友人の【魔法適正】が最強クラスだったので、僕は大人しく支援に回ろうと思います。   作:にっぱち

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第二章第2話 【緋色のマドンナ】

 スローアさんが寝たとしても、このお店は普通に営業を始める。というのも基本的にこのお店はルチルさんが切り盛りしているので、スローアさんが表に出ること自体が珍しいからだ。

 

「おうヒナタ、調子はどうだ?」

 

「レブルさんおはようございます。これから依頼ですか?」

 

 筋骨隆々で背中に巨大なバトルアックスを背負ったこの人はレブルさん。ルチルさん目当てでこのお店に通い詰めている男性の一人で、僕が働き始めた当初はかなり毛嫌いされていたけど最近ではたまに一緒にご飯を食べに行くくらいには仲良くなることが出来た冒険者の先輩。

 

「おう、今日は仲間と一緒にモンスターブックの討伐に行くことになってな」

 

 モンスターブックとは、タラハットから太陽の昇る方へと歩いて三日ほどのところにある洞窟『魔導士の隠れ家』にいる本の形をした魔物のことだ。

 『ブック』と名前にある通り火に弱く、冒険者は魔導士の隠れ家に行く際には火属性の適性を持った仲間を連れていくか火を扱える魔道具を持っていくことが常識とされている。

 

「ということは、『バーナ』ですか?」

 

 バーナとは、マナを媒体に炎を発生させることが出来る魔道具のことで、地球で言うところの火炎放射器に似た用途で使われる。

 見た目は一本の杖で、勢いよくこの杖を振ることで火の玉を前方に飛ばすことが出来る。威力は大して大きくは無く普通に魔物に使えばダメージの足しにもならないが、モンスターブックを倒す為ならこれで十分な威力になる。

 

「いや、今日は仲間がいるからそっちはいらないんだ。丁度ポーションが切れててな、そっちを買いに来たんだ」

 

 ポーションとはこの世界に存在する不思議な赤い液体の名前。これも魔道具の一種ではあるけれど、用途はRPGでよく出てくるポーションと同じで飲むと疲れが取れるという強力な滋養強壮効果がある。そしてもう一つの特徴として、傷口にこのポーションをかけるとその傷が即座に治るという効果も持ち合わせている。

 

「ポーションですね、分かりました」

 

 レブルさんの注文を受けた僕は奥の棚から5本ポーションを持ってくると、レブルさんの前に並べて見せた。

 

「魔導士の隠れ家でしたらこれくらいあれば十分だとは思いますが……もう少しいりますか?」

 

「いや、丁度いい。毎度助かるわ」

 

 ポーション5本を受け取ったレブルさんが代わりに銀貨10枚をカウンターに置く。僕がそれを脇の小箱に片づけていると、レブルさんがそわそわと店内を見回し始めた。

 買い物が終わったのに何を探しているのかは言うまでもない。依頼前に緊張していないのは良いことではあるが、少しだけ呆れながら僕はレブルさんの探し物の在処を教えてあげることにした。

 

「ルチルさんなら今は休憩中ですよ」

 

「ええ、開店前なのに!?」

 

「スローアさんが夜通しで付与魔法を使っていてお疲れなので、寝る前にご飯だけでも食べて貰おうと料理中です」

 

「そっか……」

 

 あからさまにがっくりと肩を落としたレブルさんは、そのままお店を出ていった。

 

 それと入れ違いになる形で、ルチルさんが店の奥から顔を出す。

 

「悪いね、店開けたばっかりなのに任せきりにしちゃって」

 

「いえ、気にしないでください。それよりもスローアさんの様子は大丈夫そうですか?」

 

 僕が聞くと、ルチルさんは肩を竦めながら呆れ顔で答える。

 

「元気も元気よ。私が作った朝ご飯残さず平らげてそのまま寝てやんの。心配したのが馬鹿みたいだわ」

 

「あはは……」

 

 流石にこれは苦笑いでしか返せない。にしても夜通しの付与って、本当にスローアさんは何を作っていたんだろうか?

