友人の【魔法適正】が最強クラスだったので、僕は大人しく支援に回ろうと思います。 作:にっぱち
眠っているダグラスさんが起きてから移動を再開しようという話になったので、目を覚ますのを待っていた結果夜になりました。なので移動は明日からにして、今日は親睦会を込めた食事会になりました。
「改めて、私はレイ。このパーティーのリーダーをやらせてもらっている」
僕と灯火が並んで座り、焚火を挟んでレイさんのパーティーメンバーが座るという構図。レイさんが改めて自己紹介をしてくれた。
そのままの流れで、レイさんのパーティーメンバーが次々に自己紹介をしていく。
「……ユースだ」
むすっとした顔でユースさんが名乗る。姉に叱られたことが響いているのか、それともまだ僕たちを味方だと思ってくれていないのか、あの一件以降僕らと話そうとしてくれない。個人的にはわだかまりは出来るだけ無くしていきたいんだけど、僕が謝ったとしても何とかなる問題じゃないしなぁ……。
「私はミリメリ。ごめんね、さっきは殆ど話せなくて」
そしてピンク色の髪を肩口で切り揃えた弓使いの女性、ミリメリさん。天然でピンク色の色素を持ってる人っているんだ、と初めて見た時は思ったけど、見慣れると案外違和感も無くなるものだ。
ミリメリさんは、僕たちとユースさんが言い合っていた間もずっとダグラスさんの看病をしていたので殆ど話に入ってくることはなかった。こうして話してみると物凄く気さくで、僕らが疎外感を覚えないように橋渡し的な役割を担ってくれた。
「俺はダグラス。君たちには感謝してもしきれない。本当にありがとう」
そして、最後に深々と僕らに向けて頭を下げている黒髪の男性が、脚に大穴を開けられてもがき苦しんでいたダグラスさん。ポーションがしっかりと効いてくれたようで、今や穴は跡形もなく塞がっていた。
「いえ、僕らもポーションが余っていただけなので」
それに困っている人を見かけると助けたくなってしまうのは日本人の性だろう。見捨てられるほど僕は豪胆じゃないし。
「僕らからも改めて、ヒナタです。よろしくお願いします」
「トウカです。よろしくお願いします」
僕らが簡単に自己紹介を済ませると、ユースさん以外の三人は目を丸くして僕らの方を見ていた。ただ自己紹介をしただけでなんでそんな顔をされるのかがいまいち分からない。
「……あの、何か?」
不思議そうに僕が尋ねると、ダグラスさんが両手をこちらに向けて振りながら矢継ぎ早に話し出した。
「ああいや、冒険者相手に敬語を使う奴なんてギルドの受付以外にいないから珍しいなと思って……それに冒険者同士ともなると尚更な」
「そうなの?」
横にいる灯火の方を向くと、灯火も頷いた。
「冒険者同士の場合は特になんだけど、相手に舐められないようにタメ口を使うんだと。一度舐められると報酬の分配で足元見られることもあるから、とか言ってたっけな。後はタメ口の方が何かと気兼ねなく話せるし、いちいち気を遣っていると命に係わる可能性もあるから、とか色々と理由はあるらしい」
僕の知らなかった常識だ。というか灯火も、それを知っているなら先に話しておいてくれても良かったんじゃないだろうか?
「あれ? でも灯火は敬語だったよね?」
先ほどの自己紹介の時の灯火の会話を思い返すと、確かに灯火は僕と同じようにですますで喋っていた。
「正直どうでもいいからな、そういうの。普通に他人には敬語で行かないとイメージ悪いって思ってるだけだ」
「でも舐められるんでしょ?」
「一部だよ、そんな奴は。大体言葉遣い一つで相手の実力を測るような奴はそもそも弱いから関係ねーし」
なるほど、実に灯火らしい考え方だ。
「別に話しやすいように話して貰って構わない。私たちも言葉遣い一つで相手を推し量るようなことはしないから」
気さくな笑顔でそう言ってくれるレイさん。
「そう言ってもらえると助かります」
それから僕らは、互いをより知るべく雑談しながらご飯を食べることになった。ユースさんは端の方でずっとそっぽを向いて、僕らの会話の輪に入ってくることは無かったけれど僕が作ったご飯は美味しそうに食べてくれた。
火の番をしている間も話すことができたので、概ね互いのことを知り合うことは出来たと思う。
そして、遂に僕とユースさんが一緒になって火の番をする時間が来た。
レイさんは気を遣って僕たちとユースさんが一緒にならないようにしてくれたけど、そこを僕が無理を言って一緒の時間にしてもらった。
ユースさんは僕の顔を見ると一瞬驚き、そして不機嫌そうに眉を顰めた。
「なんでお前が……」
「ユースさんとは、まだお話出来ていなかったので」
ユースさんは何も言わず、僕から視線を逸らす。頬杖をつき、むすっとした顔で焚火に視線を置いていた。
「ユースさんは、レイさんと姉弟なんですね」
「それがどうした」
「……僕にも、妹がいるんです」
「それがどうしたよ」
「ご存じの通り、僕はこの世界の人間じゃありません。だから妹にも、家族にも、友達にも会うことが出来ないんです。
たまにふと思うんですよ、『元気にしてるかな』って」
思い出すのは、3つ離れた妹の顔。中学に上がって色づき始め、ちょっと生意気にはなったけどかわいらしい、大事な妹だ。
