友人の【魔法適正】が最強クラスだったので、僕は大人しく支援に回ろうと思います。 作:にっぱち
「灯火はこの後ダインさんのところだっけ?」
授業が終わり、ギルド近くの露店で適当に買った昼食を食べながらこの後の予定を灯火に尋ねる。灯火は野菜の串焼きを頬張りながら、首を縦に振った。
「ああ。陽向はどうするんだ?」
「僕はこれからスローアさんのところに行こうかなって。今日の授業で気になることもあったし」
付与魔法がどういった仕組みで使われているのかを今すぐにでも理解したい僕は、この後スローアさんのところに行って直接聞いてみようと思っている。講師の先生も「魔道具に関する話は魔道具師に聞いた方がいい」と言っていたことだし、言葉通りそうさせてもらうことにしよう。
「じゃあ、午後からはまた別行動だな」
「だね」
その後僕らは残った串焼きを食べ、各々の師匠の元へと向かうことにした。
午後。スローアさんの元へ来た僕は早速今日の授業で出来た疑問を聞いてみた。
「完璧に覚えてから来いと言ったんだけどね……」
僕が来た時にスローアさんはそんな小言を言いながら僕を睨んだが、僕の質問を聞くと丁寧に答えてくれた。
「いいかい、この世界における『魔法』ってのは、大きく分けて三つに分類される。
まずはアンタが今朝見てきた『属性魔法』。これは説明しなくてもいいだろうから省くよ。
次に付与魔法以外の『生活魔法』。例えばあんたが適性を持っている『分離』や『合成』もここに当てはまる。これらの魔法は単体では何も機能しない。
ならこれらの生活魔法はどうやって使うのか? ここで出てくるのが最後の一つに分類される『付与魔法』さ。付与魔法は先の二つの根底に位置する魔法とされている。生活魔法を道具に付与するのには付与魔法が必要だし、属性魔法を使う時にだって体内のマナに自身の『属性』を付与しているんだ」
「……成程。ってことは、属性って僕が持っている『分離』や『合成』と同じようなものだと考えてもいいってことですか?」
僕が聞くと、スローアさんは感心したように頷いた。
「まあ、一応ね。でも属性魔法が戦闘に使われることはあっても生活魔法が戦闘に使われることは無いから、一般的には分けて考えられてるんだ。
ともかく、付与とそれ以外の魔法は別物として考えなきゃいけない。付与の適性は魔法が扱えるものなら誰でも持ってるものだし、『付与無くして魔法は成らず』なんて言葉もあるくらいだ」
自慢げに話すスローアさん。この世界にも諺みたいなものがあるんだ……。
「それで付与魔法についてだが、ざっぱに言ってしまえば『モノに自分の好きな機能を与える魔法』だ。
例えばここにある羽ペン、これには『インクを吸い上げ、中で保管する』という機能が付与されているし、外にある街灯には『太陽が沈んだ時、微弱な火属性魔法が発動する』という機能が付与されている」
スローアさんが手元の羽ペンを持ち、近くに置かれた黒インクの瓶の中にペン先を漬ける。するとインクはみるみるうちに嵩を減らし、遂には瓶の中から無くなってしまった。
「一見なんでもできそうに見える付与魔法だけど、勿論そんなことは無い。
物体にはそれぞれにマナの許容限界ってのがあって、このマナの許容量を超えて物体にマナを蓄積することは出来ないんだ。
そして付与ってのは、そのマナに自身が付与したい効果を乗せて物体に移すことで完成する。その時にどのくらいのマナが必要なのかはその効果毎に変わってくるが、まあぶっ飛んだ効果だとその分マナの必要量も変わってくる。例えばそうだね……この羽ペンに『人に当てるだけでその人を殺す』っていう効果を付与しようとすると、膨大なマナが必要になるわけだがそれだけのマナをこの羽ペンは許容できない。つまり付与が失敗するって訳さ」
スローアさんが羽ペンで図を描きながら分かりやすく僕に説明をしてくれる。僕はスローアさんの話を、必死に頭を働かせて把握しようと努める。
「さて、付与魔法についてはこんなところだが理解できたかい?」
「……恐らく?」
「なら私に簡単に説明してみな。付与魔法とは何なのか、そして欠点とは何かを」
スローアさんが図を描いた紙を裏にして伏せ、僕に見えないようにする。いきなりの無茶ぶりに一瞬焦ったけど、意地でも頭の回転を止めまいと思った僕は先ほどのスローアさんの言葉を出来るだけ簡単に頭の中で纏めて話すことにした。
「ええと……付与魔法とは全ての魔法の根底に位置する魔法で、『対象のモノに自分の望む効果を与える』というのが付与魔法の効果になっています。
しかしどんな効果でも付与できるわけじゃなく、そのモノが持つマナの許容限界に応じた分の効果しか与えることが出来ません。
望む効果の大きさ……僕はこれを『現実を改変する力』だと思っていますが、この大きさに応じてマナの必要量が変わってきます。
……こんな感じでどうですか?」
僕の説明を聞いたスローアさんは、腕を組んで少し考え込むような仕草をした。
「現実を改変する力……か。流れ人は随分と面白い表現を使うね」
「えっと……褒められてます?」
「ああ、褒めてるよ」
スローアさんはしゃがれた声でからからと笑う。そして僕の元へと歩み寄り、その鋭い眼差しで僕を見上げた。
「頭の回転が速いのは大変結構。だがまだマナ操作は初期の初期。一度難しいことを考えず、ひたすらにマナ操作の修業をして来い。そうだね……10日後、またここに来な。毎日欠かさずに修行するんだよ、いいね?」
「は、はい……」
褒められたと思って嬉しくなっていたところで刺してくるスローアさんの眼は、今後僕のトラウマになること間違いなしだろう。なんてったって圧が凄い、「次に約束を破ったらお前を弟子には取らない」と目が語っている。
と言っても僕の疑問に丁寧に答えてくれたのもまた事実ではあるので、一回目の今回は見逃してくれたんだろう。僕はそんな優しさと丁寧に教えてくれたお礼の念を込めてスローアさんに頭を下げ、店を後にした。