覚えたいとは思っています。勉強して、色々な知識を得たいと思っています」

 

「……そうかい」

 

 それだけ言うと、お婆さんは店の奥へと引っ込んでしまった。

 

 駄目だったか。それなら大人しく今日は帰って、また明日別の魔道具店か鍛冶屋さんを当たってみよう。

 

 そう思って手に持った本を棚に戻し、店を後にしようとしたところで

 

「どこ行くんだい」

 

 お婆さんに呼び止められる。

 

 振り返ると、お婆さんは先ほどまで着ていた麻色のチュニックのような服の上に朱と黄色のグラデーション模様が描かれた肩掛けのようなものを羽織っている。

 

「えっと、断られてしまったようなので宿に戻ろうと……」

 

「別に断っちゃいないよ」

 

 そう言うと、お婆さんは僕を追い越して出入口の方へと歩いていく。

 

「付いてきな」

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