友人の【魔法適正】が最強クラスだったので、僕は大人しく支援に回ろうと思います。   作:にっぱち

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第二章第9話 【旅立ち】

「おう、お帰り」

 

 宿に戻った僕を出迎えてくれたのは、どこかスッキリとした表情の灯火だった。窓の外を眺めながら黄昏るその姿は、灯火がやっていると絵になる。

 

「ただいま。先に帰ってたんだ」

 

「おう。やっぱお前は長かったな」

 

「やっぱって何だよ」

 

 互いに師匠との別れを終え、もうこの街に思い残すことは無くなった。明日の朝にはこの街を出発する為、今日は準備をしておいて早めに寝るべきだろう。

 

「あれ、その袋何?」

 

 灯火が僕の担いだ麻袋の存在に気づく。僕は少しだけ自慢げに笑いながら、麻袋を床へと下ろした。

 

「よくぞ聞いてくださいました」

 

「え何そのテンション」

 

「この袋はね、スローアさんからの餞別というかプレゼントなんだ」

 

 袋の口を開け、中身を灯火に見せびらかす。

 

「何だこれ、本?」

 

「そう。これはね……」

 

 灯火にこの本がいかに凄く、また貴重なものであるかを興奮気味に伝える。この本はスローアさんの人生と言っても過言ではないほどの代物で、付与魔法における一から十までが書かれている、まさに『至高の逸品』なのだ。

 

「……へぇ」

 

 話に夢中になりすぎて今の今まで気づかなかったが、灯火の表情がかなり引きつっていた。……あー、やりすぎた。

 

「ごめん、夢中になりすぎてた」

 

「いやいいよ。気持ちわかるし」

 

 そう言いながら、灯火はベッドの脇から一本の長剣を引っ張り出してきた。鞘や柄は素朴で何の変哲もない代物だが、一度剣を引き抜くとその異様さが露わになる。

 刀身は通常の剣とは異なり、深い紫色に染まっていた。禍々しさの中にどこか美しさを感じさせるその刀身に、思わず目を奪われてしまいそうになる。

 

「貰ったの?」

 

「ああ。前々から用意してくれてたんだって」

 

「……一緒だね」

 

 目線が自分の首にかかるネックレスへと流れ、苦笑いが零れ落ちる。お互いに送ってくれたこの代物から、僕らの師匠がどれだけ僕らのことを大切に思ってくれていたかが分かる。沁みるなぁ、心に。

 

「その剣、なんで刀身が紫なの?」

 

 ふと気になったことを聞いてみる。紫色の鉱石なんて、ピラマにあったっけ?

 

「よくぞ聞いてくれました。この剣は『魔導合金』っていう特殊な合金を使って作られていて―――」

 

 それから僕は、ひたすらに灯火の話に付き合うこととなった。明日早いんだからもう寝ようと言いたかったのは山々だが、自分もさっき同じことをした手前流石に言い出せない。

 

 ……まあ、気が済むまで話させてあげよう。

 

 

 

 

 

 

 

 結局灯火の話は夜遅くまで続き、僕らは二人して無事に昼頃まで寝過ごすこととなった。

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * *

 

 

 

 

 

 翌日、僕らは眩しすぎる日差しに叩き起こされる形で目を覚ました。

 

「……多分だけど、寝坊してる」

 

 外の騒がしさが僕らがいつも起きている時間帯のそれとは違っている。人々は活動的に街を歩き、今が早朝ではないことをしっかりと証明している。

 

「お前が本について熱く語るから……」

 

「後半は灯火だったじゃん。灯火がもう少し控えてくれればもっと寝られたのに」

 

 互いに愚痴を言いあうが、僕自身自分にも非があることを自覚している為あまり強くは言えない。

 

「……言っても仕方ないか。もう荷物は纏めてる?」

 

「ああ、ここに」

 

 灯火が僕のものと似たような麻袋を見せる。灯火のものは口の部分に一つだけ紐が括り付けられていて、それを肩にかけて担ぐことが出来るようになっていた。僕のものとは違い、灯火の袋は片手が塞がってしまう為戦闘時には一度袋を地面に手放さなければいけない。

 

 灯火の袋には、昨日買っておいた水と、武具の手入れに使う道具がちらほらと入っている。

 僕の方にはスローアさんから貰った三冊の本の他に、少しばかりの野菜が入っている。戦闘が出来ない分、僕が重い水を持つと言ったんだけど、本が濡れるといけないと灯火が水を持ってくれることになった。

 

「本当に大丈夫? 水、重くない?」

 

「まあこれくらいなら、向こうでよく担ぎながら走ってたしそんなに気にならん」

 

 床の麻袋を軽々と持ち上げ、ひょいと肩に担ぐ。確かに灯火の言う通りなんてことなさそうだけど、やっぱりちょっと申し訳ないなぁ……

 

「やっぱり交代制に……」

 

「俺にその大事な本は荷が重すぎるから嫌だ」

 

 きっぱりと断られた。灯火からしてみれば、多少重い水を持って移動するよりも僕の本を持つ方が気持ち的に嫌なんだそうだ。

 

「……それならごめん、お言葉に甘えさせてもらうね」

 

「俺が良いって言ってんだから、気にしなくていいんだよ」

 

 申し訳なさそうにしている僕の肩を勢いよく叩き、部屋を先に出ていく灯火。サラッと罪悪感を感じにくくさせる言葉を付け足してくるあたり、やっぱり僕はこの男には敵わない。

 

 僕は一応忘れ物が無いかどうか、部屋の中を再度見て回る。そして完全に忘れ物が無いことを確認すると、部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 既に朝のピークを過ぎていることもあり、宿の中は比較的静かだった。受付ではこの宿を切り盛りしているおばさんが、帳簿のようなものを付けている。

 

「おばさん、今日までお世話になりました」

 

 仕事の邪魔にならないかを確認して、おばさんに声を掛ける。おばさんは目線を帳簿から僕らの方へと移し、驚きの表情を見せた。

 

「どこかへ行くのかい?」

 

「はい。王都を目指して旅をすることにしました」

 

 それを聞くと、おばさんはより驚いた顔をする。

 

「王都? そんな遠くまで行くのかい」

 

「はい。王都に手がかりがあるらしいので」

 

 おばさんには、僕らがこうして冒険者として実力を付けたり魔道具師として勉強をしている理由を話している。だから僕らが王都で探そうとしているものも、何となくは察してくれているだろう。

 

「そうかい……200日近くも居てくれたからいなくなるのは寂しくなるけど、でも手がかりが見つかってよかったね。これで、故郷に帰る為に一歩前進って訳だ」

 

 おばさんは笑顔で僕ら二人の頭を雑に撫でる。雑過ぎてちょっと痛いけど、おばさんの愛情を感じられた。

 

「頑張りな、死ぬんじゃないよ」

 

「はい。あの日からずっと泊めて頂いて、ありがとうございました」

 

「仕事だからね。でも、あんたらは礼儀正しいし部屋も荒らさないからこっちとしても楽でよかったよ」

 

 悪い笑みを浮かべるおばさん。まあ確かに掃除が楽なようにと部屋を出る前には毎回シーツを直したりとかはしてたけど……こんな風に面と向かって言われるとちょっと反応に困る。

 

「次の街でも元気でやりな」

 

「はい」

 

「うぃっす」

 

 僕と灯火が揃っておばさんにお礼を言う。おばさんは満足そうに笑うと、小さく手を振ってくれた。だから僕らも入口のところでおばさんに手を振って、宿を後にした。

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