友人の【魔法適正】が最強クラスだったので、僕は大人しく支援に回ろうと思います。   作:にっぱち

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第二章第7話 【出逢いがあれば別れもある】

 僕はスローアさんとルチルさんの二人に、ロイハ局長から聞いた話や地球に帰ることが僕の最終的な目的なこと、それら全てをしっかりと話した。

 

「……スローアさんの教えを途中で投げ出すような形になってしまうこと、本当に申し訳なく思っています。不義理だって言われても仕方がないとも、思ってます」

 

 僕が話している間、二人はただ黙ってじっと僕を見つめていた。僕の話が終わってからも、二人の口が開くことは無い。

 暫くの間、部屋の中に沈黙が流れる。

 

 おもむろに、スローアさんが立ち上がってお店の方へと歩いて行ってしまった。

 

「あ、あのスローアさん、どこに……?」

 

「…………」

 

 僕の問いかけにスローアさんは答えない。カウンターを超え、お店の陳列棚の方へと歩いて行ってしまった。

 

「やっぱり、怒るよね……」

 

 そりゃあ、魔法を教えてほしいと言って直談判で駈け込んで来た人間が、たった半年で『王都に行かなければいかないので旅立ちます』なんて言ったら舐めているのかと思うのも無理はない。覚悟していたこととは言え、恩師を怒らせてしまう、失望させてしまったという事実はやっぱり心にくるものがある。

 

「そんな落ち込まなくても大丈夫よ。お婆ちゃん、別に怒ってる訳じゃないと思うから」

 

 ルチルさんが落ち込む僕を見てフォローを入れてくれる。たださすがに、あれで怒っていないは無理があるだろう。

 

「……ありがとうございます。

 ルチルさんも、本当にごめんなさい。たった半年で投げ出すことになってしまって」

 

「ん~……別にヒナタ君のは『投げ出す』って言うのとはまた違うんじゃない? そもそもヒナタ君って、元々地球に帰るつもりだったんでしょう? それなら、遅かれ早かれ今日はやってきたと思う。だから、私は『投げ出した』って言うよりも『前に進んだ』んだと思うなぁ」

 

 ルチルさんは、僕が落ち込んだ時にいつもこうして優しい言葉を掛けてくれる。今だって僕が一方的に悪いのに。

 

「まあちょっと待ってようよ。その間に、次に行く街のこととか聞かせてよ。王都の方向だとゼストス辺り?」

 

「はい、今のところはその予定です」

 

「馬車とか取ってるの?」

 

「いえ、何があるか分からないからお金は大事にしようって話になったので、ゼストスまでは徒歩で向かいます」

 

「徒歩か~大変そう。あーでもトウカ君、だっけ? あの子が冒険者なんだっけ?」

 

「ええ、まあ……」

 

 いつもの、本当にいつもの調子で話しかけてくれるルチルさん。ルチルさんは一度ゼストスに行ったことがあるらしく、ゼストスの街並みや人についていろいろと話してくれた。

 

「それでそこの冒険者ってのがいい奴ばっかりで―――あ、お婆ちゃんお帰り」

 

 ルチルさんが景気よく話しているところで、先ほど部屋を出ていったスローアさんが戻ってくる。振り返ると、僕を険しい顔で睨んでいるスローアさんと目が合った。

 

「ス、スローアさん……」

 

「…………」

 

 スローアさんは小さく息を吐くと、出る時には持っていなかった大きめの麻袋を一つ、僕の目の前に置いた。

 麻袋は移動時に背中に背負えるよう、リュックについているものよりも細めのヒモが二つ備え付けられている。袋はランドセルくらいの大きさで、何故か四角形にその形を歪めていた。

 

「スローアさん、これは……?」

 

「……持っていきな」

 

 スローアさんは短くそう言うと、そのまま元居た椅子に腰を下ろした。

 

「開けてみてもいいですか?」

 

「好きにしな」

 

