友人の【魔法適正】が最強クラスだったので、僕は大人しく支援に回ろうと思います。   作:にっぱち

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第二章第1話 【あれから半年】

 僕らがこの世界『ピラマ』に不慮の事故でやってくる羽目になってから、今日で約半年が経った。

 

 初めの頃は右も左も分からず、この世界での居場所を作る為に、そして生き抜く為に精一杯だったけど、流石に半年も経てばここでの生活にも大分慣れてきた。

 

「おーヒナタ、今日もスローアさんとこか?」

 

「はい! 今日はやっと新しい付与に挑戦させて貰えるようになったんです!」

 

「よかったじゃねえか。がんばんだぞ!」

 

「ありがとうございます!」

 

 最初は僕たち流れ人に対してあまりいい印象を抱いていなかったであろうタラハットの人たちも、今では大分友好的に接してくれるようになった。

 

 それもこれも、灯火の活躍あってこそだろう。

 

 灯火は今や、この街でも1、2を争う程に強い冒険者に成長していた。こなした依頼は半年で400を超え、灯火への指名依頼すらも最近ではよく来ている。4種類の属性魔法を巧みに織り交ぜた剣と魔法の融合戦術は、灯火のアドリブ力が成せる強さと華やかさを孕んだ剣技に昇華していた。

 そして何よりも、灯火の人当たりの良さもあるだろう。灯火はその明るい性格とコミュニケーション能力の高さから冒険者の知り合いをどんどん増やし、更にはこの街に暮らす人とも交友の輪を広げていった。

 

 そんな灯火は今、タラハットの冒険者仲間と一緒に遠出のクエストをこなしている最中。出発したのが3日前なので、早くてもあと7日は帰ってこないだろう。

 

 

 

 

 対する僕はといえば、半年前と何も変わってはいない。

 

 この世界の文字を覚えることは出来たし、魔道具師として覚えたことは確かに増えた。この街での交友関係も多少なりとも広がりはしたが、灯火のような目まぐるしい活躍は出来ていない。

 

「まだまだ頑張りが足りないよなぁ……」

 

 スローアさんの店までの道すがら、独り言ちる。灯火と比べてしまうと、どうしても自分自身の能力の低さが目立ってしまう。灯火は『俺には付与とかできないし、適材適所だろ』とは言ってくれるけど、やっぱり気にはなる。

 

 灯火の相棒として、しっかりと灯火を支えていけるような魔道具師になる為に今以上に頑張らないと……!

 

 半年経った今日立てられた新たな目標を胸に、スローアさんの店の扉を開く。

 

「おはようございます」

 

 相変わらず、この店は薄暗い。外や各家庭、ひいては宿にすら置いてあるランプがこの店には無く、太陽光だけがこの店を照らす唯一の光だからだ。

 以前スローアさんに何故ランプを設置しないのか聞いてみたら、『あれを使うとマナが減る』と言われてしまったのでそれ以上は何も言えなかった。

 

 そんな薄暗い店内を奥に向かって進むと、今では顔なじみになった一人の女性が僕を迎えてくれる。

 

「あ、ヒナタ君おはよう」

 

「ルチルさん、おはようございます」

 

 この女性は、スローアさんのお孫さんにあたるルチルさん。緋色の美しい長い髪に、すらりとしたモデルのような体型の彼女は、僕と同じ歳なのにこの店の経理を全て担当しているとても凄い方。

 魔道具師ではないけれど、付与関係の知識も豊富で僕の付与の修業の際はよくサポートして貰っている。そしてこの世界の文字を僕に教えてくれたのもルチルさんだ。同世代でありながら、ルチルさんには尊敬の念を幾ら抱いても足りない。

 

「スローアさんはまだ付与中ですか?」

 

「うん。昨日ヒナタ君が帰ってからずっと作業しっぱなしで……正直心配なんだよね」

 

 昨日の夜、日課になった僕の修業の後からスローアさんは付与専用の部屋に閉じこもってしまった。ルチルさんの話だと寝た様子も無く、夜通しでずっと何かの付与をしているらしい。

 