「…………」
「お姉さん……レイさんとは、仲いいですか?」
「……まあ、それなりにな」
「この世界は、僕が居たところよりも命が軽いように感じます。人間よりも強い化け物は沢山いるし、そんな化け物と戦う冒険者なんていうのもいるし……」
「だから、何だよ」
「僕が言うべきことじゃないかもしれませんが、一瞬一瞬を大事にした方がいいですよ。喧嘩して気まずいのかもしれないですけど、早く謝っちゃったほうが後に起こる後悔も無くなりますよ」
「……姉さんに怒られたのはお前らが原因なんだけどな」
「その節は、すいません……」
苦笑いを浮かべながら謝罪する。相変わらず頬杖をつきながら焚火を見るユースさんだけど、その表情は先ほどよりも若干和らいでいるようにも見えた。
「……悪かったな。変な意地張って」
パチパチと鳴る火の粉の音に混じって、ユースさんの小さな声が僕の耳に届いた。
「いいですよ別に。引っ込みがつかなることなんてよくあることですし」
「お前、いくつなんだ?」
「歳ですか? もうすぐ18になります」
「ってことはまだ成人してないのか。それなのに随分としっかりした自分を持ってるな」
「ありがとうございます。でも僕自身、まだまだ未熟な点は多いと思っています。僕は戦闘能力が無いので、灯火に頼ってしまうことばかりですし……」
「なんでトウカが出てくるんだ?」
そう聞かれたので、僕は灯火に感じている申し訳なさや不安、劣等感を全てユースさんに話した。夜の焚火というアンニュイな雰囲気に飲まれたと言えば聞こえはいいが、僕自身、誰かに言って少しは楽になりたいという気持ちがあったのかもしれない。
「……へえ。お前も色々抱えてるんだな」
口を挟むことなく静かに僕の話を聞いてくれたユースさんは、新たな薪をくべながらぽつりと呟いた。
「時たま思うんです。僕が居なければ、もっと楽に地球に帰れていたんじゃないかって。僕の才能の無さや容量の悪さが、灯火にとって枷になっているんじゃないかって」
灯火の強さを、灯火の魔法をこの三日間で目の当たりにする機会が何度かあった。ここまでの道のりが大したトラブルもなく平和だったのは、灯火が居たからだ。
適切な間合いを保ち、視界から標的が隠れないように威力を調整しながら魔法を撃つ。そして相手がそのダメージにひるんでいるところへととどめの一撃を放つ。
最早パターンと化したといっても過言ではないほど安定して、洗礼された動きのお陰でここまで順調に来ることが出来た。勿論、その間僕は何も出来ていない。
「俺が剣を使うのは、姉さんに憧れたからだ」
「え?」
火の向こうで寂しそうな顔をしたユースさんが話し始めた。
「姉さんの剣の腕は、俺が生まれたところで一番と言われるほど美しく、洗練されていた。そんな姉さんに憧れて俺も剣を握ったんだけど、まるで駄目だった。姉さんが振るうような剣筋には遠く及ばず、姉さんの立ち回りにはついていくことすら出来ない。
俺は泣いたよ。姉さんはあんなに凄いのに、なんで俺はこんなに駄目なんだって」
僕はユースさんの話を、ただただ聞いていた。
「そんな時、姉さんが言ってくれたんだ。『私を追うな』って。最初は俺を見捨てたのかと思ってたけど、最近漸く意味が分かってきてさ」
「意味、ですか?」
「ああ。姉さんの影を追うんじゃなくて、俺は俺に出来ることを突き詰めていけ、って言いたかったんだろうなって気づいたんだ。
確かに姉さんは凄い。動きは洗練されていて隙も無いし、剣筋は素早く目で追うことすら難しい。でもそれは、姉さんだから出来ることなんだって。俺には俺の戦い方があるし、俺が姉さんと同じことをやっても姉さんの二番煎じにしかならないな、って。
だから俺は、姉さんのように美しく舞うような剣技じゃなくて、ひたすらに相手の嫌なことを突き続ける剣技を極めることにした。傍から見たら汚いし、正直剣技と呼べるかも怪しいけど。でも、俺は俺の『武器』を手に入れることが出来た」
「…………」
ユースさんは頭をガリガリと掻くと、照れくさそうに続ける。
「要は、他人と比べるばっかりじゃなくて自分を見ろってことだ。お前、さっきは『トウカは出来るのに自分は』って、そればっかりだったぞ」
ユースさんに指摘され、思い返す。言われてみれば確かにそればかり言っていた気がする。
「……でも」
「でもじゃねえ。お前はトウカじゃないだろ? お前はヒナタなんだから、お前はお前の『武器』を磨けばいい。今はお前のその『武器』の使いどころじゃない、ってだけの話だろ。
……あれだ、それこそ今日ダグラスを助けてくれたのだって、トウカじゃ出来なかったんじゃないのか?」
「それは、まあ……」
ユースさんの言う通り、ポーションを含む魔道具関連の知識を持っているのは僕だけだからもし灯火一人であの状況に直面したときはきっと助け出すことは出来なかったと思う。
「そう言うことだよ。あんまり一人で思いつめるなよ。多分、トウカだってそんなに気にしてないんじゃないか?」
「そう、ですかね……?」
「俺が知るかよ」
ユースさんが手元の枯れ木を放り投げる。パチンと、枯れ木の壊れる音が僕らの間に響き渡った。