 一応スローアさんからの了承も得られたので、麻袋の口を開けてみる。するとそこには本が入っていた。

 全部で三つ。それぞれがちょっとした辞書くらいの分厚さがあり、その分重さもずっしりとしている。

 

 一冊の中を開いてみると、そこには『付与』に関する様々な情報が書かれていた。

 

「その本はあんたが持っている『付与』『分離』『合成』に関して、私が研究するときに使ったメモ書きを纏めたもんだ」

 

 本に目を通していると、スローアさんの口からとんでもない発言が飛び出して来た。本に釘付けだった視線がスローアさんの方へと跳ね上がる。

 

「え、今何て……!?」

 

「私はもうそこに書いてあることは全部覚えちまった。もういらなくなったから、やるよ」

 

 この本に書かれている図や文字は、明らかに手書き、しかもスローアさんの手書きだ。一ページ一ページにかなりの文量が書き込まれていることから、この本一冊にスローアさんの血の滲むような努力とかけられた長い年月が垣間見える。

 

 そんな本を、言わばスローアさんの人生ともいえる代物を、頂ける。

 

「……っ!」

 

 ポタポタと、開かれたページに染みが出来る。気づけば僕の目から涙が零れだしていた。

 

「スローアさん……こんな、こんなに凄いものを貰って、本当にいいんですか……?」

 

「私が要らないって言ってるんだ。あんたが要らないと言うなら、これは処分するしかないね」

 

「要ります、要りますってば!」

 

 僕の手元にある本に手を伸ばしてきたので、慌てて胸に抱える。そんな僕の動作に、スローアさんとルチルさんが二人して小さく笑いだした。

 

「そんな必死にならなくても。お婆ちゃんは元からヒナタ君にあげる予定だったんでしょ?」

 

「偶々だよ、偶々」

 

「へぇ~」

 

 机に頬杖をついたルチルさんが、スローアさんに生暖かい視線を向けながらニヤニヤとほくそ笑む。

 

「じゃあ本の影に隠すようにして入れたネックレスも、偶々?」

 

「え?」

 

 ネックレス? そんなもの最初は見つけられなかったけど……。

 改めて麻袋の中をよく見てみると、確かに本の影に隠れるような形で何か赤く光るものが入っていた。取り出してみると、親指の第一関節までくらいのサイズの赤い石が付けられたネックレスだった。

 

「これは……?」

 

「目にマナを通して見てみな」

 

 スローアさんに言われた通り、マナを目視できるように目にマナを通す。

 空気中に紫色のマナが浮遊しているのが見えるのと同時に、僕の身体からわずかに溢れ出るマナが赤い石に吸い寄せられているのが見て取れた。

 

「マナを、吸ってる……?」

 

「それはマナを貯蔵しておける魔道具だ。規模の大きめな魔法を使おうとする時、あんたの身体に通せるマナの量は普通に比べて少ないから、そのネックレスに一時的にあんたのマナを貯めておくことで今まで作れなかった魔道具でも作れるようになる。

 ただし、そのネックレスはあんたのマナにしか対応していないから、他の人間が使っても何の効果も価値もないよ」

 

「凄い……」

 

 僕のマナを吸収して赤く輝くネックレスに、思わず見とれてしまう。

 

「私の用事はこれで終わりだ。あとはあんたの好きにしな」

 

 そう言うと、スローアさんは立ち上がって自室の方へと歩き出した。まだ大したお礼の言葉も言えていないのに、ここでじゃあばいばいとは言える訳が無い。

 

「スローアさん、待ってください!」

 

 慌てて立ち上がり静止の声を掛けるが、スローアさんは止まらない。僕は遠ざかるスローアさんの背中に向けて、僕の精一杯の気持ちをぶつけることにした。

 

「半年前、嫌いなはずの流れ人である僕を拾ってここまで面倒を見てくれて、本当にありがとうございました。スローアさんに出会えていなかったら、ここでこうして魔道具師としての勉強が出来ていなかったら、きっと僕はどこかで諦めていたかもしれません。

