友人の【魔法適正】が最強クラスだったので、僕は大人しく支援に回ろうと思います。   作:にっぱち

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第二章第8話 【言葉よりも剣で語れ】

 陽向と別れてから、俺は鍛冶屋で自身の剣の手入れが終わるのを待っている師匠に話しかける。

 

「どうも」

 

「トウカか。その後どうだ?」

 

「おかげさまで、大きな怪我もなく順調に依頼をこなしてます」

 

 驕りたかぶるような気持ちは一切ない。ただ淡々と事実を伝える。

 

「そうか。それは良かったな」

 

「ダインさんは最近どうっすか?」

 

「まあまあだ」

 

 ダインさんは基本的に口数が少ない。話すことが嫌いというわけではなさそうだが、普段からあまり喋っているところを見たことが無い。

 

「ダインさん、俺明日にはこの街を出ることになりました」

 

 ダインさんの眉がピクリと震える。ダインさんには元々、俺が剣を教わるのは地球へ帰る為だと言うことは伝えてあるので、いつかこういう日が来るということは互いに分かっていた。

 

「……そうか」

 

「はい。なので一つお願いがあります」

 

 だから、俺はこの日にどうしてもやりたいことがあった。

 

「なんだ?」

 

「俺と、勝負してくれませんか?」

 

 単刀直入に、俺が伝えたかったことを伝える。真っすぐにダインさんの目を見て、返答を待つ。

 

「……分かった。ギルドに木剣と練習場がある、そこへ行こう」

 

「はい」

 

 ダインさんの剣の手入れが終わるのを待って、俺たちはギルドへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * *

 

 

 

 

 

 

 ギルド裏手、学校の体育館程の大きさがある修練場にて俺とダインさんの二人が互いに向き合い、木剣を構える。

 

 修練場には俺たちの戦いを見たがった野次馬がわらわらと集まり、俺たちを取り囲むように立っていた。

 

「…………」

 

「…………」

 

 修練場の広さ、その人の多さに対して、そこは驚くほどに静かだった。俺とダインさんの息遣いが互いに聞こえるほどに。

 

 

 

 

 

 

 

 合図は、ない。

 

 ほぼ同時に脚を踏み出した俺たちは、それぞれの思いを乗せた剣を携えて相手へと肉薄する。

 

 ダインさんは低く体勢を保ちながら俺の元まで走り寄る。バネのようにその体を跳ね上げながら剣を下から上へと振るい、俺の顔面を潰しにくる。

 俺はその剣を、避けることなく真っ向から自分自身の木剣で受け止める為に剣を振るう。上から振り下ろされた剣が、ダインさんの剣とぶつかり合う。

 

 ガコン! とおよそ木剣とは思えない程重い音が修練場内に鳴り響く。互いの木剣が鍔迫り合い、どちらも一歩も引かないまま拮抗状態となった。

 

「く……っ!」

 

 ダインさんのパワーが、俺が思っていた以上に凄まじい。上から押している分俺の方が有利なはずなのに、徐々に徐々に押され始めてきた。

 このままでは押し負けると思った俺は、剣の角度と身体をを少しだけずらしてダインさんの攻撃を流す。

 

 ガリガリと音を立てながらダインさんの剣を滑らせ、力を受け流す。判断が間に合ったおかげで、何とか剣を弾かれ隙を晒すという事態は避けることに成功した。

 

 鍔迫り合いの状態が解消されたことで体勢が逆転した。今度は下になった俺が、脚目掛けて横に薙ぐように剣を振るう。

 しかしダインさんにそんな小手先の技が通用するはずもない。俺の攻撃を難なく躱すと、がら空きになった背中目掛けて剣を勢いよく振り下ろして来る。

 

「ふっ!」

 

「!?」

 

 だけど、そこで終わる俺じゃない。低い姿勢を生かして地面に手をつき、迫りくる剣の腹を思い切り蹴り飛ばした。流石にこれにはダインさんも驚いたようで、剣を蹴られた瞬間行動が止まった。

 剣を蹴るという完全に想定外の動きをして、しかも剣の腹を完璧に蹴ったはずなのにダインさんは剣を手放すことなく握り続けた。それだけでもとんでもない握力と対応力だというのに、更にダインさんはすぐさま体勢を立て直して俺の追撃に備えてきた。

 

