友人の【魔法適正】が最強クラスだったので、僕は大人しく支援に回ろうと思います。 作:にっぱち
「初めての流れ人、ですか……」
名前を聞いてもピンと来ない。少なくとも僕は聞いたことのない名前だ。灯火に視線を送るが、灯火も黙って首を横に振る。
「それで、この人がどうかしたんですか?」
「この男は一度、
「消えている?」
死んだという表現ではなく、消えたとは一体どういうことなんだろうか。
「この男がこの世界にやってきたのは今から15年近く前。そしてそれから10年後、この男はこの世界から完全に姿を消した」
「あの、どうして"消えた"って言い切れるんですか? 普通に亡くなってしまったっていう可能性も」
「実際に見た奴らがいるんだよ。この男が目の前で消失した瞬間を」
そう言いながら、ロイハ局長はもう一枚の資料を僕に手渡す。受け取って目を通してみると、そこには恐らくこの世界の住人と思われる二人の女性の名前と、その二人の証言と思しきものが載っていた。
「『キシワダの身体が白い光に包まれはじめ、私たちの視界も真っ白になった。そして次に目が見えるようになった時には、キシワダは消えていた。』ですか。
場所は王都内の宿の一室……」
「そう。王都という安全な街中で、それも当時の仲間の目の前で消失し、その後5年間に渡ってキシワダケイゴの存在は一切確認されていなかった。」
「それが、最近になって再びきしわだけいごを名乗る人物が現れた、と……」
「それも、半年前にだ」
「え……?」
半年前と言えば、丁度僕たちがこの世界にやってきた頃と被る。ロイハ局長は僕らがこの世界に来たのと何らかの因果関係があると思っているんだろうか……?
「あの、ロイハ局長……申し訳ないですが僕らはきしわだけいごさんのことは何も」
ロイハ局長は頬杖をつき、僕を見上げるような姿勢になって言葉を続ける。
「私が言いたいのはそんなことじゃない。この男、王都の警備隊に『なんでまた俺はここにいるんだ』って言ったらしいんだ。
ここからは私の推測になるが……私はこの男が一度故郷に帰ったんじゃないかと睨んでいる」
「故郷って……まさか地球にですか!?」
ロイハ局長の言葉に思わず声のボリュームが上がる。
「確たる証拠は無い。それこそちきゅうでもピラマでもない、全く違う世界に行っていたっていう可能性だってある。
だがこの男自身が、『またここにいるんだ』と言った。それも何かに絶望したような表情だったそうだ。地球というのはこのピラマよりもずっと平和なんだろう? それならこの表情にも説明がつく」
確かにロイハ局長の意見には一理ある。それに何よりも、僕らは今地球に帰る手段について何の手掛かりも得ることが出来ていない。どんな些細な情報で、どんなに信憑性が低くても僕ら自身の目で確かめる価値はあると思う。
「ということは、きしわだけいごさんに直接会って話を聞けば、何かわかるかもしれない……?」
きしわださんがこの世界に再びやってきたのは約半年前。もちろん今も王都にいるのかどうかは分からないし、何なら存命なのかどうかも不安な点ではある。王都に行ったのに既にどこか別の場所に行ってしまっている可能性だってあるし、そもそも会って話を聞いても無駄足になる可能性の方が高い。
それでも、僕はこの人に会いに行くべきだと思った。
僕は灯火の方を向くと、力強い目で言った。
「行こう灯火、王都へ」
* * * * * * * * * * * *
浦沢陽向は、凄い男だ。
人一倍努力家で、一つのことをとことん突き詰めるだけの粘り強さを持ってる。頭の切れもよく、ここぞという時の判断力は俺以上のものを持っている。
ロイハ局長と何かが書かれた紙を見ながら、あれやこれやと話している後ろ姿を見ながら、俺はそんなことを考える。
魔法の適性が無く、俺よりも身体が弱いからといって諦めることをせず自ら新たな道を切り開いた男。この世界の文字を覚え、今では読み書きを普通に行えるレベルになっている。付与魔法に関する知識が無いため詳しいことまでは分からないが、陽向が働いている店に通い詰めている冒険者仲間曰くかなり頑張っているらしい。
浦沢陽向は、強い男だ。
決して物事を楽観的に考えず、されども悲観的にも考えることなく冷静な視点で見つめることが出来る。なるようになるさ、といつも考えている俺とは違って。
俺のブレーキを踏んでくれるっていう安心感があるから、俺も多少無理出来ると言えば聞こえはいいか。
分かってんだよな、陽向の優しさに俺が甘えてるだけだってことは。冒険者を辞めとけって言った時も、陽向を危険な目に合わせたくないって感情の他に『俺のサポートに回って、地球に帰る為の方法を探してほしい』っていう気持ちは確かにあったし。
俺は陽向が思う以上にずるく、汚い男だ。
俺ががむしゃらに依頼をこなし続けているのは、陽向をサポートに回したことを正当化させる為。陽向に冒険者を降りさせたのに俺が何もできませんじゃ話にならない。
そりゃあ俺だってあんなバカでかい魔物と戦うのは怖いし、人を殺すことなんてやりたくもない。
でも俺は、そうでもしないとこの世界で生きていけない。戦うことでしか、勝つこと弟子か存在価値が見出せないから。
思えば、地球にいた時もそんな感じだったな。普段は俺の意見を全肯定するのに、ここぞって時や俺が間違った選択をしそうになった時は全力で止めてくる。まるで影のように、俺を支えて正しい道を指示してくれる、そんな存在だった。
でも、俺は思うんだよ。
そろそろ、お前が太陽になってもいいんじゃないか、って。