 僕が今こうして地面に脚をついて立っていられるのは、間違いなくスローアさんのお陰です。

 この本も、このネックレスも、大事にします。旅に出ても魔道具師としての修業は、毎日欠かさずやります。スローアさんの弟子だって、胸を張って言えるようなそんな魔道具師になります!」

 

 スローアさんは自室への扉を開けたまま、いつの間にか止まっていた。その背中は、小刻みに震えているようにも見えた。

 

「本当に、本当に……お世話になりました!」

 

 頭を下げる。僕の目からまたも零れ出た涙が、木製の机を濡らす。

 

「…………生意気だよ」

 

 スローアさんはそれだけ言うと、自室の扉を閉めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、私には?」

 

 感涙にむせぶ僕の横から、空気の読まない一言が飛んでくる。物欲しそうに期待する眼差しに対して、しらっとした視線と共に僕は言葉を送った。

 

「……勿論ルチルさんにも感謝してますけど、催促されたせいで感謝の気持ちが今薄れました」

 

「いや残された私の気持ちよ。確かにお婆ちゃんとヒナタ君の熱い師弟関係の絆に感動する場面なのは分かるけどさ、そこで空気になってる私の立場よ。流石にいたたまれないことを察してよ」

 

「それは、申し訳ないですけど……」

 

 実際にルチルさんにも、スローアさんと同じくらいに感謝をしている。ピラマで文字の読み書きができるようになったのはルチルさんのお陰だし、このお店で働くときに色々とサポートしてくれたことやお客さんに僕が馴染みやすいように色々と手回しをしてくれた恩だってある。

 

 でも、それとこれとは話が別だろう。

 

「ルチルさんのせいで涙が引っ込んでしまった僕の気持ちを察してほしかったです」

 

「そこはお互いさまってことで」

 

 からからと笑うルチルさん。一見空気の読めない行動にも見えるけど、これがルチルさんなりの「いつまでも泣いてないで早く前に進め」というメッセージなんだろう。

 

 多分、きっと。

 

 

 

 

 

 

 結局、スローアさんは自室から出てくることは無く、お店を出る僕を見送ってくれるのはルチルさん一人だけだった。

 

「改めてにはなりますけど、ルチルさんにも感謝しています。僕にピラマの文字を教えてくれたことや、この街に馴染みやすいように積極的に仲良くしてくれたこと、弟のように面倒を見てくれたことだったり……言い出したらきりがないですけど、この街で僕らが今日まで何の不自由もなく過ごしていけたのは、間違いなくルチルさんのお陰でもあります。

 本当に、ありがとうございました」

 

 ルチルさんに向かって、再び頭を下げる。スローアさんの時のように涙を流すことは無かったが、そこには確かにスローアさんに対するものと同等の感謝の気持ちがあった。

 

「偶には顔みせて、って言いたいのは山々だけど……それを言ったらヒナタ君のこと困らせちゃうもんね。

 うん、どういたしまして。見つかると良いね、故郷に帰る方法」

 

「はい、必ず見つけます」

 

 哀愁に満ちた笑顔を浮かべるルチルさん。その顔に、僕は寂しさを覚えてしまった。

 

「駄目だよ、君はちゃんと君の成すべきことをしなきゃ」

 

 おでこに軽い痛みが走る。ルチルさんのデコピンが、僕のおでこを捉えていた。心の中を見透かされて恥ずかしい気持ちになるが、それ以上に寂寥感が僕の胸を抉った。

 

「少しくらい、いいじゃないですか……。寂しがっても、ここにいたいと思っても……」

 

「でも、それは君の為にならないでしょ」

 

 ルチルさんの言う通りだ。ここに留まっても僕らの目的が達せられることはほぼ間違いなくない。地球に帰る為には、僕たち自身が動かなければいけないから。

 

「……そうですね」

 

 赤く腫れた目でルチルさんの目を真っすぐに見る。

 

「それじゃあ、僕は行きます」

 

「うん、頑張ってね」

 

 ルチルさんの温かな手が、僕の頭を撫でる。いつもより少しだけ、その温度が高いように感じるのは気のせいだろうか。

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