 勿論これで勝負が決まるとは思っていないが、虚を突いた一撃でも大きな隙を作れなかったという事実はかなり堪えるものがある。一度落ち着くために互いに距離を取り、再度踏み込む隙を伺う。

 

 

 

 

「ふぅー……」

 

 俺とダインさんの実力差は戦う前から分かっていたつもりだが、こうして実際に相対してみると差の大きさを痛感させられる。

 このままやっても負けるだけだ。そう判断した俺は剣を腰へと置いて大きく息を吐き、呼吸を整える。そして神経を集中させ、マナを集め始める。

 

 ダインさんは純粋な剣技だけで勝てる相手ではない。なら、俺なりのやり方で勝つしかない。

 

「なるほどな」

 

 俺がやろうとしていることに気づいたダインさんは、一気に勝負を決めに来た。およそ人間とは思えないほどのスピードで俺の懐へと潜り込み、上段に構えた剣を一気に振り下ろす。

 

 空気を切り裂き、マナをも押しのけながら迫りくる木剣。いくら木で出来ているとは言え、あの勢いで振り下ろされたらかすり傷では済まないだろう。

 めっちゃ怖い。でも、俺は逃げない。ダインさんの振るう木剣から、ダインさん自身から一瞬たりとも視線を逸らさず、全力でマナをかき集めてひたすらに魔法の発動に集中する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダインさんの剣が俺の額を捉える本当に直前で、俺の魔法は発動した。

 

「よし……」

 

 足に風のベールを纏うことで機動力を上げることに成功した、名付けて【ゲイルブーツ】。加減を間違えると戦うどころか壁に向かって吹っ飛んで行ってしまうので、構想から形にするまで随分と苦労したオリジナルの技だ。

 

 寸でのところで一撃を避けることに成功し、大きめに距離を取る。

 

「ズルとか、言わないっすよね?」

 

「それもお前の技だ」

 

 不敵に笑うダインさん。次の瞬間、ダインさんの姿が俺の目の前から()()()

 

「っ!?」

 

 消えたと思った時には、既にダインさんの剣は俺の胴を捉えていた。寸前でピタリと止められた木剣が俺の目に映るのと、遅れてやってきた豪風が俺の身体を通り過ぎるのとはほぼ同時だった。

 油断は無かったはずだ。それなのに、ダインさんの動きを一切目で捉えることが出来なかった。俺が魔法を発動していたのと同じように、ダインさんも俺の気づかぬうちに魔法を発動していたのだ。

 

「ズルとは言わんな?」

 

 にやりと笑うダインさん。俺の頬を一筋の汗が通り過ぎた。

 

「……それもダインさんの技っすから」

 

 俺と師匠の最初で最後の一騎打ちは、師匠の完全勝利という形で幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、負けた!」

 

 木剣を片付けた後、修練場のど真ん中でごろりと寝転がる俺の隣にダインさんが座り込む。あれだけ沢山いたギャラリー陣は、試合が終わるなり「あれは凄かった」とか「神速のダインの名はやっぱ伊達じゃねえな」とか口々にダインさんを絶賛しながら散っていった。だからこの修練場には、今は俺とダインさんの二人しかいない。

 

 実際に勝負をしていた時間はほんの数分だったと思うが、間違いなく今までで一番濃密な時間だった。

 

「俺の本気に、よくついてきたな」

 

「ついていけてないっすよ。最後の、見えなかったっす」

 

「あれが見えるようになられては俺が困る」

 

 そう言うと、ダインさんはふっ、と口元を綻ばせる。

 

「強くなったな、トウカ」

 

「ええ。強くなりましたよ、俺」

 

 剣を振るっていた間はあれだけ互いを見ていたのに、今は目を合わせようとすらしない。俺は青々とした空を、ダインさんはどこか遠くを見つめている。

 

「ダインさんのおかげです。俺が強くなれたのは」

 

 恐らく半年前なら、俺は一番最初最初のダインさんの一撃を追い切れずに一瞬で倒されていただろう。それがダインさんに本気を出してもらえるまでに成長することができた。

 

 腹筋に力を込めて上半身だけを起こし、ダインさんの方へと身体を向ける。

 

「流れ人の俺を育ててくれて、ありがとうございました」

 

 胡坐の状態で、頭を下げる。ダインさんはちらりと俺の方を見たが、また何処かへと視線を移した。

 

「……生きろよ」

 

「……はい、必ず」

 

 俺は立ち上がり、再びダインさんに向けて深く頭を下げると修練場を後にした。

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