友人の【魔法適正】が最強クラスだったので、僕は大人しく支援に回ろうと思います。 作:にっぱち
陽向たちがこの街に来てから7日が経過した日のこと―――
ロイハの執務室の扉が三度、ノックされる。
「入って」
手元の書類から一切目を逸らすことなく言うロイハ。ガチャリとドアが開く音がしても尚、ロイハはそちらに視線を向けない。
「ロイハ支部長、先日の『はじまりの森』の調査結果に関しまして、結果が出ましたのでご報告させて頂きます」
部屋に入ってきたのは、男。ペスト医師のような嘴の尖ったマスクを被り、全身を黒のローブで包んでいる為一切の特徴は分からないが、その声色から男だと言うことだけは分かる。
彼がこうしてマスクを付け、素性を隠している理由をロイハは知っている。それは彼はロイハお抱えの調査部隊『コリンツォ』の一員であり、陽向と灯火という二人の流れ人の動向の監視、及び身辺調査を任された人物のうちの一人だからだ。
「聞かせて」
「まず森の原っぱについてですが、我々が二日かけて隈なく捜査した結果そのような場所を発見することは出来ませんでした」
「でしょうね」
これはロイハの中でも分かりきっていたことだった。あの森に原っぱなど存在しない、それは20年以上この街のギルドで勤め続けたロイハが一番よく知っていることだから。
「ですが、『はじまりの森でクリミナルベアの死骸を見た』という情報があります。そして、『キゼモナスの帰還』も……」
「…………」
クリミナルベアは、本来であればはじまりの森に生息するはずの無い、凶暴な魔物である。本来であればタラハットよりもずっと西にある山『シャドウマウンテン』にてその生息が確認されている魔物で、間違ってもはじまりの森で観測される魔物ではない。
陽向たちがこの世界に飛ばされたあの日、長らくどこかへと旅立っていた厄災龍キゼモナスが住処である厄災の降る地へと帰ってきたという情報がロイハの元に舞い込んできたのは、ほんの三日前のことだ。キゼモナスは自身の姿を隠した状態で移動することができる。故に旅立った時もいつの間に旅立ったのか分からず、以来コリンツォの一部部隊を厄災の降る地に常駐させなければいけなくなってしまった。
そんな状態で、キゼモナスが帰ってきた。いつ、どのタイミングで降り立ったのかは定かではない。調査部隊が気づいたときに、キゼモナスは既に寝床で気持ちよさそうにいびきをかいていた。
「あの二人がキゼモナスとどんな繋がりがあるのかは分からない。でも現状を鑑みるに、何かあるのは間違いないはずよ」
目の前の書類に判を押して漸くペストマスクの男性の方を向くロイハ。眉をひそめ、鋭い眼光でペストマスクを睨む。
常人ならそれだけでちびりそうな程の眼光に晒されながら、ペストマスクは一切怖気づくことなく言葉を続ける。
「では、我々は引き続き二人の動向の監視に戻ります」
「何かあったらすぐに戻ってくるように」
「畏まりました」
そう言うと、ペストマスクは静かに部屋から出ていった。
残されたロイハは背もたれに体重を預け、疲れたように天井を仰ぎ見る。
「はぁ~……厄介事の嵐だ」
独り言ちるロイハの言葉は、誰に届くこともなく宙に霧散していった。