 

「多分あの調子なら店閉めるころくらいには起きてくると思うから、修業の方は心配しなくて大丈夫よ」

 

「いえ、今日は自主練習にしておきます。夜通しで頑張っていたスローアさんに無理はさせたくないですし」

 

「う~ん……まあそこら辺はお婆ちゃんが起きてきてから話し合ったらいいんじゃない?」

 

 

 

 

 

 

 そこからは僕とルチルさんで適当に雑談し、お客さんが来たら対応をする。その繰り返しで一日が過ぎていった。

 

「よし、今日は終わりかな」

 

 太陽が沈みかけ、夕焼けが街を彩ってきたころにルチルさんが大きく伸びをしながら言う。僕はお店の掃除をする為に掃除機のようにゴミを吸ってくれる魔道具を置くから引っ張り出してそれにマナを注ぐ。

 マナに反応して魔道具がウィーンと唸り声をあげ、今日一日の汚れを吸い取っていく。

 

 こうして見ていると、本当にただのコードレスクリーナーにしか見えない。素材は勿論プラスチックではなくマナを通しやすい合金でできている為取り回しはかなり悪いが、性能で言えばほぼ変わらない。

 

「科学じゃなくて魔法が発展した世界、か……」

 

 魔道具の音で僕の呟きが誰かに届くことはない。半年経ってこの世界にもかなり慣れてきたとは思うけれど、未だに地球とのギャップを感じる時は多い。

 

 特に顕著なのは、『人の命の重さ』。この世界は地球に比べて人の命、特に冒険者の命が軽い。別に街中で殺人が横行していて、それを良しとされているとかそんなことは無い。でも冒険者で誰かが死んだりするのは日常茶飯事だし、ギルドでは盗賊の討伐依頼などもたまに見られる。

 そこに関して、僕は未だに慣れない。知り合いが死ねば悲しいし、そう簡単に気持ちを切り替えることだって出来ない。

 

 そして何よりも、灯火もそうした命のやり取りを魔物や動物だけではなく、盗賊のような人間相手にもやっているということを僕は受け入れられていない。勿論それじゃいけないのは自分が一番よく分かっている。やらなきゃやられるし、仕方の無いことだっていうのも頭では分かっているけど、そこに感情が追い付いてくれない。

 

「…………」

 

 それに、お金も貯まってきてそろそろ頃合いもよくなる。灯火が帰ってきたときには、僕たちは地球に帰る為の方法を探すべく次のステップに進まなければいけなくなるだろう。灯火と一緒に旅に出た時、僕は灯火が人を殺すところを目の前で見ることになるかもしれない。そんな灯火の姿を、僕は受け入れることが出来るんだろうか……?

 

「―――ナタ君、ヒナタ君。ねえヒナタ君聞いてる?」

 

 考え事をしていた僕の意識が、急に現実に引き戻される。声のする方に視線を向けると、ルチルさんが心配そうに僕の顔を見ていた。

 

「……あ、ごめんなさい。少し考え事をしていて」

 

「大丈夫? もう帰った方がいいんじゃ……」

 

「いえいえ、体長は万全ですから!」

 

 力こぶを作って元気をアピールするが、ルチルさんの表情は晴れない。

 

「本当に大丈夫ですよ。少しだけ故郷のことを考えていただけです」

 

「地球……だっけ。どんなところなの?」

 

 ルチルさんが不意にそんなことを聞いてきた。

 

「どんなところ、そうですね……あ、地球には魔法が無いんです」

 

「魔法ないの!? じゃあどうやって生活してるの?」

 

「魔法の代わりに科学っていうものがあって……」

 

 そこから僕は、掃除をする手を止めて地球についての様々な話をルチルさんに話した。今まで特に聞かれたこともなかったから話す機会も無かったし、地球について話すの自体なんか新鮮だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、あんたら掃除は終わったのかい?」

 

 結局、僕らの雑談はスローアさんに叱られるまでずっと続いた。その日の修業がいつにも増してきつかったことは、言うまでもないだろう。

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