「付与中はマナが散るから扉を開けるな、って言われてるから中の様子も見れないし……一応部屋の中のマナは動いてるから生きてはいるんだろうけどね」

 

「それだけ大規模な付与をしてるんですかね……」

 

 スローアさんもかなりいいお歳だからあんまり無理をしてほしくない、って言うのが個人的な心情ではあるんだけど、僕のレベルがまだスローアさんの足元にも及んでいない以上、この店の魔道具の供給はスローアさんにしかできない。

 こうして見守ることしか出来ない自分に歯噛みしてしまう。灯火のように才能があれば、僕も今頃は……

 

「まあ、お婆ちゃんだし大丈夫でしょ」

 

 ルチルさんが僕の頭に手を置いて、優しく撫でる。僕よりも身長が高いせいか、ルチルさんは僕のことを時折弟のように扱ってくる。急にそんなことをされて一瞬呆けてしまうが、悔しさが表情に出ていたんだと気づいて一気に恥ずかしさが込み上げてきた。

 

「もう! 僕とルチルさんは同い年なんですから、こうやって子ども扱いするのはやめてください!!」

 

 ルチルさんの手を払いのけて抗議する。ルチルさんはからからと笑うと、カウンターに頬杖をついて僕の顔を見上げるように覗き見る。

 

「大方『トウカはあんなに凄いのに僕は~』とか考えてたんでしょ。

 大丈夫だよヒナタ君。君は君自身が思っている以上に努力してるし、その分の結果もちゃんとついてきてる。一番近くで見てきた私が保障してあげる」

 

 シャープに尖ったアーモンドのような目が僕の目を捉える。流し目で上目遣いという、世の男性ならきっとどきっとするような仕草にも関わらず僕の心は一切ときめかない。

 

「ありがとうございます、ルチルさん」

 

 その理由は、ルチルさんは僕の師匠であり姉のように思っている為今更女性としては見れないから。そもそもルチルさん自身、僕を弟のように見ている為そんな男女の関係になるはずがない。

 

「ヒナタ君はつまんないなぁ。私これでも結構モテるんだけど?」

 

「ルチルさんだってその気がないでしょ? 僕が今ルチルさんに襲い掛かったら、普通に引くくせに」

 

「腹殴り飛ばして立場を分からせるね」

 

「やらないんで勘弁してください」

 

 確かにルチルさんはモテる。このお店にも、ルチルさんと話す為にここでわざわざ魔道具を買っていく冒険者までいる程だ。ただその冒険者からのアプローチが成功した例はこの半年近くで一度も無いけど。

 

 

 

 

 

 

 

「はあぁ~……やっと終わった」

 

 お店を開けてから少しして、スローアさんが専用部屋から出てきた。大きな伸びをして眠そうに目を擦る。

 

「お疲れ様です、スローアさん」

 

「あ? ヒナタあんた帰ってなかったのかい?」

 

「お婆ちゃん、外見てみなさい外を」

 

 僕の顔を見て驚くスローアさんに対して、ルチルさんが呆れながら窓の外を指差す。それにつられて窓の方へと視線を向けたスローアさんは、眩しそうに手の甲で目に影を作って光を遮った。

 

「時間が経つのは早いね」

 

「歳考えなさいよ、また無茶して今度は何作ったの?」

 

 腰に手を当ててスローアさんに詰め寄るルチルさんに対して、スローアさんは眠そうに答える。

 

「別に大したもんじゃないよ」

 

 そう言うと、スローアさんは自室へと潜っていってしまった。

 

「何あれ」

 

「まあまあ、スローアさんも長時間の付与でお疲れなんだと思いますから、そう怒らずに……」

 

「分かってるわよ」

 

 そう言うルチルさんの顔は、明らかに怒っていた。ただこの怒りはぞんざいな扱いをされたことにではなく、スローアさんの身を案じているからこそになんだと分かる。

 

「家族愛ですね」

 

「……うっさいわね」

 

 さっきの仕返しとばかりににやにやと笑みを浮かべながら言うと、照れ隠しとばかりに頭を小突かれてしまう。いいね、家族愛。

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