友人の【魔法適正】が最強クラスだったので、僕は大人しく支援に回ろうと思います。   作:にっぱち

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第二章第3話 【目的を忘れるなかれ】

 僕の一日は、基本的に固定化されている。

 

 朝起きてスローアさんのお店に行き、閉店までバイト。その後月が顔を出すまでの間はスローアさんの指導。終わったら宿に戻り、灯火と一緒にご飯を食べて眠る。お店が休みの日は一日中スローアさんからの特別指導と称して、超スパルタの魔道具師としての訓練が行われる。

 

 そんな日々を半年間続けてきたが、遂に今日そのルーティーンが破られる。

 

「8、9、10……。うん、大分溜まってきたね」

 

 灯火が遠出の依頼から帰ってきた日の夜、僕らはこの半年間で貯めこんだお金の総量を確認する。

 これから、この世界で新たな一歩を踏み出す為に。

 

「そろそろ動き出すか?」

 

 僕らの目的は、決してこの世界で有名になることじゃない。地球に帰ること、それが僕らの最終的な目標で、今日までこうして生活基盤を整えたり力を付けたりしたのはこの世界で動きやすくする為のものだ。

 

「……そうだね。これだけ資金も集まれば、旅に出ても暫くは苦労しないと思う」

 

 目の前には金貨が10枚、銀貨が22枚と銅貨が何枚か。これだけあれば依頼をこなさなくても、半年近くは余裕で暮らしていける。

 

「それなら何処へ向かう。西か? それとも東?」

 

「その前に、一度今日までの間で集めた情報を精査しよう」

 

 この先向かう方向を決める為、そして二人で考えることで新たな可能性を発見できるかもしれないと、僕たちは改めて今日までの間に手に入れた情報をお互いに話し合うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、なんの発見も無しか」

 

「だね……」

 

 話し合うこと数時間、結局新しい情報も発見も僕らの会話から見出すことは出来なかった。

 

「『一番最初にこの世界に来た流れ人がもしかしたら地球への帰り方を知っているかもしれない』、これくらいしかまともな情報無かったな」

 

 この街がそもそも流れ人をあまり好いていないことが相まって、流れ人が何処に多く住んでいるかとかはよく聞けたけど地球への帰り方に関する有用な情報を入れることは出来なかった。

 

「もう少しここで粘ってみるか? それとも新しい街に移動するか?」

 

「……多分、まだ仕入れていないような情報はあると思う。でも、それを仕入れるのは僕らの能力じゃ難しいだろうし、それの為にここに居続けるのも正直悪手な気がする」

 

「…………」

 

 灯火はベッドに腰を掛けて手を後ろに置き、その手に体重を預けるようにして座っている。顔だけをこちらに向けて何か言いたげに僕を見るが、僕は灯火の視線に耐え切れずにふい、と目を逸らしてしまう。

 

「明日は早いうちから次にどこに行くのかを検討しなきゃだし、今日はもう寝よう」

 

 これ以上何か言われる前に、毛布を被って狸寝入りを決め込む。その間も灯火の視線を毛布越しにひしひしと感じるが、気づいていないふりをした。

 

「……そうだな」

 

 暫くして、灯火も眠りにつく。灯火が何を言おうとしていたのかは何となく分かるけど、その言葉は僕の為になっても灯火の為にはならない。

 

(ごめんね、灯火)

 

 謝罪の言葉を胸に留め、僕は本格的に眠りにつくことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * *

 

 

 

 

 

 

 夢を見た。

 

 霧で覆われた世界。何もない草原の真ん中で、誰かがしゃがんですすり泣く夢。

 

 近づいて声を掛けてみると、それは小さな女の子だった。

 

「どうしたの?」

 

 僕がそう問いかけると、女の子は涙を服の袖で拭いしゃくり上げならも言葉を繋ぐ。

 

「あの、ね……いたいの……」

 

「痛い? どこか怪我でもしたの?」

 

「……とっ、っても、いた、いたい、の」

 

「そっか……うーんと、よしよし、もう大丈夫だからね」

 

 僕はその女の子の頭を優しく撫でる。女の子はまたもおんおんと泣き出した。

 

「お母さんは?」

 

「……いる、けどあ、いた……あいた、くないの」

 

「お母さんと喧嘩しちゃったの?」

 

「けん、か……」

 

 僕の問いかけに、女の子はふるふると首を横に振る。

 

「おにいちゃん、たすけて……」

 

 涙目で僕を見上げる女の子。

 

「助けてか……うーん困ったなぁ」

 

 助けてって言われても、原因が分からないからなぁ……。

 

「取り敢えず、お兄ちゃんと一緒にお母さんのところに行こ? ね?」

 

 

 

 

 

 

 

「……だめ」

 

「え?」

 

「それはだめ」

 

 瞬間、女の子の顔からすっと表情が抜け落ちた。

 

「お母さんのところは駄目。お母さんのところに行ったら、お兄ちゃんたちも変えられる」

 

「え、どうしたの? 変えられるって何のこと?」

 

 女の子はすっと立ち上がると、僕から遠ざかるように歩き出した。

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

 追いかけようと立ち上がろうとするが、何故か身体が中腰のまま動かない。

 

「お兄ちゃんたち、騙されないで。嘘に、偽りに」

 

 振り返り、ぽつりと真顔で言う少女。そこに先ほどまでの泣きじゃくっていた子どもらしさは欠片も残っていない。

 

「気を付けてね、お兄ちゃんたち」

 

 そう言うと、女の子は霧の向こうに消えて行った。

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