友人の【魔法適正】が最強クラスだったので、僕は大人しく支援に回ろうと思います。 作:にっぱち
「……灯火?」
僕が呼びかけると、灯火は今気づいたとばかりに大げさに反応して答えた。
「ん? おお、王都な。俺もそうした方がいいと思う」
「……灯火、話ちゃんと聞いてた?」
「大丈夫だよ、聞いてたって」
笑顔で灯火に背中を叩かれる。……あれ?
「灯火、もしかして」
「ほれ陽向、目的地が決まったんなら出発の準備をしなきゃいけないだろ」
灯火が僕の肩に手を回し、半ば無理矢理話を遮ってくる。
「……そうだね」
まあ灯火がそう言うなら、いいか。
「ロイハ局長、ありがとうございました。今日のこの情報もそうですが、これまでに色々と手助けをしてくれて」
「私はただ仕事をしただけだ。それに、私はお礼の言葉よりも実績で示してくれるほうが好きだね」
照れ隠しなのか、それとも本心なのか。ロイハ局長は艶めかしく微笑みながら答えた。
「キシワダが今も尚王都にいるのかは、申し訳ないけど私には分からない。でも王都に行けば何かしらの手掛かりは掴めるはずだ。
……ほら、これがここら一帯の地図と、これが王都までの大雑把な地図だ。細かい道なんかは途中途中にある都市によってそこのギルドで聞くなり、冒険者に聞くなりしてくれ」
そう言って、二枚の地図を僕に手渡すロイハ局長。一枚にはタラハットを中心とした周囲の森や道、都市が事細かに描かれたもので、もう一枚はこのピラマのものと思われる全体の地図だった。
この世界に簡単に地図を複製するような技術は無いので、この二枚はかなり貴重なもののはずだ。地図一枚に対して銀貨20枚はくだらない。
「あの、今お金を……」
「ああ、それならもう貰っているからいらないよ」
「え?」
灯火がいつの間にか支払っていたのかと思って灯火の方を見るが、灯火は何のことかと言わんばかりに首と手を横に振る。
「細かいことは気にするなよ。それより、早く準備しないと時間が無いんじゃないのか? ここから王都に向かうとして、一番近くの街でも徒歩で5日は掛かる。その為の食料を買い込んだり武器の手入れをしたり……とにかくやることは色々あるんだ、時間が必要だろう」
もう話は終わりだと言わんばかりに、手をひらひらとさせるロイハ局長。同時にロイハ局長の横に立っていたはずのペストマスクの男性がいつの間にか執務室の扉の前に立ち、ドアノブを握って待っていた。
仕方なく、僕らは二人からの出ていけオーラに押される形で部屋を後にする。
「ロイハ局長、本当にありがとうございました」
「ありがとうございました」
僕と灯火が、合わせてロイハ局長に深く、深く頭を下げる。ロイハ局長は一言「ああ」とだけ言った。
「それじゃあ、色々と買い物をしなきゃいけなくなったね」
ギルドを後にした僕たちは、明日にでも出発できるように今日中に準備を整えてしまうことにした。僕と灯火で冒険に必要なものを買いに行く。
「取り敢えずは次の街のゼストスまでの物資で十分かな」
「ああ。あんまりいっぱい持って行ってもかさばるだけだし、俺たちは馬車とかも無いから少しでも移動が楽になった方がいいだろうしな。
それに最悪、食料は現地でも調達できるし」
「……料理するの僕なんだけど」
灯火は料理が一切出来ない為、道中の料理はきっと僕が担当することになるだろう。長期移動の依頼の時とか一体どうしていたんだろうと疑問に思ってしまうけど、きっとそこら辺で狩ってきた動物の丸焼きとかばっかり食べてたんだろうな……。
「美味しいごはん頼むわ、シェフ」
「全く……」
互いに軽口を叩きながらも買い物を続ける。こうして灯火と一緒に何かするのってかなり久しぶりな気がする。最近はお互いに自分のことで精いっぱいだったし、仕方ないと言えば仕方ないんだけど。
「ええと、後は……」
食料を買い、リュックのような形をした大きめの麻袋を買い、幾つかの器を買った。あとは灯火の武器を手入れする為の道具をいくつか買い足せば終わりかな?
「あとは俺の分だけだし、先に行ってていいぞ」
鍛冶屋の手前で、灯火が突然そんなことを言った。
「え、いいよ別に。それくらい付き合うよ?」
「お前だって、話しとかなきゃいけない人がいるんじゃないのか?」
ちらりと鍛冶屋に、見覚えのある人影が見える。ギルド内で僕らに初めて話しかけてくれた人であり、今は灯火の剣の師匠でもある男性。顔に大きな傷があり、それが歴戦の戦士であることを物語っている。
「……そうだね。ここからは別行動にして、終わったら宿に集合にしようか」
師匠と弟子の話に、部外者の僕が入る余地はない。それは逆もまた然り。僕は僕の師匠に、明日旅立つことを伝えに行かなければいけない。
灯火に一度別れを告げ、僕は走ってお店へと向かう。
陽はまだてっぺんに位置している。まだ午後になったばかりなので店はまだ余裕で開いている。でも僕は、少しでも長くスローアさんとルチルさんと話をしたいと思っていた。
普段運動なんかしないせいで息が上がる。タラハットはそこまで大きな街ではないけど、それでも日本の地区一個分くらいの大きさはある。
「はぁ……はぁ……」
膝に手をついて呼吸を整える。ドアを開けた時にこんな息も絶え絶えでは話をするどころではない。
暫くして心臓の鼓動が落ち着いたところで、僕は店のドアを開けた。
「いらっしゃ……ああヒナタ君、おかえり」
出迎えてくれたのはルチルさん。お昼を食べたばかりなのか、お店の中にはスープの温かい香りが漂っている。
「ギルドからの呼び出しって何だったの?」
お店の商品を整理しながら何の気なしに聞いてくるルチルさん。僕は一度大きく深呼吸をして、真剣な表情で答える。
「そのことで、ルチルさんとスローアさんに話があるんです」
僕の言葉を聞き、顔を目の前の棚から僕へと向けるルチルさん。そして僕の真剣な表情から何かを察したのか、ルチルさんが寂しそうに笑う。
「……じゃあ、今日はもう店じまいだね」